「それでは今日はここまでとします」
「起立」
ネギがそう言うと学級委員長であるあやかが号令をかけ、それに従って生徒達が席を立つ。
「礼」
「「「「ありがとうございました」」」」
四時間目の授業が終わりを告げた。この後は昼休みとなるため普段であれば生徒達の表情は明るいのだが、今日に限っては少し違っていた。
「あ〜あ、事件のせいでまた窮屈になるよ」
「ほんとネ、また部活の時間が減ってしまうヨ」
裕奈と古菲が不満を口にする。朝のホームルームでタカミチ達から爆破事件がまた起きたと報告を受けた。それと同時に少なくとも一週間は部活動は中止で、学校が終わり次第そのまま下校すること・事態が落ち着くまではなるべく遠出をしない事も伝えられる。部活動を積極的に行なっている二人にとっては歯痒い話であった。
「越谷のがようやく落ち着いたって言うのに、また逆戻りだもんね」
「全くいい迷惑だわ、青春は有限だって言うのにさ」
「そうよ!青春にだって締め切りがあるんだから!」
「締め切りって…」
ハルナと美砂も爆破事件にはお冠のようだ。実際越谷での爆破事件の際も学園は今と同じ姿勢をとった。その状態がようやく落ち着き普段通りの生活に戻ったと思った直後にこれでは不満も出るのは当然だった。
「そんなこと言っても仕方ないでしょ?実際起こっちゃったんだから」
「そうだけどさぁ、明日菜だってムカつくでしょ?」
「そりゃ私だってムカついてるわよ」
「なんたって部活がないと高畑先生との甘い時間が過ごせないもんね」
「あんたねぇ…」
明日菜本人も憤りは感じている。全くもって余計なことしやがってと犯人がいたら飛び蹴りを喰らわせてやりたいところだ。しかし学園側は安全第一の姿勢を取るしかないことは理解している。なんせあの学園長のことだ、今回も生徒のために動いているに違いない。そう考えると思うところはあれど納得するしかなかった。
「でも参ったなぁ、今週はアウトレットに行くつもりやったのに」
「あ~、あの彩湖に出来たやつ?私まだ行ってないなぁ」
「私は出来てすぐに行ったけど、その時はかなり混んでたわ」
木乃香が言ったのは半年前に埼玉県の
水辺に面した自然豊かな場所としてオープン当時に比べれば多少落ち着いたものの、未だに客足は衰えていないらしい。
流行に敏感な美砂はオープン間もなくに行っていたが、ハルナはいつか行こうとは思っていたものの、まだ行ったことは無かった。
「ウチらも行ったことなかったから、ちょうど用事もあるし明日菜と行こうって話してたんよ」
「なるほどね、でも用事って何?桜子の誕生日プレゼントでも買うの?」
「それはもう用意してあるえ。行くのは」
「ちょっと木乃香!」
木乃香が続きを話そうとしたところ、明日菜が慌てて木乃香の口を手でふさぐ。
「あはは、ごめんごめん。そういえば内緒やったな」
「まったく、気を付けてよね」
「目の前でそんなことされるとすっごく気になるんだけど?」
「なになに?私の誕生日の話!?」
内容を聞こうとしたハルナたちのところに桜子が勢いよく入って来てそのまま美砂の膝の上に座る。美砂は多少よろめきながら仕方なさそうに桜子の腰に手を回した。
「はいはい、あんたの誕生日はちゃんとお祝いしてあげるから」
「やった~!期待してるからね!」
美砂の発言に桜子が嬉しそうに反応する。
「仕方ない、特別に桜子には私のパンツをあげる」
「え~!いらないよ!ばっちいもん」
「どういう意味よ!」
ハルナがふざけて言うと予想外に棘のある返答が帰って来て思わず桜子に詰め寄った。きゃ~、とどこか嬉しそうに逃げる桜子。対してハルナは割と本気で桜子を追っている。
「でもしばらく遠出は出来へんから、アウトレットに行く予定は変更やなぁ」
「言っても電車で二十分ぐらいでしょ?遠出には入んないって」
「う~ん、そうなんかなぁ」
「そうだって。最悪電車止まっても歩いて帰れる距離だし。私は歩いて帰るのは嫌だけど」
「無責任ねあんた…」
