「ララさんてそんな凄い人だったんだ…」
芝生広場にて昼食をとる祐達。ララは刀子と近くの購買に行き、気になった物を刀子自身の分も含めて買ってくれたようだ。今は明日菜達にララの事情を説明し終えたところである。
「う〜ん、私が何かしたわけじゃないし…別に私は凄くないよ?」
「は、はぁ…」
とは言えやはり別の惑星のお姫様と聞くと無意識に背筋が伸びてしまう。知り合いに財閥のお嬢様はいても、流石にお姫様はいない。また嘗て現れた別の惑星の王子とは180度タイプも違った。
「ここで生活する以上私は普通の人。だから変に気にしないで、同い年なんだしできれば仲良くしてほしいな」
「まぁ、ララさんがそれでいいなら」
「ならウチらがララちゃんの地球で一番最初のお友達やね」
「それいいね!うん、木乃香達が私の地球で初めての友達!」
嬉しさで満ちた表情をララは見せた。そうまで喜ばれるとこちらも悪い気はしない。そんな中近くに他の生徒達が居なくとも、所々怪しい単語が周りに盗み聞きされてはいないかと刀子は心配から周囲を確認していた。
「先程も伝えましたが、デビルークさんの素性は混乱を防ぐ為にも一般的には隠しておく方針でいます。デビルークさんは元より、皆さんもお願いしますね」
「は~い!」
(大丈夫かよ…)
非常に返事はいいが、彼女の言動を考えると不安は拭えないリトだった。
「それでデビ…ララさんはいつから麻帆良に通われるんですか?」
普段余程気心の知れた相手でない限り名字で呼ぶ刹那ではあるが、本人達ての希望により慣れないながらもなんとか名前呼びをする。
「えっとね、いつから?」
「たぶん遅くても来週中には通えるようになるんじゃないかな」
「だって!」
ララからそのまま渡された質問に祐が答える。明日菜は怪しむ視線を祐に送った。
「なんであんたが知ってんのよ?」
「学園長にお願いして色々話したのが僕だからです」
「ふ~ん…」
「なんだその顔は」
「別になんでもないけど?」
「言ったな明日菜、今から覗いてやるから目を逸らすなよ」
「ちょっと!それは卑怯でしょ!」
覗かせてなるものかと急いで明日菜は両目を手で覆った。ララは不思議そうに二人を見ている。
「明日菜、急にどうしたの?」
「祐君は目をじっと見てると、その人の思ってることが分かるんやて」
「ただ見てるだけだと、かなり強い感情じゃなきゃ分からないけどね」
「ほんと?じゃあユウ!私が何考えてるか当ててみて!」
期待に満ちた瞳を向けられる。明日菜に対して冗談で言ったつもりだったのだが、本人からやってくれと言われたのならば応えるべきなのだろう。
「へ、へい」
「なんだよその返事…」
少し困惑しながらララと目を合わせる。大丈夫だとは思うが下手なものは見ないように注意していると、少しずつ考えていることを感じ始めた。
「……」
最終的にはこれでもかと言わんばかりにはっきりと見えた。しかし祐は見えた内容に困った顔をしてしまう。
「どう?」
「あ~、いや…」
「なによ?歯切れ悪いわね」
「俺の口からはとてもこんな事は言えない…」
「いったい何が見えたんだよ⁉︎」
「祐!あんたララさんをおふざけに巻き込むんじゃないわよ!」
「違う!俺はふざけてない!座れゴリラ!」
「誰がゴリラだ!」
「ブアッ!」
明日菜のビンタを受けて後ろに倒れようとしたところ、踏みとどまって方向転換をする。
「うわぁー」
「何故こちらに来るんですか⁉︎」
改めて倒れようとした先は刀子のいる場所だった。覆いかぶさるように迫る祐を、何をしようとしているのかいち早く察したリトが後ろから掴んで止める。目を見張るファインプレーだ。
「どさくさに紛れてセクハラしようとすんな!」
「離してくれ!あと少しなんだ!」
「なんの話だ⁉︎」
「リト!そのまま!」
「刀子さん下がってください!そこは危険です!」
リトに加勢した明日菜と刹那も祐を取り押さえた。呆気にとられる刀子。木乃香とララの二人は笑顔で祐達を見ている。
「みんな本当に仲良しなんだね、いつもこんなに楽しそうなの?」
「まぁ、大体こんな感じやね」
「いいなぁ〜」
(なんなのこの子は…!)
