指定の位置に移動を終えたロボットへ本番前の最終調整を行なっている学生達と、そんな彼らの姿を後ろで見守るモデナ。そんな中、端の方で困惑したような表情で通話をしている学生がいた。それに気付いたモデナはその学生に声を掛ける。
「どうかしたのかい?」
「それが…ロボットの数が合わないと連絡がありまして」
「数が?」
「はい。なんでも予備としてラボに用意しておいた数体が無くなってるらしいんです」
話を聞いてモデナは首を傾げた。あのラボには関係者しか入れない筈であり、ラボから予備のロボットを移動させるといった話も聞いていない。だからと言って独りでに動くわけもないので、誰かが動かしたのは間違いないだろう。
「分かった、そちらは私が見てこよう。君は引き続き準備を進めてくれ。イベント自体は最終日だが開場は間もなくだからね」
「はい、お願いします先生」
学生に微笑んで頷くとモデナはその場を後にする。色々と謎だらけだが、ラボに行けば何かしらは分かるだろう。忙しそうな学生達に衝突しないよう間をすり抜けながら目的地に向かった。避けている最中に何度か躓きそうになるがなんとか耐える。昔から運動は得意ではなかったが、最近はいよいよ無視できないレベルで運動不足を感じている。麻帆良祭が終わったら少し運動でもしようと一人思うモデナであった。
『皆さま、大変長らくお待たせいたしました。只今より第79回麻帆良祭を開催いたします』
学園都市全体に開催のアナウンスが流れると同時に花火が打ち上がり、歓声と共に入場ゲートから数えきれない来場者達が歩いてくる。
「いや〜ついに始まったな」
「毎年思うけど、やっぱり凄い人の数だね」
一般客が入場してくる光景を少し高い場所から確認して正吉と純一が呟いた。元々有名な麻帆良祭だが、年々その来場者数は増加しているそうだ。括りとしては学園祭ではあるが、その規模は他に類を見ないものであることからもこの人気は当然と言えるかもしれない。二人の横で同じように見ていた祐の表情は非常に興味深そうだった。
「どうしたんだよ祐、えらく熱心に見てるな」
「いや、麻帆良祭ちゃんと見るのって久々だからさ。こんな感じだったかなと思って」
そこで正吉は昔を思い出すように腕を組むと視線を上に向けた。
「あ〜そういやお前、中等部の時は学校に来ないことが頻繁にあったもんな。あれ?今思い返してみると…中等部時代の麻帆良祭参加のご経験は?」
「ございません」
「この不良め」
「やめろよ、俺が札付きのワルってばらすのは」
「いやダサッ」
ふざけた様子で戯れ合う二人を見て純一は笑う。正吉の言う通り祐は中等部時代には学校をよく休んでいた。特に2020年の2月からはめっきり顔を見せなくなり、連絡さえ碌につかない程であった。
そんな状況が半年以上続くとあれは確か10月頃だったか、その日を境にふらっと戻ってきたのを覚えている。いなくなる前から親戚関係で色々あり、所謂家庭の事情というやつだと祐は周りに話していた。それ以上本人の口から詳しく語られることはなく、純一達もその様子から深く聞くことはしなかった。その後も度々いなくなることはあったが、長くとも1週間程度になっていたと思う。
「さ〜て高等部一発目、そんでもって初日だ。気合い入れていこうぜ!」
「ちゃんと上手く握ってくれよ正吉。お前が頼りなんだから」
「うちの出し物は寿司屋じゃないぞ…」
正吉の肩を叩く祐に純一は呆れながら言った。気にならないと言えば嘘になる。しかし大事なのは祐が無事に戻ってきたこと。本人が話さないと言うことはそれなりに理由があるのだろうと純一を始めとした友人達は祐を何も言わずに迎えてくれた。こうした優しい友人達に囲まれたことが、中等部時代の祐にとって何よりも幸運なことだったのかもしれない。
