Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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夢見る景色

ぼやけた視線の中、辺りを見回す。そうしていると、これは夢の中だと薄々思い始めた。

 

この場所はよく知っている。なにせ前に暮らしていた家だからだ。見慣れた景色、そしてキッチンに立つ女性の後ろ姿。その背中も自分はよく知っていた。

 

「おかーさん!今日のごはんな〜に?」

 

小さい女の子が女性に抱きつきながら聞く。振り向いた女性は優しい笑みを浮かべていた。

 

「さーて何でしょう。これ見てわかるかなぁ?」

 

女性が女の子を抱えて調理中の食材を見せる。

 

「お肉!」

 

「正解だけどもっと絞ってほしいかな…」

 

この幸せな光景を出来る事ならずっと見ていたい。しかしそれがもうすぐ終わる事を感じて少し寂しくなった。

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

目を開けると見慣れた天井が映った。そして夢が終わり、現実で目覚めたと実感する。ベットから起き上がり、同じ様に起き上がっていたアキラと朝の挨拶を交わす。自身の机に置かれた写真立てを見ながら裕奈は微笑んだ。

 

「おはよう、お母さん」

 

 

 

 

 

 

「今日ね、すっごくいい夢見たんだぁ。新体操の大会で私が優勝する夢!」

 

裕奈とアキラの部屋にまき絵・亜子を呼んで四人で話していると、まき絵が今朝見た夢を話題に出した。それに対してアキラは少し驚いた表情をする。

 

「まき絵も?」

 

「え?もってどういう事?」

 

「私も見たんだ、大会で優勝する夢」

 

「そうなの?じゃあおんなじだね!」

 

嬉しそうなまき絵にアキラも笑う。亜子は少し考える様な顔をした。

 

「ウチは普段夢とか覚えとらんのやけど、今日は覚えてたわ」

 

「因みにどんな夢?」

 

「へっ?え〜と…それは内緒で…」

 

「え〜!そんな言い方されたら気になるよ〜」

 

「これは…エッチな夢でも見たのかにゃ〜?」

 

にやついた顔で裕奈が言うと、亜子は顔を赤くした。

 

「そ、そんな訳ないやん!もう…すぐそっちに持ってこうとするんやから」

 

「ごめんごめん」

 

「でもさ、どうせ見るんならやっぱり楽しい夢がいいよね」

 

まき絵の言葉に全員が頷く。

 

「確かにね、誰かに追いかけられたりする夢とか凄く怖いし」

 

「あ〜、それ私もたまにある。そういうのに限って早く走れなくてさ」

 

「あはは!わかるわかる!」

 

 

 

 

 

 

その日の夜、再び夢の中で見たのは小さい頃よく歩いた川の土手。夕陽に照らされた道を親子三人が歩いていく。右手を母親、左手を父親と繋いだ幼い裕奈は楽しそうに二人と会話していた。

 

「ねぇ裕奈。裕奈は大きくなったら何になりたい?」

 

「お父さんのおよめさん!」

 

「それは駄目!却下!」

 

「え〜!」

 

「こらこら…本気にならないの」

 

裕奈の父が苦笑いを浮かべて裕奈の母を宥める。

 

「何で駄目なの〜?」

 

「だってお父さんは私と結婚してるから」

 

「じゃあお母さんも私と結婚すればいいよ!」

 

二人は驚いた顔をすると、やがて笑い出した。

 

「予想外だわ、まさか私が裕奈にプロポーズされるなんて」

 

「これは将来大物になるね」

 

両親が言っている事はその時の裕奈にはよくわからなかったが、二人の笑顔を見て裕奈は嬉しくなる。理由はわからずとも、二人が笑っていてくれればそれで幸せだった。それは両親からしても同じ事である。裕奈が笑っていてくれれば二人はそれだけで幸せだった。

 

 

 

 

 

 

「…またお母さんの夢だ」

 

静かに目を開ける裕奈。前から母の夢は何度も見たが、二日連続で見た事などあっただろうかと思う。怖かったり嫌な夢に比べれば何倍もいいが、それでも目覚めた後にどうしても寂しさが募った。

 

現実では、もう母に会えない事を再認識させられるからだ。

 

 

