Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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友達

麻帆良学園の名物である朝の通学ラッシュが始まる少し前の時間。

 

部活の朝練や早めに登校をしている生徒が各々の教室へと向かい始めていた。一人教室へと向かうあやかに後ろから声が掛かる。

 

「おっはよーいんちょ」

 

「おはよう」

 

「いいんちょ、おはー」

 

「あら皆さん、おはようございます」

 

朝練終わりに合流したのか、裕奈・アキラ・まき絵があやかと挨拶を交わす。四人は世間話をしながらA組の教室へと向かった。

 

「よし、一番乗りは貰った!」

 

「あっ、ずるい!私だって!」

 

「お二人とも!廊下を走るんじゃありません!」

 

「ふふっ」

 

朝から何とも元気な彼女達は教室に着くと、各々の席に鞄を置く。そこから取り出した荷物を教室の後ろのロッカーに入れていると、アキラが黒板の方を見つめているのに裕奈が気づいた。

 

「アキラ?どうかした?」

 

「あれ…」

 

アキラが指さした方向に視線を向ける三人。そこには黒板にチョークで[おはようございます]と書かれていた。

 

「あれいいんちょが書いたの?」

 

「いえ、私は書いてませんが」

 

「じゃあ誰が…」

 

そうしている間に四人は見てしまった。黒板の前に浮かんでいるチョークを。

 

「…あれ浮いてない?」

 

「そ、そんなはず…誰かのいたずらですわ!」

 

「でも私達しかいないよ!?」

 

「待って、何か書いてる」

 

アキラの言葉通りチョークは新たな文字を黒板に書き始めた。身を寄せ合いながらそれを見つめる四人。

 

[はじめまして]

 

『いやーーーー!!!』

 

アキラ以外の三人が悲鳴を上げる。

 

「幽霊だ!幽霊が出た!」

 

「やだー!いいんちょなんとかして!」

 

「無茶言わないでください!私だって幽霊は苦手なんです!」

 

「み、みんな少し落ち着いて…」

 

パニック状態の三人を何とか落ち着かせようとするアキラ。すると黒板にまた別の文字が書かれていた。

 

[ともだち]

 

『いやーーーー!!!』

 

「連れてかれる~!」

 

「早く逃げよう!」

 

「戦略的撤退ですわ!」

 

「し、仕方ないかな」

 

急いで教室から出ていく四人。教室には宙に浮いているチョークだけが残された。

 

 

 

 

 

「今日はいつもより早く着いたわね」

 

「いつもこれくらいに来れればええんやけど」

 

途中でネギと分かれた明日菜達は普段よりも少し早めに校内へと着いた。いつものように教室に向かうと、A組の教室の前にクラスメイト達が屯していた。

 

「何あれ?」

 

「何でみんな廊下におるんやろ?」

 

二人はそこに近づくと、後ろの方にいたあやかに声を掛けた。

 

「ちょっと委員長、何やってんのよ?」

 

「明日菜さん!大変です!教室に幽霊が!」

 

「はぁ?」

 

突拍子もない発言に首をかしげると、裕奈達も明日菜に詰め寄った。

 

「本当なんだよ明日菜!幽霊が出たんだって!」

 

「私達チョークが宙に浮いて文字書くの見たんだから!」

 

「えっ、それ本当?」

 

「うん、確かに見た」

 

比較的冷静なアキラの言葉を聞いて、明日菜もどうやら勘違いという訳では無さそうだと認識を改めた。

 

「だから言ったでしょ!やっぱり昨日のあれも幽霊だったんだって!」

 

「遂に私も大スクープを収める瞬間が来たのね!」

 

昨日の机が揺れた件について夏美がそう言う。対して和美は今の状況に興奮気味だった。

 

「そんな…非科学的すぎます幽霊なんて!科学者としてそう簡単に認めるわけにはいきません!」

 

「でも実際出てるよハカセ?」

 

「ならば私がいないという事を証明して見せましょう!」

 

「おお!ハカセが行った!」

 

「さすがマッドサイエンテイスト!」

 

