合鍵を使い、祐の家の中へと入る明日菜達。和美を始め、ハルナとさよも周りを興味深そうに見ている。
「ここが逢襍佗君の家か、結構綺麗じゃん」
「同級生の男子の家に入るなんてシチュエーションが、まさか私に起こるとは…」
ハルナとしてはこれから起こるであろうことさえなければもっと喜べたのだが、如何せんきっかけは自分が口を滑らせてしまったからなので何も言えなかった。
「皆さんはこちらに来たことはあるんですか?」
辺りを眺めながらさよは明日菜達三人に聞く。
「引越し初日にね。お祝いってことで幼馴染全員が集まったのよ」
「確か今年の三月やったっけ?それぶりやね」
「いくら幼馴染とはいえ、うら若き男女がそう頻繁に一つ屋根の下で過ごすわけにも行きませんもの」
「いんちょ硬いな〜」
「木乃香さんが無防備すぎるんです」
話しながら部屋に入ると、明日菜は飾られていた写真立てを手に取る。引越し初日はまだ荷物も碌に配置していなかったので、その時に見た記憶はない。その写真は祐達の幼かった頃の集合写真である。
自分達の部屋にも同じものが飾ってあるが、祐も同じように飾ってあるのが少し嬉しかった。
「これ昔の写真?当たり前だけどみんなちっこいわね」
「そりゃそうでしょ、小学生の時なんだから」
和美達も手に取った写真を覗く。木乃香は少し笑いながらある人物を指さした。
「こん時の明日菜、やっぱりツンとした顔しとるよね」
「本当、この無愛想な子がどうやったらこんな子になるのやら」
「あ〜うるさいうるさい…言っとくけどあんたらのせいだからね」
恥ずかしさを誤魔化すためにぶっきらぼうに返す。幼少期のことは自分でも恥ずかしいのだ、あまりつつかれたくない。
「最近の写真もあるわね、まきちゃんと亜子じゃん。一緒にトロフィー持ってるけど、何これ?」
「これは隣のクラスの子でしたっけ?可愛い衣装ですね〜」
それぞれが写真立てを見始める。そこで明日菜がふと後ろを見ると、和美が棚を念入りに調べていた。
「ちょっと朝倉、何してんのよ?」
「ん?エロ本探し」
「エっ!ば、馬鹿じゃないの⁉︎」
明日菜は一瞬で顔を赤くするが、和美は構わず調べ続ける。
「16歳の思春期男子なんだからエッチな物の一つや二つあるでしょ」
「だからと言って何故探すのですか⁉︎」
明日菜だけでなくあやかもこの手の話題は得意ではない。気が付けばしれっとハルナも参加している。明日菜とあやかは思わず後ろからハルナと和美を羽交締めにした。
「やめなさいっての!」
「いいの明日菜⁉︎もしかしたら祐君の性癖を知ることができるかもしれないのよ⁉︎」
「知りたくないわ!」
「言ったでしょ委員長!私は真実を探らずにはいられないのよ!」
「取り敢えず真実と言っておけばいいと思ってませんか⁉︎」
特に参加しているわけではないが、木乃香とさよは少し興味ありげに和美達の調べている棚を後ろから覗いている。
そんな調子でドタバタとしている中、ドアが開いた音がする。全員がそちらに目を向けると、待ち人である祐が部屋に入ってきた。
「随分賑やかだね、いつも一人の部屋だから不思議な気分だ」
どこか嬉しそうに言って笑う祐。明日菜とあやかは和美達からすっと手を離した。
「祐…」
「おっす明日菜、それにみんなも。すぐに電話に出れなくて悪かったね」
声を掛けながら荷物を下ろし、今いる面々と顔を合わせる。そしてその視線は和美で止まった。
「私がおかえりって言うのも変な感じだけど、おかえり逢襍佗君。待ってたわ」
「ただいま朝倉さん。そして我が家にようこそ皆さん、歓迎するよ」
「まぁ、もてなせるものは何もないけどね」
現在明日菜達はテーブルを囲んで座っている。祐はコップに水を汲んでいるところだ。
