「ただいま戻りました!」
「おかえりネギ君。祐君ちのお泊りどうやった?」
「なんと言うか、行って良かったです」
11時頃、ネギが祐の家から帰ってきた。その表情は気持ちいつもより明るく見える。
「ええなぁ~。ウチも今度お願いしてみようかな?」
「ちなみに何食べたの?まさかオート何とかみたいなそんなやつ?」
「明日菜さん知ってたんですか…」
「あいつ…」
祐は一人暮らしを始めてからというもの、基本ネギに出したような食事しかしていない。出かけた際などは食べたいものを食べるが、それ以外では食べるものは変わらない。詳しく言うと昼はオートミールが白米に変わる。
明日菜は一度どんなものを食べているのか見せてもらった事があるが、その時の感想は正直言って『なんかの餌』と言うものだった。
「祐君相変わらずあれ食べとるんか。でも栄養的にはなんも問題あらへんもんなぁ」
「むしろ俺は健康的だ!って言ってたっけ」
ネギはその光景が容易く目に浮かんだ。そこも詳しく言うと、「むしろ俺は健康的だ!証拠は…これや!」と言って上着を脱ぎだし明日菜にビンタされた。
「そろそろお昼の時間やし支度するわ。オートミールには負けへんよ~!」
「何の対抗意識よそれ…」
謎のやる気を出しキッチンへと向かう木乃香を見送る二人。ネギは少し小さい声で明日菜に声を掛けた。
「明日菜さん、お昼ご飯を食べ終わったら少し時間を頂けませんか?」
「決まりました。僕の答え」
「……うん、わかった」
ーーーーーーーーーーーー
昼食を食べ終わりそれぞれ別々に外へと出たネギと明日菜は、祐が明日菜に力の事を明かしたあの広場に来ていた。
「それでは、その…僕の答えを伝えさせて頂きます」
向かい合う二人。明日菜は大きく頷いた。
「僕が明日菜さんから仮契約の事を伝えられた時、一番最初に感じたことは嬉しさでした」
「明日菜さんが仮契約してくれるなら、心強いなって思ったからです」
「でも、そうなれば明日菜さんは僕ら魔法使いの問題に巻き込まれる事になります」
明日菜は何も言わないが、視線はネギから離さなかった。
「こんなでも僕は教師です。先生として、生徒さんを危険な目に遭わせるのは間違ってるとも思いました」
「だけど、よくわかるんです。明日菜さんの見ている事しか出来ないのが悔しいってい気持ち」
「ネギ…」
「先に伝えておきます、僕の事。僕が立派な魔法使いを目指すきっかけの事を」
「そうなんだ。それがきっかけで」
「僕も同じです。見ている事しか出来なかった自分を変えたかったんです」
暗い顔をする明日菜。ネギは一度深く呼吸をすると覚悟を決めた。
「明日菜さん、僕からお願いがあります。僕と仮契約して頂けませんか!」
そう言われた明日菜は驚いた顔をした。
「色々考えました。これが間違いだって思う人もいるかもしれませんし、結果そうなる可能性は否定できません…。でも、僕の心はこれが最善だって言ってます!」
「今は!心に従う事にします!」
強く両手を握りしめ、ネギは自分の思いを口にした。
「僕はまだまだ未熟です。沢山の人に助けられてます。だから今はまだ頼りなくも、いつか必ず強くなってみせます!明日菜さんにはそれを手伝って貰いたいんです!」
「いつか強くなって、大切な人を守れるようになって…父さんや…祐さんの隣に立てるように!一緒に戦って下さい!」
深く頭を下げるネギ。それを見ていた明日菜も両手を強く握り、一歩前に出た。
「私からも改めてお願い。ネギや祐が困ってる時に力を貸せて、バカな事しそうになってたら引っ叩ける様に!ネギも私も強くなれる様に!私も協力したい!私も一緒に戦わせて!」
同じように勢いよく頭を下げる明日菜。二人は暫くその格好で固まる。少しして双方姿勢はそのままに、視線を上げチラチラとお互いを確認しだす。
「…明日菜さん、頭あげました?」
「…まだ。あんたが先にあげて、私が後だったし」
「3、2、1であげましょうか」
「わかった」
「いきますよ?3、2、1」
二人はほぼ同時に頭をあげた。何とも言えない空気が流れるが、それを払拭する様にネギが頭を振って表情を引き締めた。
「僕から頼んでおいて今更ですが、本当に良いんですか?きっと、危険な事も沢山起きます」
