飯炊きめっしーさま、act0048さま、土屋 四方さま、ご報告ありがとうございます!
「『こちらは〈一週間戦争〉戦勝祝賀会会場! 落成なった新公王府ダイクンの間であります!』」
ルナツーの攻略を含め、短期間での劇的な勝利を果たした先の戦いはその期間を取って『一週間戦争』と銘打たれ、その勝利を大々的に報じるべく報道陣を代表して放たれる司会の声が、ダイクンの間に陶酔の熱を孕ませて響き渡る。
赤紫の絨毯が敷き詰められ、国旗と国章に飾り付けられながら、ダイクンの間は青く輝く天然の洞窟を思わせる内装であった。
自然の美を崇拝する
地球圏における既存の建築様式に拘泥せず、水と照明によってまるで海面が反射した洞窟内のような神秘的な輝きに満たされた空間は、大自然の栄華を活かした古代神殿を彷彿とさせた。
「『ただいま、勲章伝達式を終えた諸将勇士達が、続々と入場しつつあるところです!』」
焚かれる無数のフラッシュに回されるカメラ。軍楽隊による勇壮なファンファーレの音が出迎え、先導する儀仗兵に続く形でジオン十字勲章組の先頭に立ったのは、艦隊司令官たるドズルでも
翼を象ったジオンの紋章が金モールで描かれた詰襟に、房の付いた将官の
「『ご覧ください! 公国が誇る高潔にして美しき戦女神、ガラハウ准将の英姿です! 荘厳なダイクンの間の輝きが、その神秘的な美貌を一層際立たせています!』」
泰然とした面持ちのまま歩を進めるシーマであったが、司会の言は誇張し過ぎていると感じたし、柄でないので止めて欲しいというのが本音だった。
軍人として、英雄として讃えられるのは素直に誇れても、そう女としての部分を誇張されては、華のない身であることを自覚しているシーマ自身にはどう反応していいか分からない。
結果、勲章伝達式以前の首都パレードのような軍人としての足取りと顔つきで固定しながら、絨毯の上を進むこととなったが、すぐに自分の後に続く形で司会とカメラが後続に向いてくれたことを彼女は感謝した。
「『続いて〈青い巨星〉の異名をとるランバ・ラル准将です!』」
連邦の魔の手から
むしろグラナダからフォン・ブラウンを抑えるべく動いた時の方が仕事としてはやりがいがあったと思えたほどで、その仕事内容からランバ本人は二階級特進を固辞したかった程だが、結局賞勲局と軍首脳部は二階級特進させる方向で意見を一致させた。
純粋にランバ自身の能力を見込んでというのもあるし、何よりラル家の過去や身内の問題があったとしても忠誠と献身確かであれば、公国はそれに報いるということをアピールできるという部分もあったからで、ドズルの口添えもあってランバはそれを受けることとした。
大罪を犯したという過去が記憶に新しいラル家の嫡子に対し、多くの国民から向けられる視線は未だ厳しいものであったが、そこはドズルが鶴の一声で黙らせただけでなく、報道関係者を牛耳るサスロの宣伝工作もあって、徐々にランバの印象は改善されていた。
こうして公国が誇る英雄として一歩
少なくとも、儀仗兵共々この場に集う、過激派で知られる親衛隊でさえランバの活躍には不満の一声さえ漏らさない。
いいや、なまじ教条主義な親衛隊だからこそ、行動によって示された功労を何より重視しているのだろう。会場の警護に当たる親衛隊員に先駆け、親衛隊長たるデラーズがランバに捧ぐ敬礼は誰より厳かな敬意に満ち満ちており、仮にその働きに異を唱える不届き者があったならば、容赦ない制裁が待っていたことは想像に難くなかった。
◇
レンズが角度を変えて捉えるランバの後列には、各艦から特に武功卓抜とされた艦長や
その中には、ルウム会戦でこそMS隊に活躍の場を奪われたものの、艦隊決戦砲〈ヨルムンガンド〉の砲術長として都合六隻もの敵艦艇を屠ったアレクサンドロ・ヘンメ大尉の姿もあった。
