宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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 血の粛清を謳ってたのに意外と穏当になっちまったな(外道)

※2022/4/19誤字修正。
 麦茶太郎さま、カド=フックベルグさま、MAXIMさま、山水公さま、ご報告ありがとうございます!


08 ニュータイプ

 気乗りがしない、どころではない。そんなことは決して認められないというのが、ラル家の嫡子にしてムンゾ防衛隊大尉、ランバ・ラルの率直な感想だった。

 

「父さんはあんな女の言いなりになる気か? アストライア様だけじゃない! キャスバル様やアルテイシア様まで不幸になるぞ!?」

「だが、他にどうしろというのだ!?」

 

 最早逃げ道は何処にもない。こうするしか、これ以外どうしようもないではないかと嗚咽と共に我が子に縋るジンバに、ランバは嘆息しつつ告げた。

 

「俺がザビ家とヨーク少佐に掛け合ってやる。奴らも俺の頼みなら無下にはしないだろう」

「確かか……!?」

 

 これにはジンバも顔を上げた。ザビ家とは不和が続いた時期が長く、息子もまた防衛隊内ではジンバ同様反目してはいないかと考えていたのだが、どうやら違うらしいと分かったからだ。

 

「……全く。良いから大人しくしていろ。首相がこれじゃ国民が泣くぞ」

 

 その励ましは、口にしたランバ自身、信じていないものだったが。

 

 

     ◇

 

 

「ラル大尉ですね。どうぞこちらへ」

 

 ザビ家私邸に到着し、家令に導かれるまま広間に進めば、そこでは一三のキシリアがガルマと手を繋いでキャスバルやアルテイシアとパーティゲームに興じ、アストライアは和気藹々とした子供たちを微笑みながら眺めている。

 ソファーではギレンとイワンが何やら向かい合って話していたが、朗らかな顔つきからして仕事でないのだとはランバにもひと目で知れた。

 

“私生活では、こういう感じなのか”

 

 笑い声が溢れて絶えぬ、理想的な家庭。誰もが悪意や陰謀などといった世界を遠くに置き去り、ささやかな幸福こそを至高のものと噛み締める、温かな世界。

 そこに、冤罪に過ぎないとは言え大罪を犯したと見做されている父を持つ自分が、ましてやその父からダイクンの遺児を攫うべく要求された自分が踏み込んでしまったという事実に、ランバは一歩進むごとに罪悪感を抱いてしまった。

 

 ただ、そんな罪悪感に二の足を踏んだランバに対して、キシリアは顔を見るや否や近づいてきたが。

 

「初めまして、ランバ・ラル様。キシリア・ザビです。常日頃より婚約者(フィアンセ)がお世話になっております」

「これは……ご丁寧にありがとうございます」

「キシリア、大尉が用があるのは私達だろう。キャスバル様達を待たせてやるな」

「少しぐらい良いじゃないですか兄上。第一、婚約者(フィアンセ)の同僚にご挨拶をするのは当然のことじゃありませんか? あ、お茶を今すぐお持ちしますから大尉殿は自分の家だと思って寛いでくださいね!」

 

 若干息を荒く、興奮した様子でまくし立てるキシリアに、ギレンは眉間に皺を寄せて黙らせた。

 

「良いから下がれ。今の貴様を見た婚約者が他所の男にうつつを抜かされたことに傷ついているのが分からんか?」

「イワン様が嫉妬!? 独占欲がそんなに強かったなんて嬉しいけどストーカーっぽい感じですね勿論嬉しいですけど! それはそうとラル大尉、記念撮影をお願いできます? 宝物にしますから」

「いい加減にしろ愚妹が!」

 

 イワンの表情を見ろ!? もう泣きかけているぞ、そんなに渋い男が良いのかとか自分では駄目なのかとか思いつめているぞ間違いなく!

 あれで傷つき易いのだから、少しは尽くしてくれている婚約者を気遣うということをしてやるべきだろうが!

