始まった宝探しは既に盛り上がりを見せている。夕日が照らす麻帆良の街を、生徒と来場者が入り乱れた状態で賑やかに歩き回っていた。そんな光景を少し高い位置にある広場から慎二が眺めている。
「よう慎二、お前は参加しないのか?」
「…衛宮か」
後ろを振り向くと立っていたのは買い物袋を持った士郎だ。そちらを一瞥すると、再び参加者達に視線を戻した。
「賞品の為に歩き回るとか僕の趣味じゃないし、終わるまで精々休ませてもらうよ」
「そうか」
フェンスに寄り掛かる慎二の隣にやってくると、同じように寄り掛かった。その姿を横目で確認すると、士郎と目が合いそうだったので急いで逸らす。
「お前は何やってるんだよ?」
「打ち上げの準備。今の内にやっておいた方が後々楽だろ?」
「誰かに頼まれたのか」
「いいや、俺から言った。俺も宝探しって柄じゃないからな」
「あっそ」
暫く無言になる二人だが、呟くように慎二が言う。
「一昨日から逢襍佗を見てない」
「祐を?ああ、親戚の人が倒れて来れなくなったって話なら聞いたぞ」
「それ、本当だと思ってるか?」
「嘘だろ、たぶん」
即答する士郎。予想通りと言えば予想通りだ、あの石頭には最初から期待などしていない。先日の様子から察するに、結局またよく分からない問題に首を突っ込んでいるのだろう。
「しょうもない」
慎二の声が聞こえていなかったのかは分からない。ただ士郎はその後何も言わなかった。
宝探しに参加している明日菜は、ネギ・木乃香・刹那と行動を共にしていた。頭から祐のことは離れないが、それでもぼーっとしているよりはいいだろうと身体を動かすことにしたのだ。癪ではあるが、何もせずにいるのは祐自身が望んでいないだろうと思ったからでもある。
「お宝ってなんなんやろ~?」
「これだけ大きなイベントですから、それなりに価値のあるものかもしれませんね」
木乃香と刹那の少し後ろにいるネギを見る。カモを肩に乗せてついてきてはいるが、その顔は心ここにあらずといった状態だった。そんなネギの背中を明日菜が少し強めに叩いた。
「あひゃあ!な、何するんですか明日菜さん!」
「ご、ごめん…まさかそんなに驚くとは…」
思いの外大きかったネギのリアクションに明日菜も驚いた。声が聞こえた木乃香達もネギを見ている。
「まぁ、あれよ。ぼーっとしてると転ぶから、しっかりしなさいよね」
「は、はい…すみません」
「転んでもウチが手当てしてあげるから、安心してええよネギ君」
「木乃香さん…僕のことからかってませんか?」
「そないなことあらへんよ~、よしよし」
「やっぱりからかってます!」
頭を撫でてくる木乃香にネギが反応する。そうなっても手を振り払わないのがネギの優しいところかもしれない。明日菜と刹那がその様子を見て笑っていると、少し前を目立つ姿をした人物が通り過ぎた。
「ん?あ~!カンナちゃん!」
一人歩いていたカンナが振り向く。相手が木乃香だと分かるとこちらに近づいてきた。
「このえ、さっきぶり」
「また会えたなぁ、カンナちゃんも宝探ししとるん?」
「うん、みんなもいっしょ」
カンナが指さした方向を見ると、小林とトールが小走りでやってくる。小林も明日菜達に気が付いて会釈をした。
「あっ、さっきのメイドさん達。どうも」
会釈を返す明日菜達。ネギも橙子達の後に小林達をメイド喫茶に案内したので顔は覚えていた。
「こらカンナ!勝手に一人で進まないでください!」
「あう~」
カンナを捕まえたトールが俗に言うグリグリ攻撃をした。母と子には見えないので、姉と妹といったところだろうか。
「あの二人も仲良しさんやね、せっちゃんもウチにグリグリする?」
「しませんよ!?」
そんなことをしていると、明日菜の肩が軽くつつかれた。顔を向けるといつの間にか目の前に立っていたのは茶々丸である。次から次に忙しいなと明日菜は思った。
「茶々丸さん?どうかしたの?」
「突然すみません。少し、皆さんについてきていただきたいのです」
