場所は麻帆良学園高等部の教員室。朝のホームルームを控えた時間帯に教員全員が収集された。生徒の数に比例して教員の数も多く三十人以上が教員室に集まっている。普段は一日の日程などを軽く確認する程度だが、今日に限っては教員室は少し緊張感がある。というのも突然学園長からの通達があるといわれたからである。
「急に学園長からのお話があるなんて珍しいですね」
「そうだな」
「最近越谷であった事件のことですかね?」
教員の一人である、いかにも人がよさそうな見た目をした
「ふむ、あの市民館が爆破された事件か」
そう答えたのは高等部の学園広域生活指導員である新田。
一か月前、埼玉県越谷市の市民館が何者かによって爆破される事件が起こった。犯人はいまだ捕まっておらず、その市民館も大きめの龍の銅像が置かれている以外は特に何の変哲もない場所だったため動機もわかっていない。
「よくわからない事件でしたよね。なんであえてあそこを爆破したのか」
「あの銅像は結構有名でしたが、だからと言ってそれだけであそこを狙うっていうのも理由としては弱いですからね」
越谷市は数年前日本で初めて龍が目撃された場所だった。龍は人間に対して比較的攻撃的ではなかったこともあって、越谷市は龍の街として知られ数年で至る所に龍をあしらったものが置かれるようになる。その中でも特に有名だったものが爆破されてしまった大きな銅像だった。
「なにか龍に恨みでもあったんでしょうか?」
「市民館を爆破するようなやつよ?あたしらが考えたところで無駄だって」
英語科教員である眼鏡をかけた女性、源しずながそう言うと、彼女の友人であり体育科担当の二ノ宮が答える。
「どんな理由であれ爆破事件なんて許せません。軽いとはいえ怪我人だって出たんですから!」
「ほんまアホな事するわ。そう言えば小萌先生は銅像見に行きたいって言うてはりましたもんね」
「そうなんですよ!せっかく今度見に行こうと思ってたのに!」
「だからあの時やけに怒ってたのね」
「ち、違いますよ!それはおまけみたいなものです!」
事件に怒りを見せる心理学の専門家、月詠小萌に世界史担当の黒井ななこが反応する。二人の話を聞いていた日本史担当の高橋麻耶が合点がいったという様子で小萌に話しかける。三人とも大人の女性であるが、小萌の見た目は十代前半にしか見えずそれをネタによくからかわれたりしていた。今は本当の子供先生がいるが。
「……」
「どうされたんです高畑先生?」
「ん?いや、僕も何が目的だったのかなぁと考えていてさ」
瀬流彦に声をかけられたのは一年A組の担任である高畑・T・タカミチである。彼はこの話が始まってからというもの、ずっと考え事をしていたようだ。
「タカミチ、この事件のこと何か知ってるの?」
次に周りに聞こえないよう小声でタカミチに話しかけたのは、今最も麻帆良学園で話題と言ってもいい子供先生のネギだ。二人はネギが日本に来る前から知り合いであり、ネギにとってタカミチは教師内では一番信頼している相手だった。それと同時に二人はある理由から行動を共にすることも多い。
「いやこの件については何も。ただ…」
「ただ?」
「なにか嫌な予感がするんだ。うまく言葉にできないけどね」
「嫌な予感…」
タカミチの話を聞いてネギも考えるしぐさをとる。
「ふ~む、今日もネギ先生は悩める少年をやっておりますな」
「何言ってんのよ大河…」
それを離れたところで見ていた英語科教員の藤村大河の言葉に麻耶が反応する。
「藤村先生はやっと年下の先生が来てうれしいんやろ?」
「その通り!何を隠そうこの藤村大河、この高等部教員で最年少でしたから後輩ができてうれしいのであります!」
「その口調は何なんですか…」
ななこに対して元気よく答える大河。その高いテンションに小萌が困惑する。
「前から思ってたけど、大河のそういうところ逢襍佗君と似てるわよね」
話を聞いていた二ノ宮がふとそう口にした。
「あぁ、なんかわかる気がします」
「え~、そうですか?そんなこと思ったことないですよ」
瀬流彦は同意するが大河本人はいまいちピンと来ていないようだ。