 

 

 

 

部活を終え、寮へと帰ってくる裕奈。ロビーにはクラスメイト達が何人か集まって話をしていた。

 

「ちわ〜みんな」

 

「あら裕奈さん。部活終わりですか?」

 

「うん、何の話してたの?」

 

話していたのはあやかとチア部の三人。裕奈の質問に待ってましたとばかりにあやかが答える。

 

「それがですね!二日連続でネギ先生とお出掛けする夢を見たのです!これはきっとネギ先生とお出掛けするべきという天からのお告げでしょう!」

 

声に出してはいるがこちらに聞かせているのか、自分に言い聞かせているのか判断に困るが、本人が嬉しそうな事だけは嫌というほど伝わった。裕奈を始め、美砂達も若干呆れた顔をしている。

 

「私はケーキを沢山食べる夢を見たよ!食べても食べても無限に出てきて食べきれないの!」

 

「可愛らしい夢だねぇ。いんちょも見習ったら?」

 

「どういう意味でしょうか…?」

 

「私は好きな服買いまくる夢。ここからここまで全部くださいってやつ」

 

「これまた美砂らしい。くぎみーは?」

 

「くぎみー言うな。私はまぁ…普通よ普通」

 

それを聞いた裕奈は昨日と同じくにやけた顔になる。

 

「亜子もそうだったけど、こういう事言うのって絶対恥ずかしい夢見た人なんだよねぇ」

 

「決めつけるなコラ」

 

「そうなの?円スケベなんだね!」

 

「それもむっつりね」

 

「勝手な事言わないでくれる⁉︎」

 

桜子と美砂が裕奈の言った事に乗る。面倒な事になったと円は頭を抱えたくなった。

 

「まったく、はしたないですわよ皆さん。もっと淑女としての嗜みをですね」

 

「よく言うわよこのドスケベ委員長」

 

「誰がドスケベですか!」

 

「や〜い!いいんちょのドスケベ〜!」

 

「が、我慢なりませんわ!撤回なさい!」

 

逃げる桜子と美砂を追い掛けるあやか。裕奈はそれを笑って見送り、円はため息をつく。円がふと裕奈を見ると、裕奈はどこか遠くを見つめてぼーっとしていた。

 

「裕奈?どうかした?」

 

「へっ?ううん、なんでもない!さーて!部活終わりだし大浴場でも行こ!」

 

円に別れを告げると裕奈は走って部屋へと向かう。その背中を見ていた円は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

それから翌日、夕方の大浴場は今日も賑わっていた。

 

「今日はせっちゃんと一緒に実家に帰る夢見たわ。近いうちに行こうな〜」

 

「そうですね、お嬢様が帰って来れば長…お父様も喜ばれるでしょうし」

 

「木乃香も夢見たんだ。な〜んか最近よく夢見るのよね」

 

「木乃香さんだけでなく、どうやらここ数日皆さん見た夢を覚えているそうです」

 

「え、そうなの?のどかも?」

 

「うん、覚えてるよ。一日中本を読んでる夢だった」

 

「現実と変わんないじゃない」

 

話題は三日程前から夢をよく見る様になったと言うもの。ハルナは伸びをすると体を脱力させた。

 

「明日菜も見た?」

 

「まぁ、見たけど」

 

「どんなの?」

 

「どんなのって…みんなでご飯食べてる夢」

 

「う〜ん普通」

 

「別にいいでしょ…」

 

何を期待していたのかはわからないが、がっかりした様な態度を取られる謂れはないだろうと明日菜は思った。

 

「そう言うパルはどうだったのよ?」

 

「私?私はね、え〜っと…ペンを買い替えた夢」

 

「ハルナ、それは現実です」

 

「あれ?そうだったっけ?」

 

目線を斜め上に向けて気の抜けた返事をする。

 

「しっかりしなさいよ、もう夏休みぼけ?」

 

「いや〜なんせ部屋から出ないもんで」

 

「でもこんな毎日夢見た事あったかな?」

 

「人間夢というのは毎日見ています。ただ毎日その内容を覚えているとなると、眠りが浅いか自律神経の乱れがあるかもしれません」

 

夏美の呟いた言葉に聡美が詳しく解説を入れる。全員が感心した様な顔をした。

 

