「今週が終われば夏休みかぁ。この一週間が長いんだよなぁ」
「なんかわかる気がする。楽しみな事が前にあると長く感じるよね」
「相対性理論と言うやつだな」
月曜日のB組にて楓・由紀香・鐘のいつもの三人が話していた。7月と共に一学期が終わり、学生としては待ちに待った夏休みが始まる。学園の生徒は間もなくやってくる素晴らしき日々に思いを馳せていた。
「今まで生きてきた中で今回の一学期が一番騒がしかった気がする」
「五月頃から色々あったからねぇ」
トゥテラリィの爆破テロから始まり、A組の幽霊少女・宇宙人による誘拐事件。そしてつい先週の金曜日に起きた怪獣騒動。三ヵ月という期間内でよくもまぁこれだけの事が起きるものだと楓は思った。
因みに幽霊少女の件と同時に妖怪による下着泥棒も起きているのだが、これを知るのは一部だけなので仕方がない。
「せっかく高等部初めての夏休みなんだ。せめてその間だけでも平和に終わってほしいもんだよ」
「蒔の字、人それをフラグを立てると言うらしいぞ」
「怖いこと言うなよ…」
そんな話をする三人を遠目で見ながら、凛は心ここにあらずと言った調子だった。
「なんだ遠坂、悩み事か?」
「悩み事と言えばそうかもね。でもいくら悩んだってしょうがない事だってのも理解してるわ」
声を掛けてきた綾子に疲れた様にそう返す。
「悩んだってしょうがないんなら悩まなきゃいいだろ」
「それが出来たら苦労しないわよ…」
「もうすぐ夏休みだね、逢襍佗君は何か予定とかあるの?」
「……。あれ…無い…」
「えっ?」
「いやね、今考えてみたんだけど何の予定もないんだこれが。それがわかって自分に戦慄してるとこだよ」
「そ、そうなんだ…」
春香は別の話題を振るべきであったと安易な自分の選択を恥じた。そう思うのは彼女の優しさ故である。当たり前だが彼女は何も悪くない。
「まぁ、俺の渇いた学生生活の事なんて放っておいて、天海さんは何かあるの?」
「えっと…私は家族でおばあちゃんの家に行くの。旅行も兼ねた感じかな」
「いいね、素敵じゃない。おばあさんは遠くに住んでるの?」
「うん。それにすっごく田舎でね、田んぼとか山に囲まれててビルとかもないとこなんだ」
「最高じゃん。住むならそういうとこに住みたいなぁ」
「そうなの?逢襍佗君田舎の方が好きなんだ」
春香は少し意外そうな顔をする。だが考えてみると、田んぼをはしゃぎながら駆け回っている祐の姿が驚くほど簡単に想像できた。
「好きだね、人間は本来自然に囲まれて生きるべきだと思うんだ。家でぼーっとしてたら、見た事もねぇデカい虫が前を通り過ぎてびびる生活をすべきだと」
「なんか凄く具体的だね…」
そう話していると春香が指先を合わせてもじもじとしだす。
「どうかした?」
「えっとね…実は夏休みの予定がもう一つあって…」
恥ずかしそうにチラチラと祐を見ると、緊張気味に口を開いた。
「8月にライブする事になったの。ライブって言ってもショッピングモールで30分ぐらいのやつだけど…」
「マジっ!?やばい!吐きそう!」
「ええ!?だ、大丈夫!?」
「うん大丈夫。さぁ、続きをどうぞ」
急に冷静になった祐に頭の回転が追い付かないでいたが、何とか立て直して続きを話す。
「うちの事務所全員でやるの。13人だけど私も含めてみんなすっごく張り切ってるんだ。だからその…よかったら見に来て欲しいなぁ…なんて…」
おもむろに祐は席から立ち上がると拳を天に突き上げた。
「行かせて頂きます‼」
大きな声にクラスの視線が祐に集まる。
「天海春香ファン第一号(自称)として!行かないという選択肢は無い!」
祐は熱い眼差しを春香に向けると春香の手を取った。
「ありがとう天海さん、夏休みの大切な予定が出来たよ。いや!むしろ俺の夏休みはこの為にあったんだ!遂に我らの天海さんが世にその存在を知らしめる時が来たんだね!天海春香の初ライブ…これぞ正に日本の夜明けだ!」
