Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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夏の終わり

時刻は朝の10時を回り、外からも生活の音が聞こえてくる。明日菜は水を飲みながら、今ではすっかりネギの居住スペースとなっているロフトに目を向けた。

 

そこにはカモを肩に乗せ、机に向かっているネギがいる。その後ろ姿から察するに、何かを見ているようだ。

 

「ネギ、何か見てるの?」

 

「はい、ネカネお姉ちゃんからの手紙を」

 

振り向いたネギは手に持っていた手紙を見せる。そこには文章の上に立体映像が浮かび上がっていた。

 

「手紙ねぇ…てか映像も出るんだ。これも魔法?」

 

「そうですね。今では科学でも同じことは出来るみたいですけど」

 

明日菜は相槌を打ちながらリビングに目を向ける。現在木乃香は学園長に呼ばれ、この場に居ない。話の内容は木乃香も知らないそうだが、今回はお見合いの話ではないらしい。そのことから明日菜は先日ネギも同様に学園長に呼び出されていたことを思い出した。

 

「そういえばこの間あんたも学園長に呼ばれてたわよね?何話してたの?」

 

「あっ、そういえば伝えてませんでしたね。明日菜さん、実は木乃香さんに関することなんですが」

 

ネギが話している途中でドアが開く。二人が目を向けると、そこに立っていたのは木乃香と刹那だった。

 

「あれ木乃香、もう終わったの?それに刹那さんまで」

 

すると木乃香は無言で明日菜達に近づく。それを不思議に思いながら見ていると、木乃香は目の前で立ち止まった。

 

「木乃香?」

 

「明日菜、ネギ君」

 

俯いていた木乃香は勢いよく顔を上げる。その顔は満面の笑みだった。

 

「ウチ、実は魔法少女だったらしいわ!」

 

「「……え?」」

 

 

 

 

 

 

「えっと…つまり何?木乃香の実家は魔法使いの中でも有名なところで、木乃香にはとんでもない才能がある。ってことでいいのよね?」

 

「大方それで間違いはないかと…」

 

突然何を言い出したかと色んな意味で心配したが、要約すると話はこうだ。

 

木乃香の実家は日本きっての魔法協会の一つ、京都にその門を構える関西呪術協会の総本山であり、彼の父である近衛詠春(えいしゅん)はその長であった。

 

それに何より木乃香本人は常人ならざる魔力量をその身に宿しており、その量はネギはおろかその父である英雄『サウザンドマスター』と名高いナギをも超える代物だった。

 

しかし木乃香には平和な生活を送ってほしいと願う詠春の考えにより、本人には家のことも含めてそのことは隠されていた。

 

だが近頃の度重なる超常現象、怪事件を鑑みて詠春と祖父である近右衛門は幾度の話し合いの末、一つの決断をした。

 

それこそが木乃香に自身の秘密、そして実家の真の姿を明かすことだった。

 

「もう、お父様もじいちゃんもほんまにいけずやわ。こないなことウチにずっと秘密にしとったなんて」

 

頬を膨らませて拗ねているのを隠そうともしない木乃香に明日菜達は苦笑いだ。

 

「そう仰らないでくださいお嬢様、長としてもお嬢様の為を思ってのことなので」

 

「む~、それはそうやけど…」

 

「じゃあさっきネギが言おうとしたことって」

 

「はい、副担任として先に伝えられたんです」

 

そこで明日菜がネギに耳打ちをする。

 

「じゃあ、あんたの正体は?」

 

「伝えることになりました。その方が色々と都合がいいだろうと学園長も仰っていたので」

 

「なるほどね」

 

「二人とも~、内緒話しとるん?」

 

二人に声を掛ける木乃香。二人は再び苦笑いを浮かべつつ、ネギが魔法使いであることを木乃香に話し始める。

 

それは同時に、木乃香が更に頬を膨らませてしまうことも意味していた。

 

 

 

 

 

 

夏休みも残すところあと二日、それを憂いている者・終わらぬ宿題に焦りを見せる者・全てを受け入れ賢者的思考に達してしまった者など様々だ。

 

