「ん~…あれ、ここって…」
目を覚ました裕奈が辺りを見回す。自分達の部屋であることは間違いなく、普段と違う所は自分を含めアキラ以外にもまき絵達が床にそのまま寝ている事だ。
「あ~、昨日そのまま寝ちゃったのか」
そう言って隣のまき絵の頬を優しく指でつつく。
「お~いまき絵~、朝ごはんだよ~」
「ふぇ?もう?」
寝ぼけまなこで答えるまき絵。まさかこれで本当に起きるとはと裕奈は少し驚いた。
「おはよう、まき絵」
「裕奈?あ、そっか。昨日こっちで寝たんだったね」
上体を起こし、伸びをするまき絵を見て裕奈も伸びをすると立ち上がった。
「取り敢えずみんな起こそっか」
「そうだね」
「明日菜~、朝ごはんそろそろ出来るよ~」
「は~い」
木乃香からの声に反応してベットから体を起こす。横を見るとカモが下着に包まれて寝ている。
「うごっ!」
明日菜は下着を取るとカモの体を掴んで下に降りた。
「おはようございます明日菜さん」
「あんたねぇ、こいつ一応あんたのペットでしょ!手綱ぐらい握っときなさい!」
掴んだカモを既に起きていたネギの目の前に突き出すと、その姿にネギは少し怯えながらカモを受け取った。
「は、はい…気を付けます…」
「ったく」
(うごご…朝っぱらからハードだぜ…)
「可愛いもんやん、そないムキにならんでも」
料理の載った皿をテーブルに置きながら木乃香が言うと、明日菜は不満そうな顔をした。
「木乃香は少し甘すぎんのよ。そもそもあんた周りに対しても無防備な所あるし、もうちょっと気を付けなさいよ?」
「え~、そないな事あらへんよ」
「よく言うわよ、祐と距離近い時とかこっちはハラハラしてるんだから。あんなんでもあいつ一応男なんだからね?」
「ウチかて人は選んどるよ、近いのは祐君やからや」
「うっ…」
素直に告げる木乃香に明日菜は何も言えなくなってしまう。
「ほらほら、まずはごはん食べよ~」
言いながらテーブルの前に座る木乃香。カモは明日菜の肩に乗り、小声で喋る。
「こりゃ木乃香姉さんには敵わないっすね」
「うっさい」
「朝ごはん食べたら今日は何しよっか?」
「今日誰か部活とか予定ある人〜」
桜子の発言に合わせ、美砂が問いかけると全員が手を上げなかった。
「シャワー浴びたら取り敢えず外出てみる?」
「外出たら何かあるのがこの街だからねぇ」
「最近何かとおかしな事ばっかり起きてるけどね!」
「ちょっと桜子、縁起でもない事言わないでよ」
「またタライ流し祭りやってたりして」
「少なくとも一ヶ月に何度もやらんやろ…」
「それって二人が逢襍佗君と出たやつだっけ?次やるなら私も出てみようかな。アキラもやろうよ」
「そうだね、ちょっと興味ある」
裕奈がそう言うとまき絵が得意げに胸を張った。
「甘いよ二人とも、あの祭りはそんな簡単なものじゃないんだから」
「そうなの?」
「立ち塞がる困難を抜群のチームワークで突破する必要があるからね!」
「言うて殆ど逢襍佗君が何とかしてくれたんやけどな」
「じゃあ逢襍佗君は次こっちが貰うから」
「だ、ダメだよ!私達の特攻隊長なんだから!」
「物騒やな…いや、そもそもあの祭りが物騒やったわ…」
タライ流し祭りの話題で盛り上がるまき絵達に対して、事情を知らない美砂達は不思議そうな顔をしていた。
それぞれ支度を終え寮のロビーに行くと、和美とあやかが話しているのが目に入った。
「二人ともおはよ〜!」
「おっす、運動部組がお揃いで」
「おはようございます皆さん」
桜子が駆け寄って挨拶をすると二人が振り向いてそう返した。
「ちょうど良かったわ。ねぇ、暇ならこれから下見に付き合ってくれない?」
「下見?なんの?」
和美からのお願いに円が質問すると、あやかが呆れた様に言った。
「もう…お忘れになったのですか?本日私達で納涼会を行うと決めていたではありませんか」
円達は顔を見合わせると、少しして全員が「あ〜」と声を出した。
「ごめん、すっかり忘れてたわ」
