暗闇が広がる巨大な倉庫の中。デスクライトが置かれた簡素な机の前で女性が目の前に広がる紙を眺めている。少しずつこちらに近づく足音に気付きながらも視線はそちらに向くことはなかった。来ることは分かっていた、それを気に留める必要もない。打つべき手は既に打っているのだから。
「ムティナ・アーリアね」
「そうとも。そういう君は、時空管理局かな」
紙を畳んで懐にしまうと後からの声に笑いながら振り向く。見えた顔は若いが強い力を宿した目をしていた。この人物は知っている、あの事件に関りがある者だからだ。
「誰が追ってくるかと思えばティアナ・ランスター執務官とは、お会いできて光栄だ」
「私のことを知ってるみたいね」
「勿論だとも、若くして執務官となった有名人だ。そして何より…」
「私の恩師が随分と世話になったようだからね」
先程から笑みを絶やさないムティナだが、その笑顔は見ている者の不安を掻き立てる程獰猛だ。暖かさなど微塵も感じさせない。
「そうね、確かに随分と迷惑を掛けられたわ。それはそれとして、貴女の身柄を拘束させてもらいます」
「これはこれは、穏やかじゃないね」
「呼んだのは貴女でしょうが」
「仰る通りだ」
大げさなリアクションを取ると机に寄り掛かる。今自分が置かれた状況が分かっていないわけでもないだろうに、その顔に焦りはなかった。ティアナは向けていた視線を鋭くする。
「大人しく来てもらえると助かるんだけど」
「喜んで…と言いたいところだが、今はその時じゃない」
「…どういう意味?」
「この瞬間、この場所はそうなるに相応しくないということさ。私を取り囲んでいるところ申し訳ないがね」
やはりムティナは周囲に待機している警官達に気が付いている。機材により二人の会話を聞きながら、突入の時は今か今かと待っていた源八達は緊張から冷や汗を流した。
「せっかく来てくれたんだ。どうだろう、物のついでに少し私に付き合ってくれないかな?」
そう言ったと同時に倉庫の屋根を突き破り、幾つもの物体が飛来した。粉塵が巻き上がる中、警官達も倉庫に突入していく。そこに見えるのは変わらぬ体勢のムティナと、明かりの無い室内を各部のパーツから放たれる赤い光で照らす数体のロボットだった。
「なかなかの出来だろう?兵器として作られた訳ではないから、内蔵されている武器が無いのは残念だがね」
「どっから飛んで来たんだよ…」
げんなりとした顔をする源八へ楽しそうにムティナは答えた。
「それはまだ教えられないな。もうすぐ大きなお祭りが始まる、そこに行けば面白いことが沢山分かるだろう」
「大きな祭りだと?」
「楽しい楽しいとても盛大な祭りだよ、そこにいる元凶を調べればいい。そうすれば無責任に自分のものを捨て、一人幸せにのうのうと生きようとする卑怯な人間が見えてくる。そんな奴は報いを受けるべきだ。君達が私の人生を終わらせてくれることを切に願っているよ」
思わせぶりなことを言っているが意味までは理解できない。自分達から逃げようとしていながら、まるで捕まることを望んでいるような口振りだ。
「そう簡単にはいかないか…」
予想はしていたがこうなってしまったことに若干気落ちはする。しかしやるべきことは変わらない、表情を引き締めると彼女の身体が光に包まれた。一瞬で光が晴れたかと思うと、そこには白と黒を基調とした魔力によって形成される戦闘服『バリアジャケット』に身を包んだティアナが拳銃型インテリジェントデバイス『クロスミラージュ』を構えていた。
「さぁ、教え子達の自信作で本番前の予行演習といこうじゃないか」
「うおおおお!前夜祭だからってセーブなんかしねぇ!今この瞬間で燃え尽きてやるぜ!まずはこのコーラを一気飲みだ!」
「「「流石弄光先輩だぜ‼︎」」」
いよいよ明日に迫る麻帆良祭。その前日は学園関係者限定で前夜祭が行われるのも恒例のことだった。現在広場は本番かと見まごう程の熱気で満ち溢れている。飛ばし過ぎて当日に響かないか心配になるが、この学園の生徒達は多くの意味で逞しいので問題ないかもしれない。
「お〜、早速やってるねぇ」
「これも含めて麻帆良祭が始まるって感じするわね」
A組も例に漏れず前夜祭に参加している。既にお祭り騒ぎな側から見れば少し異常と感じるかもしれないこの状況も、彼女達にとっては見慣れた光景であった。そこでハルナと共に周りを観察していた美砂が明日菜達の姿が見当たらないのに気が付いた。
