Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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優秀な人

放課後の麻帆良学園にて部活動のある生徒がそれぞれの練習に打ち込んでいる中、手が空いている者は絶賛麻帆良祭の準備を進めている。

 

クラスの出し物が早い段階から焼き鳥屋に決まったB組ではあるが、未だに味付けがタレなのか塩なのか決着せず、準備を進めながらそちらの戦いも同時進行で行われていた。どうしても選べと言われればタレが好き程度の祐はこの戦いには参加せず、足りなくなったガムテープなどの用具を買いに出ているところだ。

 

近くの生活用品店までやってきた祐は必要なものをかごに入れていく。時折余計なものに目を奪われながらも買い物をしていると、同様にかごを持っている同級生に出くわした。

 

「おや、祐殿ではござらんか。奇遇でござるな」

 

「おいっす楓さん。楓さんも買い出しかな?」

 

「然様。何分手が込んでいる故、すぐに無くなるのでござるよ」

 

「あのメンバーじゃ色々とこだわりが強いだろうからねぇ」

 

明日菜達からA組がメイド喫茶をすることは聞いていた。良くも悪くもA組のことだ、あれこれとアイディアがあって普通の出し物には落ち着かないだろうと想像できる。二人はそのままどちらが切り出したわけでもなく、なんとなく買い物を一緒にしながら会話を続けた。

 

「みんながどんなものを見せてくれるのか楽しみにしてるよ」

 

「そう期待されたのならば応えたくなるというもの。今回我がクラスのやる気は例年以上、きっと期待に沿えるものになるでござるよ」

 

「おっしゃ、何があっても絶対行くわ」

 

元から楽しみにはしていたが、楓の自信ありげな発言により期待値が上がった。麻帆良祭にしっかりと参加できるのは初等部の頃以来なのもあって、その日が非常に待ち遠しくある。そんなことを考えていると楓が祐の耳元に顔を寄せていた。

 

「これは余談でござるが、皆祐殿に随分とお金を落とさせる気がある様子。財布の紐はきつめに締めておいた方がいいやもしれぬ」

 

「なんだそれ…急に恐ろしいこと言うじゃん」

 

そう言ったのも束の間、祐は顎に手を当て少しの間考える仕草を取った。

 

「まさか裏オプションがあるのか…貯金取り崩さなきゃ」

 

「お手本のようなスケベでござるな」

 

「覚悟しろ、貴様を指名してやる」

 

「こんな脅し文句は初めてでござるよ」

 

 

 

 

 

 

所変わってA組の教室、現在千雨によってメイド服を着た数名が研修を受けている。普段は輪に入りたがらない千雨だが、一昨年のメイド達の姿に思うところがあった。なので出し物がメイド喫茶だと決まった瞬間、今年は徹底監修をすると心に誓っていたのだ。

 

「いいか、必要なのは何より猫かぶりだ。あとそんなことは微塵も思ってなくても相手に気があるような素振りを心掛けろ、これは絶対だ」

 

「変なお店やないんやから…」

 

困惑気味にそう言った亜子は、未だ衣装に恥ずかしさを感じているのかほんのり顔が赤い。するとその横にいる桜子が手を上げた。

 

「先生!猫かぶりはどうやってやればいいんですか?」

 

「言い方を変えるなら猫かぶりとはぶりっ子だ。徹底的にかまととぶってかわい子ぶれ!恥なんか捨てて全力だ!」

 

「口調が乱暴」

 

「人が変わったようです」

 

「なんかちょっと怖い…」

 

同じように研修を受けているアキラ・夕映・のどかが呟く。いつもとは違い、鬼気迫る表情の千雨はやる気に満ち溢れていた。

 

「例えばこのペットボトル!宮崎、これ開けてみろ」

 

「は、はい」

 

千雨からペットボトルを渡されたのどかがキャップを捻る。しかし思ったように開かず、顔を赤くしながら力を入れても結果は変わらずだった。

 

「んう~!開かない~!」

 

「これだ!キャップを開ける動作一つでも非力な女をアピールできる!合格だ宮崎!」

 

「おお!本屋ちゃん強かだね!」

 

「本当に開かないんです…」

 

二人に褒められても内容が内容なのでまったく嬉しくないのどか。実際開かないのは演技ではない。

 

「よし次!椎名、思いっきりかわい子ぶって配膳をしてみろ」

 

「オッケー!」

 

ノリノリでトレーに空のコップを載せて歩く桜子。客として座る千雨のテーブルに着くとわざとらしく転んだ。倒れた際に無駄に大きく足を上げたのでスカートの中が丸見えである。

