宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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※2022/5/1誤字修正。
 カド=フックベルグさま、麦茶太郎さま、mnskさま、SIGSEGVさま、ご報告ありがとうございます!

※ティアンム中将のキャラを間違えて外道キャラにしてしまっていたので修正いたしました。ティアンム中将ファンの皆さま、誠に申し訳ございませんでした!


20 油断なき者共

 開戦初日にして白旗を上げた月面都市。その驚異的な戦果はしかし、月面艦隊が一隻余さず徹底的に駆逐されたことと、高濃度ミノフスキー粒子の影響下にあって月面駐屯基地が被害を後方部隊には通達出来ずにいたこと。

 これらに加え、グラナダ市長に指示したサスロ機関の情報統制もあって、各サイドの駐留艦隊にジオン艦隊の交戦状況が正確に伝わることはなかった。

 

 かくして月面都市攻略の完遂に続く形で、ジオン艦隊は各サイドの駐留艦隊と会戦。

 開戦劈頭で月面艦隊と会敵し、疲弊を強いられていると信じて疑わなかった駐留艦隊は、無傷と言って差し支えないジオン艦隊の前に、その動きを止めることは事実上不可能だったが、ここでジオンは連邦軍主力艦隊との接触ではなく、各サイドに残る駐屯部隊の排除に動いた。

 

 純軍事的観点から見れば、ここで各サイドのコロニーに待機する連邦軍基地を攻略する意味はない。各宙域での戦いを制した以上、残存する地上部隊など見向きもせず、ルウム宙域に向けて動けば良い話で、つまりこれは政治的判断によるものである。

 出撃した駐留艦隊の勝利を信じ疑わず、何日でジオン公国が降伏するか賭けに勤しんでいた基地勤務者は、突如現れた一つ目の巨人達を前に呆気なく降伏するしかなかった。

 ザクⅡの五指はその巨体に見合わず精密作業を得手としており、コロニーのハッチさえ容易に開閉できる程であったこと。最長でも四〇キロほどしかないコロニー内ではミノフスキー粒子散布が容易であり、レーダー類を麻痺させるには然したる時間を要しなかったこと。

 そもそもにしてコロニー内に屯する連邦軍兵力は下部組織たるサイド防衛隊と民間人の制圧の為といった面が強く、全面戦争を想定した兵器類に関しては、そこまでの数を整えていなかったことが降伏に至った経緯であるが、これによってもたらされた政治的成果は絶大であった。

 

 心の奥底ではジオンに同情の念を寄せつつも、各サイド住民はジオンが敗北するだろうという諦観を抱いていたからだ。

 しかし現実には連邦軍駐屯基地は制圧され、ジオンの旗が掲げられるのを民衆が目撃してしまえば、そこから先は堰を切ったように歓呼の声がコロニー内に響き、各々のバンチを物理的に揺るがしかねない程の激震が走った。

 

 ──宇宙移民(スペースノイド)の独立、連邦という圧制者からの解放。

 

 どれだけ望もうと得られないと考えていた、奴隷の鎖を断ち切る剣を持ったジオン軍という勇者を、民衆はあらんばかりの賛辞と歓声で出迎えた。

 鋼鉄の巨人を操る操縦士(パイロット)らはその巨大な手を上げて歓声に応え、後続の地上部隊が後を引き継げば、更なる戦いに勝利すると誓って各サイドを後にする。

 当然、駐屯基地内の捕虜を任されたジオン軍人たちが民衆に無体を働くような不手際は起こさない。

 その教条主義と思想故、忌避されがちであった親衛隊員は並の憲兵などとは比べ物にならぬ眼力で目を光らせているということもあったし、何よりこれは宇宙移民(スペースノイド)の為の聖戦であると誰もが承知するところであった。

 それ故、その場を引き継ぐジオン地上軍将兵の口元は固い。この歓声を再び嘆きにしないためには、公国軍が戦いに勝利せねばならないということを弁えていたから。

 

 

     ◇

 

 

 緒戦の艦隊戦に勝利後、ランバはドズルの座乗艦たる艦隊指揮艦ムサイ改型〈ワルキューレ〉に乗艦するや否や、歓待の握手と共に背骨がへし折れるのではないかという程の抱擁を受けた。

 

「おうっ! 来たか中佐! 緒戦は我々の完勝だ!」

「……閣下、そういうのは小官でなくヨーク大佐にすべきでは?」

「そうしてやりたいが、あいつは今観測要員として行動中でな!」

 