力強く宣言する祐。すると話を聞いていた周りのクラスメイト達が春香に近寄る。薫が祐をはたいて手を離させた後、春香の机に身を乗り出した。
「なに春香!あんたライブやるの!?もっと早く言ってよ!危うく予定入れるとこだったじゃない!」
「ご、ごめんね…なんせ急に決まったから」
「まぁ、いいわ。それで、いつやるの?絶対見に行くから」
「ほ、ほんと?」
薫は春香の肩に手を乗せる。
「あったりまえじゃない!友達のせっかくの晴れ舞台なんだから!」
「思いっきり応援するからな!」
「蒔が暴走しない様、私達がしっかりと見張っておくから天海嬢は安心して臨んでくれ」
「あたしを何だと思ってんだ!」
「私も見に行くよ!頑張ってね春香ちゃん!」
次々に応援の言葉を受け、春香は目頭が熱くなる。
「ありがと~みんな~!」
一番近くにいた薫に抱きつく。薫は笑ってしっかりと受け止めた。
輪から外れた場所で祐は薫に対して消しカスを投げつけている。それに気付いた薫から即座にラリアットを食らった。
「たまにはあんな感じで思うままに生きてみるのもアリなんじゃないか?」
「私には程遠い生き方な気がする。否定するつもりはないけどね」
楽しそうにそれを見ている綾子と呆れ顔の凛。ダウンした所を更なるプロレス技で追い打ちを掛けられている彼を見た。常に明るく能天気で、気の向くままに生きている様に見える祐。
凛は自分の家系、そして生き方にそれなりの誇りを持っていた。『常に優雅たれ』この家訓に違わぬよう努力を惜しまず続けてきたつもりである。きっとそれはこれからも変わらないだろう。その点で言えば祐という人間は自分とは相容れない存在と言っていいのかもしれない。
しかし、近頃彼の姿を目で追っている機会が増えている。そこには魔術師として彼の存在に疑いの目を向けているという一番の理由はあれど、凛個人として彼自身の存在に興味を持ち始めているのもまた事実であった。
「この一週間を乗り切ったらいよいよ夏休みだぜ~!イエ~イ!」
『イエ~イ!』
A組も他の生徒達の例に漏れず、目前に迫っている夏休みに向けて盛り上がっていた。現在は裕奈が先頭に立ち、夏休みへの士気を高めている。
「夏休みと言えばイベントが盛りだくさん。海に山に祭りに花火!全部謳歌してやるぞ~!」
『お~!』
「ゆーなは何が一番やりたいの~!」
桜子が大きな声で質問すると、待ってましたとばかりに胸を張った。
「そんなの決まってるでしょ!お父さんとデートよ!」
「でた~!ゆーなのファザコンアタック!」
「お父さんが好きで悪いか!」
「逆ギレ!?」
裕奈は大学部の教授である自身の父を愛しており、その愛情は常に写真を持ち歩き未だ父との結婚を夢見ているという少し危険かもしれない程のものであった。因みに裕奈の父は至って常識人且つ紳士である為、間違いが起こる事は無い。
「今年の夏休みは何があるやろな~」
「今の所不安しかないわ…」
「え~、なんでなん?」
楽しそうな様子の木乃香に反して明日菜の気は重かった。
「だって絶対一回は何か起きるわよ、断言してもいいわ」
「もう明日菜、気持ちはわかるけど今は楽しんどこうや」
「そりゃ私だってそうしたいけど…」
「木乃香サンの言う通りヨ明日菜サン。未来を憂いていても何も始まらないネ」
「超さんまで」
いまいち気乗りしない明日菜に前の席の超が振り向いて声を掛けてきた。何度も世間話等はしているが、こうして会話に入ってくるのは珍しいような気がする。
「むしろこれからこの世界で何が起きるのか楽しむぐらいでないとネ」
「そ~そ~。どんだけ考えたってなる様にしかならないんだから」
「超さんと違って美空が言うとただの能天気な奴にしか見えないのはなんでだろう…」
「明日菜、私達しっかりと話し合う必要があると思わない?」
美空の表情はにこやかだったが、その額には青筋が浮かんでいた。
