あの騒動の後、教室に戻って来た千鶴達。クラスメイトから向けられる心配そうな視線を感じて、千鶴は笑顔を見せた。
「ごめんなさいねみんな、随分お騒がせしちゃって」
「いやいや、千鶴が謝んないでよ」
「そうだよ、寧ろ一番大変だったでしょ」
「千鶴ちゃん、大丈夫?」
声を掛けてくれたチア部三人以外も、千鶴のことを気にかけている。それが千鶴には嬉しいと同時に、心配を掛けたくないという気持ちを強くした。
「私は大丈夫よ、ちょっと驚いちゃったけどね。あんなこと言われたの初めてだったから」
「そりゃそうだ…」
「にしても最後のあれなんなの!なんかやな感じ!」
最後のハラートの発言に嫌悪感を感じたのは薫だけではなかった。脅しのような一言に、まき絵は怒り心頭といった具合である。
「落ち着きいなまき絵、気持ちは分かるけど…」
「え~、亜子だってそう思ったでしょ?」
「そりゃウチかて感じ悪いな~思ったけど」
それからまき絵の火が移ったのか、周りも先程のことに関して文句を言い始め、千鶴はそれに苦笑いを浮かべる。
「……」
そんな千鶴を、夏美は黙って見つめていた。
一応騒ぎが終息したので、学園中の生徒達も窓から離れて周りと話始める。様々な意見が飛び交う中、祐は先程からずっと黙ったままだった。それがどうにも心配で、春香は恐る恐る祐に話し掛ける。
「あの…逢襍佗君?どうかしたの?」
「え?ああ、ちょっとね。なんだかなぁと思ってさ」
いざ話し掛けてみると普段通りの祐である。そのことに一安心しつつ、春香は先程の祐の冷たい表情が頭から離れなかった。まるで感情が消えたかのような顔つきで、いつもの祐からは想像もつかない。
普段怒らない人が怒ると怖いとはよく聞く。実際祐が怒っていたのかどうかは分からないが、これもそういうことなのだろうかと春香は一人考えた。
そんな時、教室のドアから一人の男子生徒が室内を覗いている。恐らく別クラスの生徒だろう、黒髪にツンツンと尖った髪型が印象的な少年だった。その少年は教室を少し見渡すと、こちらに目を向ける。探していたものがあったのか、そのまま近寄ってきた。少年が目の前までくると、祐がそこで少年の存在に気付いて目を向ける。
「おう、当麻。なんか会うのは久し振りだな」
「ああ、久し振り。俺は祐が女子に追っかけられてたの、教室から見てたけどな」
「昔のことは忘れました」
「そんな前のことでもないだろ…」
仲が良さそうに話す二人を不思議そうに見ていると、それに気付いた祐が春香に紹介する。
「天海さん、紹介するよ。『上条当麻』君だ、俺の中学からの友達。当麻、こちらは俺の隣の席のマドンナ、天海春香さんだ」
「マドンナって…あ、どうも初めまして。上条当麻です」
「こ、こちらこそ!天海春香です!」
ぼーっと見ていた影響で焦ったように挨拶を返す春香に当麻は首を傾げた後、視線を祐に戻す。
「…せっかくだ当麻、久々に一緒にトイレでも行くか」
「だな。男は一緒にトイレに行けば大抵オッケーだ」
春香はその会話がよく分からなかったが、男子的にはそんなものなのかと納得した。
「てなわけで天海さん。悪いけどもし高橋先生が来たら、俺はトイレに行ってるって言っといて」
「え…うん、分かった」
「助かります。んじゃついでに」
何か言いかけたところで祐が教室のドアを見た。するとまた別の男子生徒が教室を覗いている。祐と当麻は顔を見合わせると、少し笑ってそちらに向かった。
「ういっす士郎、来ると思ったよ」
「ああ、祐。なんだ、当麻もいたのか」
「よう士郎。ご無沙汰」
「それでは久々の再会を祝してトイレに行きますか」
「…よしきた、任せろ」
挨拶もそこそこに教室から出ていく三人。それを見つめていた春香に薫が気づいた。
「春香、どうしたのよ?」
「ねぇ薫ちゃん、男の子にとってトイレって特別な場所なのかな?」
「それなんの話?」
「さぁて、面倒なことになったな」
祐達三人はトイレには向かわず、教室から屋上へと来ていた。初めからトイレに行くつもりはなく、ただの理由付けだ。
