「本当に大丈夫なんですか愛穂先生?私心配です」
「心配ないじゃん、それに他の人がいると例のやつが来ない可能性もあるし」
「そちらの方がいいと思うんですが…」
放課後、しずなは今日も一人で帰ると言う愛穂にそう言った。
「あの時、目の前で人が攫われていながら何も出来なかった。このまま終われないじゃんよ」
教師としても
「仮に私に何かあったとしたら警備員が動けるように手配してもらってる。スマホはたぶん電波障害で使えなかったから、私の持ってるスマホに異常があったらその時もね」
変わらず心配そうにこちらを見るしずなに、愛穂は微笑んで肩に手を置く。
「他の人が被害に遭うより、それなりに対策してる私に来てくれた方がよっぽどいいじゃん?事件の解決にも繋がるだろうしさ!」
そう笑う愛穂を見て、しずなは無理やり納得した。彼女の固い意志は、少なくとも短い時間では変える事は出来ない。しずなでなくとも今彼女を止めるのは説得では不可能であった。かと言って彼女に至っては物理的にも難しいのだがそれは余談かもしれない。
少し離れた場所でそれを隠れて見ていた瀬流彦とタカミチ。瀬流彦は難しい顔でタカミチを見た。
「どうします?」
「あの感じだと説得は難しいだろうね…。距離を置いて護衛するしかないかな」
「そうなりますよねぇ…」
困った顔でため息をつく瀬流彦。タカミチも顔にこそ出さないが気持ちは同じだった。
早期解決を狙うならこの方法が一番だとは思う。しかしいくら警備員であり、有事に慣れている愛穂とは言え相手は未知の存在だ。出来れば危険な橋は渡ってほしくはないが、かと言ってそれに代わる策は無いといった状態である。
「厄介だね、これは…」
タカミチは思わずそう漏らした。
ーーーーーーーーーーーー
『私にいい考えがある!』
「なんでだろう…すっごい不安なんだけど…」
「私もですわ明日菜さん…」
同時刻、校舎裏で行方不明事件をどう考えているのかと祐に連絡を入れると自信ありげな返答が返ってきた。現在明日菜のスマホをスピーカー設定にして木乃香とあやかもそれを囲んで話している。
「でも祐君もどんなんが犯人なんか知らんのやろ?どないするん?」
『犯人はわからないけど、信頼出来る情報筋から有力な情報を貰ったんだ。それを使って事に当たるつもりであります!』
三人は顔を見合わせると、明日菜が一番気になる事を聞いた。
「戦う事になるの?」
『それはわからん。こっちとしては穏便に済んでほしいけど、相手の出方次第としか言えない。やってる事から思うに望み薄だろうけどね』
それを聞いた明日菜の顔が若干曇る。それは他の二人も同じだった。それを感じ取ったのかはわからないが祐が明るく声を掛けた。
『大丈夫だよ御三方、約束したでしょ?何があっても必ず帰るって。仮にやばくなったら俺の持つ社会的な尊厳全てを犠牲にしてでも逃げるから』
「なるべくそれは犠牲にしないところで帰って来て頂けると…」
あやかが遠慮気味に言う。これまた他の二人も同じ気持ちだった。
『心配しないでとは言えないか。逆の立場だったらそうは思えないもんね。でも、改めて宣言させてもらおうかな』
一呼吸おいて祐は三人に言った。
『出来ない約束はしない、だからこそした約束は必ず守る。三人とした約束は俺の一番大切な約束だ。何が何でもそれを優先するよ』
三人は再び顔を見合わせると真剣な表情になった。
「忘れてないわよね?破った瞬間ボコボコにするからね」
「そんならウチは祐君と暫くお話しせんよ」
「少々きつめな折檻は当然ですわね」
『絶対破らない…やばい、想像しただけで吐きそう…』
祐の返答に打って変わって笑顔になる三人。次に祐に掛ける声は優しいものだった。
「いってらっしゃい、祐」
「気をつけてな祐君」
「無事のお帰りをお待ちしておりますわ祐さん」
『ありがとう明日菜、木乃香、あやか。よし!いってきます!』
通話を終えるとあやかがため息をついた。
「はぁ、毎回何かある度に心配を掛けられると思うと…本当困った方ですわ」
「そこはもう諦めるしかないわよ、あいつの事だし。少なくとも今は見て見ぬふりは出来ないから」
「仕方あらへんよね。あれや、惚れた弱みって言う」
「「惚れてない」」
言葉を遮りながら凄みを効かせて木乃香を見る二人。対して木乃香は相変わらずニコニコしていた。そんな中、木乃香の視線にある人物が映る。