 あいつの分の喜びも含めてだと笑うドズルに、有難迷惑なのを顔には出さないまま、「まぁ飲め」とドズルが従卒に運ばさせた珈琲を勧められるまま口に含む。

 

「……それで、グラナダからお声かけ頂いた理由をお訊ねしても?」

 

 願わくば、ルウム宙域行きの艦隊に参戦したいのですがという要望を口にすれば、ドズルは苦笑しつつ頭を振った。

 

「すまんが、それは無理だ。貴様にはこれから、サイド2(ハッテ)の傀儡政権に踊らされた防衛隊を叩いて貰わねばならん」

「無視する訳には行かんのですか……?」

 

 反連邦感情の強い他サイドと異なり、ハッテは兼ねてより傀儡政権が根を張り、ハッテ市民もそれに同調して親連邦の立場を表明している。

 他サイドのように、駐屯基地だけを制圧して『解放』声明を発することはできない以上、ルウムで勝利した後、ジオン側に立つよう交渉した方が確実だというのがランバの持論だった。

 

「確かに貴様の言うことも一理ある。が、あそこを無視しては連邦の橋頭保が残り続ける。我々が制宙権を完全に掌握せねば和平交渉にも、万一中長期戦になった際にも支障が出るのだ」

 

 ドズルのみならず、ギレンとイワンもそこは意見が一致しているという。そして、その為の準備も周到に進めてきたと。

 

「中佐、ハッテの防衛隊と民衆は一枚岩じゃない。親連邦の現政権に不満を持っているのは半数近いんだ」

 

 ただ、その半数というのは自然発生したものでなく、サスロによる分離工作とプロパガンダの成果ではあったが、そこはドズルも敢えて口にはしない。重要なのはゲリラ戦の雄たるランバに旗頭としてジオン・シンパのハッテ市民を率いて貰い、傀儡政権打倒の為に動いて貰いたいということだ。

 

「クーデターですか」

 

 連邦の傀儡を倒し、ジオンの傀儡に挿げ替えるというのは皮肉に過ぎることだが、それでも意義と意味の双方を理解した以上、ランバにも否やはない。

 

「承知しました。このランバ・ラル、ザビ家に首を繋げて貰った身として、粉骨砕身致します」

「……おう、期待してるぞ」

 

 おそらくはジンバのことを思い出したのだろう。ばつが悪そうに眼を背けたドズルに対し、ランバは「過ぎたことでしたな」と後ろめたさを感じさせてしまったことの非を詫びた。

 

「……ああ、いや。中佐、貴様はこんなところで死ぬなよ? 働いて貰った分は、しっかり貰うべきものを貰ってもらわねば、俺の気がすまん」

 

 その、一党が政治に身を置く中にあって、素直過ぎるドズルの性根に苦笑しつつ、ランバは踵を合わせて敬礼した。

 

 

     ◇

 

 

「良い色の機体だな、『黒い三連星』諸君」

「何と言っても見た目は大事ですからな、大佐殿」

 

 ムンゾ航空隊員時代から使用し続けてきた、ディープパープルの専用機体色(パーソナルカラー)に加え、三位一体のチームを象徴する三つ星のエンブレムを讃えるイワンに、ガイアらも満足げに頷いた後、イワンの機体を眺めた。

 

「鮮やかな橙色ですが、何故この色を?」

「……いや、何。専用機体色(パーソナルカラー)を選べと言われて、咄嗟に思いつかなくてな……思い浮かべたのが、婚約者(キシリア)の髪の色だった」

 

 笑ってくれと頬を掻くイワンに、ガイアらは「お熱いことです」と苦笑したが、ザビ家の長女が未だ深い眠りの中にあり、イワンが開戦の日まで日々欠かさず見舞いに行っていたことはイワンを知る者なら誰もが知るところであった。

 たとえ始まりが政略結婚であったとしても、どれだけ他から小児性愛者の陰口を囁かれようと、イワン・ヨークが未だキシリアを愛し続けているということをガイアらは理解していたし、だからこそ陰で悪し様に漏らす連中は一人残らず袋にしてやったものである。

 

「ところで、大佐殿の機体はカスタマイズしないので?」

 

 流れを変えるべく、そのように問うたのはマッシュだ。専用機体色(パーソナルカラー)を持つ操縦士(パイロット)には一定の裁量権があり、改修や改造も要望に沿ってメカニックが調整してくれる。

 現にガイアら三連星の機体もC型から汎用性を取り払うことで空間戦闘に特化したR-1A高機動型をエースとして受領していたが、これに更に手を加え、バックパックエンジンの強化やフィンの可動範囲拡大に加え、脚部も高機動を実現すべくバーニアと増槽の追加がなされていた。