「にしても宇宙人か…現実離れしてる、ってわけでもないのか今だと」
「UFOの人攫い事件があったもんな」
当麻が呟いたことに士郎が反応する。宇宙人絡みのことは今年に入って二回目だが、やはりどうにも最近宇宙の方面も騒がしい。今回の件が当てはまるのかは分からないが、エクレル星人が言っていたデビルークの王位継承問題が絡んでいるのだろうかと祐は考えていた。
「そっちの方がまだ対応は楽だった。犯人ぶっ飛ばしたらそれで終わりだったからな」
「あれやっぱり祐だったのか」
「だと思った」
「熱い信頼を感じるよ二人とも。でもお前らにその顔されるとめっちゃ腹立つな」
薄々そうだろうなとは思っていたが、やはりあの事件に祐は絡んでいた。予想通りの結果に士郎と当麻は呆れたような視線を祐に向ける。祐としては、この二人にだけはこういった関係のことで呆れられたくはなかった。
「自ら厄介事に首突っ込むアホ筆頭二人に呆れられるのが、どれだけ屈辱かわかるか!」
「アホ筆頭の一人はここにいる人なのは分かる。ただもう一人が誰なのか、上条さんには見当もつきませんね」
「自覚を持てウニ野郎!」
「当麻がそう言われるのは仕方ないけど、少なくとも祐には言われたくないだろ」
「なに涼しい顔してんだ!お前もだよブラウニー!」
「なんだよブラウニーって…」
「えっ、知らないのか?お前麻帆良のブラウニーって呼ばれてるらしいぞ」
「なんだそりゃ⁉︎」
「それ俺も聞いたことある」
士郎は頼まれたことを断らない。自分に関係のない事であってもそれは変わらず、それを当然のようにこなすことからついたあだ名は『麻帆良のブラウニー』だった。ちなみにブラウニーとはアイルランドの妖精で、家事や雑務をしてくれると言われており、何ともぴったりなあだ名である。それ以外にも士郎には幾つかあだ名があるが、ここでは割愛する。
「初耳なんだが…」
「これからはブラウニーの自覚を持って生きなさい」
「嫌だよ…」
「なぁ、不毛だからこの話はここでやめないか…?」
そこで全員が口を閉ざす。少しして祐は恨めしそうな視線を向けた。
「……命拾いしたな」
「ちょっと見ない間に凶悪になってるなお前」
当麻が言ったことは尤もなので言い返せず、それが悔しくて捨て台詞をはく祐。当麻から見て、自分が会った時より祐は少し変わって見えるようだ。
「それで話を戻すけど、祐は何かするつもりなのか?」
「いや、しない。というかまだ何も出来ない」
その発言に二人は少し驚いた顔をした。
「マジか…てっきり今からぶっ飛ばしにでも行くのかと」
「んなわけないだろ。そんなことしたらもっとややこしくなる」
「中等部時代は暴れ回ってた祐が…成長したんだな」
「やめろ、蒸し返すな。思春期だったんだ」
中等部時代のことは祐本人からすれば黒歴史的なものだった。余りその辺りのことは振り返りたくはない。少々乱暴に頭を掻くと、腕を組んでため息をついた。
「あのハラートとかいう奴は気に食わねぇけど、まだ何かを仕出かしたわけじゃない。今迂闊なことしたら10対0でこっちが悪者だ」
「まだ何も出来ないってのはそういうことか」
「まぁ、脅しのようなことは言ってたけど…それだけじゃあな」
先程言った通りハラートは学園に不法侵入こそしたが、重大な何かをしたわけではない。今直ぐ事を構えるには余りにも理由が足りなかった。
「歯痒いけど、今は静観するしかない。今はな」
三人の表情は優れない。全員が見ていることしかできない状況に納得は出来ていないが、今はそれを飲み込む以外になかった。
「いざその時になったら、どうする?」
「そん時はやるさ、勿論な」
「だよな」
分かってはいたが一応当麻は祐に確認する。予想通りの返答だったが、それは同時に当麻が欲しかった返答でもあった。それに続けて士郎が祐に聞く。
「また派手にやるのか?」
「穏便に済ませられるなら、なるべくそうしたい」
「…それ冗談じゃないよな?」
