この度、自分が一年戦争という舞台を急ぐあまり、主人公とヒロインというメインキャラの関係性(主に恋愛・信頼面)の描写が不足していたことを、読者の皆様のご意見から痛感いたしました。
つきましては誠に勝手ではございますが、1~9話内で、この二人と、ザビ家の交友を加筆し、可能な限り読者の皆様にこの二人の関係性に違和感を持たれないよう努力していきたいと思います。
※ただ、加筆したからと言って物語の流れそのものに関しては『一切変更はございません』。
あくまで人物の描写を掘り下げるというだけですので、その点はあらかじめご了承ください。
※加筆が完了したものは〈改訂版〉と各話タイトルの末尾に記載いたします。
※2022/4/14誤字修正。
カド=フックベルグさま、ご報告ありがとうございます!
「『ジオン自治共和国』とは、思えば随分と皮肉な名だとは思いませんか?
だというのに我々は
神の時代を越えた筈の我々が、今もなお歴史を繰り返し続けているのだというその事実に、イワンは苦笑を禁じ得ない。
「我が国が『ジオン』の名を冠するよう真っ先に進言したのは、お前だったと記憶しているのだがな? 諧謔も結構だが、仕事は受けて貰うぞ」
片手でギレンが辞令書を突きつければ、イワンはらしくもなく露骨に顔を顰めた。
「ドズル
「今年からガルマが入学するのでな。父上はドズルだけでなく、お前も置けば盤石だと考えているのだろうよ」
知っていて聞くなとギレンは笑うが、イワンからすれば他にやることは幾らでもある。確かに後進の育成は重要かもしれないが、無理に出張る必要は何処にもない。ないのだが……。
“ガルマの在学中は『暁の蜂起』があったな”
渡りに船とはこのことか。尤も、敢えて教職に就く必要性はないのだが、それでも最も近い位置で動きを確認できると思えば悪くない。
顰め面の演技までは必要なかったかもしれないが、仕事を多く受け持っている手前、嬉々として受けるには不自然に過ぎただろうからこれで良い。
「お受けしましょう。但し、サスロ機関と親衛隊の一部指揮権をお借りしても?」
「周到なことだが、元よりどちらもお前が作ったものだ。何であれば手持ちに戻すか?」
ガルマの在学中だけで結構ですと断り、正式に辞令を受け取る。どちらも用いるのは三年後だが、時期がずれ込む可能性もあるので、早期に受け取れるならばそれが良いのだ。
◇
「父上。今イワンに。ええ、意外にも素直に辞令書を受け取りました」
『そうか……あれは日を追うごとに心が死んでおる。ガルマを近くにやることで、少しでも昔の己を取り戻して欲しいが……』
難しいだろうな、と受話器越しにギレンは感じた。確かにイワンはガルマのこともキシリアと同じほどに愛していた。
しかし、それを言うのならばザビ家の皆を家族として愛していたのだ。デギンも、ギレンも、サスロも、ドズルも、そしてキシリアもイワンにとってかけがえのない宝石そのもので、決して欠けてはならないモノだった。
「ドズルのように
『あれは仕事がなければ、その分思い詰める性質だ。若くして妻を亡くしたマクシムがそうだった』
ヨーク家当主としてマクシムが今もなお政界に食い込み続け、それでいて経済面でも抜かることなく実績を重ね続けてくれている理由はそこだ。休むことを、止まることをしてしまえば、その時には倒れ死んでしまうのがヨーク家の男達だった。
『……その癖、自分自身の欲はすこぶる薄いと来ていてはな』
親衛隊や諜報機関を組織しながら、その手柄と戦力を丸投げしたのがいい例だろう。とはいえこの二つとも国政に携わらぬ人間が保有するには、余りに大き過ぎる権限であることもまた事実。
「イワンは生き残り方というものを心得ております。彼は今後とも、ザビ家と共にあることを皆知るでしょう」
イワン当人が保持しようにも、確実に周囲が危険視して取り上げるよう進言したであろうから、ザビ家が必要に応じて貸し出す形に留めておくのが最も良いというのは理解できる話でもあったし、自主的に手放したのも自分の立場を周囲に喧伝する上で悪くない。
どころか、模範解答とさえ言っていいとギレンは判断していた。