「私は今回の夏休みでビームが打てるようになりたいアル!」
「くーふぇ、あの虹の光が相当気に入ったんだね」
「わかるよくーふぇ。僕もあんな感じで光の嵐を巻き起こしてみたいもん!」
古菲と鳴滝姉妹が虹の光について話し始める。あの映像を見てからというもの、古菲は更なる高みを目指して一段と修行に励んでいた。
「かえで姉、ビームとか出せる忍法ない?」
「いやぁ、拙者にはその心得は無いでござるな」
「くーちゃんはまだわかるけど、風香は何を目指しとるん…?」
ビームを出す事に熱心な風香に投げかけた亜子の疑問は至極真っ当なものだった。
「え~?亜子にもあるでしょ?ビームとか出してみたいと思った事」
「まぁ、かめはめ波とスーパーサイヤ人になる練習は誰しも通る道よね」
「ハルナ、今後の為に今言っておきますがそれは間違いです」
「じゃあ夕映は魔貫光殺砲派?意外と渋いのね」
「ハルナは何の話してんの?」
「私に聞かないでよ」
ハルナと夕映の会話はかめはめ波という言葉を聞いた事があるレベルの漫画やアニメに疎い美砂と明日菜にはわからなかった。
「たぶん男子の会話でしょそれ」
「私も全然わかんない」
円とまき絵もその会話についていけなかった様だ。会話を聞き逃しつつパソコンを操作していた千雨はその現状を憂いた。
(今時の奴はドラゴンボールも知らねぇのか。私もそっち系は専門じゃないがこれぐらい常識だろ)
これが今時のJKかと思いながら自身のサイトをチェックする。新しくアップしたコスプレ写真の伸びはなかなか好調であった。それに気を良くしつつ続けてコメント欄を確認する。
(こいつ最近よくコメントしてくるな)
それは祐のコメントが付かなくなってから変わるように入ってきた新参の事である。ハンドルネームは『永劫のとっちゃん坊や』と言う。
「はぁー!」
「ダメダメ!もっと激しい怒りを込めないとスーパーサイヤ人にはなれないわよ!見てなさい!ハァーーー!!」
「す、凄い怒りを感じるよパル!」
「ふむ、肌にピリピリくるアル。ハルナ…侮れないアルね」
「何が締め切りだこのやろーーー‼︎」
「怒りの理由がしょうもなさ過ぎる…」
風香にお手本を見せるハルナ。千雨は小学生低学年並みの彼女達に頭痛がした。
「ハルナさん!もう少し静かになさい!」
「「うわっ!スーパーサイヤ人3だ!?」」
「なんですかそれは!」
「助けて魔人ブウ!」
「だから私もわかんないってば!」
迫ってきたあやかから逃げる様にまき絵の背中に隠れる。あやかもまき絵も何の事かさっぱりである。
「ピンクってだけだろ」
ハルナがまき絵を魔人ブウ呼びした理由がわかったのは、思わずツッコんでしまった千雨を始め数人しかいなかった。
明日菜達との話を終えた超は席で本を読んでいる聡美に近寄る。
「ハカセ、今日も放課後ラボに集合ネ」
「わかりました。あれの作業でいいんですよね?」
「うむ、それで問題無いヨ」
本を閉じ、聡美は体の向きを超へと変えた。
「最近あれの作業中心ですけど、何かあるんですか?」
「これまでの流れを鑑みて、あのプレゼントは出来る限り早めにあげるべきだと思ったヨ。知れ渡ってからでは意味が無くなってしまうからネ」
「確かに…この前のも一つ違えば、あれは無用な物になっていましたからね」
二人は根本的な部分をぼかしながら会話を続ける。別の話題で盛り上がるクラスで二人の話を聞いている者はいなかったが念の為だ。それに聞かれたとて、また二人が変な発明をしようとしているぐらいにしか思われないだろう。
「思ったよりも事がコンスタントに起きてるネ。使うも使わないも彼次第だが、選択肢は多いに越した事はないヨ」
「間違いないです」
職員室では学園長からの朝の挨拶が行われていた。
「さて諸君、一学期も残すところあと一週間となった。生徒達も浮かれ気味になるであろうから、この一週間は特に気を引き締めていってほしい」
