古代からの贈り物
晴天に恵まれた天候の中、麻帆良学園に生徒達が登校してくる。いつも通りに教室に着いた千雨は周りに目もくれずにノートパソコンを開いた。
ふと視界に入ってきたネットニュースを見るとただでさえ低いテンションがさらに低くなる。ここの所テロリストだの妖怪だの宇宙人だのと事件の連続だ。
別次元がこの世界に現れてから諦めてはいたが、いよいよもってこの世界はおかしくなってしまったと実感した。元々こう言った超常現象に苦手意識があった千雨にとって、今の世界はまるで笑えない冗談だった。
(この事件からだ、色々とうるさくなったのは)
千雨が見ている記事は、爆破によって被害を受けたアウトレットに再開の目処が立ったとの記事だった。
犯人は人間であり爆弾を使った犯行で、言ってしまえば起きてもおかしくはない事件だ。しかしこの事件にもおかしな点がある。記事も僅かにだがその事に触れていた。
(何だよ虹色の光って…しかもそれが被害を抑えただぁ?超能力だとして、使ってるやつはメルヘン野郎なのか?)
事件が起きた日、千雨もこの事件のニュースを漁った。虹色の光に関してテレビ等には取り上げられていなかったが、ネットにおいてはちらほらと話題に上がっていた。それも犯人達が早々に犯行声明を行った事でそちらに話は流れて行ったが。
「その記事に何か気になる事があるのですか?」
「⁉︎」
突然声を掛けられ驚いて隣の席を見ると、その正体は夕映だった。普段は話しかけてくる事など無い筈だが、彼女も何かこの件に興味があるのだろうかと千雨は思った。
「別に…。ただ、この虹色の光ってのが引っ掛かったと言うか…」
余り人と話す事が得意では無い千雨は、緊張も相まってぶっきらぼうにそう答えた。
「これは大きな声では言えないのですが…私はその現場を目撃してます」
「…マジか?」
小声で話す夕映に釣られる形で小声で聞く。夕映は小さく頷いた。
「もう時効という事で話しますが、何の因果かその日その時にアウトレットに行きましたので」
「そりゃまた…なんて言うか、ついてなかったな」
「まったくです」
夕映はその時の光景を思い出したのか、少し疲れた顔をした。
「一発目の爆発が起きて避難を開始したのですが、それから暫く経って二発目が起きました。そしてその瞬間、我々は見たのです…爆破したビルの中から虹色の光が現れ、爆発を抑え込んだのを」
「お、おう…」
後半に進むにつれ熱が篭っていく夕映に若干気圧される。妖怪の時もそうだったが、どうもこの隣の席のクラスメイトはオカルト系に興味がある様だ。自分とは相容れないなと思いつつ、内容自体は気になった。
「その…どんな感じだったんだ?例の光ってやつは」
「爆発と同時に現れて、大きな壁を作っていた様に見えました。爆発をそこから先に通さない為と思われます。あと…」
「あと?」
「とても綺麗でした」
「…そうか」
幼児並みの感想に少し呆れていると、いつの間にかハルナもパソコンの画面を覗いていた。
「へ~、あのアウトレット再開するんだ。あれからもう一ヶ月ちょっと経ったのかぁ…早いようなそうでもないような」
「しれっと覗くなよ…」
「因みにハルナもあの光を見てるです」
そう言えばのどかも含めたこの三人は特に仲が良かった筈なので、大方三人で買い物に出掛けた際に事件に巻き込まれたのだろう。無事なのは良いとして、随分とついてないなとあくまで千雨は他人事として片付けた。
「あの光って?」
「私達が見た虹の光ですよ」
「……あー!あれか!そう言えばすっかり忘れてたわ!」
なんとも大きな声でリアクションするハルナ。この様子だと本当に忘れていたのだろう。
「能天気なやつ」
「いや~、なんせその後色々と大変だったからさぁ。明日菜なんかもう」
「やめろー!何言う気よ!」
話を聞いていたのか目にも留まらぬ速さで明日菜がハルナの口を塞いだ。
「まさか神楽坂も行ったのか?」
「総勢で…9人ですね」
指で数えながら夕映が答えた。
「大所帯だな…。因みに誰だ?」
夕映が一人一人名前を挙げていくと、最後の一人で意外な人物が出てきた。
「逢襍佗?なんであいつが?」
「男手が欲しいという事だったので。のどかと普通に話せる男性として白羽の矢が立ったです」
「は~ん」
名前を聞いた事で、最近ちうのホームページに祐のコメントが付いてない事を思い出す。
(前までは必ずってほどコメントを投稿してたのに…)