他士官の多くが金刺繍の施されたケープ状のマントを羽織った第三種戦闘服に対し、下級ブリッジ要員に共通するアンクルブーツに作業着に近しいスタイルの被服は野暮ったく映るが、そこは飾らない職人気質の表れであり、武骨な大砲屋としてのヘンメの拘りである。
ただ、流石に晴れ舞台ということを心得ている為か、繋がり気味の眉や髭は丁寧に整えていたし、被服も油汚れや染み一つない下ろし立てのものではあった。
勲章伝達式の中にあっても、ギレンはそうした職人気質の部分をつぶさに読み取り、素手でありながら革手袋のように皮が厚くなった手を握って「職人らしい、見事な手だ」と褒め称えた時は、ヘンメは思わず感動に紅潮してしまい、こうしてカメラを向けられると、その時を思い出して思わず羞恥に耳朶が赤くなるのを抑えるのが手一杯であった。
この場に招かれた〈ヨーツンヘイム〉のマルティン艦長なども、そんな齢に合わぬ仕草を微笑ましく見届けながらヘンメに拍手を送りつつ、エース達に視線を流した。
ドズル中将のような将同士の一騎打ちという例外中の例外を除けば、先の戦争での功一番は間違いなくMS隊の面々であり、肩で風切って進む彼らの表情は晴れがましくも、同時に一騎当千の武人を体現する姿であった。
ジオン公国の名家、マツナガ家の子息にして一等兵ながらMS隊に配属され、初陣で
戦時昇進で直ちに少尉となった後はルウム会戦でも共同戦果ながら上官と共に多数の艦艇を屠り、更に二階級特進と共に『白狼』の異名をその白の専用機と共に賜ったシン・マツナガ大尉*1。
この他にも、戦後地球連邦軍士官学校の現代戦史教本にその名を記載されることとなるアナベル・ガトー中尉。
戦中、ニュータイプの素養を開花させることとなり、その片鱗を見せつけたシャリア・ブル大尉に、同じくニュータイプ素養を認められたダリル・ローレンツ曹長。
三位一体の連携を駆使し、共同戦果という括りでは
サファイアのように美しい碧眼。金砂の如く眩くも、同時に獅子の鬣のように雄々しい金髪。貴公子然とした顔立ちにありながら、長らく実戦を経験したような武人としての風格を若くして備える新星に、司会は殊更強くマイクを握って声を張る。
「『うら若き子女の熱烈な歓声に応える姿が見えるでしょうか!? エース中のエース、〈深紅の稲妻〉ジョニー・ライデン大尉の麗貌に花も恥じらう乙女たちが頬を薔薇のように染め、男達もまた、公国の誉れ高き貴公子に敬礼と拍手を惜しみません!』」
思わず忌々しげな表情で振り向いてしまったオルテガは、いい気になるなと思わずその端正な顔立ちの青年将校に掴みかかりかけたものの、ガイアが羽交い絞めにして止めるまでもなく、すぐさま体を硬直させた。
周囲もすわ何事かとオルテガの視線を追えば、そこには長身のジョニーより僅かに背丈の高い、少将の第二種戦闘服を纏う男──イワンの姿を見て取った。
──上に立つ者が感情を顕わにするな。強者ならば強者らしく余裕を学べ。
分かっていると口にした筈だ。違える気か? という無言の圧。
戦勝式典以前に一言一句違わず言い含めた時と、全く同じ視線がオルテガに向けば、同時に先程の熱狂が水を打ったように静まり返る。
視線も表情も凪のようなものである筈だというのに、場の空気を殺しきってしまえるだけの悍ましい寒気。
ただそこに居るだけ。戦場の時のような殺意も覇気も発していない。だというのにオルテガを見咎め、次の一歩を踏み出す間の数瞬、誰もが呼吸を忘れて時を止めた。
英傑が列なす会場の中、醸し出す空気はおそらくだが、レンズの向こう側にさえ伝わっているだろう。
その右上腕部に縫い付けられた、五隻撃沈ごとに得られる二つの戦艦撃沈章の金章と、一隻撃沈ごとに賜る一つの銀章……都合一一隻もの艦艇を屠った
その全てが、イワンという男にとっては
勲章や徽章でその身を飾り立てずとも、存在
ジョニー・ライデンを創作の勇者と称するならば、イワン・ヨークは正しく魔王。
拍手や歓声でなく、ただ平伏して去るのを待つべき存在に、しかし誰より早く動けたのもオルテガだった。
