「ふむふむ、なるほどな。中学生も悪くない…」
夕方、本日ネギと別行動を取っていたカモは、下校中の女子生徒達を双眼鏡で観察していた。
「奥手な兄貴の事だ、きっとまだ踏ん切りは着いてないだろう。ここは今の内から兄貴の使い魔(予定)として、いいパートナーに目星を付けておかねぇとな」
そんな事を考えながら辺りをくまなく観察していると、カモの目に一人の少女が止まった。
「おおっ!俺っちのセンサーにビンビンくるぜ!ありゃきっと上玉だ!」
視線の先の人物は肩までの髪に、ミニスカートの制服を着ている少女だった。
(スタイルの方は…まぁ今後に期待するとして、顔は間違いねぇ。性格は…見た感じきつそうだな。
カモはあくどい顔になると、双眼鏡を置いた。
(だが少しくらいきつい性格の方が兄貴との相性は良いと見た。兄貴には引っ張ってくれる様なパートナーが必要だ。取り敢えず、試験開始と行こう)
カモは茂みから飛び出し、少女に向けて走り出した。目指すは少女のスカートの下である。何の試験だろうか。
前を歩く生徒達を華麗にかわしながら少女へと向かう。無駄に軽やかな動きで目的地へと到着し、視線を上へと向けた。その瞬間カモの表情は驚愕に染まる。
(たっ、短パンだと!?)
望んでいた物とは違う景色にカモが打ちひしがれていると、何者かに体を掴まれた。
(ぐへっ!)
「この淫獣!かわいらしい見た目なのを良い事に、お姉さまの神聖な下着を覗こうなどと!例え神が許しても、このわたくしが許しません!」
(な、なんだこいつ!?俺っちとした事が不覚を取るとは!)
印象的な口調のツインテール少女に掴まれたカモは、この状況に動揺しつつもどう切り抜けるかと思考を加速させた。
「ちょっと黒子、そんな乱暴に掴んじゃ可哀想でしょ?」
するとターゲットの少女が、ツインテールの少女にそう言った。
「しかしお姉さま!この淫獣はあろう事かお姉さまの下着を覗こっ!」
顔を赤くした少女は、黒子と呼ばれた少女の口を急いで塞いだ。
「さっきからでかい声で下着下着言うんじゃないわよ!変な目で見られるでしょうが!」
「もうひはへほはいはへん(申し訳ございません)」
取り敢えず黒子を静かにさせた少女はその手を離す。
「はっ!しまった!せっかくお姉さまがわたくしの口元にお手を置いてくださったというのに一舐めする事すらできないとは…!白井黒子、一生の不覚‼」
「あんた本当に黙らせてやろうか?」
少女が圧を飛ばすと黒子は冷や汗をかいた。
「じょ、冗談ですわお姉さま。ですからどうか怒りをお納めくださいな…」
「たく…」
未だ黒子に掴まれているカモに少女が視線を移した。
「か、可愛い…」
その発言を聞いた黒子は呆れた顔をする。
「出ましたわ、お姉さまの可愛い物好きが…」
目を輝かせた少女はカモに恐る恐る指を近づける。
「うわぁ、真っ白でふかふか…それにつぶらな瞳…」
(ん?なんかこの姉ちゃんビリビリすんな)
触られたカモは奇妙な感覚を覚えた。
「あら珍しい、お姉さまに近づかれて動物が逃げ出そうとしないなんて」
「その言い方傷つくんだけど…」
「これは失礼いたしました」
暫くそうしていると、少女が僅かに頬を染めて黒子を見た。
「ね、ねぇ…その子、私に抱っこせてくれない?」
黒子が急に眼を見開く。
「正気ですかお姉さま!この淫獣が仕出かした事をお忘れで!?」
「飛び出してきただけでしょうが…。あんたこそ何ムキになってんのよ」
「グギギ…!」
歯を強く嚙み締め、如何にも悔しそうな表情をする黒子。しかし少女の期待した目を見て、それを無碍にするわけにもいかず苦渋の思いでカモを渡した。
「よーしよし、怖かったわねぇ。もう大丈夫だからね」
カモを優しく抱きしめる少女。何か違和感は感じるものの、カモは少女に身体を擦り付ける。黒子の視線が一層鋭くなった。
(何故でしょう、どうもこの動物信用なりませんわ…)
「わっ、すり寄ってきた…ふふ、可愛い」
思わず少女は頬を緩ませる。
(今だっ!)