それに頷く教員達。この麻帆良学園で教員をしている者なら学園長が言わんとしている事はよくわかっていた。何せなによりもイベント事が好きな生徒達である。普段から高いテンションが更に高くなっているのは朝の様子からでも感じられた。
「またこれは直接は関係ないが、先週の金曜日に怪獣の騒動があった事は諸君らも知っての通りじゃ」
「この数か月超常的な事件が相次いでおる。生徒達は勿論の事、諸君らも充分注意してくれ。とは言え注意したとてどうしょうもない事もあるがの」
元も子もない様に聞こえる学園長の一言に教員達は苦笑いをする。しかし宇宙人然り怪獣然り、まさに注意したところでどうしようもない事が起きている為誰もそれに異は唱えなかった。
夏休み前の最後の一週間。生徒達の浮ついた雰囲気は多分にあったものの、大きな事件・事故も無く比較的平和に日々は過ぎて行った。
一学期最終日、放課後を迎えた麻帆良学園の生徒達はお祭り騒ぎで教室を後にしていく。教員達は特に何も起こらなかった事に胸を撫で下ろした様子であった。
「んお、今日超包子やってんだ。一学期も終わった事だし行っとくか」
送られてきた通知を確認すると、それは超包子の特別営業の知らせだった。最後に行けたのは六月だった事もあり、祐は屋台がある広場へと向かう為自宅を出る。
広場へ着くとそこには相変わらずの繁盛を見せる超包子の姿があった。今日は学生だけでなく教員達の姿も見える。いつも以上の賑わいを眺めつつ、空いている端の方の席に座った。
いつもの様に同じ物を注文しようと考えているとテーブルに料理が載った皿が置かれる。その手に沿って視線を上げていくと、皿を置いた人物である五月が笑顔で会釈をした。
「あれ五月さん?こんばんわ。珍しいねこっちに出てくるのは」
「こんばんわ祐さん。こちらを直接渡したかったので」
にこやかな表情で話す五月。そこで祐は再び料理に視線を戻す。
「これシュウマイだよね?どうして?」
「これはまだお店には出してない試作品なんです。でも安心してください、結構な自信作なんですよ。こちらからのサービスですから、宜しければどうぞ」
「こんな幸せな事があっていいのか…。勿論いただきます!でもなんか悪いね」
そう言って笑う祐に五月は首を横に振った。
「最近、祐さんが頑張ってると超さんが言ってました。今日は祐さんが来てくださると思って用意したんですが、当たって良かった。丁度作りたてです」
「何を頑張っているかまでは言っていませんでしたが、それはみんなの助けになってると言ってました。祐さんの事、私も応援します。でもあまり無理しないでくださいね」
五月がくれたものは、その料理だけではなかった様だ。祐は席から立って五月と向かい合う。
「ありがとう五月さん。まだ食べてないけど、たぶんこれから食べるこのシュウマイが俺の人生で一番おいしいシュウマイになるよ」
「ならそれを更新できるのは私だけですね。腕がなります」
袖を捲り、右腕を掲げてみせた。祐はそれに対して微笑む。
「楽しみ過ぎるねそれは。生きる理由が増えたよ」
五月も笑顔で返す。あまり言葉数は多くない彼女だが、だからこそ伝わる物もあるのかもしれない。
「さぁ、冷めないうちにどうぞ。それと、注文はいつも通りで大丈夫ですか?」
「それでよろしく。いただきます、五月さん」
お辞儀をすると、五月は屋台に戻っていった。それを見送り、箸を取ってシュウマイを食す。
「すげぇ美味いな、やっぱり」
「まさかあの四葉にまで粉をかけているとは、恐れ入ったよ色男」
「いきなり人聞きの悪い事言わないでよ龍宮さん」
背後からの声にそちらを見ずに答える。笑いながら真名が正面へとやってくると、横には刹那もいた。
「相席いいか?」
「喜んで。どうも桜咲さん、ご無沙汰です」
「ど、どうも」
いつもの調子で向かいの席に座る真名と、どこか緊張気味に真名の横に座る刹那。言葉通り、しっかりと話すのは河童事件以来であった。
