Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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旧友からの言葉

目を開けると、そこは花が咲き誇る場所だった。色とりどりの花がどこか温かく、そして優しい風に吹かれて揺れている。

 

身体を起こした裕奈はここが何処なのか分からないまま、幻想的な空間を眺めていた。そうしていると後ろから声を掛けられる。

 

「やぁやぁお嬢さん、突然呼び出してしまってすまないね」

 

振り向くとそこには、この風景に負けずとも劣らない幻想的な雰囲気を醸し出している人物が立っていた。

 

薄い紫色の長髪に、印象的な服装。そして大きな杖を持ち、柔らかい笑みをこちらに向けている。

 

「あの、どちら様ですか…?」

 

裕奈が警戒心を抱くのも仕方のないことだろう。何せ一度裕奈は似たような雰囲気の相手に多大な迷惑をかけられたのだ。纏っている雰囲気は目の前の人物の方が柔らかいとはいえ、それだけで安心は出来なかった。

 

「そうだね、私は…花の魔術師さ!」

 

「は、花の魔術師…?」

 

そう名乗るのは美しい容姿の男性だ。自己紹介通り周りに咲く花も相まって、彼からは花を連想させられた。

 

「とは言ったものの、あんなことがあった後だ。君が私を警戒するのも無理はない」

 

「あんなことって…もしかして夢の中でのことを知ってるんですか?」

 

「勿論だとも、何せ私も夢に関しては深い繋がりがあるからね。実際あの場で君達の活躍を見学させてもらっていたよ。いやぁ、実に素晴らしかった!」

 

無邪気というか人が良さそうというか、柔らかい表情を浮かべる彼は悪人には見えない。しかしすぐに信用するわけにもいかないだろう。それを感じ取ってなのか、男は手を自分の胸に当てた。

 

「君に安心して私と話してもらう為にも改めて自己紹介をしよう。私は魔術師マーリン。魔術師さんでも、マーリンお兄さんでも好きに呼んでくれたまえ」

 

「はぁ…」

 

裕奈は目の前の相手である『マーリン』の掴みどころのない雰囲気に押されていた。僅かにだが警戒心が薄れた様子の裕奈にマーリンは満足げである。

 

「さぁ、お嬢さん。私が君の夢の中にお邪魔したのは他でもない、私の話を聞いてほしかったからだ」

 

そう言いながらその場に座り込むマーリン。裕奈もなんとなくそれに倣ってその場に座った。

 

「話って、私にですか?…ていうかまた夢の中なの⁉︎」

 

重要なことに気が付いた裕奈が前のめりになると、マーリンは笑う。

 

「いやぁ、申し訳ない。何せ私は現実世界でとなると、あまり自由に動けないんだ。君にとってはいい気分はしないだろうが、そこはどうか大目に見てほしい」

 

頭を下げるマーリンを見て色々と思うところはあるが、取り敢えず今は話を聞くしかないかと自分を納得させた。

 

「しかしだ、これから君に話すことはきっと君にも有益なことだと約束しよう」

 

「まぁ、分かりました…。どうぞ」

 

手で続きを促すと、マーリンは話し始める。

 

「話の内容は至って単純。例の虹の光を持つ人物のことさ」

 

その発言に裕奈は目を見開く。今裕奈が最も気になっていることと言っても過言ではない。

 

「知ってるんですか⁉︎あの人のこと⁉︎」

 

「よーく知っているとも。何せ私と彼は共に大仕事を成し遂げた仲だ、旧友というやつかな?」

 

「旧友…」

 

「まぁ、私が出会った時はあんなカラフルな光の色ではなかったけど…そこは置いておこう」

 

「あの、あの人のことを知ってるなら誰なのかっていうのは」

 

「そう!そこだよ明石裕奈ちゃん、そこが私の話したかったことさ」

 

勢いよく指をさされ、思わず驚いた表情を浮かべる裕奈。そしてその後マーリンに疑いの目を向けた。

 

「しれっと私の名前呼びませんでした?」

 

「君達のことは色々と見せてもらったからね、名前ぐらい知ってるさ。これでも私はそれなりに名のある魔術師なんだ」

 

