「ラス・テル マ・スキル マギステル」
呪文の始動キーを唱えるネギ。
「
「
「むっ!」
飛んでくる光の矢に河童は後ろへ下がる。地面に着弾して辺りに立ち込めた煙を手で振り払うと、いつの間にか祐が目の前に現れていた。
光を纏った拳を河童の腹部目掛けて叩き付ける。僅かにガードが間に合わず、鳩尾に突き刺さった。
「ぐふっ!」
凄まじいスピードで吹き飛ぶ河童。途中で何とか体勢を立て直し、祐とネギを見る。
「この力、ただの人間ではなかったか…人がこれほどの力を持つとは、時代も変わったな」
「下着泥棒のくせに台詞回しが格好いい雰囲気なのが腹立つな…」
冷めた視線を送る祐。それを受け、河童はフッと笑った。
「下着泥棒のくせにか…人間よ、下着泥棒とは悪か?」
「悪でしょ」
「犯罪ですよ」
矢継ぎ早にそう言われた河童は再び力なく笑った。
「悪か、時代も変わったな」
「昔は許されてたみたいに言ってるぞこいつ」
「昔から悪い事ですよ」
祐は頭を掻くと河童に提案する。
「あの、下着泥棒は犯罪なんで大人しく捕まってくれませんかね?」
「俺に…死ねと申すか…」
「いや、流石に下着泥棒ってだけで殺しませんよ」
「そうです、罰は勿論ありますが殺したりなんてしません」
「そうではない。下着を盗ることが出来ない事…即ちそれは死を意味するのだ」
それを聞いたネギがはっとする。
「もしかして、そうしないと生きていけない理由が…?」
「いや、そういうのは無い」
「なんだこいつ…」
「祐さん、僕この妖怪苦手です…」
嫌いと言わないネギに祐は優しさを感じた。
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大浴場でも同様に戦闘が行われていた。刹那が前衛を務め、真名が後衛となる。
刹那が振るう夕凪に対して何とか背中の甲羅を合わせる事で致命傷は防いでいるものの、隙を作ろうにもそれを真名が射撃で潰してくる。息の合った連携に河童は劣勢であった。
「隙の無い攻撃だ…やりおるわ。胸はそこまでだが」
「余計なお世話だ!」
刹那は薙ぎ払いを行い、その衝撃で河童は後ろに吹き飛ぶ。
「案ずるな剣の少女よ、お前の様な体型が好みな者も必ずいる」
「こいつ!さっきからよく喋る!」
「落ち着け刹那、実力的にはそれほどでも無い。熱くなってはいらん隙を突かれるぞ」
「…わかっている」
「そちらの女性は剣の少女の保護者か?似てはいないが」
「……」
「真名、落ち着け」
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ネギから放たれる魔法を何とか避け、ネギに近づこうとするも祐が前に現れそれを阻止する。河童は常人では太刀打ち出来ない腕力を誇っているのだが、祐に肉弾戦を挑んでも一撃すら与えられず此方ばかりがダメージを負わされていた。
「腕力だけでは無い…!技量もあるとは厄介な奴よ!」
「こちとら伊達に怖い姉さん達に虐められてないぞ」
河童の放つ右ストレートを左手で逸らし、右足を前に出した勢いと共に右肘を相手の胸に突き出す。鈍い音を鳴らしてその衝撃を知覚的にも伝えた。
膝をつく河童。息つく暇も無く祐が飛び膝蹴りを放ち、その左膝が顔面に突き刺さった。
勢いを殺す事なく後ろへと倒れる。祐は河童を上から見下ろした。
「もう抵抗はやめて、投降しろ」
「フフ…青年、戦いはまだ終わってはいない」
河童が仰向けの姿勢から足払いを仕掛ける。後方に飛んだ事によりそれを避け、ネギの横に着地した。
「これでも100年を生きた妖怪。そう易々と負けを認めるわけにはいかん。我が秘伝の力を見よ!」
右手を真上に突き出すと、どこからか水が集まり出し形を作る。槍の様な形になったそれを掴み、両手で構えた。
「河童
「「……」」
祐とネギは武器の名前を聞いて黙ってしまった。
「何で河童がトライデント持ってんだ…?」
「ポセイドンが持っていたと言われていますから、水が関係してると言う事でしょうか?」
「河童も多様性の時代よ。いざっ!」
構えた姿勢から祐達に向けて走り出す。ネギから再び放たれた光の矢をトライデントを高速で回す事により防ぎながらも足は止めない。少し前に出た祐。やがてその距離はトライデントの間合いに入った。
