Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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幽霊と妖怪と幼馴染と

「と、言う訳で今日から正式にこちらの寮でお世話になる事になりました!」

 

そう嬉しそうに言うのは、晴れて寮生活を送ることになったさよだ。隣の席という事もあり、部屋は和美と同室となった。因みにもう一人の同室は美空である。

 

現在は和美・美空と共に寮生に挨拶回りをしているところであった。

 

「うん、よろしくねさよちゃん」

 

「これからお願いします!」

 

「うちにも遊びに来てな~」

 

部屋に挨拶に来たさよにそう返した明日菜達。河童騒動が決着を見たのは昨日とは思えないほど、寮には平和な時間が流れていた。

 

「ところで御三方、昨日の河童事件について何か知ってる事ない?」

 

さよの横にいた和美がメモ帳とペンを持ってスッと前に出てきた。美空は呆れ顔である。

 

「朝倉、それ全員にやる気?」

 

「あたりまえでしょうが!結局見る事すら出来なかったんだから!くそ~!せっかくのスクープだったのに!」

 

悔しそうに言う和美に、周りは苦笑いだ。

 

「それならやっぱり私が見に行った方が良かったんじゃ」

 

「それはダメ。幽霊とは言え、私が行かずにさよちゃんだけに危険な事させるなんて。ジャーナリストとしてのプライドが許さないわ」

 

「変なところは頑固なんだからこの人は…」

 

「そんな事言う美空が行ってくれれば止めなかったのになぁ」

 

「おい、何だその扱いの違いは」

 

美空が軽く肩をはたいた。

 

「河童の事なら私達も知らないわよ」

 

「ウチらも部屋の中におったしな」

 

「まぁ、そりゃそっか。でもネギ君は見回りに出てたんでしょ?どうなの!?」

 

ぐっとネギに顔を寄せる。当然の事にネギが顔を赤くした。

 

「えっ!えっと…見ました。あの図鑑の通りの見た目で、図鑑の通りの変態さんでした…」

 

「そ、そう…」

 

段々とテンションが下がっていくネギに、あまり深く突っ込まない方がいいような気がしてそれ以上追及するのはやめた。

 

「ほらほら、まだ挨拶回りは残ってるんだから早く行こ」

 

「う~ん、こりゃ龍宮さん達にインタビューするしか…」

 

「あはは…。それではネギ先生、明日菜さん、木乃香さん、失礼します!」

 

美空が和美を引きずり、さよが一礼して次の部屋へと向かった。それを三人が手を振って見送る。

 

「朝倉は相変わらずね」

 

「でもよかったなぁさよちゃん。これでもう寂しくあらへんもんね」

 

「はい!さよさん、とっても嬉しそうでした」

 

「確かに寂しくないわね。木乃香も」

 

明日菜が茶化すように木乃香を見た。

 

「あ、明日菜!ウチの事はええやろ!」

 

「はいはい、ごめんごめん」

 

「も~、あんまからかわんといてぇな」

 

恥ずかしそうに赤く染めた頬に両手を当てる木乃香を見て、明日菜とネギが目を合わせて笑う。明日菜としては珍しく木乃香をからかえて新鮮な気分だった。

 

「あ、そろそろ行かな。はぁ…面倒やなぁ」

 

「ああ、あれって今日だったっけ?」

 

「うん、支度してくるわ」

 

そう言って着替えに向かう木乃香。その後姿を見たネギは明日菜に聞いた。

 

「木乃香さん、何か用事があるんですか?」

 

「まぁね。お見合い用の写真を撮りに行くんだって」

 

「へ~お見合い用の写真ですか。お見合いって何ですか?」

 

「そっからか…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あれか暫くして目的地に向かった木乃香。寮のロビーに着いた所で歩いていた刹那に出くわした。

 

「あっ、せっちゃん!」

 

「ど、どうもお嬢様」

 

「ややわぁせっちゃん、せっかくまた仲良くなれたんやから名前で呼んでぇな」

 

「す、すみません!いつもの癖で…」

 

「え~、ウチ寂しいわ~」

 

そう言って刹那の腕に、自分の腕を絡めた。見る見る刹那の顔が赤くなる。

 

「お、お嬢様!こまっ…困ります!こんな事されては!」

 

「ええやんか~ええやんか~」

 

「酔ってらっしゃいますかお嬢様!?」

 

目に見えて動揺する刹那を見て木乃香はにっこり笑うと、その手を離した。

 