「おまたせ。ただの水だけど無いよりはいいでしょ?コップが足りてよかったよ」
コップを載せたトレーをテーブルに置く。
「あっ、相坂さんって飲めるのかな?」
「食べたり飲んだりはできないので、お気になさらないでください」
「そっか、なるほどね…」
何かを考えるように腕を組むと、空いている場所に座った。両隣には明日菜とあやか、テーブルを挟んで向かいには和美がペンとメモ帳を既に構えて座っていた。
「さて…いきなりで申し訳ないけど逢襍佗君、早速インタビューの方いいかしら?」
「どうぞ、答えられる限りは正直に答えるよ」
その言葉に部屋の緊張感が増した気がする。平気そうな顔をしているのは祐だけだった。
「それじゃあまず…逢襍佗君、貴方はエヴァちゃんと7年ちょっと一緒に暮らしていた。これに間違いない?」
「そうだね、間違いないよ。俺は8歳の12月から今年の3月、ここで一人暮らしを始めるまではエヴァ姉さんと一緒に暮らしてた」
「そうやって呼ぶんだね、エヴァちゃんのこと」
「俺にとっては保護者で姉さんだからね。まったく頭が上がらない人だよ」
頷きながらメモをとる和美。明日菜からしてもその呼び方は初めて聞いた。いつも基本的に祐がエヴァを呼ぶ時は師匠と言っていたからだ。
今そう言わなかったのは自分の師匠であることを隠す為か、はたまた別の意味合いがあるのか、それは祐以外には分からない。
「じゃあ次。私達は今日、エヴァちゃんから自分は吸血鬼であること、そして魔法使いだってことを聞いたの。エヴァちゃんは逢襍佗君はそのどちらでもないって言ってた。それに関しては?」
「エヴァ姉さんは嘘は言ってない、俺はどちらでもないから」
「じゃあ、普通の人間?」
「人間だよ、恐らくね」
全員が祐の顔をみる。今の発言はどう考えても含みがあって、和美としてもそこを流すわけにはいかない。
「恐らく…ね。逢襍佗君、貴方は私達に隠してることはある?」
「ある、それも沢山。正直言って隠し事だらけだ」
和美は僅かに目を見開く。こうも迷いなく答えるとは流石に思っていなかった。何故か祐より自分の方が緊張していて、それは自分の心臓が素早く脈を打っていることからも容易に分かった。
気付けば呼吸は浅くなり、気持ちは今にも自分の思考を置き去りにしそうである。真実は、もう目の前にあった。
「その隠してることって…」
少し早口になっているのを感じながらも、ゆっくり話すことなどできない。遂に掴めるかもしれないのだ、彼を紐解く何かが。
和美と祐以外の全員が不安でその表情を染める中、祐が口を開いた。
「どうして朝倉さんはそれを聞きたいと思ったのか、悪いけどそれを先に教えてほしい」
祐から投げかけられた質問に、和美は素直に答えることにした。例えそれで掴み損なったとしても、今ここで自分が嘘をついては意味がないのだ。彼の誠意に応えなければ、それは記者の誇りを失ったも同然なのだから。
「私は知りたいの、隠されている真実を。それで名声を得たいわけでも、注目されたいわけでもない。その真実も隠された理由も知りたい。私はただ、知りたいだけ」
真っ直ぐ見つめてくる和美の視線を、祐も決して逸らさず見つめ返す。一瞬のような、それでいて永遠のような沈黙は、祐の一言によって破られた。
「朝倉さんも見たあの仮面の男、そしてあの虹の光の正体は俺だ」
「祐⁉︎」
「祐さん⁉︎」
明日菜とあやかは思わず前のめりになって祐に近づく。和美はペンとメモを落として呆然と祐を見つめていた。
「朝倉さんから嘘は感じなかった。言ったことも、持ってる覚悟にも」
「貴女に賭けるよ朝倉さん。仮にもしそれで俺が破滅するなら、俺の目が節穴だったってだけのことだ」
