「代行者を派遣ですって⁉︎」
『そういった話が出始めたというだけだ。まだな』
祐がリトの家に着いた頃と同時刻、凛は自宅で綺礼から連絡を受けていた。
『度重なる超常現象に加え、あの光だ。あれだけ大々的に報道されれば聖堂協会の目にも当然留まる。どうやら協会は今のこの現状をあまり快く思っていない様だな』
凛が属する魔術協会と今話題に出た綺礼の属する聖堂協会。この二つの組織はお世辞にも仲が良いとは言えず、むしろ犬猿の仲と言ってもいい。(因みにネギ達の所属する魔法協会も当然の様にこの二つと仲が悪い)
この二つの組織はかつて全面的に敵対関係にあったが、現在は一応協定を結び、有事の際は協力体制を取っている。あくまで表向きにではあるが。
しかしどちらも神秘は秘匿すべきという点においては同意見ではある。魔法や超能力という存在が大々的に知れ渡っている今の世の中で何を今更と思うかもしれないが、彼らからすれば自分達が使用する力は世間一般に浸透している魔法等とは違うものという考えがあるので、そう簡単な話でもない様だ。
『理由としては所謂現地調査というやつだろう。例え原因を見つけられる可能性が低くとも、静観を続けるわけにもいかないといったところか』
「はぁ…まぁ、分からないでもないわ」
あちらもそれなりに大きな組織だ、面子というものもあるだろう。それだけであれば大きな問題は無いのだが、それだけで終わらないから困ったものである。
「こっちはこっちで執行者が派遣されるって話が出てるんだけど…」
『どちらも考える事は同じという訳か、精々鉢合わせなければいいがな』
「ちょっと、他人事みたいに言わないでくれる?場合によってはめちゃくちゃ大問題になるかもしれないのよ?」
綺礼が鼻で笑ったのが受話器越しから聞こえ、凛はイラっときた。
「あんたねぇ…」
『なに、双方まだ話に上がっただけという段階だ。何事もなくうまく流れる可能性もあるかもしれん』
「…本気でそう思ってる?」
『可能性は0ではない。期待するだけ無駄だろうがな』
「でしょうね…」
そう遠くない未来、凛の人生を懸けた戦いが始まる予定だ。自分はそれを目指しここまで精進してきた。それが起こる前に別の大事件など起きてほしくはないのだが、今の世界を鑑みるに綺礼の言う通りそれは期待するだけ無駄なのかもしれない。
何処にぶつけていいものか分からない感情は、鬱憤として凛の中に溜まっていくだけであった。
学園都市にあるデパートに来ていた風香と史伽は一緒に来ていた楓と一旦別れ、特に目的地を決めずに中を見て周っていた。
「何かそこらへんに面白そうな事落ちてないかな~」
「面白そうな事って落ちてるものなのかな…」
周りに目を光らせる風香とその後ろを付いていく史伽、その時史伽の目にある物が留まる。
「あれ?これって…」
「ん?どしたの史伽」
立ち止まり商品棚を覗く史伽の視線を追うと、そこにはいくつかのキーホルダーが売られていた。
「キーホルダー?何か気になるのでもあった?この叫んでる野菜のやつ?」
「違うよ…それ叫ぶ野菜シリーズでしょ、木乃香が持ってた」
「木乃香趣味悪いな」
木乃香の感性をバッサリ切っていると、史伽が指をさす。
「これこれ、こっち」
「なにこれ?カエル?」
「お姉ちゃん知らないの?ゲコ太って言うんだよ」
そう言って手に取ると眺め始める史伽。
「そんなの好きだったっけ?」
「ううん、嫌い」
「えぇ…」
まさかの返答に風香は思わず困惑の声が出てしまった。
「だってゲコ太郎の方が可愛いもん」
「ゲコ太郎って…」
横を見ると確かに似たような見た目のどっせいゲコ太郎という商品が置いてある。更にその隣にはゲブ太なる商品も。風香は混乱し始めた。
「名前が違うだけじゃん」
「何言ってるのお姉ちゃん!全然違うよ!」
急に熱くなりだした史伽が三つのストラップを手に取って風香の顔の前に持ってくる。
「この一番かわいいのがゲコ太郎で、こっちの不細工なのがゲブ太!そしてこの媚びた目をしてるのがゲコ太だよ!」
