Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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未知は不死をも殺す

倒れていたグルードンは立ち上がり、威嚇も籠めた咆哮を上げた。夜の街にその雄叫びが響き渡る。祐は立ち止まりそれを見上げていた。

 

グルードンは再び光弾を作り、祐に向けて発射する。迫りくる赤く巨大な光弾を祐は右足で蹴り返した。

 

発射の時以上の速さで返された光弾がグルードンの腹部に当たる。思わず前のめりになり頭を下げると、高く飛んだ祐が右手に光を纏い外鼻孔と思われる部分を殴りつけた。

 

その威力に後ろに倒れるグルードン。40メートル並の怪獣が一人の人間に殴り倒されるという、信じ難い光景がそこには広がっていた。

 

 

 

 

 

 

「なんかあの怪獣倒れたんだけど!?」

 

「ていうか口から出たの跳ね返ってなかった!?」

 

あれから更に離れた場所に来たハルナと和美はその光景を見ていた。

 

「どうなってんの…」

 

「くそ~、ここからじゃ離れすぎててあの怪獣しか見えないよ」

 

今いる高台の様な場所からでは何が起こっているのか詳しく確認する事は出来ず、和美は歯痒い思いだった。

 

「こんな事ならもっとズームできるやつ持って来るんだったわ」

 

「まさかあそこに行くとか言わないわよね…?」

 

「何事も命あっての物種でしょ?情報を持ち帰るまでが記者の仕事よ、引き際は見極めてるつもり」

 

「良かった、そこの常識はあったか」

 

「おう、どういう意味だ」

 

そこで大きな音が響く。そちらを見るとグルードンが再び雄叫びを上げていた。

 

「あれってもしかして怒ってる?」

 

「怒ってるんじゃない?たぶんね…」

 

 

 

 

 

 

雄叫びと共に起き上がり、祐を踏みつけようと右足を上げる。祐はそれを理解するがその場から動こうとはしなかった。驚異的な風圧を起こしながら振り下ろされる右足。叩きつけられたアスファルトは容易に形を変え、見るも無残な姿へと変貌した。

 

足を動かし、敵の姿を確認する。しかしその場には亡骸どころか、血痕さえ残されていなかった。

 

「スピードは見た目通りってところだな」

 

真後ろから音がする。グルードンは振り向くと、そこには踏み潰すべき敵の姿があった。祐は腕を組み、グルードンを見据えている。

 

「無駄だと思うが一応確認しておく、俺の言葉はわかるか?」

 

それに対しグルードンは怒りの咆哮で答えた。

 

「駄目だなこりゃ」

 

尻尾を振り回し、祐を振り払おうとする。尻尾もその体格に見合った巨大なものだ。到底人間の跳躍力では避ける事は適わない筈だが、祐はそれを跳躍する事で避けた。その跳躍の高さが10メートル以上ともなれば例に漏れるだろう。

 

振り回した勢いを使い振り返ったグルードンは口から光弾を発射する。先程より小さく威力は低いが、その代わり連射が利く様で、祐に向かって赤い光弾を放ち続ける。

 

全身に光を纏って走り出す祐。その光が残像の様に残りながら縦横無尽に駆け回り、光弾を避けてグルードンに向かう。

 

やがて足元まで辿り着くとスライディングで横薙ぎされた尻尾を避け、勢いそのままに飛び上がる。空中で体を捻り、グルードンの方を向くと両腕を胸の前で交差した。両腕に一層強い光が現れそれを水平に開くと、光の刃が放たれる。

 

放たれた光の刃は尻尾に触れると、そこに物体など無かったかのように通過し、グルードンの尻尾を切り落とした。祐は地面に着地するとこちらに振り向いたグルードンに間髪入れずに両手で作り出した光弾を同時に放つ。

 

祐の手から放たれた光弾は空中で合わさると威力と大きさを増して、グルードンの顔に着弾した。受けた衝撃で顎が上がるが、首を振って体制を立て直す。目を開くと祐が頭上に現れていた。

 

組んだ両手を振りかぶり、グルードンの脳天に思い切り振り落とす。鈍い音を響かせて頭から地面に叩きつけられると、辺りを砕かれたアスファルトや崩れた建物の粉塵が包む。周囲は最早瓦礫の山と化していた。

 

 

 

 

 