 

義兄上(あにうえ)、私は大丈夫ですので……」

 

 全然大丈夫じゃなさそうなのはランバにも分かった。肩を落として見るからに煤け、声にも張りがなく沈んでいる。これがあの兵隊やくざ共(ガイアたち)に認められ、防衛隊内でも随一と目された佐官の姿とは同一視できない程だ。

 

「ホントに大丈夫? おっぱい揉む?」

「私が情欲に流され易い男のように言うのは止めてくれまいか?」

 

 寄せて上げるな、はしたないとイワンは流す。家同士のこととはいえ、一〇の少女と婚約したという話から隊内では小児性愛者でないのかと影で囁かれたりもしていたが、どうやらこの関係性を見るにそれはなさそうだなとランバは安堵した。

 同時に、ザビ家の令嬢がこのような方だとは知らず、令嬢というものの幻想がガラガラと音を立てて崩れそうにもなったが。

 

「……キシリア、悪ふざけはもう良かろう? 大尉は私とお前の婚約者に用があるのだ」

「ああ。どうせキャスバル達を亡命させる話なんでしょ? 良いじゃないここでも。何時までもここでじっとさせてる訳には行かないし、連邦の目の届かないように名前とか色々変えて送って上げた方がこの子達の為よね」

 

「「「────」」」

 

 ギレンもイワンも、そしてランバさえ呆けた表情でキシリアを見つめた。純粋で真っ直ぐで、政治というものを理解しつつも、そこにある毒を持たない、そんな少女を。

 

「……ああ、そうだな。しかし、キャスバル様達を不安にさせる訳にはいかない。悪いが、相手を続けてくれ」

 

 だから、イワンはそう声を絞るしかなかった。必要悪であったとしても、大切な女性(ひと)を守る為だったのだとしても、その手は血と悪意の泥に塗れたものだったから。

 

 

     ◇

 

 

「ジンバ・ラルの件だろう?」

 

 応接間へと場所を移し、ギレンはそう切り出した。いつかはラル家に足を向けるだろうとは予想していたものの、イワンが私邸に足を運んだ日に来たのは僥倖だったと言う他ない。

 勿論、出来ることならば陰謀を忘れさせる時間でなく、政治家として、軍人としての時間であったときに来て欲しかったというのがギレンとイワンの偽らざる本音だったが。

 

「ああ。だが先にこっちの手土産から話をさせてくれ。ローゼルシアが親父のところへ来た。アストライア様と、お子様を攫えとな」

 

 予想の範疇だなというのはギレンもイワンも同じだった。あの性悪なら、それぐらいは要求するだろう。

 

「大尉、貴官ともあろう男がそれを呑むとは、無論我々も考えていない」

 

 しかし、ジンバに関しては別だとイワンはすげなく言い放った。ランバ・ラルを信用し、信頼することはできたとしても、その父親は別だと。だが、それに対しランバは承知していると吠えた。

 

「そんなことは言われなくても分かってる! ああ、分かっているとも! しかし、親父は暗殺なんぞ出来るタマじゃない! この件だって追い詰められてなきゃ突っぱねただろうさ!」

 

 ローゼルシアにあるのは女としての嫉妬だけだ。ダイクンの子は自分の子だというイカれた論理を信じ込み、その母親を闇に葬るぐらいはしてのけるだろうと理解できていない筈がない。

 

「頼む……親父は小物で、政治家としては駄目だったかもしれん。しかし、それでも俺の親父なんだ。俺にできることなら、何でもする。だから頼む、親父を見逃してくれ」

「大尉──悪いが、それだけはできない」

 

 求められた慈悲、親を思う泣訴。しかしそれらを、イワンは断らざるを得なかった。

 

「何故!?」

「何故と、問わなければ分からないほど政治を解していない訳ではないだろう?」

 