「ゲコ太に対する言葉が強い」
史伽は見た目通り普段はおとなしく苦労人気質だが、ひとたび変なスイッチが入ると暴走気味になるところがあった。基本暴走している風香の双子なだけはある。
「お姉ちゃんもわかるでしょ!この如何にも自分が可愛いって事を理解して武器にしてる感じ!」
「史伽って想像力豊かだったんだね、知らなかったよ」
こうなったら落ち着くまでそっとしておくのが吉と知っている風香は聞き流しながら返事をしていた。そんな時後ろから足音がする。振り向くと中学生だろうか、夏休みにも関わらず制服を着ている少女がにこやかな顔でこちらに向かってきていた。
風香達は知る由もないが、彼女は以前祐と自動販売機の一件で知り合った少女、御坂美琴その人である。
「ねぇお嬢さん、もしかして今ゲコ太の話してなかった?」
少女の顔をよく見てみると、笑顔ではあるが口元がひくついている。もしかするとゲコ太のファンなのかもしれない。
「はい、してましたよ。もしかしてですけど…ゲコ太のファンだったりします?」
「ええ、もちろん」
その瞬間、史伽は呆れた顔をして鼻で笑った。
「ちょっと!何よ今の馬鹿にした笑い!」
「だってねぇ…まんまとこの顔に騙されている人がいるんだなって思うと」
「はぁ!?騙されてるって何!ゲコ太はそんなんじゃないんだけど!」
突然始まった戦いを風香は取り合えず見守る事にした。理由は勿論面白そうだからである。
史伽と美琴はお互いに詰め寄った。
「見てください!この顔は自分に貢いでくれる人に媚びている顔です!それに引き換えこのゲコ太郎の顔!一切取り繕わず、ありのままの自分を見てくれと言わんばかりです!」
「ただ不細工なだけでしょ!それにゲコ太郎ってゲコ太の偽物じゃない!パチモンよパチモン!」
「先に世に出たからって本物面しないでください!」
「実際そうでしょうが!」
双方一切引く気がないのか、二人の顔の距離は拳1つ程の間もない。周りの目が向き始めた頃、誰かが美琴の肩を掴む。
「声が聞こえて来てみれば、何をしてらっしゃいますのお姉様。人前ではしたない」
「黒子…いやちょっと待って!これは譲れないのよ!」
黒子が美琴を宥めようとするも、美琴は収まりが付かない様だった。
「こちらも譲る気はありません!ゲコ太郎の為にも!」
「こっちだってゲコ太の為に偽物なんかには負けられないわ!」
「また偽物と言いましたね!」
「理由の余りのくだらなさに、わたくし驚きを隠せませんの…」
「「くだらなくない!」」
二人がこうも熱くなっている理由は他人には理解されない。人の趣味などそんなものである。
「お姉さまがそのカエルを好きなのは重々承知しております。だからと言って年下の少女と言い合いなど」
「あっ!思い出した!その服常盤台だ!」
今まで黙っていた風香が突然声を上げる。美琴を見た時からどこかで見た服だと思っていたが、やっと答えが出た。常盤台と言えばこの学園都市でも屈指のお嬢様学校の一つであり、その存在は風香も知っていた。
「何ですか!私達の方が年上ですよ!」
「年上って…」
「大目に見ても中学一年生ですの」
「おやおや、信じてないね?なら…これが目に入らぬか!」
そう言って胸元から学生証を取り出し、美琴達に見せつけた。日頃から年齢詐称を疑われる鳴滝姉妹、その一連の動きは慣れたものである。余談だがたまに若くみられるのを都合よく利用する事もある。
出された学生証を覗くと、美琴と黒子は驚愕の表情を浮かべる。
「「高校一年生!?」」
「どうよ!恐れ入ったか!」
「生命の神秘だわ…」
胸を張る風香と目の前の史伽を見て、美琴は神秘とは間近にあるものなのかと感じていた。そしてその学園の名を見て思い出すことがある。
「麻帆良学園て…確かあいつらも…」
「ん?君は麻帆良学園を知ってるのかな~?」
「何せ有名ですからね。奇人変人の大型百貨店だと」
どこか得意げな風香に黒子の発言が突き刺さる。学園都市にしろ世間一般にしろ、麻帆良学園の印象は大差ない様だ。
「なんだと!」