士官にあるまじき振る舞いでした! と。
そう視線で言葉を紡ぎ、謝罪代わりの敬礼の後、踵を回す動作は決して恐れや委縮からでなく、己自身を恥じての行為であった。
銃を握ったことさえない民草ならばいざ知らず、戦場を経験し、英傑の列に加わったオルテガがこの程度で委縮どころか汗を零す無様を晒す筈もなし。
むしろ、感情に流されて上官の恥をかかせてしまったことを悔いる思いで前に進めば、イワンもまた答礼を解いてその背を見つめた。
軋みを上げるような凍り止まる空気はその瞬間に霧散霧消し、ともすればほんの一瞬だけ感じた圧が勘違いだったのではないかと思う程だったが、しかし衆人環視と異なり、ジョニーは背後に立つイワンの存在感を未だ間近に感じ取っていた。
衆人環視のような怯えを抱くことはない。自分が下などと卑屈になることもしない。
だが、一人の男として。戦士として振り返りたいという好奇の鎌首がもたげて仕方なかったのは、オルテガの変化を見てしまったからだ。
“……俺を青二才と、そう見たオルテガ少佐殿の表情がヨーク閣下を瞳に捉えた瞬間に、敬服のそれに変わっちまった”
男を男として認め、惚れ込んだあの表情。青年将校と笑われる
「そう急かずとも、話す機会は後程幾らでもある」
「──!?」
背後から乏しい声量だがはっきりと耳に聞こえた言葉に、ジョニーは微かに肩が上がった。気付かれたという僅かな驚愕。しかし、同時にジョニーは自身の若さを恥じた。おそらくだが、背中が弾んだのを読み取られてしまったのだろう。
“……オルテガ少佐殿に睨まれる筈だ”
どれだけ英雄と、新星と持て囃されたところでこうも年少らしく窘められては世話がない。若造らしく威勢のいい返事をしたいところだったが、今は国民が見守る行進の最中だ。短く「お恥ずかしいところを」と零した後、ジョニーは口を閉じて英雄らしく振舞った。
◇
十字勲章組の入場の後、遂に
「『我らが誇るべき公国の頭脳、ミノフスキー博士が今お見えになりました……っ!!
我が国最高の栄誉、勲一等ジオン勲功大章を公王陛下より直接賜った生前授与者第一号!
ぶるぶるとマイクを震わせる司会の横で、カメラのズームがミノフスキーの姿を映し込む。燕尾服姿のミノフスキーはジオン勲功大章の大綬と副章たる拳大の星章を佩用し、その左胸には軍・民間を問わず、科学・医療・研究等、後方での一定の功績を認められた者に授与されるジオン科学賞が佩されていた。
公国最高の栄誉にして栄典であるジオン勲功大章は、制定と同時にジオン・ズム・ダイクンに勲一等を死後追贈されてこそいたが、その功績を思えばこそ博士を実質的な叙勲第一号と認定すべきであり、ルウム戦役の英雄にして宇宙攻撃軍司令官たるドズルですら勲二等に留まっていることからも、如何に本章が特別かが窺い知れよう。
ジオン勲功大章受章者は一等二等を問わず死後国葬を確約されており、勲二等受章者はその功績を称えるべく石碑と肖像画が公王府内の『勝利の間』に続く回廊側面に飾られ、勲一等受章者は勝利の間に石碑と人工象牙の胸像が安置される。
既にしてミノフスキーの胸像は、勝利の間中央に聳えるダイクンの胸像の右隣に安置されていた。
ミノフスキーの名が、ジオン公国ある限り永久に
◇
六〇年代物の一級品のシャンパンが満たされたグラスが会場に集う皆に行き渡り、報道陣がカメラとマイクの位置調整を終えると、進行に従って中央の壇上に一人の青年が歩を進めれば、誰もが目を見張って息を呑んだ。
その顔の面影を覚えている。その青い瞳を知っている。忌まわしい暗殺事件から時を経て、遂に祖国に戻った青年を歓呼の声で迎えたいという衝動に駆られながら、しかし静謐な場であることを自覚して皆声を押し殺す。
ゆったりとしたローブのような装束は古代の神官を彷彿とさせる優美さに満ちており、それはジオン公国軍にあって、式典でさえ袖を通す機会の少ない第一種に位置する礼装だった。