「あれ?明日菜達は?」
「さっき飲み物買ってくるって言ってたよ」
「あ、そうなの?じゃあ私の分も頼もっと」
「ちゃっかりしてるんだから…」
近くにいた円からの返答に美砂がスマホを取り出しながら言った。恐らくラインでお願いの文章を送っているのだろう。
「オブフォ‼︎」
「「「弄光先輩の鼻からコーラが‼︎」」」
「「アッハッハッハ‼︎」」
「あんたらよくあれで爆笑できるわね」
指をさして大笑いするハルナと美砂に反して円の反応は冷たかった。
盛り上がりを見せる広場から少し離れた場所、祐はそこで一人賑やかな光景を眺めている。見守るような表情で見つめながら、頭の中で考え事をしていた。数日前のモデナとの会話は祐にとって強く印象に残るものだった。彼女は彼女で難儀なものを抱えているようで、はっきり言って心配になる。だからとこの問題に立ち入るのはまだ時期尚早な気がしていた。何せまだ出会った回数で言えば二回だ。お互いの話をして少なからず親近感はあるものの、どこまで踏み込んでいいものかは事が事だけに非常に悩ましい。
「思った通りですわね、逆に探すのが楽ですけど」
随分と集中していたからか、それとも周りに気を張っていなかったからか。後ろから人が近づいていることにまったく気が付かなかった。少し驚いて振り向くと、呆れた顔のあやかが視界に映った。
「あやか…?どしたの、こんなとこ来て」
不思議そうな顔で聞いてくる祐に一度ため息をつくとゆっくりと近づいてくる。
「もしかしたらと思って少し周辺を回っていたんです。貴方は昔からこういった状況になるとふらっと何処かへ行ってしまいますからね」
「そうだったかな」
惚ける祐に不満そうな目を向けてから横に並んだ。お互い少し先の広場を見つめる。
「普段はあれだけ騒がしいのに、賑やかになるとその場から居なくなるって知ってますのよ」
「その場が温まったら、次の場所に笑顔を届けに行ってるんだよ」
「荒らすだけ荒らして去っていくとは質の悪い…台風のような人ですわね」
「もっと俺に優しくしてくれても罰は当たらないぞ?」
「優しくしてほしいのなら、普段の生活態度を改めてください」
「チッ…」
「なに舌打ちしているんですか!」
広場に向けていた視線を身体ごと祐に移すと服を掴んで詰め寄る。祐は両手を上げて無抵抗の意思を示した。
「違う!ただのリップ音が鳴っただけだ!…地獄耳ババアが」
「誰が地獄耳ババアですって!」
「聞き間違いだって!綺麗だなぁって言ったんだよ!」
「嘘おっしゃい!」
聞き取れないように小声且つ早口で言ったがしっかり聞こえているようだ。言い訳をしてみてもあまりに苦しいので騙されてはくれないだろう。
「分かった!ちゃんと言うから!……綺麗だ」
「き、気色悪いですわ…」
「なんだてめぇ!」
無抵抗でいようと思ったが、そう返されては黙っておけないとあやかの肩を掴んでこちらも詰め寄った。意図せず距離は近くなり、二人は見つめ合う形になる。その状況に気が付いたのか、あやかは急に何も言わなくなった。祐は祐で視線が合うことに思うところがあったのでその目を逸らす。だがその行為があやかは気に入らなかったようだ。
「…どうして逸らすんですか?」
「いや、どうしてって…気まずいから」
「何を今更、あの時は無理に合わせようとしていたではありませんか」
「それを言うならそっちは合わせようとしなかったろ、ならこれで問題ない」
肩から手を放し、腕を組んで再び広場に視線を向ける。これで一旦仕切り直しと思ったが、あやかの目は未だ祐を見ている。何故だかそれが非難されているような気がして祐は頭を掻いた。
「なんか悪いことした?」
「いいえ。ただ、何かあったことを隠しているのではないかと疑っているのです」
「勘弁してくれ…」
祐は掌で自分の額を叩くとしゃがみ込んだ。それに倣ったのかあやかもしゃがむ。
「そりゃ色々あるよ、多感な時期なんだから」
「困ったり辛いことがあったらちゃんと言ってくれると私達と約束したでしょう」
「したけどさ…本当に困ったこととか辛いことは言うよ。でもまだそうじゃない、最初らへんは少しくらい自分でなんとかしようと思ってもいいでしょ?」
「それは…そうですが」
「ここぞの時まで取っておきたいんだよその択は。俺にとってあやか達は最終兵器なんだ」
しゃがんだ状態から芝生に腰を下ろした。この話は今しっかりとしておいた方がいいだろう、きっと今後に関わる重要な話だ。同じように座ったあやかに身体の向きを変えた。