「すまんすまん、つい嬉しくなってもうて。こんなに近くにせっちゃんがおるの久しぶりやったから」

 

「お嬢様…」

 

「おっと、あんまりゆっくりばっかしてられんかったわ。それじゃせっちゃん、またな~」

 

ロビーにあった時計を見て木乃香は小走りで玄関に向かう。

 

「お嬢様!」

 

「ん?」

 

刹那に呼び止められ振り向く。刹那は一度深呼吸をすると柔らかい笑みを浮かべた。

 

「いってらっしゃいませ木乃香お嬢様。お気をつけて」

 

「うん!行ってきます!せっちゃん!」

 

花が咲くような笑顔を返し、木乃香は今度こそ玄関に向かった。それを笑顔で見送る刹那。

 

「なんかいい雰囲気だね刹那さん」

 

「もしかしてお二人は、その…お付き合いを?」

 

「はっ!?風香さん史伽さん!?」

 

後ろを振り向くと鳴滝姉妹が興味津々な顔で刹那を見ていた。

 

「み、見ていたんですか!?」

 

「うん、ばっちり」

 

「あの!私は応援しますから!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!お嬢様とはそういう訳では!」

 

「「お嬢様!?」」

 

突然驚いたように反復した鳴滝姉妹に、刹那がビクッと肩を震わせた。

 

「なになに!お嬢様って!」

 

「二人はどういった関係なんですか!?」

 

「あ、その……。失礼します!」

 

「逃げた!?」

 

「待ってください刹那さーん!」

 

急いでその場から逃げ出す刹那を、二人は追いかけた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

驚くほどの速さで自室に戻った刹那は鍵をかけて身を隠した。

 

「はぁ…はぁ…。何とか撒いたか」

 

「朝から随分と騒がしいな刹那。そんなにお嬢様と仲直り出来たのが嬉しいのか」

 

「ま、真名…すまん、起こしてしまったか」

 

Tシャツにショーツだけという何ともラフな格好の真名が気だるげに歩いてくる。

 

「いや、起きてはいたよ。はしゃぐなとは言わんが、やりすぎるなよ。友人として恥をかきたくない」

 

「う、うるさい!」

 

意に介さず真名は冷蔵庫を開けると、ペットボトルの水を飲んだ。

 

「それにしても昨日は凄かったな。お前のあんな顔はもう一生見られないかも知れん」

 

ニヤリと笑って刹那を見ると、恥ずかしさやら何やらで涙目になり、恨めしそうに真名を睨んでいた。そのまま走ってベットに向かうと布団に包まる。宛ら芋虫である。

 

真名はそれを見てため息をつくとベットに向かった。

 

「悪かった、おちょくり過ぎた。だから出て来い。幼児かお前は」

 

「……」

 

どうやらこの芋虫は無視を決め込むつもりの様だ。真名はベットに腰掛け、そこそこの勢いで刹那を背もたれにした。

 

「ぐふっ!何をする!」

 

「おっと失礼、丁度いい高さだったんでな」

 

布団を投げ捨て刹那が出てくるが、真名は相変わらず飄々としていた。

 

「先に言っておくが、今から言う事はおちょくっている訳ではないぞ。刹那、昨日はよく勇気を出した」

 

「な、なんだ急に…」

 

優しい笑顔を向けてきた真名に、刹那は動揺する。

 

「中学の頃からお前らの関係には思う所はあった。敢えて首は突っ込まなかったがな」

 

「…すまない。お前には迷惑をかけた」

 

「まぁ、終わり良ければ総て良しだ。その事は水に流してやろう。これでお前との仕事が前より楽になりそうだしな」

 

「どういう事だ?」

 

「刹那、お前はきっとこれから前より強くなる。心境の変化というのは、なかなか馬鹿に出来ない物だからな」

 

「真名…」

 

「せいぜい強くなって、私に楽をさせてくれよ?」

 

「そう言う事ならお断りだ」

 

二人は互いの顔を見て笑った。

 

「しかし神楽坂達が下りて来た時、何時ものように逃げ出すかと思ったが立ち止まったな。何か心境の変化でもあったのか?」

 

「別に…。ただ、お節介な人の言葉がふと頭を掠めただけだ」

 

「逢襍佗か」

 

「……」

 

「沈黙は肯定を意味するとはよく言ったものだな」

 

そう言った真名は再び笑って刹那を見た。

 