 

「いや~ん!ころんじゃった~!」

 

『……』

 

「いっけな〜い!拾わなきゃ〜」

 

その後コップを拾う為千雨に対して背中を向けると、これまたわざとらしく屈んで下着を見せつけた。

 

「違う!うちはハプニングバーじゃねぇ!あと全体的になんか古い!やり直し!」

 

「え~、先生厳しい。これで許して~ん!」

 

「だから違う!」

 

今度は自らスカートをめくる桜子に怒る千雨。二人の間にはメイド喫茶に対する大きな認識の違いがあるようだ。

 

「ハプニングバーってなに…?」

 

「ウチかて知らんよ…」

 

「聞いた話によると、ハプニングバーとは集まった男女が突発的な」

 

「夕映!?」

 

 

 

 

 

 

それから生徒達が寮や自宅へと帰っていく中、祐は超と聡美から連絡を受けて二人のラボに来ていた。内容は以前もらった戦闘服の定期検査である。

 

「細部にも問題は見られませんね、異常なしです」

 

「それは良かった。毎度どうも」

 

「いえいえ」

 

聡美から検査の終わったブレスレットを受け取る。腕に付け直した後その部分を見つめる祐に気が付き、聡美が首を傾げた。

 

「逢襍佗さん?何か違和感でもありましたか?」

 

「ん?ああ、いや…特に違和感はないよ。ただ、せっかくもらったのにまだ一回しか使ってないのが申し訳ないなと」

 

それを聞いて、デスクに座っている超が笑ってモニターから顔を覗かせた。

 

「使う機会が少ないならそれに越したことはないネ。その気持ちだけで充分ヨ」

 

「そうです。もともと逢襍佗さんの正体を隠すための物なんですから、これでいいんですよ」

 

「ありがとう、二人とも」

 

二人に笑顔を浮かべる祐。夢の世界での一件を経てから、この戦闘服は使用していない。受け取った後にハラートとの勝負はあったが、あれに関しては逢襍佗祐という一学生に負けたことを相手に見せつける必要があった。贈り物なのでもっと使いたいという思いはあるが、二人の言う通り使うことがないのならそれが一番なのは間違いない。

 

「しかしどうしたものカ…頭部の装甲を付けるかどうかの判断が未だに下せないヨ」

 

「当初は付ける予定でしたけど、髪が見えるあの姿もなかなか乙なものでしたからね。悩ましいところです」

 

自分の身に着けるものに対してこうも真剣に悩んでくれているのだ。装甲があってもなくても効果に差はないのならどちらでもいいのではないかなどとは決して言うまい。

 

「マスク部分みたいに開閉可能にしたらいいんじゃないかな?開けるか閉めるかは…まぁ、その時の気分次第ってことで」

 

祐にとっては深く考えたわけでもない発言だったが、どうやら二人は納得している様子だった。

 

「ふむ、確かにあって困るものでもない。早速その案でいくとしようカ」

 

「了解です!もう完成データはありますからあっという間ですよ!」

 

「二人とも連日麻帆良祭の準備だってあったでしょうに。疲れてない?」

 

「これぐらいどうってことはないネ。それに思い立ったが吉日ヨ」

 

「明日は休日ですし、心置きなく完成までいっちゃいましょう!」

 

今回に限らず超と聡美は働き過ぎな気がしている。これを受け取った夏休みのことからも、二人は休みというものを碌に取っていないのではないかと思うのも当然であった。しかし本人達は今すぐにと既に作業を始めている。これは止めるのは野暮かと苦笑して、二人に何か飲み物でも買ってこようと要望を聞いてから自販機に向かった。

 

 

 

 

 

 

建物の中にある自動販売機の前で飲み物を買っていると、後ろから人の気配を感じる。どうやらこちらに向かってきているようだった。

 

「失礼、ちょっといいかな?」

 

「はい、なんでしょうか」

 

取り出し口から飲み物を取って振り向くと、眼鏡をかけた女性が立っている。服装は地味だが奇麗な顔立ちだ、見覚えはないので恐らく初対面だろう。

 

「私はここで臨時講師をしているモデナ・ロマーニという者だ。すまないが君は?見ない顔だ」

 

「初めまして、麻帆良学園高等部の逢襍佗祐と申します」

 

「どうもアマタ君、突然声を掛けて申し訳ない」

 

お辞儀をするとモデナも返してくれた。しかしこちらに対する疑問は未だにあるようだ。

 

