Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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神秘の集う場所

地下に繋がる隠し扉を吹き飛ばし、ティアナが階段を進む。周囲を警戒しながら暫く歩いていると、通路に設置されているのであろうスピーカーから声が聞こえてきた。

 

『ようこそティアナ・ランスター執務官、歓迎するよ』

 

「貴女はモデナ・ロマーニ?それとも、ムティナ・アーリアかしら」

 

『さて、どちらだろうね。まぁ…そこに違いはないだろうが』

 

薄暗い通路の奥から大量の足音が聞こえてくる。金属音も混じっていることから、ロボットの集団とみて間違いないだろう。少しずつ見えてきた姿は予想通りのものだった。しかし、今まで見てきたロボットとは大きく違う部分がある。

 

『そこにいるのは麻帆良の学生諸君が作ったロボットのデータを元に、私が改良を施して作成した特別仕様だ。色々と変更点はあるが、一番の違いは』

 

最前列にいたロボットがティアナに向けて右腕を突き出す。その光景を見て説明を待つことなく、物陰へと飛び退いた。

 

『兵器が内蔵されていることだ』

 

ムティナがそう言った直後、無数のレーザーが飛来する。既にその場にティアナはいないが、レーザーの雨は止むことなく降り続けた。

 

『やはり兵器があった方が盛り上がるだろう?それでは奥の部屋で待っているよ』

 

「…何も盛り上がらないわよ」

 

物陰に隠れて攻撃をやり過ごしながら、隙を見てクロスミラージュで反撃を行う。威力はこちらの方が上だ、ロボットのレーザーを打ち消して砲撃が敵側に届いている。だがこのまま安全にいくなら制圧には少し時間が掛かるだろう。早期決着を狙って多少の無茶も視野に入れるべきかと考えていたところ、ティアナが侵入の為に破壊した隠し扉の残骸が目の前を通り過ぎてロボット達を下敷きにした。突然のことに残骸が飛んできた方向を見ると、やってきた人影がティアナのいる物陰の反対側に滑り込んだ。

 

「アマタ君!?」

 

「こんばんはランスターさん!先程ぶりです!」

 

前列のロボットは下敷きになったが、後列のロボットが瓦礫を踏み越えて進んでくると再び攻撃が始まった。

 

「なんで来ちゃったのよ!というか、そもそもどうやってここが!?」

 

「ランスターさんに残ってる光を目印に来ました!あ、でも不可抗力なんで!これに関しては本当にそんなつもりはなかったんです!見つけられたのもそんな時間が経ってなかったからでして!」

 

「はぁ!?」

 

攻撃の音にかき消されぬよう大きめの声で会話をする二人。残っている光とはなんだと考えたが、思い当る節があった。祐の情報が直接流れ込んできたあの時だ。あの瞬間にどういった原理かは分からないが、自分がどこにいるのか彼には認識できるようになったのかもしれない。もしかすると見られたくない諸々まで筒抜けということも有り得る。ティアナは顔を赤くすると、自分の身体を隠すように抱きしめた。

 

「こ、この変態!悪い子じゃないと思ってたのに!」

 

「えっ!?ちょっと待ってください!なんか良くない誤解が生じてませんか!?」

 

「あの時、私のことも色々覗いたんじゃないでしょうね!」

 

「誓って覗きはしていません!」

 

二人の会話など意に返さず攻撃は続く。祐は何故だか分からないが、汚名を返上しなければならないようだ。正直今更な気もするが、この場で多少なりとも信頼ポイントを稼がなければと行動を開始した。

 

「信頼は行動で得る!」

 

一旦攻撃が止んだ隙を突いて祐が物陰から飛び出した。再度攻撃を行おうとしたロボットの胴体を貫くと、その一体を盾として進行を続ける。壊れれば次の盾を作り、祐は止まらず目の前の敵を蹴散らしていった。

 

「無茶苦茶すぎるでしょ…!」

 

後で祐にはお話が必要だと思うが、今この機を逃がすわけにはいかない。勝手に前衛を務める祐を援護する為、ティアナも動き始めた。

 

 

 

 

 

 

「いやはや賑やかになってきたね、リアルタイムで視聴できないのが残念だ」

 

「いったい…何をしてるんだ」

 

何かの機材を操作するムティナを見て、モデナはわき腹を押さえながら弱弱しく立ち上がる。その姿に嘲笑うような視線を投げると、椅子を回転させ向かい合った。

 