そんな学生達で溢れる麻帆良の街。現在祐は終わりの気配を見せる夏を感じながら、自宅で何をするでもなく黄昏ていた。

 

そんな時スマホが着信を知らせる。画面を確認すると、相手は木乃香だった。

 

「あい、もしもし」

 

『祐君!みんな酷いと思わん!?』

 

「うん、思うよ。因みに何が?」

 

木乃香には特にイエスマンになる祐は、取り合えず同意してから詳細を聞いた。拗ねている訳は木乃香自身のことを秘密にされていた件、そしてここにきてネギが実は魔法使いで更に明日菜はそのことを知っていて、更に更に仮契約なるものまでしているというものだった。

 

「…それは酷いな!」

 

『せやろ!』

 

一応言っておくと祐もそれを全て知っているし、木乃香に話していなかった者の一人である。しかし今それを言ってしまうと更に木乃香を不機嫌にさせてしまうので、少なくとも電話越して話すのは憚れた。

 

(これは伝家の宝刀、直接会って誠心誠意の土下座しかないな。今直ぐ会おう、そうしよう)

 

一瞬で決断した祐の行動は早かった。

 

「木乃香!この後予定とかあるか!」

 

『へ?何もあらへんけど』

 

「今から会いに行くから!いま、会いにゆきます!」

 

『何で二回言うたん…?』

 

「ぶっ飛ばしていくんで!よろしく!」

 

『う、うん』

 

通話を終えると、碌に支度もせずに祐は家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「通話切れてもうた…」

 

「何してんのよ…」

 

実のところ、木乃香はそれほど拗ねていない。まったく何も思わなかったと言えば嘘になるが、それでも全員が自分の為を思って黙っていたのだと分かっている。

 

今の通話は祐もネギ達の秘密を知っていたと聞いた木乃香が、どんな反応をするのかと悪戯で知らないふりをして電話を掛けたのだ。しかし祐には思った以上に効果があったようで、慌てた様子で通話を切られてしまった。

 

先程の言葉通りなら祐はこちらに向かってきているのだろう。それなら時間的にも昼食を一緒に取ろうかと考えていると、横の刹那が何かを察知した。

 

「せっちゃん?」

 

「何やら騒がしい音が聞こえた気がしたのですが…」

 

「まさかあいつがもう来たとかじゃないわよね?」

 

「可能性はあるぜ?なんせダンナのことだからな」

 

「せやねぇ。…今喋ったん誰?」

 

木乃香が周りを見回すと、明日菜達の視線はネギの肩にいるカモに注がれていた。それに倣って木乃香もカモを見る。

 

「どうも木乃香の姉さん、ようやく話せて嬉しいぜ」

 

「カモ君が喋った〜!」

 

「なんかこの反応久し振り」

 

「ですね…」

 

 

 

 

 

 

一方その頃女子寮のロビー。ポストからチラシなどを取り出していたあやかは、同じくポストを開けにきた真名に挨拶をした。

 

「あら龍宮さん、おはようございます」

 

「ああ雪広、おはよう」

 

真名もチラシを取り出していると、あやかからの視線を感じる。

 

「なんだ?私に何か聞きたいことでもあるのか?」

 

ビクッと肩が跳ね上がった後、周りに視線を向けて近くに人がいないのを確認すると、あやかは真名の耳元に口を寄せて小声で話し始めた。

 

「その…龍宮さんも、祐さんのことはご存知なのですよね?」

 

「逢襍佗のこと?ああ、虹の光の…」

 

「ええ、その通りです」

 

「私は学園の警備も担当している。その関係で学園長から話を聞いた」

 

「だから知ってはいるが、詳しくはない。直接見たのも夢の世界が初めてだ。刹那もそんなところだろう」

 

「なるほど、そうでしたか。そもそも学園長もご存じで…」

 

「逢襍佗は随分と学園長に世話になっているそうだ。私が話を聞いたのも逢襍佗と話し合って決めたことらしい。ところで、それを聞いてくるとなると何かあったようだな」

 