 

[番組の途中ですがここで速報です。只今、先日発見された古代のカプセルが展示されている事で有名な博物館から巨大な怪獣と思われる生物が出現し、付近で暴れているとの事です。詳しい情報はまだわかっていませんが、近隣の住民の方々は直ちに避難を]

 

「「……」」

 

夕食を食べながらドラマを見ていた夕映とのどかは、突如切り替わった画面からの情報に持っていた箸を落とした。

 

「どっ、どうしよう夕映!これってハルナ達が行ってる博物館だよ⁉︎」

 

「おおお落ち着いてくださいのどか!まぐ…ではなくまず電話をかけてみるです!」

 

 

 

「やっぱり碌なもんじゃなかったじゃないの〜!」

 

同じ様にニュースを見ていた明日菜が頭を抱えながら悶えている。

 

「明日菜さん落ち着いてください!」

 

「祐君とハルナ大丈夫やろか…」

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

「あやか!」

「いいんちょ!」

 

「な、なんです二人して⁉︎」

 

用事を終え、寮へと帰宅したあやかの前に千鶴と夏美が飛び出してくる。

 

「取り敢えずこっち来て!」

 

「ちょ、ちょっと夏美さん⁉︎」

 

夏美が手を引き、リビングまで連れてくる。そこにはテレビから怪獣の出現を伝えるニュースが流れていた。遅れてついてきた千鶴があやかの顔を覗くと、あやかは画面を見つめて動かない。暫く見ていると反応のない事に気づいた夏美もあやかを見る。

 

「いいんちょ?…気絶してる〜‼︎」

 

「あやか⁉︎しっかり!」

 

 

 

 

 

 

「また倒れたんだけど…」

 

「もう訳がわからん…」

 

ハルナと和美からは祐の姿は見えず、グルードンが光弾を出したり暴れたりしている傍ら、吹っ飛んだり倒れたりしている様にしか見えなかった。

 

そこでハルナは自分のスマホが鳴っている事に気がつく。画面を見ると夕映からで、急いで通話のボタンを押す。

 

「もしもし?」

 

『ハルナですか⁉︎よかった!繋がりました!』

 

この電話がくるという事はあの怪獣の存在が世の中にも伝わり出したと言う事だろうとハルナは察した。

 

「あ〜ごめんね夕映、連絡するの忘れてたよ」

 

『それよりも無事ですか⁉︎怪我などは⁉︎』

 

「心配しないで、私は大丈夫。別れた後だけど、祐君も無事だって連絡がきたよ」

 

『よ、よかったです』

 

声から夕映が脱力したのが想像できた。通話側から物音がするともう一人の声が聞こえてきた。スピーカーに設定を替えたのだろう。

 

『ハルナ!大丈夫なんだよね⁉︎』

 

普段ののどかからは想像出来ないぐらいの大きな声だった。こうまで心配してもらえるとは、不謹慎かもしれないがハルナは嬉しかった。

 

「大丈夫よのどか、怪我一つないから」

 

『そっちは今どうなってるですか?』

 

「えっと、こっちは…」

 

ハルナは和美と目を合わせると、グルードンの方向を見た。

 

「遠くで怪獣がどったんばったんしてる…いや、されてる?ごめんわかんない」

 

『ハルナ、本当に大丈夫ですか…?』

 

 

 

 

 

 

付近で仕事中だったテレビ局のスタッフ達は慌てて眺めの良い場所へと移動していた。

 

「おいおいおい!まさかこんな事になるとはな!」

 

「ヤバイっすよ先輩!マジの怪獣っすよ!」

 

「ああ!こりゃとんでもない映像が撮れるぞ!中野ちゃん!もう少しだけ走れるかい!」

 

「はい!これでも学生時代は運動部でしたから!」

 

以前麻帆良学園の通学ラッシュを取材していたアナウンサーとスタッフが長い階段を駆け上る。息を切らしながらも登り切ると、その光景に思わず目を見開いた。

 

「すげぇ…なんてデカさだ…」

 

「あれが怪獣なんですね…」

 

「ここからじゃ怪獣ぐらいしか映らないが十分だ!準備するぞ!」

 

「「はい!」」

 

スタッフ達が機材を構え、レポーターが乱れた服や髪を整える。

 

「中継繋げそうです!」

 