茶々丸のお願いに顔を見合わせる明日菜達。全員がもれなく不思議そうな表情を浮かべていた。
「いいけど…どこに?」
「ご案内いたします。すぐに出発してよろしいでしょうか?」
「う、うん」
よく分からないが断る理由もない。素直に茶々丸についていくことにした四人は小林達に一応挨拶をする。
「えっと、何か用事があるみたいなんで私達はこれで…」
「あ、はい。お気をつけて…でいいのかな?」
「ありがとうございます、それでは」
挨拶を終えると歩き出した茶々丸の後に続く明日菜達。木乃香はカンナに手を振ると、カンナも手を振り返した。
「なんだか忙しそうだったね」
「うん」
小林とカンナが後ろ姿を眺めながら話している間、トールは黙って明日菜達を見つめていた。
茶々丸についていくこと数分、五人はすっかり人気のない場所に来ていた。
「あの、茶々丸さん?そろそろ目的の方を…」
遠慮気味に刹那が言うと、歩みは止めないまま茶々丸が応える。
「まず一つご報告なのですが、先程祐さんから連絡がありました。受けたのは超さんですが、祐さんは無事とのことです」
「ほんと!?」
「はい」
明日菜が身を乗り出して茶々丸の顔を覗いた。笑顔で返事をした茶々丸を見て、募っていた心配が消えていく。他の三人も一安心といった様子である。
「ただし、事件解決にはもう少し時間が掛かるとも仰っていたそうです」
「…そっか」
無事なのは分かったが、まだ問題が片付いたわけではないと分かると残念な気持ちにはなる。しかし一番重要な彼の安否が知れたことは間違いなく朗報だった。
「用事というのはそれと関係があることなんですか?」
「そうとも言えます」
ネギの質問に茶々丸は足を止めると、振り向いて明日菜達を見た。
「これから皆さんに、会っていただきたい方がいます」
「会ってほしい人?」
茶々丸は頷く、その顔は真剣そのものだ。
「会っていただきたいのは計三名です。内二人は皆さんもよく知っている方で、祐さんの協力者でもあります」
その人物も充分気になるが、それだけであればこんな空気にはならないだろう。これから会う人物は三人で、内二人はと言った。そうなると問題はあと一人だ。
「では、もう一人は?」
「もう一人は、これから協力者となるかもしれない方です」
辺りに人の気配がない更地には、数えきれないロボットが佇んでいた。その場の上空に浮いている一体のロボットに両手で抱えられている人物、ムティナがロボット軍団を眺めている。
「ふむ…それなりの数を用意したつもりだが、あの街を陥落させるのはまず無理だろう」
モデナを見つけてから麻帆良という場所を調べていたが、未だにあの街の全貌は掴めていない。普通の街ではないことは早々に理解していた、かと言って何を隠し持っているかは見当もつかない。だがそれは構わない、目的は制圧ではないのだから。
「目的はあの街に傷を残すこと、モデナ・ロマーニが愛したあの街を私が攻撃することだ」
そうすればあの街にとってモデナという存在は悪しきものとなる。その名を聞けば誰もが顔を顰めるようなものに。
「堪らないね、お前が大事にしているものを壊せるこの感覚は」
冷たく笑うムティナの目標はただ一つ、麻帆良学園都市だ。
茶々丸が先導して進んだ先は麻帆良学園の地下水路だった。初めて入るその場所に、明日菜達は辺りを見回しながら歩いている。
「こんなとこあったなんてウチ知らんかったわ」
「私も、ほんとなんでもあるわねこの街」
「着きました、こちらです」
何もないように見える壁に手を添える茶々丸。暫くすると物音と共に壁が動いて階段が現れた。
「もう驚くの疲れた…」
「お察しします…」
げんなりとした明日菜の背中を刹那が摩る。
階段を降りると、前方に見える巨大なドアから赤外線が飛んでくる。そこにいる全員に当たったのち、ドアがゆっくりと開いた。無表情で進む茶々丸と、恐る恐るついていく明日菜達を中で待っていた人物が出迎えた。