「私のちょっとした発明品を試す。君はダイオラマ魔法球を知っているかな?」

 

「ダイオラマ…情景模型のことか」

 

「旧魔法世界のマジックアイテムさ。それにヒントを得てね、更に色々とできることを増やしてみた」

 

「できることを増やした?」

 

「まぁ、見ていたまえ。実際体験した方が早い」

 

その瞬間ムティナに向かってモデナが走り出す。恐らく止めるつもりなのだろうが、力の差は歴然だ。

 

「無駄なことを」

 

まだ痛めつけられたいようだ、それがお望みならば喜んで応えるとしよう。

 

 

 

 

 

 

「逢襍佗が来れなくなった~!?」

 

麻帆良祭二日目の朝、準備の為に生徒達が集まり始めた広場に楓の声が響き渡る。正面にいた純一は大きなリアクションに驚きつつ、幼馴染達で捏造した事情の説明を始めた。

 

「なんでも親戚の人が急に入院したみたいで…その人一人暮らしのおばあさんなんだけど、家族ともすぐに連絡取れないから付き合いがあって親しかった祐のところに連絡がきたんだって。それ程大きな怪我とかではないらしいんだけど、色々あって落ち着くまでは戻れないって言ってた」

 

「その人と親しかったんなら…逢襍佗は大丈夫なのか?」

 

先程とは打って変わって心配そうな顔をする楓。その反応に良心が痛むが、事情が事情なので最後まで貫き通すしかない。

 

「命に別状はないから心配はいらないみたい。もしかしたら早く戻ってこられるかもしれないけど、今は何とも言えない…かな」

 

「そうか…」

 

「空いた分は僕が代わるよ。重なってるところは、必要なら他のクラスの幼馴染も手伝ってくれるって言ってくれたから」

 

祐の不在はB組全員に伝わり、理由が致し方ないものだったので特に問題が起きることはなかった。ただ祐が麻帆良祭を楽しみにしていたことは周囲も知っているので、その事を思って残念な気持ちにはなった。

 

「仕方ないけど残念だね、逢襍佗君凄く楽しみにしてたのに…」

 

「そうね、逢襍佗君も来れなくなったことに責任を感じてなければいいけど」

 

春香と詞が準備を始めながら話す。同じく準備をしていた凛は、時折純一に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、麻帆良祭二日目!今日もはりきっていくぞ~!」

 

『お~!』

 

裕奈の音頭に拳を突き上げて答えるA組。昨日の売上から、今年がA組歴代一位となる可能性は大いにあった。

 

「歴代一位だけじゃなく!このままいけば学園一位だって狙えるよ!」

 

「今日も稼いで稼いで稼ぎまくるぞ~!」

 

『イエ~イ!』

 

やる気充分なA組。朝礼が終わり各々が準備に移る中、裕奈がハルナに声を掛ける。

 

「パル、逢襍佗君から連絡あった?」

 

「んえ!?あ~、それなんだけど…」

 

歯切れの悪いハルナの反応に首を傾げる。何かあったのは間違いなさそうだが、どうかしたのだろうか。頭を掻いた後、言いずらそうな顔をしてハルナは裕奈に近寄ると小声で事情を伝えた。

 

 

 

 

 

 

「超さん」

 

「お、ハカセに茶々丸。例の件カナ?」

 

本日はメイド喫茶の当番がない超は自分達のラボにいた。そこへ聡美と茶々丸がやってくる、調べがついたのだろう。

 

「はい。調査の結果、学園都市に配置されているロボット達に不審な点は確認されませんでした。茶々丸にも協力してもらったので確かだと思います」

 

超は視線を茶々丸に向けると、それを汲みとって報告を始める。

 

「ハカセには外装から内部のスキャン、私は搭載されているプログラムと機体同士を繋ぐネットワークの調査を担当しました。結果は先程の通りです」

 

「ふむ、となると麻帆良にあるロボット達で何かしようとは考えていないカ」

 

「閉鎖された部屋はどうでしたか?」

 

「酷い有様だったネ、あの場で戦闘があったことをこれでもかと物語っていたヨ」

 

タカミチ達の強制捜査が入る前に超はムティナが封鎖していた部屋を確認済みである。映像などは残されていなかったが、何があったかは想像に難しくない状態だった。

 