真名からの質問に、あやかは困った顔をした。

 

「ここのところ、祐さんの秘密を知っている方が少し増えたので…」

 

「そのようだな。相坂と早乙女以外にも?」

 

「ええ。もう一人、朝倉さんです」

 

「なに?それで問題はなかったのか」

 

「私も心配だったのですが、朝倉さんはこのことを公表するつもりはないそうです。寧ろ協力すると」

 

そこで真名は顎に手を当てた。

 

「ふむ…確かに朝倉は記者としてはかなり良心的な奴ではある。驚きはしたが、まぁ納得はできるな」

 

「ええ、暴走気味になることは多々ありますが…本人の話を聞くにそのようですわね」

 

話の通り和美はスクープを求めてはいるが、それを手に入れた後の行動は慎重だ。何が何でも世に明かしてやろうという心持ちではない。

 

話の途中何かを感じた真名がふと外を見ると、少し驚いた表情で二度見をする。釣られてあやかもそちらを見ると同様に二度見をした。祐が必死の形相で女子寮に向けて全力疾走していたのだ。

 

「何か来たぞ…」

 

「何をしているですかあの人は…」

 

二人がその姿を眺めていると、祐は当然のように鍵がかかっているはずの女子寮の扉を開けてロビーに入ってきた。すかさず二人は祐を止めにかかる。

 

「祐さん!何をしれっと入ってきているのですか⁉︎」

 

「流石に見過ごせんぞ逢襍佗」

 

「あ、どうも。失礼しますね」

 

目の前に現れた二人を見て、軽く会釈をするとスッとその場を離れようとする。当然見逃されるはずもなく肩を掴まれた。

 

「ちょっと!何なんですか⁉︎」

 

「こちらの台詞ですわ!」

 

「あっ、言ってなかったか。これから木乃香に会いに行くんすよ、それでは」

 

「いや、分かりましたとはなりませんわよ」

 

「何故それで通れると思ったんだ…」

 

普段は周りにバレないように人知れず部屋に向かう祐だが、何故か今日に限っては正面から突破を試みていた。理由は不明である。

 

「会いに来ただけですよ⁉︎それも駄目なんですか!」

 

「あの、祐さん…ここは女子寮なので基本的に男性は出入り禁止です」

 

「……嘘だろ…?」

 

「初めて知ったみたいな反応をするな」

 

先程の態度とは打って変わって、祐は急に腰が低くなる。

 

「あ〜、それじゃいけませんね。すみません失礼しました」

 

そう言って二人に背を向けると、瞬時に切り返しを行い二人の間を走り抜けた。

 

「あっ!こら!お待ちなさい!」

 

「何をムキになっているんだあいつは…」

 

急いで追いかけるあやか。祐ならばバレずに入る方法など幾らでもあるだろうにと真名はその背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

「待ってろ木乃香!今行くぞ!」

 

「会うのは構いませんが白昼堂々と女子寮に侵入するんじゃありません!」

 

一直線に木乃香達の部屋へ向かう祐とそれを追うあやか。あやかは勉学だけでなく運動能力も非常に高いのだが、それでも祐に近づくことができない。

 

「何という速さ…!身体能力だけは一人前なんですから!」

 

「これが、想いの力だ」

 

「片腹痛いですわ!」

 

あっという間に目的地に辿り着いた祐は、嫌がらせかと思うほどチャイムを高速で連打する。追いついたあやかが祐の腕を掴んだと同時にドアが勢いよく開かれた。

 

「うっさいわね!誰よ!」

 

「俺だ」

 

「普通に玄関からきた⁉︎」

 

それが本来当然ではあるのだが、祐に関しては初めてのことだったので明日菜は驚く。

 

「おじゃましマンボウ」

 

「しょうもなっ⁉︎」

 

「くっ!まったくびくともしません!」

 

腕を掴んでいたあやかをそのまま引きずって、説明もせず中へと入っていく。リビングに着くとこちらを驚いた表情で見ている木乃香達が目に留まった。

 

