薄く目を開ける、そこに広がるのは見慣れた自室の天井。上半身をゆっくりと起こし、辺りを見渡しても目に映るものはいつも通りの景色だ。時計を確認すると時刻は13時を示している。
「帰って来れたの…?」
ベットから出た裕奈はアキラの元へ向かう。見るとアキラは目を開ける瞬間だった。小走りで近寄るとその顔を覗き込む。
「ん…裕奈?」
「アキラ」
起き上がるとアキラも周囲を見渡す。暫くして裕奈に顔を向けた。
「ここって現実…だよね?」
「…たぶん」
意識もしっかりしていれば、目に見える景色も普段のものだがそれは先程に関しても同じ事。しかし裕奈には夢が終わったと思える要素があった。
「お母さんの事、今はちゃんとわかる。きっと…終わったんだね」
浮かべた笑顔に儚さを感じた。アキラは静かに裕奈を抱きしめると、裕奈も抱きしめ返す。胸に残る切なさは間違いなくある。だが、同時に悲しみすらも包み込む温かさが胸に灯っているのも間違いない。裕奈はアキラを抱きしめながら、その温もりを心の中で優しく抱きしめた。
すると足音が近づいてくる。二人が音のする方向を見ると、玄関からクラスメイト達がなだれ込んできた。
「裕奈!アキラ!起きてる!?」
「よかった!起きてる!」
「もう夢ちゃうよね!?」
「さっきの事覚えてる!?」
「あの虹の光がこう…上からドバー!っと来たやつ!」
「最後は雷バリバリーって!」
「あんたら落ち着きなさい!」
全員が一斉に入ってきた事により下敷きになった何人かは苦しそうだが、それでも全員が興奮気味に話し続ける。裕奈とアキラはお互いの顔を見つめると、柔らかく笑った。
「だぁ〜〜‼︎やっぱり写真撮れてない〜〜‼︎」
「最近の朝倉少し不憫かも…」
学園都市が夢から解き放たれ、街に住む全員がその目を覚ます。今日予定のある者は時間を見て驚愕し、いつもと同じように過ごしていた日常が夢だとわかると急いで準備を始める。街全体を巻き込んだ今回の事件は知らぬ間に起こり、知らぬ間に解決された。
その夢を創り出した者、そしてその夢を終わらせた者の事は彼女達しか知らない。
研究室のソファーにて、超と聡美は目を覚ました。自分達の寝ている場所、掛けられた毛布を確認していると茶々丸が声を掛けてきた。
「お目覚めですか、お二人とも」
「お~茶々丸、毛布は君カナ?ありがとうネ」
「お気になさらず。それと、そこまで運んでくださったのは祐さんです」
茶々丸が後ろを見ると二人もそちらに目を向ける。そこには机に寄りかかってこちらを見ている祐がいた。
「おはようでいいのかな?取り合えず、調子はどう?お二人さん」
「うむ、中々いい夢だったネ」
「久し振りに寝起きが気持ちいい気がします」
二人の返答に祐は少し笑う。聡美は祐の手首に自分達が送ったブレスレットが付けられているのを確認した。
「私達からのプレゼント、気に入って頂けましたか?」
「凄く助かったよ。いつも服が汚れたりボロボロになるから大変だったんだ。それに俺の正体に関しても、ね。便利な物をありがとう、超さん、葉加瀬さん」
祐は言いながらブレスレットに触れる。その姿に二人もご満悦の様だった。
「気に入ってもらえた様でなによりネ。作った甲斐があったヨ」
「まだまだ調整したい所はあるので、定期的に来てくださいね」
「喜んで。お世話になるよ」
そう言うと祐はブレスレットを興味深そうに見つめた。
「それにしても凄いねこれ。効果とかは茶々丸に聞いたけど、いったいどんな仕組みなんだかさっぱりだ」
祐の発言に聡美が嬉しそうに立ち上がった。
「そういう事ならお任せ下さい!今からご説明致しましょう!」
聡美が祐の手を引いてホワイトボードまで連れて行く。苦笑い気味な祐と満面の笑みの聡美を見て、超と茶々丸は笑顔を浮かべた。
「おやおや、祐サンが藪をつついて蛇を出したカナ?」
「私は飲み物をご用意致します」
超が二人の元へ、茶々丸は飲み物を取りに向かった。
「聡美博士!これの説明を受ける前にお聞きしたい事があります!」
「はい、なんでしょう逢襍佗君!」
