Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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「ごめんアキラ、いきなり泣いたりして…」

 

「ううん、気にしないで。…何があったか、聞かせてくれる?」

 

少し落ち着いた裕奈に優しく語りかけるアキラ。話しても信じてもらえないかもしれない事だが、今は正直に全てを伝えるべきだと裕奈は思った。

 

「たぶん…今から私とんでもない事言うと思う。でも、取り敢えず最後まで聞いてほしいの…」

 

「わかった」

 

そして裕奈はアキラに伝える。母である夕子は既に亡くなっている事、そして今見ているこの景色は夢である事を。

 

「そんな…夕子さんもこれも夢って事…?」

 

アキラは裕奈の言った事に困惑を隠せないでいる。確かに夕子は目の前にいたし、クラスメイト達も普段と変わらずそこにいた。何より今も自分の意識はハッキリとしている。

 

「そう簡単に信じられる事じゃないのはわかってる…でも…でもお母さんはもう亡くなってるの!11年前に事故で!」

 

裕奈は自分で言った事に胸が締めつけられる。わかっていてもこんな事を改めて口になどしたくはなかった。しかし伝えなければならない。先程の赤髪の青年といい、きっと自分達は危険な状況にいる。目に涙を溜める裕奈を見て、アキラは両手で裕奈の肩に触れた。

 

「アキラ?」

 

「正直に言うと今一信じきれてない。これが夢だって実感もない。でも、裕奈がこんな嘘つかないって事はわかるよ」

 

アキラが再び裕奈を抱きしめる。抱きしめられた裕奈は驚きつつも、その腕をアキラの背中に回した。

 

「こんなに辛そうな裕奈を見ちゃったらね…私は信じるよ、裕奈の事」

 

顔は見えていないが裕奈が今どんな表情でいるかを感じ取り、アキラは裕奈の背中を優しく撫でた。

 

「やれやれ、歪みが大きくなってきましたね」

 

その声に二人が反応する。そこにはこちらに向かってゆっくりと歩いてくるソニュームがいた。

 

「さっきの…」

 

裕奈の怯えた表情に、アキラは目つきを鋭くして目の前の青年を見た。

 

「誰ですか…?」

 

「私の事はお気になさらず、貴女達は素直に夢を見ていてください」

 

その赤い目を輝かせて近づくソニューム。それに対して後ずさると、光の矢が二人の頭上を通り過ぎる。それに気付いたソニュームが後ろに飛び退くと、裕奈とアキラの前に二つの人影が現れた。その背中を驚いた表情で見つめる。

 

「明日菜⁉︎ネギ君⁉︎」

 

「なに、その杖と…ハリセン?」

 

ネギと並び立って構えていた明日菜が肩を落とす。

 

「やっぱハリセンじゃ格好つかないか…」

 

杖を構えるネギと肩に乗るカモは少し同情の目を明日菜に向けた後、視線はソニュームに向けたまま裕奈達に話し掛けた。

 

「お二人とも!あの人は僕達に任せて、ここから離れてください!」

 

「えっ、でも…」

 

「大丈夫!時間ぐらい稼いでみせるから!」

 

ネギと明日菜にそう言われ、裕奈は困った顔をする。アキラも同様だったが明日菜達の顔を見て聞き返す。

 

「大丈夫なんだよね?」

 

「勿論!」

 

「大丈夫です!」

 

アキラは裕奈の手を取ると寮に向かって走り出した。

 

「アキラ⁉︎」

 

「信じよう、今は二人を!」

 

力強く手を握るアキラに連れられ、後ろ髪を引かれる思いを抱いて裕奈も走る。

 

「どうやらあなた達もこの世界を夢と認識しているようですね。しかしその自覚は薄い…姫様の入れ知恵か」

 

品定めをする様に二人を見た後、明日菜とネギ越しに裕奈達の背中を眺めた。

 