「ん?それって私達疲れてるって事?」

 

「そんな気全然せぇへんけど…」

 

まき絵と亜子もこの数日夢を見ているが体の不調は感じていない。それはここにいる全員に当てはまる事だった。不規則な生活を爆進中の千雨を除いて。

 

「まぁでもいいんじゃない?夢見るぐらい。今の所見る夢いいものばっかりだし」

 

「よっ!美空の能天気!」

 

「じゃかしいわ」

 

楽しそうに話すクラスメイトの輪にあって、裕奈は心ここに在らずといった状態だった。それに気付いたアキラが声を掛ける。

 

「裕奈?」

 

「え?何?」

 

「なんか、ぼーっとしてたから」

 

「ああ、ごめんごめん。何でもないよ」

 

「そう…裕奈は夢見た?」

 

「うん!見たよ!今日はお父さんとデートに行く夢!」

 

「そ、そう…良かったね…」

 

「まぁね、でも行くなら実際行きたいなぁ」

 

いつもの調子で答える裕奈を見て、気にし過ぎだろうかとアキラは考えた。

 

 

 

 

 

 

「やべっ…寝落ちしてた」

 

薄暗い部屋でモニターの明かりに照らされた千雨は、机に突っ伏した状態から背中を反らせて伸びをする。

 

「つか何してたんだっけか…。え〜と、ネトゲした後サイト見て…その後ネットアイドルの頂点になってて……ん?なってたか?」

 

寝惚けた頭で考えていると目の前に誰かの手が現れ、パンっと両手を強く合わせて音を鳴らした。

 

「うわぁ‼︎」

 

突然の事に椅子から転げ落ちそうになるも、机に掴まって何とか耐える。その姿勢のまま手の正体を確認すると、ザジが両手を合わせた状態でこちらを見つめていた。

 

「ザジかよ…脅かすなって」

 

「……」

 

ザジは何も言わず千雨を見つめ続け、気まずさに千雨は目を逸らした。

 

「な、なんだよジロジロ見て」

 

「夢、見てた?」

 

いくらなんでも脈略が無さ過ぎではないかと感じつつも、彼女に関しては今更かとも思った。

 

「見てたけど…」

 

「どんな?」

 

言葉に出しそうになるが寸前で口を噤む。ネットアイドルの頂点に立ち、浮かれて大笑いしていた夢など説明したくない。

 

「何でもいいだろ」

 

「楽しい夢?それとも怖い夢?」

 

やけに今日はつっこんでくるなと思う。そんなに人の夢が気になるタイプだっただろうかと考えたが、取り敢えずその程度の事なら答えてもいいだろう。

 

「まぁ、楽しかったよ」

 

「そう」

 

顔を離しそれから特に何も言わなくなった。よくわからないが満足したのだろう。千雨は一度顔を洗うため洗面台へと向かう。

 

「千雨さん」

 

呼ばれて思わず勢いよく振り返る。ザジに名前を呼ばれた事など初めてだった。そもそも誰かの名前を読んだ場面さえ見た事がないかもしれない。

 

「夢の景色を覚えているのなら、それが夢だという事もお忘れなきよう」

 

「…そこまで現実逃避してねぇよ」

 

そう言って歩いていく千雨。ザジはそれを見送った後、何処かへと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

朝の麻帆良学園室内プールで部活動を行うアキラは現在プールサイドで休憩していた。

 

「アキラ、どう?調子の方は」

 

「はい、調子はいいと思います」

 

アキラの一年先輩である『塚原響』から声を掛けられ、それに答える。響はアキラの顔を少し見つめた。

 

「塚原先輩?」

 

「ああ、ごめん。なんか含みがあるなって思ったから」

 

「顔に出てました?」

 

「何となくね」

 

出会ってまだ半年も経っていないが、彼女の人となりはそれなりに理解しているつもりだ。彼女は面倒見がよく、それでいて周りをよく見ている。きっと自分の様子から何かを感じて声を掛けてくれたのだろう。

 

「その、塚原先輩。先輩は夢ってよく見る方ですか?」

 

「夢?夢って寝てる時に見るあれ?」

 