手を上げる祐に、ノリノリな聡美が指をさした。
「聡美博士は保健体育に関してはどれ程の知識をお持ちでしょうか!もし宜しければ私と実技試験でも」
「大変ダ、まさかここにもエロ河童がいたとはネ」
「え?この後に納涼会の準備?」
取り合えず一旦各々の部屋に戻った明日菜達。部屋で遅めの昼食を食べていると、桜子から電話が掛かってきた。
『せっかくやる気になってたのに、お流れになるのはなんか悔しいもん!』
「言いたい事は分かるけど、あんな大変な事があった後にまだ騒ぐの…?」
『わかってないな~明日菜!あんな事があったからこそだよ!』
桜子の気持ちは理解できるが、それでもこうして直ぐ行動に移せる彼女の逞しさに尊敬と呆れを同時に感じた。
「…わかった。木乃香達にも言っておく。どうせやりたいって言うだろうしね」
『オッケー!夕方にかけて準備しよ!ご飯食べ終わったらまた電話するね~!』
「了解」
通話を終えて、仕方なさそうに笑う明日菜。横を見ると木乃香とネギがこちらを期待した目で見ていた。
「なぁなぁ明日菜、今納涼会がどうとか言うとらんかった?」
「もしかして、この後やるんですか?」
「ほんと逞しいわねあんた達…」
クラスの全員に連絡が伝わり、納涼会の準備を行うA組。夢の中でとはいえ予定は全て決めていたので、後は実際に必要なものを用意するだけだった。
「せっかくだし、花火でもやらない?」
「お~!いいね!」
「買い出し組に頼む?」
昼に行われる予定だったのもが夕方にずれ込んだ事もあり、当初は予定の無かった花火の案が上がる。既に買い出しに出ていたグループに追加でお願いをしようとしていたところで、芝生広場で準備していた裕奈が手を上げた。
「あ、ならそれ私に任せてくれない?」
「裕奈さん?よろしいのですか?」
少し心配気味に聞くあやかに裕奈は笑って答える。
「任せなさい!なんせ私、麻帆良のロケット花火と呼ばれた女だよ!」
「何ですかそれは…」
「それに、今回みんなには沢山助けてもらったし…ちょっとくらい何かしないとね!」
「裕奈さん…」
笑ってそう言う裕奈の顔を見て、あやかは優しく微笑んだ。
「わかりました、それではお願い致します。ではあともう一人」
言葉の途中で手が上がる。全員がそちらを見ると、手を上げていたのはザジだった。
「ザジさんが一緒に行ってくれるの?」
「…」
(((((元に戻ってる…)))))
夢の世界の時とは違い、裕奈の言葉に無言で頷くザジ。あれは夢の世界だからああだったのだろうかと、ここにいる誰もが疑問に思った。
「えっと…じゃあ、よろしくね?」
「よろしく」
(大丈夫かな…)
普段通りのザジに、アキラを始め周りはそう思わずにいられなかった。
その後二人で花火を買いに行く裕奈とザジ。隣だって歩くが、二人にこれといった会話は無かった。
(ど、どうしよう…考えてみたらザジさんと話した事なんて無かったかも…。まず何を話せば)
「裕奈さん」
そんな事を考えていると、まさかのザジから声を掛けられた。心臓が跳ねるが、なんとかそれを落ち着かせて返事をする。
「な、なにかな?」
「この度は、私の知り合いがご迷惑お掛けしました」
そう言って頭を下げる。それを見て裕奈は色々と驚いた。
「そんな、ザジさんは別に!…って知り合い!?」
顔を上げると、ザジは裕奈を見て話し始める。
「彼とはこちらに引っ越してくる前の知り合いでした。特別近しい関係という訳ではありませんが、それなりに長い付き合いと言えます」
「そ、そうなんだ…」
確かに夢の中でも二人は顔見知りの様に話していた気がする。段々とあの時起きた細かい事がぼやけてきている気がするが、印象的な事はよく覚えていた。
「彼は昔から変わった力を持っていて、そして何より異常なまでに知識に取り憑かれていました」
「知識に取り憑かれる?」
変わった力というのは実際にこの目で見たから理解は出来る。しかしその後の事はよくわからなかった。
「気になった事はとことん調べ尽くすと言った具合です。対象のものが理解できるまでは絶対に他の事をしなくなるぐらいの」