「おし!中野ちゃん、いいか⁉︎」

 

「大丈夫です!」

 

 

 

 

 

 

ふらつく身体をなんとか立て直し、グルードンは起き上がる。グルードンの脅威となる部分はその巨体、口から吐く破壊光弾、そして何よりその回復力にあった。

 

古代人達が殺しても蘇ると記していた事もこれに当たる。その恐ろしい程の回復力は致命的な攻撃を受けても瞬時に回復する。身体を切り取られようとも瞬時に生えてくる程の治癒の速さがグルードンを不死身の悪魔たらしめていた。

 

しかしどういう訳か、切られた尻尾を始め先程から受けたダメージは一向に回復する気配を見せない。それは悪魔と称された怪獣にとって未知の経験であった。

 

「長い眠りから覚めた所悪いが、死んでもらう」

 

グルードンに祐の言葉は理解出来ない。しかし本能に従い己の持つ力を振り絞って、破壊光弾を作り出す。今までよりも巨大な赤い光がその威力を物語っていた。

 

収縮するエネルギーが球体からレーザーの様に溢れ出し、辺りを破壊し始めると祐は構えを取った。

 

肘を曲げた右腕を前に出し、背屈させた右の掌に虹色の光が現れる。その掌を中心に光が渦巻き、暴風を発生させて周囲を揺らした。

 

輝きと規模を増す光の渦。灯りの消えた夜の街を照らすその姿は、どこか燦爛たるものに見えた。

 

 

 

 

 

 

[ご覧下さい!私の後ろに見えるあの生物が突如出現した怪獣と思われます!ここからでもわかるほどの大きさです!]

 

「ほ、本物の怪獣だ〜!」

 

「ちょっと!画面見えないでしょ!」

 

「と言うか自分達の部屋で見てください!」

 

「一秒でも見逃す訳にいかないから!」

 

テレビを見てハルナ達の事が心配になったクラスメイトが駆け込んで来た夕映達の部屋。ちょうどハルナと通話中であり、彼女達が無事とわかると安心も束の間、現在はテレビの前でグルードンの様子を見ている。

 

「あんなのどうするの…」

 

「いくらなんでもデカ過ぎでしょ…」

 

[何やら赤い光が見えます!そこから溢れている光で周りが破壊されている様です!あれを撃つつもりなのでしょうか⁉︎]

 

テレビには巨大な破壊光弾を放とうとするグルードンが映っている。部屋にいる者全員が手に汗を握ってそれを見ていた。

 

「うわっ!何よこの人の数⁉︎」

 

「え、えらいぎゅうぎゅうやね…」

 

「中が見えません…」

 

同じ様に部屋に来た明日菜達が中の様子を目にして言った。明日菜が顔を覗かせると夕映とのどかが三人に気が付く。

 

「三人とも!先程ハルナから連絡がありました!ハルナも逢襍佗さんも無事との事です!」

 

「本当⁉︎」

 

明日菜がクラスメイト達をなんとかかき分けて部屋に入る。木乃香とネギは人の波に飲まれていた。

 

「もう別れた後だったらしいので、近くにはいないらしいんですけど、ハルナに逢襍佗さんから無事だって連絡があったって言ってました」

 

「取り敢えず一安心ね…」

 

のどかの説明に明日菜は肩の力を抜く。祐の力を知っている事から簡単にどうこうなるとは思ってはいないが、それでも改めて無事だと知れて少し安心した。

 

 

 

 

 

 

レポートを続けるテレビスタッフ達。そんな時、新たに見えた光景に全員が目を奪われた。

 

「なんだありゃ…」

 

カメラマンが思わず声を漏らす。放心状態だったレポーターが我に返り、慌てて声を出した。

 

「物凄い勢いで謎の光が渦巻いています!あれは怪獣の物とは別の物なのでしょうか⁉︎」

 

「なんと称すればいいのでしょう⁉︎宛ら虹の光の嵐です!」

 

 

 

 

 

 

「マジっ⁉︎あれって噂の虹の光ってやつじゃないの⁉︎」

 

和美はその光景に高台の手すりから身を乗り出してカメラを構えた。和美達の場所からでもその光は目視できる程の輝きを放っている。

 

「ちょっとハルナ!あの光って」

 