「先の彼女が歪みの一番の原因、逃すのはよろしくありませんね」

 

指を鳴らすとソニュームの周りに影が生まれる。その影が一つ一つ別れていき、人型になるとその姿が浮かび上がる。形こそ人型ではあるが、その姿は人間とは程遠いものだった。

 

「何こいつら…まるで悪魔ね…」

 

「まぁ、そんな認識でいいでしょう。あなた方が思う悪魔とは正確には違うのでしょうが、重要な事ではありませんからね」

 

「魔族を召喚出来るんですか…?」

 

鋭い視線のネギに笑って答える。

 

「ええ。何せ私、こう見えてそれなりに上の方ですから」

 

「上級魔族…」

 

ソニュームが手を前にかざすと、召喚された魔族達がネギ達を見た。

 

「お願いしますよ皆さん」

 

その言葉を合図に魔族の一体がネギ達に向かってくる。

 

「明日菜さん!」

 

「オッケー!」

 

ネギから魔力を受け取った明日菜が迎え撃つ様に走り出す。目の前の敵をアーティファクトで叩きつけると、敵は粒子の様に消えた。

 

「なんと、これは恐ろしいお嬢さんですね」

 

(やっぱり姐さんのハリセ…アーティファクトには魔法系統に特攻の様なものが付いてるな)

 

前に出てきた一体を排除し、二人はソニュームに対して構えを取る。

 

「子供だからって舐めないでよね!ゆーな達に言った通り、時間稼ぎぐらいしてやるんだから!」

 

「なるほど、それは困りましたね」

 

再度指を鳴らすと魔族が召喚される。

 

「取り敢えず数を増やしますか」

 

「…」

 

「姐さん…」

 

それを見たネギとカモが明日菜を横目で見ると、明日菜がばつの悪そうな顔をした。

 

「余計な事言わなきゃよかったかも…」

 

 

 

 

 

 

裕奈とアキラは寮のロビーに駆け込むと、一旦後ろを見てから膝に手をついて荒くなった呼吸を整える。すると納涼会の準備を行なっていた和美達が二人の様子を見て近寄ってきた。

 

「どうしたの二人とも、そんな急いで?」

 

「なんて言うか…変な人に裕奈が狙われてる」

 

まき絵の問いになんとか伝わる様に色々と簡略化してアキラが答えると、全員が驚いた顔をする。

 

「どう言う事⁉︎」

 

「まさか変質者?」

 

「変質者と言えば変質者かな…」

 

「裕奈、大丈夫なんか…?」

 

「うん、なんとか…」

 

背中を摩る亜子に呼吸が落ち着いた裕奈が顔を向ける。その目が少し充血し潤んでいるのを見て、亜子はその表情を険しくした。

 

「取り合えず警察に電話して」

 

話ながら美砂がスマホを開こうとした瞬間、少し離れた場所に影が生まれる。それは先程と同じ様に人型になるとその姿を現した。

 

「えっと…なにあれ…?」

 

「よくわかんないけど、たぶんいい奴じゃなさそう…」

 

魔族達は裕奈とアキラを見つけるとそちらに向かっていく。

 

「こっち来たよ!?」

 

「遂にスクープじゃい!」

 

「言ってる場合か!」

 

走ってその場から離れる裕奈達。迫る魔族の一体の頭部に何かが当たり、その魔族は倒れて消滅する。それと同時に刹那が裕奈達の間を駆け抜け、残りの数体を夕凪で切り伏せた。

 

「桜咲!?」

 

「あれってマジの日本刀?」

 

「探索は後だ、私達の後ろにいろ」

 

二挺の拳銃を持ち、背中にスナイパーライフルを担いだ真名が歩いて前に出る。

 

「今度は拳銃だ…」

 

「それもマジ物…?」

 

「モデルガンだよ。ただの、な」

 

(あ、たぶん嘘だ)

 

桜子はそう思ったが空気を読んで黙った。

 

 

 

 

 

 

部屋でパソコンの前に座る千雨は、イヤホンをしているにも拘わらず聞こえてくる外からの喧騒に青筋を立てていた。

 

(まだ昼前だからって騒ぎ過ぎだろ!そんなに納涼会が楽しみなのかあいつらは!)