誇らしげな顔をするマーリン。正直言って胡散臭いが、彼の態度を見ているとどうも毒気を抜かれる。

 

「話を戻そうか、私は彼のことを知っているし正体も知っている。ただ、どうやら今の彼は一応正体を隠して生きているようなんだ」

 

それはなんとなく予想はしていた。あの仮面、そしてよく認識できない声。どれを取っても自身の正体を明かさないようにしていると考えるのが自然だ。

 

「君が彼の正体を知って周りに言いふらすような子ではないとは思っているが、問題はそれだけではなくてね」

 

「なんですか、問題って?」

 

「何せ難しい問題だ。彼の正体を知る人物が多くなれば多くなるほど、彼は平和には生きられなくなる。何故そうなるのかの詳しい説明は訳あって省略させてもらうけど、これに関しては間違いない」

 

それを聞いて裕奈は表情を暗くする。

 

自分は彼にお礼を言いたい。そして知れるならその正体も知りたい。しかしそれが彼の生活を脅かすのなら、そんなことは望むところではない。

 

「あの人の正体が周りに知られると、あの人は…平和に暮らせなくなるんですか?」

 

「元も子もないことを言うと、正直時間の問題ではあるんだ」

 

「えっ?」

 

「君も知っているだろう?彼はあの夢の一件以外でも既に数多くの事件を対処している」

 

恐らくアウトレットの爆発、そして怪獣事件のことを言っているのだろう。どれも虹の光が関係していた。

 

「あの虹の光に目を付け始めた連中は、少しずつだがその的を絞ってきている。彼の情報に関しては嘗て私や私達の友人が色々と頑張ったんだが、限度ってものがある」

 

「何より問題は彼の性格だ。そうすれば奇跡的に手に入れられた平和な生活を手放すと分かっていながら、この世界で起きる問題に見て見ぬ振りが出来ない。それに正体を隠そうとはしているが、最優先の項目にはしていない。恐らくもう本人は諦めているんだろうね」

 

「自分が、平和に生きることを…ですか?」

 

「その通り」

 

裕奈はそこで悲しい顔をした。正体も知らなければ、顔すら分からない。まったく知らない人物でも、彼は自分達の恩人だ。そんな彼が厄介なものを背負っているのは、裕奈としても悲しいことだった。

 

「実際、彼がいないと如何ともし難い問題はこれからも山積みだろう。なんせこんな世界だからね」

 

「遅かれ早かれではあるけれど、出来ることならもう少しぐらい彼には思い思いに生活してほしいと私は思っているんだ。それぐらいやってもバチは当たらない」

 

「だから、彼にお礼を言うことに関しては私に任せてもらいたい。なに、決して悪いようにはしないさ」

 

裕奈は少し悩んだものの、直ぐにマーリンに顔を向けた。

 

「分かりました…お礼のこと、お願いします」

 

「任せてくれたまえ!話が早くて助かるよ!どうも私の周りには話を聞かない相手が多くてねぇ…君みたいな素直な子は久し振りだ」

 

その誰かを思い浮かべているのか、マーリンの表情には疲れが見える。飄飄としている様に見えるが、これでも意外と苦労人なのだろうかと裕奈は思った。

 

「というわけで私からは以上だ、付き合ってくれてありがとう明石裕奈ちゃん。また会う時を楽しみにしているよ!」

 

挨拶も早々に花弁が舞い、景色が薄れていく。

 

「えっ!いきなり終わり!?せめてもう少しくらい貴方のこと教えてくれても!」

 

「それはまたの機会にでも、それでは良い目覚めを~」

 

「ちょっと~!」

 

 

 

 

 

 

「てなことがありまして…」

 

『……』

 

現在ザジからの連絡を受けたあやか達は、裕奈とアキラの部屋で裕奈本人から話を聞いていた。流石に祐も一緒に聞くわけにもいかないので、祐は明日菜達の部屋で待機している。

 

「え~っと…もしかして信じられない感じ?」

 

「いえ…そういう訳ではないのですが…」

 

「その話に関しては信じてるわ。ただ…ねぇ?」

 

明日菜はそう言いながら周りに視線を向けると、全員が同じ表情をしていた。

 

