Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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生まれた繋がり
まるで進まない準備


9月も半分を過ぎ、気温も少しずつ低くなっていると感じる機会が増えた。朝のB組教室内でいつものように祐・純一・正吉が会話をしている。

 

「そういえば、あの宇宙人はどうなったんだ?あれからまったく話聞かないけど」

 

「なんやかんやで諦めて帰ったんだと。A組の人が言ってた」

 

「なんだよ、なんやかんやって…」

 

「なんやかんやはなんやかんやだよ」

 

学園の敷地内に突然やってきたのを最後に、あの宇宙船が現れることはなかった。出てきた宇宙人を見るに平和的な印象は受けなかったが、何事もなく終わったのならそれが一番ではある。なんやかんやの内容は大いに気になるが、野次馬根性を出してA組に聞きに行こうとまではするつもりのない正吉だった。

 

「でも良かったよ、大きな事件にならなくて。見てて気が気じゃなかったんだから」

 

「きな臭い感じはしたけど、そこまでか?」

 

「だってあの時…いや、最近のこと考えるとそう思っても仕方なくないかな」

 

「まぁ、分からんでもないが」

 

言いかけた言葉を飲み込んで、それらしく誤魔化した。本当のことを言うと、純一がそこまで心配していたのは祐が飛び出していくんじゃないかと思っていたからだ。実際そんなことはなかったが、もし例の宇宙人があの場で何か仕出かそうものなら間違いなくこの幼馴染は彼らに向かっていっただろう。

 

自分を始めとした幼馴染は彼の力を知っているし、それが学園中に広まったところで関係を改めるなど絶対にしない。しかし周りがどういった反応をするかはまでは正直分からないことだ。彼が周囲から距離を置かれるようなことは、当事者でなくとも望むところではない。祐にはこのまま平和に学園生活を続けてほしいが、それが少しずつ難しくなっているような気がして純一は不安だった。

 

「なんか自分勝手な感じだったしね、あいつ。諦めたんなら良かったわ」

 

いつの間にか登校していた薫がそのまま会話に入ってくる。祐は机に頬杖をつきながら笑った。

 

「残念ながら、薫先生の御眼鏡にも適わなかったか」

 

「あったりまえでしょ、やっぱり優しさがなきゃ」

 

「そんなこと言って!顔が良ければ大抵のことはいいんだろ!」

 

「なんで急にキレてんのよ!」

 

豹変とも言える態度の切り替えにも、薫は負けじと対抗する。

 

「そりゃ良いに越したことはないけど、それは二の次よ!」

 

「言葉ではなんとでも言えるぞ、証明してみなさい」

 

「証明ったって、どうしろってのよ?」

 

「証明したければ俺と結婚しろ」

 

「馬鹿じゃないの⁉︎」

 

繋がりがまったく見えないのもそうだが、その言葉はこんなタイミングで言われたくなかったと薫は思った。

 

「やはり駄目か!俺の何が不満だ!」

 

「…エッチなところ」

 

「そこは許せよ!」

 

「そうだよ薫!あんまりじゃないか!」

 

「見損なったぞ棚町!」

 

「急に団結すんな!」

 

黙って聞いていた純一と正吉もその一言で祐の側についた。美しくない漢の友情である。そんな時、教室に春香がやってきた。

 

「おはよーみんな!朝から楽しそうだね、なんの話?」

 

「おはよう天海さん。すっげえしょうもない話だから気にしないで」

 

「天海さんはもっと綺麗なところに行くべきだ」

 

「こっちは汚いからね」

 

「ねぇ、それだと私はいいって聞こえるんだけど?」

 

またもや急に態度を変える三人。薫は冷めた目で祐達を見た。

 

「それだけの仲ってことだよ薫!一緒にヨゴレとして生きていこうな!」

 

「誰がヨゴレよ!」

 

遂に行動に出た薫は祐にヘッドロックを掛ける。すぐさま純一と正吉はセコンドについた。

 

「祐!耐えろ!祐なら大丈夫だ!」

 

「タオルは投げねぇ!信じてるからな!」

 

体勢的に顔は見えないが、代わりに祐はサムズアップで答えた。それを春香が羨ましげに見つめる。

 

「いいなぁみんな…仲良くて楽しそう」

 

「春香、間違ってもあの輪に入ろうなんて思うなよ?」

 

近くにいた楓が春香の肩に手を乗せる。どうも最近春香が祐と距離が近くなっているような気がして、それが楓の不安の種になりつつあった。因みに騒ぎは見かねた詞が注意に入るまで続いた。