「そこに関しては言い逃れ出来ません…」
「史伽!負けを認めるな!」
ゲコ太郎の件とは打って変わって、史伽は自分達の負けを素直に認めた。
「よーく分かったわ、麻帆良学園が変わり者が多いって話は本当なのね。そりゃゲコ太郎を好きな人もいるか…」
「あ、憐みの目…くっ、屈辱です!」
先程までの敵意はどこへやら、美琴が史伽を見る目は憐みで染まっていた。
「くそ~…僕達を舐めてるな?こうなったら勝負だ!」
「ゲコ太郎の名誉の為にやってやります!」
(この方達本当に高校生でしょうか…)
学生証を見た上で、見た目も然る事ながらその言動を見て黒子はそう思わざるを得なかった。
「勝負?何するつもりよ?」
「こういう時は取り合えず応援に祐でも呼んで」
(ゆう…?)
風香の出した名前と麻帆良学園高等部であること、どうにも気になった美琴は二人に聞こうとする。
「ねぇ、もしかして」
「これこれ二人とも。何やら人だかりが出来ていると思って来てみれば何の騒ぎでござるか?」
突然いつの間にかその場にいた楓が風香達の後ろから声を掛ける。
((でか…))
180を超える身長の楓を見て、美琴と黒子はシンクロした。たった今まで小学生でも通用する二人を見ていたからだろうか、その姿が余計に大きく見える。
「かえで姉!」
「ちょうどよかった!力を貸して!今から勝負するんだ!」
「勝負?こんな場所で穏やかではないでござるな」
(ござる?)
(武士?)
風香達とはまた違った特殊な人物に対して様々な疑問が沸き上がるが、取り合えず黒子が楓に話し掛ける。
「失礼、このお二人の保護者の方でしょうか?」
「保護者などと大層なものではござらんよ、拙者はただのクラスメイトでござる」
「クラスメイト?……同級生ですの…?」
「いかにも、同級生のクラスメイトでござる」
((大型百貨店だ…))
二人は再びシンクロした。
「あっ、骨折した。入院だわ」
「事故合いすぎじゃない?」
「見舞金よろしくリト君」
「またかよ…」
祐達は現在人生ゲームで遊んでいた。祐はこれで三回目の入院である。
「この程度で情けない…ゲームの俺打たれ弱すぎだろ。現実でこれならとっくに死んでるぞ」
「祐ちゃん頑丈だもんね」
その発言に美也は笑っているが、純一とリトはリアクションに困った。祐の場合恐らく色々と冗談ではないだろうからだ。
次いで美柑が駒を進めると、止まったマス目の内容を読み上げる。
「あっ、私彼氏できたって」
「連れてきなさい、殺してやるから」
「物騒だな」
「祐さん、ゲームの話だから」
返ってきた反応に笑ってから、祐は腕を組むと美柑と美也を見た。
「まぁそれは冗談だけどさ、二人は彼氏とかどうなの?」
「親戚のおじさんか?」
「いや気になるじゃん、純一も兄として気になるだろ」
「そりゃあ…何とも言い難い…」
祐と同じ様に腕を組んで頭を捻る。美也はなんて事もなさそうに答えた。
「みゃーはいないよ。特に欲しいとも思ってないし」
「私も。と言うか同級生の子って子供っぽすぎて」
「あ〜分かる。変にちょっかい掛けてきたりね」
「そうそう、そこら辺子供だなって思う」
美也と美柑には通ずるものがあった様でそこに関して話が進む。祐は苦笑いをした。
「女の子は成長が早いからねぇ。男子なんてそんなもんさ、好きな子にはちょっかい出しちゃうんだよ」
「祐ちゃんもそうだったの?」
「いや、俺の場合自分から話し掛けないのが格好いいと思ってた。今考えるとイテェな…」
「自爆するなよ」
「でも二人にもいずれそういう人が出来るんだろうな…成長が嬉しい様な寂しい様な」
そこで美也が祐の肩に手を回す。
「仕方ないなぁ!祐ちゃん一人じゃ可哀想だから、みゃーがもらってあげるよ!」
「マジか⁉︎将来決まったな!お世話になります純一義兄さん!」
「美也、世の中って思ってる以上に広いんだぞ?きっともっと良い人はいる」
「言ってくれるじゃねぇかこの野郎」
目を合わせて真剣な顔でそう言った純一は、美也を思い直させたい一心だった。