先程から刀子の祐に対する評価は右肩下がりであった。
無事取り押さえられた祐はシートから少し離れた所にうつ伏せに倒れている。最近地面を舐めさせられる機会ばかりに恵まれている気がするのは間違いではない。その内に座る場所が変わり、刀子は安全の為祐から一番遠い場所に移動させられた。左右を明日菜と刹那で固めた万全の体制である。
「んで、結局ララの考えてる事はなんだったんだ?」
リトからの質問に祐は芋虫のように近づくとスマホで文章を打ち、姿勢はうつ伏せのまま画面を見せると全員が覗いた。
『ここに連れてきてくれて、みんなに会わせてくれてありがとう!祐大好き!』
ララ以外の全員が気の毒そうな目で祐を見た。
「逢襍佗さん…冗談とは言え、最後の文を自分で打つのは悲しくなりませんか?」
「言ってくれんじゃねぇか小娘」
「すご〜い!本当に分かるんだ!」
拍手するララに視線が向かい、恐る恐る明日菜が聞く。
「え…ララさん、これあってるの?」
「うん!私が考えた事そのまま!」
「だ、大好きって…」
「私祐が大好き!リトもミカンも、ここにいるみんなも好きだよ!」
「あ、ああ…そういう」
恥ずかし気もなく言うララに周囲も押され気味だ。ここまで素直に想いを伝えられる人物はそういない。
「聞いたか桜咲さん」
「はい…」
「僕に謝罪をしなさい」
「も、申し訳ございませんでした…」
「では次に服を脱ぎなさい」
「…」
「ぐおっ!」
調子に乗った祐は刹那に背中を手刀で叩かれる。当然その事を咎める者はいなかった。
それから昼休みも終わりが近づいてきたので、ララと刀子は一旦学園長室に戻ることになった。二人を見送る祐達にララは大きく手を振って歩いていく。
「またえらく急な話ね」
「昨日の今日だからな、俺も未だに現実味がないよ」
明日菜に若干疲れた顔のリトが答える。彼女が現れてから今この瞬間まであっという間だったように思うのは、それだけ内容が濃かったという事だ。
「可愛い子やったね、きっとララちゃんならすぐに友達も沢山できるやろな」
「社交性の高い方でしたからね…」
「まぁ、この街と相性はいい気がするわ」
そんな会話をしている中、リトはふと朝の出来事を思い出した。明日菜達に聞いていいものなのか判断が付かなかったので、隣にいる祐に小声で話しかける。
「なぁ祐、朝の梨穂子の話覚えてるか?」
「告白されてたって話?」
「ああ。明日菜達は聞いてたのかな?」
「いや、どうだろう。知っててもおかしくはないけど…そんな気になるか?」
「気になるのは別って言うかさ…明日菜達も告白された事あんのかなって」
「う〜ん」
祐は腕を組んで考えだす。なんとなくその姿を眺めていると明日菜がこちらを伺っていた。
「ちょっと、何二人でこそこそ話してんのよ」
「えっ⁉︎いや、別に…」
明らかに目が泳いでいるリト。これでよく今まで祐の秘密を隠し通せたものだと明日菜は不思議に思った。
「明日菜は誰かに告白された事ってある?」
「いきなり聞くのかよ!」
考える仕草をとっていた祐が直球で質問する。一瞬固まる明日菜は少しずつ顔を赤くした。
「なっ!何よ急に⁉︎」
「いやね、今日梨穂子が前に告白されたって話を聞いたもんで」
「あれ?あんた達にも話したんだ」
「知ってたのか…」
明日菜の反応にリトが小声で呟く。どうやら知らなかったのは男連中だけだったらしい。異性の問題もあるのでそこはいいが、ここで話は終わらない。
「んであんの?」
「あ…えっと、その…」
明日菜はしどろもどろになって祐とリトから視線を逸らす。その反応にまさかとリトが思っていると、祐は腕を組んで明日菜を注視した。
「この様子…リト、明日菜告白されてんぞ」
「マジかよ!?」
「もう!なんで分かんのよ!あっ…」
つい口が滑ってしまい、手で口を抑えたがもう遅い。どうやら祐は覗いたわけではなく、鎌を掛けただけのようだ。
「それって中等部ん時やったよね」
「言わなくていいから!」
「あの、因みに返事はなんと?」
「刹那さんまで!?」
木乃香が補足すると興味があるのか刹那が聞いてきた。全員の視線が集中している事に居心地の悪さを覚える。
「こ、断ったわよ。そういうのってよく分かんないし…てかそもそも私には高畑先生がいるし!」
「お前まだそれ言ってんのか」
「リトうるさい!」
「おうおうなんだよ明日菜、君もちゃっかり青春してんじゃないの」
「うっ…」