「取り合えず要約すると、その魔術師…マーリンさんだっけ?その人はあの虹の人と知り合いで、お礼とかその他もろもろは任せてくれていいよ。ってことよね?」

 

「そういうことだと思う。たぶん…」

 

和美が話をまとめると裕奈は自信無さげではあるが頷く。

 

「そもそもその人って本当に友達なのかね?」

 

「でもそんな嘘つく必要ある?裕奈はそれ以外特になんも言われてないんでしょ?」

 

「うん。もっといろいろ聞きたかったけど、その話が終わったらいきなりさよならって感じだったし」

 

「う~ん…」

 

全員が頭を捻る。明日菜達からしてもその人物が何者なのかの判断は付かない。一旦持ち帰って祐に確認する必要があるだろう。ただ花の魔術師と聞いた瞬間の祐の反応を見れば、少なくとも知り合いなのは間違いないだろう。

 

「とにかく、話してくれてありがとうね。また何かあったら私達にも教えて」

 

「そうする。こっちこそありがとうね、みんな」

 

答えは出ないが、今はそれも仕方ない。それぞれ挨拶を交わすと、明日菜達は部屋から退出した。それを見送った裕奈とアキラはどちらともなく顔を見合わせる。

 

「裕奈、大丈夫?」

 

「私は大丈夫だよ。少なくとも話してた時はマーリンさんに嫌な感じはしなかったし」

 

「でも、何か引っかかってるでしょ?」

 

「まぁね…」

 

「あの人って、私が想像してた以上に大変なんだなって思ってさ」

 

そう呟いた裕奈に対して、アキラは掛ける言葉が見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱりマーリンさんだったか…確かに知り合いだよ、少し前にお世話になった」

 

その後明日菜達は帰って来たネギと談笑していた祐に先ほどの話をしてみると、大方予想通りの回答が返ってきた。

 

「やっぱりって、予想はしてたん?」

 

「花の魔術師なんて名乗る人は限られるし、何より夢の世界でマーリンさんの花を見たからね。こんな形で接触してくるとは思ってなかったけど」

 

「マーリンさんの花とは?」

 

「なんでかは知らないけど、あの人の周りって花が咲くんだよ。その花と同じのが夢の世界の女子寮の屋根に咲いてたから、見られてんなぁと」

 

祐からマーリンの話を聞いている最中、ネギはずっと考え込んでいるようだった。

 

「ネギ先生?どうかしたんですか?」

 

「その、気になったんですけど…祐さんの言うマーリンさんって、あのマーリンさんなんですか?」

 

「え、なに?ネギ君も知ってんの?」

 

意外そうな和美の質問にネギは答える。

 

「だってマーリンと言えばブリタニア列王史に登場する伝説の魔術師ですよ?有名どころの話じゃありませんよ」

 

「ブリタニア列王史?」

 

「なにそれ?」

 

「ちょっとわからないですね…」

 

明日菜達の反応にネギはショックを受けたような顔をする。

 

「ええ!皆さん知らないんですか!?日本だとそんなに有名じゃないのかなぁ…」

 

「今思い出したけどマーリンてあれじゃなかったっけ?アーサー王伝説に出てくる人」

 

「あ~、そうやった。なんか聞いたことあるな~思っとったけどそれやわ」

 

ハルナと木乃香がそう言うと、ネギは一瞬で目を輝かせた。知っている人が見つかって嬉しかったのだろう。

 

「そうです!マーリンはかのアーサー王を導いたと言われる凄い魔術師なんです!」

 

「アーサー王ってのは何となく聞いた事あるような…」

 

アーサー王という名前が出てきても、明日菜達の反応は著しくなかった。如何せん彼女達はそちらに関しての興味を持ってこなかったので致し方ない。

 

「俺もその話には詳しくないから下手なこと言えないけど、たぶんそのマーリンさんでいいと思う。これでも結構長生きしてるって言ってた気がするし、何より強かったよ」

 

「す、凄い!そもそも実在してたんですね!ということはアーサー王も!?」

 

「いたんじゃね?知らんけど」

 

「だとするとエクスカリバーも!?」

 