「やあ皆さん、わざわざご足労いただいて感謝ネ」
「お疲れ様です」
普段通りの様子で挨拶をする超と聡美に反して、明日菜達は目を見開いていた。
「超さんにハカセ⁉︎」
「祐さんの協力者って…」
「その通り。我々が祐さんの協力者ヨ」
「前々から逢襍佗さんを陰ながらサポートしていたんです」
「さ、サポートって?」
どこか誇らしげな二人。嘘を言っていると思ったわけではないが、サポートの内容は気になった。
「その内容は多岐にわたるネ。例えばみんなも見たあの白い戦闘服も私達の発明ヨ」
「我ながら中々いい仕事だったと自負してます」
「あれ二人が作った服やったんや」
「なんか納得…」
彼女達の高い知性と技術力は全員が知っている。どういった経由で祐と協力体制を取ったのかは分からないが、味方ということならば非常に頼もしい存在であった。
「あと先に言っておくガ、ネギ坊主が魔法使いということも知っているネ。だからオコジョも喋って無問題ヨ」
「ええ!なんで知ってるんですか!?」
(おい兄貴!認めるのが早いぞ!)
「鎌をかけたわけではない。心配無用ヨ、アルベール」
カモが驚きながら超を見るとウィンクを返された。暫く見つめた後、重い口を開く。
「可愛いじゃねぇか…」
呟くカモに呆れた視線を送る明日菜と刹那。祐といいカモといい、ちょっと可愛い仕草をされただけでちょろすぎると明日菜は思った。
「あの、超さん…なんでネギが魔法使いだって知ってたの?」
「私達は祐サンの協力者ヨ?彼の身の回りや周辺の人物のことも知っておかないとネ」
「答えになってなくない…?」
「そこのところは追々答えるヨ」
笑顔で話す超だが、こちらとしてはなんとも行き先不安な出だしである。
「さて、皆に来てもらったのは他でもない。目的は私達の立ち位置を知ってもらうこと、そしてもう一つは紹介したい人ができたからヨ」
超が少し横にずれると、ちょうど死角になっていた場所にある椅子から女性が立ち上がった。
「貴女は…」
現れた人物に思わず声が漏れる。眼鏡を外している橙子が笑顔でお辞儀をした。
「先程振りだねお嬢さん方。まず自己紹介しよう、名前は蒼崎橙子だ」
全員が教室に来ていた時とは違った印象を彼女から受ける。それは見た目の問題ではないが、上手く言語化はできなかった。
「肩書きは、そうだな…魔法…いや、魔術師ということで」
橙子の魔術師という言葉にネギとカモが反応すると、その顔からは強い警戒心を感じた。彼女からすれば予想通りの反応ではある。
「ネギ?」
「貴女は…魔術協会の魔術師ということですか?」
「今の私はちょっと立場が特殊ではあるが…そこ出身であることは間違いないよ、若き魔法使いくん」
頷いてみせる姿に表情がより険しくなる。ネギが何にそこまで反応しているのかは明日菜と木乃香には分からなかった。
「魔術師さんて、魔法使いとは違うん?」
「簡単に言えば畑が違うのさ、それに思想もな…」
視線は橙子に固定したままカモが説明をする。その表情は真剣そのものだ。
「魔術師ってのは兄貴達魔法使いとは目指してるものがまったく別だ。その目的の為なら非人道的なことも平気でやる、倫理観が表の世界とまるで違う連中なんすよ」
「なかなか言うじゃないかオコジョくん。だがまぁ、概ねその通りではあるな」
「な、なんか色々あるみたいね…」
「その…正直この二つの組織の関係は良好とは言い難いものですから」
緊張感が漂う室内に明日菜がそう呟く。専門家ではないが、刹那も魔術師がどのような集団かの話は聞いている。従ってネギ達魔法使いと魔術師がお世辞にも仲が良いとは言えないことも知っていた。
「思うところは多分にあるだろうさ、だがそれはこちらとて同じだ。私個人にしても君達が『魔法使い』を名乗ることに一言二言はあるが、それは一旦お互い置いておかないか?ここに来たのは思想のぶつけ合いをしにきたからではない」
