Arco Iris   作:パワー系ゴリラ

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感じたままに動くということ

「恋愛相談かぁ、いやぁ青春ですな〜」

 

「裕奈おじさんっぽいな…」

 

あれから午前の授業を終えたA組は各々昼食の準備を始める。弁当を取り出した裕奈が先程の恋愛相談を話題に出した。

 

「だってさ~、うちのクラスだとまず聞かない話じゃん。みんなも少しくらいなんかないの?」

 

「そういう裕奈は?」

 

「私にはお父さんが」

 

「あ〜はいはい…」

 

「なんだその反応は!」

 

まき絵の反応に怒った裕奈が彼女を追いかけた。少し離れた場所で聞いていた和美も同じ話をする。

 

「私も同感。記者としてこのクラスはそっち方面だと全然ネタがないんだもんね」

 

「朝倉にだってないでしょ」

 

「私はいいの。この朝倉和美に恋にかまけてる時間なんてないわ、そんなことしてたらスクープを逃すってもんよ」

 

「ふむ、二兎を追うものは一頭も得ずでござるか」

 

「そういうこと」

 

「結局一頭も取れてない状態が続いていることに関して一言お願いします」

 

「黙れ」

 

夏美からのツッコミも軽くかわす和美だったが、手でマイクを持ったふりをする風香にインタビューされると乱暴に突き放した。

 

「散々人のゴシップネタで飯食っておいて、自分のことは棚に上げるのか!」

 

「恥を知れ!」

 

いつの間にやらクラスからバッシングを受け始める。しかしその内容には納得できない。

 

「私がいつそんな金の稼ぎ方したってのよ⁉︎」

 

「胸に手を当てて考えてみろ!」

 

「私が当てましょう。うん、でかい」

 

「しれっと触るな!」

 

触るというか揉んできた美砂の手を振り払う。まったく油断も隙もない。

 

「エッチな身体してるのにもったいないよお嬢ちゃん。簡単に稼げる方法があるんだけど」

 

「やめろエロ親父」

 

「おぶっ」

 

肩を組んで怪しいことを言うハルナの顔を手で押し返した。そこそこな強さに首が持っていかれている。

 

「浮いた話がほとんどない我がクラスですが、有識者である柿崎さんはどのようにお考えですか?」

 

再びインタビューを行う風香は美砂にエアマイクを向けた。美砂は得意げに髪を横に流してから答える。

 

「そもそもみんな固っ苦しく考えすぎなんじゃない?別に一回付き合ったら絶対その人と一生を添い遂げなきゃいけないなんてことないんだから、ちょっといいかなって思ったら試しに付き合ってみればいいのよ」

 

「おお〜」

 

「なんかそれっぽいこと言ってる」

 

「悪かったわね」

 

多少茶化されてはいるが、美砂の話はクラスメイトの関心をそれなりに惹いていた。経験はなくとも興味はあるのだ。

 

「でもそれってなんかチャラくない?」

 

「それは考え方次第よ。すればするほどいいなんて言うつもりはないけど、なんだって回数を重ねた方が上手くもなるし理解も深まるもんでしょ?恋愛だって同じよ」

 

話半分で聞いてる者もいるが、真剣に耳を傾けている者も何人かいた。今までしっかりとそういったことを考えていなかった方の割合が多いことも関係しているかもしれない。

 

「いいことや楽しいことばっかりじゃないけど、それも勉強の内。まず実際やってみないことには、なんにも分かんないからね。初めっからなんでも上手くはいかないわよ」

 

「さすが実際に上手くいかなかった美砂が言うと説得力が違うね」

 

「おう美空、やっぱり表出るか?」

 

その一言で教室内も軽い調子に戻るが、美砂が話していたことは数名には深く残ったようである。

 

「さ〜て…真面目な話はこれくらいにして、私もご飯食べに行こっと」

 

「行くって学食?珍しいね」

 

