あの騒ぎからひと段落し、教室へと戻ったA組。戻る最中から始まったさよに対しての質問大会は 、1時間目の授業が始まる直前の今も続いていた。
「じゃあ、去年まではずっと中等部にいたんだ」
「はい、でも何でか今年は高等部に席が移ってて。だけど私嬉しかったです!初めての高校生だし、皆さんのクラス賑やかで楽しいから」
「こうやって見ると、足元が透けてる以外幽霊って感じ全然しないわね」
「ほんまやね、さよちゃん元気いっぱいやからかな」
「これでも死んで60年以上経ってますけどね」
後頭部を摩りながら控えめに笑ってさよは言った。自分が亡くなった明確な年、亡くなった理由は思い出せないらしいが、本人はあまりその事を気にしていないようだった。今のこの翳りのない表情を見れば、無理をしていると言うわけでもないのだろう。
「でもどうして急に見えるようになったのかな?教室に着いた時は全然見えなかったのに」
「うん、あの時はチョークが浮いてるのしかわからなかったよ」
「私も詳しいことはわかりませんが、きっと逢襍…」
まき絵と裕奈が気になっていた事を話すと、さよがそれに答えようとするが途中で止まる。おそらく祐が自分の手を握った時に流れてきた光が関係しているであろうとは思っていたが、それを口に出して良いものかの判断がつかなかった。
「
「いや、違うでしょ」
「もしかして逢襍佗君?」
「そう言えばあの時一緒にいたよね。何してたの?」
さよが若干目を泳がせる。A組の教室に度々やってくる祐は見ていたが、あんな特殊な力を使っているところは見た事がない。本人も多分周りに言っていないだろうと思ったので、どう誤魔化そうかと頭をフル回転させていた。
「あ〜、えっとですね…それは…」
「もしかして… 逢襍佗君って霊能力者⁉︎」
桜子がそう言うと、周りがそれに反応する。
「実際さよちゃんのこと見えてたみたいだし、可能性あるかも」
「もしや逢襍佗君自体が幽霊なのでは⁉︎」
「それは無いでしょ」
そこからいつもの様に話が飛躍して行く。さよは話がそれた事にほっとしていると、同じ様にどこか安心している様子の明日菜が視線に入った。不思議に思い明日菜を見ていると、教室のドアが開いた。
「ほらお前ら席つけ〜。授業始めるで〜」
1時間目の授業、世界史の担当黒井ななこが教室に入ってくる。それを合図に各々の席へ戻る。ななこが教壇に立つと、あやかの号令で全員が起立した。
「ん?…え、どちらさんや?」
ななこがさよを見て目を丸くする。
「あ〜、黒井先生ひど〜い。うちのクラスメイトの事気付いてなかったんだ〜」
「私達は4年間気付いてなかっけどね」
風香の発言に対して円がもっともな事を言った。
「いやホンマすまん。なんでやろ、今まで気付かんかった…」
「だ、大丈夫です!正確に皆さんの前に出てきたのは今日が初めてですから!」
焦ってさよがフォローを入れると、ななこは首を傾げた。
「出てきたのは初めて?」
「黒井先生!さよちゃんは幽霊なんだよ!」
「どないしたん佐々木。頭でも打ったんか?」
「ひどい⁉︎」
ーーーーーーーーーーーー
「それで?さっきまで何してたんだよ」
「除霊されそうになってる幽霊の少女を助けてました」
「何言ってんだお前」
「嘘じゃないぞ。あ、違う。嘘じゃないしん!」
「信じて欲しいならまず語尾にしんを付けるな」
あの後一人教室に戻った祐は麻耶から「後で話があります」との宣告を受け、席に着いた。その後正吉・純一・薫からの質問に答えている。
「あんたの態度的に嘘言ってる時のじゃないけど、如何せん内容がねぇ」
「信じてくれ薫!お金あげるから!」
「なにその嫌な信用のさせ方」
「じゃあアレだ。嘘じゃなかったら今日の昼飯奢ってもらうぞ」
「嘘だったらそっちが奢り?」
「勿論」
「OK!乗ったわ!今日何にしようかな〜」
「こやつ、勝ちを確信しておるわ」
「まぁ、見てないならそりゃあね…」
一部真相を知っている純一は苦笑いを浮かべそう言った。
「愚かなり、棚町薫。今この瞬間に貴公の敗北は決まった」
「何だよその口調…」
「皆さん!おはようございます!」
B組の教室に元気の良い挨拶と共にネギが入ってくる。
「おっと、授業の時間か」
「祐、後でやっぱ嘘は無しだからね!」
「あたぼうよ」
それぞれの席につき、詞が号令をかける。授業前の挨拶が終わると、祐が右手を挙げた。
「祐さん、どうかしましたか?」
