「いらっしゃ…あっ、純一君!来てくれたんやね!」
「どうも木乃香、おじゃまします」
午後になり再び開店したA組のメイド喫茶に純一と正吉がやってくる。偶然接客を担当した木乃香が嬉しそうに笑った。
「えっと、後ろの人は…梅原君や!」
名前を呼ばれると思っていなかった正吉は内心驚きながら返す。
「おっ、嬉しいね。まさかA組の子に名前を覚えてもらってたとは」
「祐君から沢山お話聞いとるよ、いつも祐君と純一君がお世話になっております」
お辞儀をする木乃香を見て正吉は感激している様子だった。そのまま正吉が純一の肩に手を乗せる。
「大将…俺は初めてお前達に感謝してもいいって思ったぞ」
「ノーコメントで…」
「さぁさぁ、せっかく来てくれたんやからゆっくりしてってな」
そうして木乃香に席まで案内される二人。華やかな光景に、ここが自分達の教室の隣だということを忘れてしまいそうになる。
「お決まりになりましたらこちらのボタンをポッチっとお願いします」
「うん、了解」
「ほなまた~」
一息ついてメニューを開く純一だが、気付くと正吉から恨めしそうな視線を受けていた。
「…えっと、何か?」
「祐の陰に隠れてたが…橘、俺はお前のことも許してはいけないのかもしれない」
「なんだよ急に」
その言葉に正吉は前のめりになる。それだけ鬱憤が溜まっているようだ。
「だってよぉ!あんな可愛い幼馴染が何人もいるんだろ!?これを羨ましいと思わない男がいるか!いや、いない!」
「自己完結するなよ…」
興奮気味の正吉だったが、ふと前を通ったアキラに目を奪われて彼女を凝視する。忙しい奴だと呆れたのも束の間、釣られて見た純一も目を奪われた。
「なんだここは…ずっと居たい…」
「どれだけ粘れるか…限界までやるしかなさそうだね…」
「おバカなことを言っていないで注文を決めてください」
後からの声に勢いよく振り向く純一と正吉。声を掛けてきたのはあやかだった。
「な、なんだあやかか…脅かさないでよ」
「純一さん。貴方も私の幼馴染なのですから、どうかそれに恥じることのない行動を心掛けていただきたいですわ」
有無を言わさぬ圧を感じて純一は素直に頷く。
「肝に銘じておきます…」
「くれぐれも祐さんのようにはならないでくださいね。フリではありませんわよ」
そう言ってその場を後にするあやか。難を逃れてほっとした純一に別の相手が声をかけてくる。
「おっす純一、いらっしゃい」
「ああ、明日菜。お疲れ様」
「来たからにはしっかりお金落としていってよね」
「勘弁してよ、僕はしがない一般学生なんだから」
「あはは!ごめんごめん、それじゃごゆっくり」
明日菜との軽い挨拶を終えて向き直ると、先程よりも鋭い視線の正吉がいた。
「橘…やっぱりお前腹を切れ」
「なんで!?」
バックヤードで待機をしているハルナ・のどか・夕映の三人は、なぜかついている監視カメラで教室内を見ていた。
「あの方はどなたでしょう?木乃香さん達と親しそうでしたが」
「あ~、たぶん幼馴染の人じゃないかな。祐君以外にも男の子の幼馴染二人いるって言ってたし」
モニターを見ながら雑談をしていると、のどかが思い出したように呟く。
「そういえば逢襍佗さんまだ来てないよね?」
「言われてみればそうですね。てっきりいの一番に来るものだと思っていました」
「楽しみは最後まで取っておきたいんだって。溜めて溜めて後に爆発させるって言ってた」
「何を爆発させるつもりなのですか…」
「リビドーとか?」
「それを爆発させられると大問題になります」
苦笑いを浮かべるのどかだったが、ハルナの発言に気になるところがあった。
「逢襍佗さんにいつ聞いたの?」
「一昨日。いつ来るのってラインで聞いたらそう言ってた。一応私達のいる時間帯も教えといたわ」