明日菜がそう言うが美砂は気にせず続ける。
「そもそもしばらく待ったところで今より状況が良くなるとは限らないんだしさ。行けるうちに行っちゃったら?」
美砂のいう事もわかる気がするので木乃香は人差し指をあごに当ててう~ん、と考える。
「明日菜はどう思う?」
「え~と、まぁいいんじゃない?用事を終えたらさっと帰ればいいんだし。ゆっくり見るのはまた今度にしてさ」
「そうそう。それに今まで事件が起きたところって小さい場所みたいだしさ。さすがにアウトレットは無いでしょ」
その後の続報で分かったことがある。爆破された博物館は、今までは空想上の存在と言われていた生物のミイラなどといった少し怪しげなものを展示していた個人経営の小さな博物館だという。幸いなことに観覧客はおらず経営者を含めけが人は出なかったそうだが、建物は半壊・展示物の大半は破壊されてしまった。
「責任もって私も付いて行ってあげるから」
「柿崎はただ行きたいだけでしょうが」
「私も行く~」
追いかけっこを終えてハルナに捕まった桜子が、後ろからハルナに手を回された状態でこちらに戻って来る。
「それじゃせっかくの機会だし私も」
桜子を美砂に渡したハルナが自分の席に座りながら言う。
「なんでハルナも来るのよ」
「行くなら大勢の方が安全でしょ!二人より三人、三人よりも大勢!」
もっともらしいことを言っているがハルナもただ行きたいだけだろうと明日菜は思った。
「夕映も行くわよね!」
ハルナは右隣の席の夕映にそう声をかける。
「私は部活があるので」
「少なくとも来週まで部活はお休みよ」
「……わかりましたです」
用意していた手札を速攻無効化され、行くと言わないと長くなると踏んだ為、ここはハルナに屈することにした。
「のどかもつれて来よ~っと」
「じゃあ私は円つれて来よ~っと」
ハルナと桜子はそれぞれのどかと円の席に行き、状況が分かっていない二人の手を引いてこちらに来る。
「ちょっと、なんか大所帯になっちゃったじゃない」
「大丈夫やて、しれ~っと買えばばれへんよ」
「もう、他人事だと思って…」
明日菜と木乃香が周りに聞こえぬよう小声で話す。明日菜たちの目的は何ら恥ずかしいことでは無いのだが、明日菜的には木乃香以外には知られたくない事だった。
「よし、これで全員揃ったわね」
「パル~、私何も聞いて無いんだけど…」
「私も何も聞いてない。誰か説明ちょうだい」
連れてきた二人にハルナが事の説明をする。
「えぇ~、行っても大丈夫なのかなぁ」
「私は別にいいよ。あそこ結構楽しかったし」
のどかと円がそれぞれ反応する。
「それじゃ心配性なのどかの為に護衛を付ける必要があるわね」
「護衛って?」
「出来れば男手が欲しいわね。イケメンならな尚良」
ハルナの提案に明日菜が質問すると、ハルナが希望を語った。
「お、男の人…」
「そんな都合のいい人いる?」
「そもそもウチら男の子の知り合いそんなおらんよ」
「ネギ君は?」
「ダメに決まってるでしょ、一応教員なんだから」
「というか年下の子に何求めてるのよ」
ネギにアウトレットへ買い物に行くことを言えば彼の立場的にも性格的にも間違いなく止めて来るだろうから明日菜に却下された。
「じゃあ美砂の元カレ!」
「却下」
「二股する男の子はちょっとなぁ…」
「桜子あんたぶん殴られたいの?」
桜子の発言を速攻却下する円に苦笑いを浮かべながら言う木乃香。美砂はマジギレ寸前である。
「逢襍佗さんでいいではありませんか」
今まで黙っていた夕映がそう口にする。
「逢襍佗さんならのどかも他の男性より話せますから適任かと」
「あ~、うっかりしとった。ウチも一緒に行くなら祐君がええな」
「でも逢襍佗君が護衛で大丈夫?明日菜以外に相撲負けてたよ?」
夕映の意見に木乃香は賛同するが、桜子が気になっていることを口にする。
「あんなの本気でやってるわけないでしょうが」
「そうよ、本気だったらのどかが勝って明日菜が負けるわけないじゃない」