「今会えて幸運でしたわ…。これは他の皆さんにも声を掛けた方が良さそうですわね」
「そっちは委員長に任せるわ。で、どうみんな?場所は芝生広場にするつもりだけど、付き合ってくれる?」
「ま、特に予定ないし良いんじゃない?」
「意義なし」
「それじゃ早速しゅっぱ〜つ!」
先頭になって進む桜子に続いて美砂達も歩き出す。
「それじゃ委員長、そっちはよろしくね」
「ええ、朝倉さんもお願いします」
「はいよ〜」
外に向かった和美を見届け、あやかはクラスメイト達に声を掛けに向かった。
「納涼会?そんな話してたっけ?」
「はぁ…貴女もですか明日菜さん。一人目がこれでは先が思いやられますわ」
あやかはまずネギのいる明日菜達の部屋に向かうと、返ってきたのは何ともこれからが不安になる返事だった。
「あれだけ楽しみにしていたのに、そんな事では困りますわよ」
「あ〜、なんか言われてみればそんな気がしてきた…かも」
あやかはため息をついた。
「とにかく、確かに伝えましたからね?それで、ネギ先生はどちらに?」
急にソワソワとしだしたあやかに白い目を向けると、奥からネギが顔を出した。
「委員長さん?呼びましたか?」
あやかはネギを見ると明日菜を押し退け部屋へと入っていった。
「まぁネギ先生!おはようございます!本日もお変わりなく、実に愛らしいお姿ですわ!」
「ど、どうも…」
「今日はネギ先生も楽しみになさっていた納涼会でイタッ!何をするんですか!」
ネギの両手を取り上機嫌で話すあやかの後頭部を明日菜がはたいた事により、あやかが振り返りながら睨みつけた。
「対応してた人を押しのけて侵入してきた奴をはたいて何が悪いのよ!」
「相変わらず野蛮な!ネギ先生、やはりここにいては危険です。今からでも私の部屋へ」
「一番危険な場所に行かせられるか!」
「お二人とも落ち着いてください〜!」
騒がしくなった明日菜達を部屋の中から笑って見ていた木乃香は、スマホを開いて祐に納涼会の事を伝えようと電話を掛けた。しかし暫く掛けても繋がらない。
「ありゃ?いつもはすぐ出てくれるんやけどなぁ。まぁ、また掛け直せばええか」
芝生広場で場所決めを行っていた和美達。大体の話が纏まった時、和美のスマホが着信を知らせる。
「委員長からだ。もしもし?」
『失礼、和美さん。少しお聞きしたい事が』
「なに?」
『部屋に伺ったのですが、超さんとハカセさんがいらっしゃらない様なので。何かご存じではありませんか?』
「ああ、超りんとハカセね。なんか最近二人でラボにこもってるみたい。今日もそこなんじゃないかな?」
『なるほど、ありがとうございます。寮の確認が全て終わりましたらお二人に連絡してみますわ』
「了解、ならエヴァちゃんの方は私が行くよ」
『お願い致しますね』
通話を終えると桜子達がこちらを見ていた。
「超りんとハカセがどうかしたの?」
「部屋にいなかったんだってさ、だからたぶんラボにいるんじゃないかって話」
「あの二人また何か作ってるのかな?」
「今日見せてくれたりして!」
「また変な物じゃなきゃいいけど…」
桜子達が超とハカセの発明品の事で話していると、和美が手を叩いて音を鳴らした。
「はい注目。今から私はエヴァちゃんの家に行って声掛けてくるけど、みんなはどうする?」
「エヴァちんの家⁉︎私気になる!」
「私も見てみたい」
「オッケー、それじゃみんなで」
言葉の途中で和美はある方向を見ると途中で話を止めた。全員がそれに疑問を浮かべると、和美は笑って裕奈を見る。
「裕奈、待ち人が来たわよ」
「へ?」
和美が指差した方向を向くと、そこには女性が立っていた。瞬間、裕奈は満面の笑みを浮かべて駆け出す。
「お母さん!」
立っていた女性、夕子も笑って両腕を広げて迎える。裕奈は飛び付いてその胸に顔を埋めた。
「おかえりお母さん!」
「ただいま裕奈、ちょっと早く着きすぎちゃった」
二人の元にアキラ達もやって来る。
