Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

40 / 131
いるべき場所

「まったく急すぎるでしょ!木乃香に言い訳するネタ毎回変えるのも手間なんだから!」

 

「す、すみません…。でも今から連れて来いって言われたので…」

 

明日菜とネギがそう会話をしながら駆け足でエヴァの家へと向かう。木乃香にはどうしてもアイスが食べたいのでコンビニに行ってくると言ったが、木乃香はあまり細かい事は気にしないので問題ないだろうと思った。

 

「それにしても本当なの?エヴァちゃんが魔法使いで、その上吸血鬼で祐の師匠だなんて…。信じられないわ」

 

「いや姐さん、おそらく嘘じゃねぇ。まだ詳しくは知らねぇがあの女の目はマジモンだった…」

 

「なによマジモンって…」

 

ネギの肩に乗っていたカモがそう言う。先程エヴァの自宅にいた時は一言も喋らなかったが、エヴァは間違いなくこちらの正体に気が付いていた。時折見せる鋭い視線にカモの毛は何度か逆立だった程である。

 

(なるほど、あの威圧感…旦那の師匠ってのも頷ける。旦那の無表情とはまた別モンだったが)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

エヴァの家に着くとネギがチャイムを鳴らす。すると程なくして扉が開く。

 

「ようこそネギ先生、明日菜さん。お待ちしておりました」

 

「茶々丸さん?なんで?」

 

出迎えた茶々丸に明日菜は目を丸くすると、茶々丸はお辞儀をする。

 

「私はマスター、エヴァンジェリン様の従者ですので。どうぞ、ご案内致します」

 

「明日菜さん、行きましょう」

 

「…うん」

 

先導する茶々丸について行くと、丁度エヴァが二階から降りてくるところだった。

 

「来たか」

 

「エヴァちゃん…」

 

「こうして面と向かって話すのは…恐らく初めてだな、神楽坂明日菜」

 

当然姿は変わらないが、普段と纏っている雰囲気の違いに明日菜は困惑気味だった。ソファに座ると二人に顎で着席を促す。二人は素直にそれに従った。

 

「神楽坂明日菜、お前はぼーやから私の事は聞いたな?」

 

「う、うん」

 

「なら良い」

 

頷いたエヴァはソファに寄り掛かる。対して二人は緊張してか、背筋を伸ばした状態であった。

 

「さて、早速だが呼び出したのは他でも無い。祐に近しいお前達と今後の事について少し話しておきたいと思ってな」

 

「今後の事って?」

 

「お前達も知っての通り、ここの所世の中が騒がしい。あいつが言うには暫くはそれが続くと思う、との事だ」

 

あいつと言うのは祐の事だろうとネギも明日菜もわかった。彼の勘の鋭さは二人も周知だったからである。

 

「その辺の奴が言った事なら然程気にも留めんが、あいつが言うならそうもいかない。あの第六感とも言うべき感覚は無視できん。特に悪い予想程当たるからな」

 

「それは私もそう思ってるけど…それについての話って事?」

 

明日菜が遠慮気味にそう聞くと、エヴァは姿勢を正して明日菜を見た。

 

「神楽坂明日菜。お前達が祐の事を気に掛けているのは知っている」

 

少し顔が赤くなるが、今は否定する場面では無い気がして明日菜は口を開かなかった。

 

「単刀直入に言う。現在の様に平和な生活を続けたいのなら、今からでも遅くは無い。祐から手を引け」

 

そう言われて明日菜は思わず表情が険しくなる。

 

「何よ、それ」

 

「言い方が悪かったな、これ以上深く祐に関わろうとしなければ良い。つまり、少なくともこれまでの関係のままでいておけと言う事だ」

 

「これまでの関係って…どう言う事?」

 

「私が祐の幼馴染でお前だけを呼び出したのは、ぼーやと仮契約をした結果、祐の力を知っている幼馴染連中でお前が一番戦いに近い場所に身を置いているからだ」

 

「そしてお前は、祐の力を持つ者としての部分に触れようとしている。あいつがお前達には見せていなかった部分にな」

 

明日菜は両手を強く握る。ネギとカモは何も言わないが、その目からは心配が読み取れた。

 

「本人からも聞いただろうが、あの力は未知の物だ。この星が生まれてから一つとして前例が無いほどのな。そんな物を持っていれば否が応でも戦いに巻き込まれる。下手をすればあの力そのものが戦いの元になってもおかしくは無い」

 