「殺しはしないが、行動不能になってもらう!」
河童が祐に向けてトライデントを突き出す。すると硬い物同士がぶつかった様な音が響いた。目の前の光景を見て河童が冷や汗を流す。
「何とも奇異な力だとは思っていたが、斯様な芸当も出来るとは…」
祐の手には虹色に輝く光の剣が握られ、トライデントの攻撃を防いでいた。
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「このままではじり貧か…。仕方あるまい!」
追い詰められた河童は背中の甲羅を取り外し、右手に付けた。
「河童シールド‼︎」
「それ取り外せたのか」
思わず真名が聞いてしまった。直ぐに気を取り直し射撃を行うが、甲羅を破る事は出来ない。
「ふむ、今の私の装備では破壊は厳しいか。刹那、頼むぞ」
「ああ」
刹那が夕凪を構える。河童もそれを見て甲羅を前に出す。
「なかなかの刀の様だが、そう簡単に破れんぞ」
「どうなるかは直ぐにわかる」
そう言った刹那が河童目掛けて飛び出す。河童は甲羅で刹那を押し返すつもりの様だ。
「神鳴流奥義…」
横に構えた夕凪を横一線に振る。
「斬岩剣!」
「なんとぉ⁉︎」
甲羅はまるで紙の様に切れ、横に真っ二つとなる。大きな隙を晒した河童に追撃を仕掛けんとする刹那。
「河童緊急脱出‼︎」
紐に引っ張られる様に斜め後方に吹き飛ぶ河童。大浴場のガラスを突き破り外へと逃げる。
「逃すかっ!」
二人はスクール水着のまま同じ様に飛び出した。
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武器での打ち合いを続ける祐と河童だったが、河童の体力は限界を迎えつつあった。
薙ぎ払いを狙ったトライデントを遠心力がつく前に剣を叩きつけ、よろけた瞬間を逃さず瞬時に左フックを放つ。顔面にクリーンヒットした河童は思わずよろけながらもトライデントを突き出す。
それを空中に飛び、横向きに回転しながら逸らせると、回転の勢いを使って右足を河童目掛けて繰り出しす。胸に蹴りが突き刺さり河童は吹き飛んだ。
吹き飛んだ後、トライデントを杖の様に使い何とか起き上がる河童。祐達を視界に収めようとするが、既に目の焦点は合っていなかった。
祐が河童に向けて走り出す。残る力を振り絞り、トライデントを構える。そんな時、祐の後ろから姿を出したネギが視界に入る。
「
詠唱と共に風が巻き起こり、掴んでいたトライデントが手から吹き飛ぶ。それを見た祐は走るスピードはそのままに光の剣を消し、両手に光を集めた。
動揺をしていた河童の懐に祐が滑り込む。左足を前に出し、右足で踏み込む。右手を上に、左手を下にした状態で同時に突き出した。
河童はその瞬間、最早回避はおろか防御すら手遅れな事を悟った。
「見事…」
祐の技の一つ。両拳が河童の胴体に接触すると、まるで爆発したかの様に眩い光が発生する。その名を『
光が消えるとそのままの状態で立つ二人が見えた。ゆっくりと、体から力が抜けた様に河童が仰向けに倒れる。
祐は腕を回し残心の構えを取ると、ゆっくりと構えを解いた。ネギが歩いて祐に近づく。
「終わったんですね」
「ああ、気絶はしてるけど命に別状はないよ」
そう言いながら手をかざすと、光の輪が河童の手足に現れ拘束した。
ネギがふぅーと息を吐く。すると祐がネギの頭に手を乗せ、そのまま撫で始めた。
「お疲れネギ、助かったよ。特に最後はよく合わせてくれた」
ネギに笑いかける祐。ネギは少し頬を赤らめて恥ずかしそうにした。
「い、いえ…祐さんのおかげです。常に前に立ってくれたおかげで、魔法に集中できました」
「結構良いコンビかもね、俺達」
「はい!」
お互い笑い合うと、祐が遠くを見つめた。
「もう一体は…外に出たか。行こうネギ」
「わかりました」
祐を先頭に、二人はもう一体を目指して駆け出した。そんな二人を離れた場所から双眼鏡で覗くカモ。
「驚いたな、あんなのがいたとは…。何モンだありゃあ…」
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「なんや今大きな音せんかった?」
「え?そう?」
カーペットに座り、テレビを見ていた木乃香と明日菜。こちらから連絡があるまでは部屋から出ない様にと真名達から言われている為、寮の生徒達は部屋で大人しくしていた。