「あっ!」
隙をついて腕の中から飛び出したカモは、勢いそのままに茂みの中へと入っていった。
「行っちゃった…」
「まぁ、お姉さま。そう気を落とさず。わたくしなら何時でもウェルカムですわよ」
「チェンジで」
「お姉さま!?」
「ふぅ、あぶねぇあぶねぇ…何とか逃げ出せたぜ…」
何とか危機を脱したカモは汗を払った。
「俺っちとした事が、少々油断しすぎた様だ。気合い入れ直さねぇとな」
再び双眼鏡を取り出し、先ほどの少女を見る。
「しかしなかなかの逸材だったぜ。チェックは付けとくか」
取り出したメモ帳に何かを書き込む。
「さて、もういい時間だし今日はこんなとこにしとくか。こりゃあこれから忙しくなるな!」
そう言うとカモは女子寮を目指し、走り出した。
ーーーーーーーーーーーー
「それじゃ明日菜さん木乃香さん、僕は見回りに行ってきますね」
「うん、気つけてなネギ君」
「…」
あれから明日菜達にエロ河童の事を聞いたネギは、夜の見回りの為に外に出るところだった。玄関には既に支度を済ませた真名がネギを待っている。
先程既にネギと真名・刹那の改めての顔合わせは済んでいる。真名と刹那が魔法関係者だと本人達から伝えられた時、ネギはかなり驚いていたが。
「明日菜さん、どうかしたんですか?」
「えっ?ああ、うん…何でもない。気を付けてねネギ。龍宮さん、ネギをよろしく」
「ああ、任された」
「では、行ってきます」
ネギと真名が見回りに向かい、部屋には明日菜と木乃香だけが残った。
「それにしても驚いたなぁ、真名ちゃんが警備員の仕事しとったなんて」
「うん、そうね」
「明日菜?さっきからなんか変やで」
「ネギのやつがちょっと心配なだけよ。またドジしないかってね」
「真名ちゃんもついとるし大丈夫やって」
そう言うと二人はリビングに移動してカーペットに座る。
「ねぇ、木乃香」
「ん?なんや?」
「今日のさ、桜咲さんの事なんだけど…」
少し言いにくそうな明日菜に、木乃香は苦笑いをした。
「そう言えば、明日菜にはちゃんと言うてなかったもんな。ウチ、ここに引っ越してくる前は京都に住んどったやろ?」
「うん」
「ちっちゃい頃はいっつも家の敷地におったから、友達もおらんくて」
昔を思い出しながら木乃香は続けた。
「ある時な、同い年の子が家に来たんよ」
「もしかして、それって」
「うん、それがせっちゃん。ウチら…実は幼馴染なんよ」
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女子寮の外。茂みの中から顔を出す二人の男女がいた。
「あの、逢襍佗さん…なぜ顔だけ出すんですか…」
「何言ってるんですか桜咲さん。張り込みですよ?隠れてなんぼでしょ」
「は、はぁ…」
警備として今回はネギと真名が敷地内を。祐と刹那が外を担当する事になった。
「しかし、下着を盗む専門の妖怪がいるとは…世も末だな」
「ここ数年、至る所で悪霊や妖怪などの動きが活発になっていると聞きます。今回の件もそれと関係しているのかもしれません」
(神秘が増した影響か…)
「逢襍佗さん?」
「いや、失礼。何でもありません」
茂みから顔を引き、別の場所へと移動する二人。
「どうです?何か妖気みたいなの感じますか?」
「いえ、今のところ特には。しかし昨日もそうでしたが、奴は行動を起こす時以外妖気を意図的に抑える事ができる可能性があります。油断はできません」
「なるほど、そんな事ができるのか」
「逢襍佗さんは、気配の探知など可能ですか?」
「そうですねぇ。何と言うか違和感を感じたり、特殊な力の流れを感じたりとか…。まぁ、そんな感じです。それが妖気なのか、はたまた誰かの悪意なのかとかの区別はあまり付けられませんけど」
「あの…貴方は人間ですか?」
「桜咲さん凄い事聞きますね」
「す、すみません!決して悪く言うつもりでは!そういう意味ではなくて…」
焦って刹那が手を忙しなく動かしながら弁明した。祐はそれを見て少し笑ってから答える。
「生まれは間違いなく人間です。親族も特殊な力なんて持ってませんでしたから。今はどうか知りませんけど」
「どう言うことです?」
「正直、今自分が人間という枠にカテゴライズされるのかはわかりません。見た目は変わってませんけど、力が使えるようになってから身体の中は色々変わってるでしょうしね」