そこまで考えて頭を振る。だから何だという事でもない、それなりにいるファンの一人がコメントをしなくなっただけだ。以前B組のアイドルにお熱だと言っていたし、どうせそっちに行ったのだろう。そう思っていると祐のハンドルネームが頭を過る。
(アホらし…んな事あるかよ)
思いついた事に自らツッコミを入れた。漫画やアニメの見過ぎか、このクラスの連中の影響を受けたか。どちらにせよもうこの事を考えるのはよそうと思っていると周りが騒がしくなっていた。
「明日菜達あの現場にいたの!?」
「インタビュー!是非インタビューを!」
「この不良娘共め!服を脱ぎなさい!」
「意味わかんないだけど!?」
「そんなに見たいんなら見せてやるわよ!」
「なんであんたはすぐ脱ぐのよ!」
千雨が思考に耽っている間にクラス中に話が漏れたようで、現場にいた8人が囲まれている。ハルナはノリノリで服を脱ぎ始めた。
「全員脱がせ~!」
「身ぐるみ剥いでやれ!」
「きゃー!」
「せっちゃん助けて~!」
「お嬢様!」
衣類に手を伸ばされた木乃香が刹那に助けを求めると急いで刹那がやってくる。
「助けようとしたな!貴様も脱ぐがいい!」
「なんでですか!?」
裕奈に道を塞がれ、哀れ刹那も飲み込まれてしまう。何かにつけては脱がしにかかるクラスメイトにため息をついて、千雨は再びノートパソコンに視線を戻した。
その目に映った新しい記事には『工事現場で謎のカプセルが発掘。超古代のオーパーツか』と書かれていた。
またこの手の類かと千雨はため息をつくと、開いていたブラウザをそっと閉じた。
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都内某所。日本でも有数の科学者が集まる研究施設にて、偶然発掘された人一人程の巨大なカプセルが台の上に置かれている。周りにいるのは白衣を着た科学者達だった。
「素晴らしいですね、ほぼ劣化が見られない。数万年前の物とは思えません」
「ええ、これ程までの古代遺物…そうそうお目に掛かれるものじゃないわ」
皆一様に掘り起こされたカプセルに目を輝かせる。まだ詳しい事はわかっていないが、このカプセルは数万年前の物であり、歴史的価値が非常に高い物であるだろう事は判明していた。
「表面に刻まれているのは古代文字でしょうか?」
「その可能性はあります。早速分析を始めてもらっていますよ」
そんな中、周りと同じ様に白衣を着た女性がカプセルを見つめる。ただ周りと違うのは、その瞳はそれ程興味を示していなかった事だ。
「もう、芳川さん。折角の古代遺物なんですよ?」
「そうは言ってもねぇ、私考古学系は専門外だし」
呼ばれた女性『芳川桔梗』は正直に答えた。カプセルが運び込まれた研究施設で仕事中だった桔梗は、同僚に声を掛けられふらっとこの場に立ち寄ったのだ。
「遺伝子学が専門とは言え、科学者ならこう…なんて言うか…興奮しませんか⁉︎」
「まぁ、なんか凄そうよね」
「何ですかその感想…」
若い後輩が興奮気味にそう聞いても、やはり彼女にはいまいちだった様だ。
「そもそも何なのこれ?タイムカプセル?」
「それをこれから調べるんですよ。ただ仮にタイムカプセルであるなら、数万年前からの贈り物という事になりますね」
「あら、そう聞くと少し素敵かもね」
角張った長方形、そして謎の金属で出来た銀色の巨大なカプセル。数万年の時を経て掘り起こされたそれの正体は、今はまだ誰も知らない。
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「嫌な予感しかしねぇ~」
「何でだよ?ただのカプセルだろ」
「まぁ、最近色々起きてるし…そう思ってもしょうがないかもね」
B組の教室にて祐達が発掘されたカプセルについて話していた。正吉がそれを話題に出すと、祐は頬杖をつきながらめんどくさそうに言う。
「もう何が起こってもまず厄介事だと思ってしまいます。これってトリビアになりませんか?」
「知らねぇよ」
「でもすっごく昔の物なんでしょ?ロマンがあるよねぇ」
「確かに!これはロマンの塊だね!」
「なんて素早い掌返し…」
「お前の手はドリルか」
祐は基本春香に関してはイエスマンであった。というよりB組男子は基本そうである。
「それにしたってここの所忙しすぎんよ。やりたい事も満足に出来ないから参っちゃうぜほんと」