「お久しぶりです夕子さん」
「あら!久しぶりねアキラちゃん!大きくなって、良い女になったわね!」
「夕子さん!私は〜?」
「まき絵ちゃんも成長したわね〜、昔はこんなんだったのに」
「そこまで小さくないよ!」
笑顔で会話する夕子とアキラ達。そんな姿を眺めつつ、和美が声を掛けた。
「ほらほら、今は親子水入らずで過ごさせてあげなきゃ。夕子さんも納涼会に来てくれるんだし、私らはその時にね」
「あら、ごめんなさいね」
「いえいえ。それじゃ裕奈、ごゆっくり」
「ありがと朝倉」
エヴァの家へと向かった和美達を見送り、夕子は優しく微笑んだ。
「良い友達が沢山ね裕奈」
「うん、みんな大切な友達」
抱き合った状態から少し離れると、裕奈は夕子の両手を握った。
「私の部屋に行こ!話したい事沢山あるんだ!」
「そうね、色々聞かせて」
裕奈は夕子の手を引いて自身の部屋に向かう。その幸せそうな姿を少し離れた場所でザジが見つめていた。
朝食を終えた祐は家から出て歩いていると、何かを感じて立ち止まった。
(何だこの感じ…何かがおかしい。周りから意識を感じない)
そう思った祐は普段から人が集まる場所を目指して駆け出す。
街の広場に着くと違和感の正体はハッキリとする。
(静か過ぎる。それにここまで来るのに誰ともすれ違わなかった)
人一人歩いていない街を見渡し、祐はその表情を引き締める。原因は恐らく昨日聞いた夢を操る存在だろう。まさかそいつは街に住む人々をその手中に収めたとでも言うのか。だが仮にそうならこの状況にも納得がいく。
そう考えていると物音が聞こえる。祐がそちらに向かうと、その正体と直ぐに鉢合わせた。
「茶々丸?」
「祐さん…」
音の正体は一人歩いていた茶々丸だった。なぜ彼女がと思ったが、答えは即座に浮かんだ。彼女は夢を見る事がないからだ。だから異変を感じて街に出たのだろう。
茶々丸はゆっくりと祐に近づくと、恐る恐る手を伸ばす。祐はその手を優しく取った。茶々丸は強くその手を握り返すと緊張から解放された様に見える。
「よかった…祐さん、貴方に会えて」
「俺もだよ茶々丸。無事で何よりだ」
茶々丸の肩に手を置いてその瞳を見つめる。
「師匠とゼロ姉さんは、眠ってるんだな?」
「はい、何度呼び掛けても目を覚ましませんでした」
祐は浅く頷くと、再度茶々丸と目を合わせた。
「行こう、師匠の家に」
エヴァの家に着くと、寝ているエヴァとチャチャゼロが確認できた。チャチャゼロに関してはきっと茶々丸が運んだのだろう、静かにベットに近寄ると二人の頬に触れた。
「二人とも本当に眠ってるだけだ。でも、意識がどこにいるのか掴めない」
二人から手を離し、その姿を見つめる。
「夢の世界に囚われてるって事なのか」
一歩後ろで祐の背中とエヴァ達を見ている茶々丸は、その表情を不安で染めていた。その時、祐のスマホが着信を知らせる。相手と通話した後、エヴァ達にもう一度触れてから茶々丸と共に相手が待つ場所へと向かった。
和美達はエヴァの家に着くと、興味深く外観を眺めている。
「は〜、お洒落な家」
「ログハウスって言うんだっけ?」
「いいな〜、ちょっと憧れちゃうわ」
暫く観察して満足したのか和美はチャイムを鳴らした。少ししてドアが僅かに開く。
「誰かと思えばお前達か。何の様だ?」
「おはよーエヴァちゃん。納涼会のお誘いに来たよ」
「納涼会だと?」
疑う様な視線を和美に向けるエヴァを見て桜子が反応する。
「あ!この感じ…エヴァちゃん納涼会の事忘れてたでしょ!」
「私達も忘れてたけどね」
円の冷静なツッコミが入ると、桜子は人差し指を口元に当てて静かにとジェスチャーをした。
「…因みにその話が出たのはいつだ?」
「いつってそりゃあ…いつだっけ?」
「さぁ?」
「一週間ぐらい前?」
「夏休み前だった様な…」
和美達の反応にエヴァは顎に手を当てた。そうしていると今度は何故か己の頬にそっと手を添える。何かを感じているかの様に瞳を閉じると、フッと笑った。