「あのなぁ、俺は戦闘狂じゃないんだぞ」
「それは知ってるけど、穏便に済んだことあったか?」
「あ⁉︎ねぇよ!」
「逆ギレするなって…」
中等部からの付き合いである三人には共通点があった。それは何か問題が起きたのなら、それを見て見ぬ振りが出来ないということだ。それぞれ明確にはタイプの違いはあれど、彼らを知る共通の友人からすれば、なんとも似た者同士な三人ということになっている。
「そもそも中等部の遠足に関しては、士郎が首突っ込んだのが原因だったぞ」
「いや待て、あんな話聞いたら知らない顔できないだろ。それを言うならきっかけは当麻が近所の人から聞いた話を俺達に話したからで」
「人のせいにし始めましたよこの人!?話したのは俺だけど実際動いたのは士郎だったろ!」
「一番最初だっただけだ!俺が行かなかったら絶対どっちかが行ってただろ!」
「「…いや、そんなことはない」」
「自信があるなら俺の目を見て言ってみろ」
口ではそう言った祐と当麻だが、決して士郎とは目を合わせようとしない。それは自信がないことを肯定しているようなものだった。
「ん?…そうなるときっかけを作ったわけでもない、最初に首を突っ込んだわけでもない俺はこの件に関しては被害者なのでは?」
「よく言うよ、山一つ消し飛ばしたくせに」
「どでかい被害を出したのは間違いなく祐だよな」
「それはちゃんと俺を見てなかったお前たちが悪い!」
「俺達はお前の保護者か」
「私目の手には負えないので、もっといい人を探してください」
「育児放棄は重罪だぞ」
「まぁ、祐の保護者のことは置いておいて…取り敢えず今は下手に動かない方がいいってことだよな?」
おかしな方向に話が進み始めたところで、士郎が軌道修正をする。三人の中では比較的冷静な士郎がこの役割を担うことが多い。
「そういうこと。このまま何事もなく終わることはないだろうから、その時を待つ。那波さんの周辺には目を光らせておく必要があるけど、それには当てがあるから心配ない」
「あの人ナバさんっていうのか。因みに当てって、どんなだ?」
「俺の幼馴染が彼女と同室でね。その子は俺の力のことを知ってるから話を通しやすいし、何より自分も何とかしたいと思ってる筈だ」
「なるほど、そりゃ頼もしい」
「そもそも話したのか、意外だな」
中等部時代には力のことは今以上に秘密にしていた。何かと騒動に一緒に巻き込まれることが多かった二人には知る機会があったが、幼馴染に伝えたと聞いた士郎が言葉通り意外そうな顔をする。それに祐は少し笑顔を見せてから続きを話し始めた。
「高等部に入ってから色々あってお仲間が増えてな。情報通な人もいるから、その人も頼らせてもらう気でいる」
そう言った祐を見てどこか士郎と当麻は嬉しそうな顔をする。持っている芯の部分は変わらずとも、ちゃんとこの友人は変わっていた。それも好ましいと思える方向に。
「そっか…祐、お前少し変わったな」
「ほんと、中等部のお前に今の姿を見せてやりたいよ」
「これは士郎と当麻にはまだ出来てないことだよな。一足先に行かせてもらったぜ?」
得意げというか勝ち誇ったような顔をする祐に対して、先程とは一変して二人は白い目を向けた。
「そういうところは悪化してるな」
「だよな。中等部の頃はもう少しまともだった」
「俺の成長が悔しいんだろ?分かるよ…」
「こいつマジで一発入れてやろうか?」
「やめとけ当麻、お前のあれでも祐のは消せないんだから」
「それやっぱ不公平だろ!俺の唯一の特技が通じないなんて!」
頭を抱える当麻の肩に祐が手を乗せる。その眼差しは温かい。
「唯一なんてそんなこと言うな当麻、お前にはいいところが沢山あるじゃないか」
「ちなみにどこか聞いてもよろしいでしょうか?」
「みんなの不幸の避雷針になってるとこ」
「ちくしょう!やっぱ不幸だ~!」
遂には蹲ってしまう当麻の背中を祐は優しく摩った。
「なのに何で俺の不幸は肩代わりしてくれないんだ?もっと頑張れよ」