 

 

 

 

 

 

「というわけで、そろそろ学園祭で行う出し物を決めようと思うのですが…先ずは皆さんに案を出してもらおうと思います」

 

開催の迫る学園祭の為、クラスの出し物を決めることになったA組。教壇に立つネギがそう言うと、皆頭を悩ませる。

 

「いい加減決めなきゃまずいんだけど…ねぇ?」

 

「これって言うのはやってきちゃったし」

 

「う〜ん」

 

中等部から数えればこのクラスでの学園祭は今年で4回目。パッと思いつくものはこの三年間で行ってきたので、中々難しい問題だった。

 

「ここはやはり封印されてきたエロスを解禁する時では?」

 

「一理ある」

 

「まず何故封印されたのかを考えてください」

 

早速雲行きが怪しくなった話を早い内から元に戻そうとあやかが動いた。

 

「も〜いいんちょ、私達もう高校生なんだよ?そろそろこのボデェを武器にしたって良いじゃん」

 

「良いわけないでしょう!あとボデェと言うのはやめてください、癪に触ります」

 

「ちょっとくらいセクスィーな方が売上良くなるでしょ?だったらやらない手はないわよね」

 

「こんな時代だからこそエキサイティンに攻めなきゃ!エキサイティンに!」

 

「さっきから言い方!」

 

なんとなく予想はしていたが、やはりこうなってしまうかと明日菜は呆れた。この三年間も出し物を決める時は苦労したものだ。

 

「え〜っと…皆さん?よく分かりませんが学校の行事ですから、過激なのは駄目ですよ?」

 

「ネギ君も弱腰かぁ、そんなんじゃ勝てないよ!」

 

「何にですか…」

 

「過激なのじゃないにしても、ちょっと服の露出増やせばそれだけで一発よ。なんせうちのクラス見た目はいいのが揃ってるんだし」

 

「見た目は、という部分で色々と察せますね」

 

ハルナの言う通り内面の変人度合いを置いておけばの話になるが、 A組は見目麗しい少女達の集まりだ。この学園での人気も実のところは高かったりする。

 

「同じやつをやっちゃいけないなんて決まりはないし、2年前のメイド喫茶を更に強化したセクシーメイド喫茶でどうだ!」

 

『異議なし!』

 

「あるわ!」

 

流石に黙っていられなくなった明日菜は待ったを掛けると同時に、過半数が乗り気なことに戦慄した。

 

「何が不満なのよ?」

 

「不満しかないわよ!何よセクシーメイド喫茶って!」

 

「セクシーなメイド喫茶に決まってんだろ!」

 

「逆ギレ⁉︎」

 

明日菜とハルナがそんな会話をしていると、美砂が指でフレームを作ってそこに明日菜の顔を収める。

 

「明日菜だって見た目はいいんだから、もっと売っていかないと宝の持ち腐れよ?内面がゴリラでもぱっと見は分かんないんだから」

 

「ゴリラじゃないわよ!」

 

「え、何?ウホウホ?」

 

「ごめん、私達ゴリラ語はちょっと…」

 

「あんたら一発入れてやろうか?」

 

横の木乃香は苦笑いをしつつ、相手が祐なら既に数発は入れていたであろうと思っていた。

 

「皆さん何を考えてらっしゃるんですか!神聖な学舎でセクシーなどと!」

 

「だってこれが手っ取り早く人気取れるし」

 

「委員長達がやれば、少なくとも逢襍佗君は破産レベルでお金使ってくれるんじゃない?」

 

和美は笑って言っているが、幼馴染組はその光景を容易に想像できた。祐は普段碌に金を使うことはないが、変なところで出すことに躊躇がなかった。そこに関しては楽しければそれでいいといった具合である。

 

「祐なんて僕が仕掛けたらコロっといっちゃうよ!」

 

「逢襍佗君てロリコンだったっけ?」

 

「僕はロリじゃない!」

 

「ははは…」

 

「愛想笑いされた⁉︎」

 

都合のいい時は最大限利用するが、日常生活で幼く見られることは良しとしない。風香の乙女心は複雑であった。そこで話を聞いていた千鶴が前の席の円に小声で話し掛ける。

 

「ねぇ円さん、祐君ってどちらかと言うと幼げな容姿が好みだったりするのかしら?」

 

「え、私に聞く?…まぁ好みのタイプって話は分からないけど、傍から見るに逢襍佗君って風香に甘いところあるのは間違いないかな。史香にもだけど」

 

「でしょ!たぶん僕の魅力を無視できないんだろうねぇ」

 

「確かに優しいけど、お姉ちゃんの言ってるのは違うんじゃないかな…」

 

「祐君下の子には特に優しいから、きっとそれやね」

 

「同い年だよ!」

「同い年です!」

 

(ん?てか今千鶴、逢襍佗君のこと名前で呼んでた?)