 

先程わざわざ部屋に来たあやかに声を掛けられ顔を一瞬出せばいいだろうと思っていたが、それすらも面倒になってきた。黙って部屋にこもってやろうかと考えていると、今度はドアを強く叩く音がする。さすがに我慢の限界だと机から立ち上がり、大股で床を踏みしめながら玄関へと向かう。

 

勢いよくドアを開けるとそこには鳴滝姉妹・夏美・千鶴・美空・五月がいた。所々あまり一緒にいるイメージがないメンツに面食らっていると、風香と史伽が千雨の手を取る。

 

「お、おい!何だよ!?」

 

「いいからこっち来て!」

 

「大事件です!」

 

二人に引っ張られ外に出されると、寮内の芝生広場が確認出来る場所まで連れていかれる。そこには古菲と楓が既におり、芝生広場を見ていた。訳もわからず取り合えず二人の視線を追うと、そこには更に訳のわからない光景が広がっていた。

 

「なんだありゃ…」

 

自分の見間違いでなければ何やら長い杖とハリセンを持ったネギと明日菜が、赤い髪の男の周りに立つ人ならざる者と戦っている様に見えた。瞬間千雨は目眩がする。

 

「あれって何やってるのかな…?」

 

「喧嘩かしら?もしそうなら止めないと」

 

「ここからだとよくわからないアル」

 

「ふむ、取り合えず他のみんなとも合流するでござるよ」

 

「勘弁してくれ…」

 

「あ~、私もちょっとお腹の調子が…」

 

千雨が頭を抱え、美空がその場から離れようとするが風香が千雨を、古菲が美空の腕を掴んで引きずっていく。

 

「ほら行くよ千雨!」

 

「なんでだよ!?てか意外と力つえーな!」

 

「こういう時に単独行動は危険アル!」

 

「いやぁ~!厄介事に巻き込まれるぅ~!」

 

 

 

 

 

 

「との事でした」

 

「いや雑」

 

ザジから伝えられた祐からの伝言は、現実世界にいる祐に対して、今自分達がいる場所を伝えてほしいというものだった。それだけ言われてもハルナ達はどうすればいいのかまるでわからない。

 

「そもそもザジさんに集められたこのメンバーはなんなのよ?」

 

「確かに、私達に一貫性がある様には…」

 

「逢襍佗さんからのご指名です。自分の力を知っている人達で固めたのでしょう」

 

なんて事も無さそうに放ったザジの発言に、聞いていた全員が固まる。一番先に再起動したのはあやかだった。

 

「ザジさん!貴女祐さんの力の事を知っていたんですか⁉︎と言うかハルナさんも⁉︎」

 

「あ〜…力って虹色の光の事だよね?直接使った所を見た訳でもないし、ストレートに聞いた訳でもないけど、そうなんだろうなぁとは思ってた。てかみんなこそ知ってたの⁉︎」

 

「まぁ、私は祐さんから直接話して頂いたので」

 

「何かなその得意げな感じは?」

 

「私は助けてもらった時に見ました!」

 

「マウント取ってんのかこのヤロー!」

 

「ひぃ⁉︎ごめんなさい!そんなつもりでは!」

 

「まぁまぁハルナ」

 

謎の敗北感を味わい、怒り出すハルナを抑える木乃香。ひと段落ついたのを確認して、ザジは全員に声を掛けた。

 

「さぁ、それでは皆さんお願いします」

 

「いや、お願いしますって言われても…」

 

「どないすればええんやろか?」

 

「私も、出来る事と言えば物を動かすくらいで…」

 

