推しのオグリキャップの勇士が見れる!
やった!
というわけで、オグリキャップとトレーナーの二次創作書きました。
視点はトレーナー視点です。
ある日の休日、朝早くに起きてしまい何をしようか迷っていたところ、何の気なしにLANEを見ると通知が一件来ていた。
送ってきたのは担当ウマ娘のオグリキャップだった。文面は……
『トレーナー、倒さなければならない相手がいる。今日空いているだろうか? 空いていたら学園の門の前まで来てほしい』
何のことだかわからなかったが、スーパークリークやタマモクロスと並ぶオグリキャップの新たなライバルが出来たのだと悟った。
『空いてるよ。何時ごろに行けばいい?』
『いいのか? では、10時に集合でお願いしたい。服装は私服で大丈夫だ』
『了解』
私服で良いということは、視察にでも行くのだろうか?
とにかく、オグリキャップからのお誘いだ。早めに着けるようにいまから準備しないと。
集合時間の10分前に着いた。そこにはどこかそわそわとした表情のオグリキャップがいた。
「あ、トレーナー! せっかくの休日に呼び出してすまない」
「大丈夫だよ。それで、LANEの件なんだけど……」
「ああ、さっそくその話なのだが……」
どこか仰々しい顔で話を切り出し始めた。
「この前飲食店のお店を調べていた時に見つけたのだが……都会には『くいだおれ太郎』と呼ばれる恐ろしい存在がいることを知ったんだ」
「…………ん?」
「まさか、トレーナーは知らないのか?」
「い、いや、知ってるけど」
「そうだな。トレーナーであればその名前を耳にしたことはあるはずだ。……私は、その食い倒れ太郎と会ってみたい」
「…………」
なんと言葉を返せば良いかわからなかった。
オグリキャップが目を付けたライバル。そいつはあの食い倒れ太郎だった。
タマモクロスと交友の深いオグリキャップなら話題が出てもおかしく無かったが、その名前を出せば目の前のオグリキャップのように目を輝かせて尻尾を振るのが目に見えていたのだろう。そして一緒に巡る羽目になる未来まで。
「トレーナー、お腹の調子は大丈夫か?」
「うん、お腹は空いてるけど……えーと、ちょっとだけ待ってね」
俺はオグリキャップに食い倒れ太郎について話をした。くいだおれ太郎の実在、いる場所、実態……。
サンタさんを信じ続ける子供に真実を告げるような気分だった。
「そ、そうだったのか……」
膝をついて落ち込むオグリキャップ。
「私は、何も知らなかった。都会に来て何もかもトレーナーに任せっきりだった天罰が下ったのだろう」
「そこまで落ち込まなくても……」
大阪にしかいない上に人形だったと知れば、食事に余念のないオグリキャップが落胆するのは当然だろう。
さて、どうするべきか。
「私のお腹を、倒れるまで満たしてくれる存在では無かったなんて」
神は死んだと言わんばかりの表情だ。
「オグリキャップ」
「ど、どうしたトレーナー」
「せっかくならさ、食べ歩きしてみるか?」
「!?」
今『食べ歩き』という言葉に反応したのがわかった。耳と尻尾を極限まで立たせ、闇に飲まれそうだった瞳に光が差し込んでいた。
「な、なんだその魅力的な言葉は!」
俺の胸倉を掴みかからんとするほど接近するオグリキャップ。近い。
「その言葉の通りのことをするんだよ」
「して、いいのか? 食べながら歩いて」
「君もたまに学園の中でしてるだろ?」
「そ、それはそうだが……」
少し恥ずかしそうにする。今更ながらお行儀については良識があるようで助かっている。
「食べて、歩いて、また食べていいところがあるんだ」
「ほぉ~!」
瞳の輝きが増す。
「今まで外ではお店に入って座って食べることばかりで、お祭り以外で外で食べるなんてあまり無かったから……もしかしてどこかでやっているお祭りに行くのか?」
「いや、普段から食べ歩きが出来る場所だよ」
「素晴らしい場所だ。やはり都会は凄いな。トレーナーと出会えてよかったよ!」