「ほんとに今更ね…覚悟はしてる、って言っても口では何とでも言えるわよね」
「でも、私も自分を信じて選んだから。後悔しない為に」
「明日菜さん…。はい!わかりました!」
ネギは右手を出す。
「これから、改めてよろしくお願いします明日菜さん!一緒に強くなっていきましょう!」
明日菜がネギの手を力強く握る。
「よろしくね、ネギ。必ず強くなって、あんた達をとっちめてやるんだから」
「明日菜さん、僕らの事敵か何かだと思ってませんか…?」
ネギが少し怯えた様子でそう言うと小さい拍手の音が聞こえてきた。
「いや~感動的っすね兄貴、姐さん。良いもん見せてもらいやした」
「カモ君!?何時からいたの!?」
「最初からいましたぜ兄貴、お二人共真剣だったから声は掛けなかったっすけど」
カモはネギの肩に飛び乗り、笑顔を見せた。
「一時はどうなる事かと思ったが、無事パートナー成立っすね!良かった良かった…」
「たく、調子いいんだから。あんたのせいで私もネギも散々悩んだんだからね」
「そりゃないっすよ姐さん、俺っちは良かれと思って提案しただけじゃないっすか」
「どうだか…」
疑いの目を向ける明日菜。カモはその視線をスルーして本題に入った。
「さて御二方。仮契約をする事が決まったところで、さっさとしちまいましょうや」
「あ、そうだったね。それで、僕達はどうすればいいの?」
「そりゃもう軽くぶちゅっと」
言葉の途中で明日菜がカモを握りしめる。
「ちゃんと呪文の方でやりなさい!」
「じょ、冗談っすよ姐さん…あ、待って待って…!出る!中身が出ちゃう!」
「あ、明日菜さん…その辺で…」
明日菜が手を離すとカモは陸に打ち上げられた魚のようにビクビクしていた。
「す、すげぇパワーだ…。兄貴、良いパートナーを見つけましたね…」
「いいから、ほら!さっさと何すればいいのか教えなさいよ!」
「わかってますって姐さん。こちらをどうぞ」
カモはメモを取り出し、二人に渡す。
「今から俺っちが魔法陣を書くから、その中に入って書いてある事を読んでくれればOKっす」
「へ〜、こんな感じなんだね」
「随分長ったらしい台詞ねこれ」
「ちゃんとしたもんすからね。ささ、始めやしょう」
そう言って魔法陣を書き始めるカモ。ネギは改めて明日菜を見た。
「明日菜さん、僕頑張ります。立派な魔法使いになれるように」
「私も強くなれるように頑張る。いろんな意味でね」
ーーーーーーーーーーーー
「なるほど、二人が仮契約をしたカ。そこは他とは変わらないようネ」
とある薄暗い部屋で一人そうこぼした超は、座っていた椅子の背もたれに寄りかかる。目の前に置かれたモニターには今まさに台詞を読んでいる二人が映っていた。
「しかし参ったネ、全く先が読めないヨ。ここでは私の先に関する知識がまるで役に立たない」
頬杖を突く超は言葉とは裏腹に、その表情は楽しそうに笑みを浮かべていた。
「それもこれも彼のせいネ。ほんと、困ったちゃんヨ」
ここにはいない人物を思い浮かべ、超は笑みを深くした。
ーーーーーーーーーーーー
「はい感じました。今僕は噂をされています」
横になりながら家でぼーっとしていた祐は誰に聞かせるでもなくそう言った。
「最近多いな、俗に言うモテ期ってやつか?参ったな…。トイレ行こ」
ーーーーーーーーーーーー
呪文の詠唱も終わり、正式に仮契約を交わしたネギと明日菜。今日は取り合えず帰ろうとなったが、カモがすっと離れていくのが見えた。怪しく感じた明日菜はちょっと用事があると言ってネギと別れると、一人カモの後をつけた。
「あれ、ここって祐の家じゃない」
カモを少し離れた位置から尾行し、着いたのは祐の自宅だった。それを不審に思いながらバレない様に少しづつ距離を詰める。
トイレから出てきた祐は家のポストを確認する為外へと出る。
「ん?新聞が入ってる…。なんでだ?契約してないぞ」
ポストを開けると契約していないはずの麻帆良新聞が投函されていた。開いて新聞を確認する。すると一つの見出しが目に入った。そこには『柳洞寺の敷地内にて日本刀を発見。安土桃山時代から江戸時代の物か』と書かれていた。柳洞寺と言えば祐の友人である同級生の実家である。