「もう河童さんは捕まったんかな?」
「どうだろ、そもそも河童って強いのかな」
「うーん、どうなんやろ?」
そう言って締めていたカーテンを開けて、木乃香は外を見ようとした。
「窓は開けちゃダメだからね?」
「もちろん。大丈夫やて」
笑ってそう言うと、カーテンを開ける。するとそこにはエロ河童が窓に張り付いていた。
「あっ、どうもこんばんわ」
「……」
「ちょっと木乃香?どうし…」
3人の目が合う。そのまま固まる明日菜と木乃香。
「夜分にすまないお嬢さん方。いきなりで申し訳ないが良ければ下着などを見せていただけると」
「お嬢様に手を出すな‼︎」
声のした方を河童が向くと、鬼気迫る表情の刹那の飛び蹴りが顔面に直撃した。それを驚いた顔で見る二人。
河童はそのまま地面に落下すると、刹那は一度木乃香達を見てから河童に向かった。
「せっちゃん!」
窓を開けて外を見る木乃香。明日菜も横からそれを見た。
「なんでスクール水着…?」
明日菜の素朴な疑問だった。
「なんとも、良い蹴りだ…。惚れ惚れする…」
「黙れ変態め!」
「いちいち締まらん奴だな」
刹那の隣に真名が着地する。二人は武器を構え、河童を見る。
「刹那、そろそろ決めるぞ」
「わかった」
刹那が真っ直ぐ駆け出し、河童目掛けて大振りの攻撃を仕掛けた。先程までの攻撃よりも僅かに遅い速度に、甲羅を無くした河童は勝負を仕掛けた。
「河童真剣白刃取り‼︎」
真っ直ぐ振り下ろされた夕凪を間一髪両手で挟み込んだ。しかし刹那の表情は変わらない。それを不審に感じていると、刹那越しにマナの姿が見えた。
その光景に目を見開く。真名は既にこちらに標準を合わせ、引き金を引く寸前だった。
「
「あっぱれ…」
放たれた特殊な弾丸が河童の額に突き刺さり、河童は全身を脱力させて倒れた。
「龍宮さん!桜咲さん!」
「おや、ネギ先生。そちらも片付いたか」
ネギが二人に向かって走ってやってくると、倒れている河童に視線を送った。
「心配するな、特殊な麻酔弾だ。この弾に殺傷能力はない。少し痛いがな」
「な、なるほど…」
ネギはどこか真名に恐ろしいものを感じた気がした。
「二体とも捉えたのならば、こいつらを早く学園に引き渡そう」
「確かにな。だがその前に、お前にはやる事がありそうだぞ刹那?」
「一体何を…」
「せっちゃん!」
声のした方を向くと、部屋の窓からこちらを見ている木乃香と明日菜が見えた。
「ちょ、ちょっと待っててな?今そっちに」
「待った待った!どう降りてくつもりよ!」
刹那が行ってしまう前に何とか下に降りようと、窓から乗り出し始める木乃香とそれを止める明日菜。
「わわ!木乃香さん!危ないですよ!」
「お、お嬢様!」
「やれやれ…。ん?」
下にいる三人がそれぞれの反応を示す中、真名がある方向を見る。
「へっ?」
「これって…」
そんな時、窓の前の二人に光が現れる。その光は段々と窓から緩やかな坂を作り、地上へと伸びた。両端に小さな壁を作り、横に落ちない様にしている。
「あれは…」
「虹の光の滑り台か。何ともメルヘンだな」
「わ〜、綺麗ですねぇ」
刹那はその光景をただ見つめる。真名は少し笑いながらそう言い、ネギは素直に感想を述べた。
「この虹ってあん時の…」
かつての景色を思い出し、ぼーっと見ている木乃香。同じ様に見ていた明日菜は、木乃香より先に我に帰ると木乃香の手を握った。
「木乃香!行こう!」
「えっ?でもこれ…」
「大丈夫!私が保証する!この光は絶対大丈夫だから!」
真剣な目で木乃香を見て、自分の思いを伝える。やがて木乃香は強く頷き、手を握り返した。
二人で光を触ると、しっかりとした板の様な感触が伝わった。それと同時に何処か温かさも感じた。光に乗り、地上へ向けて滑り降りてくる二人。
刹那は視線を逸らし、辛そうな表情をしながら二人に背を向けた。足を一歩出してここから離れようとした時、脳裏に昨日の出来事が浮かび上がった。それは祐から木乃香は寂しさを感じていると言われた後の事である。
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拳を握りしめる刹那を見た祐は、ゆっくりと刹那に語り掛けた。
