土曜日。学校が休みである今日、明日菜達は予定通りアウトレットに向かう。女子寮に住んでいる明日菜と木乃香の部屋にはネギも一緒に暮らしているのだが、ネギは仕事で朝から学校に行っている。もちろんネギには今回のことは秘密にしてあるが、なんだか悪い気がしたのでお土産だけは買ってくるつもりだった。今日はみんなで学園都市内に出かけてくると言ってあるので、そこで買って来たといえば問題ないだろう。
女子寮内で一緒に行くメンバーと合流し、最寄り駅である麻帆良学園都市中央駅へと繰り出した。祐とは駅で待ち合わせをすることになっている。ハルナがラインで連絡したところ、【都合のいい男扱いしやがって!喜んでいかせていただきます!】と返信が返って来たらしい。その後【お泊りセットは要りますか?】との返信も来たが祐がなぜこれを聞いてきたのかハルナには分からなかった。
「いや~晴天晴天。こりゃ絶好のお出かけ日和だね」
「ちょっとパル、一応お忍びなんだからそこ忘れないでよ」
「わかってるわかってる」
ハルナに明日菜が注意を促す。学園側から遠出を控えるように言われている為明日菜たちはこっそり寮を出て来ていた。特にあやかに見つかると厄介なため、予定が決まってからはバレないよう細心の注意を払って過ごしてきたつもりである。
「でもみんなで出かけるのって久々やな。ウチ昨日からワクワクしてあまり寝られんかったわ」
恥ずかしそうに木乃香が言う。木乃香は京都出身のお嬢様で、小さい頃はあまり外に出ることが無かった。だからこそこの麻帆良学園に来て友人たちと出かけることに人一倍の喜びを感じている。そんな木乃香をほかのメンバーは温かい目で見ていた。
「あんまりはしゃぎすぎないでよ木乃香、用が終わったら今日はさっと帰るんだからね?」
「りょーかーい」
気の抜けた木乃香の返事に明日菜は大丈夫かなと不安になった。
「もう、明日菜心配し過ぎ。ちょっとぐらい大丈夫だって」
「そうそう、心配し過ぎると禿げちゃうよ?」
「禿げないわよ!」
明日菜に対して美砂と円が声をかける。桜子と木乃香は気が付くと両手をつないで楽しそうにくるくる回りながら前を歩いていた。
「幼稚園の遠足か…」
「いいじゃん、微笑ましくてさ」
二人の姿に明日菜は呆れるが美砂は微笑みながら言った。
「逢襍佗さんは今どのあたりなんでしょうか?」
「もう駅着いたって。さっき連絡きてた」
「お、早めに着いてるのはポイント高いよ」
「逢襍佗さんも楽しみだったのかな?」
「かもね」
夕映がそう聞くとハルナが答える。待ち合わせ時間より早めに着いたらしい祐は円的にポイントが高いようだ。のどかはどこか楽しそうに口にした。
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所変わって麻帆良学園都市中央駅。予定時間より早めに着いた祐は明日菜たちを待っていた。
「失礼。少し宜しいかしら?」
特に何も考えずぼーっとしていると声を掛けられ、祐は声のした方を見る。そこには前髪をヘアバンドで上げ、どこか和の雰囲気を感じさせる美少女が立っていた。
「はい、何か御用でしょうか?」
「変な質問でごめんなさい、今こちらにオコジョが来なかったかしら」
「えっ、オコジョですか?」
祐はまさかの質問に面食らった。オコジョと言えば昔に某しあわせソウなアニメで見たことがあるぐらいだが、彼女のペットであろうか。
「すみません、見かけてないですね。失礼ですがペットか何かで?」
「いいえ、このあたりを歩いていたら突然出くわしたの。一瞬だったからよく見たわけではないのだけど、真っ白だったしイタチのように見えたからオコジョだろうと思って」
「はえ〜、どこかから逃げてきたのかなぁ」
「かもしれないわね。その子手癖が悪くて、突然スカートに潜り込んできて下着を取られそうになってしまったの」
「なんて奴だ、けしからん」
どうやらとんでもないエロオコジョのようだ。かわいらしい見た目にかこつけてそんな非道なことをするとは。それに被害者がこんな見目麗しい女性となれば黙っているわけにはいかない。
「許せませんね、見つけ次第然るべき対処を取らせて頂きます」
「あら頼もしい。でもいじめないであげて?こんなところに出てきてしまって心細かったのかもしれないわ」
「なんとお優しい…もしかしてあだ名は女神様だったりしませんか?」
祐の言葉に目の前の女性はきょとんとした顔をしたが、やがてクスクスと笑い始めた。
「お上手ね。そんな風に言われたのは初めてよ」
「あれま、でもきっと周りの男性は口に出していないだけでそう思ってますよ」
「残念ながら周りに男性がいないの。私女子高だから」
「なるほど」
それを聞いて祐はどこか納得した。彼女の立ち振る舞いを見て、きっとどこかのお嬢様なのだろうと思っていた。おそらく名のあるお嬢様学校の生徒に違いない。
「あなたも麻帆良学園都市の生徒?」
「はい、僕は…」
女性の質問に祐が答えようとすると、彼女が何者かに肩を引かれた。強めに引かれたため女性はそのまま肩を引いた人物の胸の中に納まる。祐がその肩を引いた人物を見ると、そこにはヘアバンドを付けた女性とはまた別ベクトルの美女、ロングの金髪に堀の深い外国人のような女性が立っていた。彼女はそのきりっとした瞳で祐を睨んでいる。睨まれている理由が分からずその女性をぼけっと見つめ返す祐。何とも覇気のない表情に睨んでいた女性は訝しげな顔をした。
「あら?ああ、ちょっと待ってね」
