Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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知ることは

「真祖の吸血鬼…」

 

「闇の…魔法使い…」

 

ハルナと和美がどうリアクションしていいか分からず、困惑しながら呟く。困惑しているのは明日菜達も同様だ。しかし明日菜に至っては困惑している理由が違う。

 

明日菜はエヴァが自分の正体を明かした事に困惑している。何故今ここにいるクラスメイト達にそれを告げたのか、まるで答えが見つからなかった。

 

「一応聞くけど、冗談じゃないよね…?」

 

「まぁ、こんな世の中とはいえ言葉だけでは信用する事も出来んだろう」

 

そう言ってエヴァは指を鳴らす。それをぼーっと見つめていた和美が右手から違和感を感じて視線を向けた。

 

「冷たっ!」

 

持っていたペンから指を放し、テーブルの上へと落ちる。見てみれば冷凍庫に入れていたかのようにペンが凍っていた。

 

「こ、凍ってる…」

 

続けて掌を上に向けると、その場に氷の結晶が生まれる。全員がその結晶に釘付けになっているのを確認し、手を振り払うと結晶は砕けて消えた。

 

「取り合えず魔法使いというのはこれでいいか?何せ家の中だ、あまり派手な事はしたくない。片付けが面倒だからな」

 

「因みに片付けるのは私です」

 

「静かにしていろ茶々丸…」

 

茶々丸が言ったことに部屋の中の空気が微妙なものとなる。気を取り直す為エヴァは咳払いをした。

 

「さて、吸血鬼という事に関してだが…吸ってほしいなら吸ってやるぞ?お前ら生きは良さそうだからな」

 

『いえ、結構です…』

 

全員が声を揃えて言い、エヴァは満足げに頷く。

 

「魔法使い…初めて見た…」

 

「まさかこんな近くにいたなんて…流石に驚きだわ…」

 

この家に来てから驚かされてばかりだが、そうなると気になることが出てきた。

 

「待ってよ、エヴァちゃんが吸血鬼で魔法使いなら…もしかして逢襍佗君も!」

 

「吸血鬼でもなければ魔法使いでもないな」

 

思わず和美はソファから崩れ落ちる。この流れなら間違いないだろうと思ったうえでの発言だったので、正直恥ずかしかった。

 

「違うんかい!」

 

「お前が勝手に早とちりしただけだろうが…」

 

体を起こしてエヴァの肩を掴むと、鬱陶しそうな表情を返された。

 

「今の流れは正解の流れだったでしょ!じゃあ逢襍佗君て何なのよ!」

 

「人間なんじゃないか?」

 

「まさかの疑問形!?」

 

会話しつつメモを取ろうとした和美だったが、ペンが凍っているのを思い出し、激しく両手で擦って溶かそうとする。本人は至って真面目だが、傍から見れば何とも滑稽な姿に映った。

 

「うおおお!全然溶けない~!これ早く元に戻してくんない!?」

 

「火属性も解除系の魔法も専門外だ」

 

「ちくしょうっ!」

 

「か、和美さん…落ち着いて」

 

「朝倉さん、私に貸して頂けますか?」

 

「え、ああ…うん」

 

茶々丸が和美のペンを受け取ると、前腕部分が開いて勢いのある熱風を発生させた。すると付いていた氷は見る見る溶けて元通りとなる。

 

「す、凄い…」

 

「よっぽど凄い…」

 

「何と比べてよっぽどなんだ?ん?」

 

ハルナのよっぽど発言に青筋を浮かべると、そこで更にエヴァは不満げな顔をする。

 

「そもそも貴様ら、目の前にいるのは魔法使い以前に吸血鬼だぞ?もう少し怖がったらどうなんだ」

 

明日菜達は顔を見合わせると、苦笑いをした。

 

「だって、エヴァちゃんはエヴァちゃんだし…」

 

「それに祐君と一緒に暮らしてたんやろ?なら悪い人やないよ」

 

「あまり深い付き合いは無かったとはいえ、私達は四年間学園生活を共にしたクラスメイト。種族と言っていいのか分かりませんが、そこの違いは判断材料になりませんわ」

 

「見た目で判断するべきじゃないんだろうけど、あの怪獣より凶暴には見えないよねぇ」

 

「むしろもっと詳しく話聞きたくなったわ」

 

「えーっと、そもそも私幽霊ですし…怖がりですけど…」

 