「いいだろう。その納涼会とやら、付き合ってやる」
「あれま、こりゃ珍しい」
「誘いに来たのはお前達だろうが…」
エヴァは髪をかきあげ、和美達を見回す。
「なるほどな、大体わかった」
「何の話?」
「気にするな。それで、場所はどこだ?」
この後の納涼会に合わせ和美達は帰って行くと、エヴァは家の中に戻った。テーブルに座ったチャチャゼロがこちらを見ている。
「オウ御主人、呑気ニアイツラト遊ンデテイイノカ?」
「馬鹿者、そんなつもりはない。お前も感じたろう?」
エヴァはチャチャゼロに見せる様に自分の頬を人差し指で叩いた。
「アア、タブンアッチデ祐ガオレ達二触ッタンダロウナ」
「やはりここは夢の中だ、それで茶々丸がいないのも説明がつく。祐もな」
「チョットヤル気出セバ御主人ハ脱出デキンダロ、ヤラネェノカ?」
その質問にエヴァは笑った後答える。
「私を閉じ込めるなど気に食わんが、こちらで待っていた方が面白いものが見れる。だから暫く付き合ってやるのさ」
「オモシレェモノ?」
エヴァはテーブルに手をついて前のめりになると、チャチャゼロに顔を近づけた。
「方法は予測できんが、祐は必ずこっちに来るぞ。あいつの働き、久し振りにこの目で直接見てやりたいと思わんか?」
言われたチャチャゼロは口角を上げた。
「ケケケ!ソリャイイ。オイ御主人、オレモ行クゾ」
「まぁいいだろう。お前の事は超鈴音とハカセの発明とでも言っておけば、あいつらなら納得する」
「能天気ナ奴ラデ助カルゼ」
「数年一緒の身からすればうんざりするがな」
階段を登るエヴァの足取りはどこか軽い。
「支度だ。祐が来る前にぼーや達が事態を収めるならばそれも良し。どちらに転んでも楽しめそうだな」
「祐ハ敵ヲ殺スカネ?」
「相手による。そこに関してはあまり期待はするな」
「ソリャソウカ」
祐と茶々丸が向かった先は麻帆良大学工学部。そこには関係者以外立ち入る事が出来ない研究室が存在し、そこに目的の人物がいる。
厳重に閉鎖された扉の前に二人が立つと壁から赤外線が照射され、二人を照らしていく。やがて扉が解錠し、中へと続く道が開く。
研究室に入るとそこには力尽きた様に机でうつ伏せに眠る聡美と舟を漕いでいる超がいた。祐が急いで超の元に向かう。
「超さん!来たよ!」
「おお、祐サン…ギリギリ間に合ったネ」
肩に手を置いて超の体を自身に向ける。眠気のピークなのかその瞼は今にも閉じようとしていた。
「ハカセさんは寝てるか、何でこんな状態に…」
「夏休みに入ってから発明品を完成させる為に、限界まで作業を続けては寝るを繰り返していたネ」
「えぇ…」
超のなりふり構わぬ科学者ぶりに少し引いていると超がある物を指さした。祐はそちらに視線を向ける。
そこには白いバンドの中央に透明な宝石の様な物をあしらったレザーブレスレットが、ガラスケースの中に置かれていた。
「あれは…?」
「私達から祐サンへのプレゼントヨ。使用方法は茶々丸が知ってるネ」
「まだ100%の完成度とはいかなかったガ、必要な機能は備わっていル。ぜひ有効活用してほしい」
祐が顔を向けると茶々丸が頷く。
「さて祐サン。私もそろそろ限界だが、何やら大変な事になっている様だネ?」
「あ~超さん、今寝ちゃうのはちょっと拙いかも…」
「すまないが天才も眠気には勝てないヨ。後は任せたネ、祐サン」
超は遂に瞼を閉じて祐の胸に体を預けた。顔を覗くと幸せそうに寝息をたてている。そっと両腕に抱えると、近くのソファに寝かせた。同じ様に聡美もソファに寝かせてブレスレットへと向かう。
「茶々丸、これは何なんだ?」
「はい。このブレスレットは超とハカセによって共同開発された、祐さん専用の装備です」
「俺専用の装備…」
「よしよし、ちゃんと部屋の片づけは出来てるみたいね」
「も~お母さん、私もう16歳なんだからそれぐらい出来るって!料理だって上手くなったんだよ!」