 対してイワンの機体は一般パイロットと同様の汎用機(C型)で、指揮官機を示す『角付き』であること以外、目に見えた変化は見られなかった。

 

「表面上はな」

 

 観測要員として行動するにあたって高強度通信を可能にしているし、増槽も内設して稼働時間を底上げしている。そして極めつけは……。

 

「……大佐殿、やはり整備班としては、リミッターをかけた方が宜しいかと……」

「構わん。私なら問題ない」

 

 恐る恐るといった体で意見具申してきたメカニックの言を両断する。

 ニュータイプという存在として覚醒目覚ましいイワンは既にして通常の人間とは逸脱しつつあり、安全策を講じつつ徹底的に肉体強化措置を講じる予定であったフラナガンも、これには匙を投げてイワンに「憶測となりますが……」と前置きして次のように講釈した。

 

 人間という種には環境に適応する能力があり、生存に最適な道を探し、自らを変えて行く力を有している。旧世紀にペストが蔓延した際、半世紀と待たず致死率が低下したように、ニュータイプとして覚醒した存在は『進化』というより『突然変異』に近い速度で変性してしまうのだろうと。

 現にニュータイプとして未発達であった一〇代から二〇代前半にかけての、航空士官として宙域戦闘機を最も長く操縦していた頃より、今のイワンは耐加重()適性の数値が高く、空間認識能力も桁外れに伸びている。

 認識能力に関しては専門訓練と脳波放出量の増加で説明はつくものの、加齢と共に衰えるべき肉体の、しかも心肺機能をはじめとした臓器類が悉く強化されるなど有り得ない。

 

 よってフラナガンはこの結果を鑑みて方針を切り替えた。本来ならば眼球が飛び出しかねないような過負荷でのGや、過酷な環境に如何に長く身を置き続けられるかにシフトし、再生医療系は、それら訓練で負ったダメージを治療するに止めることとした。

 結果として、初期は一度の訓練で内臓が一つ破裂していたイワンは、今となっては少々の出血程度に留まっているし、機体に振り回されて眼球がヨーヨーのように飛び出すこともない。

 ……尤も、ショック死を避けるために部分麻酔を繰り返してきたため、今となっては麻酔も適切かつ高純度のものを投与しなければ利き辛くなってしまったが、そこは既にフラナガン機関を通じて、どの医療機関であれ野戦病院であれ、適量を投与して貰えるよう手筈済みであるから問題ない。

 

 何より、これによってニュータイプの環境適応能力の高さが裏打ちされ、MS適性検査を複数回行い、耐G適性と空間認識能力の数値が向上している者を、潜在的ニュータイプとして発掘することが可能となったのは、フラナガンを狂喜させるには十分だった。

 特にこの時点では一介の歩兵に過ぎなかった筈のダリル・ローレンツを潜在的ニュータイプとして発見できたのはイワンとしても大きく、彼は一等兵から伍長に昇進後、MS狙撃兵として正式に駐留艦隊との戦闘に投入していた。

 最悪、この独立戦争は後々フラナガン機関に組み込む予定であったシャリア・ブルとイワンだけで回すことも考えていただけに、ここで戦力を確保できたのは喜ぶべきことだろう。

 

“とはいえ正史での行動を鑑みるに、ダリル・ローレンツに公国への忠誠心を期待できないのは頭の痛い問題だが”

 

 万が一裏切るようであれば、その時はイワンの手で直接始末すべきだろう。

 或いは公国への忠誠心厚い者の中から、安全策を重ねた上で人工ニュータイプないしは強化人間の志願者を募り、それをダリルにぶつけるという手もないではなかったが、人任せにして仕損じた挙句、捲土重来して公国に牙を剝く可能性もあり得る。

 

“やはり政治将校らしく、不穏分子は自らの手で斬り捨てねばなるまいな”

 

 自ら取り立てておきながら反乱を想定するなど勝手が過ぎるが、()()()ニュータイプというのは兎角我が強く出来ているので、この手の対策はしておくに越したことはないのだ。

 

 とまれ、今重要なのはそうした未来の可能性でなく、目先の戦いのことである。

 

「私と随伴機の武装は万全だな?」

「は、はい!」

 

 既にしてイワンのザクは背部ランドセル(バックパック)のラッチに核搭載型のMS用A2バズーカが固定され、右肩部盾のラッチにバズーカ用の弾倉を二本携行。右手はMS用対艦ライフルASR-78で武装し、正面左右のリアスカート部分にも対艦ライフルの弾倉を一本ずつ装備していた。