「桜咲さん。俺は…人は大切な人と出会うと、その人の為のスペースを心の中に作ると思ってます」
下げていた視線を、刹那は祐に向けた。
「その大切な人が居なくなったり、離れたりすると、そこには穴が出来る」
「貴女が木乃香から離れた事で木乃香の心に出来た穴は、俺達じゃ埋められない。埋められるとしたら、それは貴方だけです」
「そんな、そんな事は…」
「だってそうでしょ?誰が見てもわかります、俺と貴方は違う人間だ。明日菜だってそうです。他のみんなも。貴女の形に嵌まるのは貴女しかいない。俺達は形が違いすぎる」
「確かに木乃香は友達が多いです。あの子は凄く優しいから。…でも、数の問題じゃ無いんですよ桜咲さん。木乃香は今、貴女と話がしたいんです。桜咲さんはどうなんですか?木乃香と、話したく無いんですか?」
刹那が再び目を伏せた。
「そんなわけないでしょう…。誰よりも、誰よりもお嬢様を大切に思っています…。彼女の為なら、この命を散らせたって構わない…!彼女が幸せに暮らせるならそれで良い!だから!だから私は!」
「木乃香が幸せに暮らす為には、貴女がそばにいる必要があるって、何で貴女は思ってくれないんですか…」
悲しそうに祐が言ったその言葉が、刹那にはすぐ理解できなかった。何を言ってるんだろうとさえ思った。木乃香の幸せの為に、自分という存在が彼女のそばにいる必要があるなんて、考えもしなかった。自分は木乃香を守る為の存在だ。彼女を守る事が全てだと、そう思っていたのだから。
「貴女が木乃香に背を向けた時、木乃香はいつも悲しそうな顔をしてるんです。木乃香が演技でそんな事をする子じゃ無いのは、桜咲さんだってわかるでしょ?」
「木乃香には…木乃香が心から笑う為には、貴女が必要です桜咲さん!貴女が訳も言わず木乃香から遠ざかる限り、木乃香は心から笑えない!」
刹那は思わず祐に掴みかかった。こんな事はただの八つ当たりだとわかっていながらも、気持ちを抑える事は出来なかった。
「知った様な口を聞くな!お嬢様の事も、私の事もよく知らない奴が!私の中の力に気が付いて、私を理解したつもりか⁉︎汚れた血を持つ、私の心を理解したつもりか‼︎」
憎い相手を見る様に祐を睨みつけた。祐は何も言葉は発さなかったが、視線は刹那の目から逸らさなかった。
「何度も言おうと思った!私の事を!でも言えば、私はお嬢様から離れなければならない!それに何より!言ってお嬢様に恐れられるのが…軽蔑されるかもしれないのが、何よりも怖くて仕方ない…」
掴みかかっていた右手の力が弱くなる。それと同じ様に言葉自体も弱々しいものへと変わっていった。
「魔法使いや超能力者が認知されたとは言え、未だ人では無い存在を見る目はさほど以前と変わらない。奇妙な物や、異物を恐れる目だ」
「むしろ存在する事が確定された、今のこの不安定な世界だからこそ、その視線は強くなった。人と…人で無い物との間の壁は、そんな簡単に取り払える物じゃ無い」
完全に右手を離し、力無く項垂れる。刹那から強い後悔と罪悪感を感じた。間違いなく、彼女は今苦しんでいる。
「自分の正体を隠したままお嬢様のそばにいれば、それはお嬢様を騙している事になる気がした。そんな状態でお嬢様のそばにいるのは、苦しい…苦しいんだ…」
自分の力を、自分の存在を憎んだ事は一度や二度ではない。常にそれは刹那の生きる道に付いて回った。決して切り離すことの出来ないそれのせいで、かつて自分の居場所さえ奪われた過去が、彼女の心に深い傷を作っていた。
「こんな化け物じゃなく…普通の、普通の人間にさえ生まれて来れたら…。私は、こんな苦しまずに済んだのか…?」
何処か縋る様な目で祐を見た。その瞳からは涙が流れていた。
祐は右手を横に上げた。すると瞬時に光の剣が現れる。刹那は訳がわからずそれを見ていると、祐が両腕で剣を逆手に持つ。
すると突然思い切り自分の胸に剣を突き刺した。
「なっ⁉︎ば、馬鹿!何をしている⁉︎」
胸から血が流れる祐に急いで駆け寄ると、祐は左手で刹那を制した。剣を抜き、それを消すと胸の血を払った。
「傷が…無い…?」
「いいえ、治ったんです。剣を抜いた瞬間に」
唖然とした。血は付いているものの、その胸には傷跡すら既に残っていなかった。祐は平然とした表情をしている。