写真を撮りつつ和美はハルナの方へ振り返る。そこには静かにその光景を見つめるハルナがいた。

 

「おんなじだ…あの時の光…」

 

 

 

 

 

 

『なんか出た〜‼︎』

 

テレビに映し出された光の嵐にクラスメイト達も反応する。

 

「何あれ⁉︎」

 

「すっごい光ってる!」

 

興奮気味に風香と裕奈が目を輝かせる。

 

「ねぇ…これって…」

 

「うん…一緒だよ、あの時と…」

 

「あの時の虹だ!」

 

美砂達がそう言うと、それを聞いたまき絵が近くにいたのどか達を見る。

 

「ねぇ、あの光って本屋ちゃん達が見たやつなの?」

 

「は、はい。たぶん…」

 

「姿形は違いますが、恐らく同じものです…」

 

のどかと夕映はこの光景に驚いている様だった。二人だけでなくあの日アウトレットで虹色の光を見たメンバーは総じて似た様な表情をしている。

 

明日菜は気が付けば複雑な表情で拳を握っていた。木乃香は心配そうに胸の前で手を組み、ネギは真剣な眼差しで映像を見る。その光景を一瞬たりとも見逃さない様にと。

 

 

 

 

 

 

あやかが目を覚まし、三人でテレビを見ていると同様に虹の光が映った。

 

「わわ!あれって明日菜達が見たのと同じじゃない!?」

 

「あらあら…随分とピカピカしてるのね…」

 

あやかは祈る様に胸に両手を置く。何よりも二人の安全を願って。

 

 

 

 

 

 

溢れ出し続けるレーザーと吹き飛ぶ瓦礫を気にも留めず、祐は光を溜め続ける。首を空に向けて破壊光弾を作り出していたグルードンが遂に祐に狙いを定め、とどめの一撃を放った。その瞬間、祐の瞳が虹色に強く光る。

 

爆風と共に発射された破壊光弾はその圧で文字通り周りを破壊しながら進む。それに合わせて祐は掌に収縮した光をアンダースローで投げつけた。お互いに向かって放たれた二つの光、その大きさは比べるまでもなく破壊光弾が圧倒的に巨大だった。

 

サッカーボール程の大きさしかない祐の光が触れたその時、破壊光弾は粒子となって四散した。衝突の衝撃すら起こさず、勢いそのままに進み続ける光はグルードンの身体に接触すると体内へと消えた。

 

まるで時が止まったかの様にグルードンは光が接触した際の姿勢で固まる。すると体内から光の球体が現れ、その巨体を全て覆った。少しずつ地面から浮き始める球体。中にいるグルードンは動かぬままだ。投げの姿勢を解くと、左腕を下からすくい上げる様に顔の高さまで上げた。瞬間グルードンを包んだ光の球体は空へと向かって上昇する。その巨体が出すとは思えぬ速さで夜空を切り裂きながら、何処までも高く舞い上がり続けていった。

 

 

 

 

 

 

「「なんか飛んでる~~~!!!!」」

 

写真を撮っていた和美は元より、光を見つめていたハルナもこれには大声を上げざるを得なかった。

 

「つかそもそもあの光ってなんなのよ!?」

 

「わかんないけどあの怪獣を何とかしようとしてるんじゃない!?わかんないけど!」

 

「じゃあいいやつ!?」

 

「そうじゃない!?わかんないけど!」

 

「あんた思考放棄してない!?」

 

先程からの出来事にどちらも頭が追い付いていなかった。和美は振り返り、再びその光景を見ると体が小刻みに震えた。

 

「パル!私を羽交い絞めにして!」

 

「何言ってんの!?あんた遂にいっちゃった!?」

 

「いっちゃってないわ!と言うか遂にって何よ!」

 

和美のいきなりのお願いにハルナは遂におかしくなったかと思ったがそうではないらしい。和美はハルナの両肩を掴んだ。

 

「誰かが止めてくれないと、私はあそこに向かって走り出しそうなの!あそこに光の正体がいるのよ!確かめに行くなって方が無理でしょ!」

 

「引き際は見極めてるんじゃなかったっけか!?」

 

そう言いつつも背を向けて今にも走り出しそうになっている和美に腕を回して拘束する。

 

「ほら!これでいいんでしょ!」

 

「離してパル!あそこに真実があるの!」

 