「サイエンティストでしょ」

 

科学を至高とする聡美が制服を腕まくりして教室へと向かう。教室の中心に立つと腕を組んで仁王立ちした。

 

「さぁ!幽霊さん!居ると言うなら私に姿を見せてください!」

 

暫くするとチョークが浮き出し、黒板に文字を書き始める。

 

[ここにいます]

 

『やっぱ出た~~~!!!!』

 

目撃したクラスメイト全員が驚愕する。さすがに疑心的な視線を向けていた者も認めざる得なくなった。

 

「なんと!?いや、まだです!きっとチョークに何かしら…!」

 

聡美が動いたチョークに向けて走り出す。

 

「ハカセが走り出した!?」

 

「幽霊に乗っ取られた~!」

 

「みんな!ハカセを連れ戻さないと!」

 

すぐさま古菲と茶々丸が聡美を後ろから抱きしめて止める。

 

「ハカセ!正気に戻るアル!」

 

「なっ!?離して二人とも!きっとあのチョークに秘密があるはず!」

 

「落ち着いて下さいハカセ。今近寄るのは危険です」

 

暴れる聡美を何とか引きずり教室から連れ出す二人。それを見たクラスメイトは阿鼻叫喚と化した。

 

「お願いハカセ!戻ってきて!」

 

「まず悪霊を追い出さないと!」

 

「目を覚ませっ!」

 

「あいたっ!?何するんですか!」

 

「いや~!乗り移られる~!」

 

ハルナが聡美にビンタし、お返しとばかりに聡美がハルナのスカートを引っ張る。それを止める一同。地獄絵図である。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「なんかいつもに増して騒がしいなA組」

 

「何かあったのかな?」

 

「純一、あんた見てきなさいよ」

 

「えぇ…なんで僕が」

 

B組の教室では何時もより騒がしいA組について純一達が話していた。

 

「こういう時いの一番に乗り込む祐はどこ行ったんだ?」

 

「逢襍佗君ならちょっと前にお手洗いに行ったよ」

 

祐の隣の席の春香が答える。

 

「あ、そうなんだ」

 

「さすがにちょっと賑やか過ぎるかな。注意してこようかしら」

 

B組のクラス委員長の絢辻詞が席を立ち、A組に向かおうとすると純一が少し慌てて止める。

 

「いやいや!絢辻さんが行くことないよ!A組には何人か幼馴染がいるし、僕が行ってくるから!」

 

「そう?」

 

「うん、任せて」

 

自分の席に戻った詞を見てほっとする純一。それを見ていた正吉が純一に声を掛ける。

 

「急にどうしたんだ橘?」

 

「いや、絢辻さんが行くより僕が行った方がまだギクシャクしないかなって」

 

「なるほどな」

 

「んじゃ後で報告宜しく~」

 

「他人事だと思って…」

 

「あはは…頑張って橘君」

 

薫の言葉に純一が肩を落とすと春香がねぎらいの言葉を掛ける。

 

「ありがとう天海さん…悪いけど祐が教室に戻ったらA組に来てって伝えておいて」

 

「うん、わかった」

 

「はぁ、行くか…」

 

重い足を引きずり純一はA組へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

純一が教室から出るとその場は想像以上に混沌を極めていた。

 

「またなんか書いてるよ!」

 

[ごかいです]

 

「五回DEATH!?」

 

「こ、殺される…」

 

「美空!なんとかしてぇな!シスターやろ!?」

 

「シスターはエクソシストじゃないんだけど!?」

 

「何の為のシスターですか美空さん!今行かないでいつ行くんです!」

 

「だからエクソシストじゃ…ちょっと!いいんちょ押さないで!」

 

「これは!これは大スクープよ!」

 

「な、なにやってるんだこれ…」

 

何が起きているのかまったくわからないが、ただ事では無いことはわかる。何やらチョークが一人でに動いて文字を書いているようにも見えた。呆気にとられていると幼馴染の姿が目に入る。

 

「明日菜!木乃香!」

 