アキラは頷くと、響は顎に手を当てて考え出した。

 

「そうね、覚えてる時の方が少ない…かな。でもそれがどうかしたの?」

 

「最近、私だけじゃなくて寮のみんなも毎日夢を覚えてるんです」

 

「毎日?どんな夢とかってあるの?」

 

「楽しい夢です。私が大会で優勝したり、みんなで遊びに行ったり」

 

「それだけなら問題なさそうだけど、というか少し羨ましいわね」

 

「少し気にはなりますけど、私もそこに関してはあまり。ただ…よく夢を見るようになってから、友達の一人がぼーっとしてる時間が多くなって」

 

アキラの言う友達とは裕奈の事だ。様子は普段通りだが、ふとした瞬間に遠くを見ている事が多くなった様に思える。それがアキラには気掛かりだった。

 

「なるほどね。その子はどんな夢を見てるのかしら」

 

「えっと…詳しい説明は省きますが、楽しい夢みたいです」

 

裕奈から聞いた内容をそのまま響に伝えるのもどうかと思ったので、その部分はぼかして伝える。

 

「う~ん、これはあくまで私の予想だけど…その子、夢と現実とでギャップがあったりするんじゃないのかしら」

 

「現実とのギャップ…ですか?」

 

「ええ。楽しい夢から覚めた後って、何と言うか残念な気持ちにならない?なんだ夢かって」

 

「わかる気がします」

 

確かに響の言う事は尤もだ。大会に優勝した夢を見た後、起きて感じたのは残念な気持ちだったように思う。と言ってもその瞬間だけで、引きずる様な事は無かったが。

 

しかし裕奈に関してだが、それほど頻繁ではないとはいえ父親と出掛ける事もそう少なくはない。残念に思うにしてもあれ程になるとは考えられなかった。

 

「まぁ、取り合えず本人に聞いてみるのが一番ね。どこまで行っても私達じゃ予想しかできないわ」

 

「そうですね、そうしてみます」

 

響は笑うとアキラの頭を撫でた。

 

「ほんと、よくできた子ね貴女は。はるかにも見習ってほしいわ」

 

「はるかって…森島先輩の事ですか?」

 

撫でられた事に照れつつ、アキラは聞いた。響は頷くと困った様な顔をする。

 

「正解。あの子ったら出会った時から何にも変わってないんだから…。良い所ではあるんだけど、あの自由人加減は少し心配になるわ」

 

響の言う『森島はるか』とは彼女の同級生であり、その類稀なる容姿とスタイルから男子の憧れの的にして、振ってきた男子の数の多さから男殺しの天然女王という二つ名を持っている。本人的にはこの二つ名は(特に天然の部分が)不服らしい。

 

麻帆良の有名人の一人でアキラも存在は知っていたのに加え、響からの紹介で会話自体もした事がある。その時の響曰く、たぶん気に入られたから気を付けろとの事だった。

 

話を聞いていたアキラが少し笑うと、響はそれに対して首を傾げた。

 

「すみません、私の周りにも同じ様な事言ってる子がいて。心配だって言われてる子は男の子なんですけど、何となく自由人って所は森島先輩と似てるかもしれません」

 

「はるかと似てる子ねぇ…。きっと心配してる子は気苦労が絶えないんじゃないかしら」

 

誰かはわからないが、響はその気苦労が絶えないであろう人物に親近感を抱いた。

 

「でもきっと放っておけないんだと思います。森島先輩に対する塚原先輩と同じで」

 

「あら、言う様になったじゃないアキラ」

 

明るい表情を浮かべるアキラを見て、響は心の中で取り合えず一安心した。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、いつもの就寝時間が近づくと裕奈はあくびをした。

 

「そろそろ寝よっか」

 

「だね~」

 

同意して寝る準備を始める裕奈。アキラはその背中を見て若干躊躇しながらも裕奈に聞く事にした。

 

「ねぇ、裕奈」

 

「なに~?」

 

「その、最近ぼーっとしてる事が増えた様に思ったんだけど…何かあった?」

 

「ん~…」

 

動きを止め、裕奈は何か考え始めた。アキラは何も言わず、返答を待っている。

 