「この一件は、本当にモデナ・ロマーニさんによるものなのでしょうか?」

 

「どうカナ。祐さんによれば、モデナ・ロマーニには所謂負の感情がないとのことだった」

 

学園長室で報告されたモデナの話も超は収集済みだ。今は学園側とは別に真相を探っている。

 

「ではいったい誰が…」

 

「犯人は、捨てた感情の方…だったりしてネ」

 

「それは…どういうことですか?」

 

超は椅子に深く座り、背もたれに体重を預けながら続きを話す。

 

「方法は分からないが、モデナ・ロマーニは自らの感情を切り捨てた。その後切り捨てられた感情がどうなったのか…これはかなり重要な部分だと私は思うヨ」

 

「捨てられた感情は、消えていない可能性がある」

 

「あくまで私の想像だけどネ」

 

聡美が思考の海に沈む中、茶々丸は不安そうな表情を浮かべている。超はそれに気が付くと二人の目が合い、遠慮気味に茶々丸が口を開いた。

 

「あの、祐さんは」

 

「だめネ、未だ反応無しヨ」

 

祐が麻帆良を出ていってから、ある場所でスマホの反応が途絶えた。祐の持っているスマホは超が製作した特別な物で、電波が届かないといったことは極めて特殊な環境でない限り起きない。となれば、今祐はその極めて特殊な環境にいることになる。

 

「反応が途絶えた場所までは分かっている、その周囲を衛星に探らせてみるネ」

 

「お願いします」

 

付き合いが長くなったからか、それとも茶々丸が彼に強く影響を受けたからか、今の茶々丸からは完成した頃とは比べ物にならないほど感情を見て取れる。それは開発に関わった者の一人として大変喜ばしいことだ。

 

「大丈夫ヨ茶々丸、祐サンは強い人ネ」

 

「はい」

 

一般の生徒と来場者達は知らないが、昨日以上に厳重な警備を敷いた上で行われる麻帆良祭二日目。しかし周囲の心配をよそに、何も問題は起きることなく二日目も無事に終了した。ただ一つ問題があるとすれば、その日も祐は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

夜が明けて、遂に麻帆良祭の三日目が訪れる。生徒達は最終日ということもあってやる気に満ち溢れており、来場者数も今日が最大になる見通しであった。

 

忙しそうに開店準備を進めるA組。テーブルを拭いている明日菜に和美が小声で話しかける。

 

「明日菜、逢襍佗君から連絡きた?」

 

その質問に首を横に振って答える。それを見て和美は腕を組んだ。

 

「あれっきり連絡付かずか…流石に心配ね」

 

「うん…そうね」

 

どちらも暗い顔をする中、本日当番であるエヴァがいかにも不服そうな態度で準備を進めている。その顔は顰めっ面ではあるが不安は感じられない。それはまるで心配なことなどないようだった。

 

「エヴァちゃん、逢襍佗君から何か連絡はあった?」

 

「無い」

 

切り捨てるように一言で答えると、作業を終えてバックヤードに戻ろうとする。その姿に思わず和美はエヴァの肩を掴んでしまった。

 

「ちょ、ちょっと!そんだけ⁉︎」

 

「質問には答えてやったろうが」

 

「それはそうだけど…エヴァちゃんは心配じゃないの?」

 

「ああ、心配ではない」

 

そう断言されて二人は一瞬止まってしまう。エヴァが祐のことを少なくともそれなりに大切に思っているのは二人も知っている。だからこそエヴァの態度が解せなかった。

 

「なんでよ…」

 

「あいつはどんなことがあっても帰ってくると言った、だからあいつは必ず帰ってくる。お前達にもそう約束したのだろう?」

 

エヴァの言葉に明日菜が目を逸らす。確かにそう約束した、必ず帰ってくると。しかしそれとこれとは話が別だ、だからと言って心配にならないとはいかない。

 

「神楽坂明日菜、一つ助言をしてやる」

 

逸らしていた視線をエヴァに向ける。見えた顔は呆れているような気がしたが、何に対してなのかは明日菜には分からない。

 

「祐に関しては心配するだけ無駄だ。それにあいつはそう易々と死なん、あいつが死ぬならそれは世界が終わる時ぐらいだろう」

 

「まぁ、世界が終わったとて…祐が死ぬかどうかは分からんがな」

 