「あら、それは食べるのが楽しみね」
寮の部屋で会話する裕奈と夕子。二人の表情は幸せに満ちていた。
「少し心配してたけど、大丈夫そうね。いい友達にも恵まれてるみたいだし」
「うん、私みんなの事大好き。勿論お母さんとお父さんもね」
夕子は微笑んだ後、ニヤリした表情に変わる。
「お父さんが好きなのは相変わらずっぽいけど、彼氏の方はいつ紹介してくれるのかしらね?」
「か、彼氏!?何言ってるのお母さん!」
「だって裕奈、仲のいい男の子の友達すらいないじゃない。母親としては少し心配だわ」
「そんな事ないし!この間なんて二人で夕暮れの川沿いの道を歩いて帰ったんだから!」
勢いでそう言うと夕子は目を輝かせた。
「あら!裕奈にもそんな子が出来たの!?どんな子!?」
「え、えっと…言っとくけどそういう関係じゃないからね!私が好きなのはお父さんで」
「いいからいいから!何て名前の子なのよ」
口を滑らせてしまったと思いつつも、この話題は流せそうにないので正直に言う事にした。
「その、名前は逢襍佗君って言って…同じ学年の隣のクラスの子…」
「ほうほう。その逢襍佗君って子が裕奈と二人で帰った子なのね」
「確かに一緒に帰ったけど!あの時はただ!……」
その瞬間、赤くなっていた裕奈の表情が一気に曇り始めた。
「裕奈?」
「あの時…私は…」
あの時の事を思い出す。自分は転びそうになったのを祐に助けてもらった。そしてその後、祐に悩みを相談しながら寮へと帰ったはずだ。ではその悩みとは何か、どこかでそれを思い出すなと言う声が聞こえてくる。しかし、その時の光景が次々と蘇り、気が付けば裕奈の体は震えていた。
「お母さんが…帰って来る夢…なんで…お母さんはここにいるのに…」
「あまりその先を考えるのはおすすめしませんよ?」
後ろから聞こえてきた声に振り返る。そこにいたのはどこかで見た事がある様な赤い髪の青年だった。
「貴方…誰…?」
ソニュームは裕奈の顔を見つめると考える様な仕草を取った。
「ふむ…原因はわかりませんが、何かがトリガーになって夢と現実の境界が出来始めたのか。麻帆良の人間はほぼ眠ってこちら側にいる筈ですが…」
「何を言って…」
裕奈は後ずさりながは夕子を見ると、夕子はまるで時間が止まったかの様に停止していた。
「困りましたね、貴女の様な異分子がいるとこの夢に歪が出来てしまう」
裕奈の背中が壁に当たる。もう後ろに下がる事は出来ない。ソニュームは右手を上げ、裕奈に近づいた。
「手荒な真似をするつもりはありません。もう一段、深い眠りに落ちてもらうだけです」
その手が触れそうになる瞬間、二人の間に魔法陣が現れ、それが裕奈を包み込むと裕奈ごとこの場から消えた。
ソニュームは右手を下ろすとその表情を冷たいものに変える。
「姫様か…やはり一筋縄ではいきませんね」
裕奈が目を開けると、そこは寮の前の芝生広場だった。辺りを見渡すが先程の男の姿はない。それと同時に裕奈はどこかで確信した。今見ているこの世界は現実ではないのだと。
「あれ?裕奈?」
エヴァの家から戻り、納涼会の準備を始めていたアキラがやって来る。他のクラスメイトは近くにいない様だった。
「どうしたの?夕子さんと」
言葉の途中で裕奈が胸に飛び込んできたので、慌ててなんとか抱き留める。不思議に思っていると裕奈が涙を流しているのが見えた。
「…裕奈?」
「アキラ…私…どうしたらいいかわかんないよ…」
当然アキラにはその言葉だけでは何もわからない。しかし裕奈が今悲しんでいるのは間違いなく、なら今自分がやるべき事は彼女のそばにいて安心させてあげる事だ。アキラは強く裕奈を抱きしめた。
「おっしゃ、こいつの事は大体わかった。後は向こうに行く方法だ」
「いったいどうしたら…」
「出来れば向こうにいる誰かと話せればいいんだけど…。取り敢えず、ここにいる超さんとハカセさんから」
(逢襍佗さん、聞こえますか?)