一般客が入場してから暫く経つと、各々が思い思いに麻帆良学園都市を観光していく。この都市の建物や景色は印象的なものが多く、それだけでも来場者の目を惹くのに充分であった。そうしていくと各クラスが行う出し物へと人が流れていく。来場者の数が多いのもあってどのクラスも大忙しだが、その中でも一際繁盛している場所があった。
「いらっしゃいませー!」
『1年A組!メイド喫茶へようこそ!』
笑顔と元気な声で来場者を迎えるA組。興味本位で教室を覗けば、なんとも見目麗しい少女達が可愛らしい服装で接客を行なっている。その姿に男性は勿論のこと女性も集まっており、あっという間に長蛇の列を作ったようだ。
「ご新規2名様で〜す!」
「へい、らっしゃい」
「ザジさん!挨拶が違う!」
「ご注文は何にしやしょう?」
「そのままいった⁉︎」
見た目が可愛らしい以外にも、まるでコントのようなやり取りが好評のようだ。因みにだが本人達にそんなつもりはない。
「うひゃ〜、いきなり凄い人数やねぇ」
「思った以上の反響ね。これは歴代最高売り上げも夢じゃないわ」
配膳を終えた木乃香と和美が装飾以外にも様々な改装が行われた教室を見ながら言った。この調子なら暫くは忙しい時間が続くだろうと考えていると、接客を行なっている真名と刹那に視線が止まる。対応されている女性客は二人に見惚れているようで、それを確認した和美がニヤリと笑った。
「なるほど、そっちのやり方もアリか」
「ん?どしたん?」
「ちょっとね。更なる顧客アップを狙えるかもしれない方法が浮かんだのよ」
「お〜、なんや面白そうやね」
「せっかくなんとか纏まったんだから、変なことしないでよ?」
同じく一仕事終えた明日菜が戻ってくると、不安になる会話を聞いて釘を刺した。今明日菜達がいる部分はバックヤードとして使われている。喫茶店となったA組の教室はどう見ても普段の教室には見えない内装で、リフォームしたと言われた方が納得できる程の変貌である。
もっと言うと室内の広さも明らかに変わっており、そこに関しては超達が何かしたという大変大雑把な説明しかされていない。しかしそこはA組、大半のクラスメイトは凄いな〜程度にしか感じていない。千雨のストレスメーターは振り切れまっしぐらである。
「つまんないこと言わないでよ明日菜、高等部一回目なのよ?色々とチャレンジしたいじゃない」
「おかしなことやりそうだから言ってんの」
「信用ないな〜、そんなこと言うと明日菜を売り上げアップの人柱にするわよ」
「どういう脅し方よ…」
するといい案を思いついたのか、和美が人差し指をぴんと伸ばした。
「取り敢えず一万以上使ったお客さんには明日菜の下着一枚プレゼントしよっか」
「嫌に決まってんでしょ!」
「大変や、急いで寮から持ってこな」
「やめろ!」
会話の途中で手を叩く音がした。三人がそちらを向くと、完成した料理を持った千鶴が厨房から出てくる。
「料理ができましたよ!さあ皆さん、お願いね」
「は~い」
「ごめんね那波さん。朝倉、アホなことは無しだからね」
「私は折れない女よ!」
「こいつしぶとい!」
料理を運んでいった三人を見送ると厨房に戻る千鶴。この時間帯の料理班が忙しなく動いている中、特にこの班の要である五月がその腕を振るっていた。
「流石ね五月さん、見惚れちゃうわ」
「恐縮です。でも好きなことですから」
笑顔で返しつつも作業の手が止まることはない。人気店である超包子の料理長を任されている五月にとってこの状況は慣れたものだ。
「私も微力ながら頑張らないと」
「微力なんてとんでもない。千鶴さんも素晴らしいものをお持ちです」