 

祐が鳴滝姉妹に優しいのは下心ではなく、単に年下の相手に接するそれだった。彼の中では未だに二人を同年代とは信じていない。それと円は話している時には流したが、千鶴が祐のことを名前呼びしていたのが気になった。

 

「千鶴って逢襍佗君のこと名前で呼んでたっけ?」

 

「最近そう呼ぶことにしたの。そっちの方が仲良くなれるかなって」

 

「はぁ」

 

別におかしなことはないが、何故今になってと思わなくもない。最近色々と大変だった彼女の中で、何か彼に対する心境の変化でもあったのだろうか。

 

「よ~し!それなら私達のお色気で逢襍佗君のお金を全部頂いちゃおう!逢襍佗君誘惑大作戦だ!」

 

「乗った!」

 

「乗るな!」

 

「ウチも偶には参加してみようかなぁ。明日菜もやらん?」

 

「木乃香まで乗っかんないでよ!」

 

まさかの木乃香も乗り気な様子に明日菜が焦る。木乃香の妙なところで思い切りがいいのは良いのか悪いのか、少なくとも今に限っては悪い方向に行っているのは間違いないだろう。

 

「やはり私達はしっかり話し合うべきか…お嬢様の肌を晒させるわけには…しかしなんと切り出せば…」

 

「なんか桜咲さんがぶつぶつ言ってるんだけど…」

 

「桜咲さんも参加したいんじゃない?」

 

「んなことはないでしょ…」

 

隣の席の刹那が小声で独り言を呟いている姿に、僅かだが恐怖を感じる円。前の席のまき絵はなんとも能天気である。最近は以前より話す機会は増えたが、それでも円の中で刹那は依然生真面目で寡黙な少女なのだ。そんな人物のこのような姿を見れば、恐怖を感じるのも致し方ないかもしれない。

 

「逢襍佗君を落とすなら、まずは彼の性癖を知る必要があるわね」

 

「男子なんてパンツ見せればイチコロよ!」

 

「亜子!頼んだ!」

 

「なんでや!?」

 

「パンツといえば、以前古が見られていたでござるな」

 

「なんだって!?」

 

「その話詳しく!」

 

「楓!なんで今その話したアル!」

 

「逢襍佗君もエロ河童だったのか!?」

 

「み、皆さん!これは学園祭の出し物の話ですから!祐さんは関係ありませんよ!?」

 

「見事に主題が変わってますね、今更ですが」

 

「決める気ねぇだろこいつら」

 

いつの間にやらどう祐のツボを押さえて金を出させようかの話になっており、ネギがもっともなことを言う。騒がしいクラスを一歩引いたところで眺めながら、これはまだまだ決まらなそうだと夕映と千雨は思った。

 

 

 

 

 

 

「ってことがあったんだけど、逢襍佗君のせーへきって何?」

 

「この子は他クラスの教室で何を聞いとるんだ」

 

休み時間。B組の祐の元へやってきたかと思えば、朝起きたことを大まかに話した後に先の質問をした桜子。祐の隣の春香は若干引いている。

 

「椎名さん、取り合えず性癖って何か知ってる?」

 

「よく分かんないけど、好きなもののことなんでしょ?美砂が言ってた」

 

「いやまぁ、間違ってはないけど」

 

「じゃあ教えて!逢襍佗君のせーへき!」

 

「やめろやめろ!そんなこと大声で聞くんじゃない!俺が周りに変な目で見られるでしょ!」

 

「今更だろ」

 

近くにいた正吉が切って捨てる。祐は意地でもそこには触れないと決めた。

 

「なんと言うか、説明しにくいんだけど…世間一般的に性癖ってのはいやらしい意味とも捉えられることがありまして、従って大声で話すことではございません」

 

「どうしたのその口調…」

 

「触れてくれるな天海さん。今必死で優しい言葉を探してるんだ」

 

「ふ~ん、じゃあ逢襍佗君の好きなエッチなものって何?」

 

「話聞いてたかお前!?」

 

祐の努力を一瞬で跡形もなく消し去った目の前の少女に畏怖の念を抱く。なんという相手だ、こんな恐ろしい相手はそういない。この可愛らしい笑顔の下にはとんでもない裏の顔を隠し持っているのではと感じる程である。

