Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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逢襍佗祐は面倒くさい

時刻は21時を回り、女子寮内も眠りにつき始める頃。自分もそろそろ就寝しようかと思っていたあやかは、自室から出てきた千鶴に声を掛けられた。

 

「ねぇあやか、ちょっといいかしら?」

 

「ええ、構いませんが」

 

リビングのテーブルを挟んで向かいに座る千鶴。あやかはいったい何の話だろうかと考えていた。

 

「少し聞きたいことがあって、逢襍佗君のことなんだけど」

 

そこであやかは千鶴にジト目を向ける。

 

「祐さんが何でしょう…」

 

「あ〜…違うのよあやか、揶揄うつもりじゃなくて。実はずっと気になっていることがあってね?」

 

先程の大浴場のこともあり、いじられるのかと思ったがそうではないらしい。そのことに安心しつつ、あやかは続きを待った。

 

「その、聞きにくいことではあるんだけど… 逢襍佗君って、どこか私達と距離を置いてる感じがするの」

 

「距離を?…祐さんがですか?」

 

あやかはそう言われてもまったくピンときていない様子である。

 

「とても私にはそう思えませんが…頻繁にA組にも顔を出しますし、ついこの間も寮に不法侵入してきたではありませんか」

 

「確かにそうなんだけど、何というか…逢襍佗君が来るのは一定のところまでで、そこから先には意図的に距離を詰めないようにしている気がして」

 

その言葉に何か感じることがあったのだろうか、あやかは少しだけ表情を変えた。

 

「今でも正直皆さんとの距離が近いのではないかと私は考えていますが、彼からそうしているのであれば寧ろ良いことではありませんか。あんなんでも男性なのですから、最低限の線引きは必要では?」

 

「そう言われてしまうと、何も言えないわね」

 

確かにあやかの言うことは尤もだ。異性との距離感、もっと言えば人との距離には適切なものがある。近ければいいというものではないのは千鶴も重々承知していた。

 

「でも、無理してそうしているとしたら?」

 

「…どういうことですか?」

 

「私の思い違いならいいの、逢襍佗君がそうしたくて人との距離を保とうとしてるならそれで。ただ、私にはそうしないといけないんだって自分に言い聞かせてるみたいに思えたのよ」

 

「彼ね、本当に偶にだけど…私達と話している時に急に話を止める時があるの」

 

「自分のことの話とか、自分の気持ちを話している時に途中で切り上げるってことがあったのは一度や二度じゃないわ。気になって見てたから、これは確かだと思う」

 

あやかは一度千鶴から視線を外して下に落とした。その表情からは何かを考えていることぐらいしかわからない。

 

「彼はあまり身の上話をしないようにしているようです。自ら自分のことを語らないのが格好いいと思っていると前に話していました」

 

「それくらいの理由ですわ千鶴さん。貴女は優しい方ですから、きっと少し考え過ぎてしまっているんです。彼は見た目通りの単純な方ですのよ」

 

笑顔でそう言ったあやかを、千鶴は暫く黙って見つめた。やがて目を閉じて優しく笑う。

 

「そうね、少し考え過ぎてたかも。裏を読み取ろうとしすぎるのも考えものかもね」

 

「お気持ちは分かりますわ。私も千鶴さんも、家柄そういった場によく連れて行かれていましたから」

 

「困ったわ、だから年より上に見られるのかしら?」

 

「かもしれませんわね」

 

二人は笑い合うと、千鶴が席を立った。

 

「ごめんなさいね話し込んじゃって。おやすみ、あやか」

 

「いえ、おやすみなさい千鶴さん」

 

部屋へと戻る千鶴を見送った後、ドアが閉まったのを確認してあやかはため息をついた。

 

「ほんと、よく見ていますね…末恐ろしいですわ」

 

すると今度は寝惚けた様子の夏美が部屋から出てくる。

 

「あれ、いいんちょまだ寝てなかったの?」

 

「これからそうしようと思っていたところですわ」

 

「そっか〜、トイレトイレ…」

 

完全に気の抜けている夏美の姿を見てあやかは小さく笑う。

 

「夏美さんはそのままでいてくださいね」

 

「んえ?」

 

 

 

 

 

 

次の日、一時限目の世界史担当であるななこがA組に入ってくる。

 