「どっちだよ!!」

 

そうしている内に光は更に上空へと進んで行くのを和美を取り押さえつつハルナは見た。同様に和美も目を向ける。

 

「どこまで行くのかしら、あれ…」

 

「まさか、宇宙とか…?」

 

 

 

 

 

 

浮上し続けるグルードンは瞬く間に成層圏を超え、宇宙へと飛び出していた。夜空に虹色の光が僅かに輝いている。祐は右手をゆっくりと上げ、その光を掌に乗せる様に掲げる。再び瞳が輝きだすと、夜空に浮かぶ光を握りつぶす様に拳を強く握った。

 

宇宙では光の球体が中にいるグルードンごと手のひらサイズまで縮小し、瞬時に巨大な爆発へとその姿を変える。その大きさは地上からでも確認出来る程であった。グルードンの消滅を感じ取り、脱力して祐は腕を下ろした。

 

命中した時点で最早逃げる事も足掻く事も出来ない。その光に触れた瞬間、その対象は消滅が確定する。それがこの技『イネヴィタブル・アナイアレイション』である。

 

 

 

 

 

 

[み、皆様もご覧になられたでしょうか?怪獣は光の玉と共に浮かび上がり、空高くへと消えた後爆発が起こりました。あの怪獣は消滅したという事なのでしょうか…]

 

先程までとは打って変わり、静まり返る室内。映像を見ていた誰もが口を開けたまま黙っている。あの光の正体を知っている明日菜達でさえそれは変わらなかった。しかしそれは嵐の前の静けさで、やがて大きな歓声が上がった。

 

「すげー!!何だ今の!」

 

「必殺技!必殺技だよきっと!」

 

「凄い技アル!是非もう一度よく見てみたいアルヨ!」

 

「いやはや…世の中まだまだとんでもない者がいるのでござるな」

 

興奮覚めやらぬクラスメイト達が矢継ぎ早に感想を口にする。木乃香は自分と同じ様に呆けている明日菜の袖を摘まんだ。

 

「明日菜…ウチ頭パンクしそうや…」

 

「私も…聞いてないわよこんなの…」

 

(これが…祐さんの力…)

 

黙って画面を見つめるネギ。その瞳に込められた感情に目を向けるものはこの部屋にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

「なんだよ…なんなんだよこれ~~!!」

 

自室でその映像を見ていた千雨はそう叫ばずにはいられなかった。

 

「河童の次は宇宙人で、その次は怪獣で!挙句の果てには怪獣を空の彼方にぶっ飛ばす虹色の光だと!?マジで最近どうなってんだ!」

 

頭を乱暴に掻きながら悶える千雨。今まで何とか我慢してきたがいよいよそれも限界の様だ。そこで気配を感じると、いつの間にか自分の真横にモニターを覗いている同居人がいた。

 

「うおっ!?ザ、ザジ…いつからいた…」

 

「ちょっと前から」

 

ザジは千雨の方を向くと表情を変えず答えた。千雨の同居人であるザジは異様に謎が多く、寮に帰って来ない時もあれば今の様に気付いたら部屋にいる事もある。こちらに対してほぼ接触して来ない事は千雨としてはありがたかったが、同じ部屋で暮らして四年目になるにも関わらず彼女の事は何一つ知らなかった。

 

「……」

 

ジッと画面を見つめるザジを千雨は不思議そうに見た。彼女が何かにここまで興味を示すなど初めて見た気がする。

 

「虹。虹の光。イリスの光」

 

「お前…」

 

千雨は目を丸くした。理由は単純、ザジが画面を見つめたままそう言うと笑顔を浮かべたからだ。ザジはその場を離れシャワールームへと消えた。着替えは持たなくていいのかと思いつつ、視線をモニターに戻した。

 

(待てよ…アウトレットの時もそうだ、あいつがいた。今回も確か早乙女と博物館に行ってるはずだ…)

 

頭に浮かんだ事を否定しようとするも、昨日の様に馬鹿馬鹿しいと吐き捨てる事がどうにも出来なかった。

 

(なぁ逢襍佗。お前に聞いたら、お前はなんて答えるんだ?)