気のせいか、レースで勝てた時よりも喜んでいる。気のせいだよな。
「こうやって集まったから、どうせならね」
「トレーナーは凄い提案ばかりしてくれる……どこまで走っていけばいい?」
「いや、電車で行くよ。いくらか人込みがあるから離れないようにね」
「そうか、電車か。わかったトレーナーと離れないようにする」
腕をとってグッと体を俺の方に寄せてくる。ちょっと近すぎるが、本人は無意識なのだから恐ろしいものだ。
そうして、オグリキャップと食べ歩きに出かけた。
駅をいくつか乗りついで到着した。場所は浅草。下町の風情がありながらも現代的なお店が数多く並ぶ有名なスポットだ。雷門でも有名だが、今は花より団子。電車を降りた時からオグリキャップは鼻をスンスンと鳴らしていた。葦毛も相まってシベリアンハスキーみたいだ。
「トレーナー、ここからでもいい匂いがわかる!」
人が多い場所や電車を使った移動をしないから新鮮なのだろう。
「引き続きトレーナーにくっついていよう。匂いに釣られて迷子になってしまいそうだ」
「あはは、自制が出来てえらいなオグリキャップは」
「ん? 私はいつも自制しているぞ」
自覚が無いのも愛らしいウマ娘だ。
「さぁ、行こうか」
「ああ、くいだおれに行こう」
「トレーナー、このせんべいとたこ焼きのもの、美味しい!」
「ウマ娘サイズだともはやお好み焼きみたいだな。サクサクとふわトロを味わえるし、ソースとマヨネーズがせんべいとマッチしていて美味しいな」
「タマにも食べさせてあげたい」
「偏見だけど、それ見せたら怒ってきそうだな」
「たこ焼きだから喜ばないのか?」
「オグリキャップらしい感想だな」
「はふはふ、あふい! でも、美味しい。このコロッケ、いくつでも食べていられそうだ!」
「そうするとお店潰れちゃうから3個までにしようね。確かに、はふ、おいひいな。衣は軽い食感だが、中のジャガイモがある程度形を残しているからゴロゴロでホクホクしてていいよね。うん、俺もペロッと食べちゃった」
「んんん~! なぜしょっぱいものの後だとこう甘いスイーツがより美味しく感じるのだろう!」
「抹茶もいいね。甘いだけじゃなくてお茶本来の多少の苦みがアクセントになってくどくない。クリームの甘味とも合っているな」
「見てトレーナー、私が揺らしたらわらびもちも揺れている。ぷるぷる、ゆらゆらしているぞ!」
「ああモチモチだな。黒糖とも相まって美味しい。しっかりとした食感だけど、舌で潰れてしまうぐらい柔らかい」
「な! トレーナーは黒糖なのか! 私は何もわからず普通のを選んでしまった」
「いいよ。一つあげる」
「いいのか! では、遠慮なく……んぅ~こっちも美味しい!」
「わらび餅のドリンクもいいね。SNSで有名でカレンチャンもオススメしてたから気になっていたが、見た目以上に味にこだわっているのがわかるよ。抹茶ミルクティー美味しい」
「私は普通のミルクティー味だ……」
「こっちもどうぞ」
「うぅ、トレーナーにはお見通しだったな。ありがとう」
いつもであれば、一店舗で恐ろしいほどの量を頼むはずのオグリキャップだが……サイズがウマ娘専用であることと数多くのお店が立ち並んでいることもあって普段より食事が大人しく感じた。
「いやぁ、たくさん食べた」
「ああ、様々なお店があってどれを食べても美味しい。都会にはこんなに素晴らしい文化があるんだな」
ポンポンとお腹を触りながらオグリキャップは言う。腹部がそこまで膨張していないのを見るに、今は心が満たされているような状態だろう。俺の方ははち切れんばかりだ。この日、あの門限ギリギリまでカフェ巡りした以来の満腹感だ。
空が少しずつオレンジ色に染まりつつある。門限まで時間に余裕はあるが、少し遠出しているためそろそろ帰路につく方がよいだろう。
「そろそろ学園に帰るか」
「! そ、そうだな。時間は有限だからな」