そう聞いた刹那は何か言おうか言わまいか悩んでいるようだったので、祐はこちらから助け舟を出す事にした。
「こうして一緒に警備をしてるのも何かの縁。せっかくだし、聞きたい事があるなら遠慮なくどうぞ?気になるのは俺の体重ですか?」
「いえ、それはあまり…」
また悩む表情に戻ると、その表情のまま口を開いた。
「怖くないんですか?その、自分の身体が他の人と違う…変わって行くのは」
祐は視線を上げ、考える。少しして刹那を見た。
「実は、この力が何なのかとかそういった事をちゃんと考え始めたのって最近なんですよね。力が使えるようになってから中学の時までは色々と忙しくてそれどころじゃなかったって言うか」
「だから、よくわからないって感じですかね。すみません、大した回答じゃなくて」
苦笑いを浮かべならがそう言った。
「いえ、こちらこそすみません。変なことを聞いて…」
「お気になさらず。じゃあ、俺からも一つ良いですか?」
「えっ?…はい、どうぞ」
「桜咲さんは、よく木乃香の事を見てますよね?二人はもしかして知り合いですか?」
聞かれた刹那は僅かに眉間に皺を寄せた。それと同時に答えることに躊躇しているようだった。祐は少々強引だとは思いつつも、何を言わず彼女の返答を待った。
「逢襍佗さんは、木乃香お嬢様の事をどれほどご存知ですか?」
「木乃香の家の事も、木乃香自身が持っている物の事も聞いています。そして、本人がそれを知らない事も。俺が聞いたのは全て学園長から、ですが」
「そうですか…そこまで」
「それなりに信用してもらってると、勝手ながら思ってます」
刹那は深く目を閉じると、一呼吸する。やがて目を開け、祐を見た。
「私と木乃香お嬢様は、言わば幼馴染と呼ばれる関係でした」
ーーーーーーーーーーー
「その頃からせっちゃんはずっとウチと遊んでくれてな。どんな時もそばに居てくれたんよ。怪我しそうな時とか危ない時はいっつも助けてくれた」
「二人って、そんなに仲良かったのね」
「うん。でもな、ウチが川で溺れた事があって。そこからなんて言うか…せっちゃんがよそよそしくなってしもうて」
木乃香の表情は寂しそうなものへと変わる。明日菜は今は何も言わず、続きを聞くことにした。
「ウチが麻帆良に引っ越す頃にはせっちゃんは剣道の稽古が忙しくなってもうてて、ちゃんと話せないままだったんよ」
「でもウチらが中学に上がった時に、せっちゃんもこっちに来て。また仲良くできるって思っとったんやけど…」
「だからあの時、少し元気なかったのね」
中学一学期の数日ほどだが、木乃香が落ち込んでるような事があった。木乃香自身があまり詳しく話そうとしなかったので、何かを察して明日菜も必要以上に聞こうとは思わなかった。
「声かけても困った顔されてもうて。せやからあまり話しかけんほうがええんかなって…。昨日久しぶりに話しかけたんやけど、やっぱり上手くいかんかったわ」
寂しさを隠すように木乃香は笑った。
ーーーーーーーーーーーー
「あの時、自分の力の無さを痛感しました。それから私は、お嬢様を守れる力を身に付ける事に集中すると決めたんです」
「今も離れた所から木乃香を見ているのも、それが理由ですか?」
「全てはいつ如何なる時もお嬢様をお守りする為です。近くに寄り過ぎれば油断が生まれます。その結果、あの時お嬢様を危険に晒してしまった」
その時の光景を思い出したのか、刹那は拳を強く握った。
「私はお嬢様をお守りできればそれで良い。それに、今のお嬢様には沢山のご友人がいます。あの頃とは違う…私一人がいなくても、お嬢様は寂しくなんかない筈です」
「それは…寂しくないって、木乃香がそう言ったんですか?」
目を見てそう聞かれた刹那は、祐から視線を逸らせた。
「桜咲さんが木乃香から距離を置いたのは、貴方のその力も関係ありますか?」
そう言われた瞬間目を見開く。すぐに表情を取り繕い、伏せていた視線を祐に向けた。
「何の事です…」
「貴方の中にあるそれが何かまではわかりません。でも、何かを持っているのはわかります」
言いようの無い焦りを感じ目つきを鋭くした刹那は、思わず持っていた日本刀『夕凪』に右手を添えてしまう。表情は変えぬまま祐は両手を上げた。
「誓って言いますが、誰かに聞いた訳でも、調べた訳でもありません。ただそう感じたってだけです。過信してるつもりはありませんが、それでもこの力が使えるようになってから、この感覚はそれなりに信用してます。実際これで何度も助かりましたから」