立ち上がる美砂を見ながら桜子が言った。美砂は基本的に昼食は購買で簡単に済ませている。

 

「今日は奢ってくれる人に当てがあるの。その人にお願いするわ」

 

「さっそく男の匂いがしますよ!」

 

「アッシー君もといメッシー君だね!」

 

「アッシー君とか古いわね」

 

「そもそもなんでそんなの知ってんのよ」

 

話が逸れたところで円が頬杖をつきながら美砂を見る。

 

「その人って変な人じゃないよね?」

 

「相変わらず心配性ねぇ。大丈夫よ、なんなら円も一緒にどう?円も知ってる人よ」

 

「私も?」

 

「じゃあ私も行く〜!」

 

「言うと思った。まぁ、別に大丈夫でしょ」

 

始めからこうなるだろうなと思っていたので、美砂は円と桜子を連れて目的地に向かった。

 

 

 

 

 

 

「祐、昼はどうする?」

 

「ああ、今日は飯奢る約束してる人がいるからその人と食べるわ」

 

純一に答える祐は席から立ち上がって伸びをした。

 

「びゃ~~~」

 

「伸びする時に変な声出すなよ…」

 

「仕方ないだろ、出ちゃうんだから」

 

そんな話をしているとドアからこちらを覗く美砂が見えた。お互いに気付いて手を振る。

 

「もしかしてあの子?」

 

「休み時間にちょっと協力してもらったから、そのお礼」

 

「協力って…なにを?」

 

「迷える少女を導いてもらった。これ以上はお話しできません」

 

「さようでございますか…」

 

「そんじゃ失敬」

 

祐が詳しく話さないということは何かしら理由がある。それを知っている純一は言及することはなかった。軽く手を上げて去っていく祐を見送り、純一は正吉達のところへ移動する。

 

「ハーイ逢襍佗君、奢ってもらいにきたわよ」

 

「へい、奢らせていただきます」

 

教室から出て美砂と顔を合わせると、彼女の後ろには円と桜子もいた。

 

「なんだ、相手って逢襍佗君だったのね」

 

「俺で悪かったな!」

 

「ごめん…そういう意味じゃなくて…」

 

「キレすぎでしょ」

 

美砂の言う相手が心配するような人物ではなかったという意味で言った円だったが、話の流れを知らない祐からすればがっかりされたように思えても仕方がない。ただそれを踏まえても沸点が低すぎる。

 

「逢襍佗君なら大丈夫だね!私はお昼何にしようかな~」

 

「分かってるとは思うけど、椎名さんは自分でお金出すんだよ」

 

「え?」

 

「え?じゃねぇよ」

 

 

 

 

 

 

それから学食で注文を終えた美砂達は、料理が置かれたトレーを持ってテラス席に座った。強風というほどではないが、少し今日は風がある。

 

「少し前まで暑かった気がするけど、すっかり気温も下がったね~」

 

「冬の訪れってやつか、堪りませんな!」

 

「テンションたかっ」

 

「逢襍佗君冬好きなの?」

 

「一番好きです」

 

「私寒いの嫌いだなぁ」

 

「それはつまり、俺が嫌いってことだね」

 

「そんなこと言ってないんだけど!?」

 

「だってほら、俺ってさむいから」

 

「えぇ…」

 

「逢襍佗君自分のことさむいと思ってんの…?」

 

食事をしながら話を続ける四人。いつもの三人に祐が入ることによって、普段とは違う空気を美砂達は感じていた。不思議な感覚はしても決して嫌な気分はしない。

 

「恋愛の話なんて久々にしたわ」

 

「一応少し前に千鶴のことはあったけど、あれはちょっと違うか」

 

9月の頭に起こったハラートの一件からもうじき二か月が経とうとしていた。もっと前のような気もすれば、ついこの間のような気もする。今年の六月から事件が立て続けに起きていることからも、終わりが見え始めた2022年は正に祐や彼女達にとって激動の年であった。