「ネギ先生、私めは先程除霊されそうになっている幽霊の少女を助けた事に間違いは無いですよね?」
「え?…はい、間違いないと思いますが」
「うそぉ⁉︎」
自分の席から薫が思わず声を上げる。声こそ出さなかったが正吉も驚いた顔をしている。二人だけでなくクラス全体がざわざわとし始める。
「ほれ見てみぃ!ワイの勝ちや!ワイが猿や!プロゴルファー猿や‼︎」
「意味わからないよ逢襍佗君…」
横の春香は祐の意味不明な発言に律儀にツッコミを入れた。
「ちょっとネギ先生!まさか祐とぐる⁉︎」
「えっ⁉︎何の話ですか⁉︎」
「認めろ薫、君の負けだ。なんならその子、後で紹介するよ」
幽霊の少女がいるかいないかは置いておいて、取り敢えず薫は祐の勝ち誇った顔が異様なまでに癇に障った。
「幽霊って…本当か?私見た事ないぞ」
「私も学園内だと見た事ないなぁ」
「由紀香でさえ見た事が無いとなると些か信憑性に欠けるが、あの感じだと逢襍佗が嘘をついているとは考え難い」
「逢襍佗が嘘をついた時って態度で速攻わかるからなぁ」
「聞こえてるぞ薪寺さん。お前も蝋人形にしてやろうか?」
「急に聖飢魔IIになったぞあいつ⁉︎」
B組の陸上部三人娘の会話に祐が反応する。そんな中、黒いリボンを着けたツーサイドアップの少女がクラス内で唯一、祐の事を真剣な表情で見つめていた。
ーーーーーーーーーーーー
午前の授業が終わり、昼休みの時間。A組の教室で昼食を取るクラスメイトを楽しそうにさよが見ている。
「さよちゃん…私達が食べてるところ見て楽しい?」
「はい!以前と違ってちゃんと目と目が合いますから!」
隣の席でもある和美が聞くと、これまた楽しそうに返事が返ってきた。
「でも食べられないのは少し残念だね」
「そうですねぇ、幽霊なんでお腹は空かないですけど。久し振りに食べてみたい気持ちもないわけじゃないって感じでしょうか」
夏美の言った事に対してあまり考えた事がなかったのか、さよは人差し指を顎に当て、視線を上に向けながら何となく答えた。
「でも見える様になったんだし、これから食べられる様にもなるかもしれないよね」
「そうなったら素敵ですねぇ。あぁ、勇気を出して本当に良かったです。きっかけはあんな事でしたけど、あれがあったからこそ…」
笑顔のさよがその表情のまま突然固まった。周りもそれに気付き不思議に思って彼女を見る。
「さよちゃん?」
和美が声を掛けると、表情はそのままみるみる顔が青ざめて行くさよ。
「あーーー‼︎忘れてました!皆さんとお話出来るのが楽しくてつい!」
「な、何を忘れてたの…?」
あまりの絶叫ぶりに若干引きながら夏美が聞く。他のクラスメイト達も視線をさよに向けた。
「私、皆さんにお伝えしなければならない事があって、頑張ってたんです!」
「昨日の夜、女子寮の裏手にエロ河童がいるのを見たんです!」
『……』
クラスメイト全員がさよの言ったことを聞いて口を開けたまま黙る。その状況に不安になって周りの顔を見回すさよだったが、反応は一瞬遅れて返ってきた。
『えぇ〜〜〜!!!!』
反応のあまりの勢いに、さよは吹き飛ばされるかと思った。
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「はぁ…まぁどうやら幽霊の子がいたのは本当の様だし、内容が内容だけに今回は不問とします」
「寛大な御心遣い、感謝致します高橋先生。逢襍佗祐は世界中の誰よりも、高橋麻耶を愛しています」
「ブフォッ‼︎」
「きゃー!顔に掛かったぁ!」
「馬鹿な事言わないの逢襍佗君…」
朝の件で教員室に呼び出しをくらった祐は、そこで麻耶に朝何があったかの説明をした。ネギやタカミチ、そしてななこからの証言により実際に除霊されそうになっていた幽霊がいた事、そしてそれがA組の生徒だったという事を麻耶は知った。
その結果先の発言に繋がるのだが、祐が某国民的野球漫画の台詞を放った事により、水を飲んでいたななこが噴き出し、隣の小萌の顔面に直撃した。
「す、すまん小萌先生… 逢襍佗!お前急にぶっ込んでくんなや!」
自分のハンカチで小萌の顔を拭きながら祐に言うななこ。小萌は黙って顔を拭かれている。
「すみません、和ませようと思って…」
「せんでええわ!」
聞いていた瀬流彦もツボに入ったが、今笑ったらこちらに白羽の矢が立ちそうなので机に伏せて堪えている。