明日菜達の発言に呆れた顔をする。エヴァは多くの人間を見てきたことから、人を見る目は確かだ。だからこそ、明日菜達が本心からそう言っていることがわかって呆れているのだ。

 

「今のこの世界がそうさせるのか、こいつらが単に底抜けの能天気だからなのか…どちらもか」

 

「ねぇ、もしかして私達馬鹿にされてない?」

 

「心外ですわ、バカレンジャーは明日菜さんだけですわよ」

 

「おい」

 

あらぬ方向で戦いが始まりそうになっているが、そちらは放っておいて和美は話を進める。

 

「さっき600年を生きてるって言ってたけど、本当?」

 

「ああ、ただもう正確な年数など忘れた。600年を超えていることは間違いないがな」

 

「すっご、歴史の生き証人じゃん」

 

「本物のロリババアだ…」

 

「口を慎め色ボケ眼鏡」

 

「色ボケ眼鏡!?」

 

酷いニックネームにショックを受けるハルナに悪いとは思うので、明日菜はなんとか笑いを堪えていた。

 

「このことって逢襍佗君は知ってるの?」

 

「勿論だ。私も祐も、お互い知らないことの方が少ない」

 

その発言にピクリと反応したのは幼馴染三人だ。木乃香はそうでもないが、明日菜とあやかはエヴァの発言の節々から『私はお前達より頭一つ抜けている』という余裕のようなものを見せつけられている気がしていた。

 

「ず、随分と自信がお有りなんですねエヴァンジェリンさん…」

 

「今やっと分かったわ、何でエヴァちゃんにモヤモヤすることがあったのか」

 

「ふっ、一丁前に私とやり合うつもりか?お前達小娘では勝機はないと思うがな」

 

幻覚かもしれないが間違いなく三人の間には火花が散っていて、少なくともここにいる全員にそれは知覚できていた。

 

「一緒に暮らしていたのは驚きですが、私の方が付き合いは長いですわ」

 

「しかし報告されたのは一番後らしいな」

 

「くっ!人が気にしていることを!」

 

「昔も今も学校ではほとんど関わってないでしょ。私達の方が同じ時間過ごしてるんじゃない?」

 

「学校以外では常に共にいた。何よりお前達が中等部で男女別れた際も、毎日一緒に居させてもらったよ」

 

「……なによ!バーカ!」

 

「言い返せないにしても、もう少しまともなことが言えんのか!」

 

まさに売り言葉に買い言葉、残念ながらそのレベルは高いとは言えない。

 

「おっと、これはこれは…」

 

「久々に私のラブ臭センサーにビンビンきてるわ。そして!私も!」

 

にやける和美とアホ毛が揺れるハルナ。そして対抗意識を燃やしたハルナもエヴァに鋭い視線を送る。所謂メンチを切るというやつだ。

 

「さっきから何であんたはそう張り合うのよ…って二人とも、何その顔?」

 

その発言の理由は木乃香とさよだ。エヴァ達がこうなっている理由はよく分かっていないのだろうが、取り敢えず自分達も参加しようと周りの真似をしている。

 

しかしこの二人はそういった表情に慣れていないので、言ってしまえば変顔をしているようにしか見えず、威圧感の欠片もない。

 

「せっかくやからウチらもやっとこう思って」

 

「どうですか?」

 

「睨むの下手くそか」

 

二人の顔と会話に戦意を削がれ、明日菜達は呆れた顔で二人を見たことで戦いは終了した。

 

「これだから天然は苦手なんだ…」

 

疲れたように人差し指で額を擦るエヴァに、茶々丸が横から話し掛ける。

 

「マスター、先程の一連の流れはしっかりと録画しておきました」

 

「余計なことをするな!」

 

やはり最近どうも祐に似てきた気がする。何とも由々しき自体だ、一刻も早く矯正しなければ取り返しのつかないことになる。

 

まだ間に合う筈だ。いや、頼むから間に合ってくれと心の中で懇願した。頭を悩ませる要因は祐とチャチャゼロだけで充分すぎる。

 

「えっと、一緒に暮らしてたってことは…茶々丸さんも祐と一緒に暮らしてたのよね?」

 

「はい。私は起動したのが2019年なので、期間は3年ほどですが」

 

「大丈夫だった?なんか変なことされてない?」

 

「変なこととは?」

 

「あ〜、いやぁ…なんていうか、あいつあんなんだから苦労かけられたんじゃないかと」

 