「あら、五月さんにそう言われると自信ついちゃうわ」
横に並ぶと千鶴も作業を始める。暫くそうしていると、珍しく五月の方から話し掛けてきた。
「千鶴さんは手先の器用さもありますが、何より相手に対する愛情がありますから。きっと手料理を振舞われる方は幸せだと思います」
それを聞いた千鶴は少しの間固まったが、すぐに笑顔になる。
「ありがとう五月さん。良いこと聞いちゃった」
そう言った後フロアに目をやると、ちょうど明日菜が料理を届けるところだった。
「お料理お待たせしました!」
「デスソースかけましょうか?」
「ザジ!余計なことすんな!」
今日はやけにボケをかますザジを横から来た千雨が引きずっていく光景を見て千鶴は苦笑い、五月は微笑んでいた。
一方焼き鳥を販売しているB組は教室ではなく、野外にテントを立ててその場で作業を行っていた。教室に換気扇はなく煙が立ち込めるので外でやるのは当然だが、A組には聡美が作った換気扇やダクトがあるので例外である。
メイド喫茶程の大混雑を起こしているわけではないが、それでもこちらも充分に忙しそうであった。現在表で作業をしている班の中に祐はいた。二人一組で同じ網を使っており、相方は楓だ。楓本人は認めないだろうが、B組内では祐と相性が良い人物の括りに入れられてしまっているのでこうなった。
「すみません、つくね二本ください」
「ありがとうございます!あったかいのと冷たいのありますけど」
「あったかいのしか出さねぇよバカ!蕎麦屋じゃないんだぞ!」
来場者にも普段の調子で対応する祐に世話を焼かされ、楓の仕事量は周りより多い。強めのツッコミは飛びつつも、律儀に反応してくれるのは彼女がなんだかんだで面倒見がいいからなのだろう。そのせいで祐が楓のことを気に入っているのはなんとも皮肉な話である。
しっかりと焼いてあるつくねを渡し、作業を再開する二人。横目で見ると、ふざけてはいても祐の手際はなかなかよかった。楓からすれば意外なことである。
「逢襍佗って普段料理とかするのか?」
「全然。でもまぁ、簡単な物ならできなくはないよ」
「ふ~ん。そういや毎日同じもん食べてるもんな」
「よく見てるね」
「毎日同じなら流石に気付くわ」
「これはお恥ずかしい」
「思ってないだろ」
かく言う楓もがさつそうに見られるかもしれないが、何を隠そう実家が呉服屋で礼儀作法がしっかりしている。それ以外にも和食限定ではあるが料理・裁縫などが得意な一面があった。
「話には聞いてたけど、蒔寺さんって器用だね。俺もういなくていいんじゃないかな?」
「さぼろうったってそうはいかないからな」
「下手に出たらこれか!」
「お前が勝手にやってんだろ!」
相変わらずの二人だが、やることはしっかりやっているのでなんとかなるだろうと周りは放置していた。そんな二人の少し先に一人の少女がやってくる。その少女はこちらに視線を向けると笑顔で手を振り駆け寄ってきた。愛嬌のある可愛らしい少女だ。麻帆良学園の制服は着ているが楓は初めて見る顔なので横の祐を確認する。少女に気付いた祐が笑顔を浮かべたことからやはり彼の知り合いなのだろう。
「祐!おつかれ~!」
「いらっしゃい梨穂子。幼馴染一番乗りだな」
「ほんと?やった~」
本当に嬉しそうな顔をする梨穂子。先程の会話からA組以外にも異性の幼馴染がいたのかと楓は無意識に彼女の顔をまじまじと見つめる。それに気が付いた梨穂子は慌てた様子で頭を下げた。
「あっ、初めまして!一年C組の桜井梨穂子って言います!祐とはあの、幼馴染でして!」
「あ、ああ…どうも。蒔寺楓です」
緊張しているのか早口で自己紹介をする梨穂子に呆気にとられた。その様子を祐は優しい顔で見ている。
「落ち着け落ち着け、蒔寺さんは梨穂子を取って食ったりしないよ」