「個人的には逢襍佗さんになら別にいいですが、教えていいものなのでしょうか?」
「いいでしょ、祐君だったら。どうせ来てくれるなら私達がいる時に来てほしいし」
三人の会話を聞いていたのか、配膳を終えた裕奈が顔を出す。
「んじゃパル、もし逢襍佗君からこの時間に行くよって連絡あったら私達にも教えて」
「いいけど…なんで?」
聞かれた裕奈は悪い顔をする。それを見て夕映とのどかは碌なことではないだろうと思った。
「逢襍佗君の懐を寒くさせるとっておきの作戦を考えてあるのよ。きっと逢襍佗君も喜んでくれるわ」
「…なかなか面白いじゃない。私も乗らせてもらおうかしら」
「こちらは最初からそのつもりですぜ」
同じように悪い顔をするハルナ。どうやら自分達が与り知らぬ間によくない計画が練られていたようで夕映は呆れた。
「な、何するつもりなんだろう…」
「分かりませんが、きっとしょうもないことだと思います」
(逢襍佗さんにはこっそり警告しておいた方がいいかもしれませんね)
時間ができたら祐にラインで一報入れておいてあげようと心の中で思う夕映であった。
「やっぱいくらなんでも飛行機飛んでんのはおかしくね?学校行事のレベルじゃないって」
「今更何を言うとんねんカミやん。
「まったくだ。世界広しと言えど、ここより愉快奇天烈なところなんぞそうないって街に四年間も住んでるやつの台詞じゃないぜよ」
見上げる空では航空機がアクロバットショーを行っており、当麻は一人遠い目をしていた。そんな当麻に返事をしたのは元春ともう一人。180の長身で何より目を引くのは青い色の髪、それに加えてピアスを付ける風貌は一度見るだけでも印象に残るものだ。彼は当麻達1年D組所属の生徒で周りからはそのまま『青髪』または『青髪ピアス』と呼ばれている。何故か誰にも本名で呼ばれていない。
「いや、そうだけどさ…おかしいものはおかしいと言うべきだと俺は思うんだ」
「今はこんな時代だぜカミやん。何が正しくて何がおかしいのか、その境界は酷く脆いもんだ」
「きゃ~!土御門君決まっとるで!決まり過ぎて今すぐその顔に拳を叩き込みたいぐらいや!」
「よせよ、この土御門様がイカしてるからって」
「よし、俺も手伝うぞ青髪。一緒にこいつを倒そう」
「2対1か⁉︎卑怯者どもめ!」
戦闘態勢をとる三人だったが、青髪がその時何かを発見する。
「あれ?あの忘れられぬ後ろ姿はアマやん…ああっ⁉︎」
「なんだよ急に変な声出して」
「おい!カミやん!あれを見ろ!」
青髪と元春が驚愕した顔で指さす方を向く当麻。言葉の通りそこには祐の姿が確認できたが、なぜ二人がこんな表情をしているのかもすぐに分かった。
「じょ、女子と一緒だと…!」
「なんやあれは!あんなんまるで学園祭デー」
「よせ!青髪!それ以上は言うな!」
「せやかて土御門!あの今にもぶつかりそうな肩の距離は!」
「言うんじゃねぇ!」
「あ〜ん!」
止まらぬ発言を阻止する為に元春のビンタが飛び出し、気色の悪い声を出して青髪が大袈裟に倒れる。どうでもいいが、倒れた姿勢が俗に言うセクシーポーズなところも気色の悪さに拍車をかけていた。
「俺のデータによると、あのお嬢さんはA組でもB組でもないな…」
「なんで土御門がそんなことを知っているのかはさておき、まさかあの祐が…」
彼のことを以前から知っている当麻達は戸惑いを隠せなかった。彼が親友なのは間違いないが、それにしてもあんな変人に恋人ができるなど想像もつかない。何気に酷いことを考えている気がするも、普段の行いが積み重なった結果なので仕方がない。
「嘘や!アマやんは…アマやんだけは僕を裏切らへんと思っとったのに!」
「裏切るとはいったい」