「美柑は大丈夫だよな?頼むから早まるなよ」
「おう、こっちは先制攻撃か?」
リトに祐がそう返していると、美柑は何やら考えている様子だった。
「誰かと付き合うとか、まだよく分かんないかも…どんな感じなんだろ?」
「ならば…僕に任せてみませんか?」
「おい!こいつ取り押さえろ!」
「美柑ちゃんにはもっとふさわしい相手がいるはずだ!お呼びじゃないぞ!」
リトと純一が祐に覆いかぶさって取り押さえる。
「離してくれ義兄さん達!」
「「義兄さんと呼ぶな‼︎」」
小競り合いを始める三人を見ながら、美也は美柑の耳元に顔を近づけ小声で話し始めた。
「実際祐ちゃんと一緒にいたら、毎日楽しそうだよね」
「まぁ、賑やかなのは間違いないと思うかな」
「……そもそも蛙を模したものが好きという時点で拙者は理解出来ないでござる」
「かえで姉の裏切り者!」
「私だってリアルな蛙は好きじゃないけど、ゲコ太は別でしょ!」
言い争いが起こった理由を聞いた楓は素直に自分の意見を述べる。しかしそれに対しての反応は散々なものだった。
「何やら酷い言われ様でござるな…」
「良さが分からないという点ではわたくしも同意見ですの」
「ここにも敵がいましたね!」
「黒子!あんたこんだけ私の近くにいてまだ良さに気づかないの⁉︎」
「わたくしが好きなのはお姉様ですので」
「ゲコ太の良さって、まだまだ世に伝わってないのね…悲しいわ」
「お姉様?露骨に無視しないでいただけます?」
「そもそもよくこんなのでそこまで争えるよね」
「「こんなの⁉︎」」
風香は急に冷静になったかと思えば、ジャックナイフ並みの鋭さを持った言葉で美琴と史伽に無邪気故の攻撃を与える。
この程度の事で争いが起きるくらいだ。まだまだ世界が平和になる日は遠いなと、随分スケールの大きい感想を風香は抱いたのだった。
「因みにどれがどれでござるか?」
「たしかこちらがゲコ太で、こちらがゲコ太郎ですわね」
手に取ったキーホルダーを楓に見せる黒子。楓は双方を見比べた。
「キモいでごさる」
「「キモい⁉︎」」
「私が、ナンバーワンだ」
「あ〜越されちゃった。結構いい線いってたと思うんだけどなぁ」
「あんだけ入院しといて何で一位になれるんだよ…」
「後半の追い上げ凄かったからね」
「僕借金地獄なんだけど…」
一位でゴールした祐は拳を突き上げる。美柑の言う通り、後半に怒涛の追い上げを見せて見事四人抜きを果たしたのだ。
「このゲームみたいに俺も人生勝ち組になりたい…」
「急に悲しい事言うなよ…」
「祐ちゃんの思う勝ち組ってどんなの?」
不意にきた美也からの質問に祐は視線を上に向ける。
「そうだなぁ…うん、考えてみたら俺勝ち組だったわ」
「なんだそりゃ」
「君らのおかげだよ」
リト達を見て笑う祐に、四人は首を傾げた。祐の思う勝ち組、それは大切な人達に囲まれて毎日楽しく過ごせている者である。
そんな中、純一が時計を見ると17時を指していた。
「もうこんな時間か」
「ん?ああ、本当だ。なんかあっという間だな」
「キリもいいし、ここらでお暇しますかね」
そう言って祐が立ち上がると、純一と美也もそれに倣う。
「あっ、祐さん。純一さんも美也お姉ちゃんも。よかったらさ、ご飯食べていかない…?」
遠慮気味に声を掛けてくる美柑に祐達が動きを止めた。美也は目を輝かせている。
「いいの!?まだまだ遊び足りないって思ってたんだよね~!」
「ありがたいけど、大変じゃない?三人も増えたら」
美也は既にその気だが純一は純粋に美柑達の負担を心配した。
「そこに関しては気にしないでくれ、俺も手伝うし。それに、初めからそのつもりで美柑も買い物に」
「リト…」
「はい、何でもないです…」
美柑から鋭い視線を向けられ、即座に口を閉じた。それを見て祐達三人は顔を見合わせると、同時に笑う。
「そういう事なら是非ともごちそうになろうかな。俺も出来る事あれば手伝わせて」
「みゃーも手伝うよ!」
「美也は手伝わない方が早く終わるんじゃないかな?」
