ウマ娘妄想詰め合わせ   作:甲乙千夜

1 / 4
 記念すべき1話目は「ハルウララ」のトレーナー目線です。
 ハルウララ、可愛いですよね。
 側にいるだけで元気が出て来そうです。
 競走の世界は確かに厳しいですが、その中でも「強さ」以外の大切な何かを学ばせてくれるような存在だと思っています。


満開、ハルウララ

 春。

 冬に身支度を済ませた蕾たちが、出番を聞きつけ勝負服を披露する季節。

 今年も満開の桜が学園の並木道を薄桃色で埋め尽くした。

 さながら花のカーペット。花弁が触れて少しくすぐったくなるかもしれないが、香りと心地良さで微睡んでしまいそうだ。

「おっと、いけないいけない」

 桜に気を取られていた心をネクタイと共に締め直す。これから担当する子のトレーニングを考えなければならないのだ。一人で呆けていたら示しがつかない。

「よし、やるぞ!」

 我々ウマ娘のトレーナーは、担当の子を勝たせることが最大級の使命である。

 人間が様々な性格をしているように、ウマ娘にも三者三様の性格がある。

 レースが好きな子、趣味に没頭したい子、あまり走ることが好きではない子等々、人間のそれに近しい分類がされている。

 トレーナーはその性格や能力を分析して勝ち筋を見出す力量が問われる。

 並大抵の考え方では勝たせられないのだ。

「意気込んだものの……どうしたものか」

 担当を持って一年経った。戦績はそこそこ。レースにおいて1位を取れなかったわけではないが、負けが多く、同世代と比較するとまだ劣る。

 特に『黄金世代』は成長もさることながら、圧巻の走りを見せている。

 スペシャルウィーク、キングヘイロー、セイウンスカイ、グラスワンダー、エルコンドルパサー……など。

 雑誌で『ウマ娘特集』を組めば必ずと言っていいほど名前の挙がる猛者たちだ。

 ……いや、そもそも他のウマ娘と比較すること自体がいけないのかもしれない。

 あの子はいつだってレースで走ることを楽しんできた。

 それを今この瞬間から「勝つため」のトレーニングにしてしまうことは容易である。だがしかし、それは彼女にとっての最適解なのだろうか。

 あの子が一生懸命走る姿は、誰もが見てきた。何故なら最下位でゴールすることがほとんどであったからだ。

 心無い言葉も沢山聞いてきた。何故あの子がトレセン学園にいるのか、どうして勝てないのに楽しそうなのか……悲しいことに、トレーナー側の人間がこの言葉を呟いていたことが、今でも俺の心に刺さっている。