「俺はこれまで数えきれないくらいあやか達を始め、周りの人達に助けてもらった。だからいい加減、受けた恩を返していけるようにならないといけない。その為には俺自身が成長していく必要があるわけだ」
「助けたと仰いますが、私達がしたことと言えば祐さんの近くに居たことぐらいですよ?」
「それがあの時の俺には一番必要で、何にも増して助けられたことだ。あやかが思ってる以上に、俺は感謝してる」
先程とは違い、真剣な表情で伝えられると何も言えなかった。普段の様子が大概だからだろうか、真面目な態度の祐にあやかは弱かった。
「だからこそ、俺は自分で出来ることを増やしていきたい。全部を自分一人でなんとかできるなんて思ってない、でもやれることを増やす努力は必要だ。俺はその為に頑張る、今はその最中ってところ」
気付けば俯き気味になっているあやかの両手を取る。心配そうな顔をさせてしまっていることに罪悪感が湧くが、自分の考えをしっかりと言うべきだ。
「心配掛けてる自覚はある、俺が頼りないのは重々承知だ。その上であやか達には信じてほしい、本当にやばかったらちゃんとみんなに話すから」
落としていた視線を上げて祐を見る。この幼馴染は悪い男だ、わざとかは判断できないがこれでは否と言えない。それがなんだか悔しくて、触れている手をぐっと力を込めて握り返した。
「信じてほしいという言い方はずるいです…そんな言い方をされては、拒否などできなくなるではありませんか」
「確かに、卑怯な言い方だったかもね」
今は冗談を言える雰囲気ではなく、だから貴方を信用しませんとは言えなかった。それすら狙っていたのならとんだ悪党だ。
「あとこれは前から思ってたけど、あやか達は俺に優しすぎ。もう少し厳しくていい」
「ついさっき優しくしてほしいと言ったのはどなただったかしら」
「時と場合によるってやつだ」
「便利な言葉ですこと」
少しだけ笑ってくれたあやかに安心してその手を放した。この話はあやかだけでなく、その他の親しい人物達にも伝えておいた方がいいかもしれない。心配ばかりをさせてなんとも情けなく気が重いが身から出た錆だ、自分の考えを伝える義務は果たさねばなるまい。そう考えていると複数の足音が聞こえてくる。少しして現れたのはこれまた見知った人物達であった。
「ほら、やっぱり変なとこにいた…って、なんで委員長が一緒なのよ!」
「委員長さんもご一緒だったんですね!あ、祐さんこんばんは」
「ありゃ、先越されてもうた」
「少し前から姿が見えないと思っていましたが、雪広さんもお嬢様達と同じ考えだったのですね」
茂みから顔を覗かせた明日菜からネギ・木乃香・刹那が順に現れた。座っている二人を確認すると、木乃香が笑いながらあやかとは反対側の祐の隣に腰を下ろした。
「ウチらに黙って抜け駆けするなんて、いんちょも隅に置けんな~」
「な!?人聞きの悪いことを言わないでください!ネギ先生!これは違うんです!私はネギ先生一筋で」
「い、委員長さん…よく分からないですけど落ち着いて…」
急いで立ち上がるとネギに力説するあやか。その姿に呆れながら明日菜が空いた場所に座った。
「皆様お揃いでどうしたんだ?」
「祐君こういう時どっか行ってまうやろ?せやから見に来たんよ」
「あ~…そっか…」
あやかとまったく同じことを思われていて祐はなんとも言えない顔をした。悪いことをしているつもりはないが妙に後ろめたく感じるのは何故だろうか。
「ったく、もしかしてと思ったけど想像通りだったわ。そういうところも変わってないのね」
「やめろよ、なんか恥ずかしいだろ」
「なんでよ?」
「俺達通じ合ってるって感じがして」
「キモい」
「うっわ直球!」
冷たくあしらわれるがこちらの方が性に合っている。馬鹿なことを言ってそれに反応してもらっている時が一番気楽でいい。余計なことを考えずに済む。
「木乃香はもとより桜咲さんだってそんな酷いこと言わないぞ!」
「今みたいなこと言われたら誰だってそう言うでしょ!」
「なんだと!見てろ、桜咲さん!」
「な、なんでしょう…」
「桜咲さんて肌白くて舐めたくなるね!」
「……」
「ほら見ろ!酷いこと言わないだろ!」
「あまりにキモくて絶句してんのよ!」
「祐君、ウチにはなんか言うてくれへんの?」
「木乃香にキモいって言われたら俺立ち直れん」
「なんか贔屓を感じるわ」