祐が振り向くがここには眠っている二人を除けば茶々丸しかいない。しかし先程の声は茶々丸のものではなかった。
「茶々丸、今声聞こえた?」
「いいえ、私には何も」
(私の声は貴方にしか聞こえていません。これでも結構頑張ってます)
「…ザジさんか?」
(正解です逢襍佗さん。現在夢の世界から交信中です)
「茶々丸、ちょっと待ってて!」
「は、はい」
茶々丸に断りを入れてから祐は目を閉じて意識を集中させた。
(駄目だ、小さすぎる。まだそこを見つけられない)
(やはり私一人では目印にはなりませんでしたか。しかしここは彼のテリトリーです。こうして話せる時間もそう長くありません)
(わかった、今そっちの人達はどうなってる?)
(皆さん同じ夢の世界にいます。夢の世界だと気づいているのは私も含めて恐らく数名だけでしょう)
祐は腕を組んで考える。
(そっちの人達にここは夢の世界だって事を自覚させる事は出来そう?)
(やってみましょう、ただし全員は難しい。どなたかリクエストなどありますか?)
(今から言う人を優先で頼む。その人達がそこが夢だって事を自覚したら、伝言を伝えて欲しい)
茶々丸は黙って目を閉じている祐を見つめる。やがて祐がその目を開けた。
「祐さん」
「茶々丸、突破口が開けそうだ」
「我々はどうすれば?」
「方法は一つ。みんなを信じて、その時を座して待つ」
明日菜達は納涼会の準備の為、部屋から出てロビーに向かう。すると目の前に魔法陣が現れ、明日菜達を包んだ。
「は?ちょっと!」
「転移の魔法陣!?」
「あらまぁ」
目を開けるとそこは寮の屋上。周りには明日菜達以外にも何人かいた。あやか・刹那・真名・さよ・そしてハルナの五人だ。
「明日菜さん!貴女達もここに!?」
「お嬢様!」
「やっほ~せっちゃん」
「神楽坂達も来たか。わからんな、何の面子だ?」
「ちょっと想像つきませんね」
「なんか私、すっごい場違いな気がするんだけど…」
ハルナが若干の気まずさを感じていると、先程の魔法陣が現れ中から人が出てくる。
「え…ザジさん!?」
「急展開過ぎて私気絶しそう」
「気絶するなよ早乙女。後が面倒だ」
「龍宮さんが冷たい」
ザジは明日菜達に近づくと頭を下げた。
「突然のご無礼お許しを。しかし、如何せん緊急事態ですから」
((((((((喋った…))))))))
満場一致で同じ事を考えていると、ザジが続きを話し始める。
「さて皆さん、時間がありません。いきなりですが皆さんにはやって頂きたい事があります」
「やってほしい事…ですか?」
代表してネギが聞くと、ザジは頷いた。
「この夢から目覚める為には、皆さんの協力が必要不可欠です」
一番好きな章は?
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序章・始まりの光
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幽霊と妖怪と幼馴染と
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たとえ世界が変わっても
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消された一日
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悪魔よふたたび
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眠りの街
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旧友からの言葉
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漢の喧嘩
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生まれた繋がり