「おはよーさん、んじゃ今日も始めるで〜」

 

授業開始の挨拶を終えて着席する一同。ななこが教科書を開いていると風香が話し掛けてきた。

 

「ねぇねぇ黒井先生、世界史の授業で多次元侵略戦争のことってやらないの?」

 

「なんや急に、鳴滝は興味あるんか?」

 

「特別ってわけじゃないけど、ちょっと気になっただけ」

 

ななこは腕を組んで難しい顔をした。

 

「いずれはやるんと違うか?なんせ全部の次元巻き込んだ話やからな」

 

「いずれっていつ?」

 

「知らん」

 

「えぇ…」

 

投げやりとも思える回答に風香は困惑した。ななこは頭を掻いて理由を説明する。

 

「お前らも知っとると思うけど、如何せん情報が少なすぎんねん。分かってないことだらけやし、特に侵略次元との戦争…もっというと『地獄戦線』なんてほぼ不詳や」

 

ここで出た侵略次元とは次元侵略戦争の原因でもあり、文字通りあらゆる次元に対して侵略行為を行った次元のことである。正式には第9次元と呼ばれており、最終決戦にて次元ごと消滅したと伝えられていた。

 

「地獄戦線って侵略戦争でも一番酷かったって言われてるやつだよね?」

 

「一説にはその戦場を生き残っただけでも英雄扱いされる程のものだとか」

 

ハルナの質問に夕映が答える。地獄戦線に関してはあったことは間違いないのだが、名前だけが独り歩きしている状態であり、その全貌は今のところ確認されていない。

 

「何でもこの地獄戦線っちゅうのが戦争終結の鍵になったって話やけど、現状ほとんどなんも分かっとらん。これに限らずもうちょっと解明されん限り、授業の題材には出来んやろな」

 

「へ~なるほどねぇ」

 

ひと段落ついたところで、今度はななこが風香に聞く。

 

「なんでまたそんなこと聞いたんや?」

 

「世間話すれば授業の時間短くなるかなって!」

 

「はっはっは!こりゃ上手いこと乗せられたわ!後で職員室来いや」

 

「え~~!?横暴だよ!」

 

「横暴ちゃうわ!」

 

「黒井先生、今日って涼しくて過ごしやすくないですか?」

 

「もうええわ!」

 

 

 

 

 

 

昼休みの時間を迎えた学園内のテラスで、祐は相変わらずの食事をとっていた。

 

そうしていると後ろから誰かが近づいてくるのを感じる。それに気付くも悪意は感じないので、祐はそのまま食事を続けた。

 

「逢襍佗君、こんにちは」

 

「こんちは那波さん、どったの?」

 

視界に映った千鶴は笑顔を浮かべていた。そうして手に持っていた弁当箱を祐に見せる。

 

「偶には外で食べてみようかなって思ってたら、逢襍佗君を見つけて。ご一緒していいかしら?」

 

「僕なんかで良ければ喜んで」

 

浮かべていた笑顔を更に深くすると、軽い足取りで向かいの席に座る。祐はその姿を目で追いかけた。

 

「ありがとう!よかったわ、断られなくて」

 

「断るなんてまさか、那波さんの誘いを断る男なんていないでしょ」

 

「ふふ、上手ね逢襍佗君」

 

「本心ですって。…まさかですけど、美人局ではないですよね…?」

 

「美人局?」

 

「何でもないです、忘れましょう。いや~!いい天気ですね!」

 

「そ、そうね…」

 

美人局が何なのかは分からないが、急に話題を変えたのであまり触れない方がいいのだろう。そう考えて千鶴は弁当箱を広げた。

 

「もしかしてお手製?どこまで女子力が高いんだ…」

 

「そんな大したものじゃないわ、毎日ってわけでもないし。それをいうなら逢襍佗君だってお弁当を…」

 

そこで祐の食べているものを見ると、千鶴は何とも言えない顔になる。そこにあるのは白米・ブロッコリー・茹でた鳥の胸肉だった。

 

「健康的なのね…」

 

「そうです、僕は誰よりも健康です。噓ではありません」

 

芯の通った目で見つめられ、千鶴は思わず視線を逸らした。照れたからではない、気まずいからだ。取り敢えず話を変えようと千鶴は舵を切った。

 