「私も飲み物を買おうと思って来たんだが、君が超君達の研究室から出てきたように見えた。彼女達とは研究仲間だったりするのかな?」

 

「いえ、僕はそっちに関してはからっきしでして。ただの同級生兼友人です」

 

「そうか、彼女達の研究室には特定の人物しか入れないことで有名なんだが…君は相当信頼されているようだね」

 

「そう思ってもらえてるなら、ありがたいですね」

 

少しうれしそうな祐を見てモデナが笑顔を浮かべた。人当たりのいい人物のようだ、彼女からは柔らかい印象を受ける。

 

「超君や葉加瀬君は素晴らしい才能の持ち主だ。彼女達ともっと親睦を深めたいのだが、如何せん私は大学部を担当しているのもあってあまり機会に恵まれなくてね」

 

「なるほど。でも科学が好きであれば、きっと二人とはすぐに仲良くなれると思いますよ」

 

「本当かい?彼女達が明るい性格なのは間違いないが、それでいて警戒心は強い部類だと思っていた。勿論私は二人に詳しいわけではないから、勘違いということもあるだろうがね」

 

祐からすれば二人にそういった印象を感じたことはない。しかし自分は明日菜達を通してクラスメイトの幼馴染という立場から関係が始まった。それが多少なりともアドバンテージになっていた可能性もある。

 

「まぁ僕も所詮二人のことは学校での姿しか知りませんから、その場によって色々と違うのかもしれませんね」

 

「確かに、人は場所や状況によってその態度を変えるものだ。それに誰もが一つでなく、幾つもの顔を持っている」

 

「…間違いないっすね!」

 

なんだか話が小難しくなってきた気がする。恐らく簡単に言うなら人にはいろんな側面があるということだろうと祐は話を簡略化して自分の中に落とし込んだ。

 

「おっとすまない、長いこと呼び止めてしまったね。私も飲み物を買って戻るとするよ」

 

「いえ、とんでもないです。それではこれで」

 

「付き合ってくれてありがとう。…そうだアマタ君」

 

歩き出そうとしたところに声が掛かり、祐は振り向く。対するモデナは揶揄うような表情だった。

 

「君達はまだ若い。誰も部屋に来ないからといって、変なことをしないようにね」

 

「ロマーニさん…つまりそれはやれってことですね?」

 

「いやフリではないよ、日本語って難しいね」

 

 

 

 

 

 

祐が厳重なセキュリティを通過してラボに戻ると、二人は相変わらずモニターに齧り付いていた。集中するとこうなるのは知っているので、邪魔にならないようにと静かに飲み物を近くのデスクに置く。

 

「おかえり祐サン、飲み物ありがとう」

 

「ただいま、お気付きでしたか」

 

視線はモニターに固定したまま超が手を振る。祐は超から少し離れた斜め後ろの位置に椅子を引いて座った。聡美は祐に気が付いていないようだ。

 

「少し長かったように思えるガ、何かあったのカナ?」

 

「自販機のところで話し掛けられてね。モデナさんって人なんだけど」

 

「何度か話したことがあるヨ、とても優秀な人ネ」

 

「ロマーニさんも二人のこと、とても優秀だって言ってたよ。親睦を深めたいけどなかなか機会がないとも」

 

「それは光栄ネ」

 

室内にはキーボードを叩く音と電子機器の稼働音が響いている。この部屋が防音使用であり、日もすっかり暮れているのもあって随分と静かな気がした。

 

「他にはどんなことを話したか聞いても?」

 

「他?そうだなぁ…人にはいろんな顔があるよねみたいな話」

 

「ほう、興味深いネ」

 

作業を中断し、超は椅子を回転させて祐に振り返った。キャスター付きであることを利用し、デスクを押して座った状態のまま祐の隣までやってくる。進んできた椅子を接触目前で祐がそっと止めると、超は背もたれに深く寄り掛かった。

 

「どういった経由でそんな話になったのカナ」

 

超からの質問に先程のことを思い出しながら答える。掻い摘んで伝えると、その表情は納得した様子だった。

 

「なるほど…まぁ、確かに出合い頭の彼女に対しては少し警戒していたかもネ」

 

「あ、そうなの。なんで?」

 

「よくない癖かもしれないガ、私は頭のいい人や優秀な人をすぐには信用できないネ」

 

「……超さんは俺のこと信用してる?」

 

「勿論してるヨ」

 

「俺は馬鹿で劣等生ってか!」

 