「超感覚、それも貴方の能力…アルコ・イリスの力の一つですか…」
「おっと、名前まで知ってたんですか」
「噂程度です。詳しい事は知りません」
「俺の尊敬する人が付けてくれた名前です。ただの虹じゃ格好つかないだろうって。いろんな意味があるらしいですけど、そこら辺は俺も詳しく聞いてません。でも結構気に入ってます」
夕凪から右手を離すと、刹那は気まずそうな顔をした。
「すみません、取り乱しました…」
「いえ、此方こそ。こんな簡単に聞いて良い事ではありませんでした。すみません」
そう言って頭を下げる祐。暫くして頭を上げた。
「ただ、余計なお世話かもしれませんがこれだけは言わせてください。木乃香は間違いなく寂しいと感じています」
「それも、そう感じたのも貴方の能力ですか…?」
「いいえ、能力は関係ありません。使わなくても、わかりました」
刹那は何も言わなかった。ただ、その拳は再び強く握られていた。
ーーーーーーーーーーーー
シャワールームへと向かった木乃香を見送り、明日菜は一人テーブルにうつ伏せになった。
思った以上に木乃香と刹那の間には面倒なものがある様だ。木乃香の寂しそうな顔など見たくは無い。しかし自分がどれほど踏み込んで良いかもわからなかった。
ふと今警備をしているネギと祐を思った。二人ならこれを聞いた時どうするだろう。そもそも、自分は二人に協力しなくて良いのだろうか。
とは言え自分が行った所で戦う力など無いのだから、おとなしくしているべきだと理解はしているがそれでもそう思わずにはいられなかった。
以前祐が言っていた、何かしないと自分が許せないと言う気持ちがほんの少しだけわかった様な気がした。本当にほんの少しだが。
「よう姐さん、浮かない顔してるじゃないの」
「へ?…ってカモじゃない。あんた今までどこ行ってたのよ?」
「なぁに、ちょっと麻帆良を偵察してたのさ。これからは俺っちもここに根を下ろす訳だからな」
いつの間にか帰ってきていたカモがテーブルの上に座っていた。うつ伏せの姿勢から顔を上げた明日菜は、カモに疑いの目を向ける。
「そんなこと言って、変な事してたんじゃないでしょうね?」
「ひでぇな姐さん。俺っちはいつだって兄貴のことを思って行動してるってのに」
「どうだか…」
テーブルの上に置いた腕に顎を乗せる明日菜。視線は下に向け、口を開く。
「あんたはさ、悩んでたり困ったりしてる友達がいたらどうする?」
「ん?どうしたんすか急に」
「別に、ただ何となく聞いただけ。で?どうなのよ?」
「そんなの決まってまさぁ。相手が大事な友達なら、自分ができる事をやりますぜ」
「それがその友達にとって、あまり触れて欲しくない事だとしても?」
「えらく具体的っすね。まぁ、例えそれでも困ってるんなら、俺っちならやるね」
「でもそれって、ありがた迷惑だったりしない?」
カモはタバコに火を点け、深く吸った。
「姐さん、気持ちはわからんでもないが俺っち達は神様じゃねぇ。何でもかんでも相手の望み通りに動いてやる事なんざできねぇよ」
明日菜は視線を上げ、カモを見た。
「良かれと思ってやった事が相手を傷つけたり、怒らせたりする事だってあるさ。でもよ、それって悪かい?」
「どっちに転んだとしても、その行動の根っこにあるのはそいつの為に何かしてやりたいって気持ちだろ?もちろん限度ってもんはあるだろうが、上手くいかず失敗した事を責める事はあってもよ、その気持ちを誰が否定できるよ?」
「そりゃ、そうだけど…」
「波風立てず、穏やかに暮らして行けるならそれが一番さ。でも、世の中そんな簡単じゃねぇ。時には一か八かで勝負をかけなきゃならない時は必ずある」
「そんな時に、失敗したくないから何もしないって方法も一つの手段だ。悪い事じゃねぇ。ただデメリットもある」
「何よ、そのデメリットって」
「何もしなかった結果。悪い方向に物事が進んだ場合、かなり後悔する」
明日菜は視線を下げ、頬を前腕に乗せた。
「まぁ、逆も然りだ。動いた結果、悪い方向に物事が進んだ場合もかなり後悔する」
「どっちにしろ後悔するんじゃない」
「そこだよ姐さん、どっちにしろ後悔すんのさ。動いたか動かなかったかじゃない。悪い方向に行けば後悔する」
「でもあんたは動くんでしょ?結局どっちが正しいと思ってんのよ」