明日菜がふと気になったことを茶々丸に聞く。おそらく茶々丸は面倒見のいい性格だと思うので、祐に色々と振り回されたのではないかと思った。

 

「いいえ、祐さんから苦労を掛けられた記憶はありません。いつもお優しい方で、私達の大事な家族です」

 

「そ、そうなんだ」

 

珍しく笑顔を見せる茶々丸に少し驚く。笑顔もそうだが、その表情が一目で分かるほど柔らかいものだったからだ。

 

「祐君下の子には特に優しいもんなぁ、茶々丸さんのこと妹みたいに思っとるのかも」

 

木乃香の言うことに納得する。ネギを始め、祐は年下に甘い。茶々丸を年下の括りに入れていいのかどうかは疑問が残るが。

 

「本人はこう言っているが、最近あいつに影響され始めている。私の目下一番の悩みと言っていい」

 

「ダメじゃん、めちゃくちゃ迷惑掛かってるわ…」

 

「お察しします…」

 

明日菜とあやかはそこで初めてエヴァに同情する。当の茶々丸本人はよく分かっていないのか首を傾げており、その姿を見てエヴァはため息をつくしかなかった。

 

その間、和美は一人思考に耽っていた。知らなかった情報が次々に舞い込んできて、それに関しては大いに結構だ。しかし逢襍佗祐、彼に関しては謎が謎を呼んでいる状態であり、正直ここまでくると絶対に何かあると確信めいた考えが浮かばざるを得ない。

 

吸血鬼であり魔法使いであるエヴァと7年ちょっとも暮らしていたのだ。何の変哲もないただの一般人である筈がない。

 

「エヴァちゃん、逢襍佗君は」

 

「言ったはずだぞ朝倉和美、祐のことは祐に聞け」

 

遮るように告げられた言葉に、和美はその後に続く言葉を先読みされた気がした。

 

「お前の知らないものを知ろうとする探求心はそれなりに買っているよ。だが覚えておけ、必ずしも知ることが正解などではない」

 

「知った結果、お前も探られた相手も破滅の道を進むことは充分に有り得る。それを肝に銘じておくんだな。私からはそれだけだ」

 

先程までの空気から一変して、どこか重苦しい空気が部屋の中を包んだ気がした。エヴァが言わんとしたこと、祐の秘密を知っている明日菜達だからこそ、その言葉の意味を深く受け止めたのかもしれない。

 

「私としては充分過ぎる程話してやったぞ、用が済んだのならとっとと帰れ」

 

「…ご忠告どうも。確と受け止めたわ」

 

「ならいい」

 

「お邪魔しました、それじゃまた」

 

そう言ってソファを立った和美は玄関へと向かうとあやか達も立ち上がり、それぞれが挨拶をするとそれに続く。

 

最後に残った明日菜が扉の前で振り返ると、エヴァは明日菜に目を向けた。

 

「まだ何かあるのか?」

 

「なんでみんなに言ったの?自分は吸血鬼で魔法使いだって」

 

「そうした方が得だと思ったからだ」

 

「得?」

 

分からないといった顔をする明日菜に対して、エヴァは笑みを浮かべる。

 

「私は私でお前達を利用させてもらう、精々上手く働いてくれよ」

 

「利用って…朝倉にああ言ったのも関係あるの?」

 

「あいつも良い駒になると踏んだ、とだけ言っておこう。早く行け、あまり長居していると怪しまれるぞ」

 

「…なんか、悪だくみしてる人みたいよ」

 

「そういえば言ってなかったな」

 

そこでエヴァは浮かべていた笑みをさらに深くする。その笑みは明日菜には冷たく感じられた。

 

「私はな、吸血鬼にして闇の魔法使い」

 

「そして…悪なんだよ、神楽坂明日菜」

 

 

 

 

 

 

明日菜もエヴァの自宅を出ると、茶々丸が見送りに出てきた。

 

「それでは皆様、気を付けてお帰り下さい」

 

「うん、ありがとう茶々丸さん。お邪魔しました」

 

深くお辞儀をする茶々丸に手を振り、その場を後にする明日菜達。あの話をしてから和美はずっと何かを考えているようだった。

 

「朝倉、あんた大丈夫?」

 

「ん?何が?」

 

ハルナが少し心配そうに声を掛けると、何とも抜けた返事が返ってきた。

 