あやかと二人の時にあった空気を吹き飛ばすかのように騒がしくなり、もうすっかり真面目な雰囲気は消失していた。その横でなんとかあやかを落ち着かせたネギが祐に聞いてくる。
「さっきまでお二人で何かされてたんですか?」
「ん?大事な話を手を握って見つめ合いながらしてました」
「祐さん!!」
あやかが止めようとするが時すでに遅し。顔を赤くした明日菜は祐に掴みかかった。
「あんたら何やってんのよ!せっかく人が心配して見に来てやったのに!」
「しまった!余計なこと言ったか!ネギ…やってくれたな!」
「えっ⁉」
倉庫ではあれから激しい戦闘が行われていた。しかしムティナの言う通りロボットに武器が搭載されておらず、何よりティアナの活躍もあってロボットは瞬く間にその数を減らしている。源八達はなるべくティアナの邪魔をしないよう立ち回っており、少々肩身が狭かった。
「いやはや大したのもだ。執務官は内勤ばかりのなまった連中が多いと聞いていたが、君には当てはまらないようだね」
「それはどうも。もう諦めなさい、このロボットが後何体来ても同じよ」
銃口を向けられるムティナ。状況は明らかに劣勢だが、冷めた笑顔が消えることはなかった。
「ふむ…確かにそうだろうね、このロボット達では君は止められない。でも目的は君の排除ではない、そしてもう予行演習は充分だ」
周囲から訝しむ視線を受けると懐から何かを取り出した。全員の視線がそこに集中すると、ムティナは見せつけるように手に持ったそれを掲げる。
「さて、今取り出したこれだが…なんだと思う?」
「碌なものじゃないのは間違いなさそうね」
「酷いことを言うね、私が作ったものに対して。これに関しては君よりも地球人の皆さんの方が馴染み深いかもしれないな」
周りの警官達も黙って見つめる中、ムティナは楽しそうに話し始めたた。
「これは少し前にアウトレットを破壊した爆弾と同じものだ。形や使用方法は少し違うがね」
その言葉にどよめきが起こる。口を閉じていた源八はその顔を険しくした。
「お前なのか、あいつらに爆弾を渡したのは」
「おや、彼らを知っているようだね。この世界の未来を憂いていた幼気で無知な子供達のことを」
返ってきたのは質問に対しての明確な答えではなかったが、今の言葉だけで充分だ。間違いなく彼女は関係がある。同じくその事件現場を見ていた他の刑事も浮かべる表情は険しい。
「まさかあんたが焚きつけたんじゃないだろうな」
「私達が彼らの存在を見つけた時には、既に導火線に火はついていたよ。私達はあくまで彼らに道具を提供しただけだ。それが無くても、あの様子なら事を起こしていただろうさ」
「若さだね、お手本のような向こう見ずさだった。本気で世界が変えられえると思っていたんだから」
心底愉快だと言うかのようなムティナに怒りを覚えるのは仕方がないだろう。彼女の態度は彼らのことなど微塵も気にかけておらず、どこまでも他人事だった。
「話を戻そうか、ここにある爆弾の威力は事件で使われたものと同等だ」
「自爆するつもり?」
「まさか、そんなつまらないことはしない。私は自棄になってなどいないよ」
クロスミラージュを向けたまま、ティアナはムティナの一挙手一投足に目を光らせていた。何をするか予想の付かない相手には一瞬の油断が命取りになる。
「これは時限式でね、ここがゼロになったら爆発するんだ。なんとも分かりやすいだろう?」
爆弾の向きを変えると、電子時計のように数字が浮かび上がっている部分が見える。そして既にカウントは始まっていた。
「なっ!?」
「残り時間は三分を切った、あとはこれを…」
すると半壊して倒れていた数体のロボットが起き上がり、搭載されているブースターを吹かして飛び上がった。即座に動いたティアナがロボット達を撃ち抜いていく。しかしムティナに近づいた一体を守るように残りが身を挺して盾となる動きを取り始めた。
「惜しい、あと少しだった」
その一体に爆弾を投げ渡すと、爆弾を受け取ったロボットが屋根を突き破って夜空に飛んでいく。
「てめぇ!どういうつもりだ!」
「さっき飛んでいったのは方向からして街の方じゃないかな?このままいったら死人が出るだろうね」
警官からの怒号も気にすることなく軽く返してくる。自分のしたことをなんとも思っていない姿に周りは怒りを通り越して恐怖すら感じていた。
「被害を出したくないなら追いかけたるべきだ。まぁ、飛行能力がある者でない限り追っても無意味だろうけど」