「こうしちゃいられないにゃ~。なんとしてでも後をつけて」
言葉の途中で元春が別の何かを見つける。それは祐達に少し後ろの距離からついていく美砂達三人、とその更に後ろをつけている鳴滝姉妹だった。遠くから観察するとなんとも奇妙な光景である。
「なんだありゃ?どういう状態なんだ?」
「アマやん達の行方が気になってるのは、どうやら俺達だけではないようだな」
当麻と元春が会話をしている間に、気が付くと青髪も後をつけ始めていた。ただ気のせいか、その視線は祐達と言うよりは鳴滝姉妹に向けられているような気がする。
「なんて行動の速さだ…!完全に出遅れたぜい!」
「あいつの追跡対象、絶対後ろの女の子だろ」
一人ラボで作業をしているモデナ。メールに謎の文章が届いているのには気が付いたが、迷惑メールの類だろうと特に気にかけることはなかった。ラボの入り口に背を向けてパソコンを操作していると、ゆっくりとドアが開く音がする。学生が来たのだろうかとそちらに目を向けるが、立っていたのは知らない女性だった。いや、よく見てみると詳しくは思い出せないがどこかで見た気がする顔だ。しかしそれよりも気になるのは、その女性がこちらに鋭い視線を向けていることである。
「えっと…」
「こんなとこにいるなんてね…ここで何をするつもりなの?ムティナ・アーリア」
その名前を呼ばれた瞬間モデナの顔が驚愕と共に青くなる。その名前を知っている人間はここには居ない筈だ。それに少なくともこの次元で知る術などない。
「ど、どうしてその名前を」
言いかけているところでモデナの口は止まる。目の前の女性が拳銃と思われる物を突きつけてきたからだ。
「もう余計なお喋りはなしよ。2回も誘い出されるなんて癪だけど、今度は絶対に逃がさない」
今起こっていることに理解が追いつかない。しかし女性の持つ拳銃、印象的な服装から記憶の片隅にあった名前が出てきた。
「まさか…君は、ティアナ・ランスターか…?」
困惑するモデナの姿に訝しげな表情を見せるティアナ。その時ラボに残っていたロボット達が突然動き始めた。
「なっ!どうして⁉︎」
勝手に動くプログラムなど搭載してはいないはずだ。しかし現にロボットは稼働を始め、あろうことかティアナに襲い掛かった。
「汚いマネを!」
横に回転しながらロボット達を避けると、即座にクロスミラージュで撃ち抜いていく。突如として戦場となったラボでモデナは眩暈がして頭を抱えた。
「いったい何が起きてるんだ…」
「嗾けといて何言ってんのよ!」
「ち、違う!私はこんな…!」
その時たまたま目に留まったパソコンの画面に文章が現れる。
『その女はお前を殺すつもりだ。そこから逃げろ』
見えた文章に恐怖を煽られる。確かにティアナの目は怒りに満ちており、自分を殺しにきたと言われても納得できるものだった。なぜ彼女から追われなければならないのか分からないが、今は一刻も早くティアナから遠ざかりたいと思うのは当然のことだ。すると窓ガラスを突き破り、新たにロボットがラボに入ってきた。そのうちの一体がモデナに手を差し伸べる。得策ではないかもしれないが、恐怖に見舞われた彼女はその手をとるしかなかった。
ロボットはモデナを抱えるとラボから飛び立とうとする。それを見たティアナは他の機体からの攻撃をいなしつつ、後ろを向いたロボットの背中に小型の装置を投げつけた。装置は張り付き、モデナと共にロボットは破壊された窓から飛んでいく。それを横目で確認しながら、クロスミラージュを構え直した。するとその銃口とグリップ部分の両方からオレンジ色のビーム刃が出現する。
「まずこの場を鎮圧する。そして…あの女を捕まえる!」
大通りを歩く祐と梨穂子。その手はこれでもかと言うくらいに食べ物で溢れていた。