魔法使いと魔術師の間にあるものはそう簡単に取り払えるものでは無い。また相手を快く思っていないのは何もこの二つの組織に限った話ではないのが、今の世界の複雑さを現していた。しかし橙子の目的は組織間のわだかまりに関する事などではない。
「メイド喫茶にお邪魔した時も言ったが、私はアマタユウ君に会って話したいだけだ。彼のことをもっと知りたい」
彼女が祐と会って話したいだけなら問題ないが、その相手がネギ達魔法使いと険悪な関係の組織の人物となれば話は変わってくる。少しずつ、明日菜達も橙子に警戒心を強めていった。
「そのままダンナを捕まえて、魔術協会に連れ去ろうってんじゃないだろうな?」
橙子がカモに視線を移し、その目を合わせる。緊張からか肩を掴むカモの足の力が強くなっているのを感じ、無意識にネギの身体にも力が入った。
「疑うのも無理ないが、そのつもりは微塵もない。彼を連れて魔術協会になど行けば、私も彼も運が良くて仲良く監禁生活だ」
「仲良くって…なんであんたまで?」
「こちらの蒼崎サンは魔術師ではあるが、同時に魔術師にその身を追われているからネ」
カモの疑問に話を黙って聞いていた超が答えた。全員が首を傾げる。
「追われてるって…何かしたんですか?」
「私は何も悪いことはしてないよ、寧ろ価値のあることをした。だがそれに目をつけられて、彼女の言う通り今では身を隠しながら慎ましく生活している。酷い話だろ?」
「は、はぁ…」
明確ではない答えに明日菜が反応に困っていると、カモがはっとした顔になる。
「なぁ、あんたまさかだが…封印指定でも受けたんじゃないだろうな?」
「勘のいい使い魔だね、なかなか有能じゃないか」
こちらを指をさす橙子にとんでもない厄ネタだとカモは頭を抱えた。同時にネギが驚いた顔をする。
「封印指定⁉︎じゃあ貴女が追われてるのって」
「私が身を隠すのは自由に生きる為だよ。成すべきことも成せず、首輪に繋がれながらの生活などまっぴらだ」
「明日菜サン達にはなんのことか分からない話だろうガ、今は流してほしいネ。ご希望であれば後で説明するヨ」
「あ、うん」
「ウチほんまになんも分からんわ」
明日菜と木乃香にはネギ達の会話がまったくと言っていいほど理解できない。混み合った事情があることは察せるがそこまでだ。
「私は君が何故そこまでこちら側の事情に精通しているのか、非常に気になるな」
「それを教えられる程の信頼はまだ無いネ」
「おっと手厳しい」
答えるのを拒否した超を見る橙子の目の光が一瞬強くなった気がしたが、瞼を閉じると視線を外した。
(やめておこう。せっかくの巡り合わせだ、上手くいけば今後重要な繋がりとなるかもしれない)
「怪しさ満載の人ダガ、彼女は名のある魔術師ネ。今後彼女の知識を借りることができるなら、きっと祐サンやみんなにプラスとなるヨ」
「だから私達に会わせたと?」
刹那に頷くことで答える。しかし刹那の視線は様々な疑念で満ちていた。それは超とて想定済みである。
「いやいや待ってくれ。確かにこの姉さんは凄腕もしれないが、封印指定を受けてる魔術師なんだろ?いくらなんでも博打過ぎやしないか」
「正直に言うと、彼女と関りを持つのは賭けだネ」
「おいおい…」
カモは平然と言ってのける超に頭が痛くなった。直接会話したのは初めてだが、彼女の聡明さは普段の生活を見ているだけでも分かる。そんな超がかなり危険な橋を渡っているのはカモには疑問だった。この魔術師にそれだけの価値があるということなのだろうか。
「しかし今後、祐サンは間違いなく魔術師とも相まみえることになる。私も多少の知識があるとは言え、専門家ではないネ。その点、彼女ほど魔術や魔術師に詳しい人物はそういない」
「そんな凄い人なんやね」
「人並み以上の自信はあるかな。それに彼女達には先に伝えたが、私は寧ろ彼の存在を魔術協会から隠しておきたいと思っている。まぁ、信じるかどうかは君達に任せるよ」