自分でも何故だか分からないが、この話を祐に聞かれるのは途轍もなく恥ずかしい。それと同時に笑顔を浮かべる祐の反応に謎の苛立ちも感じていた。
「それを言うなら木乃香だってこの前告白されてたからね!」
「えっ!?」
「あれまぁ、木乃香もかい」
流れ弾が飛んできた木乃香が明日菜の元へ走って口を塞ごうとする。
「あ、明日菜!それ言うんは反則やろ!」
「私だけこんな話聞かれるのは不公平じゃない!木乃香も断ったんだから別にいいでしょ!」
小競り合いを始めた二人を眺める祐とリト。そこで一人反応がなかった刹那を見てみると、彼女は白目をむいた状態で立ち尽くしていた。
「き、気絶してる…」
「大丈夫なのか…えっと、桜咲さんだっけ」
「お~い、桜咲さ~ん」
「……はっ!」
祐が軽く刹那の肩を何度か叩くと意識を取り戻した。すると一瞬で木乃香との距離を詰めて両肩を掴む。
「どどどどどういう事ですかお嬢様!私はそんな話聞いてませんよ!?」
「せっちゃんに言うたら驚いてまうかな思って…」
「驚くに決まっているではないですか!どこの誰です!?お嬢様に近づく不埒な輩は今すぐ私が斬り伏せて!」
「落ち着いてせっちゃん!」
「刹那さん!一旦深呼吸しよう!」
気が付けば現場は大荒れしている。被害を受けぬよう静かに祐とリトは三人から少し距離をとった。
「軽はずみに聞くべきでなかったか…」
「どうすんだよこの状況…」
「まぁ、ほっときゃなんとかなんでしょ」
「投げやりかよ」
「にしても明日菜と木乃香もってなると、こりゃあやかにもあるかもね」
「ここまでくるとあっても不思議じゃないな」
ここにはいないあやかも告白されている可能性が出てきた。そうなると幼馴染の女子組は全員という事になる。
「男子組としては非常に情けない話でありますな」
「言うな、虚しくなるから」
「いったい僕の何が問題なんでしょうね」
「そういうとこだろ」
「でい!」
「いてっ!なにすんだ!?」
「すまん、イラっときたから」
「素直に言えばいいってもんじゃないからな」
他愛もない会話をしている間に刹那が冷静さを取り戻してきたので、明日菜達は落ち着き始めたようだ。
「すみません、取り乱しました…」
「こっちこそごめん…私も冷静じゃなかった」
「ウチもごめんな」
「いえ!お二人はなにも!」
「治まって良かったっすね」
「あんたが言うな!そもそもあんたが変な事聞くからこんなことになったんでしょ!」
いつの間にかこちらと距離をおいていた祐の腕を掴んで揺らす。身体全体が前後に大きく行ったり来たりているが、祐はなんてこともなさそうに笑っていた。
「そんな恥ずかしがらんでも、告白されるってのは明日菜達が周りから魅力的だと思われてるってことだろ?素敵じゃないの」
「そ、それは…てかあんたはどうなのよ!」
「されてたら聞かれなくても自慢しとるわ!」
「な、なんかごめん…」
様々な感情が入り混じったその発言に明日菜はつい謝ってしまった。どこか祐の背中に哀愁を感じる。
「当たり前だけど明日菜達は高校生なんだし、恋の一つや二つしたっておかしくないか。なんというか時の流れを実感するな」
「あんただって高校生でしょ」
「仰る通り。でもまぁ、俺には縁のない話だから」
「……」
少し眉間に皺を寄せて祐を見る明日菜。そこで昼休み終了まで10分前であることを知らせるチャイムが鳴った。
「あっ、片付けせんと」
「そうですね」
レジャーシートなどを片付けだす木乃香と刹那。明日菜も二人の元へ向かうと、祐とリトも参加した。大量の荷物があるわけでもないので片付けはすぐに終わる。
「昼飯も食ったし、午後も頑張っていきましょう」
「調子いいなお前は」
「そんなのはとっくにご存じだろ?」
「はいはい…」
呆れた様子で祐を流すリト。木乃香はそれに微笑んで二人に手を振った。
「そんじゃ祐君リト君、またな~」
「またね」
「失礼します」
三人が軽く挨拶をして教室に戻っていく。その背中を見送ってから祐達も動き出した。会話をしながら校内に入ったところでリトが立ち止まる。
「俺トイレ。先に行っといてくれ」
「はいよ、そんじゃまた放課後な」
「おう」
リトとは彼の両親にララの事を伝える為、放課後また落ち合う事にした。その場で分かれ、祐は一人教室を目指す。
「…余計なこと言っちまったな」
教室に戻ってきた明日菜達は自分の席に座る。クラスメイト達も同じようにしている中、木乃香が明日菜を見た。
