Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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憂う行く末

夜が明け、麻帆良の街を朝日が照らし始めた午前五時。昨日が麻帆良祭最終日ということもあってか、街は驚くほど静かだった。まだ多くの生徒達は眠りについているのだろう、そんな鳥や木々が発する音が響く朝の道を祐は一人で歩いていた。少しして目的地に着く。木に寄り掛かって少し先を観察しているタカミチに声を掛けた。

 

「タカミチ先生、おはようございます」

 

「ああ、おはよう祐君。昨日は楽しめたかな?」

 

「ええ、そりゃもう。端的に言って最高でした」

 

「それは良かった」

 

会話を一旦区切り、視線を移動する。そこには寝ている大学部の生徒達と、その一人一人の顔を愛おしそうに見つめるモデナがいた。

 

「そろそろ時間だね」

 

「はい」

 

祐はモデナからタカミチに向き直り、タカミチも祐を見る。

 

「後は僕が責任を持って送り届けます。タカミチ先生は少し休んでください、忙しくて大変だったと思うんで」

 

「確かにここのところ寝不足だ。それじゃ、お願いするよ」

 

「お任せください」

 

笑顔で頷き、タカミチは離れていった。その背中にお辞儀をしてからモデナの元へ向かう。

 

「ロマーニさん」

 

「アマタ君、おはよう」

 

彼女の顔を見て、憑き物が落ちたような表情だと思った。それと同時に寂しさも感じる。この街を離れる瞬間がすぐそこに迫っていた。

 

「待ち合わせ場所までは僕がご案内しますね」

 

「ありがとう、よろしく頼むよ。君が一緒に来てくれるなら心強いな」

 

「恐縮です」

 

お互い笑顔を浮かべる。モデナは座っていた状態から立ち上がり、最後にもう一度生徒達を見つめた。

 

「さようなら。元気でね、みんな」

 

 

 

 

 

 

祐とモデナは隣り合って歩いていく。祐にとってはこれからも通る道だろう、しかしモデナはこの景色を焼き付けるように眺めていた。

 

「静かな麻帆良も中々いいものだね、この時間に外へ出ることがなかったから知らなかったよ」

 

「普段があれだけ賑やかですから、印象も変わりますよね」

 

ゆったりとした時間が流れていく。昨日あれだけの事件があったのが噓のようだ。こうして一緒に歩くだけというのも悪くない、何気ない会話でも祐は楽し気に反応してくれる。できることならもう少しだけこの時間が長く続いてほしいとモデナは思った。

 

気が付くと目的の場所が見えてきた。既にそこには時空管理局の艦船が着陸しており、近くにはティアナの姿も見える。楽しい時間というのはあっという間で、意味のない行為だと分かっていてもその足取りは無意識に遅くなっていた。恐らく祐はそれに気が付いている。だが何も言わず、ゆっくりと歩くモデナに歩幅を合わせた。

 

「おはよう、時間ぴったりね」

 

「おはようございますランスターさん。多少は休めましたか?」

 

「まぁ、それなりかしら」

 

軽く挨拶を交わし、ティアナがモデナに視線を向ける。

 

「皆さんへの挨拶は…よろしいですか?」

 

「ええ、充分過ぎる程に時間を貰えました。感謝します」

 

頭を下げるモデナ。ティアナは少しばつが悪そうに頬を掻いた。

 

「私はそれに関して特別何かしたわけじゃないし…お礼ならこの子に言ってあげてください」

 

祐を見ながらそう言うと、モデナが振り返って祐と目を合わせる。

 

「本当に…君には感謝してもしきれない。事件に巻き込んでしまったにも拘らず、何から何まで助けてくれた」

 

話すモデナの瞳は僅かに潤んでいた。彼女は意外と涙もろいのかもしれないとあまり関係ないことを考えるが、それは置いておくことにする。

 

「そうしないと僕が我慢できなかったんです。お役に立てたのなら本望ですよ」

 

「アマタ君…」

 

「この街は待ってますよ。ロマーニさんのこと」

 

どういうことかと首を傾げるモデナ。祐は笑って続けた。

 

「何年経っても大丈夫です。嫌じゃなかったらまた麻帆良に来てください、この街にはきっと貴女が必要ですから」

 

「お帰りをお待ちしております、モデナ・ロマーニ先生!今度は僕がジュース奢りますね!」

 