「何がって…さっきエヴァちんに言われたこと、気にしてたんじゃないの?」

 

「ああ、それ?いや、気にしてはいるよ?ただ、落ち込んでるとかじゃないのよ」

 

「でしたら何が気になってるんですか?」

 

さよがそう聞くと、和美は相変わらず考えながら答え始めた。

 

「何て言うかねぇ…あれは間違いなく忠告ではあったけど、同時に発破かけられた気がするんだよねぇ」

 

「葉っぱかけられた?」

 

「恐らくですが貴女が想像しているその葉っぱではありませんわ」

 

言葉では分かりずらい明日菜の天然ボケも、あやかには直ぐに分かった。双方とも嬉しくはないだろうが。

 

「エヴァちゃんの話から逢襍佗君に何かあるのはもう間違いない。私にはね… 逢襍佗君は特大の何かを持ってるから知りたきゃ聞いてみろ、でも面白半分で聞くなら後悔するぞって感じに聞こえたのよ」

 

「単純に聞くなって事じゃなくて?」

 

「それなら自分のことも隠すか直接そう言わない?あんな思わせぶりなこと言われて勘ぐるなって方が無理でしょ」

 

そう言われるとハルナも何とも言えなくなる。確かに和美の言う通り、祐のことを隠しておきたいなら一緒に暮らしていたことや自分の正体など明かさないだろう。そんなことを言えば祐にも何かあると思われて当然だ。

 

それに何より、エヴァは祐のことを探索するなとは一言も言っていなかった。ハルナからしてもエヴァが何を考えているのか、見当もつかない。

 

「和美ちゃんは、どうするん?」

 

木乃香が聞いたことは、ここにいる和美以外の全員が気になっていたことだ。全員がそう思いつつも言い出せなかったのは、どうすればいいのか迷っていたからだろう。

 

「会いに行くわ、逢襍佗君に」

 

迷いなく言ってのけた和美に、木乃香達は黙ってしまう。少し表情を険しくしながらも、一番最初に口を開いたのはあやかだった。

 

「聞きに行くおつもりですか?色々と…」

 

「うん、決めた。前々からいつかはって思ってたけど、間違いなく行くなら今」

 

あやかと似た表情で明日菜も続く。

 

「聞いて、その後どうするのよ?もしやばい事だったら」

 

「笑えるような話なら、笑って話のネタにする。笑えない話なら…最後まで付き合うし、場合によっては墓まで持ってく。聞いた結果逢襍佗君を傷つけることになったら、償いながら生きていくわ」

 

まっすぐ見つめて答える和美。彼女の言葉には口先だけでないと思わせる確かなものがあったが、だからこそ明日菜は不思議でしょうがなかった。

 

「何があんたをそこまで動かすわけ?」

 

「私は真実が知りたいの、物心ついた時からずっとね。でも真実にはいつだってリスクが伴う。それはよ〜く分かってるつもり」

 

「リスクを冒す覚悟ならずっと前から決めてたわ。自分の生まれ持った感性に気づいたのは、昨日今日じゃないからね」

 

それを止める、ましてや否定する言葉を明日菜は持っていなかった。それは明日菜に限った話では無い。彼女の覚悟を止められる程の言葉を持った人物は、この場には居ないのだ。

 

その時、明日菜のスマホが着信を知らせる。迷いながら手に取り画面を見つめた。ある意味絶妙と言っていいタイミングに、思わず文句の一つでも言いたくなる。

 

着信の相手は祐だった。

 

 

 

 

 

 

『もしもし』

 

「おう、悪いな明日菜。ちょっと用事があって留守電にしてた。何かあったか?」

 

目的を終え、明日菜からの着信に折り返す。それと、明日菜の第一声から何かがあったのは感じとれた。そのあったことが良いことなのか悪いことなのか、その判断はまだつかない。

 

『えっと、ちょっと色々あってさ…』

 

「…みたいだな、聞かせてくれるか?」

 

『取り敢えず要点だけ話すわ。さっきまでエヴァちゃんの家に行ってたの、みんなで』

 

「そのみんなは?」

 

『木乃香・委員長・パル・さよちゃん。あと、朝倉』

 

「そりゃ結構大勢だな」

 

少しの間、スマホからは明日菜の呼吸だけが聞こえてくる。きっとどう言おうかと整理しているのだろう。急かす必要はない、祐は静かにその時を待った。

 