「にぃにうるさい!」
「さぁ、そんじゃ早速準備しよう。とその前に…美柑ちゃん!やっぱり君は優しい子だ!」
「ちょ、ちょっと祐さん!?」
そう言って先程美也にした様に、美柑を持ち上げてその場で回る。リトと純一は仕方なさそうにその姿を見ていた。
「祐ちゃん!みゃーにも抱っこさせて!」
「よし、選手交代だ」
「も、もう勘弁して…」
いずれこの大切な物を手放さなければならない時は来るだろう、今の生き方を続けていれば。どちらを選ぶのか、その選択の時は必ず訪れる。
嘗てと同じ道を行くのか、それとも別の道を選ぶのか、今それは祐自身にも答えの出せない事だった。
あの頃以上に大切な物が増え過ぎた。悩ましくはある、しかしそれ以上にその事に幸福を感じられた。祐は今、間違いなく幸せであった。
「ただいま~」
とあるマンションの一室に、眼鏡を掛けて髪を後ろで結んだ女性が帰って来る。仕事終わりだからか、その表情には少し疲労が見えた。
「小林さん!おかえりなさい!」
「おかえり小林」
『小林』を出迎えたのは、昼前に街で祐と出会ったトールとカンナだった。この三人は色々と事情があって一緒に暮らしている。
「ただいま二人とも。お~、すっごくいい匂いがする」
「もう少しで夕飯出来上がりますから、待っててくださいね!」
笑顔を見せるトール。前まで実家を離れ一人暮らしをしていた小林にとって、帰りを誰かに迎えられる事はそれだけで嬉しいものがあった。
「うん。あ~、お腹すいた」
「私もお腹すいた」
同時にお腹を鳴らすカンナの頭を撫でて、家の中に上がる。三人でリビングに着くと小林は取り敢えず荷物を置いてソファに座った。
「今日は予定通り早く終わって良かったですね」
「ほんとだよ、というか本来はこれが定時のはずなんだけどね」
支度を進めるトールと会話をしていると、カンナがこちらを見ている事に気が付いた。
「カンナ?どうかしたの?」
「小林、今日私あまたに会った」
「あまた?えっと、誰それ…」
出された名前にまったく心当たりのない小林は当然そう聞き返した。
「あまたはまほらがくえんの高校生で、へんな人」
「変な人って…」
確かに麻帆良学園に変人が多いと話したのは自分だが、まさか自分の身内がそれを体験するとは。
「その人に何かされたとかは」
カンナは首を横に振る。
「へんだけど悪い人じゃない。あと色々大変そうだった。たぶん苦労してる」
「へ、へぇ…」
先程からそのあまたという人物がまったく掴めない。悪い人ではないと言うのでそこは良いが、如何せん説明不足過ぎて何と言えばいいか分からなかった。
キッチンから二人の会話を聞きつつ、トールは悩ましげな表情を浮かべた。
一番好きな章は?
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序章・始まりの光
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幽霊と妖怪と幼馴染と
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たとえ世界が変わっても
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消された一日
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悪魔よふたたび
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眠りの街
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旧友からの言葉
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漢の喧嘩
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生まれた繋がり