 ジンバ・ラルは確かに悪人ではなかった。そんなことはギレンもイワンも承知している。しかし、ジンバは政治家として付け入る隙が余りにも大き過ぎた。

 市井の者であれば、無能だからとて罪に問われはしないだろう。だが、国民の庇護者たるべき政治家にとって、それは何よりも重い罪に他ならない。

 政治とは()()()()ものであり、政界とは()()()()場所だ。

 

「隙を作ったからこそ、連邦の悪意に対応できなかった。隙を作ったからこそ、ここまでの醜態を晒してしまった」

「敢えて隙を作り、利用できるならばそれも良かろう。しかし、ジンバ首相の隙は脇腹に短刀を突き入られ、ムンゾ国民一億を絶命させてしまう致命的すぎる隙だった」

 

 だからこそ、イワンもギレンも排除する方向で意見を一致せざるを得ないのだ。もしもここでジンバを見逃し、目を放せば必ず悪意ある何者かが近づき、再びムンゾにとっての害となってしまうだろうから。

 

「だが、最悪だけは避けることが出来る。大尉、貴官から首相を裁判に出頭させるよう促して貰いたい」

 

 そうすれば、確実に命だけは繋ぐことができる。下手に亡命など企てれば過激派への暗殺を含めて多くのリスクを背負う羽目になるし、第一成功の見込みは限りなく低い。

 

「私と義兄上(あにうえ)だけでなく、ザビ家とヨーク家の双方で助命嘆願を行うことを確約する……終身刑は免れないだろうが、それでも禁固刑を課した後、独房でも相応の暮らしをさせると誓うことはできる」

 

 アル・カポネの独房ではないが、政治犯の収容という名目で物理的に関係者以外の耳目を遠ざけてしまえば、内側をいじることは造作もない。

 重要なのは、ジンバという政治的に無能でありながら影響力を持つ男が今後利用されないことであって、命そのものを奪いたい訳では決してないのだ。

 

「……命あっての物種。亡命だろうと結果は変わらんか」

 

 提示された落としどころは、亡命は受け入れられないと絶望したランバにとっても望外のものだった。中途で命を落とす危険性やその後の暮らしを思えば、むしろこちらの方が遥かに現実的かつ穏当な結末でさえある。

 

「分かった……見返りは何だ?」

「条件は二つ。一つは冤罪であっても罪を認めて貰わねばならんことだ。特に、連邦との関与という点をな。裏で糸を引いているのは間違いなく奴らだ。

 今後二度とこのような手を打たせないためにも、それだけは飲んで貰う必要がある。何より司法取引という形に持ち込めば、罪一等を減じて確実に死刑を回避できるからな」

 

 成程とギレンの案にランバも得心した。父親が無実なのは当然だとしても、濡れ衣を着せた連邦に隠れられたままでは困る。たとえ真実の断片しか掴めていないとしても、そこを表に出すだけで今後ムンゾは連邦(やつら)の魔の手から遠ざかることが出来るだろう。

 

「もう一つは、ダイクンの遺児たちを亡命する手伝いを行って貰いたい」

 

 貴官の能力ならば能うし、必要なことだとイワンは言う。

 

「ザビ家の独裁が狙いかと非難されることは承知の上だ。だが……匿い続けるには今のムンゾは危険に過ぎる」

 

 ザビ家が遺児を保護していることは誰もが知っているし、それで安心だという信頼も勝ち得ている。しかし、どれだけ国民からの信頼厚く、ザビ家のダイクンへの忠節が確かなものであろうとも、今のムンゾは吹けば飛ぶような状況だ。

 

「然るべき時となり、遺児が()()()()意思で()()ならば、再びザビ家とヨーク家はキャスバル様とアルテイシア様を仰ぐと誓う。だが、その時までは如何なる悪意からも遠ざけねばならん」

 

 つい先刻も、『政情不安』と『安全確保』を名目に連邦駐屯軍から母子の引き渡し要求があったばかりだ。幸い反連邦感情の強い情勢下にあったことやザビ家を見守っていた民衆の協力によってことなきを得たが、何時までも続けられる訳ではない。