「木乃香、どうもすみませんでした」

 

「きゅ、急やね…」

 

「逢襍佗さん、取り敢えず色々と説明してください…」

 

刹那の言ったことは尤もであった。

 

 

 

 

 

 

「悪戯だったのか⁉︎許せねぇな…」

 

「ごめんて祐君、このとおり」

 

「…しょうがねぇ」

 

「ちょろっ」

 

「聞こえてるぞ明日菜」

 

手を合わせ、ウィンクをしながら舌を出す木乃香。それを見て一瞬で許す祐を見て明日菜が呆れながら言った。

 

何の話をしているのか分かっていなかったあやかにも、木乃香から自身の秘密を語られた。あやかは少し驚くが、その程度で済んだのは色々と感覚が麻痺している気もする。

 

「それにしても木乃香さんも特殊なものをお持ちだったのですね」

 

「まぁ、ウチの場合は祐君と違って何かは分かっとるけどね」

 

そこであやかは明日菜を見ると、それを感じて明日菜も視線を向けた。

 

「なによ?」

 

「貴女も何か特殊なものを持っていたりしませんか?」

 

「少なくとも身に覚えはないわ…」

 

言葉通りまったく身に覚えはないが、それでもこうも周りに特殊な力を持った人物達がいると自信を持って発言することは出来なかった。

 

「明日菜オッドアイやから、目になんか力あったりしてな」

 

「ただ色が違うってだけよ、たぶん…」

 

「魔眼ってやつか、明日菜がパッパラパーなのはそれが原因だったのか…」

 

「ふんっ!」

 

「オウッ⁉︎」

 

腹部に拳を叩き込まれ、祐が膝から崩れ落ちる。なかなか筋の良い一撃だったが、祐なら大丈夫だろうと周りは思った。

 

 

 

 

 

 

その後ちゃっかり木乃香の作った昼食を頂いた祐は、長居するのも悪いと思ったので帰宅することにした。正直今更過ぎる話である。

 

「そんじゃ俺はこれで。木乃香、ご馳走様でした」

 

「はいな、また来てな〜」

 

「勿論さ!」

 

「もうすっかり当たり前になってるわね、こいつが来るの」

 

「そうですね、お馴染みの光景って感じです」

 

「皆さん忘れているかも知れませんが、男性は基本出入り禁止ですからね?ネギ先生は例外ですが」

 

「あやかも木乃香の飯食ったんだから、少なくとも後一回は見逃せ」

 

「そこは結びつかないのでは…?」

 

「心配しないでよ桜咲さん。俺は木乃香と桜咲さんの間には入らないようにするからさ」

 

「な、何の話をしているんですか!」

 

投げれば必ず返ってくる刹那は、祐にとって会話をしていて楽しい相手である。刹那からすれば気苦労が増えただろう。

 

「ではお邪魔しました〜」

 

「だから何で今日は玄関からなのよ⁉︎」

 

祐がドアを開けると、たまたま前を通りかかっていたまき絵と目が合う。まき絵は祐の姿を見て固まった。

 

「あ、どうも佐々木さん。お元気ですか?」

 

「えっ?あ、うん」

 

「そりゃ良かった。それではこれで」

 

なんてこともなさそうに歩き出した祐。暫く黙ってそれを見ていたが、我に帰ると急いでその手を掴んだ。

 

「待って待って!何で逢襍佗君がいるの⁉︎」

 

「いては、いけないのかい?」

 

「……いけないよ!ここ女子寮だよ⁉︎」

 

「男女の壁とかくだらないと思わない?僕と佐々木さんでそんな壁取っ払って、新たなエデンを作ろうよ」

 

「ごめん、何言ってるか全然わかんない…」

 

「今は分からなくても大丈夫。これから一緒に理解していこう」

 

「あ、逢襍佗君…?ちょっと近いかなぁって」

 

祐はまき絵の両手を握って目を合わせる。まき絵は戸惑ってはいるが、その手を振り解く気配はない。恥ずかしそうに祐に視線を向けては逸らしてを繰り返している。

 