「あの…逢襍佗さん、あの件では大変お世話になりました。挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません」
「すべり台だけでそこまで言って貰えるんなら、何時でも出しますよ」
「えっと…そういう訳では…」
「刹那、逢襍佗はわかってやっているぞ」
真名を見てから祐を見るとその顔は笑っていた。刹那はムスッとした表情をする。
「人が悪いですよ、逢襍佗さん」
「すみません、どうも純粋な人にはちょっかいを掛けたくなる悪癖がありまして」
「ひどい奴だな」
「お前が言うな真名」
それに対して真名は肩をすくめた。刹那からの冷ややかな視線を感じつつ、テーブルに右肘を置く。
「それにしても逢襍佗、この間のはテレビで見ていたが流石に笑ったぞ。あんな芸当も出来たとはな」
「お褒め頂いて光栄です。でもあれに関しては頻繁に出したくないかな、目立ち過ぎるからね」
会話を挟みながらシュウマイを食べる祐。刹那はそれを見て随分と美味しそうに食べるなと思った。以前木乃香と話していた時、祐は美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があると言っていたがそれがわかった気がした。
「お前の力の事は噂程度に聞いてはいたが、まだ実際に戦っている所は見れていない。是非とも見てみたいものだ」
「運が悪ければその内見れると思うよ。龍宮さん悪運は強い方?」
「それなりにな」
「じゃあ大丈夫だ、そん時は色々と助けてね」
「それはお前次第だな。報酬を期待しているよ」
「俺の笑顔で手を打ちませんか?」
「そうなったらお前の敵が一人増えるかもな」
「こわっ」
最後の一つを食べ終え、手を合わせると刹那に話を振った。
「明日菜から聞いたよ、最近剣術を教えてくれてるんだってね。どう?明日菜は」
「まだ始めたばかりですが、一言で言えば素晴らしいものを持っています。とても素人とは思えません」
「それに、明日菜さんと鍛錬をしていると私自身気付かされる事が多くあります。私としてもあの時間はとても有益で」
そこまで話して祐が優しく微笑んでいるのに気付くと、刹那は少し顔を赤くした。
「な、何ですか…」
「なんかいいなぁと思ってね。俺がこんな事言うのは烏滸がましいけど、明日菜をよろしくね桜咲さん。貴女ならきっと大丈夫って今わかったよ」
屈託のない笑みを向けられ、刹那は思わず視線を逸らせた。
「おい逢襍佗、あまり同居人を攻めてくれるな。刹那は初心なんだ」
「う、うるさい!」
席から立って真名に詰め寄る。祐は顎に手を当てた。
「この時代にこんな擦れてない人は珍しい。桜咲さん…貴女は天然記念物だ、保護しなければならない。遵って僕の隣の席に座って頂けませんか?」
「何を言っているんですか!?」
そんな祐の肩に誰かが手を回す。
「おお~い逢襍佗!なんや桜咲口説いとんのかいな!生意気なやっちゃな~!」
「黒井先生…めっちゃ出来上がってますね…」
とんでもなくご機嫌のななこが回した手で肩をバシバシと叩いてくる。顔の赤さといい、足取りの覚束なさといい完全に酔っ払っていた。
「逢襍佗!私の前で不純異性交遊とはいい度胸じゃんよ!」
「うわこっちも出来上がってる!」
「逢襍佗君!あなたって子は騒動ばかり起こして!先生は悲しいわ!」
「高橋先生…貴女もか…」
ななこに負けず劣らずの完成度で乱入してくる愛穂と麻耶。三人から挟まれ祐に逃げ場は無かった。
「ごめんなさい逢襍佗ちゃん、以外と三人とも回るのが早くて」
「三人が早のもそうですけど、小萌先生が強過ぎるんですよ…」
「小萌先生見はた目にそぐわぬ酒豪ですからねぇ」
「見た目の事は言わないでください!」
三人に絡まれる祐を見て小萌としずなが酔っ払いの回収にやってくる。小萌はまったく酔っていないが飲んでいる量は二人よりも多かった。