「当たり前だろ!」
ふと見ると祐と楓のやり取りに梨穂子は笑っている。なんとも棘がない、人畜無害をその身で表しているような子だと楓は思った。
「楽しそうでよかった。それじゃ、焼き鳥くださいな!」
「今ここにある全部だろ?ちょっと待っててな」
「そんなに食べられないよ⁉」
「遠慮するなよ、初対面の人がいるからって」
「遠慮じゃないよ~!」
「気にしなくて良いんだぞ、梨穂子はそのままで。梨穂子の体型、ナイスだと思う」
「も~、またそんなこと言って」
如何にも仲の良さそうな雰囲気を醸し出す祐と梨穂子。異性のどころか幼馴染というものがいない楓にとって一般的な幼馴染の距離など分からないが、それにしても二人の距離は近いものに見えた。祐のと言うことは純一の幼馴染でもあるのだろうが、彼もこんな感じになるのだろうか。なんと言うか、とても空気が甘ったるい。
(な、なんだこの空気…口から砂糖吐きそう…つか逢襍佗のやつ私達への対応となんか違くないか)
言ってしまうとカップルのいちゃつきを見せつけられているような気分だ。二人がそういった関係かの判断はできないが、少なくともお互い相手を憎からず思っていることだけは分かる。正直何故だか面白くない。
「うおっ!どうしたの蒔寺さん⁉チベットスナギツネみたいな顔してるよ!」
「なんだよそれ!分かりづらいな!」
梨穂子から楓に目を向けると、今までに見たこともない表情をしていたので祐が驚いた声を上げる。チベットスナギツネは伝わらなかったようだが、楓はいつもの調子に戻ったのでいいだろう。
「はい、お買い上げありがとう。よく噛むんだぞ、いつも呑み込むの早いからな」
「それはちっちゃい頃の話でしょ。今はちゃんとゆっくり食べてます」
「ならばよし。ではまた会おう」
「はい教官!」
楓がよく言えば味のある表情をしている間に買い物は終わっていたようだ。祐が敬礼をすると梨穂子もビシッと敬礼を返した。慣れた様子だが二人の間では恒例のものなのだろうか。そこで何かを思いついたのか、梨穂子は敬礼を解いて話し始める。
「あっ、そうだ。祐は今日ってこの後予定ある?」
「いや、午前の担当が終わったら今日はない。なんかあるの?」
「なら今日は私と麻帆良祭見て回ろうよ!祐は初等部以来でしょ?私が案内してしんぜよう」
胸を張って自信を見せる梨穂子に祐は驚愕していた。
「こんな慣れた感じで男を誘うなんて…いつからそんなはしたない子になったんだ!俺は嬉しいぞ!」
「ただ見て回ろうって誘っただけでしょ⁉︎」
「嬉しいのかよ」
先程と同じ顔になっている楓。ツッコミが飛ぶあたり話はしっかりと聞いているようだ。
「俺はありがたいけど、梨穂子はいいのか?クラスの仕事もあるだろ」
「今日1日は何もないんだ〜。だから大丈夫!」
そうなれば祐としては断る理由がない。実際麻帆良祭がどんなものなのかあまり覚えていないのに加え、梨穂子と何かするのも久し振りだ。従って願ってもないお誘いを受けることにした。
「なら是非お願いしようかな。13時には終わる筈だから」
「うん、任せて!終わったら連絡してね。それじゃ、またお昼過ぎに!」
購入した焼き鳥を抱えながら手を振って去っていく梨穂子に振り返し、祐は腰に手を当てて一息ついた。
「よし、それじゃ引き続き頑張るか」
「混んできたんだから早く焼けよ」
「えっ、急に冷たい」
「は〜、午前はなんとか乗り切った〜」
「ガラガラよりはよっぽど良いけど、こんな忙しいとはね」
「でもこの後はフリーだね!」
午前の部を終えて暫しの休憩に入ったA組。チア部の三人は今日の担当は終わったので、この後祭りに繰り出す予定だ。
「まずどこ行こっか?」