礼装の色は血のように鮮やかな赤であり、それが確固たる意志を宿す青い瞳に何処までも似合っていた。
「この会場に集った皆様に、自己紹介をさせていただきたい。私はキャスバル・レム・ダイクン──諸君らが敬愛する共和国建国の父、ジオン・ズム・ダイクンの子である」
嗚呼、やはりという納得。込み上げる熱と感動が雫となって皆の頬を伝う中、キャスバルは名誉階級として与えられた大将の礼装を翻し、厳かな面持ちで言の葉を継ぐ。
「私はこの場を借りて、ダイクンの遺児として皆に語りたい。ジオン・ズム・ダイクンは人類の革新と調和を夢見てきた」
地球連邦の増長と腐敗を糾し、死に瀕しつつある母なる地球の回復を願いながら、宇宙という新天地に生きる者たちの、真の安寧を願ってきた。
「統一政府たる地球連邦の初代首相、リカルド・マーセナスが地球と宇宙のかけ橋となるべく、地球軌道上に設けられた空飛ぶ首相官邸〈ラプラス〉の中で、宇宙に旅立つ人類……
しかし、ラプラスで演説を行う最中、リカルド・マーセナスは統一政府誕生を快く思わない分離主義者によるテロによって命を絶たれ、以降、連邦政府は宇宙に政治的拠点を置くことはなくなった。
「統一政府たる連邦の始まりは、善意からだった……広大な宇宙に文明の灯をともし、開拓し、ダイクンが
だが、首相官邸の爆破テロ……後にラプラス事件と歴史の教科書に記された、最悪の事件が全てを変えた。
「連邦政府は、ラプラス事件以降宇宙に拠点を置くことをしなくなった。結果、特権階級たる政府高官や企業家のみが地球で暮らし、
歴史に
「故にこそ、私の父、ダイクンは
地球という重力に魂を縛られることなく
何故ダイクンが起たねばならなかったのかという現実。志半ばにして倒れた無念。そして、そこから今日まで続くジオンという新たな歴史をキャスバルは語る。
「父、ダイクンは自ら唱えた人類の革新を目にすることなく、中途でその人生を終えた。しかし、父の託した想いは確かに次の時代に受け継がれた。
皆に心得て欲しい! ジオン・ズム・ダイクンがジオン公国を創ったのではないのだということを!」
会場に集う者達ばかりではない。この中継を見守る
「ダイクンは公国の父に当たり、次代を託す自治共和国を創った! ジオン公国……我が父の名を冠する国家を創設したのはダイクンではない!
ダイクンの遺志を託されたザビ家によってこそ、その繁栄と勝利がもたらされたということを忘れないで欲しい!」
ここまでくれば、誰もがキャスバルの真意を理解する。これはダイクンという偉大な指導者の子が次の指導者たるザビ家の、公国の正当性を認める権力の移譲であり、ダイクンに代わって息子が行う禅譲なのだ。
「ここに私はダイクンの子として宣言する! 未曽有の国難と連邦の圧政の中、常に国民を導き続け、
その統治と君臨の支持を表明することで私の話を終えるが、皆の歴史が終わることはない! 諸君、万民の為の政治を! 独立を勝ち取る道はここから続くのだ!
その理想実現を目の当たりにし、老いた時。或いは父がかつてそうであったように、道半ばで思いを託す時、諸君らは父ダイクンの許へ召されるであろう!
諸君らの健闘を祈る──
結びの言葉と共に、ジーク・ジオンの唱和が会場に木霊する。
両の手を広げ、皆を祝福するキャスバルの姿は、神託を下す神官そのものであった。
MSVの面々をもっと出したかったけど、流石に一気に登場人物増やすのは混乱の元にしかならないので、控えめに致しました。
(下手すりゃ出番ないままフェードアウトしかねないし)
キャスバル君の(ザビ家にとって望ましい)政治家としてのお仕事はこれでおしまい!
……なのですが、こいつが表に出るということは、必ずどっかで面倒ごとという爆弾が起爆することだったりします、はい。
(なお、キャスバル坊や当人の意思は全く斟酌されない模様)
こっから段々ジオン公国の歪みが出てきて、連邦にも察知されるぞい!(絶望)