「えっ、マジか。一成に電話してみるかな」
「旦那、その前に少しいいですかい?」
件の友人に連絡を取ろうとすると後ろから声が掛かる。振り向くとそこにはカモがポストの上に座っていた。
「…妖精か」
「おっと、俺っちの様な奴をご覧になった事がおありで?」
「どうだったかな。でも取り敢えず妖精で合ってるみたいだね」
カモは姿勢を正すと頭を下げる。
「初めまして旦那、俺っちはアルベール・カモミール。オコジョ妖精であり、ネギの兄貴の使い魔さ。旦那は逢襍佗祐で間違いないっすよね?」
「初めましてカモミール。その通り、逢襍佗祐です」
同じ様に頭を下げる。感情の読み取れない顔でカモを見た。
「ネギの使い魔ね。…なるほど、色々と事が動いたのは君が理由か」
「大したもんです旦那。そこまでお見通しとは…」
表情には出さないが、カモは内心冷や汗を流していた。
「当てずっぽで言っただけだし大丈夫、取って食ったりしないよ。俺は所詮そこらのガキだからね」
こんなそこらのガキがいるものかと思ったが口には出さなかった。それなりの覚悟をしてきたとは言え、出来る事なら穏便に済ませたい。
「それでカモミール、俺に何か用かな?」
「どうか俺っちの事はカモとお呼び下さい旦那。今日来たのは他でもありやせん、遅ればせながらのご挨拶と幾つかの報告があって参った次第です」
祐は黙ってカモを見る。カモは素早く脈打つ心臓をそのままに、祐に告げた。
「先程、ネギの兄貴と明日菜の姐さんが正式に仮契約を行いました」
「それと、旦那のおっしゃる通り、仮契約を二人に薦めたのはこのカモで御座います」
「そっか。まぁ、そうなるよね。一つわからないのは、何でそれをわざわざ君が報告してくれたかだけど」
「俺っちの存在を隠したところで、遅かれ早かれ旦那にはバレると思ったもんで。それに何より、今のうちに旦那の立ち位置を知っておきたかった」
カモが何時になく真剣な表情をとる。それだけカモは今この瞬間に勝負を掛けていた。ここの対応次第で自分の、延いてはネギの今後の置かれる状況が変わるとカモは踏んでいる。
「俺の立ち位置…俺の立ち位置ときたか」
「旦那、自分で言うのも何だが俺っちは口が回る。色々と信用ならねぇとは思うがこれだけは言える。俺っちはネギの兄貴の味方だ」
「兄貴に汚いと思われる手も薦める事だってあるでしょう、だがそれも全て兄貴の為だ。兄貴が目指す場所へ辿り着くのに必要だと判断すればこそっす」
祐を見ながらカモは話すが、祐の表情は変わらず感情が読み取れない。ネギや明日菜達と話す姿は何度か観察していだが、その時はよく笑う感情豊かな人物だった。それが今ではまるで機械かと思うほど、感情の起伏を感じられなかった。
「そこで旦那に聞かせてほしい。旦那、貴方は何者です?兄貴の味方なんですかい?」
祐は暫くカモを見つめると話し始める。
「味方だよ、俺はネギの。俺が何者かって事に関しては…麻帆良学園の高校生としか言えない。変な力は持ってるけどね」
「兄貴の味方なのは、兄貴が姐さんと仲が良いからで?」
「それはあまり関係無いかな。俺はネギと触れ合って、ちゃんとネギ自身を好きになったから」
「なるほどね…。それを聞けて一安心でさぁ」
深く息を吐くと、今度は深く息を吸い自身に気合を入れる。カモとしてはこれから聞く事の方が不安しかない事だったからだ。
「旦那としては、二人に仮契約を薦めた俺っちは悪く映りますかい?」
「何も思わない事はないけど、怒りの感情とかはないよ。そもそも明日菜が力を手に入れたいと思うのは、俺の力の事を伝えた時点で予想してた。こうなるだろうからずっと明日菜達には隠してた」
カモからすれば、その回答はなかなかの予想外だった。
「隠してた理由はそれだけじゃないし、心境の変化もあって力の事は明かしたけど、明日菜をそう思わせたのは自惚れじゃなければ俺も要因の一つだ。あの子も優しい子だから、きっと自分も何かしたいと思わせてしまった」
「だから、確かに仮契約を薦めたのは君だ。でも元を正せば明日菜がそれを選ぶきっかけを作ったは俺だ。俺が君に文句を言うのは筋が通らない」