「んじゃここは桜子大明神に導いてもらおうか」
「いいでしょう!私にお任せあれ!」
候補が多すぎて決められない時には桜子に任せておけば面白いところに連れて行ってくれるので、美砂と円は彼女の気まぐれに頼ることにした。ある意味強い信頼である。
制服に着替えた三人は外を歩く。360度どこを見ても賑やかで目を惹くものばかりだが、先頭を歩く桜子は迷うことなく進み続ける。
「どう桜子、何かありそう?」
「うん!こっちから面白そうな気配がする!」
「これで本当に大抵は行き当たるんだから、この子って超能力者なんじゃないの?」
「私もついに超能力者の仲間入りか〜。超能力少女桜子ちゃん!」
「ノリノリじゃん」
会話しながら歩いていると桜子が足を止めたので、それに倣って二人も立ち止まる。
「おっ、見つけたかな?」
「あそこ!逢襍佗君発見!」
言葉通りそこにはこちらに背を向けて立っている祐がいた。彼の背の高さから人が多い今もその姿はしっかりと確認できる。
「ほんとだ」
「まぁ、確かに面白い存在ではあるわね」
「なんか失礼なような…分かるけど」
美砂と円がそんな話をしていると桜子が祐に向かっていこうとする。
「せっかくだから逢襍佗君も連れてこうよ!おーいあま」
「ちょっとストップ!」
駆け出した桜子の身体へ後ろから抱きつくのと同時に手で口を塞ぎ阻止した美砂。突然の行動に円は面食らった。
「えっと…何やってんの?」
「静かに!あれ見て」
口を塞いでいた手を離してある方向を指さす。二人がその指先を視線で追っていくと、そこには祐に手を振りながら歩いてくる人物がいた。言わずもがな梨穂子である。
「おまたせ〜」
「おう、待ったぞ。なんか奢ってくれよな」
「予定より5分前に来たのに⁉︎」
「俺の楽しみな気持ちには勝てなかったようだね」
「祐はいつも早すぎるんだよ〜」
「自分、我慢できない男ですから」
会話する祐達を三人は凝視していた。少し距離があるので会話の内容までは聞き取れないが、どう見ても他人の関係ではなさそうだ。
「誰あの子⁉︎B組の子じゃないよね!」
「B組だったら私達も見てるし、あの子は間違いなくいなかったはずよ…」
「でも着てる制服は麻帆良学園だね」
「も、もしかして…」
そこで三人は顔を見合わせる。お互いの顔を見て、ふと出てきた予想が同じ物であるとその瞬間確信した。
「「「逢襍佗君の彼女⁉︎」」」
祐と少女の距離間は明日菜達幼馴染組に対するものに勝るとも劣らないほどの近さに思える。それだけ距離が近いとなれば、特別な関係であると想像するのは当然なことかもしれない。
「そんな…明日菜達幼馴染組じゃなく、別の相手がいたとは…」
「もしそうなら、これはとんでもないダークホースの登場ね…」
「ひどい!やっぱり私達とは遊びだったんだね!」
「いつ私達が付き合ったのよ…」
「超りんも泣いてるよ!」
「本人が付き合ってないって言ってたでしょうが」
実際恋人かどうかは分かるわけもないが、美砂と桜子の中ではもう恋人として話が進んでいるようだ。すると祐達が歩き出した。
「二人が動いたよ!」
「そんじゃ私達も」
「えっ⁉︎ちょっと!もしかしてつけるつもり⁉︎」
困惑している円の方を美砂が勢いよく掴んだ。
「当たり前でしょうが!このまま見て見ぬふりなんてできないわ!徹底的に証拠を押さえるのよ!」
「なんの証拠よ⁉︎」
まるで浮気現場を目撃したかのような物言いだが、祐は仲の良い異性はいても不特定多数の女性と付き合っているわけではないので浮気も何もないと思う円に桜子が聞いてきた。
「円は行かないの?」
「……行きますけど」
「よし!早速後をつけるわよ!」
「お〜!」
やる気充分な二人になんだかなぁと思いつつ、好奇心には勝てない円であった。