「どっちが正しいか正しくないかは終わってみないとわからないって事よ。よっぽどの事じゃない限り、答えは先に出ちゃくれない」
「だからこそ俺っちは動くぜ。取り返しのつかない間違いじゃない限り、何度だってチャレンジしてやる。そうしていずれ、常に俺っちが動いた方が上手くいく様にしてみせる。そうやって生きていくと決めてんだ」
「あんた自分勝手って言われない?」
「姐さん、人の事を考えるのは立派だとは思うが、それで自分の心にずっと蓋をするのは俺っちは正しいとは思ってない。たまにゃ自分の意思を優先するってのも大事だ。まぁ、これをどう思うかはそいつ次第さ」
明日菜は答えが出ず、困った顔をした。
「悩めば良いさ姐さん。姐さんはまだわけぇ、時間は山ほどあんだからよ」
「あんたいくつよ…」
「野暮なこと聞くもんじゃねぇよ」
「てか禁煙!」
「あぁっ!ご無体な!」
タバコを奪い取った明日菜はキッチンで消化した後、ゴミ箱に捨てた。それが終わると元の位置に戻る。
「ところで姐さん、悩んでいるのは友達の事だけじゃねぇな?」
「なっ、何の事よ…」
露骨に動揺する明日菜。カモの目がきらりと光る。
「他の奴らは誤魔化せても、俺っちは誤魔化されないぜ?」
自信ありげなカモに、明日菜は少し身を引く。
「そんなにネギの兄貴が心配かい?いや、それだけじゃねぇ…何か他の理由もあるな…」
「うっ…」
やけに勘が鋭い。もしかするとカモは心を読む系統の魔法が使えるのかと明日菜は思った。
「他の理由が何なのかまではわからねぇが、ズバリ!姐さんが欲しいのは戦える力だな?」
「あんた、なんか私に変な事して無いでしょうね…」
「オコジョ妖精は何でもお見通しでさぁ」
得意げにそういうカモに、明日菜は少しイラッときた。
「そんな姐さんに耳寄りの情報があるんだが…」
そうカモが言うと、少し遠くからドアを開ける音がした。
「おっと、今はここまでか。じゃあ姐さん、この話はまた今度って事で」
「あっ、ちょっと!」
テーブルから飛び出し、音のした方へと走るカモ。
「明日菜ー、シャワーでたでー。あ〜カモくん!帰ってきてたんやねぇ」
「ったくあいつ…調子いいんだから」
すっかり木乃香に懐いたカモは出てきた木乃香に抱えられ、ご満悦な表情だった。
「戦える力…」
「明日菜?なんか言うた?」
「ううん、何でもない。あと木乃香、あんまりそいつ信用しちゃダメよ」
カモを指差しそう言う明日菜に、木乃香はキョトンとした。
「どしたん?明日菜、そないな事言うて。あっ、もしかしてカモくんに構ってばっかやからヤキモチ妬いとるん?」
「んな訳ないでしょうが!」
「んも〜、そんならそうと言うてくれればええのに〜」
木乃香が明日菜に正面から抱きついた。
「あいつもいないのに悪ノリしないでよ!」
「祐君にもして欲しいなんて、明日菜欲しがり屋さんやなぁ」
「違うっての!」
いつも通りの二人。しかし、何かが変わり始めようとしていた。
そしてその日、妖怪は姿を現す事は無かった。
一番好きな章は?
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序章・始まりの光
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幽霊と妖怪と幼馴染と
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たとえ世界が変わっても
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消された一日
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悪魔よふたたび
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眠りの街
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旧友からの言葉
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漢の喧嘩
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生まれた繋がり