 勿論、俺もトレセン学園のトレーナーだ。トレーナーとしての使命を忘れているわけではない。担当を勝たせることを大前提として、今もトレーニング内容を練っている。

 だけども……この葛藤はおいそれと捨てることができない。

 我々トレーナーとしての本業以上に、彼女達の人生を背負っている。

 キングヘイローのトレーナーは言っていた。「次の子なんて考えていない。俺は一流のトレーナーとして彼女と人生をかけて戦う」と。

 勝てないから次の子へ……なんて、ゲームじゃないんだから。

 ウマ娘の人生を使い捨てのように扱うなんて言語道断だ。

「……考えすぎなのか?」

 今でも脳裏に過る先輩たちの言葉。

『なぜあの子を選んだのか……』

 あの時は勝たせると大口叩いたものの、それ以上に大切な何かがあるような違和感が拭いきれていない。

「少し休憩するか」

 トレーニング内容もある程度まとまったので、少し休憩をとる。

 頃合いも良かったので、そのまま昼食を摂ることにした。

 風呂敷をデスクに広げた瞬間、トレーナー室の扉がノックされた。

「どうぞ~」

「しつれいしま~す!」

 その声ですぐにわかった。

 自分の担当のウマ娘――ハルウララだ。

「トレーナーさん! ちょっと相談があって」

「なにかあったのか?」

 前のめりにやってきたハルウララが意気揚々と口を開く。

「実は今度のお休みに、みんなでお花見をしようってなったの! それでね、トレーナーさんも一緒に来ないかな、と思って」

「いいな。せっかくの桜だし、ご一緒させてもらおうかな」

 俺が答えるとハルウララの耳と尻尾が大きく上がる。

「いいの!? やったー!」

 いつ見ても楽しそうだ。ここまで満面の笑顔を出来る子は世界でもハルウララだけではないかと思うほどに、純粋なかわいらしさがそこにはあった。

「それじゃあ、ライスちゃんとライスちゃんのトレーナーさんにも言ってくるね」

「おう……え?」

 元気な掛け声と共にトレーナー室を後にするハルウララ。

 いま、「ライスちゃん」と言っていなかっただろうか?

 ライスちゃんってあの「ライスシャワー」なのか?

 しかもその子のトレーナーさんも来ると?

「……俺、邪見にされないかな」

 普段なら楽しみにしているお花見で緊張するはめになるとは思いもよらなかった。

 

 

 

 休日。

 レジャーシートとバスケットを持って日当たりのよい公園にハルウララと出掛けた。どうやらライスシャワーさんとそのトレーナーは既に到着したらしい。

 前日まで雨が降っていたが、今日は絶好の花見日和である。湿った草原が太陽光を乱反射して輝いているのを見ると、雨も割と粋な計らいをしているものだ。

「あ、ライスちゃん!」

「ウララちゃん、こんにちは!」

 いた。

 そこには、紛れも無いライスシャワーの姿と、顔立ちの良いお兄さんが立っていた。

「どうも。初めまして、ハルウララの担当の者です」

「こちらこそ初めまして、いつもうちのライスがお世話になっております」

 人当たりの良い笑顔と丁寧な所作に圧倒される。本当に同じトレーナーなのか?

「場所は取ってあります。今日は担当共々楽しみましょう」

「わざわざありがとうございます!」

 性格も顔も良い好青年。先ほどから遠くのマダムたちがチラチラと俺たちのこと(正確にはライスシャワーのトレーナー)を見ている。

 だが彼の手腕によってあのメジロのウマ娘やミホノブルボンと肩を並べるウマ娘を育て上げた者だ。もしかしたら裏があるかも。

「さぁ、我々もくつろぎましょうか」

「そうですね」

 俺の心配なんてどこ吹く風。彼は爽やかな笑顔で俺を迎えた。

 え、超いい人!

「満開ですね」

 ライスシャワーとハルウララが仲良く桜の下を歩くのを見ながら、双方のトレーナーは桜を眺めていた。

「昨日は雨で心配していたんですよ。私のせいでお花見できなかったらどうしようって」

「ライスシャワーがですか?」

「ええ。あの子、悪い事があるとネガティブに考えすぎてしまう癖があるんですよ。俺も大丈夫だよって声を掛けるんですけど、時折塞ぎこんでしまって」

「そう、なんですか」

「意外でしたか?」

「ええ、まぁ。多分、俺や他の人からはライスシャワーをウマ娘の界隈でも滅茶苦茶強い子だっていう印象を持っていると思います」

「ああ~確かにあの子は強いですよ。でも、支えてあげないとすぐに折れてしまいそうなほど儚いんです」

 やはり意外であった。あのライスシャワーが実はメンタル面において課題を持っていたとは……重賞で見せた圧巻のレース運びからは想像もできなかった。

「僕も全てにおいて支えてあげたいんですけど、でもトレーナーの業務上、付きっ切りでいる訳にもいきません」

「まぁ、どこまで行っても俺たちはトレーナーですからね」

「……だからこそ、お礼を言わせてください」

「え?」

「うちのライスがお世話になりました」

 そう言うと、ライスシャワーのトレーナーは深々と頭を下げた。

「ちょ、待って。待って下さい。俺は特に何もしていないですよ」

「いえ、あなたが担当しているハルウララさんは、うちのライスシャワーの良き友人として救ってくれました」

「うちの、ハルウララが?」

「はい。先ほども言った通り、ライスはネガティブになって塞ぎこんでしまうこともあります。今日の花見も昨日までは心配そうな顔で僕のところに相談しに来ていました。『雨で中止になったらどうしよう、またライスのせいで』と」