 

「幸い、信用のおける然るべき筋を確保している。大尉自身も存じている人物で、テアボロ・マスという」

「そいつは親父の旧友だぞ?」

 

 問題ないとイワンは笑う。政治的問題からでなく純粋に母子の窮状を案じての偽装結婚を行い、遺児も養子として迎えてくれることを確約してくれたし、本人の性格も野心や権力闘争とは無縁であることもヨーク家との交友で知っている為に保証できる。

 

「何より、こう言っては何だが妻に先立たれて隠居している身だ。偽りのモノであっても、温かな家庭を持てば心も安らごうさ」

 

 他ならぬイワンやギレンが、キシリアやガルマに癒されているように。

 これから先の人生は、決して悪くはならないだろうと確信できる。

 

「勿論安全確保のため、亡命後も防衛隊情報部からの選りすぐりがつく。それ以外にも、今後は対連邦を想定した独自の諜報機関を設立する予定だ。誰の手出しもさせんよ」

「そこまで盤石なら、俺の出る幕はなさそうだが……」

「こちらが全てしては、貴官は後ろめたかろう? 何より、無実と知りながら、我々はラル家を利用しようとしているのだ。むしろ厚かましいとさえ思ってくれて構わんよ」

 

 任は追って知らせると、そう告げてギレンとイワンは立ち上がった。約束は守る。だから何としても、ジンバを説得して欲しいと付け加えて。

 

 

     ◇

 

 

「ローゼルシア様、ラル首相に大きな動きはありません」

「……ふん。日和ったのね」

 

 愚鈍と理解していたが、まさかここまでとは思わなかった。最低限、何らかのアクションがあるものとばかり考えていたというのにそれすらないとは。

 

「家に向かわせた嫡男は一人で出たそうね。それも、晴れた顔つきだったとか」

 

 おそらくだが、ザビ家と取引したのだろう。亡命の打診に成功したか? いや、成功確率が低すぎる以上それで顔色が良くなる筈もない。となれば司法取引の類か。

 

“忌々しいまでに鮮やかな手際だこと”

 

 そうでなくては連邦相手にここまで上手く政界を切り盛りなどできよう筈もないのだから当然だが、それが厄介だという事実は動かない。

 

「良いこと。繰り返すけど、ダイクンの子は何としてでも取り戻さねばならないわ」

 

 このままザビ家の手に委ねたところで、民衆も納得し続ける。安全面でも問題はない。それでも母子を奪うことをあきらめないのは、やはりランバが語った通り、女の妄執がそうさせているに過ぎなかった。

 そこに大義も、未来への構想がある訳でもない。ただ欲しいから、求めるから、自分が持っているのが当然だからという感情によって突き動かされていた。

 たとえそれで誰が不幸になり、何が犠牲になろうとも知ったことではないと鼻を鳴らす。

 だが、ローゼルシアは気づかない。誰かを陥れようとする者は、自分自身さえそれ以上のナニカに追い詰められる覚悟を有し、動かねばならないという大原則を頭から除いていたということを。

 

 

     ◇

 

 

「ローゼルシア一派に動きがありました」

 

 ふん、とイワンは鼻を鳴らした。奇しくもそれはローゼルシアがしたようにだ。

 

「愚かな女だ」

 

 愛と憎悪を履き違え、夫が何を望んだかを理解せぬまま欲望を優先した愚物に対し、イワンは吐き捨てつつも予定通り各種装備を身に纏う。

 

「……何も、少佐殿が直々に手を下さずとも」

「最後の仕上げだ。手先には任せられん」

 

 これより先、ダイクンの時代もラルの時代も終わりを告げる。ザビ家にこそ歴史に選択と責任を背負うべき時代が待つというのに、それを怠るなど有り得ぬことであったし、何よりだ。

 

「これは、私なりのけじめだ」

 

 誰かを犠牲にしながら、自分だけが遠くで睥睨する。

 支配者とは本来斯くあるべきなのだろうが、イワンは自分がその地位に値するとは思っていない。

 手を汚し、返り血を浴び、罪をその目に刻み付けてこそ、犠牲とした全てを見届けてこそ、イワン・ターザ・A・ヨークはザビ家の『駒』として在り続けることが出来る。

 彼らの血に、痛みに、犠牲に正面から向き合い、目を逸らさず進むこと。より良き未来のために何かを排したのだということを忘れて、一体どうして正しい未来を愛しい者たちに届けたと胸を張ることが出来るだろう?