「あったんじゃね?知らんけど」

 

「投げやりすぎるでしょ」

 

普段はしっかり者のネギも、衝撃の事実に年相応の顔を見せる。その顔を見て恍惚の表情を浮かべるあやかを、明日菜は冷ややかな目で見ていた。

 

「そんな人に世話になったとか友達とか、あんたいったい何したのよ?」

 

それを聞かれた祐は困った顔をして頭を掻く。

 

「いや~、そのことなんだけど…簡単には話せない、すまん」

 

「いやいや、ここまで来てそれは無いでしょ!」

 

メモを取る気が満々だった和美が祐に詰め寄る。詰め寄ってこそいないが、その気持ちは周りも同じだった。

 

「悪いとは思うんだけど、何せこれは俺個人の話じゃなくなってくるんだ。いろんな人が関係してる話だから…どうか勘弁してくれ」

 

申し訳なさそうな表情で頭を下げる祐。真剣にそう言われてしまうと、周りも何とも言えなかった。

 

「まだ全部を話してくれる訳じゃないってことね」

 

「ほんとごめん。あっ、この話は師匠に聞いみてください。師匠が話すんなら俺も話すわ」

 

「丸投げしたわよこいつ」

 

「師匠って誰?」

 

「エヴァンジェリンさんのことだと思います。逢襍佗さんのお師匠さんなんだとか」

 

「はい新事実」

 

メモを取る和美。今日は何とも手が忙しい。

 

「てかエヴァちんは知ってるんだ」

 

「師匠も関係者だからね。…ああ!もう駄目だ!このままだとズルズルいきそう!勘弁してください!代わりに身体で払いますから!」

 

「いらんわ!」

 

「あと脱ごうとしないでください!」

 

再び明日菜とあやかの攻撃を受けて祐は沈んだ。苦笑いを浮かべつつ、木乃香はふと思いつく。

 

「今日裕奈にそう言ったんなら、今夜祐君の夢にマーリンさんが来るかもしれんね」

 

「…かもね、準備だけはしておくよ」

 

 

 

 

 

 

「あ、祐君」

 

その後一旦解散となった祐達。それぞれが自分の部屋に戻り、祐は見つからないよう女子寮から抜け出そうとしていると、後ろにいたハルナが遠慮気味に話し掛けてきた。

 

「どったの?」

 

「その、今日はごめん…実は私が祐君とエヴァちんの仲がいいって口滑らせちゃったから、朝倉に正体がバレちゃって…」

 

頭を下げるハルナに祐は微笑んだ後、肩を優しく叩く。

 

「気にしないでよ、俺は気にしてないから。それに、朝倉さんだったら多分遅かれ早かれ気づいてたと思う」

 

「何より、俺これでも結構A組の人達のこと信用してるんだ。俺の正体が知られて、その結果どうなっても、俺はそれがみんなの決めた事なら受け入れられる自信があるよ」

 

まっすぐ目を見てそう話す祐に、ハルナは浮かんだ疑問を思わず聞いた。

 

「何でそこまで信用してくれるの?私達のこと」

 

「なんでだろうね」

 

「そこ重要なとこでしょ…」

 

呆れた顔になるハルナに祐は笑う。正直自分でも上手く言葉にできる自信がない。何せ理屈ではないのだから。だからこそ、感じたままのことを伝えるしかない。

 

「確かなのは、俺がハルナさん達を信じたいって思ったってこと。答えになってないかもしれないけど、俺の心は確かにそう言ってるんだ、ハルナさん達を信じるって」

 

ハルナは祐から視線を逸らせて頭を掻く。確かに質問の答えとしては余りにも頼りなく、根拠の欠片もないと言っていい。それでも、その答えを聞いて一番強く感じたのは嬉しさだった。ちょろいなぁと自分のことながら思ってしまう。しかしそう感じてしまったのだから仕方がない。他ならぬ、ハルナの心でそう感じてしまったのだから。

 

「そんな答えでも納得しちゃいそう。我ながら能天気ね」

 

「いやいや、ハルナさんは自分を信じていいと思うよ。心がそう言ってるなら、心のままに信じてみて」

 