「待った待った、私達はそれなりの付き合いがあるではないカ。これは経験に基づいた信用ネ」

 

「とは言っても関わり始めてから期間的には大体一年程度じゃね?」

 

「長さなど関係がなくなる程濃密な付き合いだったということヨ」

 

正直この件に関しては深堀したいが、あまり話の腰を折り過ぎてもと思って今追及するのはやめることにした。

 

「そういった人達の発言や態度には常に隠れた本音や裏があると思って接してしまうネ。実際、そうしたことで危機を回避したのは一度や二度ではない。最早これは染みついてしまったモノ、今更どうにかするのは難しいヨ」

 

手を伸ばして買ってきてもらった飲み物を取り、一口飲んでから再び椅子に体重を預けると祐を見つめた。

 

「信頼して裏切られるというのは、きっと辛いことヨ。数を重ねてもなかなか慣れてくれない、身近な相手が亡くなるのと同じように」

 

祐は合わせていた視線を下に向けて逸らせた後、もう一度合わせ直して口を開いた。

 

「慣れるべきじゃないよ。慣れてもそれはそれで碌な結果にならない…たぶんね」

 

その言葉に対してなのかは分からないが、超は僅かに笑顔を見せた。そして椅子から立ち上がり、少し強引に祐の膝の上に座る。突然の行動に面食らったが既に身体は動いており、背中に腕を回して彼女を支えているのに気付くと自分のことながら如何なものかと思った。

 

「あまり外には出さないようにしているからそのイメージはないかもしれないガ、私はとっても臆病ネ」

 

「それは仕方ないって、相手が何を考えてるかなんて普通は分からないんだから」

 

「祐サンは強い想いであれば見ることができる。でも、滅多にそうしようとしない。何故カナ?」

 

「あんま好きじゃないんだ、勝手に覗くのは。ふざけて見るふりとかはしてるけどね」

 

迫られた状況でないのならそれはしたくない。祐にとって自分の都合で強制的に覗くことはどうしても罪悪感が拭えない行為だ。そしてそう思っていながら、話していると無意識に相手の瞳を見つめている己に浅ましさを感じて嫌気がさす。

 

「自分の持っているものを使うのは、私は狡いと思わないネ。他の人にできないことをするからと言って、それ自体は悪ではないはずヨ」

 

「どうなんだろうね。でも、勝手に見られるのはいい気がしないでしょ?」

 

「時と場合、何よりも相手によるネ」

 

超の両手が包むように頬に触れた。祐の顔を自分に向けさせると、少し身を乗り出して瞳を近づける。

 

「私は貴方に覗かれても、嫌な気はしないかもしれないヨ」

 

「…それって冗談?」

 

「確かめてみて、そうしたら分かるネ」

 

ゆっくりと距離が近くなる。お互いの瞳には相手の顔しか映っていないのが分かる程、その隙間はなくなりつつあった。

 

「気が付かなかった私にも落ち度はありますが、お二人も私がいることを忘れてませんか」

 

目の前の相手ではない声が届き、時が止まったように全身が硬直する。祐が少しずつ声のした方向を見ると、非難するような視線をこちらに送る聡美と目があった。

 

「……いや、違うんすよ」

 

「何に対して違うと言っているのか分かりかねますが、失礼しました。邪魔者は席を外しますので」

 

背を向けてこの場から立ち去ろうとする聡美を見て、祐は膝の上の超を優しく下ろしてから早歩きで追いかけた。

 

「いや葉加瀬さん、違うんすよ」

 

「だから何が違うんですか…大丈夫です。このことは誰にも言いませんし、私が周りの方達と違って魅力がないのは承知してますので」

 

拗ねた様子の聡美に珍しさを感じながら、祐は彼女をこの場に留まらせる為肩に手を乗せる。

 

「何言ってんすかゼロ姉さん。やべ、違う間違えた」

 

「誰ですかゼロ姉さんって!?あっ、チャチャゼロさんのことですか!一文字も被ってないのに!」

 

このタイミングで痛恨のミスを犯してしまった。ハプニングに弱い男である。

 

「ちょっと前にも似たようなことがあったんですけど、その時見てたのがゼロ姉さんだったもんで…」

 

「前にもあったんですか、流石逢襍佗さんです。モテる人は違いますね」

 

「俺がモテる?もしそれが本当なら葉加瀬さんも俺を好きになってください」

 

「何言ってるんですか⁉︎」

 

そうなるだろうとは思っていたが、やはりおかしな方向に話が進み出している。超はまるで他人事のようにその様子を楽しそうに眺めていた。

 

