Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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たとえ世界が変わっても
ボランティアに行こう


『そう言えば、その後の進捗はどんな感じなんだ?』

 

「先週木乃香に話して、昨日梨穂子に伝えたってとこ」

 

時刻は8時30分。学園都市内を歩きながら、祐は同性の幼馴染と電話をしていた。

 

『二人はなんて?』

 

「二人とも変わらず接してくれたよ。そんな事で関係は変わらないって言ってくれた」

 

『そっか…。うん、良かったな』

 

「正直ほっとしたよ。ただ…」

 

『ただ?』

 

「その、伝えた時に梨穂子に泣かれたのは…結構堪えた」

 

『あ~…。なるほど』

 

その時の事を思い出し、祐が苦い顔で頭を掻いた。

 

「今まで色々と危ない事やってて、これからもそうなるって話したら、ね…」

 

『心配で思わずって事か…』

 

「もう、本当情けない…梨穂子泣かせるなんて」

 

『でも、ちゃんと話してわかって貰えたんだろ?』

 

「うん、明日菜ともした約束の事伝えたら何とか」

 

立ち止まり、小さな橋から流れている川を見る。

 

『そうなると、残ってるのはあやかだけか…』

 

「来週会う約束しといた。そん時に伝えるつもり」

 

『その、なんだ…。健闘を祈る』

 

「なんか不吉な物言いだな。大丈夫だろ、きっと…。うん、死にはしない…」

 

『そっちの方が不吉だな』

 

周りにはランニングや散歩をする人、ラジオ体操をする人などが見える。祐が来ていたのは例の壊れた自販機がある公園だった。

 

『今日は何か用事があるのか?』

 

「実はこの後川掃除をね」

 

『川掃除?なんでまた』

 

「ちょっと数週間前にやらかしまして、それの罪滅ぼしを命じられました」

 

『なにしたんだよ…』

 

きっと電話の相手は呆れた表情になっている事だろう。その顔が目に浮かんだ。

 

『まぁ、取り合えず川掃除頑張ってな。あっ、あと暇な時あったら教えてくれよ。久し振りにうち来て遊ばないか?』

 

「行くわ、今から」

 

『川掃除はどうした川掃除は…』

 

「今ほど過去の自分を憎んだ事は無い。せっかく美柑ちゃんに会えると思ったのに…」

 

『やっぱ無しにしようかな…』

 

「そりゃ無いよ義兄さん」

 

『ちょっと待った!その兄さんてどういう意味だ⁉︎』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…たく、あいつは」

 

通話を終え、ソファにもたれ掛る。そのままテレビを見ていると後ろから声を掛けられた。

 

「リト、話終わった?朝ごはん出来たよ」

 

「ああ、ありがと美柑」

 

先程まで祐と通話をしていた、もう一人の同性の幼馴染。結城梨斗が妹である結城美柑に呼ばれ、テーブルに着く。二人で手を合わせ、食事の前の挨拶を終えると朝食を食べ始めた。

 

「さっきの電話、祐さん?」

 

「そうだけど、なんでわかったんだ?」

 

「リトがあんな風に話す相手なんてあんまいないから。そうかなって思っただけ」

 

相変わらず鋭い妹だと思った。実際は美柑が鋭いだけでなく、リトがわかりやすいタイプというのもある。因みにリト本人はそんな事は微塵も思っていない。

 

「何の話してたの?」

 

「最近遊んでなかったなぁって思ってさ。暇な時あったら、うち来て遊ぼうぜって言っておいた」

 

「ふ~ん」

 

そう言うと美柑は食事を再開する。リトもそれに倣って食べ始めた。

 

「来る日が決まったら、前もって教えて」

 

「いいけど、何で?」

 

「どうせ夕飯食べてく事になるでしょ?何時もより多めに買い物する必要あるから」

 

「なるほどな。わかった、決まったら教えるよ」

 