「のどかのときはもはや触れた瞬間に吹き飛んでいましたからね」
「腕に少し触っただけですごい勢いで倒れちゃったからびっくりしちゃったよ…」
美砂・ハルナが桜子にそう返し、夕映とのどかはその時の出来事を思い出す。
「むしろ不意打ちとはいえ、明日菜のゴリラパワーに勝ったんだから結構すごいんじゃない?」
「ゴリラって言うな!」
円のあんまりな言い方に明日菜が反応する。時折A組は明日菜の身体能力の高さをゴリラと称するが本人にしてみれば全くもって不本意であった。
「えぇっ!あれって本気じゃなかったの!?もう一回勝負してくる!」
「やめなさい」
逢襍佗のところに行こうとする桜子の首根っこ部分の制服を美砂がつかんだ。ぐへっ、という声が聞こえるが大丈夫なのだろうか。
「そんじゃ護衛として連れて行くのは逢襍佗君ってことで。私からお願いしておくから」
「うん、了解」
ハルナがそう話を締めると円が返事をする。するとハルナがそういえばと言って明日菜と木乃香に質問する。
「いつ行くんだっけ?」
「そこが一番重要でしょうが」
「今週の土曜日やで」
「だそうです」
「「「「はーい」」」」
(行き当たりばったりです)
あきれ顔の明日菜とみんなで出かけるのが嬉しいのかニコニコな木乃香。夕映は計画性の無さに思うところはあったが、黙っておくことにした。
「でもさっきの話じゃないけど、逢襍佗君が誰かと戦うイメージ全くわかないわ」
「それ私も。喧嘩してるとこなんて見たことないし」
美砂の言ったことに円が同意する。実際彼は突然おかしなことを仕出かしたりはするが、本気で怒ったり喧嘩したりすることは無かった。
「背が高いし割とがっしりもしてるから力強そうだけどね」
「目つきも鋭いので黙っていると怖い人に見えるです」
「のどかなんて初めて会ったときはすっごく怖がってたもんね~」
「それを見て逢襍佗さんがとてつもなく落ち込んでたです」
「あう…だ、だって怖そうな人だなって思ったからぁ…」
初対面の際あからさまにのどかが祐にビビっていたので、祐は背を向け膝を抱えて落ち込んでしまった。そのあまりの沈みっぷりに、さすがに悪いことをしたと思い、のどかが恐る恐る祐に歩み寄ったのが彼らの始まりであった。まだ完全に打ち解けたとは言わないまでも、会話程度ならこなせるようにはなった。ちなみに男性恐怖症であるのどかが満足に話せる相手は、タカミチ・ネギ・祐ぐらいである。
「そこんところどうなの?明日菜と木乃香は逢襍佗君が怒ったり喧嘩したとこ見たことある?」
美砂が彼と付き合いの長い明日菜と木乃香に質問する。それに対し二人は顔を見合わせてから答えた。
「喧嘩も無ければ怒ったとこすら見たことないわ」
「ウチもや。祐君が怒ってるとこなんて想像もできへん」
ふざけて怒ったふりをしたり男友達の肩を叩いたりしているところは見たことがあるが、付き合いが長い二人も祐の誰かを殴ったり本気で怒った姿を見たことは無かった。
「明日菜たちでも見たことが無いとなると誰も見たことないんじゃない?」
「祐君はもしや博愛主義者だった!?」
「それは何というか、違うような…」
美砂がそう言うとハルナがわざとらしく芝居がかった言い方をする。それに対して円は違うとは思ったが、的確な言葉が見つからなかった。
「となると護衛としてはあんまり期待できないかな?」
「逢襍佗君が襲われたら私たちが助けてあげないとね!」
「趣旨が変わっちゃってるじゃないの」
桜子に美砂がツッコんだ。
それからも祐本人が居ない所で話は盛り上がっていく。やはり博愛主義者だとか、実は凄腕の殺し屋だとか、どこかの国のスパイだとか、大穴でどこかの国の王子とか、挙句の果てには宇宙人説まで飛び出した。
「……」
自分の席で本を読んでいたエヴァンジェリンは、一度明日菜たちの方に目を向けたが何も言わず、再び視線を本へと戻した。
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