「俺はモテるんだろ!?だったら責任持って好きになってくれよ!」

 

「支離滅裂過ぎます!あとそんなこと言われたら100年の恋も冷めますよ!」

 

聡美はこちらの両肩を掴んで懇願する祐の姿に押されている。もうこの場は完全に祐のペースだ。

 

「大体私なんかに好きと言われても嬉しくないでしょう!いつも可愛い人達に囲まれてるんですから!」

 

「そんなことはない!現に俺はこの状況に興奮している!」

 

「へ、変態です!」

 

「これは私が退出した方がいいのカナ?」

 

結局この話題のせいで作業は暫く中断になり、戦闘服の完成は予想より少し遅れた。

 

 

 

 

 

 

同時刻、源八が自分のデスクで新聞に目を通していた。その新聞には麻帆良祭のことが大きく取り上げられている。

 

「麻帆良祭か、あのボウズは元気でやってんのかね」

 

「ゲンさん、そろそろいらっしゃいますよ」

 

以前の連続爆破事件からその存在を知ることになった祐のことを考えていると、後輩の刑事から声を掛けられる。

 

「もうそんな時間か。お~う、今行くわ」

 

椅子から立ち上がり、腰を数回叩いてから歩き出す。その姿を見て後輩は苦笑いをした。

 

「ゲンさん、年寄みたいですよ」

 

「うるせぇ、40超えると色々とガタが来るんだよ」

 

「そういうもんなんですか?」

 

「お前もすぐに分かるよ」

 

「怖いこと言わないでくださいよ」

 

軽い調子で会話をしながら廊下を進む二人。彼らの目的は間もなく訪れることになっている人物の出迎えだ。

 

先日、これまた爆破事件で知り合った時空管理局のクロノから超常犯罪対策部宛てに連絡が入った。内容はこちらが行方を追っていた犯罪者の潜伏先が判明し、それが地球の日本であること。そしてその犯人を追って時空管理局の局員が日本に向かうことになったというものだった。

 

どうやら担当になった局員というのがクロノの知り合いらしい。それに伴い様々なことを考慮して、源八達にその担当局員の助力をお願いしたいとの申し出をしたようだ。断る理由もない源八は二つ返事で承諾した。

 

「今回来る人はどんな人なんですかね?」

 

「送られてきた資料にさっき目を通したが、見た目は若い嬢ちゃんだったよ」

 

「えっ!マジっすか!?」

 

急に高揚しだした後輩刑事にため息が出る。ただ何せうちの部署は女っ気というものがない。自分としてはあまり気を使わなくて済むので仕事がしやすいが、若い連中としては面白くないのだろう。そこに関しては一定の理解はしているつもりだ。源八は頭を掻いて続きを話した。

 

「ただ若くてもかなり優秀って話だ。まぁ事件を任されるぐらいなんだし、そういうことなんだろうよ」

 

「なるほど…ゲンさん、俺めっちゃやる気出てきました」

 

「そいつは結構だ…」

 

自分も若い時はこんなものだっただろうかと過去を振り返っているとロビーに着いた。すると案内係が見慣れない人物と会話をしている。送られてきた写真と照らし合わせて彼女が例の人物で間違いないだろう。こちらの視線に気が付いたのか、案内係が女性を連れてやってくる。源八と後輩は少し服装と姿勢を正した。

 

「太田さん、件の時空管理局の方です」

 

「おう、ご苦労さん。遅れて申し訳ない、俺…じゃなかった私は警視庁超常犯罪対策部の太田源八警部であります」

 

敬礼をする源八に対して、少女と言っても通用しそうな女性が敬礼を返す。恐らく時空管理局の制服と思われる黒を基調とした服装に、印象的なオレンジ色の髪を腰近くまで伸ばしている。

 

「とんでもございません、お忙しいところお出迎えいただき恐縮です。申し遅れました、私は時空管理局執務官『ティアナ・ランスター』です」

 

まだ若いながらも凛としているその姿に、クロノといい彼女といい時空管理局というのは若く優秀な人材が多いのだろうかと源八は思った。そこでふと横目を使って後輩を確認すると、分かりやすい程彼の目はティアナに釘付けになっていた。

 

「かわいい…いてっ!」

 

思わずそう呟いた後輩の背中を、ティアナからは見えないよう器用に源八が叩く。後輩の言ったことが聞こえておらず、突然痛がり出した姿を見て首を傾げるティアナに源八と案内係は愛想笑いでごまかした。

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  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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