「そりゃまた…大変だね…」
それ以外の言葉が思いつかなかった。ある意味そういう人物の事も変態と言うのだろうか。
「彼が次に目を付けたのは、生物に宿ると言われている心でした。夢と心は密接に繋がっている。そう考えた彼は自身の能力を最大限使用し、今回の事件を起こしたようです」
裕奈は視線を落とす。夢と心、少し前までは分からなかっただろうが、先程の事件を終えて裕奈には夢と心に繋がりがある事を理解できた。他ならぬ自身の心で。
「この街の中でも裕奈さんに目を付けたのは、きっと貴女の夢が他の人達よりも価値があるものだと結論付けたからでしょう。あくまで私の予想ですが」
裕奈に様々な疑問が生まれる。一つ一つ聞くには時間が掛かり過ぎる程の。その中でも特に気になっている事は…
「あの人は、どうなったの?」
「彼は自分の国に強制送還されました。そこで今回の罰を受けるでしょう。決して軽くはない罰を」
「そうなんだ…」
ザジは裕奈を見つめ、改めて頭を下げる。
「この街の皆さんに、特に裕奈さんには大変な事を彼はしました。同郷の者として、改めて謝らせて下さい」
裕奈はその姿を見て、一歩進むとザジの両肩を掴んで起き上がらせた。
「確かにすっごい大変だった。悲しくて沢山泣いた。あの人の事は嫌い。でも、ザジさんの事は好き」
その言葉にザジは何も言わず裕奈を見つめた。
「よく分かんないけどさ、ザジさん…私達を助けてくれたでしょ?」
「直接的な事は何も出来ませんでしたが」
「それでも、助けてくれてた事に変わりはないよ。だから、ありがとうザジさん。私やみんなを助けてくれて」
今度は裕奈が頭を下げる。ザジは先程の裕奈の様に両肩を掴んで起き上がらせた。
「ではここら辺で手打ちにしましょう。終わりが見えませんからね」
「賛成!」
笑顔を浮かべると裕奈はザジの手を取って歩き出す。
「さぁ!私達の仕事は花火を買ってくる事!しっかりその役目を果たそうじゃないの!」
頷いたザジは裕奈に歩幅を合わせて歩き始める。
(やはり、人間はいい。彼女達の営みは愛おしく思える。その時は、そう遠くないのかもしれませんね)
口には出さず、心の中でそう呟く。今すぐとはいかずとも、自らが望む瞬間はきっと訪れると思えた。
そこから少し離れた屋根の上。手を繋いで歩き出した二人の背中を祐が見送っている。
「これも立派な覗き見か、人の事言えないな」
「それでは!現実世界へ無事帰還を果たした事を祝しまして!かんぱ~い!」
『かんぱ~い!!!!』
日が暮れ始めた頃、芝生広場にて納涼会が行われた。それぞれが飲み物や食べ物を持ち、賑やかに過ごしている。
「ネギ君!また手から変なの出して~!」
「む、無理ですよ!あれは夢の中限定なんですから!」
「そんな事言って~。ネギ君ほんとは魔法使いとかなんじゃないの~」
「そんな訳ないじゃないですか!やだな~もう、あはははは…」
桜子達に詰め寄られているネギはタジタジである。
「あくまでしらを切るつもりね…それならこっちにも考えがあるわよ!」
「な、なんですか…?」
「なにって…ねぇ?」
「これしかないでしょ!」
「わ~ん!やっぱり~!」
ネギを囲んで服を脱がせ始める美砂達。回数を重ねる度その手際が良くなっているのは悲しいかな、まったく自慢出来ない。
「ほんと、何やってんだか…」
「ネギ君大変やな~」
「大変で済むのでしょうか…」
明日菜・木乃香・刹那がその姿を見ていると、明日菜が思い出した様に木乃香に聞く。
「そう言えば祐は?連絡したんでしょ?」
「それがな~、今回は遠慮しとくって。今日は頑張ったみんなで楽しんでおいで言うてた」
少し残念そうに言う木乃香。明日菜は眉をひそめた。
「頑張ったみんなでって…あいつだって」
「祐がそう言ったのなら好きにさせておけ」
言葉の途中で割り込んだのはエヴァだった。手にはイカ焼きを持ち、隣には茶々丸がいる。
「エヴァちゃん」
「大方、今回表向きには何もしていない自分が行ったら邪魔だと考えているんだろう」