その言葉にモデナは我慢していたようだが、次第に目から涙が流れ始める。気持ちを抑えきれなくなったモデナが祐へと抱きついた。

 

「や、やっぱり外国の方は情熱的なのか?」

 

昨日のネギを思い出してそう呟く。これは抱きしめ返していいのだろうかと悩みながら、恐る恐るモデナに腕を回した。

 

「ありがとう…ユウ君」

 

「いいえ。向こうでも体調にお気をつけて、モデナ先生」

 

それから降りてきた局員達が若干気まずそうにしながらも、モデナを艦船に案内する。最後に小さく手を振るモデナに祐は大きく手を振りかえした。船内へ入っていったのを確認し、一息つくとティアナが前に出てくる。

 

「私からもお礼を言わなきゃね、色々ありがとう」

 

「とんでもございません、こちらこそありがとうございました」

 

頭を下げる祐を見て、ティアナは一瞬不安そうな顔をした。しかしすぐに頭を振って気持ちを切り替える。

 

「きみは危なっかしいから…あまり無茶ばっかりしないこと!いいわね?」

 

「善処致します、はい」

 

「まったく…」

 

呆れた様子のティアナはやがて笑顔を浮かべると右手を差し出す。その手を見つめてから同じように手を出す祐に、先に声が掛かった。

 

「前みたいに光を流すのはなしだからね」

 

「しませんって」

 

二人は穏やかな表情でしっかりと固い握手をした。僅かな時間ではあったが、共に戦ったティアナともこれでお別れだ。

 

「元気でね、アマタ君」

 

「ランスターさんも、お元気で」

 

 

 

 

 

 

空の彼方へと消えていく艦船を見送り、祐は深く息を吐く。一件落着と言いたいところだが、モデナの記憶を覗いた時にムティナの口から語られたことが気に掛かる。ムティナには協力者がいた。その協力者が何者なのかは分からないが、このまま進めば自ずとその連中に行き当たるだろう。確信めいた予感を持ちながら、祐はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

目を開けた明日菜は上半身を起こして伸びをする。夜に一度目が覚めて祐と何か話したのは覚えているが、その内容までは思い出せない。

 

(なんか…すっごい恥ずかしいこと言ったような、言わなかったような…)

 

悶々とした気持ちを抱えながら周りを見ると、クラスメイトのほとんどはまだ眠っている。そんな中でも既に起床している者もいた。

 

まず目に入った五月は調理をしている。恐らく朝食を作ってくれているのだろう。明日菜は一度大きなあくびをしてから立ち上がった。

 

「おはよう五月ちゃん」

 

「おはようございます明日菜さん。もう起きてる皆さんはあちらにいますよ」

 

五月が手で示した先には刹那・真名・楓・古菲がいる。明日菜もそちらに向かうことにした。

 

「それじゃ私も行ってくるね」

 

「はい」

 

近づくと古菲は何やら武術の型を行なっており、他三人は会話をしている。

 

「みんなおはよ」

 

「おはようございます明日菜さん」

 

それぞれと挨拶をしていると、古菲も明日菜に気付いてこちらに来た。

 

「おはようアル明日菜!明日菜も一緒にどうアルか?」

 

「わ、私は遠慮しとく。そういうの全然わからないし…」

 

「ムム、ならば仕方ないアル」

 

少し残念そうだが古菲は戻っていった。刹那が隣を開けてくれたのでそこに座る。

 

「みんな早いのね、昨日遅くまで起きてたのに」

 

「まぁ、拙者は習慣でござるよ」

 

「他のと違って、私達はずっと騒いでいたわけでもないしな」

 

真名の視線を追っていけば、そこには未だに睡眠中のクラスメイトがいた。真名の言う通り、あれだけずっと騒いでいればこうなるのも仕方ないだろう。そう思うと同時に、また祐の姿が見えないことに気づく。

 

「あれ?もう、あいつまた居なくなってる」

 

少し不機嫌そうな明日菜に刹那は苦笑いを浮かべた。

 

「逢襍佗さんはすぐに戻るそうです。なんでもお見送りしなければならない人がいるとか」

 

「え?そうなの?」

 

そこで真名がテーブルに置いてあった紙を見せる。そこには『お世話になった人のお見送りに行ってきます。ほんとすぐに戻りますから探さないでください。逢襍佗』と書かれていた。

 

「何よ探さないでくださいって…」

 

「家出をしたような置き手紙でござるな」

 