「へ?純一?」

 

「お~純一君。久しぶりやな~」

 

「うん、久しぶり。じゃなくて!何の騒ぎなんだこれ!?」

 

変わらぬ幼馴染の反応にペースを取られそうになったが、気を取り直して状況を確認する。

 

「いや、なんて言えばいいか…」

 

「ウチらの教室に幽霊が出たんよ」

 

「ゆ、幽霊!?」

 

再度教室を見てみると机や椅子が宙を舞っていた。それを見て周りから「ポルターガイストだー!」と声が上がっている。あまりの光景に純一は眩暈がしそうだった。

 

 

 

 

 

(あばばば…なんでこんな事に…)

 

当の本人であるさよは今の状況に困惑していた。昨日の河童の事をクラスメイトに伝える為、チョークを使っての交信を試みた。おかしな事は書いていないはずだが巡り巡って大事になってしまった。

 

挙句の果てには何とか自分の思いを伝えようとした結果、力が暴走して机や椅子が飛び回る始末。さよ自身もこの状況をどう納めればいいのかわからなくなっていた。

 

(ああ…せっかく皆さんと友達になれる機会だったのに…)

 

そう思っていると教室に二人の生徒が入ってくる。昨日あの場にいた刹那と真名だった。

 

「クラスメイトの前で仕事をするのは気が乗らんが、さすがに見過ごすわけにもいかんな」

 

真名がそう話すと横にいる刹那が鋭い眼光を飛ばしてくる。思わずさよの肩が跳ねた。

 

「そこだっ!」

 

「ひっ!」

 

真名がどこから取り出したのか小型ナイフを投げつける。間一髪かわせたさよはたまらず教室から逃げ出した。

 

「追うぞ」

 

「ああ…!」

 

さよを追って駆け出す真名と刹那。教室から出ると自分を見る木乃香の姿が刹那の目に留まった。

 

「せっちゃん…」

 

「お、お嬢様…」

 

「刹那!何をしている!」

 

「っ!失礼!」

 

「あっ…」

 

真名から声を掛けられ刹那は視線を切って走り出す。思わず右手を伸ばす木乃香。それに気づかずクラスメイトは二人に声援を送る。そのまま固まってしまう木乃香を明日菜と純一は心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

「ひえー!助けてくださーい!」

 

二人から追われ、必死で逃げ回るさよだったが二人を振り切れずにいた。

 

「ターゲットの姿がいまいち捉えきれない…!」

 

「相当な隠密性を持っているのは間違いない。だが、一度姿を現したのが間違いだったな」

 

真名の瞳が薄く光りだす。

 

「逃げられると思うなよ」

 

そう言うと両手に持ったマシンガンが火を噴いた。

 

「なんでそんなの持ってるんですかーーー!?」

 

避けながらもっともな事を聞くさよ。しかしその声は二人には届いていなかった。

 

「刹那!あそこだ!」

 

「ああ!悪霊…退散!」

 

「いや~ん!何でこんな目に~!」

 

長い日本刀から斬撃を飛ばす刹那。当たりはしなかったものの、その凄まじい風圧にさよは吹き飛ばされる。

 

「消えた!?」

 

「下の階だ。問題無い、まだ捉えている」

 

「急ごう」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…何とか逃げられた…」

 

さよは命からがら下の階に逃げ込み、廊下の奥でへたり込む。

 

(せっかく…せっかく友達になれると思ったのに…)

 

目に涙を溜め、静かに膝を抱え込んだ。長年幽霊をやってはきたが、人に追われるのは初めての経験だった。

 

(私がダメダメなせいで、みんなを怖がらせちゃった…)

 

(もう、どうしたら…)

 

深く落ち込んでしまい、遂に涙がこぼれる。それが情けなくて、よりさよを悲しくさせた。

 

(もういっそ、私なんて成仏した方が…)

 

「あの~、大丈夫ですか?」

 

「えっ?」

 

顔を上げるとそこにはさよが何度も見たことのある人物がいた。その人物はしっかりとこちらを見ている。

 