「確かに昨日は大雨でしたけど、いまは晴れていますし」

「そうなんです。今日の朝晴れたことを喜んでライスはこう言ったんです。『ウララちゃんが晴れにしてくれた』と。僕はそれを聞いて、ハルウララさんにお礼を言わなければならないと思いました。そして、あのように元気なハルウララさんを担当してくださっているトレーナーさんにも」

「晴れは、まぁ、偶然だと思いますけどね」

「そうかもしれません。でも、あの泣きそうなライスを一瞬で晴れにしてくださったのは、紛れも無いハルウララさんなんです」

 彼は言葉を続ける。

「ライスが一着を取って観客から責められた後も、一緒に走ってくださったのはハルウララさんでした。うちの子は『何回走ってもライスが勝ってた。でもウララちゃんは諦めなかった。ずっと私に追いつこうとしていたし、走るのが楽しそうだった』と言っていました」

 初めて聞いた。

 俺は自分から担当の交友関係に首を突っ込むこともなければ、何か口を出すつもりもない。むしろ話題に出さない方が良いと思っているからだ。

 だがあの子は俺の知らないところでいろんな人を笑顔にしていた。

 俺が知らないだけで、笑顔をいっぱい生み出していたんだ。

「これは身勝手な僕からのお願いです。ハルウララさんを今後指導していく中で、彼女自身が楽しめることを最優先にしてあげてくださりませんか? それが、ハルウララさんにとって必要なことだと、僕は思っています」

 …………あぁ、そうか。

 間違っていなかったんだ。

「もちろんです」

 トレーナーとしての本業。ウマ娘を勝たせる育成。

 勝てないウマ娘は淘汰される時代に、この子は負け続けていた。

 時には白い目で他者から見られることもあった。

 しかし、彼女は走ることをやめなかった。

 それは何よりも走ることが大好きだから。

 そして楽しそうに、元気に走る姿を見て、自然と笑顔になる者も増えた。

 俺もその一人だ。

 戦績は芳しいものではないかもしれない。でもハルウララは楽しく走り続けることでみんなを笑顔にしていた。

 この功績は、もしかしたら重賞で一着を取ることよりも難しいことなのかもしれない。

 なんだ、うちの担当のウマ娘は凄い子じゃないか。

 一着を取ることでブーイングを浴びせられてしまい走れなくなったウマ娘を、再びターフで走るきっかけを与えた。

「俺、もっとハルウララに寄り添ってみます。多分、あの子だけじゃ払いきれない事がこれから先起きるかもしれない。そんなときに、いつも通りでいいって言ってあげられるように」

「僕も、その方がいいと思います。あの子は、誰よりも笑顔を咲かせることができる、正真正銘の素晴らしいウマ娘です」

「ライスシャワーさんのトレーナーさんにそれを言われたら、こちらも鼻が高いですな」

「おべっかじゃなくて、本心ですよ」

 

 

 

 春。

 温かな光が差し込み、色鮮やかな花が咲く季節。

 心まで満たされるこの季節は、まるでうちの担当のウマ娘のようだ。

「うっらら~!」

 元気いっぱい、笑顔満開、ハルウララ。

 今日も誰かを笑顔にするため、そして自分自身が楽しむために、走るのである。




 ハルウララのトレーナーの葛藤を書いた一話でした。
 いかがでしたでしょうか。
 このように、トレーナー目線からのやり取りや、
 ウマ娘目線からの日常を書いていきたいと思います。
 次のお話はいつできあがるかわかりませんが、気が向いたら書きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。