『そうだな。だが、だからこそ我々がそこに甘え続ける訳には行かんのだ』
何としてでも生かし続けろ。たとえどれだけ望みが薄くとも、決して死なせるなとデギンは釘を刺す。
『キシリアが目覚めた時──あれが死んでいたなどということにだけはなってくれるな』
「……心得ております」
たとえ目覚める可能性が、どれだけ低いのだとしても。
そんな奇跡は起きないと心の何処かで理解していても。
“それでも、その可能性に縋らねば……見ていられない”
──あんな、泣きそうな顔を続ける
◇
「どうしたんですか? 兄さんから話なんて」
「まぁ……な。これから士官学校に入るお前には、幾つか話しておくことがあってな」
まぁ座れとドズルは執務室内に用意された、来賓用のソファーに末弟たるガルマを座らせ、従卒に茶を用意させて対面に座り込んだ。
「知っての通り、士官学校開校以来俺は校長に就いている身だ。だが……」
「分かっています。僕もザビ家の男、特別扱いは望みません」
ジオン自治共和国と国号を改めて急発展していく中で、対極的に軍事インフラの用意が間に合わなくなった地球連邦政府の間隙を突く形でムンゾ防衛隊も拡充を進め、国防軍として正式に改組。
今やサイド3のみならず、各コロニーはおろか地球圏からさえ国防軍中枢を担い──これは連邦が士官学校の門戸を表向き
「ああ、そうだな。それもある……だが、お前に伝えたいのは今年からイワンが教官になるということだ」
「……
イワン・ヨークの階級は国防軍中佐であり、保安隊の長も後任が見出される一昨年まで兼任していた男である。
そのような大人物を名誉職でなく、敢えて教官の一人としようというのだからガルマが誤解して愁眉を寄せるのも無理からぬ話だった。
「僕は何時までも子供じゃありません! そんなことまでされなくたって、ザビ家の一員として相応しい実力を示して見せます……!」
「早とちりするな、誰もそんなつもりじゃない。むしろ……逆だ。なぁ、ガルマ……お前はキシリアが
「…………いいえ。でも、
誰よりジオンに尽くしてくれていますと述べるガルマに、そうだなとドズルも深く息を吐いた。
「でもな。昔のあいつなら、どんなに忙しくても顔の一つぐらいは覗きに来たろ?」
キシリアが居てくれた時はそうだった。寝る間を削って、今にも倒れそうなぐらいの仕事をこなしてるのに、顔に出さずにザビ家の皆との時間を大切にしてくれた。
「勿論、そこまで無理して欲しい訳じゃない……だけどな、可愛がってくれてたお前だけじゃない。ギレン
それでな……恥ずかしい話、正直それで
あの顔を、あの瞳をガルマはまだ見ていないから分からないのも無理はない。最愛の婚約者が、自分にとっても大好きだった
「ガルマ、兄貴としての恥を忍んで頼む。できる限り、イワンの傍に居てやってくれ。あいつに仕事以外の時間を作ってやってくれ」
学生として接するのであれば相談にも乗ってくれるだろうし、あくまで私人として引き留めることもガルマなら何とかなるかもしれない。
「これからは俺も、出来得る限りイワンとは話していく──あいつがこれ以上、思い詰めないようにして欲しいんだ」
「……──分かりました。僕も、あの優しい
「そうか!」
ありがとうなと笑うドズルに、ガルマは過去の、自分の知っているイワンを思い返す。常にキシリアに振り回され、ギレンとよく話し、ドズルに肩を回されつつも苦笑して受け入れていた。サスロだけは、あの頃から仕事が出来過ぎていて、目端が利きすぎることに苦手意識を持っていたようだが、それでも仲が悪いという程でもなかった。
そして、ガルマ自身にとってのイワンはまるでザビ家の、本当の兄のように感じる人だった。大人しい自分と一緒に馬に跨って遠乗りを楽しんだり、地球のことや文化を話して、一緒に弾いたヴァイオリンを褒めてくれた優しい人。
それが……どんな風に代わってしまったかを、ガルマは改めて知ることになる。
◇
“こういう……、ことか”
ガーディアン・バンチに設けられた国防軍士官学校に入校したガルマは、教官として立つイワンを見て、一目でその異常性を理解した。