 

そんな訳ないでしょと言ってくれれば、少し恥は掻く事になるがそれだけだ。笑い話で済む。でも仮にそうではなかった場合、自分はどんな顔をすればいいのかわからない。

 

口は禍の元だ。こんな事は黙って忘れてしまおう、そう自分に言い聞かせる。問題ない、自分の本音を口にしない事など、自分にとっては造作も無い事なのだから。

 

 

 

 

 

 

「驚いたな…まさかこんなものを見れるとは、とんだ幸運だ。今日はツイてるな」

 

ビルの屋上から双眼鏡の様な物で祐とグルードンの戦いを見ていた人物がいる。先程博物館で祐と話していた赤い髪のスーツの女性だ。今は眼鏡を外し、その纏っている雰囲気も先程の物とはだいぶ違うようだった。

 

彼女『蒼崎橙子』は楽しそうに祐を見ている。その表情は新しいおもちゃを手に入れた子供と言っても差し支えないかもしれない。

 

興味本位でカプセルを見に来たが、思わぬ掘り出し物を見つける事が出来た。あれは魔術でもなければ、『お隣』が使っている魔法でもない。全く未知のものだ。あんなものに興味を持たないはずがない。

 

「虹色の光…良い、実に良いぞ」

 

上機嫌で煙草を取り出し口に銜える。改めて双眼鏡を使い、煙草を吸う為に外していた視線を祐に戻すと目を見張った。祐がこちらを見ていたからである。ここから祐までの距離は数キロはある。周りに遮るものが無いとは言え、気付けるはずがない。まさかあの少年はこちらに最初から気付いていたのか?

 

驚きで銜えていた煙草を落とす。祐とは完全に目が合っているが、やがて祐は視線を外し、背を向けてどこかへ歩いて行った。

 

暫くその背中を眺める橙子。すると額に手を当て、小さな声で笑い出した。

 

 

 

 

 

「ハハハハハ!見たか茶々丸!どうするかと思えば怪獣に宇宙旅行をさせるとはな!これは傑作だ!流石我が弟子!」

 

「相変ワラズ面白レェナ、アイツノ技ハ」

 

テレビの前で大笑いをするエヴァ。茶々丸は戦いが終わった事にほっとしている様だった。

 

「祐さん、怪我などはされていないでしょうか?」

 

「怪我をしても祐は即座に治るだろう、お前は心配し過ぎだ。それにこの程度でどうにかなる様ならあいつはとっくにこの世にいない」

 

「それはそうですが…」

 

「ケケケ、祐ノヤツ久々ニ殺セル敵ニ当タッタナ。アイツソウイウ敵ニシカデカイ技使ワネェカラ勿体ネェゼ」

 

「今の時代ではそうなるさ。なにせ殺した後の方が厄介だからな」

 

「ツマンネェナァ」

 

エヴァは満足そうに画面を見ると妖艶な表情で自らの身体を指でなぞった。

 

「あぁ…感じるぞ祐、お前の力を。やはりお前はそうでなくては、お前はこの私に見た事の無いものを見せてくれる。お前だけが私を満たしてくれる」

 

祐の持つ力は誰も見た事のない場所へと導く光だ。例えそこに何が待っていようと、あるものが地獄であっても共にそこに行くと決めている。祐が自分に死を齎すのなら、喜んでそれを受け入れる覚悟がエヴァにはあった。

 

むしろ望んでいると言ってもいい。このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに死を齎すのは、他の誰でもない逢襍佗祐である事を。

 

 

 

 

 

 

「もう怪獣いないから!もう危険じゃないから!だから離して!真実が逃げちゃう!」

 

「いや!離さない!私は約束を守る女よ!」

 

「だからもういいって!なんで意地になってんのよ!」

 

夜空に爆発が起き、静けさを取り戻した街で和美は現場に向かおうとしたが、ハルナがそれを阻止していた。

 

「いや~!また何も掴めないままスクープを逃がしちゃう~!最近不調続きなんだから!」

 

「大丈夫よ朝倉!初めから好調だった時なんてないじゃない!」

 

「なんだと!」

 

向きを変えてハルナの頬を引っ張る和美と、それに対抗して引っ張り返すハルナ。お互い一進一退の攻防を続けているとハルナのスマホが鳴る。双方少し強めに手を離すと、ハルナが画面を確認する。祐からとわかると通話のボタンを押した。

 

「もしもし祐君?」

 

『遅くなってごめんハルナさん。今どこにいるかわかる?』

 