「そんなに買って大丈夫?」
「何言ってんだよ、お祭りだぞ梨穂子。ここはパーっと使うべきところだ」
「どちらかと言うとお腹の方を心配してるんだけど…」
「なら余計に心配ない。俺の胃袋は…宇宙だ!」
「それって何かの台詞?」
「えっ!これ知らねぇの⁉︎」
そんな会話を続けながら二人は取り敢えず座れる場所を見つけて腰を下ろす。用意されたテラス席は昼時のピークを過ぎたからか、それほど混雑はしていなかった。
「そんじゃまずは腹ごしらえといきましょうか」
「は〜い!いただきま〜す!」
手を合わせて少し遅めの昼食を始める。幼い頃はよくこうして食事を共にしていたものだが、今となっては懐かしく感じた。
「相変わらず美味しそうに食べるね」
「いや〜、梨穂子さんには負けますよ」
「ふふん、ここに関しては祐にも簡単には負けてあげないよ」
得意げな顔をする梨穂子につい笑顔になる。祐にとって梨穂子を始めとした幼馴染は日常の象徴のような存在だった。彼ら彼女らと居られるのはそれだけで意味のあることだ。
「よかったよ、祐も楽しく過ごせてるみたいで」
「どうした急に。俺の学園生活が上手くいってなさそうだった?」
「そう言うわけじゃないけど…ほら、最近忙しかったでしょ?」
「あぁ…まぁね」
言葉は少なかったが梨穂子の言わんとしている事は分かる。幼馴染の中でも彼女は特に今祐が置かれている状況を心配していた。
「もちろん全部知ってるわけじゃないけど、祐がすごく頑張ってるってことは知ってるよ」
「んなことないよ。それなりぐらいだ」
「もう少し、自分のこと認めてあげてもいいんじゃないかな」
食事の手を止めて視線を梨穂子に向けると目が合った。どうやら少し前から真っ直ぐ見つめられていたようだ。
「危ないことを沢山してたのは…最近まで知らなかった。でも、いつだって祐は一生懸命だったよ。できることを精一杯やろうってしてた」
「…かもね」
認めることに気乗りはしないが否定するのも違う気がした。いつも起こった問題をなんとかしようとしていたのは本当のことだ。たとえ結果が褒められたものではなくても。
「正直言うとね、ずっと心配だったんだ。8歳の時から…実は今も」
力のことを伝えたところで彼女の自分に対する不安が取り除けるとは思っていなかった。寧ろより心配を掛けることになるだろうと考え、言うのは直前まで躊躇っていた。結果としては伝えることを選んだが、それが正しかったかはこの瞬間も祐の中で答えは出ていない。
「だけど今日祐がクラスの人達と話してるの見て、ちょっと安心した!だって祐、本当に楽しそうだったから」
「うん、楽しいよ。楽しすぎて…戸惑うくらいには」
「ずっと頑張ってるんだもん。少しくらい楽しいことがないと不公平だよ!だから祐は、もっと楽しんでいいって思う」
笑顔を向けられ祐は頭を掻いた。そのあとため息をつくと肘をテーブルに置いて少し前のめりになる。
「やっぱり君らは優しすぎるって。そんなんじゃ俺が甘やかされて育っちゃうぞ」
「祐が自分に厳しすぎるの。だから、せめて私達が優しくしてあげないと」
「ちょっと見ない間に手強くなってるな…昔は簡単に言いくるめられたのに…」
「誰かさんに鍛えられたからね。とにかく、祐も今は麻帆良祭を思いっきり楽しむこと!」
「まぁ、そうだね。今の俺の最優先事項だ」
そこで二人は食事を再開する。あれだけあった食べ物も終わりが見えてきた。会話を挟みながらだとあっという間で、食べ終わるのにそう時間は掛からなかった。
「次はどこ行こっか?」
「そうだなぁ、梨穂子のおすすめは?」
「茶道部の野点は明日だから、ちょっと待ってね」
ポケットからパンフレットを取り出して確認する。いくつか丸が付けられているようで、恐らく前もって候補を絞っていたのだろう。