「えっ…あ、逢襍佗さん?」

 

「はいどうも、逢襍佗です。立てますか?」

 

差し伸べられた手にさよは自分の手を重ねる。祐はそれを優しく掴むとさよを立ち上がらせた。

 

「えーと、初対面でいいんですよね僕ら。忘れてたらすみません」

 

「い、いえ。こうして顔を合わせたのは初めてで…えっ!?私が見えるんですか!?というか触れてる!!?」

 

あたふたし始めるさよを不思議そうに見ている祐。やがて納得したような顔をする。

 

「ああ、幽霊の方でしたか」

 

「っ!…わかるんですか?」

 

「はい、勘はいいんで」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ネギとタカミチが教室の階に着くと、生徒達が廊下に出ている光景が映る。

 

「皆さん?どうかしたんですか?」

 

「あっ!ネギ先生!」

 

いち早く気が付いたあやかがネギに近づく。

 

「聞いて下さいネギ先生!先程」

 

「ネギ君ネギ君!これ見てよ!」

 

「おぶっ!」

 

興奮した様子の和美があやかを押しのけて、ネギにカメラを見せる。

 

「さっき教室に現れた悪霊をばっちり激写したよ!」

 

「えぇ!悪霊が!?」

 

ネギより少し遅れて教室に近づいたタカミチが、それを聞いて表情を鋭くする。

 

「はぁ、鋭い表情も素敵…」

 

「出たよ明日菜のおじさん趣味…あたっ!」

 

輝いた眼でタカミチを見る明日菜に美空がそう言うと、視線と表情は変えないまま美空を明日菜がはたいた。

 

「私もまだ確認してないんだけど、間違いなく撮れてるはず!それじゃ行くよ?世紀の大スクープをご覧あれ!」

 

和美がカメラの画像を出すと、全員の視線が集まる。そこには涙を流し、怯えた表情をした可愛らしい少女が映っていた。

 

「あれ?なんか可愛い」

 

「ほえ~、髪の毛真っ白や」

 

「この子泣いてない?」

 

先程の騒ぎの正体とは思えない見た目に困惑する一同。そんな中ネギが何かを思い出したようにクラス名簿を開く。

 

「どうしたのネギ君?」

 

「この人確か…やっぱり!これ見て下さい!」

 

今度はクラス名簿に視線が集まる。ネギが指さした場所には出席番号一番・相坂さよと書かれた上に先ほど写っていた少女の写真が載っていた。

 

「あっ、おんなじ顔」

 

「じゃあ、さっきの幽霊の正体って…」

 

ネギは教室に目を向けると、散乱した机と椅子、そして文字が書かれた黒板が見えた。その文字をよく見る。

 

「相坂さんは今どこにいるんですか?」

 

ネギが聞くと全員顔が青ざめる。ネギとタカミチが不思議に思っていると、明日菜が口を開いた。

 

「たぶん、教室から出て行ったのを桜咲さんと龍宮さんが追っかけて行っちゃったけど…」

 

「ネギ君、これは急いだほうがいいかもね…」

 

「うん!どちらに行ったかわかりますか!?」

 

「えっと、あっちに」

 

明日菜が指さすと二人は急いでそちらに向かった。暫く唖然としていたA組だが、次第に顔を合わせ始める。

 

「やばくない?」

 

「龍宮さん達に成仏させられちゃうかも!?」

 

「さすがにそれは寝覚め悪いって!」

 

A組は全員さよを追って走り出した。

 

「これ、僕どうしよう…」

 

一人その場に残った純一は、人知れずそう零した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「は~、そんな事が…」

 

「私…皆さんとお友達になりたいだけなんです」

 

あれから祐はさよの話を聞いてその内容に同情を禁じえなかった。長年誰にも気づいてもらえず、やっとのチャンスで失敗してしまったとなればこの落ち込み様も当然である。

 

「災難でしたね…」

 

そう言ってさよの背中を摩る祐。さよは久しぶりに感じる温もりに心が温かくなるのを感じた。

 