「くっ!太田さん!」
「行ってくれ!ここはなんとかする!」
短いやり取りを終えるとティアナが爆弾を追って飛翔する。思い通りに事が運び、ムティナは笑みを深くした。
「いい子だ」
爆弾をティアナに任せ、源八達はムティナを取り囲む。用意していたロボットは全て破壊されており、彼女に打つ手はない。
「ムティナ・アーリア。一緒に来てもらうぞ」
「その時じゃないと言ったろう」
次の瞬間源八から少し離れた場所にいた警官が吹き飛んだ。理解が追い付かず目で音のした方を追うと、そこには掌打を放ったムティナの姿があった。
「まずっ!」
言葉を発していた途中でその警官も同じように吹き飛ばされる。細い身体から放たれる打撃の威力も大人の男性を掴んで投げ飛ばす腕力も、どう考えても常人の力ではない。それを見た源八はトゥテラリィに道具を提供したという話から一つの考えが浮かんだ。
「まさか…超人血清とかってやつか⁉︎」
「悪くない推理だね。でも残念、外れだ」
投げ飛ばされうずくまっていた後輩刑事が拳銃を構え、ムティナの足を狙って引き金を引く。しかしそれが分かっていたかのようにその場から飛び退くと、一瞬で距離を詰めて後輩刑事を蹴り飛ばした。
「おい!ぐっ!」
壁に衝突した後輩刑事の元に駆け寄ろうとするが、その隙を突かれた源八は片手で首を絞められながら持ち上げられる。
「私は捨てられた。だが、その代わりに手に入れたものもある。この器はその一つだ」
「何を…言って…」
暗くなりつつある視界の中で源八の瞳に映るのは、怒りとも取れる笑みを浮かべたムティナだった。
「嘗てとは比べ物にならない強靭な器、今の私は戦闘機人だ!」
時限爆弾を抱えて飛行するロボットは、先の戦闘により半壊していることからその進行が不安定であった。そんなロボットを追ってティアナがやってくる。
「もうっ!空戦は得意じゃないのに!」
彼女は空を飛ぶこと自体は可能だが、ミッドチルダで言うところの高速飛行魔法は得意ではなかった。今はもう吹っ切れてはいるが、過去にこのことがコンプレックスだったこともある。そのせいなのか前を飛行するロボットに半ば八つ当たり気味な苛立ちを向けていた。
(街はまだ少し先にある、高度・射程・射角的にも問題ない。あとは…)
「クロスミラージュ!爆発規模を予測!」
『yes, start predicting』
ティアナの呼びかけにクロスミラージュが応えると、即座に予測を終えてデータが送られてきた。
「爆発させるのにそれほど火力はいらない。なら!」
確認を終えてその場に滞空してティアナはクロスミラージュを構える。一度大きく息を吸うと、銃口に光が集まりだした。
「ここで撃ち落とす!ちょっと強めの…バレットシュート!」
集まっていた光が放たれ一直線に飛んでいく。光弾はロボットを貫き、見事爆弾に命中した。そして着弾と同時、夜空に爆発が巻き起こる。少しして辺りを照らした爆発が晴れ、残骸の落下もないことを確認するとゆっくりと息を吐いた。すると謎の相手から通信が飛んでくる。嫌な予感はするがティアナはそれに対応した。
『お見事だよランスター執務官。流石は元機動六課と言ったところかな』
映像にはロボットに抱えられ、空を飛んでいると思われるムティナが写っていた。逃走用に一体は残していたのだろう。
「あんた…まさか太田さん達を」
『安心したまえよ、死んではいない。まぁ、多分ね』
無意識に画面越しのムティナを睨みつけていた。見て分かる程、彼女に罪悪感など無い。
『来たるべき時がきたら喜んで捕まるさ。準備が済み次第私の居場所は君達に伝える、観客は多い方がいいからね』
「貴女…何が望みなの」
『そんなものは決まってる。私自身の破滅、それこそが私の望みだ』
心からその瞬間を焦がれているムティナは明らかに正気ではない。彼女は壊れてしまっている、そう感じざるを得なかった。
『急いだ方がいいんじゃないかな?今は大丈夫でも、長いこと放っておくと何人かは死ぬ。いや、もう無理だったりしてね』
そう言うと通話は切られた。先程とは打って変わって夜の静寂が辺りを包む空で、ティアナは拳を強く握る。激しい怒りが込み上げるが、今はその感情に支配されている場合ではない。険しい表情はそのままに、少しでも早くと風を切って倉庫へと向かった。
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