一連の流れを苦笑いで見ていたタカミチは、タイミングを見計らって祐に声を掛けた。
「祐君、それとは別件になるけど学園長から話があるそうだよ。放課後来て欲しいそうだ」
「学園長がですか?何かありましたっけ?」
「前の遠出をした件の処遇についてだね」
「忘れた頃にやってきますね。もしや…それが狙いなのか?」
「いやぁ、そんなつもりはないんじゃないかな…」
そう言われてみれば、アウトレットに行った際の処遇は追って通達すると言われていた。すっかり忘れていたが。
「今回の事は良いとして、逢襍佗君はもう少し落ち着きを持って生活する様に。いいわね?」
「善処致します。はい…」
ーーーーーーーーーーーー
職員室から教室に戻る祐は、途中でスマホがなっている事に気が付く。取り出してみると明日菜からの連絡だった。
「はい、もしもし?」
『ああ、祐。今どこ?』
「職員室から教室に戻ってるとこだけど、なんかあった?」
『それが、下着泥棒の件で進展があってさ…』
「ほう、ちなみにどんな?」
『後で詳しく話すけど、昨日の夜さよちゃんが犯人を見たらしいの』
「マジかよ、相坂さんお手柄だな」
『そうなんだけど、その犯人が問題なのよ』
明日菜の発言に祐が首をかしげる。
「と言うと?」
『さよちゃん曰く、エロ河童だったらしいわ…』
「本当にいんのか…」
その後、屋上で待ち合わせをする事に決めた祐は通話を切り、足早に屋上へと向かった。
ーーーーーーーーーーーー
祐が屋上に着くと、既に明日菜とさよがそこにいた。
「祐、こっちこっち」
手を振る明日菜に駆け寄る祐。さよは祐に対してお辞儀をした。
「どうも相坂さん。今朝ぶり」
「あの逢襍佗さん、お礼が遅れてしまってすみません。本当ならすぐにでも言うべきなのに…」
「いいのいいの、気にしないで。無事友達は沢山出来たみたいだね」
「はい!おかげさまで!」
満面の笑みでさよは答えた。それを見て祐も優しく微笑む。
「ちゃんと見てないけど、あんたあの時さよちゃんになんかした?」
「みんなに見えやすいように相坂さんに俺の力を流し込んでみた。それがうまくいったって感じかな」
「あの虹みたいなのってそんな事も出来るんだ」
「いけそうな気がしたからやってみた」
「あんたねぇ…」
少し呆れた顔をする明日菜。それに祐は笑うと、少し真面目な表情を取った。
「それで、例の下着泥棒の件だけど」
「あっ、そうだった。さよちゃん、お願いできる?」
「はい、あれは昨日の夜なんですが」
「なるほど、そこまでしっかり見たんならまず間違いないか」
「着ぐるみとかではなかったと思います。走るのも普通の人では到底無理な速さでしたし」
「A組のみんなはこの事を全員知ってるでいいんだよね」
「教室にいたみんなは聞いてたはず。いなかった人にも話が行くのは時間の問題でしょうけど」
「だよね。なら早いうちに事態を収めたいけど」
「ならその話、私達も混ぜてくれないか?」
祐達が話をしていると、後ろから声が掛かった。
「龍宮さんに桜咲さん?」
明日菜が二人の名前を呼ぶ。そこにいたのは真名と刹那だった。刹那は祐達に軽くお辞儀をすると、三人に近づいた。
「突然すいません。詳しい説明は省かせてもらいますが、我々二人は学園から正式に警備の仕事を依頼されています。信用できないようであれば、学園長に確認していただいても構いません」
「昨日も私達は寮の周辺を警備していてな。何者かがいるのはわかったんだが、逃してしまった。犯人を見たのなら、私達も見たのだろう?相坂」
真名が視線をさよに向けると、さよは少し緊張しながら頷いた。
「はい、確かに河童さんがいた場所にお二人が来たのを見ました」
「と言う事だ。我々も出来る限り早くこの事態を収拾したいと思っていてね。どうだろう、ここは一つ同級生として協力するというのは」
「えっと…二人は何者なの?」
明日菜がそう聞くと真名がフッと笑った。
「魔法関係者だよ、神楽坂。ネギ先生の事も知っている。彼は私達の事は知らないだろうがね」
そう言われた明日菜と祐は顔を見合わせる。さよは一人ぽかんとしていた。
「えっ?…ネギ先生って魔法使いだったんですか!?」
「あっ、そうか。さよちゃん知らなかったんだ」
「今時幽霊の方が珍しいから大丈夫だよ相坂さん」
「何が大丈夫なのよ…」
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