「わかりました。そういう事ならこの逢襍佗祐にお任せください」

 

「え?」

 

「僕が相坂さんとA組の架け橋となりましょう。大丈夫、相坂さんならA組のみんなと友達になれますって!たぶん!きっと!うん!駄目だったら僕が責任取ります!」

 

「協力してくれるんですか?私なんかの為に…」

 

「何言ってるんですか、こうして会ったのも何かの縁。一緒に頑張りましょう!」

 

改めて右手を差し出す祐。さよは再び涙目になりながらその手を握った。

 

「見つけたぞ」

 

後ろからの声に祐が振り向くと立っていたのは真名と刹那だった。

 

「龍宮さんに、桜咲さん?」

 

「さっき見た時より鮮明に見えるぞ?」

 

「どう言う訳か、先程よりも存在感が増した様だな」

 

「ひいっ!」

 

二人を見た事でさよが祐の背中に隠れる。祐はそれでなんとなく状況を察する事が出来た。

 

「逢襍佗、悪いが私達は仕事中なんだ。その後ろの幽霊を成仏させる」

 

その言葉を聞いてさよが祐の服を掴む。掴まれた所から震えているのがわかった。

 

祐はまず両手を上げてから真名達に話し掛ける。

 

「まぁ、待ってよ龍宮さん。まず相坂さんとみんなの前には解かなきゃならない誤解があるんだ」

 

「相坂?その幽霊の事か?」

 

真名が訝しげな視線を祐に向ける。刹那はそれを黙って見ている。

 

「そう、相坂さよさん。彼女は一年A組の」

 

言葉の途中で真名が銃を向けた。

 

「真名⁉︎」

 

刹那が焦ったように声を出すが、真名は気にせず祐を見る。

 

「言ったろう逢襍佗、仕事中だ。どかないなら知り合いでもそれなりの対処はさせてもらうぞ」

 

「ここでどれだけ撃たれても、俺は戦いませんよ」

 

「なに?」

 

迷いなく即座にそう答えた祐に思わず聞き返す真名。すると真名達の後ろから声がした。

 

「龍宮さん!桜咲さん!待ってください!」

 

「ネギ先生」

 

こちらに走ってきながら二人を止めるネギ。真名と刹那が振り向くとネギだけでなく、タカミチと他のクラスメイトもこちらに向かってきていた。

 

「相坂さんは悪い幽霊じゃないんです!だから除霊は待ってあげてくれませんか!」

 

「僕からも頼むよ二人とも」

 

ネギとタカミチに頭を下げられ、真名は無言でそれを見る。刹那は困惑気味といった様子だった。A組のクラスメイトも続々と集まって来た。

 

「あれ?逢襍佗君?」

 

「なんで逢襍佗君がここに?」

 

「おっ、皆さんお揃いで。ちょうど良かった」

 

そう言うと祐は後ろを向き、さよの両手を握った。

 

「あ、逢襍佗さん?」

 

「心配しないで。なんか、いける気がするから」

 

周りから見えないように、祐の腕からさよに虹色の光が流れて行く。それをぼーっと見つめるさよ。やがて祐が手を離し、振り返る。

 

「ご紹介致しましょう。一年A組、出席番号1番」

 

祐はスッと横にずれると、右手でさよの背中を優しく押して一歩前に進ませた。

 

「相坂さよさんです」

 

さよが困惑した顔で周りを見渡す。何か違和感がするが、その正体はすぐにわかった。ここにいる人達全員が自分を見ていたのだ。

 

「あー!さっきの写真の子!」

 

「何で今は見えるの?」

 

「確かに、さっきまでは全然見えなかったのに」

 

皆さよを見て驚きの声と視線を向ける。

 

「み、皆さん…私が見えるんですか?」

 

「うん」

 

「そりゃもうばっちり」

 

「わっ!幽霊って本当に足元透けてるんだ!」

 

クラスメイトがさよに駆け寄る。さよは先ほどまでとは別の理由で困惑し始めた。

 

「すご〜い!本物だ!」

 