「祐さんは他に何か仰っていませんでしたか?」

 

「『俺に伝えるつもりで、自分はここだ!と強く心の中で念じてくれればいい』との事でした。『必ずそれを見つけるから』とも言っていましたね」

 

「それを早く仰ってください!」

 

重要な事を言っていなかったザジにあやかが詰め寄る。それを眺めながら、そうは言ってもとハルナは思った。

 

「念じるったって、ここ夢の中なんでしょ?それだけで伝わるもんなの…ってもうやってる!?」

 

横を見ると既に木乃香とさよは、祈りを捧げるシスターの様に胸の前で手を組んで目を閉じていた。

 

「大丈夫やってハルナ」

 

目を閉じたまま木乃香が言う。

 

「祐君なら、きっと見つけてくれる」

 

「はい!逢襍佗さんなら大丈夫な気がします!」

 

迷いなく言ってのける二人にハルナは乱暴に頭を掻いて身体をうねらせた。

 

「くっそ~!このピュア少女共め!上等よ!駄目で元々…届け!私の想い!」

 

「仕方ありませんわね、雪広あやか!参ります!」

 

同じポーズで祐に念を送るハルナ達。それをザジが黙って見つめるという何とも奇妙な光景が生まれた。

 

 

 

 

 

 

「つまりなんだ?今私たちのいる世界は夢の世界で、外で神楽坂達と戦ってる赤い髪の奴が黒幕と」

 

「たぶん…そういう事なんだと思うけど」

 

「マジで笑えねぇ…」

 

下に降りる途中、同じ様に下に向かっていた夕映とのどか、そしてロビーで裕奈達と出くわした千雨達はアキラから現状の説明を受ける。現実味の欠片もない話だが、先程の光景・そして少し先で人外の者を退治している刹那と真名、それに混ざった古菲と楓を見て千雨はまだこれが夢の世界と思った方が精神衛生上マシな気がした。

 

「こんなに意識がしっかりしてるのに夢なのね」

 

「ちづ姉落ち着いてない?」

 

「こんな時こそ落ち着かないとね」

 

「目の前のあれ見て落ち着けるの素直にすごいと思うよ…」

 

千鶴と夏美の視線の先には魔族に対して大立ち回りを繰り広げる刹那達の姿がある。千雨程ではなくとも、その光景に何も思えずにはいられなかった。

 

「そもそも何でレッドマンはゆーなを狙ってるの?」

 

「お姉ちゃん、レッドマンって誰?」

 

「あの外の人」

 

「そ、そっか…」

 

「たぶんだけど、私がこれを夢だって気付いたからだと思う。それがわかると困るみたいな事言ってたし」

 

「なるほどね。でもよく気付いたね、これが夢だって。なんかあったの?」

 

「それは…」

 

美空に聞かれた裕奈は少し辛そうな顔をする。

 

「あ~…私もしかしていらん事聞いた?」

 

「美空さんデリカシーが無いです」

 

「悪かったな…」

 

夕映に言い返したい気持ちもあったが、美空はそれ以上何も言えなかった。

 

「ううん、大丈夫。私が夢だって気付けたのは」

 

首を横に振ってから裕奈が答えようとすると外で大きな音が鳴り、その後強い光がガラスから漏れ出した。

 

「今度はなんだよ!?」

 

「もしかして明日菜達?」

 

「そうだった!外で戦ってるんだった!」

 

和美達は刹那達から適度に距離を保ちつつ、ガラス越しに外を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)光の3矢(セリエス・ルーキス)!」

 

ネギから放たれる光の矢はソニュームへと向かう。壁になろうとする魔族を明日菜が消し、光の矢は止まる事無く対象を捉えた。障壁を張り攻撃を防ぐが、ソニューム側は先程から防戦が続いている。

 

「経験は浅い様ですが才能を感じます。どちらも若い事を加味すれば充分過ぎるでしょう」

 