「エデンを作る為には、まず僕達がアダムとイヴになって」

 

「何やってんのよこの変態!」

 

「ウッス!」

 

何やら怪しいことを口走ろうとしたところで明日菜の張り手が飛んできた。祐はゴムボールのように吹っ飛ぶ。

 

「まきちゃん!大丈夫⁉︎」

 

「明日菜…う、うん。大丈夫」

 

明日菜が顔を覗くとまき絵は僅かに頬を赤く染めている。それを見て明日菜は少し白い目を向けた。

 

「まきちゃん今絶対祐君に見惚れてたやろ〜」

 

ドアから少し顔を出していた木乃香が揶揄うように笑っている。刹那も若干顔を赤くし、あやかは教育に悪いものを見せない為、ネギの目を自分の手で覆っていた。

 

「ち、違うよ!何言ってるか分からなかっただけだもん!」

 

そこで祐の方を見ると、既に何事もなかったかのように立ち上がっていた。相変わらずの鬼耐久である。すると今度は別の部屋のドアから桜子が顔を出す。

 

「何の音〜?あれ、逢襍佗君だ」

 

「おお、椎名さん久し振り。宿題終わった?」

 

「久し振り〜!それがまだなんだよねぇ、円は答え見せてくれないし」

 

「あれま、そりゃ大変だ」

 

普通に世間話をしていると部屋の中から円がやってくる。

 

「桜子?あんた誰と話して… 逢襍佗君⁉︎」

 

「釘宮さん、椎名さんに宿題の答えを見せてあげることは出来ませんかね?」

 

「ダメダメ、この子すぐに答え見せてもらおうとするんだから…じゃなくて!何でいるの⁉︎」

 

「いたら、いけないのかい?」

 

「さっき見たわ!」

 

少し離れたところから明日菜のツッコミが飛んでくる。そうしている内に次は美砂が出てきた。

 

「あら、本当に逢襍佗君じゃん。なに〜?忍び込んできちゃったの?」

 

「そうです、柿崎さんに会いたくて」

 

「あちゃ〜、逢襍佗君には私の色気が毒になっちゃったか〜」

 

またおかしな方向に話が進んでいくと、次から次へとA組のクラスメイトがその場に顔を出す。

 

「あ!祐だ!不法侵入か⁉︎」

 

「違うぞ風香ちゃん。俺はちゃんとロビーから入ったよ」

 

「あ、そうなんだ」

 

「納得しちゃ駄目でしょ!」

 

「不純異性交遊の気配!」

 

「いや、これはラブ臭よ!」

 

和美が興奮気味にカメラを持ってやってくれば、ハルナはノートとペンを持ってやってくる。その後ろにはのどかと夕映もいた。

 

「ってなんだ、逢襍佗君か」

 

「お〜、いらっしゃい祐君」

 

「どうもお二人さん、宮崎さんと綾瀬さんは久し振りだね。髪切った?」

 

「タ○さんですか貴方は」

 

「お、お久し振りです」

 

「あれ、宮崎さんなんかぎこちなくない?」

 

「きっとのどかは逢襍佗さんと、というより久々に男性に会うので緊張してるです」

 

確かにのどかはどこか緊張気味である。その姿に祐は暫く会わないと顔を忘れて誰だお前はと言わんばかりの猫を幻視した。

 

「そりゃいかんね…朝倉さん、ちょうどいいから写真撮って。俺が人畜無害ってことを思い出してもらおう」

 

「どう繋がるのかさっぱりだけど、取り敢えず撮ればいいのね?」

 

「お願いします。さぁ、宮崎さんは此方にどうぞ」

 

手で促されて、のどかはおっかなびっくりその場に歩いてくる。

 

「まだぎこちないな、ハルナさんと綾瀬さんも此方にお願いします。ネギも!こっち来てくれ!お前がいた方が写真に嫌らしさが無くなる」

 

「はいは〜い」

 