「髪真っ白!めっちゃ綺麗じゃん!」

 

「ありゃ、見えるようにはなったけど触れないんだ」

 

みんなに囲まれるさよは、未だにこの光景が信じられなかった。そんな中、一番最初にさよに接触した裕奈達四人が前に出てくる。

 

「えっと…相坂さん、さっきはごめんね。私達怖がってちゃんと話聞いてあげられなかった」

 

「ショックだったよね、ごめんなさい!」

 

「ごめん相坂さん。失礼な事して」

 

「いくら心霊現象が苦手とは言え、最初から私が耳を傾けていれば…雪広家末代までの恥!どうかお許しください相坂さん」

 

「このまま行くと委員長が末代になりそうだけどね」

 

「余計なお世話です!」

 

少し放心状態だったさよは、我に帰ると急いで首を振った。

 

「そ、そんな!皆さんは悪くありません!私がダメダメだったから…皆さんを怖がらせてしまって…」

 

「でも、もうみんな怖がってないよ。こうやって話もできたし」

 

和美がそう言ってさよに近寄る。

 

「ごめんね、隣の席だったのに気づいてあげられなくてさ。代わりにって訳じゃないけど、これからは仲良くしてね」

 

「そうです!相坂さんも僕の生徒さんなんですから!仲良くしましょう!」

 

ネギが嬉しそうに言う。それに釣られてか他のクラスメイト達もさよによろしくと声を掛ける。

 

「これ、夢じゃないですよね…私六十余年ずっと幽霊で…ずっとずっとお友達が欲しくて…でも、誰にも気付かれなくて…」

 

「大丈夫ですよ、相坂さん。これからは僕達が友達です!」

 

その言葉が最後のきっかけとなった。さよは何年振りかもわからない、大声で泣き始めた。

 

「あ〜!ネギ君泣かせた〜!」

 

「えぇ⁉︎ご、ごめんなさい相坂さん!僕何か失礼な事言っちゃいましたか⁉︎」

 

「違うんです〜!私…嬉しくて〜!」

 

みんなでさよを囲んで慰め始める。その枠から外れた場所に真名と刹那はいた。

 

「やれやれ、これでは私達が悪者だな」

 

「大丈夫でござるよ真名。真名達はみんなを守る為にそうした。みんなもそれはちゃんとわかってるでござる」

 

「そうヨ、心配しなくとも龍宮サンも刹那サンも私達の友達ネ」

 

「そうかい、それは嬉しいな。相坂だったか?すまなかった」

 

楓と超に真名はそう返し、さよの方を向いて謝罪した。刹那が頭を下げる。

 

「こちらこそ~!!」

 

泣きながらさよが答えると真名は苦笑いした。そんな中、刹那は真名を見る。

 

「真名。どうしてあの時彼に銃を向けた?」

 

聞かれた真名は刹那を横目で見て、その後視線を遠くに飛ばした。

 

「なに、私は彼の事をよく知らないからな。どんな人間か興味があったんだ。だから少しちょっかいをかけてみただけだよ。見事にかわされたがな」

 

「……そうか」

 

真名を見ていた刹那はさよ達に視線を向ける。その光景を見ていた刹那の心は、一言では表せないほど複雑なものだった。

 

「せ、せっちゃん」

 

声のした方に刹那が振り向くと、どこか緊張した面持ちの木乃香が立っていた。

 

「木乃香お嬢様…」

 

気まずそうにお互いを見る二人。意を決して木乃香が口を開く。

 

「す、すっごい走るの速いんやねせっちゃん。ウチびっくりしてもうたわ」

 

「あ、あの…私は、その…」

 

視線を泳がせる刹那はやがて目を伏せる。

 

「失礼します…」

 

お辞儀をして足速に去って行く。

 

その背中を悲しそうに見つめる木乃香。それを見ていた真名はため息を漏らす。

 

「近衛、あまり気にするな。刹那には私から言っておく。緊張するのは仕方ないが、もう少しちゃんと話せとな」

 

「あはは…おおきにな、真名ちゃん」

 