そう言われ、ハルナの顔は次第に笑みを浮かべる。

 

「意外とロマンチスト?次の作品に使わせてもらおうかな」

 

「クッソ恥ずかしいねそれ、使っても俺にはそのこと言わないでね」

 

「考えとく」

 

笑うハルナに祐も笑顔で返し、寮の塀から身を乗り出す。

 

「それじゃ行くね、おやすみなさいハルナさん」

 

「うん、おやすみ祐君」

 

手を軽く上げた後、その場から跳躍して祐は遠くへと消えていった。その姿を暫く見つめる。

 

「やられたわ…なかなか効いたぞ、この色男」

 

 

 

 

 

 

エヴァがその瞼を開けると、視界に入ってきたのは花が咲き誇る美しい光景だった。しかしそれに反して、エヴァは不機嫌そうな顔である。

 

「おのれ…忌々しい」

 

「開口一番に言うじゃないかエヴァンジェリン。久し振りの友人との再会だっていうのに」

 

後ろから声が掛かる。エヴァからすれば振り向かなくとも誰かは分かった。

 

「誰が友人だ誰が。勝手に友人認定するな」

 

面倒くさそうに後ろを振り向く。そこには想像通りの笑顔を見せるマーリンの姿があった。

 

「寂しいねぇ、あれだけ一緒に頑張ったことは忘れてしまったのかい?」

 

「お前も私もお互い自分の目的の為に動いていただけだろうが」

 

「確かに私達の関係は利害の一致から始まったけど、それは今でも継続中なんじゃないかな」

 

マーリンの言葉にエヴァは眉を顰める。

 

「どういうことだ」

 

「そのままの意味さ。君も私も、お互いの目的は同じ」

 

「いつお前の目的が祐になった」

 

「知らなかったのかい?私はとっくに彼のファンだよ」

 

暫くマーリンを見つめた後、エヴァは鼻を鳴らして横を向いた。

 

「ふん、それで?何の用だ」

 

「久し振りに挨拶に来た。という冗談はさて置いて、祐君を呼んでくれないかい?面倒なら今は伝言だけでもいい」

 

「呼ぶだと?」

 

「彼の夢に入ることは出来ないけど、彼は夢の世界でも座標さえあれば来れるだろう?君が呼べば直ぐにでも来てくれるんじゃないかと思うんだ」

 

「貴様見ていたのか」

 

「当然じゃないか、何せ夢の中での出来事だ。夢は私の専売特許だよ」

 

相変わらず食えない相手だ。それに常時笑みを絶やさないところも変わっていない。胡散臭さが服を着て歩いているとはエヴァのマーリンへの印象だ。

 

「お前の言うことを聞くのは癪だが、仕方ない。しょうもない事ならただでは置かんからな」

 

「そう怒らないでくれたまえ。大丈夫、彼の為を思ってのことだよ」

 

横目でマーリンを見た後、エヴァは目を閉じる。

 

「お前と話しているとあの古本を思い出す…」

 

「古本…ああ!アルビレオのことか!どうだい彼は、元気にしているかな?」

 

「どうせ元気だろう、殺したって死ななそうな奴だ」

 

「相変わらず辛辣だねぇ」

 

そんな話をしていると、エヴァの横に光の柱(ビフレスト)が現れる。

 

「流石だエヴァンジェリン。想いの強さというやつかな?」

 

「黙ってろ」

 

ビフレストが晴れるとその場に立っていたのは勿論祐だった。エヴァを見た後、マーリンに視線を向ける。

 

「お久し振りですねマーリンさん。大体二年ぶりぐらいでしたっけ?」

 

「そんなところかな。また会えてうれしいよ祐君。随分と明るくなったね、私としても喜ばしいことだ」

 

「皆さんのおかげです。というかこっちが素なんですけどね。あの頃は…ほら、尖ってましたから」

 

苦笑いを浮かべる祐。その姿を見て改めて思う、よくぞここまで回復したものだと。

 

「私としては君達ともっと色々と語り合いたいところなんだけど、生憎あまり時間がなくてね。早速用件を伝えさせてもらうよ」

 

「塔の上で寝ているだけだろうが」

 

