side キリト
永遠に続くと思う程長かった戦いが終わり、ボスは四散した。だが、誰も歓喜を上げる者はいなかった。
皆、荒い息を繰り返し床に座り込んでいる。俺も、アスナと背中合わせ座り込み周りを見回した。
ボス部屋はボスの攻撃でやられた、ヘリや軽装車両の燃え上がる残骸が転がっていた。そして、所々にボスにやられた兵士が持っていた銃が転がっていた。
クライン「何人……やられた………。」
横で荒い息を繰り返し床に座り込んでいたクラインがかすれた声で聞いてきた。
ディマ「十七人やられた……、ヘリ一機軽装車両二台歩兵十一人だ………。」
エルギ「嘘だろ………!」
その数に呆然としている攻略メンバーたちを見下す、あるいは鑑賞しているような目をこちらに向けているプレイヤーがいた。
ヒースクリフだ。
俺は剣を構えて立ち上がりヒースクリフの方を睨み付ける。そして、片方剣の基本突進技レイジスパイクを発動しながらヒースクリフの方に叩き込んだ。
そしてその剣尖がヒースクリフに突き刺さった時、驚くべきカーソルがヒースクリフの頭上に現れた。
『Immortal Object』
日本語に訳すと不死存在。一般プレイヤーが決して持つ事のできないアビリティ。
アスナ「システム的不死、ってどういう事ですか……団長……!?」
キリト「やっぱりそうか…コイツのHPはどんなことがあっても黄色にならないようシステム的に保護されているんだ。」
一般プレイヤーが決して持つ事のできないアビリティ。そのアビリティを持てるのはただ一人、ゲームマスターつまり創造者。
キリト「この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった…あの男はどこで俺たちを観察し世界を調整しているのだろうってな…。」
このヒースクリフの正体は………
キリト「でも俺は単純な心理を忘れていたよ。どんな子供でも知っている事さ…他人のRPGを傍らで見ている事ほどつまらないことは無い…。」
この世界を作った元凶である………
キリト「そうだろ、茅場晶彦。」
side out
sideダン
その言葉に周りがざわつく。自分たちのリーダーがラスボスだとキリトは言っているのだ。するとキリトの言葉にも奴は全く動じず平然と答えた。
「なぜ気付いたのか…参考までに教えて貰えるかな?」
その言葉は否定では無く肯定であった。あいつはもう正体を隠すのは諦めたのか……。
キリト「最初におかしいと思ったのはデュエルの時だ。最後の一瞬だけあんた速過ぎた。」
そんな時からキリトは奴を疑っていたのか、まぁやっていた本人が言うだからそうなのだろう。
茅場「………やはりそうか。あの時、君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまったよ。」
そして座り込んでいるプレイヤーたちに堂々と宣言した。
茅場「確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある。」
キリト「……趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか。」
茅場「なかなかいいシナリオだろう?盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな。……君はこの世界で最大級の不確定因子だと思ってはいたが、ここまでとは。」
幹部A「貴様……貴様が……。俺たちの忠誠……希望を……よくも……よくも……よくもーーーッ!!」
血盟騎士団の幹部プレイヤーが巨大な斧槍を握りしめ絶叫しながら地を蹴りヒースクリフ、茅場に振りかぶる。
そして、
ズダン!!
けたたましい音が響き、幹部プレイヤーの斧槍が弾き飛ばされた。
幹部「なっ!」
茅場「助かったよ、レッカーくん。」
プレイヤー達が音の響いた方を見るとそこにはM82A3を構えたレッカーがいてその銃口には、硝煙がたっていた。
その隙にヒースクリフは左手を振りウインドウを操作する。すると、斬りかかっていた幹部プレイヤーが倒れ込んだ。
HPバーにグリーンの枠。つまり麻痺状態だ。茅場はそのまま、ウインドウを操作し、キリト以外の全てのプレイヤーを麻痺状態にした。
キリト「どう言う事だ!ダン、ディマ!」
ダン(あの時に、話をすべきだったか……。まあ、もう手遅れだかな。)
時は、遡ること3時間前………。
ーー三時間前ーー
ダン「話とは、なんだ?ヒースクリフ。」
ヒースクリフに呼ばれ、血盟騎士団の拠点に来ている。俺の向かい側にヒースクリフこと茅場は背中を向けて立っている。
茅場「取引をしないか………。ダン大佐……。」
ヒースクリフはこちらを向き静かにはっきりとした口調で言った。
ダン「…………どういう事だ……?」
茅場「…………私は、本来最終ボスとして彼等の前に立たなけばいけないが。正直、君達と戦いたくない。この世界の勇者は決まっていてボスは勇者に倒されなければならない。間違っても、君達じゃない。」
ダン「………なるほど…………それで?」
茅場「君達は、手を出さないでほしい。そして、少しばかり協力してほしい。そのかわり君達は何をしてもいい。」
ダン「…………わかった。それで手を組もう。」
ーー現在ーー
キリト「なんでなんだ、なんで裏切るんだ!ダン!」
キリトの叫びは、俺達に向けられている。だから俺ははっきりとこの部屋にいる全員に聞こえるように言った。
ダン「…………俺達は、本来こんな所にいないはずの人間だ。俺はある作戦中に死亡した…………。俺だけじゃない、ディマもレッカーもホーキンスも俺達全員、死んだはずだ。」
レッカー「だが、死んで俺は後悔していない。自分が命を賭けて戦って死んだおかげで数々の闇を暴き出した。」
コール「だから俺達は、試す事にした。」
キリト「何をだよ!」
ダン「それは…………。」
茅場「ちょっと、忘れないで貰いたいね。」
その言葉に全員の目線が茅場に向く。
キリト「お前はどうするつもりだ。この場で全員殺して隠蔽する気か……?」
茅場は首を横に振って否定した。
茅場「こうなってしまっては致し方ない。予定を早めて、私は最上層の<<紅玉宮>>にて君たちの訪れを待つことにするよ。九十層以上の強力なモンスター群に対抗しえる力として育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが何、君たちならきっと辿り着けるさ。だが……その前に……」
ヒースクリフは右手の剣を床に突き立てる。
茅場「君には私の正体を看破した報奨を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今この場で私とダン大佐達とデュエルで勝負しよう。もし君が私達に勝てたらプレイヤー全員をこの世界からログアウトできる。どうだ、いい条件だろう。」
アスナ「だめよキリト君、あなたを排除する気だわ……。今は……今は引きましょう……!」
クライン「それに……、ダン達もいるんだ。…勝ち目はない!」
茅場「もちろん私は不死属性は解除する。戦いはいつでもフェアじゃなければ」
キリト「ふざけるな…」
怒りを滲ませたキリトがヒースクリフを睨みつけていた。
キリト「いいだろう、決着を付けてやる」
キリト「では、始めようか。」
ヒースクリフがウィンドを操作し、不死属性を解除した。
アスナ「キリト君!」
アスナは目から涙を流していた。
アスナ「死ぬつもりじゃ……ないんだよね……?」
キリト「ああ……。必ず勝つ。勝ってこの世界を終わらせる。」
キリトはもうこれ以上話す事は無いと、こちら側に背を向けた。
茅場「じゃあ、始めようか。」