 

「教室で性癖を暴露させられるとかどんな罰ゲームだ…まさか、それが狙いか!?クソッ!こいつは手強いぜ!」

 

「ノリノリじゃねぇか」

 

「椎名さん、手始めにここにいる正吉が性癖を教えてくれるそうだよ」

 

「そうなの?じゃあ参考までに教えて」

 

「言えるか!」

 

「この根性無しが!」

 

「お前が言うんじゃねぇ!」

 

「仕方ねぇ、じゃあ因みにそこにいるマサの性癖は」

 

「祐!てめぇ何考えてんだ!」

 

「うるせぇ!こうなったらこのクラスの男子共の性癖を俺が暴露してやるよ!」

 

それを聞いていたB組男子は当然無視できない。祐を野放しにしたら最後、自分達に対する社会的ダメージは計り知れない。なんとしてでもこの男を止めなければ。

 

「ふざけんな!」

 

「お前はテロリストだ!生かしてはおけない!」

 

「違う、俺は革命家だ」

 

「どうでもいいわ!」

 

祐に雪崩れ込むB組男子。今、全員の心はひとつだった。きっかけを作ったとも取れる桜子は、今の状況をまったく理解していない様子である。

 

「みんな急にどうしたの?」

 

「えっ!?あの~、えっと…と、取り合えず一旦避難しようか…」

 

兎にも角にもこの場から離れた方が賢明だと、春香は桜子の手を取ってA組に向かった。

 

 

 

 

 

 

「し、失礼しま~す」

 

勢いに任せてA組に来たはいいが、特別知り合いもいないことに今気が付いた。ボーリングに参加できていればまだ話は違っただろうが、春香は急に心細くなりながらも桜子を連れて教室に縮こまって入る。桜子を連れてきた手前、教室に入る前にじゃあさよならと言えないのが春香という少女だった。

 

後のドアから入った関係で、一番最初に目に入ったのはエヴァンジェリンだ。その姿に思わず目を奪われていると、視線に気が付いたエヴァと目が合う。瞬間春香の肩はビクッと跳ねた。

 

「ん?貴様は確か…」

 

「あ…ど、どうもこんにちは…」

 

春香を見た後、目線を隣の桜子に移す。見える表情は春香と打って変わって、相変わらず平常運転の笑顔だ。

 

「お前ら友人だったのか?」

 

「今さっき友達になりました!えっと、天海春香さんだから…よろしくハルちゃん!」

 

「よ、よろしく…えっと、ごめんね?お名前は…」

 

「椎名桜子だよ!桜子って呼んで!」

 

「う、うん。分かった」

 

「ん?考えてみれば桜と春って相性いいよね!これは運命かも!」

 

「そ、そうかも…」

 

教室に現れてから彼女には圧倒されっぱなしだ。ただ彼女の自由奔放さは、何処か同じ事務所の星井美希を彷彿とさせる気がした。桜子の言動に呆れたのか、エヴァは既に手に持った本に視線を戻している。そうしているとクラスメイトが春香の存在に気が付き始めた。

 

「あんれ?隣のクラスの…天海さん?どうかしたの?」

 

近くにいた裕奈が声を掛けてくる。エヴァには失礼かもしれないが、彼女よりも話しやすそうな相手が来てくれて春香は内心ほっとしていた。

 

「逢襍佗君にせーへきを聞きに行ったら、よく分かんないけどB組の男の子達が盛り上がっちゃって。そしたらハルちゃんが避難しようって連れて来てくれたの」

 

「あんた何しに行ってんの!?」

 

やけにB組が騒がしいと思ったら原因はクラスメイトだった。そもそもなんてことを聞きに行っているんだといったその反応に春香は安心する。

 

「…で、逢襍佗君はなんて言ってた?」

 

前言撤回、安心できなかった。

 

「あんたらなんの話してんのよ…」

 

今度は呆れた表情で明日菜がやってくる。ちゃんと顔を合わせるのは初めてでも彼女のことは知っていた。体育の授業でいつも活躍を目にしているのもあれば、祐との会話でよく出てくる幼馴染の一人だった筈だ。

 

「明日菜~、逢襍佗君せいへき教えてくれなかったよ~」

 

「あんた何しに行ってんの!?」

 

台詞から何まで完全にデジャブである。反応としては当然だ。

 

「そもそも明日菜、幼馴染でしょ?性癖の一つや二つ知っといてよ」

 

「知ってるわけないでしょ!知りたくもないわ!」

 

桜子に乗った裕奈にそう返す明日菜を見て、春香はこの人は安心できるかもと感じた。

 