その言葉を最後にバックヤードに向かうエヴァ。和美はその背中を見送った後に明日菜を見た。

 

「全然笑えないわよ、そんな冗談」

 

確かに笑えない、それは和美も同感だ。しかし先程の発言は本当に冗談だったのだろうか。もう一つ思うところがあるとすれば、エヴァの祐に対する信頼だ。正直自分にはあそこまでの信頼を持ててはいない。出会ってそう長い年月も経っていないのだから仕方がないとことだろう、だが同時に何故かそれが悔しく思えた。どうやらそれは明日菜も同じらしい。彼女の顔を見ればそれは分かった。

 

 

 

 

 

 

開場の時間となり、多くの来場者が麻帆良学園都市に流れてくる。一日目・二日目に勝る人の数はそれだけで圧巻の光景であった。

 

「お~、すごい。人がいっぱい」

 

遂に麻帆良祭やって来ることができたカンナは目を輝かせて辺りを見回している。人の波にのまれてはぐれないようにと、その手を小林がしっかりと握っていた。

 

「前来た時より多い気がする…朝の満員電車の比じゃない」

 

「よく分かりませんけど、その比較対象はどうなんでしょうか?」

 

はぐれる心配はなさそうだが、トールも小林の手を握っている。彼女のは単に手を繋ぎたいだけだろう。

 

「それにしても本当に大規模ですね、飛行機飛んでますし」

 

「これが学校行事だって言うんだから凄い話だよ」

 

会話をしながら歩いていると、トールが何かの看板を見つめて立ち止まった。

 

「トール?」

 

「小林さん、これを見てください」

 

トールが指さした場所に視線を向けると、それは一年A組メイド喫茶の看板であった。瞬間小林の目つきが鋭くなる。

 

「ほう…」

 

「この私と小林さんの前でメイドを名乗るとはいい度胸ですね。どんなものかお手並み拝見と行きましょうか」

 

「よし行こう」

 

意思を合わせてさっそく目的地を決めた二人。小林はもしかして自分達は厄介な客なのではと考えたが、行かないという選択肢はなかった。何を隠そう小林はメイドという存在に対して一家言あるのだ、向けている情熱も並みのものではない。

 

そんな時、意識が完全にメイド喫茶に直進していた小林の手が引かれる。相手はカンナで、ある方向を指さしながら顔はこちらに向いていた。

 

「小林、でっかいわたあめがある。色も青くてきれい」

 

「まずあれ買ってから行こうか」

 

一度冷静になってカンナに応える小林。トールも頷いて三人は綿菓子の屋台へ歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

麻帆良学園都市の一角にあるリリアン女学園内は一般来場者の立ち入りは不可であり、在学生からの招待状を持っていなければ入ることができない場所の一つであった。その門の入り口の警備を担当している愛穂は仕事をこなしつつ頭の中はモデナ・ロマーニの件、もっと言えば祐のことを考えていた。

 

(未だ逢襍佗から連絡はない…いったい何やってるんだあいつは)

 

来場者から招待状を見せてもらい、名簿にある名前と照らし合わせて中へと通す。考え事はしていても役目はしっかりとこなす愛穂だった。そして次の来場者がやってくる。赤い髪に眼鏡をかけたスーツ姿の女性だ。

 

「招待状をお願いします」

 

「はい、どうぞ」

 

笑顔で招待状を手渡す女性。書かれている渡した生徒の名前を確認し、名簿を見た。

 

「では、お名前の方を」

 

「蒼崎橙子です」

 

名前に相違がないことを確かめて、招待状を返した。

 

「ご協力ありがとうございます」

 

「いえいえ、ご苦労様です」

 

会釈してから門を通る橙子。既に招待した生徒が出迎えに来ていたようで、その生徒に軽く手を振っている。それを横目で見て、愛穂は自分の仕事に戻った。

 

「やぁ、お出迎えどうも」

 

「ようこそおいでくださいました」

 

美しい姿勢でお辞儀をする鮮花に思わず気の抜けた目を向ける。

 

「…なんだそれ?」

 

口元をひくつかせながら辺りを確認しつつ、鮮花は顔を近づけて小声で話した。

 

「ここはお嬢様学校で、私は優等生なんです」

 

「ああ、そうだった。失礼」

 

軽い調子で笑う橙子にため息が出てしまう。招待状を渡したのは自分だが、何か問題が起こらないか心底不安だ。

 