教官として粛々と勤務し、士官候補生の問題を見抜き、親身に相談に乗りつつも出身の違いで差別など欠片もしない、理想的な教官と言えばそうなのだろう。
だが、あれが駄目だということが一目見ただけでガルマには嫌でも分かった。あのドズルでさえほっとしてしまったと、そう自らを恥じ入った訳を、どうしようもなく理解できてしまえるほど、今のイワンは壊れていた。
「
「……ガルマ・ザビ一回生。ここでは」
「分かっています! でも、それでも話をさせてください!」
他の生徒が見れば、何事かと思うような光景だろう。しかし、それでもガルマは放っておくことなどできない。あの優しい、澄んだ目で自分に接してくれた
「分かった……管理人室に行こうか?」
◇
かけてくれ、と椅子に座らせたガルマに向き、イワンは落ち着いた調子で問う。
「一体どうした? ルームメイトか、それとも同期とのトラブルか? ああ、試験の内容を教えて欲しいなどとは言わないでくれよ?」
冗談めかして笑いつつ、珈琲を淹れて席に着いたイワンは、正しくガルマの知るかつてのイワンそのものだった。口調も、表情も、声音さえ何一つとして違わない、あの頃のイワンそのものだった。
けれど……何もかもが同じでありながら、何もかもが違っていた。
違うものに──成って果ててしまった。
「
こんな風に、取り繕うことはない筈だと。僕たちは家族じゃないかとガルマは掠れるような声で問う。
「
辛い時は辛いと言えばいい。泣きたい時は、泣けばいい筈だ。そんな顔を見せられないような関係じゃ、決してない筈なんだから。
「……──そう、だな。嗚呼、お前の言う通りだ、ガルマ」
この時、ようやくイワンの瞳に微かに光が戻ったとガルマは感じた。たとえそれが一瞬で、すぐさま消えてしまうものだったとしても、確かに自分の言葉に振り返られるものがあったのだと信じることのできるものだった。
「私は辛いと……重いと感じている。だが……
護ると誓った。何としてでも、何があろうとも。
「私は、護らなくてはならないんだ」
ザビ家を、ジオンを、
「……
「ただ勝つだけでは駄目だ。勝って……ダイクンが提唱した通りに、全ての
経済格差、人種差別……人が人である以上、誰かと違うものを持っている以上、人はそれを理由に相争うことを宿命づけられた生き物だから。
「『勢力均衡』……最も重要なのはそこだ」
ザビ家が全てのコロニーと月を団結させる『サイド共栄圏』を確立させ、地球連邦政府と互角か一歩上を行く戦力を構築する。
一国家の二大政党のように、互いの言い分が反発しつつも暴走を止め合い、前進していく社会こそ、イワンの考え得る最善と言えた。
だが、そこに行きつくまでの道のりは困難を極める。独立独歩できる力を有しつつあるサイド3単独での独立ならばいざ知らず、地球連邦政府にコロニー開発を含む重工業とインフラを抑えられ、傀儡であることに甘んじているコロニーにまで手を回すには、ジオンが圧倒的優位であり、その旗下に日和見を決め込むコロニーが加わらねば話にならない。
「今が……、今が最も重要なんだ……一日でも、一刻も早い軍拡をしなければ立ち行かない……連邦の国力は、余りに巨大だ」
だから止まれない。進む以外に道はない……手を拱いてしまえば、僅かにでも停滞すれば、連邦は確実にジオンを潰しにかかるだろう。
「だから……辛くても、苦しくても、まだ泣けないよ。ガルマ、お前とキシリアの為にも、私は必ず勝ってみせる」
「そう……」
立派だと、ガルマは思う。誰よりも強くこの国を、そしてザビ家を案じてくれているのだと分かる。けれど──
「それでも──
立ち上がり、胸に顔をうずめさせ、ゆっくりと頭を撫でた。
幼い頃、泣いていたガルマをイワンやキシリアがそうしてくれたように。
ガルマ自身がくれた、温かいものを忘れさせないために。
「大丈夫だよ──僕は大人になる。姉さんも、見守ってくれている」
「そうか……そうだな……嗚呼、すまない。ガルマ、今だけは……少しだけ」
──みっともない顔を、させてくれ。
ヨーク家男の家訓「止まるんじゃねえぞ……」