「明日菜どうしたん?なんや難しい顔しとるけど」
「う~ん、なんて言うかさ…」
表情はそのまま考えを言葉にしようとする。上手く言えるか分からないが、暫くして口を開いた。
「祐が最後に言ってたこと聞いた?」
「最後?…午後も頑張っていきましょう?」
「いや、そっちじゃなくて…」
明日菜が引っ掛かった部分はそこではない。しかしこちらも言葉足らずだっただろう。
「俺には縁のない話だからってやつ」
「ああ、うん。言うとったね」
「どう思う?」
木乃香は上を向いて考える。段々とその顔は悩まし気に変化していった。
「なんやろ、上手く言えんけど…寂しい。かも…」
明日菜は深く息を吐いた。彼女は今、少々不機嫌である。
「私、祐のああいうところ…好きじゃない」
放課後リトと待ち合わせた祐はさっそく才培に電話をした。返事は予想通りララの同居を承諾するもので、その即決具合にこちら側が逆に不安になる。そして繋がるか望み薄だった林檎とも運よく話すことができた。返答は言わずもがなである。
祐が二人にそんなすぐ決めて大丈夫なんですかと聞けば、逆にお前は最近大丈夫なのかと聞き返された。話題がこちらに向きそうだったので祐は逃げるように通話を少々強引に終わらせる。早々に話が決まり、今はリトと別れて帰宅している最中だ。近右衛門からの連絡ではララは既に我が家にいるらしい。恐らく鍵は近右衛門に渡してあった合鍵を使ったのだろう。
玄関に着いてドアノブに手を掛けるとやはり鍵は締まっていなかった。不用心だが地球の家の勝手などララが知っている筈もないので仕方がない。ドアを開けると奥から足音が聞こえてくる。暫くして走ってきたララが現れた。
「おかえりユウ!」
「おかえりなさいませユウ殿」
「ただいまララさんペケ、リトの家と違って狭かったでしょ?」
「確かに私の住んでた部屋より小さいかも」
「素直でよろしい。では出ていきなさい」
「えぇ!?」
「ララ様、ここは恐らくそんなことないと言うべきだったようです」
軽く冗談を飛ばしてから祐も家へと上がり、部屋に入ると荷物を置いてテーブルの前に腰かけた。住む場所が決まった話をしようと思っていると、ララは昨日と同じように真隣に座る。
「…ララさん、そこだとちょっと話しにくいからテーブル挟んで座ろうか」
「そう?こっちの方が顔もよく見えるよ」
「……そうっすね」
無理に離れさせるのもどうかと思ったのでそのまま話すことにした。恐ろしい、なんとも恐ろしい人物である。祐にとってこれ程危険な相手はそういない。
「さっきリト達のご両親と連絡が取れたんだ。予想はしてたけど、二人ともララさんが住むのを快く承諾してくれたよ」
「そうなると…」
期待を込めた視線を向けるララに祐は頷く。
「うん。これからララさんは、リトや美柑ちゃんと一緒に暮らしていくことになった」
「ほんと!?やった~!」
両手を上げて喜ぶララ。その反応に祐は優しく微笑んだ。
「てなわけだから、もう今日からでもリト達の家に」
そこではっとしたララは突然立ち上がり押し入れに向かって走ったかと思うと、襖を開けて中に入ってしまった。何がなんだか分からない祐は唖然とする。
「イヤ!今日は祐のお家に泊る!」
「何を意地になっとるんだこの子は…」
頭から押し入れに入った為、下半身はこちらに見えている。頭隠して尻隠さずと言うやつだ。現在のララの服装は麻帆良学園の女子制服なのでこの角度は非常に際どい。
「ララさん、取り敢えずそこから出よう」
「あの時今日は泊っていいって言ったもん!追い出そうとしたって出てあげないんだから!」
「えぇ…」
「ユウ殿、こうなるとララ様は梃子でも動きませんよ」
何故そこまでしてここに泊りたいのだろうか。知らない星の住居とは言え然程いいものでもないだろうに。しかしララの言う通り泊っていいと言ったのだ、そこに関しては認めざるを得ない。
「わかった、今日は泊っていきな。だからこっちおいで」
態勢的にそうなるのは仕方がないのだが、ララの臀部に向けて話し掛けているこの姿はなんとも滑稽である。なるべく早くこの状態から脱したい。
「…嘘じゃない?」
「はい、誓います」
するともぞもぞと後退してララが顔を出す。同い年の筈だが、どうにもララは幼い妹といった印象が強い。
「泊まるってなったら色々用意しないと。よし、買い物行こっか」
「いく!」