手紙の文章に呆れるが、すぐに帰ってくるのならいいだろう。ここで話でもしていようかと考えていると、遠くから件の祐が歩いてきた。

 

「あ、ほんとに帰ってきた」

 

「お〜、皆さんおはようございます。朝早いね」

 

「貴方が言うんですか…」

 

帰ってきた祐は普段と変わらぬ様子だ。周囲と話していると、いい匂いに釣られて五月の元へ向かう。そのまま祐は五月と会話を始め、明日菜はそれを無意識に目で追っていた。

 

「ヤキモチか神楽坂?」

 

揶揄うような真名に明日菜が勢いよく振り向く。

 

「はっ⁉︎えっ!な、なに言ってるの龍宮さん!」

 

「本当にお前達は逢襍佗関連だといいリアクションをするな。なぁ、刹那?」

 

「…私に振るな」

 

刹那が恨めしい目を向けても真名は笑って流した。

 

「龍宮さんも知ってるでしょ!あいつってあんなんだから、見張ってないと色々やらかしそうで心配になるのよ!」

 

「確かにそうだ、ちゃんと見張っておかないと心配だよな」

 

「そ、そう!まったく困ったもんよね!」

 

「なにやら随分と必死でござるな」

 

「楓、静かに…」

 

焦っているのが丸分かりの明日菜に真名はご満悦だった。彼女のこういった部分は相変わらず趣味が悪いと刹那は思う。

 

「お~い明日菜、こっち来たまえ!お前も偶には包丁握ってみい」

 

祐が手を振って明日菜を呼ぶ。いつの間にか五月の隣で朝食作りの手伝いを始めていたようだ。

 

「うっさいわね!偶にとか言うな!」

 

小走りでそちらに向かいながら、この場から抜け出せるきっかけができて内心ほっとする明日菜だった。

 

現在祐の家の前には、昨日の為に持ち込まれた超包子で使用している機材が置かれていた。洗い場で手を洗ってから隣に着くと、まな板の上には葱がある。

 

「味噌汁用の葱を切るぞ。間違ってもあっちのネギを切るなよ」

 

「切るわけないでしょ!」

 

ツッコみつつ包丁を持って葱を押さえる明日菜。視線を感じて横を見ると、困惑している祐が目に映った。

 

「な、なによ…」

 

「どんだけ力込めて握ってんだ明日菜…包丁も葱もそんなパワー要らんぞ…」

 

「わ、分かってるわよ!ちょっと久し振りだから緊張してんの!」

 

悔しいが祐の言った通り、包丁など握るのは久し振りだ。木乃香が家事全般を得意とすることもあって、彼女に任せきりにしているのがここにきて返ってきた。

 

「俺が怖くなってきた…いいか明日菜、まず見てくれ」

 

そう言って持ち方や切り方を明日菜に教えていく祐。最初は不満そうにしていた明日菜だったが、素直に話を聞き始める。実際に自分でも真似しながら行ってみると、まだ少しぎこちないがそれなりに形になった。

 

「よしよし、やっぱり昔から飲み込みは早いな」

 

「ふふん、どう?私だってやればできるんだから」

 

「なのになんで勉学の方面は進歩しないんだろうな」

 

「……」

 

「包丁を人に向けるんじゃありません」

 

「明日菜さん駄目ですよ、包丁は料理に使わないと」

 

「ごめんなさい五月ちゃん。命拾いしたわね」

 

「最後の方を小声で言うな恐ろしい」

 

それから料理を続ける三人。その場には完全に三人だけの空間が出来上がっていた。稽古を終えた古菲が真名達の元に戻りながらその光景を見る。

 

「おお、明日菜が包丁を持ってるアル」

 

「楽しそうでござるな」

 

「刹那、お前は行かなくていいのか?」

 

「私はいい。行っても力になれん…」

 

自慢ではないが刹那も料理などの経験は碌にない。自信を持って得意と言えるのは剣術だけなのが、今は少し恥ずかしく思えた。

 

「だからこそだ。今行けば逢襍佗にレクチャーしてもらえるぞ」

 

「別にそんな必要ないだろう!」

 

「どれどれ、超包子の一員として私も参加するアル!」

 

「では拙者も」

 

今度は古菲と楓が祐達の元へと向かう。すぐに二人もその場に溶け込んだ様子で、それを見た刹那はなんとなくそわそわとした。

 

「さて、私も行ってみるか」

 