超の話を橙子が引き継ぐ形で続けた。何故だと言っているのが分かる目を周りから向けられ、理由を説明する。
「あの子の持っているものはまったく分からない。表の世界は元より、魔法使いであっても魔術師であってもそれは同じ。恐らくだがテレ…失礼、科学側の人間もその例には漏れないだろう。さらっと言ったがこれはとんでもないことだ、そんな価値のあるものを魔術協会に取られては宝の持ち腐れになる。私はね、あの光は彼が思うまま行動することでこそ真価を発揮するものだと思っている」
「思うままに…ですか?」
「これは経験からくる話だが…ああいったものは下手に制御しようとせず、適度に好きにさせておくのが一番だ。だが魔術協会はあの光を手中に収め、自分たちのものにしようと動くだろう。そして間違いなく失敗する。誰も得をしない結末さ」
「貴女には、逢襍佗さんをどうこうするつもりはないと?」
「その通りだよ。私はただ、彼自身と彼の持つものを理解していきたいだけだ。その為の協力なら喜んで請け負うさ」
彼女の熱意は本物のような気がするが、かと言って信じますと簡単には言えない。それはここにいる全員が思っていることだろうが、超はいったいどう考えているのだろうかとネギは視線を送った。それを受けて超が話し始める。
「今すぐに信用することができないのは百も承知ヨ。だから私達は、お互いが枷となる状態を作ったネ」
「かせって…なに?」
「本来は人を拘束する道具の名称ですが、この場合だと相手の行動を抑えつけるものという比喩表現ですね」
「…ふ~ん」
聡美が丁寧に説明すると、周囲からの視線に晒されて明日菜は若干顔を赤くしながら頷いた。
「姐さん…」
「な、なによ!分かんないことは聞いた方がいいでしょ!」
「質問するのは立派やで、ええ子やな明日菜~」
羞恥と恨めしさの混じった目を木乃香に向ける。今は橙子がこちらを見てくるのが異様に恥ずかしかった。
「えっと、超さん…その枷というのは」
「うむ、私も彼女も多少だがお互いの秘密を握った。どちらも外部に漏らされれば困るものネ」
「つまり何かやらかしたら秘密をバラされるから、ヘタなことはできないってことか?」
「その通りネ。これで全て解決!などと言うつもりはないガ、多少の抑止力にはなる」
「多少なんてものじゃない、居場所をバラされるだけで私としては死活問題だ。今の住居は結構気に入っているんだから」
「因みに私に何かあれば、蒼崎サンの情報はここにいるみんなに行き渡るようになってるネ」
(この嬢ちゃん、俺っち達を巻き込みやがったな…)
「というわけだ。私も決して少なくないリスクを払った、だから君達の仲間に入れてくれ」
「仲間にって…祐に関する括りってことですか?」
明日菜が困惑しながら聞くと橙子は頷いく。
「そうだ。あと今更なんだが、こちらのお嬢さん方は彼の協力者とは聞いた。君達は彼とどういった関係なんだ?まさか全員これか?」
「「違います!」」
橙子が小指を立てると明日菜と刹那が全力で否定した。その勢いに少し驚くが、やがて笑みを浮かべる。
「ああ、分かった。これに関して今つつくのはやめておくよ」
「私は祐サンの女ヨ」
「超さん!?」
賑やかになり始める室内に、張り詰めた空気が消えていく。そんな時、近くのデスクに寄り掛かった橙子が言った。
「さて、我々の自己紹介はこんなところか。次は君の番だぞ」
彼女の目線を追ってみるが、何もない場所に話し掛けているようにしか見えない。ネギがどうしたのかと尋ねようとしたのと同時、突然その場に人影が現れた。それに橙子と超以外の全員が驚愕する。何人かが戦闘の構えを取るが、影が次第に晴れると現れたのは見覚えのある姿だった。
「えっ!さっきのお姉さん⁉︎」
不機嫌そうな顔をして現れたトールはその目を橙子に向けている。
「なんで分かったんですか」
「それは教えられないな、まだ信用が足りてないってやつだ。君は確か…トールと呼ばれていたな」