「忙しいって、あんた何かやってるの?」
「いや別に」
「なにこいつ…」
祐のいい加減な発言に薫は白い目を向ける。そんな話を聞き流しつつ、凛は昨日の夜の事を思い出していた。
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「はぐれ魔術師ですって?」
昨晩、自宅の固定電話の受話器を持ちながら通話相手に聞き返した。
『十数年前、目的の為であれば神秘の漏洩すら厭わぬ過激な集団としてその身を追われていた連中だ。ほぼ全員拘束された後処分されたが、まだ一人だけ捕まっていない』
電話の相手は男性で声はかなり低く、またその声から感情の起伏はあまり感じ取れない。
「その最後の一人が日本に来たっての?」
『聖堂教会からその可能性が高いとの連絡だった。お前の耳にも一応入れておこうと思ってな』
凛は壁に寄り掛かり、真剣な表情を浮かべた。
「わざわざ日本に来るぐらいだから、何か理由があると思うべきか…」
『奴らの目的から想像するに、近頃頻繁に超常的な事件が起きているのをどこかで聞きつけ、この地に来た可能性が高いだろう』
「そのはぐれ魔術師の目的って?」
『簡単に言えば、地球のバランスを保つ事だ』
「バランスを保つ?」
『表向きには地球の生物界の頂点に立っているのは人間だ。生物として一個体の力はそれほどでなくとも、実質地球を支配している事からもそう考えられる。私自身、この考えには思う所はあるが今は置いておこう』
凛としても引っ掛かる事はあるが、今は続きを聞くべきと考え口は開かなかった。
『自然界にはその生物に対して必ず天敵と言うものが存在する。それにより自然界、延いては地球はバランスを保っていると言っていい』
『奴らは人間に表立った天敵がいない事を、地球のバランスを崩す要因だと考えていた』
「って事は…そいつらがやろうとした事って」
『人類の天敵を裏の世界だけでなく、表の世界にも呼び出す事。そして地球に人類の天敵を溢れさせ、バランスを保とうとしていたそうだ』
凛は思わずため息を吐いて頭を抱えた。
「余計な事を…」
『最後の一人が明確な目的があった上で日本に来たのか、それとも可能性を求めて日本に来たのかは定かではない。だが奴にとって今の世界、そして今の日本は願ってもない場所なのだろう』
この10年で様変わりした世界。この不安定な世界を望み、更に揺らそうと考える人間もいる。一筋縄ではいかない事など百も承知だったが、それでも凛は苦い顔をせずにはいられなかった。
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「祐」
「へい?」
帰宅中、後ろからの声に振り返ると立っていたのは明日菜だった。少し走って明日菜は祐の隣に来る。
「帰りに会うのは…何か久々だな」
「確かに、言われてみればそうね」
「木乃香は?」
「学園長の所行ってる。なんか話があるんだって」
「またお見合いの話かな」
「う~ん、どうだろ」
並んで歩く二人。明日菜は祐が先程一人で歩いている時より歩く速度が遅くなっているように感じた。こちらに合わせてくれているのだろうか、普段は無神経なくせに相変わらず変な所で気を利かせるなと思った。
「最近どうよ?あのハリセンは」
「ハリセンって言うな。ハリセンだけど…」
「いいじゃんあれ、俺は好きだな。明日菜に似合ってるよ」
「なによ似合ってるって」
「明日菜はボケじゃなくてツッコミでしょ?テストの回答はボケ連発だけど」
「余計なお世話よ!」
明日菜の反応に祐は笑っている。こうやって日常を過ごしていると忘れそうになるが、祐は正体不明な力を持っていて、その力を使って戦ってきた。きっとまだまだ知らない事があるのだろうとエヴァとの会話を通じて感じていた。
「ネギは師匠の弟子になったらしいけど、明日菜はどうするの?」
「私は…どうなんだろ、剣術に関しては刹那さんに教えてもらってるけど」
「桜咲さんにか。いいね、仲良さそうで何より」
「まあね、いつも早朝に付き合ってもらってるんだ」
満足そうに祐が頷く。
「師匠はツンツンしてるとこあるけど、あれでも優しい人だから。まぁ、気長に付き合ってみてよ」
「優しいねぇ…」
明日菜が疑うような顔をする。それを見た祐は苦笑いをした。
「ネギと一緒に師匠の家に行った時になんかあったね、それは」
「べつにぃ」