「なっ!ちょ、ちょっと待て!私も行く!」

 

その場を離れる真名に刹那が急いでついていく。近づいてきた二人を見て祐が意外そうな顔をした。

 

「あれ、もしかしてお二人も手伝ってくれるの?」

 

「あ、あの…その気持ちはあるのですが、何分経験が無いもので…」

 

「ならせっかくです、今日新しい一歩を踏み出しましょう!」

 

「大丈夫よ刹那さん!私だって出来たんだから!」

 

「まったくもってその通りだな!」

 

「こいつムカつくんだけど」

 

笑顔で誘う祐と明日菜に、刹那も少し笑みを浮かべる。

 

「では、挑戦させていただきます」

 

「龍宮さんはどう?」

 

「私は冷やかしだ」

 

「何しに来たんだあんたは」

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~…いつもより長く寝てもうた」

 

目が覚めた木乃香がスマホで時間を確認しながら起き上がる。それに釣られて周囲も起き始めた。

 

「おはよ~…みんな…」

 

「まだ眠い…」

 

覚めきっていない状態でのんびりしていると、木乃香が隣り合って料理をしている様子の祐と刹那を発見する。すると一瞬で目が開いた。

 

「あ~!」

 

突然大声を出したことに周囲が驚く。木乃香は急いで祐達の場所へ向かった。

 

「ずるいずるい!二人ともウチを仲間外れにして仲ようしとる!」

 

「お、お嬢様!?ち、違います!決してお嬢様を仲間外れになど!」

 

「そうだぞ木乃香。ほら見ろ、他にも素敵なメンバーがいる」

 

「あっ、木乃香起きたんだ。おはよう」

 

早啊(ザオア)木乃香!」

 

次々と挨拶をする朝食組に、木乃香は頬を膨らませた。

 

「ん~!ウチもやる!」

 

洗い場に走る木乃香の背中を祐は不思議そうに眺める。

 

「なんか幼児退行してないか?」

 

「木乃香殿にもそんな日があるのでござろう」

 

「そんなもんか。う~ん…可愛いな」

 

「ば~か」

 

「聞こえてんぞ明日菜!」

 

それから次々と起床してくるA組。手伝いに入る者や見物する者などに別れていく中で、風香が周りを見ているのに亜子が気付いた。

 

「どうしたん風香?」

 

「トイレ行きたい」

 

「逢襍佗君の家のやつ貸してもらい、昨日も何人か借りとったよ」

 

「そうなんだ。お〜い祐!トイレ〜!」

 

「俺はトイレではない」

 

「ベタやな」

 

「まぁ、冗談は置いておいて。鍵は開いてるからどうぞ、トイレは左側ね」

 

「は〜い」

 

「あっ、じゃあ私も」

 

祐の家に向かっていく風香と史伽。玄関を通ってトイレに向かいながらも、家の中を興味深そうに見ている。風香が終わって史伽もトイレから出てくると、当然のように風香が部屋に入っていった。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

「祐も入っていいって言ってたじゃん。せっかくだからなんか見つけよう」

 

「部屋に入っていいとは言ってないけどね…」

 

とは言いつつ史伽も気になるので部屋の中に入る。奥のドアを開けると、そこにはまさかの先客がいた。

 

「マスター起きてください。間もなく朝食が出来上がります」

 

「…私はいい、まだ寝る」

 

「しかし…祐さんも調理に参加されていますよ?」

 

「あいつのが食べたくなったら呼んで作らせればいいだろ」

 

恐らく勝手に出したのであろう布団にくるまるエヴァと、起こそうと声を掛ける茶々丸。風香と史伽に気が付いた茶々丸がそちらを向いた。

 

「お二人とも、おはようございます」

 

「あ、うん。おはよう…じゃなくて!なんでエヴァがここで寝てるの⁉︎」

 

「不法侵入ですか⁉︎」

 

「それはお前らだろうが…あとうるさい…」

 

朝にめっぽう弱いエヴァが不機嫌そうに口にする。彼女からすればここは勝手知ったる場所だが、二人の関係を知らない鳴滝姉妹にはその考えは出てこない。

 

「現行犯逮捕だ!」

 

「泥棒はダメですよ!」

 

「誰が泥棒だ…うおお…離せぇ…」

 