 

「あの時公園で逢襍佗君睨み合ってたよね!」

 

「俺は睨んでない!勝手に睨まれただけ!」

 

「そこ重要?」

 

「重要だよ、内心めっちゃびびってたんだから」

 

「でもそんな感じしなかったわよ。さり気なく千鶴の前に出て庇ってたし、あの時はちょっとかっこよかったかも」

 

「まぁ、そう言われると俺格好いいよね」

 

「なんだこいつ」

 

祐は誰と話している時も着飾ることをしない。ありのままの自分と言えばいいのか、とにかく常に等身大だと思う。それが美砂達を始め、A組に受け入れられている要因の一つかもしれないと円は祐を見ながら考えていた。また彼は面倒見がいい部分もある。天真爛漫な桜子や風香が懐いているのがいい証拠だろう。今も横から指でちょっかいを掛けてくる桜子に律儀に反応している。ただ単に一緒になって遊んでいるだけの可能性も大いにあるが。

 

「恋と言えば、逢襍佗君はどうなの?悩みがあるならお姉さんが相談に乗るわよ」

 

「恋の悩み?ないない、俺は恋とは遠い場所にいるタイプの…喋ってる時はつつくんじゃない!」

 

「あははは!」

 

「桜子ストップ」

 

美砂に服の襟を掴まれた桜子は大人しくなる。親猫に連れていかれる子猫のようだ。

 

「とは言ってもさ、今までに一人二人好きになった子くらいはいるでしょ?」

 

「いるね」

 

「「「いるの!?」」」

 

「おかしいな…今いるでしょって聞いたよね?」

 

驚愕の表情を浮かべる三人。確かにそう聞いたのは円だが、こんな素直に返答がくるとは思っていなかった。

 

「だれだれ!?」

 

「私達も知ってる人!?」

 

テーブルから身を乗り出して顔を近づける美砂と円。反して祐は呆れ顔である。

 

「言うわけないでしょうが」

 

「ここまできてそりゃないでしょ!」

 

「吐け!吐いちまえ!」

 

「吐かねぇよ」

 

「私だったりして!」

 

「じゃあそれでいいよ」

 

「逢襍佗君サイテー!ば~か!」

 

「なんでだよ!」

 

投げやりに桜子へ同意してみれば何故か暴言を吐かれた。この答えは桜子にはお気に召さなかったようである。

 

「先っちょだけ!先っちょだけ教えて!」

 

「全部じゃなくていいから!何かヒントだけでも!」

 

「何をそんなに躍起になってんの…そもそも先っちょってなんだ」

 

興奮冷めやらぬ二人に祐は若干引いている。女性は恋愛話が好きとは何となく聞いたことがあるものの、ここまで食いついてくるとは思いもしなかった。そういった人物がいたことぐらいは話してもいいかと深く考えずに喋ったが、これは口が滑ったかもしれない。これ以上詳しく答えるつもりがないなら適当に嘘をつけば済む話ではある、だがそれをする気にはなれなかった。価値のない意地だとしても、そのことに関して嘘はつきたくない。

 

「言っとくがどれだけ聞かれても答えんぞ!墓場まで持っていくと決めている!」

 

「そんなの生殺しもいいとこじゃない!」

 

「じゃあ柿崎さんは言えんのか!」

 

「初恋は幼稚園!相手は先生!」

 

「そんなしょうもないもんと一緒にしないでくれないか!」

 

「しょうもないだと!」

 

遂に美砂は立ち上がって祐の胸ぐらを掴むと、前後に思い切り揺らした。

 

「私の初恋をしょうもないと言ったか!」

 

「しょうもないだろ!そんなんでいいなら俺の初恋は母親だ!これで満足か!」

 

「しょうもないこと言ってんじゃないわよ!」

 

「因みにその次は誰!」

 

「言わねぇつってんだろ!」

 

 

 

 

 