「それに、明日菜が力を持とうが持たなかろうが、俺のやる事は変わらない」
「何です?旦那のやる事ってのは」
「俺は俺の大切なものを守る。その為にこの力を使う」
二人はお互いを見つめたまま口を閉ざす。先にカモが重い口を開いた。
「その大切なものってのが姐さんって事で?」
「勿論、ただ明日菜だけじゃない。木乃香もネギも…全員言うと長くなるからそれ以外にも結構沢山。人だけじゃないし、自分のものも含まれてる」
「それは…姐さん達が旦那以外の誰かと結ばれても変わらないもんですかい…?」
再び沈黙が訪れる。祐は相変わらず無表情で、それがカモには恐ろしいものに見えて仕方がなかった。だが、ここまで来たのならば言わねばなるまいと自身に喝を入れた。
「正直に白状すると、俺っちは兄貴の仮契約の相手を増やしていきたいと思ってる。その中には木乃香の姉さんも含まれてるし、それ以外にも大勢候補がいるって状態っす」
「今はまだ勿論違うが、仮契約を行った上で心身共にパートナーになっていく事は十分考えられる。そうなった時、旦那にとってその人達は」
言葉の途中で、祐が初めて表情を浮かべる。カモは思わず言葉を止めてそれを見た。祐はフッと笑ったのだ。
「違うよカモ、そもそも前提が間違ってる。俺はみんなが俺の事を好きだから好きになったんじゃない。俺がみんなの事を好きになったから好きなんだ。ん?日本語おかしいか…?まぁ、いいや。なんとなく言いたい事はわかるでしょ?」
「は、はぁ…」
カモは困惑気味に頷く。困惑の理由はその返答もそうだが、先程までとは打って変わって祐が普段通りの雰囲気に戻ったからだ。
「そりゃ明日菜達に彼氏が出来て、今までみたいに気軽に遊べなくなったり会話が出来なくなったら寂しいよ?でも、それで俺の大切なものから外れるなんて事になる訳がない。俺は自分の物にしたいから明日菜達と仲良くなったんじゃない」
「周りの環境や人間関係がどれだけ変わろうが、俺が好きになった人が…その人がその人のままなら、それは俺の大切なもののままだ」
「その人が変わらない限り、大切だって思いに変わりはないよ」
それを聞いたカモは力無く笑う。
「はは…こりゃ驚いた…。只モンじゃないとは思っていたが、まさかここまで『いっちまってる』とは…」
「失礼な。寂しいとは思うし、相手がよくわかんねぇ変な奴とかだったらそれなりにショックは受けるぞ」
「明日菜の事だってそうだ。きっとこれから明日菜は俺の知らない所で色んな出会いをして、色んな経験をする。それは明日菜がどこか遠くに行ってしまうみたいで寂しいと思う」
「けど、きっと明日菜が俺の力の事を聞いた時も同じ様に思っただろうから、おあいこだな」
「例え明日菜が遠くに行っても、俺なんかの事を忘れたとしても、明日菜が明日菜であるなら俺の大切な人の一人だ」
祐はそう言って笑う。その顔は普段周りによく見せる表情だった。
「そんな訳で、無理矢理じゃなく双方納得してるなら俺は仮契約の邪魔はしないし止めないよ。無理矢理じゃなく双方納得してるなら!ってとこを忘れない様にね?まぁ、ネギなら大丈夫か」
「そこに関しては約束しますぜ。無理強いなんざさせやせんって」
「君をネギの使い魔として信じさせて貰う。裏切らないでくれる事を祈ってるよ」
「ネギの兄貴に誓って約束致します」
祐は納得した様に頷く。
「そうだカモ。一つ聞きたいんだけど」
「何でしょう祐の旦那」
「お前ちょっと前にヘアバンド付けてる美人さんの下着盗もうとしただろ?」
「……。何故それを…」
「やっぱりお前か!この…うんこ野郎が!」
「ゆ、許してくだせぇ旦那!あの時の俺っちは国を渡った一人旅で人肌恋しい状態だったんでさぁ!」
「何が人肌恋しいだ!人肌恋しいとか馬鹿みてぇな事言いやがって!」
「見ただけ!結果見ただけです!何ならここで何色かお伝えします!」
瞬間祐は右手でカモを制した。
「俺を見くびるなカモ。間接パンチラなどとふざけた事をしてくれるなよ?」
「間接パンチラ…」
「すけべってのは自分で行動して掴み取るもんだ。与えられるすけべなんぞに用はない。お呼びじゃねぇぜ」
「だ、旦那…」
(この漢…出来る!)