わかりやす過ぎる態度の明日菜。エヴァと明日菜の二人からその日の事は聞いていたが、双方相手の事に関しては特に何も言わなかった。ネギからは些細な喧嘩らしきものをしていたと聞いたが、意外と相性が悪いのだろうか。祐的にはそうは思えなかったが。
「まっ、別に急ぐ事でもないしゆっくりやってけばいいさ。俺も何かあれば協力するよ。出来る事があればね」
「期待しないで待っとく」
「ひでぇ、そりゃないよゴリ…明日菜」
「ちょっと!今のゴリって何よ!なんて言おうとした!」
「どうした明日菜!幻聴でも聞こえたのか!?」
「確かに言った!ゴリラって言うつもりだったんでしょ!」
「そんなわけ無いだろゴリラ!」
「おい!」
祐は走って逃げようとするが、数秒も持たずに捕まった。
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数日後の研究所。カプセルの前で研究員達が話し込んでいた。
「しかし大丈夫なんですか?まだこれが何かもわかっていないのに…」
「上からの指示なんだからしょうがない。色んな所から圧が掛かってるみたいだしな」
納得がいかない様に会話をする研究員達。と言うのも二日後からこのカプセルを近くの博物館で展示する事になったからだ。研究は継続しつつ、展示も行うとの事だった。
「研究自体は続けられるし、有害な物質も検知されなかった。厳重な保管と十分な距離を取って展示されるそうだ」
「はぁ…」
「聞きました芳川さん?例のカプセル、もう博物館に展示されるらしいですよ」
「ええ、聞いたわ」
隣のデスクからの声に、パソコンを見ながら桔梗が答える。
「どう思います?」
「どうって、いいんじゃないかしら」
「え~、まだ早すぎると思いませんか?」
同僚の不満を隠そうとしない態度に少し笑うと、コーヒーカップに手を伸ばす。
「ここに置いてたからって安全という訳でもないでしょ?」
「そうですけど…ほら!目につく場所に置いておくと誰かが狙ってきたり」
「もうみんな知ってるでしょ。それに今時無理やり手に入れようとする輩は、どこに置いてたって力尽くで奪っていくわよ」
「そんな元も子もない…」
「ふふ、でも実際そうでしょ?」
同僚は何か言いたかったが、返す言葉が見つからずため息をつく事しか出来なかった。
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夜の繁華街の路地裏で汚れたローブをかぶり、行きかう人々を見つめる男がいた。どこからどう見ても場違いな服装の男は、暫く周りを眺めると裏路地の暗闇に消えていく。
「あれほどの事が起きても、自身が被害を受けなければやはりこんなものか…」
落胆した様に呟きながら歩く。今をのうのうと生きる人間に期待など端からしていなかったが、それでもこの現状を見て何も思わないという事は無かった。
世界をより良い方向に進ませる為人生を費やした魔術の世界も、誰も彼もが『根源』しか見ておらず、今の世界の事など気にしていなかった。遥か先の事ばかりに目を向け、足元すら見ていない者達に嫌気がさして飛び出したのはもう何年前だったか。
それから多くのものを失いながら進んできた。そして、世界に変化が起きた。
「これは好機だ、間違いなく。俺達の目的は夢物語なんかじゃない。あと少しで手が届く」
笑みを浮かべながら完全にその姿を闇へと溶かす。男が望む物、それは紛れもなく調和の取れた世界だった。そしてそこに、平穏は必要ない。
一番好きな章は?
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序章・始まりの光
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幽霊と妖怪と幼馴染と
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たとえ世界が変わっても
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消された一日
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悪魔よふたたび
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