笑ってそう言いのけた祐を、周りは複雑な顔で見つめるしかなかった。和美は少しずつ我に帰ると、辿々しくも言葉を発する。
「あ、その…何か、見せてもらえない?証拠というか…」
祐は掌を上に向けて和美の前に持ってくる。そこに視線を向けると、その場に光が現れた。
忘れるはずもない。怪獣の時も、そして夢の時にも見た。間違いなく、それは虹の光だ。
ゆっくりと拳を握ると光は静かに消えていく。手を下ろし、祐は和美の顔を見た。
「どう?信じてもらえた?」
「は、ははは…こりゃ、本当にとんでもない何かだったわ」
未だ驚愕の表情のまま力無く笑う。何かあるのは確信していた、しかしこの展開は正直言って予想外だった。
アウトレットの爆発を止め、怪獣を消し去り、夢の世界から自分達を助け出した虹の光を纏う仮面の男。その正体が彼、逢襍佗祐であるとは。
「なんなの、その光って?」
「生憎俺にも分からない。これがなんなのか、なんで使えるようになったのか。8歳の時に急に使えるようになったってこと以外はまるで分かってない」
「俺が今まで会ってきた人も、誰も分からなかった」
和美は左手を額に当てる。未だ明かされた情報に戸惑い、思考が追いついていない。しかし大事なことはしっかりと押さえられた。謎に包まれた虹の光の正体は彼で、彼本人にもそれがなんなのか分かっていない。これだけ知れれば充分だ。むしろ充分すぎると言っていい。
まだまだ聞きたい事はあるが、少し落ち着く必要がある。何せこの数時間は情報過多だ、冷静に今日判明した事実を纏めたい。それに伴い、和美は一旦最後の質問をすることにした。それは尤も聞いておきたい事の一つでもあった。
「聞きたい事は山ほどあるんだけど、取り敢えず一旦これで最後。逢襍佗君、貴方はその力を使って何をするの?」
少し祐の表情は真剣さを増した気がする。彼の見せる初めての表情を意外に思いながら、答えを待った。
「自分の大事なものを守る。それを壊そうとするものを潰す。少なくとも、俺にとってはこの力はその為のものだ。本来これがなんであろうとね」
「…なるほどね」
和美は大きく息を吐いて、メモとペンを置くとテーブルにうつ伏せになる。
「はぁ~参った参った…人生で一番疲れたかも…」
「俺も緊張したよ、なんせインタビューされたの初めてだったから」
普段通りの笑顔を見せる祐。先程とは打って変わった表情に引っ掛かりを覚えるが、その表情がどこか和美を安心させた。
「よく言うわよ、平気な顔してたくせに」
「いやいや、緊張して表情が固まってただけだよ」
「どうだか…」
少し笑って和美は上体を起こす。すると祐の横に座っていた明日菜が不安げな目を自分に向けている事に気が付いた。
「明日菜、何か気になることでもあった?」
「いくらでもあるわよ、でもまず…朝倉、この後あんたどうするの?」
大体予想通りの事を聞かれる。まぁ、彼女達が一番気になるのはそこだろうなとは思っていた。明日菜だけでなく、ここにいる祐以外の全員が多少の差はあれど同じ表情をしている。
「明日菜達が心配しているようなことにはならないわ。この話を周りに言いふらす…なんてことはしないから安心して」
明日菜達が驚いたような顔をする。はっきり言って最悪世間にバラされるのではないかと思っていたからだ。
「ぶっちゃけ意外だわ…てっきりスクープだ!って言って大喜びで公表するもんだと思ってた…」
「ええ、スクープに魂を売った方だと…」
「貴様らそれが四年間同じクラスの友人にかける言葉か」
ハルナとあやかの発言に青筋を浮かべるのは仕方のないことだろう。確かにスクープは優先すべき事だが、それをその後どうするかは場合による。