まずは辺りを見て回ることにした二人。祐は忙しく周囲に目を配っており、そんな姿を見て梨穂子は笑った。
「なんだかこうやって遊びに行くのも久し振りだよねぇ」
「確かに。随分前のことだったっけ」
相変わらず視線が行ったり来たりしている祐に梨穂子は少しだけ不満げな顔をした。
「祐ってば最近明日菜ちゃん達とか純一達ばっかりで、全然私にかまってくれなかったもんね〜」
「あ~、そんなこと言っちゃう?梨穂子こそちょっと前に明日菜達と遊びに行ったって聞いたぞ、俺に黙ってな!」
「あ、あれは女の子だけでって話だったから…あっ!それなら祐だって純一とリトと遊んだんでしょ!私にないしょで!」
「ちょっとなんのことか分かんないな…」
そう言った時の祐の仕種を見逃さず、勢いよく人差し指を突きつけた。
「はい!嘘ついてる!嘘つくとき視線逸らせる癖あるもんね!」
「やめろよ!そうやって嘘を見抜くのは!よくないぞ!」
「まず嘘つくのがよくないんじゃないかな…」
「今そんな話してない!」
「してたでしょ!?」
言葉だけ切り取ると言い合いをしているように感じるが、二人の様子を見ていると気心の知れた関係だと分かる。物陰からその光景を見ていた美砂は悔しそうな様子であった。
「い、いちゃいちゃしやがって…校内で破廉恥だと思わないの!」
「あんたブーメラン投げるの上手かったのね」
「二人とも仲よさそ~。やっぱり恋人なのかな?」
聞いてきた桜子に円は腕を組んで難しい表情を返した。
「仲が良いのは間違いないけど、逢襍佗君って特に親しい人とは男女関係なくあんな感じだからなぁ…正直まだ分からないわね」
「確かに!じゃあ引き続き監視を続けよう!」
再び尾行を行う三人の少し後ろ、そこには聞き耳を立てている風香と史伽がいた。
「聞いた?」
「聞いちゃいました」
目を合わせると、大きく頷く二人。
「これは僕達も行くしかないよね!」
「異議なしです!」
「ふむ…本当に何体かなくなっているね」
「はい、何回も確認したので数え間違いではないと思います」
あれからラボに向かったモデナは学生と話していた。辺りを調べたがラボにこれといったヒントになるような痕跡は残っておらず、正直言って手詰まりの状況である。
「監視カメラは…入口の廊下までだったかな?」
「仰る通り、室内には付いていません。因みに廊下の監視カメラにも変わったものは映っていませんでした」
「やれやれ、誰の仕業にしろ本番前に面倒なことを」
「設置していた本番用のものでなかっただけ、不幸中の幸いだったかもしれませんね」
モデナはため息をつく。予備とは言ってもロボットが突然見当たらなくなったとなれば生徒達も不安に思うだろう。大事な時にそんなことをするのはいただけない。どんな目的であれ、そうした相手には早々に白状して生徒達に謝罪してほしいものだ。
「今からでもできる程度にだが、セキュリティをもう少し強化しておこう。それ以外もこの件に関しては私が担当する。気にはなるだろうが、君達は作業に集中してくれ」
「いいんですか?」
「任せたまえよ。今回のイベントは君達にとってせっかくの舞台なんだ、可能な限りサポートさせてほしい」
「ありがとうございます先生!」
「とんでもない」
頭を下げる生徒に笑顔を向けるモデナ。今はまだ気が付いていないが、そんな彼女の使用する業務用のメールアドレスに一件の短いメッセージが送られてきていた。
『お楽しみはこれから』
一番好きな章は?
-
序章・始まりの光
-
幽霊と妖怪と幼馴染と
-
たとえ世界が変わっても
-
消された一日
-
悪魔よふたたび
-
眠りの街
-
旧友からの言葉
-
漢の喧嘩
-
生まれた繋がり