「それに加え本人のあの性格だ。あいつは力を隠し、厄介事に対して見て見ぬ振りをするという事が出来ない。そうしてしまえばあのバカは罪悪感で自分を押し潰すからだ」

 

そう言うエヴァの姿は、ネギ達には少し怒っている様に見えた。目を閉じて一旦大きく息を吐くと、その表情はどこか愁いを帯びていた。

 

「あんな力など持たなければ、あいつはもっと平和に暮らせたろうにな」

 

明日菜は暗い考えに支配されそうになった頭を振ると、エヴァを見た。

 

「祐に近づき過ぎると、その戦いに巻き込まれるから…だからこれ以上踏み込むなって事…?」

 

「平和に暮らしたいのならな。今時、魔法使いのパートナーになったからと言って生活は劇的には変わらん。多少のトラブルはあるだろうが、それは好きにすれば良いさ。だか、あいつと肩を並べて戦うつもりなら話は別だ」

 

明日菜とネギに向けた視線は、二人を試している様にも、見定めようとしている様に見えた。

 

「私が祐に戦い方を教えたのは、祐がその生き方を続けても生きていける様にだ。私は奴の生き方に思う所はあれど、変えようとは思っていない」

 

「なんで…なんで変えようと思わないのよ…。そこにもう少し折り合いを付けられたらあいつは」

 

「祐が変わっても世界は変わらんからだ。例え祐が逃げても、世界は祐を逃がさない。あいつの力を許すほど、世界は優しく無い」

 

冷たく返され、明日菜は言葉に詰まってしまう。今まで黙っていたネギがそこで口を開く。

 

「祐さんから行かなくても、問題が祐さんに向かってやってくる…。そう言う事ですか?」

 

「相対する数は減るだろうが、微々たる物だ。なら、祐に力と経験を積ませる方が良いと考えた。少なくとも私はな」

 

「今はまだいいが、あいつの関わる問題はそう遠くない未来、世界を巻き込むレベルの物が来るかもしれん。あいつは自分が思う様にやっている手前、お前達には甘い。まぁ、それを差し引いても甘いと思うが…」

 

テーブルに手を置き、前のめりになると視線を鋭くした。

 

「祐の師匠として、保護者として私が聞こう。お前達は世界がどうこうなるといった問題に、踏み込む覚悟はあるのか?」

 

「それでも私は、祐と一緒にいたい」

「それでも僕は、祐さんと一緒にいたいです」

 

示し合わせたかの様な同じタイミングでソファから立ち上がり、同時に発言する。その場にいる全員が固まると、辺りを沈黙が支配した。気まずい空気が流れるのを感じ、エヴァが手を叩いた。

 

「よし、二人とも座れ。じゃあぼーや、まずお前からだ」

 

「は、はい」

 

指で差されてネギが姿勢を整えた。

 

「世界を巻き込んだ問題という物を、僕はこの身で体験した事はありません。だから、覚悟はあるって言ってもそこに説得力は無いと思います」

 

「でも…巻き込まれるのが怖いから祐さんと距離を取るなんて、それはなんて言うか…凄く嫌です」

 

「さっきも言ったが、祐はお前が思っている様な人間ではないぞ」

 

力強い目でネギはエヴァを見た。

 

「それでも、祐さんに頭を撫でてもらった時、抱きしめてもらった時に感じた温かさは絶対に気のせいじゃありませんでした」

 

「僕は祐さんが好きです。だから、僕は強くなって祐さんと同じ場所にいれる様になりたいです」

 

エヴァはネギを難しい顔で見た後、腕を組んで唸り始めた。

 

「あ〜…他人の嗜好にどうこう言うのはナンセンスだとは思うが、ぼーやはそちらの気があるのか…?」

 

「え?……ち、違いますよ!そう言う意味じゃありません!」

 

「そもそも抱きしめられたって何したのよ…?」

 

「別におかしな事じゃないですよ!外国じゃ挨拶みたいな物ですから!」

 

祐の家に泊まった時の事は恥ずかしいので、出来れば鮮明には話したくない。それ故ネギは少し苦しい言い訳をした。

 

「まぁ、取り敢えずそれは置いておく。次、神楽坂明日菜」

 

「えっ…わ、私もおんなじ感じで…」

 

「ふざけた事を抜かすな、この期に及んで何を恥ずかしがっている。その程度の想いなら、やはり祐から手を引いた方が身の為だぞ」

 

エヴァの挑発とも取れる発言にムッとした顔をすると、少し乱暴に頭を掻いてソファから立ち上がる。

 