「ほら三人とも、席に戻りますよ」
「堅い事言わんといてぇなしずな先生、逢襍佗のナンパしずな先生も気になるやろ~」
「あら逢襍佗君、ほどほどにね?」
「待ってくださいしずな先生!誓ってナンパはしていません!ところでよかったら一緒にお食事どうですか?」
「逢襍佗ちゃん、話がややこしくなりますよ…」
「やっぱりお前とはしっかり話しとくべきだ!来い逢襍佗!」
それを聞いていた愛穂が祐を拘束して自分たちの席に引っ張っていく。刹那は少々呆気にとられた表情でその光景を見ていた。
「あいつの周りはいつも賑やかだな、今の内に慣れておけよ刹那」
「…どういう意味だ?」
「あいつと関わるなら、あの輪に巻き込まれる可能性が高くなる。ああいう場の上手い躱し方でも教えておいてやろうか?」
「考えておく…」
気が付くと連行された祐は教員達が集まっている席で盛り上がっている。刹那と真名はその姿を目で追っていた。
「あいつは他と関わる事を楽しんでいるんだろう。それが出来る事を心からな」
「だがあいつから近付くのはある一定の所までだ。そこから先、あいつは距離を縮めるつもりが無い様に私には見える」
刹那は黙って真名を見る。真名は依然祐を見つめていた。
「理由はわからん。何かを恐れているのか、考えがあるのか」
刹那からしてもその理由はわからない。そもそも真名の勘違いと言う事も充分にある。だがその話は刹那には勘違いとは思えず、また他人事とも思えなかった。それは同様に真名にも当てはまる事でもあった。
「ん~?なんや今日はいつも以上に盛り上がっとるね~」
「明日から夏休みだからじゃない?先生達もいるみたいだし」
「うわ~、なんか良いですね!賑やかな夜の広場って!」
超包子にやってきた明日菜達は、その繁盛ぶりを目にした。周りを見ていると刹那達が目に留まる。
「あ~!せっちゃん!真名ちゃんも!」
「こんばんわ、お嬢様」
「近衛か、となると」
走って木乃香が刹那の座っている席に向かうと、椅子から立って刹那がお辞儀をした。遅れて明日菜達が席に来る。
「こんばんわ刹那さん、龍宮さん。二人も来てたのね」
「やぁ神楽坂、ネギ先生も。せっかくの夏休み前日だからな」
そう言いつつ真名が着席を手で促した。それに従って明日菜達が席に着く。
「ああ、そうだ。あっちには逢襍佗がいるぞ」
「祐が?…なんで先生達と?」
真名が指さした方向を見ると祐が楽しそうに教員達と食事をしていた。
「人気者だなお前達の幼馴染は。幼馴染としては気が気でないんじゃないか?」
「な、何言ってんの龍宮さん?ぜ、全然わけわかんないわ」
「そうか、それは失礼した」
「おい、真名」
「あはは、明日菜慌てすぎや」
顔を赤くする明日菜をネギは不思議そうに見ていた。すると祐が三人に気付く。
「あれ?おー三人ともお揃いで!」
こちらに向かってくるとネギの手を取った。
「ネギ!せっかくだから他の先生達と親睦を深めようじゃないか!少し借りてくな!カモ!お前も来い!」
「え?ゆ、祐さん!?」
(ああ!色白&褐色美少女が!…いや、あちらのお姉さん方もなかなか…)
カモが乗ったネギを小脇に抱えて席に戻っていく。明日菜と木乃香はその背中を暫く見つめて苦笑いした。
「あらら、ネギ君盗られてもうた」
「たく、突拍子もないんだから」
ネギを連れてきた事により、教員達の席がワッと盛り上がった。ネギは恥ずかしそうにしながらも席に着く。明日菜達はそれを笑顔で見つつ、料理を注文した。
様々な事が起こり、変わり始めた騒がしい一学期は終わりを迎えた。
そして、夏休みが始まる。
一番好きな章は?
-
序章・始まりの光
-
幽霊と妖怪と幼馴染と
-
たとえ世界が変わっても
-
消された一日
-
悪魔よふたたび
-
眠りの街
-
旧友からの言葉
-
漢の喧嘩
-
生まれた繋がり