 

 その横に並ぶ緑灰色(ノーマルカラー)の随伴機二機においても、右肩部の盾やスカート前面にバズーカと対艦ライフルの弾倉を持たせているものの、武装に関しては背部ランドセル下部に装着されたボックスマガジンに連結されたベルト給弾式MS用マシンガンに限られていることから、この二機の役割が補給要員(にもつもち)であることは一目瞭然であった。

 ともすれば、武勲を稼ぐ絶好の機会にあってこのような役回りを強いることは最高軍事機密として、ジオン公国軍の虎の子としての扱いを受けてきたMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)の尊厳を深く傷つけるものであったろうが、しかし遅ればせながらやってきた二名はそれを甘んじて受け入れる所存であることを示すべく、晴れがましい顔つきでイワンへと敬礼を捧げた。

 

「グレゴリー・ロマーノフ伍長! 随伴の栄に浴し、光栄であります!」

「フリオ・サワディー伍長! 同じく光栄であります!」

「上官より遅れて来たか! この落第生共が!」

 

 良いご身分だなとオルテガが威圧的な声音で詰め寄ったが、しかしその口元はにやけており、心からの罵倒でないことは誰の目にも明らかだった。

 

「訓練じゃ射撃も索敵も酷いもんだったが、編隊飛行だけは一級だったお前らだ! 大いに大佐殿の為に役立ってこい! 約束通り、生き残ったらお前らの抱えた弾倉分は大佐殿との『共同戦果』扱いだ!」

 

 オルテガの言葉に嘘偽りは全くない。栄えあるMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)の中にあって、敢えて日陰の位置に追いやってしまう以上、それに見合う報酬を与えねばイワンとしても面目は立たなかったし、何よりイワン自身重要なのは戦果(スコア)でなく敵艦隊の()()であるから、随伴候補者の中からこの条件で志願者を見繕ったのだ。

 

 ただ、この二人に関してはそうした()()()()(あやか)ろうという欲目でイワンの僚機となることを選んだのではない。

 連邦との開戦が間もないだろうとザビ家が判断してすぐ、イワンは佐官として復員していたが、その間から開戦の日までMS操縦士(パイロット)として部隊規模での訓練に正式に参加しており、グレゴリーとフリオはMS操縦士(パイロット)適性をスレスレで弾かれそうになったところを、何度もイワンに助けられたという経緯があった。

 だからこそ、グレゴリーもフリオも唯一の強みである編隊飛行に磨きをかけてイワンの僚機として認められるまでになり、『落第生』と口では言いつつもオルテガはそうした一途さを買って二人を可愛がっていた。

 

「ところで大佐殿、戦果(スコア)に関しては、例の約束もお忘れないように」

「案ずるな、マッシュ中尉。士官クラブには予約を入れている」

 

 黒い三連星とイワンの三機編隊(ケッテ)、共同戦果で負けた方が士官クラブで酒を、それも朝までコース(ティル・ドーン)で奢るという賭けで、伍長であるグレゴリーもフリオも、その日だけは従兵扱いで来店許可を取り付けていた。

 

「加え、私物だが西暦当たり年のボルドーも置かせて貰った。個人戦果(スコア)のトップは独り占めして構わんよ」

 

 これにはマッシュのみならずオルテガも拳を振り上げ、ガイアは掌にパシ! と拳を当てた。この先は激戦区となる以上、本来ならば功を焦るなと釘を刺すべき場面なのだろう。しかし、それを口にすることはエースたる彼らの尊厳を傷つけるものと心得ていたイワンは、一層の奮起を促すにあたって、こうした賭けや景品の方が良いと判断していた。

 生還と勝利。その二つを勝ち得る上で最も重要なのは、達成した後にあるモノを実感できるということなのだから

 

「諸君らには、前もって言っておく。連邦軍の戦史教本に我々の名は()()()()()

 

 捕虜は誰一人として取るな。一木一草悉く、ルウムを墓標として葬り去れ。

 我々がどう活躍したかなど、ジオンのプロパガンダ以外で知る必要はないのだから。

 

 

     ◇

 

 

 サイド駐留艦隊との音信は途絶したままであり、グラナダとフォン・ブラウンからの定時連絡もなし。ここまでくれば地球連邦軍主力艦隊とて、自分達がどのような事態にあるのかを察するのは容易であったが、しかし、計画に変更はない。