カモは強い衝撃を受けた。まさかこちら方面でも只者では無いとは…。改めてこの男、もといこの漢の事を再評価せねばなるまい。
「旦那、あんたは大した漢だぜ…。このカモミール、感服致しました」
「ふっ、よせよ」
祐はこれでもかと言うくらいに得意げに笑った。
「いやはや、最悪攻撃されるんじゃ無いかと思ったが…杞憂に終わってくれてほっとしてますぜ」
「カモって心配性なのか?それとも俺ってそんなバイオレンスな奴に見えたのか?」
「いやいやそうじゃないっすけど、旦那無表情になるとおっかねぇですからね」
「マジか、じゃあ基本笑っとくよ」
「それはそれでどうかと思いますぜ…」
カモは少し呆れて言うと、祐はそれに笑った。先程まで話していた相手と同一人物とは思えない柔らかい印象にカモは先程までの事が幻の様に思えた。
「とにかくよかった、旦那が敵じゃなくて。今日は美味い酒が飲めそうっすよ」
「プリン体には気をつけようね」
「へ、へぇ…。それじゃ旦那、俺っちは今日の所はこれにて失礼しますぜ。またお会いしましょう」
「うん、またねカモ。プリン体に負けんなよ」
カモは一礼して離れていった。祐は腕を組んで一息つく。
「これから色々と変わってくんだろうな。…そりゃそうか」
「祐」
名前を呼ばれそちらに振り向こうとするが、後ろから両肩を掴まれ止められる。姿は見なくとも声で明日菜だと言うことはわかった。
止められた理由はわからないが、祐は取り敢えず振り返らずに会話をする事にした。
「どうした?いきなり来るなんて珍しいね」
「カモがどこか行くのが見えたからつけてたの。そしたら、ここに来た」
「そっか、尾行もできる様になったんだな。成長を感じるよ」
しみじみと言う祐。明日菜はそれに反応しなかった。
「あれ、明日菜…もしかして」
「変わらないから…私は」
言葉の途中で明日菜が被せる様に言った。
「あんたと一緒、どこに行く事になっても必ず帰ってくる。辛い時は辛いって言うし、困った時は周りに頼る」
勢いよく明日菜は祐の背中に抱きついた。変わらず祐から明日菜の表情は見れない。
「私も大事なものを守れる様になるから。その中にはあんたも…祐も入ってるから」
祐から離れると、すぐに後ろを向く。
「そう言う事だから…じゃ、またね」
走ってその場から離れる明日菜。今まで黙っていた祐が振り向き、声を出した。
「明日菜!」
明日菜は立ち止まるが、前を向いたままだった。そのままで祐は続ける。
「やっぱりお前は俺の大切な人だ!このままだとお前が嫌だって言ってもお前の事大切な人と思い続けて俺は生きて行くからな!気をつけろよ!」
そこで明日菜は振り向くと、真っ赤に染まった顔でぎゅっと目をつぶり思い切り舌を出す。再び後ろを向いて先程とは比べ物にならない速さで明日菜は走り去って行った。
その背中を祐は見送る。苦笑いを浮かべながら。
「どうすっかな…。このままだと死ぬのが怖くなりそうだ」
そう口に出して、祐は少し喜びを感じてた。
別に死ぬつもりも無ければ、死んでも良いと思っている訳でもない。だが命の取り合いをしている。自分が死ぬ覚悟はしてきているつもりだ。
それでも死を恐れる事が出来るほど、今を生きたいと思えるなら
きっと、それは素晴らしい事だ。
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