「変な物とか持ってきてませんよね?」

 

「手ぶらだよ、別に私は事を構えに来たわけじゃないぞ」

 

ポケットから手を取り出し、ひらひらと両手を振る橙子。少なくともあの変な鞄は持ってきてはいないのは間違いない。

 

「さぁ、時間は有限だ。さっそく麻帆良学園に行こうじゃないか」

 

「え!?いきなり行くんですか!?」

 

驚いた顔の鮮花とは対照的に橙子はあっけらかんとしている。

 

「それはそうだろう、その為に私は来たんだから」

 

「少しくらいここを見てからでもいいじゃないですか…」

 

「それも興味がないわけじゃないが、今は彼の情報を掴みたい。頼むよ鮮花」

 

手を合わせてお願いする橙子を見て、もう一度ため息をついてから頷いた。

 

「分かりました。案内します」

 

「ありがとう!道中食べたいものがあったら言ってくれ、私が奢るよ」

 

「…お金は大丈夫なんですか?」

 

「まぁ、多少は」

 

橙子は珍しいものに目がなく、逆に金銭に興味がない。おかしなものを買い取っては、その結果その日暮らしを送るなどざらである。頼りになる人物なのは間違いないが、そういった部分は心配になる人物であった。

 

敷地内を後にする為、並んで歩く二人。その横を通り過ぎた生徒の一人が振り向いて二人を見つめる。立ち止まった生徒と一緒に歩いていた水野容子がそれに気付いた。

 

「祥子?どうかしたの?」

 

「いえ、あの赤い髪の方から煙草の香りがしたので」

 

呼ばれた生徒『小笠原祥子』が燈子を見つめたまま呟く。釣られてそちらを見ると、赤い髪の女性の横にいるのは自分のクラスメイトだった。

 

「あら、鮮花さんのご家族の方かしら」

 

「お知り合いですか?」

 

「隣にいる黒髪の子はクラスメイトなの。横の女性は存じ上げないけど」

 

容子の話を聞きながら、祥子は眉をひそめる。容子はそれを見て何となく察しが付くが、一応聞いておくことにした。

 

「何か気になることでもできたのかしら?」

 

「煙草を吸うのは感心できません、身体に害しかないものですよ?周りの人にも悪影響です」

 

祥子の発言に苦笑いを浮かべてしまう。自分の予想は見事的中していた。やはり我が『妹』は些か頭が固い。そこを可愛らしいと感じると同時に、少し心配になる容子だった。

 

 

 

 

 

 

大勢の人が行きかう麻帆良学園の校内。そこに可愛らしいメイド服に身を包んだ、これまた可愛らしい少年が看板を手にメイド喫茶の呼び込みをしていた。言わずもがなネギである。

 

朝クラスに行ってみればいつもの悪ノリを受け、あれよあれよという間に服を着替えさせられて呼び込みをさせられている。不満は多分にあるというか不満しかないが、ネギ持ち前の真面目さ故に与えられた仕事を投げ出すことなく続けている。それでもふとした瞬間に浮かび上がるのは、行方の知れない祐のことだった。

 

(祐さん、どうしたんだろう…)

 

それ以外にも気になっていることがある。一昨日エヴァが言っていた、祐は自分が心配されることを望んでいないといったものだ。責任感が強いネギも、周りに心配を掛けたくないという気持ちは大いに理解できる。だが自分のことなど忘れて周りには気ままに楽しんでほしいと祐が思っていることは、どうしても寂しく感じてしまうのだ。

 

「ねぇねぇ、メイド喫茶ってどこにあるの?」

 

「あっ、はい!そこの階段を上がって、右の突き当りです!」

 

「ありがと~!」

 

二人組の女性来場者に笑顔で手を振られ、顔を赤くしながら小さく振り返す。その姿に女性達は更に笑顔になった。

 

「恥ずかしい…」

 

「まぁ、そう言うなよ兄貴。これも姉さん方の為だと思ってよ」

 

「それはそうだけど…」

 

肩に乗っているカモと小声で会話をする。実際ネギの呼び込みは、女性を中心にかなりの効果を発揮していた。

 

「あら、これはまた随分と可愛い呼び込みさんね」

 

声のした方に顔を向けた。立っていたのは眼鏡をかけた赤い髪の女性と麻帆良学園とは違う制服を着た黒髪の少女、橙子と鮮花である。

 