 ジオン艦隊は、連邦軍の想定を遥かに上回る強敵であったのだろう。人類史上初となる統一政府たる地球連邦を相手に、一歩も引かぬ戦いを行えるだけの将星と軍備を備えてきたのだろう。

 

“それでも、我々の勝ちは揺るがんがな”

 

 艦橋(ブリッジ)中央に設けられた艦長用シートに深々と背を預けて指を組みつつ、ルナツーより派遣された連邦軍第二艦隊司令官、ティアンム中将は熟考を重ねる。

 各サイドに屯していた駐留艦隊は、合計すれば連邦軍情報部が把握していたジオン艦隊全軍に伍する規模ではあったものの、逆に言えば若干の数位的優位にあったに過ぎず、また練度においても二戦級ないしは政治的問題からそれ以上の栄達を望み得ない指揮官で構成されていたが、主力艦隊は違う。

 ルナツーから派遣されたティアンム艦隊のみで情報部が想定したジオン艦隊に倍する規模であり、そこに地球から派遣・合流する予定のレビル中将率いる第一艦隊が加われば純粋な兵力では四倍。

 艦隊同士の連携においても問題なく、相互通信によって一個の生命体の如く機能する合同艦隊は、戦力に換算すれば五倍は固い。

 これは地球圏に最低限残してきた治安維持部隊以外の全てを投入しており、如何に連邦政府が油断も慢心もなく、ジオンという危険分子を排除することに注力しているかが窺い知れる規模であった。

 

“最悪に最悪を想定すれば、駐留艦隊の内三分の二は損耗し、残りは潰走していると見るべきだろう”

 

 だが、一隻余さず殲滅することは如何に有能な艦隊と指揮官であっても不可能だ。できることなら、潰走しつつも生存している駐留艦隊を、収容できるならしてやりたいが……

 

“恐らく、傷ついた艦艇では捕まる方が早い……万一振り切れて合流できたとしても、その時は手負いの味方艦には被害担当艦を勤めて貰う他あるまいな”

 

 余人が聴けば薄情だと、人でなしと誹られるだろう。傷ついた味方を盾にすることに、ティアンムとて恥に思う心はある。しかし、それを押し殺してより最善手を打ちつつ、被害拡大を防ぐことに注力できねば、艦隊司令官という職責は果たせない。

 何より、敵とて敢えて手負いを逃がすというのなら、それはそこに付け入る隙を窺っていることの証左でもある。どれだけあの世で詰られようと、大を生かすための犠牲を飲み下せねば、完全な勝利は掴めないのだということを、ティアンムはこの地位に就くまで、数多の経験の中で積んできたから。

 

「諸君、駐留艦隊からの連絡がないということは、通信障害を前提とした戦法をジオンが練っているということだ」

 

 旧世紀における戦略核のように、一瞬にして敵を吹き飛ばす類の新兵器を投入している可能性もあるが、そちらはまずないとティアンムは見ている。

 仮にそうであったなら、吹き飛ばされる直前に何らかの連絡を駐留艦隊は講じているだろうし、それで完全に艦隊を消滅させられるかと問われれば難しいし、既に主戦場たるルウム宙域にて陣形を整え、ティアンム達を待ち構えていれば確実に被害を抑えられる。

 

 逆に新兵器での速攻での勝利を活かし、先手を打ってティアンムとレビルが合流するまでに各個撃破するという手もあるが、その様子もなく、情報を完璧に封殺している()()に止まっている現状、間違いなくジオンは通信妨害を主軸とした戦法を構築している筈だ。

 

「各艦の間隔を密にし、短距離での高強度通信にすることで連携を欠かすな。僅かにでも通信に乱れやラグが見られればその都度報告せよ。

 砲雷長にも通達! 核搭載型巡行ミサイルは誘導機能を解除! 装填後、直ちに直線発射を前提として敵主力艦隊に標準合わせ!」

 

 最悪を常に想定し、行動すること。それこそが猛将とまで謳われながら、猪と蔑まれることは決してなかった、将官としてのティアンムの信条であった。




 今回登場したグレゴリー君とフリオ君は、サンダーボルト5巻に登場した特攻兵です。
 数あるジオン兵の中からかれらをチョイスしたのは、原作で不遇だったというのと、グレゴリー伍長がルウム戦役で負傷した古参兵だったからであります。
 ダリル君に関しては、味方のままにしても良いし、敵に手応えがないと感じたときに、寝返って貰うために登用しました(畜生スマイル)

 次回はいよいよルウム戦役。(字数が嵩んで次々回に流れなければ)みんな大好き畜生お爺ちゃん(レビル)が活躍予定です!

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