尻尾と耳が少し垂れた。とてもわかりやすい。
「一先ず学園の方まで戻っていこう。…………まぁ、時間はまだあるし、学園近くでもお店はあるからな」
「!! そ、それは……いいのか?」
目を見開いて驚くオグリキャップだが、少し申し訳なさそうな表情が混じっていた。
「大丈夫だよ。近ければ門限に間に合うし、それにオグリキャップのお腹もまだ空いているだろ?」
「え、あ、いや……確かにお腹は空いているが……」
どこか言い淀むオグリキャップ。予想が違っていたか。もしくは腹ペコ前提の扱いが嫌だっただろうか。
「その……もうすぐトレーナーと別れるって考えたら、少し、いや、けっこう……寂しくなってしまって」
恥ずかしそうなポツリポツリと呟いた。
「日頃から私の事を気にかけてくれるトレーナーだが、今日みたいに普通のお出かけは久々だったから。いろんなお店をトレーナーと巡れて、一緒に歩いて……そこから離れるのが、嫌になってしまって」
「そうか……」
素直なオグリキャップだが、このような感情を吐露してくれるのは珍しい。トレーナーとしては、かけがえのない存在になれているとわかって嬉しいが、いずれ別れの時がくる。
その時に、オグリキャップは今みたいな表情をするのだろうか。
儚げな表情をするオグリキャップに少しあげられたみたいだ。
「ずっとは無理だけど、できるだけ今日は一緒にいるよ」
「い、いいのか?」
「ああ、大丈夫だよ。今日は丸一日オフだから、オグリキャップが満足するまで」
「ありがとう、トレーナー」
そう言うと、オグリキャップはいつもより体を俺の方に寄せる。
「離れたら、勿体ないからな」
その後は、もう少しだけ浅草を満喫した後に学園付近まで来た。
学園に近い場所でもオグリキャップは離れなかった。
何かを頼むときも、歩く時も、人目を気にすることなくピッタリついていた。
さすがに大きな食べ物を頬張るときは腕を開放してくれたが、食べ終えるとすぐに定位置に着いた。
「やはり、トレーナーと一緒に食べるといつもよりご飯が美味しいな」
屈託の無い笑顔でそう告げてくる。
そこには、怪物と呼ばれたウマ娘は無く、どこにでもいる普通の女の子がいた。
「ご一緒できて何よりだよ」
「お腹もまだまだ入りそうだ」
「食べすぎで出禁にならない程度にね」
「今日は倒れるまで食べるのだから」
「オグリキャップが食事で倒れることは無いだろうけど」
「そう、かな。そんな日が来るまで、トレーナーは見守ってくれるのか?」
心配そうな顔をするオグリキャップ。その問いに間髪入れずに答える。
「いいよ。本当に来るかはわからないけど」
「あはは、そうかもしれないな」
楽しい時間はあっという間に過ぎる。オグリキャップとの食べてばかりの一日は終わりを迎えた。
寮まで案内すると、少し寂し気なオグリキャップの背中を見送った。
去り際にオグリキャップは一言。
「私は貰ってばかりだ。あの時のシューズからずっと……私は、君に何かあげることができているのか?」
無論だ。
「オグリキャップ」
「と、トレーナー?」
「俺は、君がまた表彰台に上がる姿を見たいな」
「! ああ、任せてくれ!」
意図は伝わったみたいだ。
「では、またトレーニングで!」
彼女の重々しい足は、羽の生えたように軽くなっていた。
安心して踵を返す。
ふと、聞こえる足音。
遠くに行ったと思っていた音が近づいてくる。
そしてすぐに……。
「うぉ」
俺は背中から来た衝撃の正体に気付いた。だがその瞬間はわからなかった。
「ありがとう、トレーナー」
鈴の音よりも小さな声。
振り返ろうとした時には、既に遠くに葦毛が見えた。
あれは彼女なりの最大限の感謝なのだろう。寮に帰ったらまたトレーニングのメニューを見直してみよう。そして……大阪のグルメでも調べておこうかな。
オグリキャップの最後の日まで、俺は彼女のすべてを支えてあげれるように。
乙女なオグリキャップは強い。