「えーっと、どこだろここ…朝倉、地図出して」

 

「はいはい」

 

言われた和美はマップのアプリを開くと場所を確認する。

 

「これ逢襍佗君に送ればいいのね?」

 

「よろしく。祐君、今朝倉が地図送ってくれたから」

 

『了解、ちょっと見てみる。……なんてこった、さっきからがむしゃらに走ってたけど、もうすぐそこに着きそうだわ』

 

「えっ、ほんと?」

 

『うん、もう少しで着くから待ってて。待ってろ朝倉!覚悟しとけ!』

 

そう言って通話を切る祐。ポケットにスマホをしまうと、腕を組んだ和美が聞いてくる。

 

「逢襍佗君なんだって?」

 

「たまたまこっちに走って来てたから近くにいるらしいわ。あと朝倉覚悟しとけって言ってた」

 

「なんでよ…」

 

「さぁ?」

 

少しの間待っていると、こちらを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「おーい!ハルナさ~ん!朝倉さ~ん!」

 

手を大きく振ってこちらに走って来る祐。その姿を見て二人は笑うと、ハルナが走り出した。

 

「祐君!」

 

そのまま距離が近づくと、ハルナが祐に飛びついた。それに少し驚くがしっかりとハルナを抱きとめ、クルクルと回ってからゆっくりと地面に下した。

 

「よかった、今回はビンタされなくて」

 

「する理由がないでしょ」

 

「確かに」

 

そう言って祐は笑う。それに釣られてハルナは優しく微笑んだ。

 

「お二人さん、私の事忘れてない?」

 

苦笑交じりに和美が二人に歩いて近づく。祐は体を傾けてハルナ越しに和美を見た。

 

「こんばんわ朝倉さん。災難だったね」

 

「まったくよ、今回もスクープ見逃すし…」

 

「スクープ?ああ、あのでっかいのと虹色の光の事?」

 

「それ。逢襍佗君も見たでしょ?あの光」

 

「見た見た、なんか凄かったよね」

 

「いや、まぁ…そうなんだけどさ…」

 

抽象的過ぎる祐の感想に和美は少し呆れつつ、二人を見る。

 

「取り敢えずいつまで手握ってんの?」

 

そう言われて二人は地面に降りた時からずっと手を繋いでいる事に気付いた。

 

「あ、気が付かなかった」

 

「なに朝倉?仲間外れにされて妬いてんの?」

 

「違うわ」

 

祐はスッと手を離すと二人を見る。

 

「取り敢えず、二人とも無事で良かったよ」

 

「祐君もね。…あれ、祐君服汚れてない?」

 

確かによく見てみると祐の服は所々汚れがついていた。祐は自分の服を確認する。

 

「走ってる時にスライディングとかしたから、たぶんその所為じゃないかな?」

 

「何やってんの…」

 

「だってほら、街を全力疾走する事なんてないからつい」

 

頭を掻いて笑う祐に、和美は仕方なさそうに笑った。そこで祐は腕を組んで一息つく。

 

「取り敢えず下に降りてみよう。帰る手段を探さないと」

 

「うわっ、そうだった…。どうせ電車も止まってるだろうしなぁ」

 

「歩いて帰るのは流石に勘弁だわ…」

 

和美とハルナはげんなりとした顔をする。

 

「捕まえられたらタクシーで帰ろうか」

 

「ごっつぁんです」

 

「逢襍佗君太っ腹だね」

 

「少しぐらいは自分も出す意思を見せたらどうかね?」

 

三人は下へと向かって歩き出す。そんな中ハルナが足を止めた。

 

「祐君」

 

「ん?どうしたのハルナさん?」

 

呼び止められた祐も足を止めて、振り返る。ハルナは祐の顔を見つめ、祐は黙ってハルナの言葉を待った。

 

「…ううん、ごめん!なんでもない!」

 

「……そっか」

 

ハルナは笑ってそう言った。祐もそれに笑顔で返す。

 

「ちょっと~?何してんの~?」

 

少し先を歩いていた和美が二人に声を掛ける。

 

「行こう、ハルナさん」

 

「うん」

 

二人は少し駆け足で和美の元へ向かう。夜空には先程の影響で、一部だけ雲が無くなっている。そこから見える月は美しく輝いていた。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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