すぐさま玄関に向かうララの姿と切り替えの早さに祐は苦笑いを浮かべた。自分も立ち上がろうとした時、ある考えが頭を過る。
(待てよ…平日の夕方とは言え商店街に行けば知り合いとばったりなんてこともあり得る。そうなったら面倒だし、かといって俺一人で女性物の下着とかを買うのは御免被りたい)
ペケが服をコピーすればいい話ではあるものの、エネルギーを使うのならペケにも休む時間は必要だ。今更恥も外聞もない祐ではあるが、可能ならば店員に不審者を見る目を向けられたくはない。こういう時に誰の力を借りるべきかと勘案していると、一人の人物が思い浮かんだ。
「あ~ララさんちょい待ち」
「ん?どうしたの?」
「買い物なんだけど、助っ人を頼もうと思うんだ」
「すけっと?」
「それでは行って参ります」
「行ってきま~す!」
「いってらっしゃい。茶々丸、お願いね」
「お任せください」
歩いていく茶々丸とララを玄関から見送る。助っ人として白羽の矢が立ったのは茶々丸だった。祐の事情も知っていれば口も堅く、それでいてあらゆる分野で有能な茶々丸は最善の相手だ。ララの説明、そして知り合いに出会った時用の口裏合わせが済んだ状態で二人は商店街へと繰り出す。目的地までは数分も経たぬ内に到着した。
「人がいっぱい!お店もいっぱいだね!」
「麻帆良でも栄えている場所の一つですから。この時間帯は夕食の準備をしている方も多いようです」
目を輝かせるララは周りを忙しなく見回している。ふらふらとどこかに行ってしまいそうな様子に茶々丸は右手を差し出した。
「茶々丸?」
「人が多いとはぐれてしまう可能性が高くなります。よろしければお手をどうぞ」
一瞬茶々丸の手を見つめたララはすぐに笑顔になると左手で握る。
「うん!お願いね!」
「はい」
手を繋いで商店街を歩く二人。事情を知らない周囲からは、かなり仲の良い友達に見えるかもしれない。
「ありがとう、茶々丸って優しいんだね」
「いえ、そんなことは」
自分でも驚くほど無意識に行動していた。何故だろうと考えれば、すぐに答えが浮かぶ。今の状況が大切な思い出と重なったからだ。
「私も…初めてここに来た時、同じようにしていただいたので」
優しく微笑む茶々丸は、ララの目にとても美しく映る。例え身体が機械で出来ていても、彼女には間違いなく感情があった。
「もしかして、そうしてくれたのってユウ?」
ララが聞くと茶々丸は少し驚いた顔をしている。この反応から見て正解のようだ。
「どうしてお分かりに?」
「なんとなく!そうじゃないかな〜って」
当たった事が嬉しそうなララは茶々丸の顔を覗く。
「ねぇねぇ、その時の話とか茶々丸の思い出聞かせて?」
「思い出…ですか?」
「うん。私ね、もっともっと知りたいの。ユウのことも、茶々丸のことも」
「せっかくこうやって会えたんだもん、別の星の友達に」
暫く茶々丸はララの顔を見つめた。きっと真っ直ぐな瞳とは、今自分が見ているもののことを言うのだろう。
「かしこまりました。私でよろしければ喜んで」
二人が買い物に出かけ、祐は一人自室で横になっていた。ララも茶々丸も素直な性格だ、仲良くやっているだろうと心配はしていなかった。それはこれから始まるララの学園での生活にも言える。彼女のあの性格であれば本人も周りも楽しく過ごしていけるだろう。
日常生活で気掛かりなことはそうない。あとは自分が彼女や周りに降り掛かろうとする火の粉を払いのければいいのだ。そう考えればやはりやることに変化はなかった。戦うことしか満足に出来ぬのなら、最大限その特技を活かせば良いだけだ。
大切なものが増えていけば負担も増える。しかしそれを補って余りある価値があるのだと祐は思っていた。そしてこの身体には大切なものを守る為の力がある。
自分は本当に恵まれている。ただ目の前で消えていくのを見ていることしか出来なかったあの時とは違い、はっきり言って見劣りはする現在でも大抵の相手なら叩き潰せる。これを恵まれていると言わずしてなんと言おうか。大切なものの為ならばなんだって出来る気がした。そう考え実行できるのは、自分自身がそれ程大切ではないからに他ならない。
逢襍佗祐は自分勝手な人間である。兎にも角にも、彼にとって一番許せないのは自分だけが無事なこと。自分だけが生き残るのは、もうごめんだ。
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