「けっ、随分と余裕そうじゃねぇか」

 

服の埃を払いつつ、ソニュームはカモを見た。

 

「そうでもありませんよオコジョ君。私は確かに上位魔族ではありますが戦闘は好きではなくてね。正直もうやめたいぐらいです」

 

「だったら今すぐ皆さんを開放してください!それで問題は解決します!」

 

「すみませんね少年、そういう訳にもいかないのです」

 

「なんなのよあんた!そもそも何がしたいわけ!?」

 

ネギの横に立った明日菜がハマノツルギをソニュームに向けて突きつける。それに対して笑顔を見せた。

 

「私の望みはただ一つ。心の存在の証明です」

 

「心?」

 

「夢は心を映す。夢とは心から生まれくるもの。その因果関係を解明する事が、心を紐解く近道だと私は考えています」

 

「え~っと…つまりどういう事?」

 

「要するに、心に関する謎が解けるまであなた達には眠っていて欲しいのですよ。何年掛かるかは断言出来ませんが」

 

「はぁ⁉︎そんなのお断りよ!」

 

「この夢の世界は現実と密接に繋がっています。ここで生きれば現実でも生きる。逆も然りですがそこは私が安全を保証しましょう、皆さんは貴重な素材ですからね。あなた達はただ見たい夢を見続けてくれればいい」

 

そこまで言って、ソニュームは不満そうな顔をする。

 

「なのに現実に戻りたいと思うのは何故です?それほど現実の方が楽しいものだとは到底思えませんが」

 

「そこにあるのは幻だからです。どんなに素敵な夢でも、それは本物じゃない」

 

明日菜に変わってネギが答える。しかしソニュームは納得出来ていない様子だった。

 

「本物かそうでないか、そこまで重要な事でしょうか。本人が幸せを感じられればそれで良いとは思いませんか?現実に戻った所で、待っているのは辛い事で溢れている日々ですよ」

 

一度ネギは目線を落とすが、直ぐに強い意志のこもった目で見返した。

 

「夢に生きるか現実に生きるか、それを決めるのは生きているその人です。少なくとも僕は…強制的に夢の世界で生かせようとする貴方には協力出来ません」

 

「そうですか…」

 

心底残念そうに肩を落とす。やがてその目を光らせると両手を前に突き出し、魔法陣が現れ光の球体を作る。

 

「力尽くは趣味ではないのですがね!」

 

それを見て構えるネギと明日菜。

 

「兄貴!強力な魔力の流れだ!撃ってくるぞ!」

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル!」

 

詠唱を始めると、ネギの身体を魔力の光が包む。それを阻止せんと迫ってくる魔族の前に明日菜が立ち塞がった。

 

「行かせるかぁ!」

 

横一線に薙ぎ払いを行うと、その風圧で辺り一帯の敵を吹き飛ばす。

 

「ナイスだ姐さん!」

 

闇夜切り裂く(ウーヌス・フルゴル) 一条の光(コンキデンス・ノクテム)

 

我が手に宿りて(イン・メア・マヌー・エンス) 敵を喰らえ(イニミークム・エダット)

 

白き雷!!(フルグラティオー・アルビカンス)

 

左手から稲妻を放出するネギ。迎え撃つようにソニュームの作り出した球体が変化し、レーザーの様に発射された。ぶつかり合う二つの光、その衝撃波で周囲を激しく揺らした。

 

「くっ!」

 

「ここが正念場だ兄貴!気張れ!」

 

「ネギ!」

 

双方から放たれた光は拮抗し、ネギは何とか歯を食いしばって衝撃に耐える。

 

「大したものです少年。戦闘向きではないとは言え、私はこれでも君の倍以上の経験と生を送ったというのに」

 

笑顔を見せるソニューム。決して余裕などは無いが、それでも彼は笑って見せた。

 

「しかしこんな機会をみすみす逃す訳にもいきません。年甲斐もなく張り切らせてもらいましょう!」

 

勢いを増す攻撃に、ネギの身体が少し後ろに下がり始めた。しかし闘志は衰えていない。全身に力を入れ、大地を踏み締める。

 

(こんな所で膝をついてられない!そんな事したらエヴァンジェリンさんにも、父さんにも笑われちゃう!)