「いつもここで食べてるの?」

 

「いや、偶にですね。普段は友達と食べる事が多いです。気まぐれってやつですよ。那波さんは?」

 

「私もおんなじ。普段は夏美ちゃん達と食べることが多いかな」

 

「村上さんか、そういえば同室だったっけ?」

 

「ええ、私と夏美ちゃんとあやかの三人でね」

 

祐は一旦手を止めて千鶴を見た。浮かべている表情は優しいものだ。

 

「どう、あやかは。寮でどんな感じか、少し気になるな」

 

「あら、いけないわ逢襍佗君。幼馴染とはいえ、女の子のプライベートを簡単に聞くなんて」

 

少しからかう様にそういうと、祐は苦笑いをした。

 

「やっちまいましたな、こりゃ返す言葉もございません。因みに那波さんは体を洗う時はどこから」

 

「逢襍佗君?」

 

「今日はいい天気ですね!」

 

「それは流石に苦しいんじゃないかしら…」

 

その後も取り留めのない会話を続ける二人。どちらも必死に会話を繋げようなどとは思っていなかったが、自然と途切れることはなかった。

 

「考えてみれば、こうして二人だけで話したのって初めてじゃないかしら」

 

「かもね。話すとしたらA組の教室だし、それ以外でも誰かしら居た気がする」

 

「もしよかったら、またご一緒していいかしら?」

 

「断る理由がありませんな。ただ、おすすめはしないけど」

 

「どうして?」

 

「この前みたいに、みんなに追っかけられることになるかも」

 

「それは困ったわね」

 

そこで笑い合う二人。この昼休みの時間は楽しい時間だったと素直に言える。お互い本音は隠したままでも、それが楽しいかそうでないかには影響しないのだから。

 

「…ふ~ん」

 

物陰から顔を出し、和美は静かにその光景を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

放課後。祐がいつもの帰り道を歩いていると、少し先で木に寄りかかっている和美が目に留まる。和美もこちらに気が付くと手を振ってきたので手を振り返すと、小走りで近寄ってくる。

 

「どもども逢襍佗君、待ってたわ」

 

「待ってた?何かあったの?」

 

「今日千鶴と二人でお昼食べてたでしょ、何話してたの?」

 

「こやつ…目敏い…」

 

別に見られて困るようなことではないのでいいのだが、和美への警戒レベルを少し上げた方がいいのかもしれないと祐は薄っすら思った。しかし家に着く頃には忘れているだろう。かなり重要な事以外は基本祐は鳥頭である。

 

「ごめんごめん。覗き見するつもりはなかったんだけどさ、偶々目に留まっちゃって」

 

「まぁ、別にいいんだけども。大したことは話してないよ、ただの世間話」

 

「一応聞いておくけど、千鶴は知ってるの?」

 

「いや、知らないよ。あやかも話してないだろうし、知ってる感じもしなかった」

 

「なるほど…」

 

手を顎に当てる和美を見て、祐は首を傾げた。

 

「何か気になる感じ?」

 

「う~ん、特別おかしなことではないんだけど…なんで千鶴が急に逢襍佗君に話し掛けたのかなって」

 

そう言われて祐も視線を上に向けて考え始めた。話したことは何度もあるが、一人の時に千鶴の方から話し掛けてくることなどなかった。気まぐれといえばそれで終わりだが、そうではないんだろうと感じてはいた。

 

「俺のこと、探ってる感じはあったよ。たださっきも言ったけど、力の事で疑ってる感じじゃなかった気がする」

 

「あれってそんなことまで分かるの?」

 

「何となくね。自分で言うのもなんだけど、この直感は結構信用してる」

 

「は~…」

 

どこか感心したように声を漏らす。するとパンッと両手を合わせて鳴らした。

 

「強い想いなら、目を見て集中すれば分かるんじゃなかったっけ?それで見れば」

 

「え~…なんかやだ」

 

言葉通り嫌そうな顔を浮かべる祐。和美はそれを見てこけそうになる。

 

「なんでよ!?」

 

「だって人の心を好き勝手覗くのなんてダメでしょ」

 

「あの時やろうとしてたでしょうが」

 