「私もなぜ写真を撮るのかよく分からないのですが…」

 

「写真に嫌らしさって何ですか…?」

 

ハルナ以外は困惑しているが、五人は横並びになってカメラに視線を向ける。

 

「ほらほら、もうちょっと近寄って。端っこ見切れてるわよ」

 

「近寄ってしまっていいんですか⁉︎」

 

「逢襍佗さん、やり辛いです」

 

「さーせん」

 

「んじゃくっついちゃお」

 

「わっ!ハルナ、大胆…」

 

ハルナが押すように祐と腕を組んだのを見てのどかが少し赤くなる。しかしそれをきっかけに、五人はその距離を縮めた。

 

「んじゃ俺はネギとくっつくか」

 

「ゆ、祐さん!流石に近過ぎません⁉︎」

 

祐は屈んでネギの頬に自分の頬を当てる程近寄る。まさにその距離はゼロだった。和美が合図を出すと、まだ少し硬いがのどかも笑顔を浮かべる。

 

「なんかいいな〜。ねぇ、私達も撮ろ?」

 

「言うと思った…」

 

「いいわね、夏休み最後の思い出ってことで」

 

見ていた桜子達も写真を撮る為にその場へ向かう。気が付けば来ていたクラスメイト全員が列を作っていた。それを見て明日菜とあやかは呆れ顔である。

 

「祐がいるの普通に受け入れてるし…」

 

「皆さん危機感が足りませんわ…」

 

「ええやん、みんな安心してるんは祐君やからやって」

 

「いやいや…みんな知り合いってだけで、祐のことはそんなに」

 

言いながら明日菜が木乃香を見ると、木乃香は祐達の姿を愛おしそうに見つめていた。

 

「木乃香…?」

 

「明日菜。やっぱりウチ、みんながいる今が好き」

 

「祐君は、いつかきっとその時は来るって言うとったけど…ウチは諦めへんよ」

 

その言葉は明日菜だけでなく、あやかと刹那にも届いていた。

 

「もしウチらの前から居なくなろうとしてたら、ウチしがみついてでも離さんもん」

 

「祐君になら、それぐらいしてもええよね?」

 

そう言って笑顔を明日菜達に向ける。明日菜達はその笑顔の奥に確かな強い意志を感じた気がした。

 

「…そうね。あいつは好き勝手やってるんだから、私達だってそうしてもいいはずよね」

 

明日菜も笑顔を浮かべると、楽しそうにしている祐を見る。

 

「それじゃ、私はぶっ叩いて引きずり戻してやるわ」

 

「一人で何処かへ行くなど、そんなこと考えないようにきつく言っておく必要がありますわ。まったく…幼児ではないのですから、それぐらい分かっていてほしいものですが」

 

「これから忙しくなりますね。今まで以上に、目を光らせておかなければなりません」

 

明日菜達は改めて決意する。普段は能天気で自由人で、それでいて目を離せば何処かへ消えてしまいそうで、平和な生活を手放す覚悟をしている祐を放ってはおかないと。

 

今回の事、祐としても正直予想外だった。女子寮に入ったことは、もっと責められると思っていたからだ。それが実際はそれなりに驚かれはすれど、直ぐに受け入れてくれるとは。はっきり言って祐の読みは外れた。

 

自分から手放すことをしなくても、今まで以上に自分という人間を曝け出せばいい。そうすれば後は自然と離れていくだろうと思っていたが、それは少し彼女達を甘く見ていたようだ。

 

深入りすればするほど、その時が辛くなる。それをよく分かっていながら今この瞬間、目の前にある温かなものに触れずにはいられなかった。

 

彼女達の存在、彼女達といる時間。そのどれもが、祐にとっては麻薬の如き魅惑で意志に揺さぶりをかけていた。だが、まだその意志を変えるには至らない。しかしそれは確実に大きさを増し、祐の心の空間を埋め始めていた。

 

夏休みが終わり、新学期が訪れる二日前。エヴァンジェリンの目論見は、彼女の予想以上に順調であった。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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