「な、なんだ…」

 

「奴に惚れたか?」

 

「なっ!?ばっ!馬鹿を言うな!」

 

先程とは別の理由で刹那の顔が赤くなる。

 

「その感じだと、脈なしという訳でも無さそうだな」

 

「何を言っている!そもそも私と逢襍佗さんは碌に話した事も無いんだぞ!」

 

「大方一昨日の警備中に何か言われたんだろう?それで心を掴まれた訳か」

 

「だから違うと言ってるだろうが!」

 

真名の肩を掴み、前後に勢い良く揺らす。真名は涼しい顔をして笑っていた。

 

「これもまた友人としての忠告だが、刹那。あの男には気をつけろよ。あれは天然且つ天性の人誑しだ。お前の様な初心な奴は用心しておかないとコロッといかれるぞ?」

 

「うっ…。そ、そう言うお前はどうなんだ!そっちだって浮いた話の一つも聞いた事が無いぞ!お前こそ逢襍佗さんには注意した方がいいんじゃないのか!?」

 

「安心しろ。とっくに私は逢襍佗に注意しているよ」

 

「それは…どういう意味だ?」

 

「さてな。お子様にはまだ早かったかな」

 

その発言が、刹那の怒りの炎に更に油を注いだ。

 

「悪かったな子供っぽくて!私は童顔だから仕方ないな!隣の芝生は青く見えると言うしな‼」

 

「おい刹那、それは何だ?私に対する当てつけか?当てつけだな?そうなんだな?面白い、そっちがその気なら付き合ってやろうじゃないか!」

 

そう争う二人は傍から見れば、双方立派な子供だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

黒いスーツを着てサングラスを掛けた男達が誰かを探すように辺りを見渡している。すると同じ服装の男が走ってきた。

 

「どうだ?」

 

「いや、見つからなかった」

 

「まったく困ったものだ…。別の場所を探そう」

 

「わかった」

 

そう言って別の場所に走っていく男達。それを物陰から覗き見ている着物を着た少女がいた。

 

「ふ~、何とかなったわぁ」

 

普段と違う髪型で、着物姿にリュックを背負うという何ともアンバランスな姿をしているのは木乃香だった。

 

「はぁ…。せっかくのお休みの日やのについとらんわ」

 

最初のうちは大人しく写真を撮っていたが、周りが目を離した隙に荷物を持って抜け出してきてしまった。木乃香は周辺の楽しそうな家族や友人と遊ぶ者、そしてカップルを見て羨ましそうな顔をした。

 

「ヘイ彼女、暇なら俺とお茶しない?」

 

「ほえ?」

 

後ろから声を掛けられ振り返ると、そこには祐がいた。木乃香はぱっと表情を明るくする。

 

「あー!祐君!なんや誰かと思ってびっくりしたわぁ」

 

嬉しそうに祐に小走りで近づくと、祐が木乃香に手を振る。

 

「ごめんごめん、それにしても随分気合入った格好だな。もしかしてデート?」

 

「ちゃうちゃう、お見合い用の写真撮る為や」

 

「あ~、なるほどね」

 

木乃香は祐に全身を見せる為、その場でくるっと回った。

 

「どうや、祐君。ウチの着物姿」

 

「すっごい奇麗。だけど、その服装にリュックはなかなかロックだね」

 

そう言われて自分の背中を見る。

 

「ありゃ、そうやった」

 

「あっ、木乃香。この感じは抜け出してきたな?」

 

祐は少し笑いながら木乃香を見た。木乃香は頬を掻く。

 

「あはは…バレてもうた」

 

「そんな悪い少女は、俺みたいな悪い男に捕まっちゃうぞ?」

 

それを聞いて木乃香が満面の笑みを浮かべた。

 

「あちゃ~。ウチは戻ろうと思っとったんやけど、祐君に連れ去られてもうたら、これはしゃあないなぁ」

 

「嬉しそうに人のせいにするとは、なんて奴だ…」

 

変わらず笑顔の木乃香を見て、祐は優しく笑った。

 

「取り敢えず、出掛けるなら勿体ないけど服着替えないとね。さすがに動きにくいでしょ?」

 

「はいな!ちゃーんと着替えは入っとるよ」

 

体を捻って祐に背中のリュックを見せた。

 

「用意周到な…。流石だ、抜け出してきた経験が違う」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

着替える為、近くの多目的トイレに向かった二人。

 