 

「今日はこれくらいで許してあげるわ!」

 

「次は聞き出してみせるから!」

 

「またね~逢襍佗君!」

 

昼休みも終わりに近づき、食べ終わった食器を返しにいく為食堂に戻っていく美砂達。激闘の末、祐は地面にうつ伏せに倒れていた。朝から数えて本日二度目である。

 

「なんて乱暴な奴らだ…ここまでこの学園の風紀は乱れてたのか…」

 

「祐さん…大丈夫ですか?」

 

後ろからの声に祐は仰向けになって相手を見る。困惑一色のネギがそこには居た。

 

「やぁ、ネギか。大丈夫だよ、ちょっと袋叩きにされただけ」

 

「大丈夫じゃないですよね…」

 

起き上がって服を払うと椅子に座った。隣の椅子を軽く叩く。

 

「まぁ、立ち話もなんだ。休み時間の終わりまで少しあるし、暇なら話でもしよう」

 

言われたネギは隣に腰掛ける。外を歩いていたところ、少し先に倒れている祐と去っていく美砂達を見て何事かと思い声を掛けたのだ。

 

「もう昼飯は食べた?」

 

「はい、木乃香さんに作ってもらったお弁当をいただきました」

 

「この幸せ者め、マウント取ってんのか!」

 

「違いますよ!」

 

ふとテーブルに目を向けると、祐の物であろう既に空のタッパーが置かれていた。それを見てなんとなく予想がつく。

 

「祐さんは…いつも通りですか?」

 

「まぁね。今度ネギの分も持ってきてやろう」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

正直嫌でもなければ嬉しくもない申し出だった。しかしそこはネギ、愛想笑いで応える。年下の少年に愛想笑いをさせるのは如何なものだろうか。一旦会話が途切れて祐はネギを見た。その様子は少しそわそわしているように感じる。ネギの分かりやすさに笑った。

 

「なんか聞きたいことあったら、気軽にどうぞ。なるべく答えるよ」

 

肩が跳ねるネギ。一瞬ごまかそうかと思うも、素直に話すことにした。

 

「あの、祐さん…何か、何か僕にしてほしいこととかあったりしませんか!」

 

椅子から前のめりになって聞いてくるネギに祐は呆気にとられた。気持ちが前に出過ぎているからか、ネギは祐の顔を見ずに続ける。

 

「どんなことでもいいんです!僕なんかじゃ碌に祐さんの助けにはなれないかもしれませんけど…それでも何か一つくらいは」

 

そこでネギの言葉が止まる。頭に優しく手を乗せられたからだ。乗せられた祐の手は、そのままネギを撫でた。

 

「ありがとうネギ、そう言ってくれるのは凄く嬉しいよ。でもその前に、どうしていきなりそんなこと聞いてきたんだ?」

 

ネギが視線を上げて祐の顔を見つめる。その顔は笑っていて、同時に困っているようにも見えた。

 

「あっ、ごめんなさい。確かにいきなりでしたよね…」

 

ネギの頭の中にはエヴァに言われたことが残っていた。祐は誰かに助けられることを望んでいない、自分のことは心配せずに周りには楽しく暮らしてもらいたい。それでもネギは祐の力になりたいのだ。実際祐を助けられるかは分からないが、自分でも何か一つぐらいは手助けができる筈だ。そう思ったのが理由だが、エヴァに聞いたことを祐には言い出せなかった。無意識にそこは隠して伝える。

 

「今回も祐さんは一人で事件を解決してくれました。それ以外にも僕はいつもお世話になってばかりなので、少しくらいはお役に立ちたいんです」

 

隠し事はしたが今言ったことは嘘ではない。純粋にネギは祐に恩返しをしたいと思っている。だからこそ先の発言には迷いも動揺もなかった。ネギの想いを聞いた祐は頭を掻く。純粋な想いというのはいつだって強いものだ、少なくとも祐には跳ね返すことなどできない。