真名は木乃香の肩に手を置くと、刹那を追って行った。

 

「木乃香」

 

一部始終を見ていた明日菜が木乃香を呼んだ。

 

「明日菜…あかんなぁウチ、フラれてもうたわ」

 

明日菜は黙って木乃香の頭を撫でる。

 

「明日菜ずっこいわ。今優しくされたら好きになってまうやん?」

 

「何アホなこと言ってんのよ、まったく」

 

「えへへ」

 

明日菜と木乃香が笑い合った。それをいつの間にか周りから離れた場所に移動していた祐が見ている。そこから視線を移し、刹那とそれを追う真名の背中を見つめた。

 

「また厄介ごとに首を突っ込む気か?」

 

「師匠、いきなり後ろから話しかけないで下さい。心臓に悪いです」

 

いつの間にか祐の後ろにいたエヴァに祐は視線を変えぬまま言った。

 

「気配でわかるだろう」

 

「いやまぁ、そうですけど…」

 

祐の隣に立つエヴァ。祐は腕を組んで壁に寄りかかる。

 

「木乃香から何か言われるまでは、首突っ込まないようにしようと思ってました。でも、あんな顔されたらね…」

 

「ふん、甘ちゃんめ」

 

エヴァはさよの方を見る。

 

「誰一人教室にいないと思ったらこんな事になっていたのか」

 

「師匠、もしかして遅刻しました?」

 

「そう言うお前はホームルームのサボりか?」

 

「……。やってもうた…」

 

今がホームルームの時間だという事を完全に忘れていた。この後担任の麻耶からの有難いお話は避けられないだろう。

 

「相坂さよか…。ようやく周りの奴らも認識し始めたか」

 

「師匠、相坂さんの事気づいてたんですか?」

 

「二週間前ぐらいに認識し始めたな」

 

「気づいてたんなら声かけてあげればよかったのに」

 

「いきなり何もないところに声を掛けたら、やばい奴だと思われるだろうが」

 

「何を今更…オフッ!」

 

エヴァの拳が腹部に突き刺さり、祐が膝から崩れ落ちる。

 

「今の攻撃には愛がなかった…」

 

「愛があるからこそ痛いんだよ」

 

祐は腹部を摩りながら起き上がると、今もクラスメイトに囲まれているさよを見る。

 

「お前はいつ気が付いた」

 

「さっきですよ。トイレにいたら声が聞こえたんで、そこから気配を感じて彼女を見つけました。それ以前は何も感じ取れませんでした」

 

「ふむ」

 

「先程彼女と話していた時、ここ数年で少しずつ存在感や力が強くなっていったと言ってました。なにか理由があるのかもしれません」

 

それを聞いたエヴァが顎に手を当てる。暫くそうしていると祐に視線を向けた。

 

「これはあくまで私の仮説だが、この世界の神秘が増している事が原因かもしれん」

 

「神秘がですか?」

 

エヴァは頷くと、視線をさよ達に戻す。

 

「お前には以前話したが、文明や科学が発展するに連れてこの世界の神秘は薄れていった。理解できる事が増えたからな」

 

「しかし今の世界はどうだ。未だその全容が知れない存在で世界は溢れ出した。祐、お前の力もな」

 

言われた祐は自分の手を見つめる。薄く光を纏うと手を振り払い、光を消した。

 

「そうなれば世界は再び神秘で満ちる。緩やかなスピードではあるが、世界は神代に近づいているのかもな」

 

「神代って、そりゃまたなんとも…」

 

事の大きさに祐は苦い顔をして頭を掻いた。

 

「だから相坂さんのような存在の力が増した」

 

「あくまで可能性の話だ。多少の信憑性はあると思うがな」

 

「神秘が増したとなれば、魔術師どもが喜びそうな話だ。確かあれは九年前だったか?またアホな事を仕出かさなければいいがな」

 

エヴァが吐き捨てるように言う。彼女が魔術師にあまり良い印象は持っていない事は祐は知っていたので、それについては何も言わなかった。

 

「アホな事、ね…」

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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