「そういや茶道部に入ったんだっけか。どうよ、そっちの方は」
「結構楽しいよ!先輩も優しいし、あと同学年の子もすっごくいい子でね」
「その子って茶々丸か?」
「あれ?茶々丸ちゃんのこと知ってるの?」
梨穂子は意外そうな顔をした。しかし祐とA組はなにかと縁があると明日菜達から聞いていた気がするので、茶々丸もその一人なのだろうか。
「よく知ってるよ。なんたって三年間一緒に…」
言葉の途中で祐が固まる。梨穂子は首を傾げるが、よく見ると祐の視線は自分の後ろに固定されているようだった。そんな彼の視線の先にはこちらを見つめている三つのグループがいた。チア部三人娘、その後ろに鳴滝姉妹、更にその後ろに当麻・元春・青髪の誰が呼んだかDクラスの
チア部と鳴滝姉妹はわかるが、そこに三バカとなると纏まりがない組み合わせである。それに加え何故だか分からないが、全員がサングラスをしている。元春は常日頃からサングラスをかけているが他の者はいったいどこから持ってきたのだろうか。
「えっと…祐?」
「梨穂子、後ろ見てみ」
言われた通りに振り向くと、それぞれ席は離れているがサングラスをかけた集団がこちらを見ている。思わず驚きで肩が跳ねた。急いで姿勢を戻すと顔を近づけて小声で話し始める。
「だ、誰!?」
「落ち着け、全員身元は割れてる。ここは俺に任せんしゃい」
「なんだか不安なんだけど…」
その頃視線を逸らせる為かサングラス集団が後ろを向くと、三バカ以外は自分達の後ろに同じような集団がいることに驚いていた。その様子を見るにお互いの存在については知らなかったようだ。
「誰!?って…ああ、風香と史伽か」
「その後ろは?」
「え?…ほんとに誰!?」
美砂達がそんな反応をしていると、自分達の後ろにいた当麻達の席に風香が向かっていった。史伽は恐る恐るついていく。
「この人達見るからに怪しいぞ!まさか僕達をつけてたのか!」
「お、お姉ちゃん…」
「いやそっちも充分怪しいだろ!あと誓って言うが君らをつけてたわけじゃない!少なくとも俺は…」
一人に関してはその部分が怪しいので、当麻の言葉尻は弱かった。
「お嬢さん…もっと近くでお話ししようや…」
「なんだこいつ!?」
「おい青髪!黙ってろ!」
当人を置いてややこしくなっている状況に思うところはあるが、全員の知り合いである自分が行くべきだろうと梨穂子に断ってから祐は席を立った。
「そこの不審者集団、神妙にせよ」
「くそっ!見つかった!」
「隠れる気があったことに驚きだわ」
まばらに人が居たとはいえ、普通に席に座ってこちらを見ていたようにしか思えなかったが本人達は群衆に紛れているつもりだったようだ。
「色々と聞きたいことはあるけど、まずはこの場を収めよう。お先にこちらは一年D組で中学時代からの俺の友人っす。そんでもってこっち、一年A組の生徒さんだ」
間に立ってそれぞれの紹介を行うと、僅かではあるが相手への警戒心は薄れた様である。そんな中でも一人だけいつも通りな桜子は大きく手を上げた。
「は~い!じゃあ私から質問!」
「その前に俺の質問に答えたまえ」
「な~に?」
「お前ら何しとったんじゃ」
「逢襍佗君の浮気現場調査!」
「アマやんの浮気男!」
「誰が浮気男だ!そもそも彼女がいねぇわ!……言わせんなこんなこと!」
彼女がいないと言った瞬間に憐みの目を向けられたのはなんとも癪である。それを言うならそちらも彼氏・彼女がいないだろうと喉まで出ていたが、寸前のところで押しとどめた。言ってしまった後のことを考えるとファインプレーである。
「じゃあ、そちらはどなたさん?」
「ただの友達ってわけじゃないんだろ?」
「さぁ!吐け!」