「突拍子もないこと言うところとかそっくりよ」
「担任の先生が言うんだから間違いないですね」
祐の担任である麻耶がそう言うと、しずなが笑顔でそれに続く。
「そうかなぁ、ネギ先生はどう思う?」
「へっ?ぼ、僕ですか!?えーっと…なんとなくわかる気がします…」
「あれ?まさかの満場一致?」
いきなり大河に話を振られたネギは少し驚いて答える。それを聞いて周りを見回す大河だったが、どうやら反対意見はないようだ。そんな話をしていると教員室のドアが開く。入ってきた人物を見て全員が背筋を伸ばした。
入ってきたのはこの麻帆良学園都市のトップである『学園長』近衛
「集まってもらってすまんの。それと少し遅れてしまって申し訳ない。ちょっと立て込んでしまってな」
そうあいさつするとコホンと咳ばらいをし、話を始める。
「では本題に入ろうかの。皆も知っての通り一か月前に越谷市で起きた爆破事件じゃが、先ほど別の場所でも同じような事件が起きた」
その言葉を聞いて教員達がざわめく。その反応は予想していたのか近右衛門はそのまま続きを述べる。
「場所は神奈川県にある博物館だそうじゃ。そこがどんな場所だったのか、同じ者たちの犯行なのかそれとも模倣犯なのか、そして怪我人などの詳しいことはまだ何もわかっておらん」
先ほどと違いしんと静まりかえる教員室。各々が苦い顔をする。
「前回起きた場所よりもここから離れたとはいえ、こうも立て続けに起こっては油断はできん。この後のホームルームで各自生徒たちにこの事を伝えてほしい。また、今後しばらくは先月と同じように登校時・下校時の見回りを行っていくつもりじゃ」
近右衛門は教員たちを見渡す。全員が真剣な顔つきで近右衛門を見ていた。
「二年前の多次元侵略戦争の終結から大きな事件は起きていなかったが、いまだ世界は不安定なままじゃ。今の平和がいつまでも続くとは限らん。各々それを心しておくようにの」
教員たちが近右衛門の言葉に頷く。
「それと、生徒たちには落ち着くまでは極力遠出を控えるようにも伝えてほしい。生徒たちや諸君らには負担をかけるが、これも生徒たちのため…よろしく頼む」
そう言うと近右衛門は頭を下げる。それを見て教員たちは『はいっ!』と強く返事をした。
「さて、長くなってしまったの。それでは諸君今日も一日よろしく頼むぞ」
それにまた教員たちは返事を返すと、担当を持つ教師たちは各教室に向かおうとする。そんな時上の階から騒がしい声が聞こえてくる。
「この声はA組か、それと…逢襍佗だな」
ベテラン学園広域生活指導員である新田が、眉間にしわを寄せながら騒ぎの人物たちに当たりをつける。
「「「毎度申し訳ございません…」」」
担任であるタカミチ・ネギ・麻耶が頭を下げる。
「フォフォフォ。なに、元気があって大変よろしい」
印象的な笑い声を出して近右衛門はそう言った。
「まったく能天気な子らやなぁ」
「ふふ、でも私は好きですよ。元気をもらえますから」
「少々元気すぎる気もしますけどね」
「若いんだから元気すぎるぐらいがちょうどいいですって!」
呆れたように言うななこに、笑顔で返すしずなと小萌。そしてこちらも笑顔で続く大河。
「藤村先生が言うと説得力がありますね」
「瀬流彦君、それは褒めているのか?」
「何とも微妙なところね」
「フッ」
瀬流彦の言動にガンドルフィーニが疑問を抱き、二ノ宮がそう言うと神多羅木がクールに笑う。
同僚たちの会話にタカミチは苦笑い、ネギは恥ずかしそうに顔を赤くし、麻耶はため息をついた。
それからタカミチ・ネギ・麻耶が教室の近くに着くと、そこには「勝った~!」と盛り上がるA組と五月に頭をなでられている祐の姿があった。よくわからない光景に三人は顔を見合わせて首をかしげるのだった。
平和を享受する者
心せよ
脅威は常に陰に潜む
揺れる世界
崩れる事はいとも容易い
温もりの日常は遥か彼方
今或るものは不確かな明日
争い呼び覚ますその弾丸
止めることは最早叶わぬ
引き金は既に引かれている
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