「最近は忙しいの!私は穀潰しじゃないんだぞ」

 

「それは知らなかったな」

 

「まぁまぁ師匠」

 

祐がエヴァを宥めると渋々大人しくなる。エヴァの扱いを心得ているなと思いつつ、マーリンは続きを話す。

 

「要件は二つ。まずは明石裕奈ちゃんのことだけど、これは改めて私から言わなくても大丈夫かな?」

 

「はい。直接じゃなくても、感謝の気持ちはしっかり頂きました」

 

「それは結構」

 

満足げに頷くマーリン。そしてこれから話すことが本題と言っていい。

 

「では二つ目。そう遠くない未来で、私の教え子が君達と出逢う事になるだろう。先んじて出来ればその子と仲良くしてほしいと言いたくてね」

 

「教え子…ですか?」

 

「そうとも、何せ君が本格的に関わるとその現状は見渡せなくなる。まだ微かに見える今の内に伝えておきたかったのさ」

 

祐は腕を組んで考え始める。エヴァは一応話は聞いているが、余り興味はなさそうだった。

 

「その教え子っていうのは…」

 

「そこは楽しみにとっておこうか。なに、きっと直ぐに分かるよ」

 

「あ、そうですか…」

 

「またいつものやつか…」

 

祐とエヴァは同じような表情になる。マーリンが核心をぼかして話すのは今に始まったことでもない。

 

「すこ~し頭が固くて気難しい所もあるけど、とてもいい子だ。まぁ、エヴァンジェリンと仲良くなれる君なら心配はいらないだろうけどね」

 

「いちいち癇に障る奴だな貴様!」

 

「ステイステイ!いい子だから!後でビーフジャーキーあげるから!」

 

「犬扱いするな!」

 

マーリンに向かって走り出そうとしたエヴァを祐が後ろから抱きしめて止める。普段はエヴァが祐のストッパー役だが、時偶それは入れ替わったりもする。今は一言余計ではあったが。

 

「はっはっは!いや良い、実に良いよ祐君!出会った時の君も好きだけど、今の君の方が私は好きだな」

 

「告白されてしまった…」

 

「ツッコまんぞ」

 

二人の会話に再び笑った後、マーリンの周りに花弁が舞い始めた。

 

「名残惜しいけど、そろそろ行かなくては」

 

マーリンはそこで祐を見る。

 

「祐君。君の生き方は難儀なものだとは思うけど、僕はその生き方を止めはしないよ。そこに関しては君や他の人達に任せる。僕の役目は君の行く末を見守ることだからね」

 

「精々飽きられないように、これからも全力で生きていきますんで」

 

「楽しみにさせてもらうよ」

 

花弁が吹き荒れ、マーリンの姿が薄れていく。

 

「それではまた会おう。その時までどうか健やかに、友よ」

 

その言葉を最後に姿を消すマーリン。祐は彼に向けて笑顔で手を振った。

 

「厄介な奴に目を付けられたものだ」

 

「そんなことないですよ。あの人も、俺の大事な恩人です」

 

エヴァは祐を見ると、祐もこちらを見ていた。暫く二人は見つめ合う。

 

「…なんだ?」

 

「いえ、ただちょっと…嬉しくなっちゃって」

 

笑顔を見せる祐を不思議そうに見たエヴァ。すると祐が何かを思い出した。

 

「そうだ、あの特別な呼び方って話ですけどね?エヴィ姉さんなんてどうでしょう。調べたらそう呼んでもおかしくないみたいだし、それにこの呼び方は誰もしてませんからね」

 

エヴァは少し驚いた表情を浮かべた後、次第にその表情を笑顔に変えた。

 

「取り敢えずは及第点だな」

 

「え~厳しい。これでもちゃんと調べたんですよ?」

 

「どう調べたんだ?」

 

「ネットで『エヴァンジェリン・愛称』で調べました」

 

「片手間で出来るではないか!」

 

「調べたことには変わりないでしょうが!」

 

「だとしても少しは取り繕わんか!」

 

「嘘はよくないっすよ!」

 

「抜かせ!」

 

二人の言い合いは、エヴァが夢から覚めるまで続いた。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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