「どうです?なかなかの化け物具合でしょ。どう思いました?」
「何を言って…」
「お前みたいな化け物が、木乃香に近づくなって思いました?」
その言葉に目を見開く。祐は一歩前に出た。
「隠しておきたい事の一つや二つ、誰にだってあります。自分の事を全部話してる人の方がきっと少ないですよ」
二人の距離は、人一人が間に入れない程度の物になった。身長の関係で刹那は祐を少し見上げる形になる。
「小さい秘密であれ、大きな秘密であれ、誰にでも秘密はあります。全部を話さなきゃ友達になっちゃいけないなんて、そんな決まりありませんよ。自分の秘密は話したくなったら話せば良い」
「勿論知っている人もいますが、俺はずっとこの力の事を木乃香達に隠してきました。そしてこの間、明日菜には打ち明けました」
再び驚いた様子の刹那に、祐は少し笑うと続きを話す。
「そろそろ、木乃香にも伝えるつもりです。これは俺がそうしたいなって思ったからです。だから桜咲さんも秘密を打ち明けてって事じゃありません。さっき言った通り、言いたくなったら言えば良いって思います」
「伝える事が、怖くは無いんですか…?」
「正直言うと怖いです。否定されたらどうしようって。明日菜に言った時も、不安で死ぬかと思いました」
苦笑いをして頭を掻いた祐は、表情を真剣な物にした。
「でも決めたんです。後悔しない為には、これがきっと最善だと思ったから」
「後悔しない為…」
刹那はそう言いながら、自分の胸の部分の服を握った。
「桜咲さん、人は死にます。必ず。悲しいけど、いつか必ず別れの時は来ます」
「大切な人が、もう会えない人なら…いつか心にできた穴には折り合いを付けなきゃなりません。でも、貴女は違うでしょ?」
少ししゃがんで刹那との目線を合わせた。
「貴女の声はまだ届くし、手だって掴める。木乃香は貴女の声を聴きたがってるし、手だって貴女に伸ばしてます」
「もう、時間が経ち過ぎました…今更合わせる顔など」
祐が刹那の肩に両手を置いた。刹那の目をしっかりと見つめる。
「何言ってるんですか桜咲さん!俺達まだ16歳ですよ!遅くなんて無い、まだ始まったばっかりじゃないですか!」
「これから離れていた分を取り返せば良い。いつか死んで別れるなら、せめて生きてる間ぐらいは大切な人と一緒に居ませんか?それが一番です、きっと」
ーーーーーーーーーーーー
「私は…」
目を閉じ、そう溢した刹那の腕を誰かが強く握って引っ張った。身体ごとそちらに振られると、その相手が見えた。
決意した表情の明日菜が、刹那を逃さんとその腕を掴んでいた。
「桜咲さん。私は部外者だし二人の関係の事も碌に知らない人間だけど、桜咲さんには年月で負けるけど!それでも私は木乃香の幼馴染で親友だから!出過ぎた真似かもしれないけどお願い!木乃香の話をちゃんと聞いてあげて!」
「神楽坂さん…」
「せっちゃん」
明日菜から目を離せずにいると、木乃香の声がした。緊張からか木乃香は両手を組んで強く握っている。すると、今度は軽く背中を押される。押された事で自然と前に一歩出た刹那が振り向くと、押したのは真名だった。
「年貢の納め時だ。今しかないぞ」
そう言われ、木乃香を見る刹那。視線を合わせるとお互いの緊張が伝わってくる様だった。
「せっちゃん…ウチの話、聞いてくれる?」
弱々しくだが、刹那は頷いた。
「ウチな…中等部に上がった時、せっちゃんに会えてすっごく嬉しかった。また、せっちゃんと一緒にいられるって思ったから」
「でも、声掛けたらせっちゃん…困った様な顔してしもうて。何や避けられてるみたいやったから、ウチは話しかけん方がいいのかなって思ってん」
刹那の表情が険しくなる。彼女にこんな寂しい顔をさせている自分が、何よりそれを見てもどうも出来ない自分が許せなかった。
「けどやっぱり無理やった。だって、せっちゃんはウチの大切な人やもん!ウチがなんかしたんなら謝る!ウチの事が嫌いになったんやったらそう言って!理由がわからん内は諦められんよ!」
それは紛れもない、木乃香の本心だった。
「嫌いになんて…嫌いになんてなるはずがありません!貴女は、貴女は何よりも大切な人です!」
「せっちゃん…。じゃあなんで、なんでウチの事避けてたん…」
木乃香と刹那の瞳には、涙が滲んでいた。