「うん」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

祐は集合場所に着くと、係の人らしき人物に声を掛けた。

 

「あの~、すみません。本日川清掃のボランティアで来た者なんですが」

 

「ん?ああ、学園の生徒さんね。時間になったらまた声掛けるから、あそこらへんで待機しておいて」

 

「わかりました」

 

祐は言われた通りに移動する。既にそこにはボランティア参加者が何人か集まっていた。

 

「あれ?祐じゃないか」

 

「へ?お~士郎、何してんだこんな所で」

 

祐に声を掛けたのは同級生の少年であり、中学の頃は同じクラスだった衛宮士郎だった。現在はリトと同じ、隣のクラスの1年C組である。

 

「お前こそ、まさか川掃除に来たのか?」

 

「如何にも。士郎は誰かに押し付けられたの?」

 

「違うって。そういうのがあるって聞いたから参加しに来たんだよ」

 

「マジかよ、自らボランティアしに来たのか…」

 

「お前は何しに来たんだよ…」

 

 

 

 

 

「それではグループごとに別れて作業をお願いしまーす」

 

係の人物がそう言うと、参加者たちが担当場所に移動して行く。祐と士郎は同じグループだった為、荷物を置いて用意された装備に身を包み、一緒に移動を開始した。

 

「来る時は何とも思ってなかったけど、今はワクワクが止まらない…。全ての水草を刈り取ってやる」

 

「相変わらずテンションの上がるポイントが掴めない奴だな…」

 

刈り取る用の鎌を持ち、目を輝かせる祐。そんな姿を見て、この友人は何も変わってない事を士郎は実感した。

 

「行こう士郎、川が泣いている」

 

「はいはい」

 

二人は川に足を入れると、さっそく祐が足を踏み外し、盛大に転倒した。

 

「オアー!」

 

「祐!?大丈夫か!」

 

「わぁ~」

 

「なんか楽しそうだなお前!?」

 

抵抗する素振りすら見せず、川の流れに身を任せて遠ざかっていく祐。士郎が祐を起こそうと手を掴む。祐は士郎の腕を掴み返すと、士郎を引っ張った。明らかに士郎を巻き添えにしようとしている。

 

「うおっ!何で起き上がらないんだよ!」

 

「違う!僕じゃない!妖怪の仕業だ!」

 

「嘘つけ!」

 

何とか抵抗しようと踏ん張る士郎だが、じわじわと祐に引かれていく。

 

「落ちろ!落ちろ士郎!」

 

「やっぱりお前の意思じゃないか!」

 

結局士郎も祐のせいで川にダイブした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「まったく、おかげでびしょ濡れじゃないか」

 

「楽しかったね!」

 

「こいつ…」

 

あの後、二人共ずぶ濡れのまま作業を始めた。祐がたまに刈り取った水草を士郎に投げつける以外は順調に進み、昼前には作業は終了した。今はそれぞれ荷物を持って帰り支度をしているところだった。

 

「けど士郎の事だから、もしもの時用に着替え持ってきてるんでしょ?」

 

「まぁ、持ってきてるけどさ」

 

「流石おかん」

 

「誰がおかんだ」

 

士郎はその面倒見の良さから、中学時代から祐に時折おかんと呼ばれていた。周りも納得していたが、士郎本人としてはいまいち納得していない様子である。因みにだが、当然祐は着替えなど持っていない。

 

「助けてくれたお礼に飲み物でも奢るよ。喉乾いたでしょ」

 

「助けたって…。いや悪いよ、奢って貰うのは」

 

「そんな事気にしてんなよ!俺の酒が飲めねぇってか!?」

 

「酔っ払いかよ…」

 

遠慮する士郎を強引に勢いで押して、例の自販機へと向かう。進んでいくと、自販機の前に制服を着た少女が立っていた。

 