 

“たとえこれが、下らぬ感傷に過ぎないとしても”

 

 引き金を引く意味だけは、忘れてはならないと思うから。

 

 

     ◇

 

 

 深夜、連邦軍の戦闘服を纏ったローゼルシアの私兵がザビ家に突入する段階に先んじて、親衛隊に組み込むべき過激派を中心に構成した部隊がローゼルシアの私邸に押し入った。

 徹底的に情報を隠匿すべく、広大な邸内で連邦軍の装備を着用していたに過ぎなかったが、過激派の目にはローゼルシアが連邦軍と内通していたと判断するには十分すぎる光景であったことだろう。

 現実には連邦政府に罪を被せたかったが為の算段であったが、それが(あだ)となった訳だ。

 

『クリア』『クリア』

 

 闇の中、衣擦れの音一つなくハンドサインのみで動き、制圧していく様は、流石選抜を重ねたエリートといったところか。政治思想的にはともかくとして、こと実働という意味ではこれ以上の駒はないとイワンは彼らの仕事ぶりに満足しつつ頷き、戦闘員のみならず給仕らを含めて徹底的に()()したが、そこに異を唱える者は一人もいない。

 既にしてジンバ・ラルが弾劾裁判にかけられることは決定事項であり、この繋がり──連邦と共謀しての誘拐未遂という形──も含め、彼がザビ家にとって都合の良いことの全てを喋る手筈となっているからだ。

 

 故に、ここで行うべきは終始徹底した口封じ。映画やドラマのような、ご都合主義的な脱出劇など決して起こりえない、プロの仕事がそこにはあった。

 

「何者です……!?」

 

 だが、寝室へと飛び込んだ時、殺めるべき最後の一人と相対した時、イワンは敢えて目出し帽(バラクラバ)を脱ぎ棄て、正面からローゼルシアと相対した。

 病に犯され、ベッドの上で逃げることさえできない哀れな女。蝕まれた肉体は実年齢より遥かに老い、醜くなったその女を前に敢えて正体を晒したのは、その慟哭が()()()きたからだ。

 今まさに、イワンは銃を向けている。軽く指に力をこめ、引き絞るだけで全てが終わる。それでも僅かに構えたままであるのは、そして、驚愕しつつもそれ以上声をローゼルシアが上げようとしないのは、そこに絶望以上のナニカを見たから──

 

『どうして……どうして私では駄目だったのよ!? あの人(ダイクン)が望むことは何だってして上げた……お金も、心も、体も全部……なのに、なのになんで子供だけで……!』

 

 ただ、子供が出来なかったというだけで、どうして自分は遠ざけられねばならなかったのか? どうして愛されたのが浮気相手(アストライア)で、自分は腫れ物のように愛した人から引き離されなくてはならなかったのか?

 

『そうだな──きっと、貴女は理不尽を受けてきただけだったのだろう』

 

 その心に、通うものにイワンは応えた。精神の感応。宇宙に生きる者は、何時か閉ざされた可能性を拓き、生きるべき場所に相応しい力を得るというその理論を──

 

『ニュー、タイプ……あの人が、ダイクンが求めた人類がお前だと言うの!? ならば、ならば応えなさい! 人類の革新とは何かを!? 我々(スペースノイド)彼ら(アースノイド)の違いを!』

 

 お前にはその義務がある。追い求めた果てにあった人類には、答えを示さねばならない筈だという言葉に、イワンは静かに息を吐いた。

 