急に息が合いだしたサングラス集団に白い眼を向けつつ、祐は梨穂子を手招きした。少し駆け足で梨穂子が隣にくる。
「この子は桜井梨穂子。一年C組で俺の幼馴染の一人だ」
「は、始めまして…」
視線が集中し、恥ずかしそうに梨穂子がお辞儀をした。それを見ていた周りは驚いた顔をしている。
「えっ、明日菜達以外にも女の子の幼馴染がいたの?」
「いますね」
「明日菜達からも聞いてなかった気がするけど」
「梨穂子は純粋無垢だから、きっとA組の人達には近づけたくなかったんじゃないかな」
「どういう意味だ?あん?」
「暴力反対…」
胸ぐらを掴む美砂から必死で顔を逸らす祐。実に情けない姿である。
「水臭いやないかアマやん。僕らにも黙っとったなんて」
「お前らだからこそ黙ってたんだよ」
「あん?」
「暴力反対…」
青髪にも胸ぐらを掴まれておかしな姿になっている。暫し呆気に取られていた梨穂子だったが、祐達の雰囲気を見て優しい笑顔を浮かべていた。
「てことは明日菜達とも幼馴染なんだよね?あっ、初めまして!椎名桜子です!」
「あっちの人達は置いておいて、私は釘宮円。よろしくね、桜井さん」
「はい、初めまして!皆さんの話はよく聞いてますよ」
「そうなの?いやぁ、照れますなぁ」
(たぶん変人集団だって聞かされてるんだろうなぁ…)
クラスの中で比較的常識人な円は、A組が周りからどう思われているかを客観的に見ることができる人物だった。実際梨穂子は幼馴染から変わった人が多いけど、悪い人はいないと聞かされていた。
「おっすおっす!僕は鳴滝風香!」
「鳴滝史伽です」
「可愛い〜!二人はいくつなの?」
「…今年16だけど」
「あっ、ごめんね!そうだよね!」
「お約束頂いたわね」
改めて各々が自己紹介をしている最中、気付けば祐達は押し合うなどの小競り合いを始めていた。その中に美砂も混じっているのがなんともアンバランスである。
「そんなんだから浮気されるんだぞ!」
「うるせぇ!」
「アイッ!」
「よく分らんが、たぶんそれは言っちゃ駄目なやつだぞアマやん」
美砂からのビンタを受けて祐がうつぶせに倒れる。美砂と元カレの事情など元春達が知っているわけはないが、彼女の反応からなんとなく察した。
倒れた状態から芋虫のように地面を這って梨穂子がいる場所に避難する祐。女性陣はその動きに引いていた。
「キ、キモい…」
「キモいと言うな。ったく乱暴な奴らだ…梨穂子、なんとか言ってやってくれ」
突然振られたことに動揺するが、少しして周りの人物達を見回すと口を開く。
「あの…祐って普段はふらふらしてる感じですけど、実はとっても危なっかしい人なんです。ですから、えっと…これからも仲良くしてあげてください」
そう言って頭を下げる梨穂子を黙って見つめる一同。暫くして祐以外の全員が背中を向けて小声で話し始めた。
「めっちゃいい子じゃない?」
「繕ってるわけじゃなくて、本心で言ってるような気がするよ」
「明日菜といいんちょ、木乃香と桜井さんって考えると結構バランス取れてるのかもね」
「野蛮組とのほほん組ってこと?」
「二人に聞かれたらしばかれるわよ」
「やっぱり野蛮じゃん」
「おいおい、なんだあの子は…あんないい子が現実に存在してたのか」
「だな。眩しくて直視できねぇよ」
「いくらなんでも、アマやんには勿体なさすぎるわ」
「おい、俺には聞こえてるからな」
梨穂子には話の内容が聞こえておらず不思議そうな顔をしているが、祐はしっかりと会話を聞いていた。すると元春と青髪が姿勢を正して梨穂子の前にやってくる。
「どうも、僕はアマやんの親友です。気軽に青髪ピアス、略して青ピって呼んでください」
「いやいや、こんな女性だったら誰でもいいような奴は放っておいてこの土御門元春と是非お友達に」