 

「そんな風に言われると別に気にしなくていい、なんて言えないなぁ…」

 

目を合わせれば『なんでもどうぞ!』と言わんばかりの熱のこもった視線を受ける。頭の片隅では最近強敵が増えてきたとくだらないことを考えていた。

 

「じゃあさ、ネギがしたいと思ったことをやってみてよ」

 

「したいと思ったこと…ですか?」

 

首を傾げるネギ。これだけでは分からないのも当然なので、祐は続きを話し始めた。

 

「ネギも知ってると思うけど、俺は好き勝手やってる。だから俺の方から色々注文するのはなんか違う気がするんだよね」

 

祐をしっかりと見つめ、一言一言を聞き逃さないようにと集中している。その素直さに不安を覚えると同時に、この性格だからこそネギは大切にすべき存在なのだと改めて感じた。

 

「だから俺がどうとかあんまり難しく考えないで、ネギが感じたまま行動してほしいな。ネギは優しいから色々気を遣って自分の意見を通すってのが苦手な気がするし、その練習も兼ねてさ」

 

「でもそれって祐さんの役に立つこととは関係ないんじゃ…」

 

「そんなことないって、俺はネギが自分の望むことの為に動いてくれるのが一番嬉しい。それにだ、ネギがそうすることはきっと俺を助けてくれることにいずれ繋がるよ」

 

頭を捻って考えるもネギには今一その二つの繋がりが見出せない。悩むネギに笑顔を浮かべる祐は両手で頬に触れると、顔を上げさせた。

 

「今は分かんなくても問題ないよ。その内分かるさ、その内な」

 

笑ってみせる祐だが、ネギは少し不満気だ。珍しい表情を見れた気がする。

 

「なんだか…煙に巻かれたような気がします…」

 

「おっ、いいぞネギ。俺のことは基本的に疑っといて損はない、信用しても得しないからね」

 

すると今度はネギがムッとした顔になる。コロコロと表情が変わるのはある意味取り繕っていない証拠だ。それでいい。色々と背負っている幼い少年が、自分と居る時ぐらい心のままに過ごしてくれるならこんなに嬉しいことはない。

 

「祐さんは少し自分のことを卑下し過ぎだと思います!そういうのは良くないってネカネお姉ちゃんが言ってました!」

 

「ネカネさんてネギのお姉さんみたいな人だっけか?そういや顔は知らないな…美人ですか?」

 

「なんですか急に⁉︎」

 

「いや、何ってわけじゃないんだけど…その人の写真は?ラインやってる?」

 

「もう!祐さん!」

 

不真面目な祐に詰め寄るネギ。ただ如何せん可愛らしさが目立ち、威圧感はなかった。

 

「まるで兄弟ね」

 

「ネギ先生、なんだかのびのびしてる気がします」

 

物陰から二人を覗くのは和美とさよだ。実のところ美砂達を教室からつけており、今まで観察をしていたのだ。

 

「年上なのは私達もだけど、逢襍佗君は同性だし何かとネギ君のこと気に掛けてるみたいだからそこら辺が特別なのかも」

 

「逢襍佗さんはネギ先生のお兄さんみたいな存在なんですね!」

 

今は何がどうしてそうなったのか、祐がネギを両手に抱えた状態で左右に勢いよく身体を振っていた。時折ネギの悲鳴が聞こえる。

 

「あれは何をしてるんでしょうか?」

 

「さぁ…」

 

(それにしても逢襍佗君が好きになった人か…これに関しては下手に動くと失敗するわね)

 

全ては聞き取れなかったもののそれなりに大きな声で話していたところもあったので、美砂達が祐の好きになった人を聞こうとしていたのは分かった。非常に気になる話題である。しかしあの感じでは祐に聞いても教えてもらえないのは間違いなく、幼馴染組に聞いても知らないだろう。

 

(今は様子見が無難ってとこかな)