「おい祐、それが本音か?」
祐は立ち上がると笑顔を見せる。二人と久し振りにじっくりと話せて嬉しいのだ。同性の友人の中でも特に荒事を共にしたことから、幼馴染である純一達とはまた違った形で二人は特別な人達である。
「てなわけで…今回の件に関しては二人にも協力してもらうかもれないから、そうなったら頼むな」
「俺は初めからそのつもりだったよ」
士郎が平然とそう答えると、何とか持ち直した当麻も立ち上がって答える。
「逆にここまできて今更一人でやるって方が無しだろ」
二人からの返答に祐は笑った。先程とは違う、喜びのようなものを噛み締めながら。最近、改めて自分が周りに恵まれていることを実感する。それが堪らなく嬉しかった。帰って来て、生きていてよかったと心から思えるから。
「最高だよ、兄弟」
「え~っと…まぁ、みんな気になることはあるでしょうけど授業始めるわよ?」
あれから教室に戻ってきた麻耶は困惑しながらではあるが授業を始めようとする。その姿にB組は同情をせずにはいられなかった。額を摩りながら教科書をめくっていると、祐がいないことに気が付く。
「あれ?天海さん、逢襍佗君はどうしたか知ってる?」
「あ、はい。お手洗いに行ってます」
「まったくあの子は…分かりました、ありがとうね」
再び視線を教科書に戻す麻耶。春香は空いている隣の席を見つめ、それと同じように凛もその席を見つめていた。ある確信を持ちながら。
昼休みになると騒ぎはあっても腹は減るものである。それが育ち盛りの高校生ともなれば尚の事。授業の間の小休憩の際など他クラスの生徒から視線は感じたものの、皆気を使ってか話し掛けられることはなかった。悪く言えば腫物のような扱いではあるが、千鶴からすればありがたかったかもしれない。
そんな千鶴は現在教室の真ん中の席に座り、昼食をとっている。それ自体はおかしなところはないが、周りがそうとはいかなかった。A組のクラスメイトが千鶴を包囲するように座り、千鶴を凝視しながら食事をしていたのだ。左右は夏美とあやかが固め、その周りをA組が囲んでいるといった具合である。
「あの~みんな?流石にそんな見つめられると気になっちゃうわ」
「いえ、お構いなく」
「私達は居ないもんだと思ってくれていいから」
「ちょっと難しいかな…」
苦笑いを浮かべる千鶴。自分を心配してくれてのことなのでそれは嬉しいが、それとこれとは話が別というやつだ。
「あのハラートって人は遠くから千鶴を見てたんでしょ?今も見られてるかもしれないじゃない」
「つまり、私達が壁になって千鶴を盗撮から守る必要があるわけよ」
「私達に任せてよ!」
いい笑顔でそう言う桜子を始め、周りのクラスメイトの意思はなかなかに固そうだ。高等部に上がってから色々とあったが、こうして自分が騒動の中心になるのは初めてのことである。みんなが嫌な顔一つせず自分の為に何かをしてくれるのは本当にうれしい。しかしどうにも申し訳なさが勝ってしまう。
「えっと…夏美ちゃん」
「ダメだよちづ姉。この話が落ち着くまではみんなの言う通り、私達が見張ってるから」
助けを求めようとしたが速攻潰されてしまった。それにどことなく夏美の機嫌は悪いように見える。
「もしかして、怒ってる?」
「ううん、別に」
言葉とは裏腹に態度はわかり易いものだった。どう見ても怒っている。だが何に対してなのか千鶴は分からなかった。ハラートに対しても間違いなく夏美は怒っているが、それが一番の理由ではないように感じる。
「千鶴さん、息苦しく感じるとは思いますが皆さん千鶴さんが心配なんです。少しの間我慢してくださいな」
「あやかまで」
どうやらこの状況から脱するのはかなり難易度が高いようだ。そのことに千鶴は思わず頬に手を当て、困った顔をした。
「でもどうすんだ?ずっとこんなことしてるわけにもいかないだろ」
「そうですね、根本的な解決にはなりません」
周りと違い自分の席に座って食事をしている千雨が独り言を呟くと、それにいつの間にか近くにいたザジが反応する。最近おなじみになりつつあるこの一連の流れに千雨は眉間に皺をよせた。