「そんな、ウチら誰もそないな事気にせんのに…」
エヴァは木乃香に目を向けると、ため息をついた。
「あいつは時々かっこつけたがる。今回も恐らくそんなとこだ。気にする様な事でもない」
「祐のことを思うなら、精々楽しめ。その方があいつも喜ぶだろうさ」
それだけ言うと、エヴァはその場から離れる。茶々丸はお辞儀をしてから後についていった。
「明日菜…」
「なに木乃香?」
「なんやエヴァちゃん、祐君に詳しない?」
「あ~、どこから話せばいいやら…」
言われてみれば木乃香はエヴァの正体も知らなければ、祐との関係も知らなかった。言葉通り、どこから話したものかと明日菜は頭を悩ませた。
「さぁさぁみんな!そろそろ花火タイムといこうじゃないか!」
『イエーイ‼』
(こいつら体力底なしかよ…)
それから少しして、裕奈とザジが買いに行った花火を取り出し始める。全員がそれぞれ花火を持つと、火をつけた。
「花火とか久し振りかも」
「あは~、なんか夏って感じ」
「ノスタルジーだね!ノスタルジー!」
「言いたいだけでしょ」
ザジは黙って袋に入った花火を見ていると、それに気が付いた超が話し掛ける。
「やぁザジサン。どれか良さそうな物はあるカナ?」
「これ」
そう言って指さしたのは線香花火だった。
「ほうほう…ザジサン、中々渋いネ」
派手な花火が終わると、他のクラスメイトも線香花火に手を伸ばした。先程とは打って変わって、静かにその光を眺めている。
裕奈と隣り合ったアキラは、線香花火に目を向けつつ裕奈を見た。その顔に憂いは無く、純粋に微笑んでいる様に感じられる。その事にアキラは一安心した。
「アキラ~、そんな見つめられたら照れるにゃ~。私に見惚れちゃった?」
気が付くとニヤニヤしながら裕奈がこちらを見返している。隙を見せてしまったと思いながら、普段通りのやり取りが心地よかった。
「ふ~ん…もう大丈夫そうだね、暫くは心配しなくていいかも」
「ああん、ごめんてアキラ!」
冷たい様な態度を取って少し笑うと、裕奈も笑って返す。
「ありがとう、アキラ」
聞こえてきた声にアキラは裕奈を見た。
「今もね…寂しい気持ちはあるし、悲しいって気持ちもある」
「だけど、昨日より少し進めそうなんだ。そんな気がする」
「裕奈…」
お互いが持つ線香花火が二人の顔を照らす。僅かな灯りでも、すっかり日の落ちた今では充分だった。
「教えてもらったから、そういう気持ちも持ってて良いんだって。だから、寂しいも悲しいも全部持って歩いてく。そして、いつか思いっきり笑ってやるんだ!」
その裕奈の顔を見て、アキラは微笑む。
「大丈夫だよ、裕奈なら。私達も一緒」
「うん!みんなも居てくれるんなら、きっと大丈夫!」
そう言って笑顔を見せた後、何かに気づいたような顔をした。
「どうしたの?」
「昨日ね、逢襍佗君が言ってたんだ。あんまり大丈夫って言い過ぎない方がいいって。信用してもらえなくなるんだって」
「ふふ、そうなんだ」
直接見た事はないが、それでもアキラは祐の大丈夫発言を疑う明日菜達を容易に想像できた。
「でも、今はいいよね!だって本当に大丈夫だし!」
「そうだね、本当に大丈夫ならいいと思う」
線香花火が落ち、かすかな灯りが消える。周りも同じように終わりを迎えた頃、超が立ち上がった。
「よ~し皆の者!今日は特別な物をハカセと用意したネ!茶々丸!例の物を!」
「はい」
茶々丸も立ち上がり、対象の物を取りに向かう。
「なになに!」
「また変な発明?」
「変な発明は嫌アル…」
「変なとは失礼な!私達はいつだって真剣ですよ!」
周りが集まってくると、茶々丸はどこから取り出したのか巨大なバズーカを構えた。
「なんですかその物騒な物は!?」
「名付けて!『レインボーファイヤーワークス』ネ!」
「それ危ない物じゃないわよね…」
「人に向けて撃たなければ無問題ヨ」
「それは大前提でしょ」
一人自宅で横になっている祐。何もせずにぼーっとしていると家のチャイムが鳴る。玄関に向かい、ドアを開けると立っていたのはチャチャゼロだった。