『人類は変わらんよ。宇宙に出ようと地球に残ろうと人は人だ。新たな器官が、能力が備わろうとそこに個の意思があり、続く限り、争うことも求め合うことも変わらない──革新など存在しない。人が、人ならざるナニカになることなど、求めるべきではないんだ』

『──そんな……』

 

 ダイクンが真に求めていた存在。ニュータイプ理論を空想から現実のものと立証できる人物。その男の口から出た言葉は人という生き物の、種族の持つどうしようもないサガだった。

 

『確かに、人は進み続けるのだろう。やがて肉体さえ解き放って、時間の概念さえ超えるのかもしれない──けれど、私はそのような存在になりたいとは思わない』

 

 人は弱く、脆く、本当の想いを知って貰うことさえままならない。だから人は大切な誰かに、愛する誰かに次を託し、その背中を見つめながら眠るのだ。

 

『ただ老いて、朽ちればいい。違うナニカに変わってしまわなくても良い。そんなものに成り果ててしまうより、優しい心を持てる方が、ずっと美しい筈だろう』

 

 キシリア・ザビが、イワン・ヨークに愛し合うことを教えてくれたように。

 その果てに、優しさの繋がる先にこそ──

 

『──革新でなく、より良き明日があると信じている』

 

 嗚呼、けれど。誰もがその優しさを、持てないことも分かっている。

 当たり前だ。人は脆く、不完全なのだから。善と同時に、悪を抱く生き物なのだから。

 

『だからこそ、貴女にはダイクンの許へ行って貰わなくてはならない』

 

 人の悪意に弄ばれた、全ての宇宙移民(スペースノイド)の為に。

 より良き未来のために、その血を流して貰うと銃を突きつけた。

 

『貴方は……優しくはないのね』

『自覚はある』

 

 非道で、残酷で、情け容赦なんて欠片もない、冷たく恐ろしい(ひと)

 

『けれど……良いでしょう。地獄でなく、ダイクンの許へと告げたのですから。願わくば、貴方の理屈が間違いでありますように』

 

 ──愛しい人(ダイクン)が求めた、人の革新が現実のものとなりますように。

 

あの人(ダイクン)の待つところで、人の行く末を見届けましょう』

 

 

     ◇

 

 

「少佐……?」

 

 時間にして、それは本当に一瞬だった。互いに目が合い、僅かに瞬いたというだけの束の間のモノだった筈だ。だが、その間にした体験は、イワンにとって無限の地獄にも等しかった。

 

「いや……何でもない」

 

 撤収だと、銃を下ろし短く告げた。

 

“やはり……ニュータイプなど呪いだ”

 

 何故、このような力を自分が持ってしまったのか、イワンは何となくであるが察していた。この物語における本来の主人公、アムロ・レイ……彼は死闘によってこの能力が覚醒した。そう死と間近にあってこそだ。

 一度死を経験し、肉体という軛を、世界さえ越えてイワン・ヨークという新たな器に備わった異なる魂。その存在が、その経験が本来人の持つ枷を壊し、覚醒し、そして望まぬ力を備えてしまった。

 

 ニュータイプという、分かり合うための力──他者を傷つけ続けねば決して目的に達せない男が宿すには、余りに分不相応な力だった。

 




 イワン君はニュータイプでした。
 これまでやけに戦闘能力高かったのは、この力で相手の攻撃とか諸々見切ってたからです(それでもNTとしての成長は徐々になんで、保安隊とかでも犯罪者相手に慣れるまで苦戦しましたが)。
 そして今回みたいに殺す相手の感情とか諸々流れてるんで、その都度SAN値がゴリゴリ削れていく模様。そらキシリア様の癒しを欲しますわ。

 あとまぁ、分不相応と語ったけどシロッコとかあの辺のヤベー奴もNTなので、そういう意味では別にイワン君の性格でも問題ないから、取り敢えず今後も頑張って苦しんでもらいます(畜生)
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