「私は!祐に死んでもらっちゃ困るの!それに、あいつにはきっと…何か仕出かしそうになったら手を引っ張って止めてくれる人が必要だと思う。じゃないとあいつはきっと遠くに行っちゃうから」

 

次第に勢いが弱くなったのは、自分の口から出た言葉に不安になったからだ。思った事を言ったが、それを想像してしまうと不安が募った。止まる事をせず、どこまでも突き進む祐が容易に想像出来てしまった。

 

「祐は何があっても絶対に帰ってくるって約束した。私は祐を信じてる、信じてるけど…心配にならないわけじゃない」

 

「今まで誰かと戦うなんてした事ないし、今は何も出来ないかもしれないけど…あいつの近くにいる為に力が必要なら、なんとかして強くなる。元々それが仮契約をした理由の一つだし」

 

エヴァに見つめられ、緊張気味に明日菜は見つめ返した。エヴァに対して先程から何故こんなにも緊張しているのかは自分でもわからない。ただどうも彼女に対して引っ掛かりの様なものを覚えていた。

 

「お前達のその発言、若さの勢いに任せた物ではない事を祈っているよ。正直、然程期待はしていないが」

 

そう言って腕を組み、再びソファにもたれ掛かる。

 

「いいだろう。ぼーや、お前を試してやる。明日またここに来い」

 

「えっ…それって…」

 

「稽古をつけてやる。お前が口だけではないという事を私に見せてみろ」

 

瞬間ネギは満面の笑みを浮かべると勢いよく立ち上がり、頭を下げた。

 

「ありがとうございます!よろしくお願いしますエヴァンジェリンさん!」

 

エヴァは先程とはまた違った笑みを浮かべる。それを見た明日菜は不審に思った。

 

「ではまず誠意を見せてもらおうか?」

 

「誠意…ですか?」

 

するとエヴァがネギに向けて右足を上げる。

 

「跪いて私の足を舐めろ、そして私に永遠の服従を誓え」

 

「アホかーー‼︎」

 

「あうっ!何をする⁉︎」

 

見ていた明日菜が思わずエヴァの頭部をはたく。はたかれた箇所を摩りながら明日菜を睨むが、先程までの威圧感はかけらも無かった。

 

「子供に何させようとしてんのよ!この変態!」

 

「誰が変態だ!と言うか貴様!私の魔法障壁を破ったな!」

 

明日菜はわからないといった顔をする。

 

「魔法障壁?何よそれ…て言うか、あんた祐にもこんな事させたんじゃないでしょうね⁉︎」

 

「あいつは言わんでも向こうから喜んでするわ!」

 

「なっ⁉︎あ、あんたらいつも何してんのよ!」

 

「おっと、まだうぶなお前にこう言った話は早かったな。失礼した」

 

明日菜は顔を赤くしてワナワナと震え出すと、エヴァを勢いよく指差した。

 

「なによ!エヴァちゃんだってお子ちゃま体型のくせに!」

 

「体型は関係ないだろ!見た目で判断するとは浅はかな!滲み出る大人の色気に気づけんとはな!」

 

「お、お二人とも落ち着いて…」

 

「待て兄貴、ここは様子を見ようぜ。こりゃ行っても藪蛇だ」

 

2人を止めに入ろうとしたネギをカモが止める。実際行けば被害が増えるので正解である。

 

「そもそもさっきからなんか引っ掛かってたのよ!祐の事一番わかってるみたいな感じ出してきて!」

 

「みたいな感じではなく事実だ!私ほど祐の事を理解している者はおらん!お前こそ、あいつの幼馴染だか何だか知らんが、それだけで私に対抗しようなどとは数百年早いわ!出直してこい小娘!」

 

「何が小娘よ!同い年でしょ!」

 

「私は真祖の吸血鬼だぞ!600年は有に生きている!」

 

「メチャクチャお婆ちゃんじゃない‼︎」

 

「貴様ぁ‼︎」

 

いよいよ取っ組み合いへと発展する二人。困惑しながらネギが見ていると、ふと茶々丸が視界に入る。

 

優しく微笑んでエヴァ達を見るその姿にネギは少し見惚れた。

 

「随分騒ガシイナ、何ハシャイデンダ御主人」

 

階段の手すりから身を乗り出し、顔を覗かせたのはチャチャゼロだった。エヴァと茶々丸以外が驚いた顔をする。

 

「えっ…に、人形?」

 