そう祐に声をかけると、ヘアバンドの女性は金髪の女性の胸から抜け出して彼女と向き合った。
「彼はナンパじゃないわ。私からさっきのオコジョを見なかったかって声をかけたの。彼なかなか面白い子だったから、つい話し込んじゃってただけ」
事を説明すると金髪の女性から視線の鋭さは消えた。いまだに祐のことは警戒しているようだが。
「そう…ごめん」
短く謝罪を口にして金髪の女性は背を向けて歩いて行った。
「まったく、ごめんなさいね。彼女不愛想だから」
「いえ、気にしてません」
そこで祐は去っていった女性に一度視線を移し、再び目の前の女性に視線を戻した。
「愛されてますね」
「愛されてる?」
祐の言葉の意味が分からず疑問を浮かべるヘアバンドの女性。
「はい、あの人から睨まれてるとき怒りがひしひしと伝わってきましたから。どうでもいい人に対してあんな感情持てませんよ。ぶっちゃけめっちゃ怖かったっす…ゲロ吐きそう」
祐はげっそりした表情で膝に手をついた。
「ふふ、ただの腐れ縁だと思われてると思っていたけど、可愛いところあるのね」
ヘアバンドの女性は離れていく金髪の女性のほうを見ながら言った。
「それでもごめんなさい、私のせいで怖い思いさせちゃったかしら?」
すると女性は祐の隣にきて背中を撫でる。祐はそれだけで元気になった。単純である。
「大丈夫です。今元気になりました。睨まれた分含めてもお釣りきます」
「そう、それは良かったわ」
上品に笑うと彼女は祐の前に立った。
「それじゃ私も行くわね。短い時間だったけど楽しかったわ」
「こちらこそ、ご縁がありましたらまたお会いしましょう」
「ええ、ぜひ。それではごきげんよう」
そう言って彼女は先に行った女性を追いかけて小走りで離れていった。
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明日菜たちが集合時間の三分前に駅に着くと、祐が立っているのが見えた。祐は背が高く目立つのでこういう時に探すのが楽だなと思いながら明日菜たちが駆け寄る。
「おっす、お待たせ」
「おお、来たか。皆さんお揃いで」
「寂しくなかった?」
「きれいなお姉さんが相手してくれたから寂しくなかった」
「え、幻覚見てる?」
「違うわ」
明日菜が祐に声をかけ、続けて桜子が話しかける。それに対する祐の返答にハルナが祐の心配をする。主に頭の。
「本当にいたんだよ、ヘアバンドをつけたきれいな女性が。帰り際ごきげんようって言われたぞ」
「ごきげんようって、そんな挨拶する人実際いる?」
「あ~、学園都市にあるお嬢様学校はしてるらしいよ」
ごきげんように美砂が反応するが、円は聞いたことがあるらしい。
「なんでも上級生のこと様付で呼んだりお姉さまって呼んだりするんだって」
「ほんと?なんかコッテコテね」
「みんなあやかみたいな感じなのかなその学校」
「何その学校、絶対行きたくないわ」
「明日菜辛辣やな…」
明日菜はあやかだらけの学校を想像して思わずそんなことを口にした。
「でもお嬢様学校ってちょっとあこがれるかも」
「のどかが行ったらおもちゃにされそうです」
「えぇ!?」
のどかはメルヘン趣味があったりするのでお嬢様学校に密かに憧れていたのだが、夕映の発言にショックを受ける。ただここにいた全員夕映と同じ意見だった。
「まぁまぁ、それは一旦置いておいて早く目的地に行こう!」
「そうね、あんまりゆっくりしてる訳にもいかないし」
「よーし!それじゃ出発!」
「しゅっぱ~つ!」
ハルナがいったん話を占めると明日菜がそれに同意し桜子と木乃香が元気に音頭をとる。
「行きますわよ!」
「何よそれ…」
「お嬢様風に言ってみた」
「それもうやめて、気色悪いから」
「ひでぇ、幼馴染に対する発言かね」
「そうですわよ明日菜さん!」
「お行儀が悪いでございますよ!」
「これしばらく続きそうだわ…」
「ええやん、面白そうやえ?じゃなかった。面白そうですわよ?」
「無理にやんなくていいわよ…」
祐のおふざけに美砂とハルナ、木乃香がのってくる。これからしばらく聞かされる羽目になりそうで明日菜はげんなりした。
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序章・始まりの光
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幽霊と妖怪と幼馴染と
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たとえ世界が変わっても
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消された一日
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悪魔よふたたび
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眠りの街
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旧友からの言葉
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漢の喧嘩
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生まれた繋がり