何気なくそれを見る二人。すると少女は何度か軽い跳躍を繰り返すと、その場で回転し、凄まじいハイキックを自販機に放った。祐には一瞬、少女の足に稲妻のような物が見えた。しかしそれよりもスカートの下から見えた短パンの方が気になっていた。そちらに目が行ってしまうのは、悲しき男のサガである。

 

「なにしてるんだあれ?」

 

「……あっ」

 

その瞬間、祐の脳内にかつての記憶が蘇った。

 

『どうやら中の機材の故障により、正しい量の排出ができなくなっているようです。詳しいことは分かりかねますが、外部から強い衝撃と電撃を浴びた形跡が見受けられます』

 

『お嬢様学校で有名な中等部の女の子が、その自販機にハイキックかましてるのを』

 

『ちなみにミニスカートだったんだが、下に短パン履いてた』

 

「奴が犯人か!」

 

「は?」

 

「そこの不良少女止まりなさーい!」

 

「お、おい祐!」

 

自販機から飲み物を取り出している少女に向かって、祐が走り出した。

 

声のした方向を少女が見ると、長身で全身水浸しの男がこちらに全力疾走してくるのが目に映る。軽くホラーである。思わず驚いた表情で祐を見た。

 

「な、何よあんた…」

 

「僕は警察だ!器物破損の罪で現行犯逮捕ですぞ!」

 

「絶対警察じゃないでしょ!」

 

「その通りだ!」

 

「何こいつ!?」

 

少女が祐の勢いに押されていると、士郎が慌てた様子で走ってきた。

 

「ちょっと落ち着けよ祐!いきなりどうしたんだ!?」

 

「見つけたんだよ士郎!この自動販売機をおかしくしてしまった犯人を!」

 

「は、犯人…?」

 

士郎が話が掴めず、困惑の表情を浮かべていると、少女が割って入ってきた。

 

「ちょっと待ちなさいよ!私だってこの自動販売機の被害者なのよ!」

 

「犯人はみんなそう言うんだよね」

 

「祐、ちょっと静かに」

 

士郎は素早く祐の口を手で塞いだ。祐はスッと大人しくなる。

 

「え~っと、よく状況がわからないんだけど…どういう事なんだ?」

 

少女は腕を組むと、不機嫌そうに話した。

 

「少し前にこの自販機で飲み物買おうと思って一万円札入れたら、まんまとこいつに食われたのよ」

 

「そりゃまた…災難だったな」

 

「ほんとよ…ムカついたからひと蹴りしてみたら、こんな感じで一本出てきたってわけ」

 

「マジか?俺この間500円入れたらペプシ大量に出てきたよ」

 

「うそっ!?…それこそ本当?」

 

「論より証拠だな。しばし待たれよ」

 

持ってきていた肩掛けカバンの中から財布を取り出す祐。そのまま自販機の前に移動する。

 

「あ、そうだ。君名前は?私は逢襍佗祐と申します」

 

「何で名前聞くのよ…?」

 

少女は少し祐に警戒の視線を送った。

 

「そうか、今は迂闊に名前を聞くのもコンプライアンスに引っかかるのか…。世知辛いな士郎」

 

「えっ?あ、ああ。そうだな」

 

振られると思っていなかった士郎は生返事をした。

 

「じゃあ君は『で○こちゃん』だ。よろしくで○こちゃん」

 

「誰がでん○ちゃんよ!」

 

「これも駄目なのか!?わがままだな!電気と仲良くね!東○電力!」

 

「あんたほんと何なの!?」

 

「まぁまぁ…」

 

祐のペースに振り回される少女に少し同情しつつ、士郎が宥めた。

 

「まぁ、それは置いといて。そんじゃいくぞ?フェードイーン!」

 

そう言って500円玉を自販機に投入した。しかし、自販機は500円玉を取り入れたものの、まったく反応を示さなかった。

 

静まり返る三人。祐は無言でボタンを押したり、お釣りの返却レバーを下ろしたりしたが、変わらず何も起こらなかった。

 

「「「……」」」

 

「でいっ‼」

 