「ゼロ姉さん?どうしたの、一人で来るなんて珍しい」
「御主人モ茶々丸モ出払ッチマッテルカラナ、付キ合エ」
そう言って一升瓶を見せるチャチャゼロに、祐は苦笑いした。
「ゼロ姉さん、俺一応未成年だよ」
「今更何言ッテンダ、ソモソモオマエ酔ワネェダロ」
「そういう事ではないぞ姉さん」
そう言いつつも、付き合うのが祐という人間である。
「部屋でいい?」
「セッカクダ、上デ飲モウゼ」
「かしこまりました」
部屋からレジャーシートと自分の飲み物を持ってくると、チャチャゼロを肩に乗せて近くの高いビルの屋上へと飛んだ。
一瞬で屋上へと着いた二人は持ってきたシートの上に座って、お互いの飲み物を軽くぶつける。
「ナンダコーラカヨ、相変ワラズ子供舌ダナ」
「いいじゃないの、だって酒は美味いと思えないんだから」
「修行ガ足ンネェゾ」
チャチャゼロの発言に祐は笑う。二人は下に見える街並みを暫く眺めていた。
「オマエ、家族ニ会イタクナッタンジャネェカ?」
隣に座る祐を横目で見ながら聞いた。祐は正面を向いて街を見たまま答える。
「そんなのずっとだよ、今に始まった事じゃない」
「ナラ会エバイイジャネェカ、今日ヤッタミタク出来ンダロ?」
「もう一回会ってるから。あの時にね」
「他の人がやるのは別にいいけど、俺が何回も会おうとするのは…少し狡いよ」
「ソリャ誰ノ為ニシテル我慢ナンダ?」
「勿論俺の為だよ、他の誰でもない」
そこでお互い口を閉ざす。少ししてチャチャゼロは立ち上がると、祐の目の前に来た。
「オイ、頭下ゲロ」
「……えっ、なんで?」
「早クシロヨ、ブッ飛バスゾ」
「怖いよこの人…」
怯えながら祐は観念し、背中を丸めて頭を下げる。そうするとチャチャゼロは力強めに祐の髪の毛をかき乱し始めた。
「いでででで!」
「テメェハマッタク、メンドクセェンダヨコノ野郎」
「あ~!ちょっと!強い強い!禿げる!」
それが終わった頃には祐の髪は台風に煽られたかの様に無造作に飛び跳ねていた。それなりに満足したのか、チャチャゼロは一升瓶を持って胡坐をかいている祐の上に座る。
「毛根が死ぬとこだった…」
「殺シテネェンダカラ感謝シロ」
「禿げたら責任取ってくれんのか!」
「禿ゲテモ愛シテヤルヨ」
「なにこの姉さん、格好いいんだけど」
祐はチャチャゼロに後ろから腕を回した。
「ありがとね、わざわざ見に来てくれて」
「今日ハ面白レェモノガ見レタ、ソレデチャラダ」
そんな時、遠くから大きな音が鳴ったかと思うと、空に鮮やかな花火が打ちあがった。
「アン?花火カ」
「あっちの方向は…ああ、みんなだな?」
打ち上げられている方向から、誰によるものか察した祐は笑いながら言った。。連続で夜空に現れる花火に祐達の顔も照らされる。
「ケケケ、オアツラエ向キニ虹色ジャネェカ。礼ノツモリカモナ」
チャチャゼロの予想は当たっている。この花火は超と聡美が祐の虹の光をイメージして作ったものだ。祐は静かに花火を見つめる。
「泣イテモイイゼ?」
「ゼロ姉さんが来てくれた時点で泣いてるよ。涙が出てないだけでね」
「連発も可能ヨ!茶々丸!空になるまで撃ち続けるネ!」
「承知しました」
「これだけ撃てばきっと気が付きますよ!」
「いいぞ~!」
「やれやれ~!」
「ちょっと!流石に撃ち過ぎじゃない!?」
「そんじゃそこらの花火大会より球数多いよ!」
「てか無許可でこんなの打ち上げていいのかよ!?」
「いくらなんでも苦情が来ますわ!」
バズーカから連続で放たれる花火に喜ぶ者、焦る者、その反応は様々だった。裕奈とアキラも花火を見上げている。
「また逢えるかな、あの人に」
ふとそう呟いた裕奈を見た後、花火に視線を戻しながらアキラは答える。
「また逢えるよ、きっと。そんな気がする」
「逢えたら…今度はちゃんとお礼言わなきゃね」
「うん」
現れては消える虹色の花火。それは真夏の夜空と街、そしてそれを見る人達を鮮やかに照らした。
一番好きな章は?
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