布団から強制的に出され、それぞれに腕を組まれて外に連行されるエヴァ。普段ならもう少し抵抗するだろうが、起きたばかりの彼女は言葉以外の抵抗は見せない。茶々丸は止めようかと悩んだが、そもそもエヴァを起こすことが目的だったので静観することにした。二人は祐のところまでエヴァを連行する。

 

「祐!不法侵入者を捕まえたぞ!」

 

「勝手に布団に入っていました!」

 

「そ、そうか…。まぁ、困るもんでもないし寝かせてあげといてくれ。ありがとね二人とも」

 

エヴァが勝手に家に入ったところで何ら問題は無いが、ややこしくなりそうなのでやんわりと伝える。

 

「えっ!いいの!?じゃあ僕もっと祐の部屋調べてくる!行こう史伽!」

 

「了解です!」

 

エヴァを連れたまま家へと戻る二人。すると話を聞いていた美砂も何故か家に入っていった。

 

「そんじゃ私シャワー借りるね」

 

「後で私も入ろ。その前に探索だ!」

 

「ハルナ!?」

 

「きっとエッチなものがあるよ!」

 

「探せ探せ!」

 

見物していたグループの大半が室内へと流れ込んでいく。その姿に呆れながら明日菜は祐を見た。

 

「いいの?あれ」

 

「別に見られたくないものはないし、いいんじゃない?」

 

「あんたがいいならいいけど…」

 

「それより明日菜、そろそろあやかを起こしてくれ。巻きつかれてるネギが苦しそうだ」

 

言われるまで気が付かなかったが、確認するとあやかがネギをがっちりと拘束している。あやかは幸せそうだがネギはうなされており、明日菜は急いでそちらに向かった。

 

「ハァッ!」

 

「せ、刹那さん…食材を切る時はそんなに気合を入れてやらなくても大丈夫よ?」

 

「す、すみません!いつもの癖で!」

 

「せっちゃん、リラックスリラックス」

 

(いつもの癖って何かしら…)

 

千鶴と木乃香に見守られながら調理を行う刹那の姿に、祐は人知れず優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

『いただきま~す!』

 

全員が席に着いて手を合わせてから一斉に食べ始める。宛らキャンプのようだ。

 

「あ、これ明日菜が最初らへんに切った葱だろ」

 

「分かるもんなの?」

 

「うん、腕力に物を言わせてぶった切った形してる」

 

「悪かったわね!」

 

「まぁ、後半は上手くなってたよ。それにこれはこれで明日菜の愛を感じる」

 

「キモッ!」

 

「キモいと言うな」

 

いつも通りの会話をすると日常に帰ってきたと実感できた。体感一日の出来事だったが、良くも悪くも濃密な時間だったのは間違いない。

 

「くっ!早く起きていれば私の手料理をネギ先生にご提供できたというのに…!不覚ですわ!」

 

「そんなの誰も食べたくないよ」

 

「帰れ~」

 

「誰ですか!今失礼なことを言ったのは!」

 

「逢襍佗君が言いました」

 

「擦り付けるんじゃない、言ったのはネギだろ?」

 

「言ってませんよ!?」

 

「どう聞いても女性の声でした」

 

朝からなんとも賑やかな雰囲気である。彼女達が集まれば、そこが何処だろうとお祭り会場になるのだろう。普段の朝とは違い過ぎる光景に、祐は少し不思議な感覚がした。

 

「にしてもいいわねここ。住宅街から離れてるから騒いでも大丈夫だし」

 

「でもスーパーとかは割と近いよね。便利そう」

 

「溜まり場にもってこいだね!」

 

チア部の三人がそんなことを言っていると、しっかりと聞いていたあやかが反応する。

 

「そんなの認められませんわ!一人暮らしの男性の家に入り浸るなど!」

 

「なんでダメなの?」

 

「なぜって…それは…」

 

風香が純粋に質問してきたのであやかは言い淀む。理由はしっかりとあるが、淑女としてそれを言うのは憚られた。

 

「エッチなことになるからじゃない?」

 

「柿崎さん!」

 

「うえっ!?祐!僕が家に来たらエッチなことするのか!?」

 

「お前にはしねぇよ見くびるな」

 

「どういう意味だ!」

 

「い、委員長さん!エッチなことって例えばどんなことですか!」

 

「あれ、さよちゃんって意外とムッツリ?」

 

「朝から楽しいね~」

 

「うん」

 