「おい、がっつくなって…お前らみたいな風貌の奴がいきなり近づいてきたら怖いだろ」
二人の肩を引いて下がらせる当麻だったが、何故か矛先が彼に向き始めた。
「私には分かるわ!そうやって一人だけ俺は違うぜアピールするつもりでしょ!」
「やり口がやらしいぞ!ウニ頭!」
「エッチなウニ頭だ!」
「なんでだよ!?つか初めましてなのに容赦ないな!」
急にA組からの謂れのない攻撃を受けて当麻はダメージを受けた。唯々不憫である。そんな会話を聞きながら祐は懐に忍ばせていた手を人知れず元に戻す。それに唯一気付いていた梨穂子は、いったい何を出すつもりだったのだろうかと思ったが触れないでおくことにした。
「自己紹介も終わって誤解も解けたことだし、麻帆良祭に戻ろっか!」
「そんじゃお気をつけて」
桜子がそう言ったので見送りのつもりで手を振る祐。しかし桜子は祐を見て首を傾げた。
「え?逢襍佗君と梨穂子ちゃんも行こうよ」
「凄いな、勝手に頭数に入れてくるじゃん」
「ほら行くぞアマやん」
「てめぇも何しれっと入ってきてんだ」
珍しく祐がツッコミ役に回っている。それだけ周りがやりたい放題ということなのだろう。腕を組んだ祐の肩を梨穂子がトントンと叩いた。
「まぁまぁ祐、人数が多いのも賑やかで楽しいよ」
「それは一理あるけど、全体的に梨穂子にとって悪影響な面子だからなぁ」
「誰のこと言ってんの?」
「まずお前」
「なんだと!」
「パンチはやめなさい!」
風香が祐の腹部めがけて拳を繰り出す。その光景だけ切り取ると二人が同い年とは思えない。そんな中、風香をいなしていた祐が空を見つめだした。
「祐?」
全員がそれに気付き始めて同じように空を見つめると、何かが飛んできているようだった。少しずつ大きくなってくるその姿は人型だと分かる。
「何あれ?…ロボット?」
「大学部のイベント用ロボットだ」
「なんで知ってるの?」
「ちょっと手伝いをしてね」
祐と円が短い会話を終えると、飛んできたロボットは祐達の少し前に着陸する。見ていた周りの来場者からは拍手が上がっていた。ショーか何かと思ったのだろう。着陸したロボットはどうにもずっとこちらを見ているように思えた。梨穂子達が言いようのない気味の悪さを感じているとロボットが歩いてくる。それと同時に祐は迷わずゆっくりと歩き出した。
「あ、ちょっと」
無意識に祐を止めようとした美砂を遮るように手が前に出てきた。その手は当麻のものだ。
「今は祐に任せよう」
「心配ないってお嬢さん方。アマやんなら悪いようにはしない」
当麻と元春にそう言われ、反論の言葉も出てこないので黙って見守るしかない。周囲と違ってここの空間だけ緊張感が漂っていた。
お互いが近づくとロボットが止まり、ゆっくりと右手を突き出す。その手には手紙らしきものが握られていた。僅かな間その手を見つめると、祐は手紙を受け取る。そうすると役目は終わったとばかりにブースターを作動させて空へ消えていくロボット。そちらには目もくれず、祐の視線は手紙に向いていた。なんとなくその場から動けずにいた面々だったが、祐がため息をついて軽い調子でこちらに振り返る。
「大学部の人達からの手紙だった。申し訳ないんだけど、どうしても手伝ってほしいことがあるんだって」
祐の言葉に謎の緊張が途切れ、美砂達もため息をついた。
「なんだぁ~」
「普通に言いにくればいいのに…なんか無駄に疲れた」
苦笑いを浮かべる祐は梨穂子に近寄ると申し訳なさそうな顔をした。
「悪い梨穂子、ちょっとだけ顔出してくる。この埋め合わせは必ずさせてもらうから」
「ううん、私は大丈夫。行ってあげて」
「本当にすまん!みんなもごめん、少し外すわ」
「え~、祐行っちゃうの?」
「ごめんて風香ちゃん。でも困ってるみたいだからさ」