「凄い、自立型の人形ですか?」

 

「ナンダナンダ、見ネェ顔ダナ」

 

「チャチャゼロ、お前は降りてくるなと言っただろ」

 

「コンダケ騒イドイテソリャ無イゼ御主人。心配デ見ニ来テヤッタッテノニ」

 

「よく言うわ…」

 

エヴァは乱れた服を整えて立ち上がる。明日菜も同様に立ち上がった。

 

「紹介しておこう、チャチャゼロだ。私の古くからの相方だと思ってくれればいい」

 

「ケケケ、ヨロシクナガキ共」

 

「「ど、どうも…」」

 

手をひらひらと振るチャチャゼロ。ネギ達は彼女から僅かに感じる言い様の無い感覚に、若干顔を引きつらせて挨拶を返した。

 

するとチャチャゼロはネギを見る。それに気付いてネギが恐る恐る聞いた。

 

「えっと、チャチャゼロさん?何か…?」

 

「新シイオモチャカ、セイゼイ楽シマセテクレヨ?ソコノ白イノモ、遊ビガイアリソウダ」

 

「「ひぃっ!」」

 

抱きしめ合うネギとカモ。明日菜は細目でエヴァを見た。

 

「この人形大丈夫なんでしょうね…」

 

「流石に加減は弁えている、問題ない。多分な」

 

「ちょっと⁉︎」

 

咳払いをすると、エヴァは締めにかかった。

 

「お前達から聞きたい事は聞けた、もう今日は帰っていい。神楽坂明日菜、明日はお前もぼーやと一緒に来い」

 

「私も?」

 

「ついでだ。魔法のまの字も知らんお前に基礎的な事を教えてやる」

 

「…それって難しい話?」

 

「お前にとっては基本なんでもそうだろう」

 

「悪かったわね!」

 

 

 

 

 

 

茶々丸がネギ達を家の外まで見送りに行き、エヴァは再びソファに腰掛けた。

 

「ドウイウ風ノ吹キ回シダ御主人?アノガキヲ弟子ニ取ルナンザ」

 

聞いてきたチャチャゼロに視線だけ向けた後、ネギ達が去って行った方向に目を向けた。

 

「あのぼーやはナギの息子だ、その才能を見てみるのも悪くない…と言うのが取り敢えずの建前だ」

 

「マァ、ソウダロウナ」

 

「あのぼーやと神楽坂明日菜を始めとした幼馴染連中は、上手く扱えれば祐への鎖になり得る」

 

チャチャゼロはテーブルに飛び乗り、気だるげに座る。

 

「ケケケ、祐ヘノ鎖トキタカ」

 

「もしもの時、あいつを繋ぎ止める鎖は多いに越した事はない。最後の決断であいつに二の足を踏ませる為にもな」

 

「ナルホドナ…ケケケ、イイナ御主人、気ニ入ッタゼ」

 

「それに実際ぼーやと話して、祐が何故ぼーやを気に掛けているのかも大体予想がついた」

 

「アノガキガ真ッ直グダカラダロ?」

 

少しエヴァは意外そうな顔をした。

 

「なんだ、わかったのか」

 

「見ルカラニアイツノ好キソウナタイプジャネェカ」

 

「そうだな、あの小僧は穢れがない。だが穢れた物を知らん訳ではない。それを知って尚、理想を諦めんタイプだ。だからぼーやを助けたいんだろう」

 

ふっと笑うエヴァは寂しげだった。

 

「いつだって人は無い物ねだりをする。お前は…ぼーやが眩しく見えて仕方ないんだな」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ネギ達が出掛けて少し、木乃香は一人テレビを見ている。

 

木乃香は明日菜が最近何か始めた事に気付いていた。何かまではわからないが明日菜の性格上、祐が一人危険な事をしているのを黙って見ている事は出来ないだろうと思っていたし、きっと明日菜がやろうとしている事も安全な事ではないのだろう。

 

そう思うと自分も何かするべきなのではないかと考える。しかし自分が出来る事とは何なのか、少なくとも祐と一緒に戦うなど出来るとは思えない。祐に何をしてあげられるのか、木乃香にはわからなかった。

 

そんな時、ふと自分と同じ様に祐の秘密を知るあやかが思い浮かぶ。彼女はどう考えているのか気になったので、スマホに手を伸ばす。

 

電話帳から彼女を探し、電話を掛ける。少しすると反応があった。

 

『もしもし?』

 

「どうも、近衛木乃香です〜」

 