昨日に勝るとも劣らない騒ぎようにまき絵とアキラがしみじみと言う。周りと会話をする祐は、妹達に付き合ってくれる兄のようだとアキラはなんとなく思った。そんな時、ザジがふらっと席に戻ってくる。

 

「あっ、ザジさん。どこ行ってたの?」

 

「洗面台をお借りしてました。あと私用の歯ブラシも置いておきました」

 

「こやつ…できる!」

 

「何がだよ」

 

 

 

 

 

 

「こうしているのも退屈だな…なぁ、ランスター執務官。少し話でもしようじゃないか」

 

ミッドチルダを目指し、飛行を続ける次元空間航行艦船。拘束された状態のムティナが、監視役を交代したティアナに話し掛けた。二人一組で見張っている為にもう一人局員がいるのだが、そちらは眼中にないようである。

 

「口まで拘束されたくなかったら静かにしてて」

 

「いやはや、冷たいねぇ」

 

突き放すようなティアナだったが、ムティナがしてきたことを思えば当然の対応である。しかしムティナに気にした様子はなく、構わず話しだした。

 

「モデナはあっちでどんな判決を受けると思う?因みに私はあっても軽い罰で済むと踏んでいる」

 

返事はしないが目線だけは向けた。それで充分だったのか、ムティナが続ける。

 

「例え罪を犯した者であっても、利用価値があると判断すればとことん利用する。それが君達時空管理局のお家芸だからだ」

 

向けられていた目が鋭くなったのを感じた。これで少しは退屈な時間は潰せそうだ。

 

「あと、これは今の話とは関係のないことだが…君達を足止めした私の発明品があったろう?」

 

発明品とは祐が停止させたあの装置のことだろう。どういった仕組みかは分からないが、説明通りならあの装置は時間を局地的にではあるが操作できるものだった筈だ。

 

「あれを作った時に思ったんだ。時間とは、存外脆いものなんだとね」

 

「少し前まで、時間なんてものは到底どうこうできるものではないと思っていた。だがそれは私の勝手な思い込みだったよ」

 

経験からムティナの話を真面目に聞くのは得策ではないと思っている。ところが実際はその考えとは裏腹に、彼女の話に耳を傾けてしまっていた。

 

「私は思うんだ。そう遠くない未来…時間旅行は魔術師連中が言う真の魔法から魔術、もしくは科学となるぞ」

 

「…何が言いたいの」

 

つい疑問を口にしてしまったティアナ。反応が返ってきたことにムティナは嬉しそうにほくそ笑んだ。

 

「君達が守らなければならないのは『現在(いま)』だけではなくなるかもしれないということさ」

 

何を馬鹿なと聞き捨てすればそこまでだ。けれど時間操作をこの身で体験したせいか、どうしても荒唐無稽な話だとは思えなかった。

 

「最高だろ、期待が膨らむよ。そこで気になるのはあの子だ。あの光は何処まで届くと思う?仮にだ。仮にもしあの光が次元も、そして時さえも超えるというのなら…いよいよあれは手に負えないぞ」

 

ティアナは表情を暗くする。祐は優しく、そして善人だと感じた。誰かの為に戦うことのできる人物だと。だからこそ不安になる。このままあの力が広く大勢の目に留まれば、きっと彼自身が標的となってしまうだろう。そうなってしまった時、祐はどのように動くのだろうか。

 

「危険だな、あの子は。野放しにしておくには余りにも危険だ」

 

ムティナは楽しそうに呟いた。ティアナは今後の事を考える。

 

事件の内容は上に報告しなければならない。そして祐のことも。時空管理局として、逢襍佗祐という人物をどう捉えるべきか。これは自分の信頼できる人達と話しておくべきかもしれない。まずは彼のことを知っているクロノからだと決めた。彼が忙しい身であることは知っているが、きっと協力してくれるだろう。

 

「ご親切にどうも。これからやらなきゃならないことを明確にしてくれて」

 

「気にしないでくれたまえ。もしこの私の命が続くのなら、是非とも知りたい。この世界と…あの光の行く末を」

 

 

 

 

 

 

モデナとムティナ。一人の人間から別れた二つの存在。そこから生まれた事件はここに終わりを迎えた。しかしその先に待っているものは平和な世界ではなく、新たな事件と新たな戦いだ。少しずつ混迷を増すこの多次元世界において、その行く末を知るものは誰一人として存在しない。

 

虹の光。かの光が導く先にあるものもまた、誰一人として知らない。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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