「ど、どうも」

 

柔らかい笑顔を向けてくる橙子と、訝しげな表情の鮮花。ネギは色々と恥ずかしくて目を合わせられなかった。

 

「えっと…君小学生よね?なんでこんなところに?」

 

「あっ、その…僕これでも先生なんです…」

 

「……もしかして、貴方が噂の子供先生?」

 

「はい…」

 

お互い無言で見つめ合うと、先に鮮花が動いた。どうやら頭を抱えているようだ。

 

「やっぱり麻帆良学園って…」

 

「君先生だったんだ。凄いなぁ、その年で先生なんて」

 

鮮花に代わり、橙子がネギの前に出てくる。外行き状態の橙子に思うところはあれど、そちらの方がありがたくはあるので鮮花は何も言わなかった。ネギは屈託のない笑みを向けられてたじたじである。それからネギにメイド喫茶の紹介をされた橙子は最後に手を振ると、鮮花を連れてそちらに歩いていった。

 

「どっちもかなりの上玉じゃねぇの。兄貴、せっかくだから教室に戻ってあの二人にアタックでもしねぇか?」

 

「何言ってるのカモ君!?」

 

階段を上っていく橙子の顔を、鮮花がその目に疑問を浮かべて覗く。

 

「まさか行くんですか?」

 

「そうだな、面白そうだし」

 

「え~…」

 

気乗りしないことを隠そうともしない鮮花の態度に笑ってから、面白そうだと思った理由を簡潔に述べることにした。

 

「あの年で驚くべき魔力量だ。あれはどこにでもいるような子じゃない」

 

はっとした顔をする鮮花。その顔は一瞬で真剣なものへと変わった。

 

「まさか…あっち側の魔法使い…」

 

「だろうな、少なくとも魔術師じゃない。肩にいたのはオコジョ妖精か…その子が担当しているクラスなら、何か面白いものがあるかもしれない」

 

ここに来た一番の目的は以前変わらないが、それ以外にも興味を惹くものでこの街は溢れている。大変結構だ。

 

「麻帆良学園か…来てよかったよ、まだ本番前だというのに楽しませてくれる」

 

 

 

 

 

 

「エヴァちゃん!もっと笑顔じゃないとだめだよ!」

 

「充分働いてやってるだろうが!文句を言うな!」

 

バックヤード内にて桜子にエヴァが言い返す。どうやら桜子的にエヴァは笑顔が足りないようだ。

 

「まぁ、笑顔は足りないと思うけどいいんじゃない?それはそれでウケてるみたいだし」

 

美空がテーブルに寄り掛かりながら軽い調子で言う。確かにエヴァの接客は愛想が良いとは言えないが、一部の者達にはかなり好評であった。

 

「甘やかしちゃだめだよ美空!それじゃエヴァちゃんの為にならないもん!」

 

「余計なお世話だ!そもそもお前のように常時能天気に笑ってなどいられるか!」

 

「褒めたって騙されないんだからね!」

 

「褒めとらんわ!無敵かこいつ!?」

 

何を言っても無駄なような気がしてきた、これだから天然は嫌いなのだ。そう考えていると新規の客がやってきたようだった。

 

「あっ!お客さんが来たよエヴァちゃん!笑顔でいってみよう!」

 

「がんば~」

 

「チッ!この小娘どもが…」

 

悪態をつきながらフロントに出ていく。気に食わないが戻った後にまた何か言われても面倒だ。適当に取り繕ってやればいいだろうと、ぎこちない笑みを浮かべて接客を始めた。

 

「い、いらっしゃいませ…」

 

挨拶をしてから目の前の相手を見る。タイミングが良いのか悪いのか、その相手とは橙子と鮮花だった。目を合わせたエヴァと橙子は思わずお互いを見つめる。黒い髪の小娘からも感じるものはあるが、それはひとまず置いておく。問題はこの赤髪の女だ。初対面且つ知らない人物なので根拠などないがそれでも分かる、この女は普通ではない。ただし、そう思ったのはエヴァだけではなかった。目の前の燈子も、エヴァに対して同じ印象を抱いていたのだから。

 

橙子はゆっくりと口角を上げ、人差し指と中指を立てた。それを見るエヴァの瞳は冷たい。

 

「二人だ。案内頼むよ、可愛いお嬢さん」

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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