「次音もなく後ろに立ってたら怒るからな」
「それはいけませんね、以後気を付けましょう」
しれっと隣の席に座るザジを呆れた目で見る。以前と比べてこの同居人とは随分と話すようになったと思う。嫌ではないが今一慣れていない自分がいた。だが間違いなくザジと一番喋っているのは自分だし、自分と一番話しているのはザジだ。まるで友達のようだとらしくないことも考える程に。
「今日現れた彼は今のところ何を仕出かしたということもありません。取れる行動は限られてきます」
「まぁ、そりゃそうだろうな…」
千雨は頬杖をつきながら千鶴に視線を向ける。珍しく困っている彼女を見ながら、またぽろっと独り言を呟いた。
「逢襍佗はどうすんだろうな?」
「はて、何故そこで逢襍佗さんが出てくるのでしょうか?」
そこで勢いよく千雨がザジに顔を向ける。その顔はしまったと出ていた。
「えっ!?あ…いや!だってあいつもあれ見てただろうし、今頃騒いでんじゃないかなって!」
「なるほど、それはそうかもしれませんね」
納得したのか千雨から視線を外して鞄を漁り始める。一旦はやり過ごせたようなので安堵のため息をついた。その後横目でザジを確認すると鞄から昼食を取り出していたのだが、そこから出てきた物が問題だった。
「なんだそれ…」
「昼食です。もっと詳しく言うのなら麻婆豆腐です」
「お前っていつもそんなの食ってたっけ…?」
「いえ、ですが最近ハマってるんです」
「あっそう…」
「ある中華飯店をまねて作ってみました。食べてみますか?」
「いやいい。やばそうな色してるし」
その色からはどう見ても優しさを感じない。食べ物に優しさという言い方は正しくないのかもしれないが、そう思ってしまった。その麻婆豆腐自体が、覚悟もなく食せばどうなるか分からんぞとでも言っているようだ。
ザジとは話すようにはなったが未だに彼女という人間を掴めない。というかそもそも掴める時は来るのだろうかと千雨は思った。
「あれ、ザジさん。それは何ですか?」
ふらっとやってきたさよは、ザジが涼しい顔で食べている物に興味津々だった。食べれるようになったことで興味の対象が広がったのだ。
「私が作った麻婆豆腐です。最近よく作っています」
「マーボードウフ…ですか?変わったお料理ですね!」
「宜しければ一口如何ですか?」
「あ、ごめんなさい…催促したみたいで…」
「お気になさらず。私としても自分以外の意見が欲しいところなので」
そう言ってタッパーとスプーンを差し出すザジに、さよは笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます!では、一口」
「やめたほうがいいんじゃ…」
千雨が遠慮気味に声を掛けるが時すでに遅し、さよはそれを口に入れる。その瞬間、笑顔のままさよは倒れた。
「ほら見ろ!言わんこっちゃない!」
「おかしいですね、これでもあの味にはまだ足りないと思っていたのですが」
「おかしいのはお前だ!」
後ろから聞こえてきた大きな声にクラスの視線が集まる。そこには笑顔で倒れているさよと慌てた様子の千雨、首を傾げるザジがいた。
「さ、さよちゃんが倒れてる!」
「なに!?もしかして敵襲!?」
「前から思っていたのですが敵襲とはなんですか…」
一斉に集まると楓がさよを抱き起す。
「いかん、気絶しているでござる」
「そんな!?さよちゃんが死んじゃう!」
「もう死んでんだよ」
その言葉に風香が反応した。
「あ!千雨!不謹慎だぞ!」
「……すまん」
色々と思うところはあったが、千雨はぐっとそれを飲みこんだ。
一番好きな章は?
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序章・始まりの光
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