『知ってますわ…木乃香さんまで祐さんみたいなこと言わないでください…』

 

「お〜、流石いんちょやな。伝わってよかったわぁ」

 

『それ程でも。まったく嬉しくありませんが…』

 

祐を真似てみたが、どうやらしっかりあやかには伝わった様だ。木乃香は満足げに笑った。

 

「なぁいんちょ、今少しええ?」

 

『大丈夫ですが、何だか珍しいですわね』

 

「うん、ウチもそう思っとった」

 

テーブルにうつ伏せになると、一息ついてから話し始める。

 

「なぁいんちょ、ウチらが祐君にしてあげられる事ってなんなんやろ?」

 

『してあげられる事…ですか』

 

「明日菜がな、新しい事を始めたんよ。何をしてるかまではわからんけど…きっと祐君の為に何かしようとしとる」

 

 

 

 

 

 

「なるほど、明日菜さんであればそうするでしょうね。あの人もじっとしているのは苦手ですから」

 

自室の椅子に座り、机の写真を見ながらあやかは言った。よく明日菜は祐の事を落ち着きがないと言っているが、明日菜も負けず劣らずだと幼馴染達は思っている。心配度で言えば祐の勝ちだが。

 

『せやからウチも何か出来ればええんやけど、明日菜みたいに運動神経ええ訳でもあらへんし…』

 

あやかは少し真剣な表情になる。祐のやっている事は危険な事だ。トゥテラリィ然り河童然り宇宙人然り、詳しく聞いてみれば全てにおいて祐は戦ったと言っていた。怪我の一つもなく帰って来ているのでそれは良いが、言ってしまえば死んでもおかしくない事だ。木乃香を始め、それを知っている人達が自分に何か出来る事はないかと思うのは当然の事だった。

 

「お気持ちはわかります。私も、自身に何が出来るのかと最近ふと考える事がありますから」

 

『やっぱ、いんちょもそう思っとったんやね』

 

「でも同時に思うんです。祐さんは、私達に何かして欲しいから秘密を明かした訳ではないんじゃないかと」

 

あやかは見ていた写真立てを手に取って眺める。

 

「きっと自分の秘密を知ってほしかっただけなんでしょう。寧ろ、自分の様に危険な事はしないで貰いたいと思っているかもしれませんわね」

 

『……』

 

「自分が戦っている手前、そうは言わない…言えないと思っているんでしょう。変な所は気にする方ですから」

 

『うん…そうやね』

 

 

 

 

 

 

 

『少なくとも今のところは、私は変わらずいようと思いますわ』

 

「変わらず?」

 

『ええ、今まで通り。変わらずここで、彼の幼馴染でいます』

 

木乃香は自分の机に向かうと、写真立てを手に取る。それはあやかが今手に持っている写真と同じ物だった。

 

『力になりたいのは私も同じです。でも、彼の隣で一緒に戦う事だけが彼の力になる方法では無いと思うんです』

 

『彼がいるべき場所はきっと麻帆良(ここ)です。彼の帰りたいと思う、帰るべき場所で彼の帰りを待つ事も彼の力になると思いませんか?』

 

「ウチらが待っとったら、祐君は帰って来たいって思ってくれるやろか」

 

『きっと、そう思ってくださってますわ。なにせ!この雪広あやかが待っているのですから!』

 

そう言ったあやかに木乃香は笑いつつ、彼女に確かな強さを感じた。

 

『それに祐さんが木乃香さんの手料理が好きなのは、木乃香さんもよくご存じでしょう?この前祐さんと麻帆良湖に行った際も、嬉しそうに話してましたわ。久し振りに食べられたと』

 

木乃香は写真を胸に抱いた。

 

「そっか…なら、また作ってあげんとな」

 

『かと言って、あまり甘やかしすぎてはいけませんわ。木乃香さんと梨穂子さんは祐さんに甘すぎるところがあります!』

 

「え~、いんちょ厳しいなぁ」

 

木乃香が笑って言うと、あやかも優しく笑った。

 

『ところで木乃香さん』

 

「なぁに?」

 

『祐さんはいったい何処で木乃香さんの手料理を食べたのでしょうか』

 

「夜にごめんないんちょ!おやすみ!」

 

『木乃香さん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孤高の少女は少年の中に光を見る

 

そしてその光に未来を見た

 

少女は光に名前を付ける

 

自らの想いを乗せて

 

今や一度失った少年の光は輝きを増しつつある

 

それは多くの者の目に留まり始めていた

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。