「あのねぇ…私にも良心ぐらいあるわ。この話は面白半分で扱うべき物じゃないってことくらいの分別はついてるっての」
「和美さん、あれだけスクープを追いかけていたのに…私尊敬します!」
両手を組んでまっすぐ見つめてくるさよに、流石にそこまで言わなくてもと和美は苦笑いをした。それを笑顔で見ている祐を見て、こちらも気になることが出てきた。
「そんなわけで言いふらすつもりはないけどさ、逢襍佗君はどう思ってたわけ?私が聞いてきた時」
「俺は朝倉さんがこの事を周りに言っても言わなくても、どうこうしようとは思ってなかったよ」
「へ?だって正体隠してるんでしょ?」
「自分で周りに言うことでもないし、黙ってた方が今の生活続けられる期間は長くなるだろうからね」
「いや、だったら」
どうも要領を得ない発言に困惑していると、祐が続きを話す。
「俺は今凄く幸せだ。大切なものに囲まれて、最近は色々騒がしいけどそれでも毎日楽しく過ごせてる。今この瞬間が俺にとっては奇跡みたいなもんで、言ってしまえば夢みたいなもんなんだ」
微笑む祐は、その幸せを噛み締めているようにも見えた。
「だからこそ、今の生活がずっと続くだなんて思ってない。世の中そんな上手いこといかないからねぇ。いつかは分からないけど、その時は必ず来るよ」
再び雰囲気が暗いものになる。和美はそれに居心地の悪さを感じていた。するとずっと静かだった木乃香が祐に聞く。
「祐君は、これからどうなると思っとるん?」
それは様々な意味が含まれた質問だろう。これからとはこの世界のことでもあり、祐自身のことでもあった。
「まず世界はまだまだ落ち着かないだろうね。脅したいわけじゃないけど、まだ本番は来てないと思うよ」
「それって、これからもっと大きな事件が起きるってこと?」
「恐らくね」
次いで聞いてきたハルナに迷いなく答える。エヴァも言っていたし何より明日菜も身をもって知っている、祐の予感はよく当たる。それも悪い予感ほど。その事を思い出し、明日菜は眉間に皺をよせた。
「それと俺のことだけど、いつ頃この生活が終わるかってのは流石に予想できないな」
苦笑いを浮かべながら頭を掻く祐。正直和美にはその姿が痛々しいものに映った。
「いつかは必ず正体がバレるから、そうなったらしょうがないって思ってるの?」
「仰る通り。バレたのなら、その時が来たってことなんだろうなって」
「だからその時が来るまでは、楽しく過ごさせてもらうよ。全力でさ」
そう言って笑顔を見せる祐の顔に悲壮感などなく、強がりなどではないと思えた。だからこそ、より悲しく感じるのかもしれない。
和美は視線を落とし、思考を巡らせる。暫くして視線を上げて祐を見た。
「大体わかったわ。それじゃあ逢襍佗君、今後ともよろしくね」
「は?どういうこと?」
突然のことに思わず明日菜がそう聞くと、和美は笑って答える。
「逢襍佗君の家に来る前に言ったでしょ?笑えない話なら最後まで付き合うって。だから、これからもよろしくねって言ったの」
祐はその話を知らないので首を傾げていると、和美は再度祐の方を見た。
「私これでも結構尽くすタイプだから力になれると思うのよね、主に情報面で。それに、こんな秘密を聞いたんなら最後まで見届ける義務ってもんがある。逢襍佗君、貴方がこれからどんな道を行くのか…私はそれを見届けさせてもらうわ」
和美を見つめ返す祐は、静かに口を開いた。
「そう言ってもらえるのは正直すごく嬉しい。でも、俺と深く関わると面倒なことに巻き込まれるかもよ?俺はそういうのに事欠かないし、何より偶に自分から行くし」
「偶にではないでしょう…」
「いや偶にだって。それに関しても俺の近くで起きる事件の方が悪い」
あやかの否定に即座に反応する。二人の姿を見て和美は呆れたように笑った。