超に倣ったのか似たようなことを言う橙子に対して、トールの不機嫌さが増したような気がした。
「私達の話をずっと聞いていたんだ、少しはそちらのことも話してくれないと不公平じゃないか?」
「貴女みたいな怪しい人に教えるわけにはいきません」
「盗み聞きしておいてそれはないだろ」
「あの、お二人とも…どうか穏便に」
再び重い雰囲気が漂い始めたところでネギが間に入る。少年に間を取り持たれた上で相手に詰め寄る程二人は子供ではないので、一旦どちらも下がった。
「貴女は祐サンに興味が無さそうな態度だったガ、わざわざここに来たということはそうではなかったようネ」
「私はカンナと違って、彼自体に興味はありません。ただ危険人物として無視できないだけです」
メイド喫茶に来た時からそうだったが、トールの祐への態度は一貫している。それは好意的なものとは言えなかった。
「危険人物って…祐はそんな奴じゃ」
「彼の人間性についてではありません。彼の持っている力のことです」
明日菜が祐のことを庇おうとすると、被せ気味にトールが言った。危険なのはあの力、悔しいがそう言われて即否定できるほどの証拠は持ってはいない。
「君はあれが何か知っているのか?」
「いいえ、だから危険なんです。さっきの話で貴女達も何かは分からないと言っていました。誰にも分からない未知の力…そんなものは間違いなく碌でもない連中に目を付けられるに決まっています」
「あの力が争いの元になると、そう考えるのは君の経験談からと見ていいのかな?」
「…ええ」
橙子とトールが話している中、超が右手を上げた。全員の視線がそちらに向く。
「これだけは教えてほしい。貴女はこの次元生まれカ?」
その質問にトールが口を閉じる。超を観察するように見つめると、暫くして深い呼吸をした。
「いいえ、違います」
「別次元の生命体ですか…」
聡美の呟きがよく聞こえる程に、室内が静寂に包まれた。
「さっきのを見る限り君の世界にも魔術…どう呼ばれているのかは分からないがそういったものは存在するんだろ?知識の面で君はどうだ」
「それなりにはありますよ、色々と見てきましたから」
「となれば、君の次元のものという可能性も低いか」
トールの正体にこれといった驚きを見せず橙子が話す。この態度は彼女の性格からくるものか、それとも大体の当たりを付けていたからなのか。
「それでこれも重要な部分だが、君の目的はなんだ?」
「私は大切な人に危害が及ばなければそれで構いません。ここに来たのは危険な要素である彼のことを何か知れればと思ったからです」
「大切な人というのは、隣にいた眼鏡の女性だな」
「言っておきますが、あの人に何かしようだなんて考えないでくださいね。そんなことすれば」
「私は人攫いでも殺人鬼でもないぞ、いったい私をなんだと思ってるんだ」
鋭い視線を向けて威嚇してくるトールを遮るように橙子は言った。何が悲しくて一般人を攫って幻想種に意味のない喧嘩を売らなければならないのか。橙子は好奇心の塊ではあるが、決して戦闘狂ではない。
「なぁ、聞いてばかりで申し訳ないんだが…結局あんたナニモンなんだ?別次元出身ってことしか分からねぇ」
「私は小林さんを愛し、そして小林さんに愛されている真のスーパーメイドです」
室内をまた沈黙が支配するが、前とは違いその理由は緊張感からではない。
「真のすーぱーメイドさんってなんやろね?」
「知らないわよ…」
木乃香と違い、明日菜は早々に思考を放棄した。過半数がこの後なんと言っていいか考えている中、橙子がはっきりと言い放つ。
「君は幻想種だろ、それも恐らく最上位の」
『えっ?』
「貴女ほんとなんなんですか」
メイド喫茶の時から思っていたが、やはり橙子はこちらの正体に気付いていた。魔術師として人並み以上の自信があるとは本人談だが、どうもこれは謙遜した上での発言なのかもしれない。
「幻想種の最上位って…ドラゴンとかだぜ?」
「ということは、お姉さんドラゴンなん?」
「……」