 

ネギの脳内に浮かび上がるのは師であるエヴァと父であるナギの顔。そして、もう一人。

 

(あの人はきっとここで負けても僕を励ましてくれる。でも、それじゃ駄目だ!)

 

(それじゃあの人の隣に行けない!同じ所に立てない!)

 

エヴァから言われていた。それ相応の覚悟がないなら距離を置けと。血の繋がりもなければ、出会ってまだ一年も経っていない。目指すものも違う。そんな相手の為に困難を共にする必要があるのかと。

 

その言葉に思う所が無い訳ではない。しかし、だから彼と距離を置くという選択肢は自分の中には生まれなかった。

 

きっと彼に関して知らない事の方が沢山ある。それこそ自分はまだ何も知らないのかもしれない。それでも、彼の近くに居たいと思ったこの気持ちに嘘はない。

 

少しずつネギの魔力が増幅していく。辺りを揺らす暴風に押されながら明日菜はその光景を見つめ続けた。

 

『ネギくーん!』

 

『ネギ先生!』

 

少し先からの声に目を向ける。そこでは自分の生徒達がこちらを見ていた。

 

「よくわかんないけど頑張れネギ君!」

 

「よくわかんないけどやったれ~!」

 

「よくわかんないけどレッドマンなんかに負けるなー!」

 

「お前らよくわかんない言うの禁止だ!」

 

周りの発言に千雨はツッコみを入れながら、その目はネギに向けられていた。

 

「根性見せるアルヨネギ坊主!」

 

「この感じ…助太刀は無粋でござるな」

 

「頼むぞネギ先生、ここで仕事が終われば私が楽になる」

 

「真名…」

 

屋上で祈り続けるあやか達にも、戦闘の余波が伝わっていた。

 

「何ですの!この揺れは!?」

 

「なんかバチバチ言ってるんだけど!?」

 

「大丈夫ですよ、皆さんは集中してください」

 

「この子すっごい簡単に言う!」

 

「う〜ん…集中、集中…」

 

(祐君、ウチらはここにおるよ)

 

状況をあまり認識出来ていない者が大半だろうが、それでも自分を応援してくれているのに変わりはない。そこでネギはかつて掛けられた言葉を思い出す。

 

『一生懸命な人は、応援したくなるもんさ』

 

『行ってこいネギ。俺だけじゃない、沢山の人がお前の力になりたいと思ってるぞ』

 

その瞬間、ネギがその目を見開く。

 

 

 

 

 

 

超と聡美が寝ているソファの近くで祐は胡座をかいて地面に座り、腕を組んで目を閉じていた。茶々丸はその隣で正座をしている。

 

すると祐が目を開ける。確かに聞こえた、自分に向けて送り届けられた声が。

 

もう何も問題はない。充分過ぎるくらいだ。届いた想いは、何処とも知れない夢の世界への確かな道標となった。

 

「見つけた」

 

 

 

 

 

 

「なんと…!」

 

ネギから放出されていた稲妻が二倍の大きさになり、赤い光を押し返し始める。

 

「はは…ハハハ、素晴らしい!想いの力、心の力とでも言うのか!」

 

ゆっくりと近づくネギの稲妻、その光景にソニュームは笑わずにはいられなかった。

 

心配そうにネギを見ていた裕奈が拳を握り、思い切り叫ぶ。

 

「ネギ君‼」

 

「だぁーーー!!!」

 

「やはり存在する!間違いなく!」

 

その言葉の直後、ソニュームは光に呑まれた。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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