「あれ、せっちゃん?」
明日菜とあやかが振り返ると、柱からこちらを窺っていた刹那が一礼して遠慮気味に出てくる。三人が不思議そうに刹那を見た。
「桜咲さん?どうかされたんですの?」
「あっ…さっきの話聞いてた…?」
「すみません、盗み聞きするつもりはなかったのですが…」
瞬間明日菜とあやかの顔が青くなる。
「貴女の声が大きいからですわよ明日菜さん!」
「はぁ!?委員長だって声デカかったでしょ!」
言い合いを始めそうな二人を見て慌てて刹那が間に入る。
「だ、大丈夫です!逢襍佗さんの力の事は、私も知っています…」
「え?そうなの?」
「はい。河童事件の際に一緒に警備をしたのですが、その時に」
「そ、そうでしたの…。焦りましたわ」
「せっちゃんも知っとたんか、ほんならウチらの仲間やね!」
刹那の手を取り嬉しそうにする木乃香。それに笑顔を向けると刹那は明日菜達を見た。
「彼は、行方不明事件に関わるのですね」
「ええ、何分じっとしている事が出来ない方ですから…」
「そのようですね」
刹那が考え込んだような顔になる。木乃香はそれを見てパンっと両手を合わせた。
「そや!せっかくやから、せっちゃんも祐君を見張ってもらえんかな!」
「見張る…ですか?」
「せっちゃんは祐君と一緒に警備?の仕事したんやろ?ウチらはそん時たぶん一緒におらんから、一緒になったら祐君が無茶せんように見張っててほしいんよ」
そこで刹那は警備の夜の事を思い返す。恐らく自分を説得する為に剣を自ら胸に突き刺した祐の姿を思い出した刹那は、木乃香達の気持ちを何となく理解した。彼は間違いなく無茶をする人間で、何を仕出かすかわからないタイプでもあるだろう。
「わかりました、私も微力ながら協力させて頂きます」
「よかった~!せっちゃんよろしゅうな!」
「お願いしますわ桜咲さん、祐さんは強敵ですから」
「きょ、強敵ですか…」
「色々巻き込んでごめんね刹那さん」
「いえ…確かに彼は、危なっかしい人ですから」
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夜になり、人がいない道を敢えて歩く愛穂。こちらの方が姿を現しやすいだろうと踏んでの行動だった。
暫く歩いていると空に赤い光が見える。それを確認し鋭い笑みを浮かべた。
「早速お出ましじゃん」
その場から光を目で追っていると、こちらに近づいてくる。間違いなく、昨日見たUFOであった。
「上等…!」
その場に佇み、UFOを睨みつける。するとUFOが光を放ち愛穂を包んだ。身体が浮き上がり、無重力のような状態になる。それに驚きつつも特に抵抗することなく身を任せ、眩い光に目を覆った。
愛穂がゆっくりと瞼を開けると、そこは見るからにハイテクと思われる機械が並んでいる管制室のような場所だった。あのUFOの中と思って間違いないだろう。
「ようこそ、サンプル11号。君を歓迎しよう」
どこか感情が希薄に感じる声に振り向くと、思わず愛穂は目を見開いた。
そこに立っていたのは黒みがかった赤色と白色のツートンカラー・肩と頭部からアンテナのようなものを生やし、白く光る眼を持った凡そ地球上の生物とは思えない人型の生き物が立っていた。
「お前…本物の宇宙人じゃん?」
「君達の視点で言えばその通りだ。君達は確か自らを地球人、ないしは人間と呼んでいるのだったな」
一歩距離を詰める宇宙人。それに合わせて愛穂は一歩下がった。
「それに倣えば私はエクレル星人となる」
愛穂はエクレル星人から視線を離さず、体制を整える。
「さっき言ってたサンプル11号ってのは…」
「言葉通り、君が地球人11番目のサンプルだからだ。私は少し前からこの星を調べる為、様々な生命体を捕獲しその生態を調査していた」
「しかし、それも今日で最後となる。凡そこの星の事は理解した。取り合えず、君はこのまま連行させてもらう」
そう言って愛穂に手を伸ばすエクレル星人。その瞬間エクレル星人の腹部に衝撃が走る。その正体は愛穂が放った鋭い蹴りだった。
「はいわかりましたって、素直に従う訳ないじゃん?」
手足を使わず、エクレル星人は重力に逆らう様に起き上がる。それを見た愛穂はげんなりした。
「起き上がる時ぐらい手足使ったらどうじゃん…」
「その必要がない。それと、無駄な抵抗はしない方がいい。でなければ無事では済まない」