(あっ、この人ドラゴンだ)
木乃香から無言で目を逸らすトールを見てネギは確信した。となるとこの姿は人間に擬態しているということだろう。上位の幻想種ともなるとその力は想像を絶するものと言われており、そのような芸当ができたとしても不思議ではない。
「ドラゴンのメイド…メイドのドラゴン…宛らメイドラゴンってか!?」
「黙ってなさいアホガモ」
「姐さん当たりが強いっす」
「これは凄いネ、ドラゴンが協力者となれば心強いヨ」
「勝手に協力者にしないでください!」
「いやいやトールサン、これは貴女にとっても悪い話じゃないはずヨ」
「そうとも、君は彼を危険と考えているんだろ?なら彼の行動や情報を掴めている方が色々と都合がいい」
「そうなると、私達と繋がりを持つのは得じゃないカナ?」
いつの間に結託したのか超と橙子が協力体制を提案してくる。二人のことなど碌に知らないが、トールの勘が非常に厄介な組み合わせだと告げていた。
「有事の際には手を貸せるかもしれないぞ?君のような存在がどれだけそちらの次元に存在するのかは知らないが、そういったものがこちらで騒動を起こした時などはこの次元での協力者は欲しいんじゃないかな」
「…ご心配には及びません。仮に何かあったとしても、自分の次元のことは自分でなんとかします」
「貴女はきっと強いのだろうガ、何も障害は物理的なことのみというわけではないヨ。貴女にとって厄介なのは寧ろその部分ではないカ?」
トールの顔つきが徐々に険しくなるが、確実に関心は惹けていると二人は思った。
「それにダンナのことだ、その有事に関わる確率はかなりの高さだと思うぜ。ダンナ本人が望んでいようとなかろうとよ。あんたもそんな気はしてるんじゃねぇか?だったら余計に関係はあった方がいいってもんよ」
何か算段があるのか、カモが二人の案を後押しする。こちらを上手く乗せようとしているのか、この集団に信頼は到底置けない。しかし言われたことには一理あると思えた。知らないところで起きた問題が後から降りかかるより、何が起きたのか知っておくことができればそれは少なくないアドバンテージとなる。非常に悩ましいが、利点と欠点を天秤にかけてトールは答えを出した。
「あなた方を信用する気はさらさらありませんが、あの子の動向を探れるというならそれなりの価値はあると判断します。釘を刺しておきますけど、仲間になったわけじゃありませんからね」
「それで構わない。お互い上手くやっていこうじゃないか、それぞれの目的の為にな」
掌を上に向けて右手を差し出すと、超とトールに視線を送った。先に超が近づくと自分の右手を橙子の手に重ねる。
「有効的に活用し合うとしよう、持ちつ持たれつというやつネ」
黙って重ねられた手を見つめるトールだったが、やがてその場に向かうと少々雑に手を乗せた。
「せいぜい厄介事を起こさないようにしてください、私の望みは小林さんとの平穏なラブラブ生活なんです」
「一番問題を起こす可能性が高いのは、君の次元にいる奴らだったりしてな」
「勿論どんなところか知らないガ、一理あるネ」
「……」
それから無言で見つめ合う三人。その光景はとても友好的には見えないが、新たな繋がりが生まれたのは間違いなかった。
「ふふ、虹の光が導いた繋がりだ。きっと面白いことになるな」
「貴女は随分と楽天家なようですけど、よくこんな世界でそうも気楽にできますね」
「おや、トールさんはこの世界がお嫌いカナ?」
「…騒がしすぎるとは思っています」
「取り敢えず…纏まったってことでいいの?」
「恐らくは」
明日菜はなんとなく近くにいた茶々丸に耳打ちをするとそう返ってきた。見ていて不安しかない関係だが、祐を元に生まれたものなら自分達も無関係ではない。きっとこの二人とも今後顔を合わせることになるだろう、明日菜はどこかそう確信していた。
「あの〜…お嬢さん方、宜しければ俺っちもそこに入れてもらえると…」
