Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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変わった世界

朝のホームルームがまもなく始まろうとする時間。麻帆良学園高等部一年A組のクラスはいつも通り思い思いに過ごしていた。友人とのおしゃべりに興じるもの、読書を楽しむもの、にぎやかな空気に我関せずを決め込むものなど様々だ。

エスカレーター式である麻帆良学園は、中高と基本的にクラス替えが行われない。ここにいる一年A組も中学生時代を合わせれば、もう四年目の付き合いだ。勝手知ったるクラスメイト達に代わり映えを感じないが、どこかそれが心地よいと感じている。一部を除いてはだが。

 

和やかな空気が流れる教室で、一人真剣な顔で席に着く生徒がいた。このクラスの委員長にして財界を仕切る財閥の令嬢、雪広あやかその人だった。

 

「どうしたの委員長?そんな顔して」

 

あやかから見て左側の隣の席に座る朝倉和美が声をかける。視線は前に固定したまま、あやかは静かにつぶやいた。

 

「遅いのです…」

 

「えっ?」

 

「ネギ先生が!いつもより!到着が遅いのです!」

 

「あ~…」

 

藪蛇だったかと和美は声をかけたことを後悔した。どうせネギ先生の事だろうとは思っていたが、内容のしょうもなさに呆れた顔を隠そうともしていない。もとから少しぬけているところがあるが、我がクラスのおこちゃま先生が絡むと普段以上にポンコツになるのがあやかの難点であった。だか声をかけてしまった手前、ここで会話を断ち切るのもなんだか悪い気がしたので話を続けることにした。

 

「言ってもまだホームルームの時間になったばっかじゃん」

 

「ネギ先生はいつも5分前には教室についているではありませんか!」

 

「今までだって少し遅れたことはあったでしょ?なんで今回に限ってそんな心配してるのよ」

 

「いいんちょは過保護すぎるよね〜」

 

話を聞いていたのかあやかの右隣に座る桜子が話に入ってくる。

 

「何をおっしゃいます!先生と言えどネギ先生はまだ子供、ただでさえ明日菜さんをはじめとした問題児だらけのこのクラスを任されているのです。きっと毎日心労が絶えない事でしょう…あぁ!おいたわしやネギ先生!」

 

「悪かったわね問題児筆頭で…」

 

「まぁまぁ」

 

話に加わる気はないが聞き捨てならない言葉が聞こえて来たので、明日菜は小声で反応する。それを寮の同室にして隣の席の親友、近衛木乃香が宥める。

 

「確かにネギ君はまだまだ子供だけど、なんやかんやで半年ぐらい先生としてやってるでしょ。もう少し離れて見守ってあげてもいいんじゃない?」

 

「そ、それはそうですが…」

 

件のネギとはこのクラスの副担任のことである。本名はネギ・スプリングフィールド、イギリスのウェールズ出身の外国人。教育実習生としてこの学園に赴任し、今年の四月に晴れて正式に麻帆良学園高等部の英語科教員となった。ネギがこの学園にやって来たのは去年の九月。そこからこのクラスの副担任として、担任のタカミチ・T・高畑をはじめとした先生や生徒達に支えられ、紆余曲折ありながらも先生としての仕事をこなして来た。

 

ただし、先ほどから何度も話題に出て来ているように彼は子供である。そう、ネギは何を隠そう先月10歳になったばかりの子供先生なのだ。義務教育や労働基準法に真っ向から喧嘩を売るが如き所業なのだが、特定の人物以外からは驚かれこそすれ、特に問題視されていない。それでいいのか現代日本。

 

「そ〜そ〜、まだ頼りないところはあるけど、そこは年上の女性としてさりげな〜くフォローしてあげないと!」

 

今度はまた別のクラスメイト、鳴滝風香があやかに諭すように言う。言葉通り風香の方がネギより年上で間違いないのだが、彼女の見た目・普段の言動・性格から鑑みるにネギと同年代と言われてもなんら違和感がないため、背伸びをしている少女にしか見えない。

 

「確かにネギ先生は立派に先生としての業務をこなしています。それはこの雪広あやか、誰よりも理解しているつもりです」

 