「時と場合によるってやつだよ。那波さんが悪だくみしてるとも思えないし、下手に探ろうとしなくてよくないっすか?」

 

「でも千鶴は逢襍佗君の何かを探ってたんでしょ?気にならないの?」

 

「気にならないのかって聞かれたら、そりゃあ…別に」

 

「気にならんのかい!」

 

「朝倉さんて思った以上にツッコミ属性なんだね」

 

「誰のせいだ誰の…」

 

疲れた顔を浮かべる和美は、頭を掻いて気を取り直す。

 

「結局千鶴は何が気になってたんだろ」

 

「さぁね、俺があやかに近い人間だから気になったんじゃない?」

 

「そんな単純な話かね?」

 

「俺はそうであってほしいけどね。そっちの方が気が楽だし」

 

和美は祐を見る。今の言葉に引っ掛かりを覚えたからだ。

 

「…なんで?」

 

「あんまり深くまで探られると、すぐに襤褸が出るから。実は大したことない人間だってのがバレる」

 

祐の正体を知る前から和美目線で明日菜・木乃香・あやかを見ていて思ったのは、祐のことを心配し過ぎではないだろうかということだった。三人からは祐に対して一種の信頼のようなものを感じはするが、信用は薄いと感じたのだ。正直幼い子供じゃないんだからと思っていたが、こういうことかと三人の態度が腑に落ちた。

 

戦いのことなどまったくと言っていいほど分からない和美でも、実際に目にして、尚且つやってきた事を考えれば分かる。祐は強い。だが、完璧超人などではない。

 

こうして話してみれば分かった、幼馴染が彼を心配に思うのも無理はない。彼は自分という人間を軽視している。そう思うと彼の言動の節々からもそれは感じられるような気がしてきた。

 

和美は大きなため息をついた。そして祐の肩に手を乗せる。

 

「なるほどねぇ…よ~く分かったわ。逢襍佗君、あんたすっごく面倒くさいのね」

 

「急にディスってくるじゃん。しかし、よく気付いたねと言っておこう」

 

その言葉を受けて、和美は祐の顔を覗き込む。

 

「俺は面倒くさい。だから深く関わるのはやめた方がいいとか言うのは無しだからね?」

 

「まだ何も言ってないんだけど…」

 

「前もって予防線張っといたの」

 

腰に手を当てるとニッと笑う。それを見る祐は少し不思議そうだった。

 

「お生憎さま、私って面倒くさい人嫌いじゃないから。これからも近くでしっかり見届けさせてもらうわよ」

 

祐が今度は驚いた顔をした。その表情を見て和美はしてやったりといった具合である。

 

「告白ですか?」

 

「違うわ」

 

「弄ばないでくれませんか!」

 

「じゃあ試しに付き合ってみる?」

 

「ノリノリじゃないのはちょっと…」

 

「めんどくさっ!」

 

「でも嫌いじゃないんだろう?」

 

「ウザイ人は嫌い」

 

「言い返せねぇぜ!」

 

「はぁ…」

 

逢襍佗祐は面倒な性格をしてる。それに気付くことが出来た和美は、祐を知る上で大きな一歩を踏み出したと言っていい。それが分かった状態で祐の近くで彼の取る行動を見ていれば、自ずと知っていくことになるだろう。彼という人間が、どういった人間なのかを。

 

 

 

 

 

 

 

夜の女子寮。夏美が部屋からリビングに出ると、ベランダに千鶴がいるのに気が付く。望遠鏡を覗いていることから、きっと星を見ているのだろう。千鶴は保母のボランティアをしているのと同時に、天文部に所属している。

 

「ちづ姉、今日は何か見える?」

 

「あら夏美、そうね…今日は星もだけど、月がよく見えるわ」

 

「月かぁ、考えてみると月ってどんなのか詳しく知らないや」

 

千鶴の隣に来た夏美も夜空を見上げた。今日は雲もなく、月や星がきれいに見える。

 

「地球に一番近い衛星で、神話とかだとよく神格化されてるみたいね。神話に関してはあまり詳しくないけど」

 

「私も神話とかはさっぱり」

 

ベランダの柵に両肘を置いて、月に視線を向ける。頻繁に見る事が出来る惑星だが、改めて見てみると何とも幻想的に映った。

 