「お姉ちゃん、その人達も祐さんが頼りみたいだし行かせてあげよう?」
「ありがとう史伽ちゃん、助かるよ。それじゃ俺は一旦これで」
「祐」
その場を離れようとする祐に声が掛かる。声を出したのは当麻だったが、元春と青髪も視線をこちらに向けていた。
「人手が必要そうなら俺らにも声かけろよ」
「ああ、そうする。そん時は頼むな」
「おう」
頷く当麻達に頷き返す。恐らく彼らは祐がついた嘘に気付いているだろう。その上で話しに乗ってくれているのだ。そして人手が必要なら声をかけろと言うのも本心だ。
「気を付けてね、祐」
「任せとけ!安全第一で行ってくる!」
梨穂子にそう告げて祐は離れていった。姿が見えなくなるまで全員が見送る。
「大学部のお手伝いって、逢襍佗君なんの手伝いなんだろ?」
「ロボット出てきたし、それ関係じゃない?」
美砂達が話している間、梨穂子は祐の進んだ方向を一人じっと見続けていた。
人の波を避けて目的地へと向かう祐。先程とは違い、その表情は明るいものではなかった。
(何が起こってる…大事じゃないといいが)
そう願うがあの手紙を見る限り、望み薄なのだろうとも思う。一昨年までは仕方ないにしても、去年といいどうにも自分は麻帆良祭とは殆縁がない。
『今回の麻帆良祭中は余計なことを考えず楽しむことだけを考えなさい』
『とにかく、祐も今は麻帆良祭を思いっきり楽しむこと!』
ふと近右衛門と梨穂子に言われたことを思い出す。走る速度はそのままに、大きなため息をついた。
「こりゃ…たぶん駄目だな」
残念ながら二人の期待には応えられそうにない、なんとなくそう察してしまった。嫌な予感ほど、よく当たる。
アマタ君
突然すまない。せっかく麻帆良祭を楽しんでいる最中だろうに、こんな手紙を送ってしまったことを許してほしい。
単刀直入に言うと、現在私はとても困った事件に巻き込まれてしまった。まだ詳しくは分からないが、正直危険な類だと考えられる。それを年下で、剰え生徒である君に助けを求めるなど情けないと自分のことながら思う。
だが、私が助けを求められるのは君だけなんだ。私の秘密を唯一知る君だけ。恥を忍んでお願いさせてくれ。
下記に集合場所を掲載させてもらった。どうか一人で来てほしい。
最後に、本当に申し訳ない。この件が解決したら相応の償いはするつもりだ。貴方の到着を待っています。
モデナ・ロマーニ
一番好きな章は?
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序章・始まりの光
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幽霊と妖怪と幼馴染と
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たとえ世界が変わっても
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消された一日
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悪魔よふたたび
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眠りの街
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旧友からの言葉
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漢の喧嘩
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生まれた繋がり