 

逸る気持ちは抑えて慎重を期すことに決めた。それは普段ならばあまり取らない選択だったことは、和美自身も気がついていない。

 

 

 

 

 

 

宇宙空間に浮かぶ一隻の宇宙船。その中には美しいピンクの長い髪をもつ少女だけしかいないが、その少女に話し掛ける声がした。

 

「ララ様、いい加減戻りませんか?皆さんも心配してらっしゃいますよ」

 

地球ではまず見ない服装に身を包む少女が被っている帽子と思われる部分から声は聞こえていた。その声に『ララ』と呼ばれた少女はツンとした表情を返す。

 

「絶対イヤ!帰ったらまたず~っとお見合いさせられるんだよ!もうお見合いなんてしないんだから!」

 

ララの説得をしたのはこれが一度や二度ではない。しかし結果は常にいやだの一点張りだった。

 

「お気持ちはお察ししますが、ララ様が一人でいるのはあまりに危険すぎます。各星の婚約者候補が狙ってくるのも勿論ですが、今の世界はあらゆる次元が入り乱れる言わば無法地帯。私としてもララ様のご無事を考えると気が気ではありません」

 

そう話す『ペケ』はララが作り出した意志を持つロボットである。ペケには様々な機能が搭載されている他にも、ララの一番身近に居ることから彼女の相談役でもあった。

 

「それは私だって分かってる。でも、あんな窮屈な生活には戻りたくないんだもん…」

 

「ララ様…」

 

ペケとしてもララには笑顔で毎日を過ごしてほしいと思っている。彼女の性格を考えれば今の生活に不満を感じるのも当然だろう。とはいえ今ララが渡っている橋は、ペケが言ったようにあまりに危険なのだ。

 

「と、言うわけで!こんなのを作ってみたよ!」

 

「どう言ったわけですか…」

 

一瞬で気分を切り替えたララは、ブレスレットが着けられた左腕の手首を見せる。まだ詳細を聞いてはいなくとも、ペケは凄まじく嫌な予感がした。

 

「新発明ぴょんぴょんワープくん!これを使えば遠くにも一瞬で移動できるの!」

 

「素晴らしい発明だとは思いますが、それをどうするおつもりで?」

 

「もしもの時に使うんだよ」

 

「因みに使ったらどこに移動するんですか?」

 

「う〜ん…わかんない!」

 

ペケは今すぐぴょんぴょんワープくんを木っ端微塵に消し飛ばしたくなった。しかしララを刺激するのは得策ではない。優しく語りかけるようにして、その恐怖の装置をしまってもらおうとする。

 

「ララ様、どうかご乱心なさらず。私の話をよく思い出してください、今ララ様が置かれている現状は」

 

「見てペケ!なんか青くてきれいな惑星が近くにあるよ!」

 

「話を聞いてくださいララ様」

 

「よーし!次はあの星に決めた!発進!」

 

「ララ様ぁ‼︎」

 

発見した惑星に全速全身で宇宙船の舵を切るララ、ペケは今まで出したことがない程の大声を出した。動き出した宇宙船は瞬く間に目的の地への距離を縮めていく。

 

「さぁいくよペケ!新しい冒険に!」

 

「お願いですからせめて平和な惑星でありますように!」

 

宇宙船のデッキから覗く青い星、地球を指さして旅立ちを宣言するララと慎ましい望みを懇願するペケ。こうと決めれば一直線のララに対して、止める術を持たない自分が恨めしいペケだった。

 

ララ達が目指す地球という星。この星がペケの望む平和な惑星かどうか、それはすぐに判明するだろう。

一番好きな章は?

  • 序章・始まりの光
  • 幽霊と妖怪と幼馴染と
  • たとえ世界が変わっても
  • 消された一日
  • 悪魔よふたたび
  • 眠りの街
  • 旧友からの言葉
  • 漢の喧嘩
  • 生まれた繋がり
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