「祐君、覗いたらあかんよ」

 

「そこまで言われたら仕方ない。お邪魔します」

 

「ややわぁ祐君」

 

「イッス‼」

 

一緒にトイレに入ろうとする祐の脳天に金槌が炸裂した。そそくさとトイレに入る木乃香。

 

「久々に食らったわあれ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お~、今日は天気もええからよう見えるわ」

 

「相変わらずここは良いとこだ」

 

着替えを終えた木乃香と共に、祐は展望台に来た。麻帆良学園都市全体を見渡せる場所で、祐の好きな場所の一つだった。

 

「祐君とここに来るんも、随分久しぶりやね」

 

「そう言われれば確かに。初等部の時はなにかっちゃあここに来たがってたからね俺。あの時は随分遠く感じたけど、俺達も成長したって事か」

 

「ウチは中等部の頃もたまに来とったけど、あん時はまだ共学や無かったし、祐君も用事かなんかで全然会えんかったもんな」

 

「中等部の時は色々忙しかったからねぇ。二年前の二月からは学校にもほとんど行けてなかったし」

 

二人は景色を眺めながら昔話を始めた。暫くして近くのベンチに座る。

 

「あっ、そうや祐君。ちょっと手見せてぇな」

 

「手?どうぞ」

 

右隣に座る木乃香に右手を差し出すと、木乃香が両手で掌を掴み熱心に見始めた。

 

(手相占いか何かかな)

 

木乃香は占い研究部に所属している事から祐はそう思った。すると木乃香の両手が祐の手をぎゅっと握った。木乃香を見ると真剣な顔で祐を見ていた。

 

「祐君、昨日の…あの時の虹の光も、祐君やろ?」

 

そう言われた祐は僅かに目を見開くと、木乃香を見つめ返した。

 

「どうしてわかったの?」

 

「昨日、あの光に触った時な…なんやあったく感じたんよ。それと、どこか懐かしい感じ」

 

「そん時はわからんかったけど、あの後もしかしたらって思って。今祐君に触って、はっきりしたわ。あれは祐君やって」

 

「そっか…。凄いな木乃香は。俺なんかよりよっぽど鋭いよ」

 

「えへへ、それ程でも」

 

祐は一度目を閉じると、握られていた木乃香の手を握り返す。

 

「先にばれちゃったけど、木乃香に話したい事があって今日は付き合ってもらったんだ。今からでも聞いてもらえるか?」

 

「うん、聞かせて。祐君の話したい事」

 

 

 

 

 

「まぁ、何と言うか…現状こんな感じになってます」

 

「この事、他に知ってる子はおるん?」

 

「幼馴染の男連中は前から知ってた。あとは一、二週間前に明日菜に」

 

それを聞いた木乃香が頬を膨らませた。

 

「え…。なんか気に入らなかった?」

 

「ウチ、結構後回しにされとるんやもん」

 

「ちょっと待って、違う違う、そうじゃない。いや違わないか…確かに遅くなっちゃったけど、後回しにしてた訳じゃないんだ。流れってものがあってね?いや駄目だ…何言っても言い訳になるわ。すみませんでした!」

 

勢いよく頭を下げる祐。暫くそれを見ていた木乃香は吹き出した。

 

「すまんすまん祐君、ちょっと意地悪してもうた」

 

「勘弁してつかぁさいよ木乃香さん…」

 

「ふふ、でもそうなると…後伝えるんは梨穂子ちゃんといんちょか」

 

「ラスボスが怖くて仕方ないよ…」

 

「ラスボスっていんちょの事やろ?確かに梨穂子ちゃんより手強そうやねぇ」

 

「それなりに覚悟しておく」

 

心地いい風が通り抜けた。祐は改めて木乃香を見る。

 

「木乃香」

 

「ん?なぁに?」

 

「こんな事聞れても困るかもしれないけど、どう思った?この力」

 

木乃香は少しの間視線を上に向け考えると、視線を祐に戻した。

 

「綺麗やなって思ったかな。それに、ウチは好きやで。祐君のピカピカ」

 

木乃香は再度祐の手を取る。

 

「せやから心配せんで。祐君への気持ちは、何も変わらへんよ」

 

「それと遅れてもうだけど、ありがとう。あん時ウチを、せっちゃんの所に連れてってくれて」

 