「火星には人が住んでるけど、月には住んでないよね。一番近いのに、なんでだろ?」

 

「う~ん…色々と問題があるんじゃないかしら?もう誰か住んでたりとか」

 

「居ても不思議じゃないか。なんせ宇宙人はいるんだもんね」

 

「もしかすると、月の神様が許してくれてないのかも」

 

望遠鏡から顔を離し、笑って夏美を見る千鶴。それに思わず夏美も笑った。

 

「え~、神様って本当にいるのかなぁ」

 

「どうかしら、宇宙人とか幻想種とはまた違うものね」

 

空想上の生物、そして別次元が観測された現在でも神の存在は証明されていない。この世界において未だその姿を見たものはいないと言われているからだ。

 

「ねぇ、ちづ姉は宇宙に行けるならどこに行ってみたい?」

 

「宇宙に…夏美はどこか行きたいところはあるの?」

 

「私はやっぱり火星かな!一度くらいはネオ・ヴェネツィアに行ってみたいんだ」

 

「映像でしか見たことないけど、確かにきれいな所だものね」

 

「修学旅行で行けたりしないかな?」

 

「学園長にお願いしてみる?」

 

「う~ん…まず木乃香さんあたりから攻めてみて…」

 

「意外と強かね夏美…」

 

真剣に考えだした夏美に苦笑いを浮かべる。いきなり学園長ではなく、その孫である木乃香から狙うあたり彼女の本気度合いが窺えた。

 

「まぁ、それは置いておいて。ちづ姉はどこに行きたいの」

 

「そうねぇ」

 

頬に手を添えて悩み始める千鶴。その仕草だけでも絵になる彼女を夏美は羨ましく思う。同室の千鶴・あやかは同性の自分から見ても美しく、そして強い女性だ。そんな二人に挟まれて誇らしい反面、多くのコンプレックスを抱える夏美には思うところがあった。

 

しかし、それ以上に彼女達と一緒に暮らせることに喜びを感じる。それは偏に、二人が人間として魅力的であるからに他ならなかった。だが二人に対して心からそう思えるのは、夏美自身も美しい心を持っているからだということに、残念ながら本人は気づけていない。

 

「ふふ、秘密」

 

「ちょっと!そりゃないよ!」

 

「近いうちに教えてあげる」

 

「いや、今教えてよ!」

 

「ベランダで何をしているんですか二人とも…」

 

詰め寄る夏美と、それを軽くいなす千鶴。そんな二人を見て、あやかは首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

「見えました。あれが第三惑星、地球です」

 

宇宙船のブリッジから、青く輝く惑星が見える。それは他ならぬ地球であった。

 

「小耳に挟んだ程度だったが、美しい星というのはあながち嘘でもないようだな」

 

初めて見る地球にそう呟いたハラートは船員に声を掛ける。

 

「どれ程のレベルなんだ、この星は」

 

「科学レベルは中程度とのことです。戦闘能力に関しては、一般的には低いようですが…」

 

「含みのある言い方だな」

 

「なんでも特殊な能力を持った個体も少なくないとの情報もあります。多次元侵略戦争に参加した者もいるようなので、油断は禁物かと」

 

ハラートが多次元侵略戦争という単語を聞いて嫌な顔をした。

 

「あの戦争に参加した奴がいるのか?余程自信があったのか、ただの死にたがりか…」

 

ハラートの星は侵略戦争には参加していない。寧ろあんな馬鹿げた戦争に参加する方がどうかしている。あの戦争に関してはあまり情報は残されていないが、多くの次元を巻き込んだ戦争故その悲惨さだけは有名な話だ。

 

あの戦争のせいで消滅した次元も一つや二つではないと聞く。第9次元の消滅と共に終結を見たらしいが、どうやってそうなったのかは未だ明かされていない。それ以外にも不明な点だらけとくれば、この騒乱が曰く付きであることは想像に難しくない。

 

(銀河でそれ程名前の挙がらない星だが、だからこそ掘り出し物が見つかることもあるか…)

 

「早々に俺達の存在を認知されると厄介かもな。艦の迷彩は解くなよ、一先ずは観察するとしよう。地球というやつをな」

 

「かしこまりました」

 

そうして宇宙船は針路をとる。彼らにとっては未知の惑星である地球へ。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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