「面倒事、厄介事、どっちもどんと来いよ。そこに隠された真実があるなら、そこが私の行くべき場所。これが口だけじゃないってこと、これから行動でもって証明してみせるわ」
祐は腕を組むと、納得したように頷く。
「なるほど、朝倉さんは結構頑固なんだね。苦労しない?」
「あんたが言うな」
「何言ってんだよ明日菜もだろ」
「うるさい」
明日菜が祐の肩を叩く。先程の会話で明日菜は若干不機嫌になっていた。祐のどこか自分の生き方に対して達観しているような姿が、明日菜は好きではなかったからだ。
「いてっ!何で叩くんだよ!?」
「あんたが相変わらずだからよ!この…!石頭!」
「確かに頑丈さには自信があります」
「そういうことじゃないわよ!バカ!」
「いや、めっちゃ怒ってるじゃん…なんで…?」
「祐君変なとこは鈍いなぁ」
明日菜の気持ちを理解している木乃香は苦笑いを浮かべながら言った。
祐は鋭い。しかしそれは自分に向けられる悪意や危険に対して強く発揮されるもので、それ以外となるとそうもいかないものだった。他の事を読み取るには、対象のものに意識を集中させなければ難しい。
「このままでは終われない…明日菜、じっとしてろ」
気持ちを読み取る為、明日菜の顔を両手で包んで固定し瞳を覗く。真っ赤になった明日菜は恥ずかしさから祐の顔に自分の手を正面から押し付けた。
「ぶおっ」
「み、見ないで!」
「いや見せろ!お前の瞳を覗かせろ!」
「覗くな!」
急に始まった押し問答に和美はいったい何を見させられているのかと冷めた視線を送っていると、動きが止まっていたあやかが後ろから祐を引き剥がしにかかる。
「何をしているんですかこんな時に!」
「お前も邪魔をするのか!ならお前の瞳を覗いてやるぞ!」
顔の向きを変え今度はあやかに顔を近づけると、同じように手で顔を押し返された。
「ぐへっ」
「かっ、顔を近づけないでください!」
「何故だ…何故目を合わせてくれないんだ!?幼馴染だろ!そんなに嫌か!」
「嫌というか…そもそも何故目を合わせる必要があるのですか!?」
「そうして意識を集中させれば何となく考えてることが感じられるからだ!俺にお前の心を感じさせろ!」
「余計に合わせるわけにはいきませんわ!」
前に強制的に向けられると、今度は明日菜に押し返される。
「だからってこっち向くな!」
前からは明日菜に、後ろからはあやかに押し返され、祐は横を向くしかなかった。
「何て冷たい奴らだ…これが幼馴染に対する仕打ちなのか!目を合わせることすら許されないとは!」
そんな事をしていると、木乃香が笑顔で立ち上がって祐に顔を近づけた。
「ほんならウチの目見てええよ」
「やめなさい木乃香!覗かれるわよ!」
「人を覗き魔みたいに言うんじゃないよ!」
明日菜は急いで木乃香の目を手で覆う。祐としては誠に遺憾であった。
「ほ~ら祐君、ここにフリーの瞳があるわよ」
「是非とも拝見させてください」
「おやめなさい!ハルナさんも近づいてはいけません!」
ハルナも祐に顔を寄せるが、あやかによって阻止される。
「大丈夫だから!少し見るぐらいじゃよっぽど思いが強くない限り中々読み取れないから!」
「…駄目です!少なくとも今は覗かれるわけにはいきませんわ!」
「何でだよ!」
顔を向ける場所を探してふと上を向くと、浮いてこちらを見ているさよと目が合った。
「あ、えっと…私でよかったらどうぞ?」
「天使かな?」
「いえ、幽霊です…」
「些細なことだな!」
「だから覗くな!」
「なにこれ?」
和美は遂にその言葉を口から出してしまった。
それから暫く騒ぎは続き、事態は何とか終息した。目を合わせ続けようとした祐は二人からの攻撃を受けて横になって倒れている。そこでハルナが時間を確認すると、気が付けばもう13時を過ぎていた。