「ならいいじゃない、委員長は過保護だったから、これからはもう少しネギ君を離れて見守るってことで。はい解決」

 

ぱんっ、と手を叩きこの話題を終わらせようとする和美。しかしそこにあやかが待ったをかけた。

 

「お待ちなさい朝倉さん!確かに少々私はネギ先生に対して気にかけすぎていたのかもしれません。ええ、少々!ですが」

 

少々どころの騒ぎではないと話を聞いていたクラスメイト全員が思ったが、皆口を噤んだ。よくできたクラスメイトである。

 

「なぜ私がそこまでネギ先生を気にかけるのか、それにはきちんとした理由があります」

 

「ショタコンだからでしょ」

 

「朝倉さんお黙りなさい」

 

話の腰を折られ、あやかがジト目で和美を見る。和美はハイハイと両手を上げて降参ポーズをとった。それを見て仕切り直しとばかりにあやかは咳払いをする。

 

「んん!…よろしいですか?そもそも今の世の中いつ何時何が起こるかわからないのです。10年ほど前ならいざ知らず、今の世界はそれほどまでに危ういものです」

 

和美達はあやかの言葉を黙って聞き始めた。気づけばクラスの大半があやかの話に耳を傾けている。

 

「超能力者に魔法使い、幽霊・妖怪・伝説上の生物、怪獣・怪人・宇宙人、挙句の果てには並行世界に多次元宇宙間での侵略戦争!夢物語のようなものばかりですが、全てこの10年に現実で起こったことです」

 

話の途中で和美は一瞬違和感を感じて隣の席に視線を向けるが、そこにはいつも通り誰も座っていない席があるだけだった。再び視線をあやかに戻す。

 

「でもでも、2年ぐらい前に大きな戦いが終わってからは、それまでずっと大きな事件は起こってないよね?」

 

「そもそもその2年前だって日本は比較的平和だったしね」

 

あやかの話に佐々木まき絵が質問を投げかけ、釘宮円が次いで補足を入れる。

 

「甘いですわよ二人とも!今日までが安全だったからと言って、明日も同じように安全とは限らないのです!10年前だって今世界がこんな形になっているなんて誰も想像していなかったはずですわ」

 

確かにと二人は納得した顔をした。

 

「でも頭じゃ理解してるけど、実際私たち直で体験したわけじゃないからやっぱり実感湧かないよね」

 

「私もそうかな〜。いるのは知ってるけど、実際この目で超能力者とか怪獣とか見たわけじゃないし。映像とかでなら見たことはあるけど」

 

「私も映像なら見たことあるよ。怖い怪物とかドラゴンとか」

 

美砂が素直に思ったことを口にすると、早乙女ハルナと鳴滝史伽がそれに続く。

 

「私も実際に見たことはありませんから実感がわかない気持ちもわかります。しかし、今はそういった世界で私たちは生きているのだということをしっかり理解しておく必要があります」

 

(少なくともこの教室に忍者とロボットはいるぞ。なんで誰も言わないんだ?つーか実際どうかはわからんが超能力者みたいな奴らこの街に結構いるだろ)

 

一人心の中でそうつぶやくのは長谷川千雨。彼女は幼少期から麻帆良学園に異常さを感じていたが、ここ以外でも世の中に超常現象が起こり始めた時を境に、深く考えるだけ無駄だと悟ってしまったある意味クラスで一番の達観者である。それでも彼女の性格故、クラスメイトにツッコむことはやめられないが。

 

「今委員長が言った事はごもっともだけど、それとネギ君に何の関係があるの?」

 

和美は一瞬なんの話をしてたのか忘れかけていたが、本題を思い出しあやかに疑問を問いかけた。

 

「つまりですね、今のこの世の中心配しすぎぐらいがちょうど良いと言うことです。少し前にも何やら物騒な事件がそう遠くない所で起こりましたから、ネギ先生に何かあったらと思うと心配で心配で…」

 

「つまり今ネギ君の心配をしてるのも、何か事件に巻き込まれたんじゃないかと心配してるからって事?」

 

「ええ、その通りです」

 

「いやぁ、いくらなんでもそれは…」

 