「一方的に誘拐するやつの言う事なんか聞けないな」
「愚かだ」
両手を構えると白く光る眼から光線が発射される。愛穂は瞬時に横に飛ぶことでそれを回避した。
「目から光線とか、如何にも子供が好きそうな宇宙人って感じじゃん」
冷や汗を流しつつ、懐から警棒を取り出して構える。
「君の身体能力が高いのは認める。しかし君の戦闘能力では私には勝てない」
「だからって黙ってやられる理由にはならないじゃんよ」
構える両者。お互いがお互いの出方を窺っていると、UFOを衝撃が襲った。卒然の揺れにバランスを崩すエクレル星人と愛穂。
愛穂は壁に手をつき、何とか立ち上がる。すると同じように体勢を立て直したエクレル星人の背後の壁が吹き飛び、煙が舞い上がる。腕で顔を庇いつつ目を凝らすと人影が見えた。どこか見覚えのあるシルエットを見つめていると、その人影が手を振るう。それと同時に煙が晴れ、人影の正体が現れる。
「入口がわからなかったから、適当に入らせてもらったぞ」
「逢襍佗!?」
「こんばんは黄泉川先生。ご無事ですか?」
「お前、なんで…」
状況が呑み込めず、唖然とする愛穂。エクレル星人が祐の前に出た。
「君も人間の様だが、どうやって入って来た?」
「勿論、飛んできた」
「なるほど、特殊な力を持っている個体か」
祐はエクレル星人を見つめる。愛穂にとってその表情は、新学期が始まったこの三カ月間で一度も見た事のない鋭い表情だった。
「単調直入に聞く。何が目的だ」
「私はエクレル星から偵察の任務を請け負っている。これまでも様々な星々を調査してきた。そして、この地球が回ってきた」
「何の為の調査だ」
言いながら祐は場所を移しエクレル星人と愛穂の間に立つ。すかさず愛穂は祐の隣に並んだ。
「今宇宙はデビルーク星の王位継承問題と言う爆弾を抱えている。戦いの火種はあらゆる惑星に生まれた。この特大の爆弾に火が付く前に、我々は他の惑星を知っておく必要がある」
「王位継承だと?」
「そしてこの惑星、地球は危険だと判断した。この星は高い次元での戦争能力を有している。多様性に含んだ種族、一貫性の無い特殊な力の数々、君のような存在。野放しにしておくにはあまりにも危険だ。早急に対策をとる必要がある」
「俺が知らないだけか?いつの間に地球は宇宙に喧嘩売ったんだ」
「まだ武力抗争は起きていない。だからこそ、早いうちに地球に牽制をかける必要がある。争いの火種は早急に摘むべきだ」
「今争いの火種になってるのはお前だろ」
「これは必要な事だ」
そこで会話が途切れる。お互いを見る双方の感情は側からは読み取れなかった。
「まずは話し合いなりなんなりするべきじゃん?何で端から戦う前提なんだ」
話を聞いていた愛穂がエクレル星人にそう言った。
「信用できない。君らが我々に協力的だと示さない限りは」
「誘拐しておいて随分勝手な言い種じゃん」
少し怒りを込めて愛穂が言うが、エクレル星人は特に反応を見せる事はなかった。
「時間はあまり無い。今から君達人間のサンプルを何体か確保し、私はエクレル星に戻る」
祐が手を上げる。
「身の安全を保障してくれるんなら、サンプルとして俺を連れてってくれてもいいぞ。これでも変わった力には自信がある」
「逢襍佗!何言ってんだ!?」
そう言って肩を掴んで揺らすが、祐は視線をエクレル星人から逸らさなかった。
「その代わり、地球への牽制どうこうは無しにしてもらいたい。俺は自分の力の正体を知りたい。あんたらの持ってる科学力で何かわかるんなら行く価値がある」
エクレル星人が祐を見つめる。
「いいだろう、君に危害を加えない。地球の事も約束する」
祐はエクレル星人を見つめ返すと口を開いた。
「あんたから感じた。嘘の感覚だ」
「やはり君は危険だ」
再び両手を構えて光線を発射する。それよりも一瞬早く祐が手を払うと、その空間に虹色の光が残る。祐を目掛けて発射された光線がその光に触れると、光線が反射してエクレル星人へと直撃する。
光線を受けて吹き飛び、機械に背中から突っ込むエクレル星人。祐は前方に向かって跳ぶと飛び蹴りを胴体に見舞う。そのまま両拳で相手のあらゆる箇所を連続で打ち抜くとエクレル星人は機械にどんどん埋もれていく。
埋もれたエクレル星人を両足で踏みつけるとその勢いで後方に跳躍し、着地すると拳を握りながら両手を内側に振って交差させる。