「久しぶりにね、お母さんの夢を見たの。だから、ちょっとお母さんの事考えてた」

 

アキラを始め、仲のいい友達には話している。自分の母『明石夕子』は既に事故で亡くなっている事を。裕奈の返答を聞いたアキラは表情を暗くした。

 

「ごめん…裕奈」

 

「も~、なんで謝るの?アキラは何にも悪くないでしょ」

 

「でも…」

 

「はいはい!この話はこれでおしまい!アキラは悪くないし私も気にしてない!次謝ったらおっぱい揉むからね!」

 

「その脅し方はどうかと思う…」

 

アキラの言葉に笑顔を浮かべる裕奈を見て、アキラも少し表情を明るくした。

 

「そんじゃ寝よ?よ~し!今日もお父さんとデートの夢見てやる!」

 

「そんなにやる気出したら眠れないよ?」

 

「大丈夫、私寝つきいいから!」

 

そう言ってベットに入る裕奈。アキラも電気を消してから遅れて自分のベットに入った。

 

「アキラ」

 

「なに?」

 

「心配してくれてありがとね」

 

「ううん、何かあったらいつでも言って?私に出来る事があれば協力するから」

 

「そうする。おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 

 

 

 

 

就寝の準備を始める刹那はソファに座り、腕を組んで目を閉じている真名を見た。

 

「真名、どうかしたのか?」

 

「お前はどう思う。ここ数日の夢について」

 

刹那は一度視線を下げた後、真名に戻す。

 

「正直言ってわからない。確かに大勢が見た夢を毎日覚えているのは少しおかしい気もするが…」

 

「それも決まって己に都合のいい夢だ。何とも、気に食わん」

 

苛立たし気に話す真名に疑問を持つ。確かに気になる事ではあるが、そこまで苛立つ事だろうか。

 

「何がそんなに気に食わないんだ?」

 

「仮に誰かが意図的に行っているとするなら、私達はそいつに都合のいい夢を見させられていると言う事だ。頼んでもいないのにな」

 

「土足で人の中に踏み込んでくる事も、夢を誰かに見させられているのも私は気に食わない」

 

そう言われるとわからなくもない。夢は自分の深層心理からも影響を受けていると聞いた事がある。寝ている時に見る夢と言うものについてはまだわからない事だらけらしいが、仮に自分の感情に結びついているものならば好き勝手に操られてはいい気分はしないだろう。

 

「それにな、いい夢ばかり見させられてもそれはそれで気が滅入る」

 

「失くしたものを取り戻した夢や欲しかったものを掴んだ夢を見た所で、現実で失くした事も掴んでいない事も変わらないんだからな」

 

刹那は再び視線を落とすと、少し表情を険しくして応えた。

 

「ああ、その通りだな」

 

 

 

 

「今日こそは気合いで高畑先生とデートする夢見てやるんだから!」

 

「夢って気合いでどうこう出来るものじゃないと思いますけど…」

 

「今夜はどんな夢やろな〜」

 

(さぁて、俺っちもさっさと寝てウハウハな夢を見るとするか)

 

 

 

 

「さぁ!就寝の時間です!夢の中で待っていてくださいネギ先生!」

 

「あらあやか、昨日は逢襍佗君が出てきたんでしょう?今日はいいの?」

 

「現実で散々苦労を掛けられているんです!夢の中でくらい平和に過ごさせてください!」

 

「これから寝るんだから落ち着いていいんちょ…」

 

 

 

 

「昨日はいい所で目が覚めちゃったから、昨日の続きが見たいなぁ」

 

「お姉ちゃん、アニメじゃないんだから…」

 

「さぁ二人とも、電気を消すでござるよ」

 

 

 

 

建物の明かりがほとんど消えて学園都市が眠りにつく頃、麻帆良の展望台から街を見渡す人物がいる。赤い長髪で瞳の色もそれと同様であり、整った容姿を持つ青年だった。

 

青年はその目に映る街全体を包むように両腕を広げた。その瞬間、青年の瞳が輝き始める。

 

「おやすみなさい、麻帆良の皆さん。どうか今宵も良い夢を」

 

その声はどこまでも優しい。しかし、浮かべた表情はどこか冷たさを感じる笑顔だった。

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  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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