「おお、すまないアルベール。すっかり忘れていたネ」
恐る恐る近寄るカモが輪に加わろうとした時、茶々丸の目が発光した。
「ポイント付近に高エネルギー反応、途轍もない速度で接近しています」
「えっ!急にどうしたの!?」
明日菜がそれに驚くと、手前のモニターを見ていた聡美が声を出した。
「超さん!動きがありました!例のロボット軍団の場所です!」
「おっ、来たネ!」
笑顔でその場を離れる超に釣られるように全員の視線がそちらに向かう。
「ロボット軍団?今やってる宝探しの話ですか?」
「どうもそうではないようだな」
トールと橙子が超の後に続いた。明日菜達も顔を見合わせてからその場に向かう。
「簡単に言うと、悪の科学者がロボット軍団を率いて破壊活動を行うつもりのようネ。狙いは恐らく麻帆良ヨ」
「なんだって!?」
「本当ですか超さん!?」
ネギとカモが詰め寄ると、その肩に手を置いて落ち着かせた。
「落ち着けネギ坊主、心配ないヨ」
「場所を教えてください。その人がなんなのかは分かりませんが、今この場を攻撃するつもりなら私が」
「だから、落ち着けと言っていただろう。考えがあるんだろ?超くん」
ネギに続いて超に接近したトールをあくまで冷静に橙子が制した。超がそちらに顔を向ける。
「先程茶々丸が言っていたダロウ?高エネルギーが接近していると」
その発言でどういうことかを理解した橙子が笑みを浮かべる。トールは二人を怪訝な表情で見た。
「いったい何を……まさか…」
「彼が動いたんだな」
橙子の目は期待に満ちている、対して明日菜の表情は明るいものではなかった。
「祐…」
「さて、それでは行くとしようか」
麻帆良に向けてロボット軍団を飛び立たせようとしていたムティナ。しかしそんな彼女達を突如巨大な光のドームが包み込んだ。
「は?なんだ、これは…」
呆気に取られるムティナの視線の先に、今度は眩い虹の光の柱が降り注ぐ。現れた光、そしてドームの色を見てムティナが眉間に皺をよせた。
「おいおい、この参加者は聞いてないぞ」
光が晴れるとその場には三人の人物が立っていた。二人は知っている、ティアナとモデナだ。しかしその間にいる頭部全体を装甲で覆った白い戦闘服の人物は未確認である。だがあの光を見れば嫌でも想像はつく、あいつが来たのだ。
「虹の奴か…!」
額の装甲部分から虹の光で形作られたV字アンテナとツインアイを輝かせ、その顔はムティナに向けられている。
「お前はここで行き止まりだ、ムティナ・アーリア」
発せられた声は男性であること以外は分からない、しかしムティナの耳にそれは妙に響き渡った気がした。
一番好きな章は?
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序章・始まりの光
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幽霊と妖怪と幼馴染と
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たとえ世界が変わっても
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消された一日
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悪魔よふたたび
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眠りの街
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旧友からの言葉
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漢の喧嘩
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生まれた繋がり