立ち上がろうとするエクレル星人の身体に光の輪が出現し動きを封じる。それを確認し、祐は振り向いて一連の流れを見て呆気に取られていた愛穂を見た。
「黄泉川先生!スカイダイビングの経験ありますか!」
「は?いや無いけど…」
「じゃあ初挑戦ですね!」
「おい!ちょっ…!」
愛穂を両手で抱えると虹の光を纏い、踏み込んで凄まじい勢いで飛び上がる。目の前の壁を突き破り二人は外、即ち空中へと飛び出した。
どうやら連れ去られた後UFOは空高く飛んでいた様で、今愛穂の視界には街全体の夜景が映った。どこか幻想的な出来事と景色に放心に近い状態になっていると、我に返って慌てて祐を見る。
「何考えてるじゃん逢襍佗!このままじゃ!」
続きを言おうとして愛穂は気付く、自分達が落下していない事に。見れば祐の身体を虹色の光が包んでいる。そもそも先程から現れるこの光はなんなのかと思っていると、祐が声を掛けてきた。
「言ったじゃないですか、飛んで来たって」
「お前…飛べたのか…」
「少しだけなら、なんせそれなりに疲れるんで。んじゃ、下に参りまーす!」
「うおおお⁉︎」
斜め下に向かって飛び始めると、程なくして地面が見えてくる。勢いを弱め、緩やかなスピードになると軽やかに地面へと祐が着地した。どうやらここは河川敷の様だ。
愛穂は優しく下ろされると、ふらつきつつもなんとか地面に立った。
「ご利用ありがとうございました」
「思ったより運転荒いじゃん…」
「当社は基本スピード重視ですから」
そう言って祐は未だ宙に浮いているUFOを見た。
「それでは一旦失礼」
「おい逢襍佗!」
祐は再び飛び立ち、一人UFOへと向かう。愛穂はただその後ろ姿を見つめた。
するとスマホが着信を知らせる。画面を見ると警備員の後輩からだった。
「もしもし!」
『よ、黄泉川先生ですか⁉︎良かった、やっと繋がった!』
「今どこじゃん!」
『へ?…えっと、先ほど黄泉川先生の所在が途絶えた箇所に向かっています』
「今私がいる所に来てくれ!犯人はこっちにいる!」
『えっ⁉︎どう言う状況なんですか⁉︎』
「後で説明する!早く頼むじゃんよ!」
『わ、わかりました!』
通話を切るとUFOに近づく光に目を向ける。
「逢襍佗…」
再度UFOへと乗り込んだ祐は、光の輪による拘束から抜け出そうとするエクレル星人を見つける。手をかざし、輪を消すとエクレル星人に近づく。
「最後通告だ。この星から手を引いて、金輪際地球に関わるな」
エクレル星人がよろめきながら立ち上がる。
「わかった、我々はもうこの星には関わらない」
「……残念だよ」
祐は外に出るとUFOに両手で触れる。
「何をするつもりだ」
「振り落とされたく無いなら、何か掴んでたほうがいいぞ」
するとUFOを押して先ほどの様に地上へと向かう。中にいるエクレル星人は言われた通り柱に掴まって、祐が開けた穴から投げ出されない様必死だった。
地面に近づくと祐は自分を支点にUFOを振り回し、ハンマー投げの様に河川敷の川へと放り投げる。とてつもない勢いで祐から離れたUFOは見事に川へと墜落した。
「あいつ無茶苦茶じゃん…」
祐も地面へと着地すると愛穂が走って隣に来る。二人でUFOを見ていると中からエクレル星人が出てくるが、最早歩くのも限界と言った様子だった。
「言っておくが、これは始まりだ。この星に目を付けていたのは我々だけでは無い。これから地球は多くの異星人に狙われる事になる」
祐と愛穂は黙ってエクレル星人を見つめる。
「君達の存在が、この宇宙に新たな戦火を呼ぶのだ。君の様な危険な存在が」
エクレル星人は祐を見る。
「君の存在こそが、争いを呼ぶ火種だ。君そのものが禍なのだ。君の様な者は、存在するべきでは無い」
その言葉を最後に倒れる。死んではいないが暫くは起き上がれないだろう。祐は何も言わずに倒れたエクレル星人を見続けていると、遠くに視線を移した。
「誰か来ますね、人間みたいですが」
「あ、ああ…たぶん警備員じゃんよ。さっき連絡が取れて私が呼んだんだ」
「そうですか。…黄泉川先生」
「なんだ逢襍佗?」
「一つ、お願いがあるんです」
人差し指を立て、申し訳なさそうに笑いながら祐が言った。
一番好きな章は?
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