「委員長流石に心配しすぎやて。ウチ委員長の方が心配や」

 

和美がなんと言えばいいか悩んでいると、あやかの後ろの席に座る和泉亜子が本当に心配そうに声をかける。

 

「大丈夫よ亜子ちゃん。そいつそれっぽいこと言ってネギに近づく理由が欲しいだけだから」

 

「全く…お猿さんだとは思っていましたが、ここまで考え無しだとは。流石に驚きですわ」

 

亜子にそう声をかけた明日菜にあやかが噛み付く。幼馴染の関係である二人だが、幼少期から今まで長らく喧嘩ばかりである。もはやこのクラスの名物の一つとなっている。

 

「なんですって!実際そうでしょ!このショタコン女!」

 

「勘違いも甚だしいですわ!私はあなたと違って常日頃から頭を使って生活しているのです!お分かりになりましてこのオジコン女!」

 

「オジコンって言うんじゃねーー‼︎」

 

言い合いが瞬間湯沸かし器の如くヒートアップし、明日菜があやかに飛び掛かる。ここまでいつもの流れである。

 

「始まったぞ!」

 

「やれやれ〜!」

 

「さぁて今日はどっちが勝つかな?」

 

クラスメイト達が囃し立てる。心配してオロオロしているクラスメイトもいるが、大半は二人のキャットファイトを楽しんでいるようだ。

 

「あちゃ〜、始まってもうた。長いこと続くようなら祐くん呼ぶで〜」

 

「「呼ばなくていい!!」」

 

木乃香が二人に声をかけると、見事なハモリで返してくる。喧嘩するほど仲がいいと言うやつだろうか。

 

[エクスキューズミー‼︎]

 

すると隣のB組から負けず劣らずの騒がしい声が聞こえてくる。そのままB組の主に男子達の大合唱が聞こえて来た。

 

[天海!天海!天海!天海!]

 

「何これ、コール?」

 

「天海って誰だっけ?」

 

「ほらあの子だよ。B組の頭にリボンつけてる子」

 

「ああ、あのアイドルやってるって子だよね?」

 

B組の謎の天海コールに反応するA組の面々。明日菜とあやかも手を止めている。

 

「くそ〜、B組に負けてられないよ!ボク達も何か対抗しないと!」

 

(何と戦ってんだよこいつ…)

 

こちらもB組に謎の対抗意識を持った風香を千雨が冷ややかな目で見た。

 

「大丈夫だって、なんたってうちにはスーパーネットアイドル…『ちう様』がいるんだから!」

 

(明石テメーー‼︎)

 

突如千雨は右隣に座る伏兵、明石裕奈に不意打ちを受ける。実は千雨は日頃の鬱憤を晴らす為、ネットに自分のサイトを作り自らを『ちう』と名乗ってそこにコスプレ写真などをアップしているネット業界ではなかなかの有名人である。しかしとあることをきっかけにその事がクラスメイトにバレたのが運の尽き。その活動自体を揶揄われる事はなかったが、時たまこうやって騒動の中心に引っ張られることが増えた。

 

「そうだった!B組め〜、ボク達のちう様を舐めるなよ〜!」

 

「よーし!こっちもちう様コールだ‼︎」

 

「「「「ちう様っ!ちう様っ!ちう様っ!ちう様っ!」」」」

 

(もういっそ殺してくれ…)

 

千雨は羞恥心から頭を抱え机に伏してしまった。

 

「ちょ、ちょっと皆さん!静かになさい!」

 

「さっきまで取っ組み合いの喧嘩をしていた人がそれを言うのはなんとも滑稽です」

 

「うぐっ!」

 

今まで動向を静観していた綾瀬夕映がぐうの音も出ない正論であやかを殴る。

 

「もう、そんな事やってるとあいつこっちに来るわよ」

 

取っ組み合いで乱れた服を正しながら明日菜がみんなに声をかける。すると勢いよく教室のドアが開かれた。

 

「貴様達の言葉、宣戦布告とみなす」

 

「ほら来た…」

 

そこには額に天海春香と書かれた鉢巻をつけた幼馴染の少年が立っていた。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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