「貴女の近くは温かすぎるんです…貴女の近くでは剣士ではいられなくなる!それでは貴女を守れない!また貴女を守れない!」
「それに私はずっとお嬢様に隠し事をしてきました!こんな状況になってもそれを明かせない!弱虫な奴なんです!」
刹那の言葉に木乃香は走り出した。叩かれるのを覚悟した刹那はぎゅっと目を閉じる。やってきた衝撃は想像のものとは違い、優しく体を包んだ。木乃香は刹那を抱きしめていた。
「お嬢様…」
「ちゃう…ちゃうよせっちゃん!ウチはせっちゃんに守って欲しいんやない!そばにいて欲しい!」
金槌で頭部を殴られたかの様な衝撃を受けた。刹那はその場に立ち尽くした。
「ウチが頼りないから、せっちゃんが頑張らなあかんかったんよね?ごめん…ごめんなせっちゃん」
抱きしめた状態で木乃香は大粒の涙を流す。
「違う…違います…ちゃうよこのちゃん!このちゃんは頼りなくなんかない!私に優しくしてくれた初めての友達や!このちゃんがいたから私は生きてこられた!このちゃんのおかげなんよ!」
刹那が木乃香を抱きしめ返す。刹那も木乃香に負けないぐらいの涙を流した。
「なぁせっちゃん。ウチの事、嫌いやない?」
「嫌いな訳あらへん、大好きや」
「なら、一緒に頑張らせて?」
「え…?」
体を少し離し、木乃香は刹那の顔を見た。
「ウチも強くなれる様頑張る。だからせっちゃんもウチの隣におって?そしたらきっと、一人の時よりももっと頑張れるから」
「このちゃん、ええの?だって私はこのちゃんに隠し事を」
刹那の頬に両手を添えて、困った様に笑った。
「もう、秘密の一つや二つ誰にだってあるやろ?それがどんなに大きな事でも、そんなんで嫌いになったりせんよ。いつか話したいって思ってくれたら、それはそん時に聞かせてな?」
「このちゃん…」
刹那の涙が更に強く流れた。
「せっちゃん、改めて聞かせて?ウチのそばに居てくれる?」
「おる!どんな時もそばにおる!私なんかでええならずっと!」
「何言うとるん?ウチは、せっちゃんがええんよ」
「このちゃん!」
再度強く抱きしめ合う二人。周りを気にせず二人は大声で泣いた。
「何とかなったみたいね」
「う〜!よくわからないですけど二人とも良かったです〜‼︎」
「あんた泣きすぎ」
「明日菜さんだって泣いてるじゃないですか〜!」
それを見ていたネギと明日菜も涙を流した。ネギは正確には号泣だが。真名は静かに笑っていたが、その顔は嬉しそうだった。そんな時、薄い光が周囲を覆っていることに気がつく。真名はそれに触れた。
「なるほど、原理はわからんが防音対策という事か。まったく…大した力だよ、お前の力は」
そう言って女子寮の屋根に視線を向けた。
泣きながら抱きしめ合う二人。もう決して離れないよう強くお互いに回された腕は、簡単な事では解く事は出来ないだろう。
屋根の上でしゃがみながら、大切な幼馴染の新たな出発を見届けて、祐は優しく笑った。
一番好きな章は?
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序章・始まりの光
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幽霊と妖怪と幼馴染と
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たとえ世界が変わっても
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消された一日
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悪魔よふたたび
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眠りの街
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旧友からの言葉
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漢の喧嘩
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生まれた繋がり