祐のボディ(?)ブローが自販機にさく裂した。すると自販機の警報機が鳴り響く。

 

「ちょ、ちょっと!なんか鳴ってるんだけど!?」

 

「この程度で音を上げるとは、この軟弱物めが!」

 

「言ってる場合か!」

 

「よし、逃げよう」

 

「あっ、おい!」

 

祐は士郎の手を取り走り出す。ふと横を見ると少女もついて来ていた。

 

「あれで○こちゃん、どうしたの?」

 

「で○こちゃん言うな!私だけ残ってたら私が犯人扱いされるでしょうが!」

 

「今までの事考えると、実質犯人なとこあるよね」

 

「止め刺したのはあんたでしょ!」

 

「士郎はどっちが悪いと思う?」

 

「どっちも」

 

「「…はい」」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そのまま走っていた三人は、少し離れた芝生が広がっている場所に着くと倒れこむように寝転がった。

 

「あ~、久々にこんな走ったかも。なかなかやるなお二人さん」

 

「そりゃどうも…」

 

「まったく…。なんで休日に全力疾走なんてしなきゃいけないのよ」

 

三人とも仰向けになり、視線は空に向けて会話をした。暫くそうしていると少女が立ち上がる。

 

「ねぇ、あんたアマタって言ったっけ。どこの学校?」

 

「麻帆良学園高等部、1年B組。宜しくどうぞ」

 

「ふーん、あんたは?」

 

そう言うと士郎に視線を向ける。士郎は上半身を起き上がらせた。

 

「同じく高等部、1年C組だ。名前は衛宮士郎」

 

「わかった、覚えとく。特にあんたは絶対忘れないわ」

 

少女は未だ仰向けの祐を見て言った。

 

「やべぇ、覚えられた。後で何されるかわからん…」

 

「何もしないわよ!つかあんたから名乗ったんでしょ!」

 

ため息をつくと少女は歩き出す。二人はその背中を見ていると、少女がこちらに僅かに振り返った。

 

「常盤台中学、御坂美琴。それじゃ」

 

改めて歩き出した少女。祐も起き上がり、士郎を見た。

 

「どうした?」

 

「ミサカミコトって何?」

 

「あの子の名前だろ…」

 

「あ〜」

 

「変なところで鈍いよな、祐って」

 

「変なとこは鋭いから、バランス取れてるよきっと」

 

「それ自分で言うか?」

 

再び寝転がり、空を見る祐。士郎は手をついて同じように空を見た。

 

「なぁ、士郎」

 

「なんだ?」

 

「俺は今日、数週間前にやらかした罰としてボランティアに行けと言われて来たんだ」

 

「何したんだよ…」

 

「ちょっとね。それで今日、自主的に参加している士郎を見て思ったんだ」

 

「人に言われて参加した俺は、真のボランティアじゃない」

 

真のボランティアとは何だと思ったが、今は黙って話を聞く事にした。

 

「自ら進んで参加しなければ、真のボランティアとは呼べない。これじゃ映画シン・ボランティアが公開どころか制作すら出来ない」

 

話を聞きながら、祐は何を言っているんだろうと士郎は考えていた。彼は真面目な性格故、適当に聞き流すという事をしなかった。他の友人なら間違いなく適当に聞き流している。

 

「だから俺はまたボランティアに参加するよ。今度は、俺自身の意思で」

 

「そ、そうか…。うん、いいんじゃないか…?」

 

えらく大層な物言いだが、別に大したことは言っていない為、士郎は当たり障りのない事しか言えなかった。

 

「愛してるぞ士郎!」

 

「なんでさ⁉︎」

 

いきなり熱い抱擁をしてきた祐に、思わず士郎はそう叫んだ。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「と言う訳で今度は自分の意思でボランティアに参加します」

 

『いや、どう言う訳じゃ』

 

祐からの電話を取った近右衛門は、開口一番の発言にそう言わざるを得なかった。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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