『エヴァちゃんが言ったの、自分は吸血鬼で魔法使いで…祐と暮らしてたって』

 

「そっか、師匠がそう言ったのか」

 

『それで、祐に話を聞きたがってる。朝倉が』

 

祐の表情は真剣だ。しかし、その顔に焦りは無かった。

 

「そこに朝倉さんは居る?」

 

『うん』

 

「悪い明日菜、ちょっと代わってくれるか?」

 

『…わかった』

 

 

 

 

 

 

明日菜は耳からスマホを離すと、和美に視線を向ける。黙って見ていた和美も明日菜を見つめ返した。

 

「祐が朝倉に変わってって」

 

明日菜がスマホを差し出し、和美はゆっくりと受け取って耳に当てる。

 

「もしもし、逢襍佗君?」

 

『どうも、朝倉さん。今掻い摘んでだけど、明日菜から聞いたよ。なんでも俺にインタビューをご所望とか』

 

「うん、前から考えてはいたんだけど…きっと今日がその時だって思ったの。逢襍佗君、改めて私からお願いさせてもらうわ」

 

和美は一度目を閉じ、深い呼吸を行なってから口を開いた。

 

「逢襍佗祐君。エヴァちゃんとのこと、そして何より…貴方のこと、詳しく聞かせてほしいの」

 

風が吹いた。周りにいる誰もが音を立てず、それ故揺れる木々の音がやけに響く。

 

『お望みなら、お応えしますよ朝倉和美さん。貴女からの質問、お受けしましょう』

 

「ありがとう、嬉しいわ」

 

『とんでもない、お安い御用ですとも』

 

和美は薄く笑う。山場を越えた気になってしまうが、それは違う。やっとスタートラインに立てたのだと、己の考えを即座に改めた。

 

『今出先なんでね、これから帰るよ。待ち合わせ場所だけど…』

 

「それならさ、逢襍佗君の家でお願いできない?明日菜達ともそこで会ったんだけど、みんな入りそびれちゃったからさ」

 

『了解、ならそこで待ってて。幼馴染には合鍵渡してあるし、入ってもらって構わないよ。今持ってればの話だけど。無かったら相坂さんに頑張ってもらって。たぶん相坂さんなら開けられるんじゃないかな?』

 

「分かった、確認してみる。それじゃ、おかえりお待ちしてるわ」

 

『あまり待たせないようにするよ、では後で』

 

「よろしくね」

 

通話が終了したのを確認し、和美はスマホを明日菜に返した。

 

「さて…大体分かったと思うけど、逢襍佗君の家で待つことになったわ。幼馴染さん達、合鍵は持ってる?」

 

明日菜・木乃香・あやかは顔を見合わせる。木乃香はいち早くポケットの財布を探り、明日菜とあやかはため息をつきながらポケットに手を入れた。

 

そして三人同時に手を上げると、その手には鍵が握られている。

 

それを確認し、和美は満足げに笑った。

 

 

 

 

 

 

通話を終えた祐はスマホをしまい、遠くを見る。

 

「さてと、行きますかぁ」

 

伸びをしながら歩き出す。ふと目に留まった近くの山に登ってみようと思ったのは正解だった。幸い周りに気配も視線も感じない。

 

「帰りの交通費が空いたな」

 

普段は可能な限り交通機関を使おうと考えているが、今は待ち人をあまり待たせるわけにもいかない。さっさと麻帆良に戻って彼女達に会うとしよう。

 

そうして祐は空から現れた虹色の光の柱に包まれ、遥か上空へと消えていく。その光の柱は、かつて夢の世界にも降り注いだものと同じだった。

 

 

 

 

 

 

その昔。北欧にて語られた神話では、神々は地上から自らの住む王国へと虹色の橋をかけ、その橋を渡り王国に戻って行ったという。

 

その虹の橋は『ビフレスト』と呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

同時刻、裕奈は自室で電話を掛ける。横にいるアキラは少し不安げな表情を浮かべていた。

 

『はい』

 

「やっほーザジさん、今大丈夫?」

 

『大丈夫ですよ、どうかしましたか?』

 

「いやぁそれが、事件ってわけじゃないんだけど…ちょっと変わったことがあったから、ザジさん何か知ってるかなって思ってさ」

 

『それはそれは。取り敢えず、お聞かせ願いましょう』

 

「うん、実は今日夢の中でね…」

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  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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