「あ~天海さん…だよね?ごめんね、うちのクラスメイトが面倒掛けて」

 

「ううん!そんなことないよ!ちょっとびっくりはしたけど…」

 

申し訳なさそうな明日菜に、大きく手を振って見せる春香。ここで起きた一連の流れで明日菜が苦労人気質であることがなんとなく分かった。一見ゴリラのような恐ろしさを持ち合わせているが、実は面倒見がよく優しいとは祐の言葉である。たぶん褒めてはいるのだろうが、このことは口にしない方が絶対にいいと春香は思った。実際聞いたら間違いなく明日菜は怒るので正解である。

 

「おうおう!B組のカワイコちゃんが何の用だ!」

 

「カチコミ?カチコミなのね!」

 

「何故嬉しそうなんですか…」

 

「こりゃいかん…ちう様!ちう様を呼んで!」

 

「巻き込むんじゃねぇ!」

 

「皆さん!他クラスの生徒さんに喧嘩を売るんじゃありません!」

 

「ほら~、みんなが騒がしいから妖怪ガミガミおばばが出ちゃったじゃない」

 

「その呼び名は即刻おやめなさい!」

 

一気に春香の周りに集まったかと思うと台風のような荒れ具合だ。噂や傍目から見たことはあるが実際その渦中に投げ込まれた今、彼女達のパワーに圧倒される。自身の事務所も賑やかだが、何せこちらは数が多い。

 

「みんな落ち着いて!ハルちゃんは私の友達なの!」

 

「もう絆されおって!この軟弱者が!」

 

「エロ同人作家様がお怒りだぞ!」

 

「貶してんのかてめぇ!」

 

あちらこちらで戦いが勃発しそうな勢いである。春香がおろおろとしていると、木乃香が笑顔で目の前に現れた。

 

「こんちは~、近衛木乃香言います。祐君の幼馴染です~」

 

「あ、どうもご丁寧に。天海春香です、噂は逢襍佗君から常々」

 

「そうなん?どんなこと言われとるかちょっと心配やなぁ」

 

周りの喧騒もなんのその。流石に慣れているのか木乃香は優しく春香に挨拶すると、釣られて春香も返した。これも彼女の纏う穏やかな雰囲気の賜物なのだろうか。

 

「すっごく優しくてお料理上手だって逢襍佗君が」

 

「ほんならよかったわぁ、一安心や」

 

「よくこの状況で世間話できるわね…」

 

 

 

 

 

 

暫くして春香がB組の教室に戻ると、室内は幾多の屍が散乱していた。そんな中祐は髪や服装こそ乱れているものの、何食わぬ顔で自分の席に座っている。

 

「あ、おかえり天海さん。A組に行ってたの?」

 

「ただいま。うん、ちょっとね…みんな大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫、全員怪我一つしてないから」

 

「そ、そっか」

 

周囲の惨事などまるで無いかのような態度である。春香は辺り一面に転がる争いの残骸という名のクラスメイトを踏まないように注意しながら席へと着いた。

 

「大丈夫?あの子らに何かされてない?警察呼ぼうか?」

 

「されてないよ⁉凄いパワフルではあったけど、みんな優しかったから!」

 

勢いに圧倒されはしたが、話してみると人当たりのいい人物ばかりだった。何人かは輪に加わってくることはなかったが、それも含めクラスとして奇麗に纏まっている印象を受ける。きっとその数名は冷静な人物達なのだろうと思った。

 

「ちょっとだけど、A組の人達と初めてちゃんと話したよ。色んなタイプの人がいて楽しいクラスだね」

 

「それは間違いないね、作ろうと思ってもあんな面白クラス作れないよ」

 

「それって褒めてるよね…?」

 

「勿論っすよ」

 

薄々感じてはいたが、自分たちに対してよりもA組に対しての方が遠慮のないように見える。そしてそれはA組から祐に対しても言えることだった。

 

「逢襍佗君のことも沢山聞かれたよ、クラスではどんな感じとか」

 

「どうせ奴らは悪口ばかり言ってたんでしょ!知ってんだよ!」

 

「急にどうしたの⁉」

 

うちのクラスでこんなことをしていた、街で見かけたときはこうだったと話すA組は楽しそうで、彼女達からは一種の信頼のようなものが所々感じられた気がした。クラスや性別は違えど良好な関係を築いているようで、言ってしまえばそれは傍から見ると奇妙な関係に映るだろう。しかし例え歪に見えても、春香は少しその関係が羨ましかった。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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