そう言われた祐は木乃香の反対方向を向いた。急に顔を逸らせた事に、木乃香は不思議そうにそれ見ていると、少しして祐がこちらに向き直った。

 

「お礼を言うのは俺の方。木乃香、ありがとう。やっぱり俺は幸せ者だ。こんな優しい幼馴染に囲まれてるんだから」

 

「ウチも。優しい幼馴染がそばにおってくれて幸せや」

 

やがて二人はお互い笑った。すると木乃香が両手を合わせる。

 

「そや!せっかくやし今日は久しぶりにウチの料理食べてかへん?ご馳走するえ」

 

「そりゃ是非ともご馳走になりたいけど、何処で?」

 

「う〜ん、ウチの寮か祐君の家やね」

 

「俺の家に連れ込むのは色々とまずい気がするな…。かと言って女子寮に行くのも駄目だろうし」

 

「こっそり来ればバレへんて。祐君なら簡単やろ?」

 

「まぁ、出来はするけども…。いや、せっかくの機会だ。お邪魔致します」

 

木乃香は嬉しそうにベンチから立ち上がった。

 

「決まりやね!ほんなら早速帰って準備せんと」

 

「木乃香の料理食べるのも久しぶりだ」

 

「今日はいつも以上に気合い入れて作るから、楽しみにしててな」

 

「いいね、今から武者震いが止まんないっす」

 

すると何かを思いついたのか、木乃香が笑顔で祐を見る。

 

「どうかした?」

 

「久しぶりついでに、帰りは祐君におんぶしてもらおうかな」

 

「おんぶ?あ〜、そんなの昔やったっけね。いいだろう、来るがいい」

 

祐はしゃがんで体制を作ると、木乃香がゆっくりと背中に乗った。乗ったのを確認すると、難なく立ち上がる。

 

「重いって思っても、ストレートには言わんでな?」

 

「全然、むしろ軽すぎて驚いてるよ。ちゃんと食べてる?」

 

「ちゃーんと食べとるよ。…祐君、ほんま大きくなったなぁ」

 

「身長に関してはね。他は変わってないってよく言われるけど」

 

「ふふ」

 

「それでは発車しまーす」

 

「はーい、出発進行〜!」

 

祐が歩き出すと、木乃香は肩に乗せていた手を首に回した。

 

すっかり赤く染まった空の下、二人は女子寮へと向かう。

 

「なぁ、祐君」

 

「ん〜?」

 

「祐君は、どっか行ったりせんよね?」

 

木乃香は、気付けばそう口にしていた。ほぼ無心の行動だった。

 

「急に遠くに行ってもうて、会えなくなったりせんよね」

 

そう言った後、木乃香がはっとした顔をする。

 

「ご、ごめんな…いきなりこんな事聞いて!ウチ何言うとるんやろ!」

 

早口でそう言う木乃香は、焦っている様に見えた。

 

「大丈夫だよ木乃香」

 

祐の声が聞こえた。視線は前を向いたままだか、その声は確かに木乃香に向けられていた。

 

「木乃香が俺に飽きるまでは、俺は木乃香の近くにいるよ」

 

木乃香は呆けた顔をした。やがて優しく微笑むと、首に回した腕の力をほんの少しだけ強めて、より背中に密着した。

 

「そんなら、ウチらずっと一緒やね」

 

「いいのか〜そんなこと言って?後で飽きても知らないよ?クーリング・オフの期間はそんなに長くありませんので御注意を」

 

「あ〜、信用しとらんね?大丈夫やもん。ウチ飽きっぽく無いし」

 

「こりゃ申し訳ない、許してくれ。ほらこの通り」

 

その場でくるくると回り出すと、木乃香は楽しそうに祐にしがみ付いた。

 

木乃香の言葉に嘘は無い。彼女は一度好きになったものは、余程の事がない限りずっと好きでいるタイプである。

 

二人は終始楽しそうに帰路に着く。

 

お互い素直に伝えた相手への想いは、お互いの心へまっすぐと届いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「明日菜〜、ネギく〜ん。ただいま〜」

 

「お帰りなさい木乃香さん。あれ?祐さんこんばんわ」

 

「あんたら何してんの?」

 

「こんばんわネギ、明日菜。という訳で、今日は御馳走になります」

 

「いや、どういう訳よ」

 

玄関からの声を聞きつけ、出迎えに向かったネギと明日菜。来て早々木乃香をおぶったまま祐が言った事に、明日菜は当然の如くそう聞いた。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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