「あれま、もうこんな時間か」
「いやぁ、何とも濃密な時間だったわ」
「びっくりさせられっぱなしでした」
周りが話を纏め始めていると、木乃香がそもそも祐の家に来ることになった理由を思い出した。
「そう言えば、祐君ちに来たのって今後のこと話し合う為やなかった?」
『あ、忘れてた…』
そのことがすっかり抜け落ちていた明日菜達。それが分からない和美と祐は不思議そうな顔をした。
「なによ?今後のことって」
そこで和美と祐に説明する。裕奈がお礼を言いたがっている事、そして祐が自分の力をどう思っているのかという事を。祐はそれを聞いて頭を捻る。
「う~ん、明石さんに関しては…どうすっかね?別にお礼とかはいいんだけど」
「そりゃあんたは良くても裕奈はすっきりしないでしょ」
「でもそれで正体明かすかって言うと…ねぇ?今更な気がするけど」
「まぁ、確かにね…」
祐の正体を知る人物が随分と増えたのは間違いない。だからと言って、もう気にせず明かしていいかといえばそれは違う気がする。
「それも問題だけどさ、祐君はどう思ってるの?その…虹の光のこと」
ハルナが言い難そうにしながらも聞いた。祐は自分の掌を見つめる。
「どうだろうね、そもそもこれが何か分からないからなぁ。まぁ不安が無いって言ったら嘘になるよ」
心配そうな表情を浮かべるハルナ達の顔を見て、祐は少し笑った。
「でも、それ以上に良かったって思ってるかも。これがあったおかげで出来たことは沢山あるからね、これからも精々都合よく使わせてもらうよ。そんぐらいしたって罰は当たらないでしょ!」
その笑顔に勿論思う所はある、しかし今はそれを飲み込んだ。きっとこれは、今すぐになんとか出来ることではない。ゆっくりと、それでいてしっかりと寄り添っていくべきことだ。
これから長い年月を掛けても構わない。それこそ、ここにいる彼女達にはその心構えは出来ていた。
そんな時、あやかのスマホが鳴る。画面を見るとある人物からの連絡だった。
「誰から?」
「ザジさんからですわね」
「これまた意外な人物」
和美が言葉通り意外そうな顔をする。別に持っていてもおかしくはないが、彼女が通信機器を持っていた事も少し驚きだ。
「すみません、少し失礼しますわ」
部屋から出て廊下で通話を始めるあやか。ザジの名前を聞いて思い出したことがあったさよが祐の横に来る。
「今思い出したんですけど、ザジさんも祐さんの光のこと知ってましたよね?」
「ん?ああ、そうだね。初対面の時に言われたんだ、変わったものを持ってますねって」
「ええ…」
「ザジさんって何者なの…?」
「さぁ?本人に聞いたら教えてくれるかもね」
そんな事を話していると、あやかが何とも言えない顔で部屋に戻ってくる。それを見て、和美が代表して声を掛けた。
「何の電話だったか聞いてもいい?」
「ええ…寧ろ聞いて頂きたいですわ」
その言葉に全員が首を傾げる。あやかは自分でもよく理解できていないのか、整理しながら話し始めた。
「今受けた電話は、裕奈さんに関する事でした」
「裕奈に?」
「はい。正確には裕奈さんがザジさんに相談したことを、こちらに報告してくれたと言いますか…」
なにやら嫌な予感がしないでもないが、取り敢えず祐達は最後まで聞くことにした。
「それで、その内容なんですが…」
「うん」
「その、裕奈さんが夢の中で…花の魔術師を名乗る不審人物に出くわしたと…」
『……は?』
祐以外の全員の声が重なる。対して祐は苦笑いを浮かべていた。
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