宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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※2022/12/19誤字修正。
 麦茶太郎さま、漣十七夜さま、ご報告ありがとうございます!


36 大地の子

 

「皆、ご苦労だった。今日は定時で上がって構わんぞ」

 

 三十路の男がそう朗らかに告げれば、オフィスの誰もが口にしないまでも晴れやかな笑みを作る。

 ただ、それを口にした当人は職場に残るしかなく、皆申し訳なさげにしつつも肩代わりできることではないので従うしかない。頭を下げつつ書類鞄を手に去っていく部下……いや、『教え子』と称すべき若者達を見送りつつ、男は一人キーボードを叩き続けた。

 

“忙しい忙しいと……、そう思えるだけ幸運だな”

 

 何より、今の仕事にはやりがいも生き甲斐も感じている。

 誂えたスーツは生地も仕立ても二級品のそれであったが、常日頃からブラッシングをはじめとしたメンテナンスを欠かさず、くたびれた印象など抱かせないよう丹念に靴を磨いて身なりを整え続けている。

 人の目につく職務を行う上で、清潔感を押し出すのはマナーの一種だという自覚を下に覚えさせる上でもこうした努力は欠かせないが、これは本人がそういう気質であるという以上に、職務に熱心であるだけのモチベーションを維持できているからだ。

 

 ジオン本国から遠く離れた、ここ、サイド1(ザーン)への赴任が決定した時には多くの苦労が待っているだろうとは思っていたし、実際その考えは正しかった。

 政治的中枢たる首都(バンチ)のみならず、全四六基のコロニーは老朽化しており、四〇年以内には()住民の移民を視野に入れるか、或いはコロニーの新規建造を計画した上で動かなくてはならないというのに、まともな人口統計すら取れていない。

 辛うじて治安を維持できている首都バンチでさえ、一歩悪路に入ればスリやカツアゲに遭うことは確実であり、役人でなく暴力団が実権を握っている有様だ。

 裏稼業にまで精通していたサスロが各サイドに手を回し、特に治安においては最悪と称すべきサイド1(ザーン)にあっては飴と鞭を程よく与えて手懐け、飼い慣らした上でジオンの人間には決して手を出さぬよう厳命していたからこそ、男はそれなりの服で仕事に精を出すことが出来ていた。

 そうでなければ赴任早々、身ぐるみを剝がされて路地裏に転がっていただろう。

 金色にペイントされたジオン党党員章に幾度となく命を救われていることを実感すれば、休日であってもスーツと党員章は手放せないが、そもそもにして休日など赴任してから一度も経験していなかったなと苦笑する。

 

“それでも、少しずつ形になっていることを実感できるのは良いことだ”

 

 確かに男は人並み以上に優秀であっただろうし、要領も良くはあったが、それでも抜きん出ているという程ではない。そうした人間は本国でより多忙な、そして重責を担って職務に就いている。

 一介の地方役人の位置に収まっている男はその能力に相応しく、かつこなせるだろうと判を押されてこの地に来たのだから当然だ。

 けれど、男は今の地位や自分の置かれた境遇に愚痴を零すことはしない。

 何故なら()()()祖国は慢性的な人手不足で、ムンゾ時代から能力に比例して数多の義務を負うことが常態化して久しい国家だ。

 各々が最大限の能力を発揮し、それぞれの才気に応じたやり方で貢献すること。

 国難の時代が挙国一致の精神を育んでいることもあって汚職や媚態など無縁であり、厳しくも義務に準じた正当な評価を得られる理想的な社会体制を、男は一人の国民として誇ることが出来ていた。

 

“私のような余所者も、例外なく受け入れてくれたのだからな”

 

 他所様の好景気に浮かれ、飛びついた人間など決して厚遇しないだろうと一抹の不安を感じていたが、それでも家族により良い生活を用意させてやりたいという一心で渡った先は、幸運のような日々だった。

 

 いいや、それは運気でなく正当な評価だと胸を張れる。

 

 職務に熱心であればあるほど、かけられる期待は心地良かった。

 どれだけの難事が降りかかったとしても、積み上げた信頼は無駄にならないと実感できた。

 そうでなければ、新参の移民が市民権どころか国籍まで取得して、こうして下級官吏にまで駆け上がるなど夢物語に等しい話で、ジオンに渡る前の自分に聞かせれば鼻で笑われたことだろう。

 懐にしまった家族の写真を取り出して眺めれば、生まれ故郷(サイド5)で待つ妻と、ジオンへの留学が決まった娘の微笑む姿に頬を緩ませる。

 

“初めは、満足できる地位と給金さえ得られればという気持ちだった……ジオン主義(ジオニズム)など理解も及ばない遠い世界の話のように感じていたのにな”

 

 主義思想に傾倒するのは、それ以外の何もない落伍者か、或いは余裕のある人間の特権のように感じていたというのに……いいや、違う。今の男には確かな余裕があるからこそ国籍を得てジオン党に属し、ジオン国民として扱われることに誇りを抱けるのだろう。

 たとえそれが戦時体制に移行する上で計画された『公国への帰属意識を持たせる』という打算に過ぎなかったとしても、多くの前途ある人間がその打算に救われたという事実は動かない。

 

 妻はまだサイド5(ルウム)に残っているが、この働きが実を結べばジオン本国に家族で住むことも遠い未来の話ではなくなる。

 折悪く開戦の年に入校してしまったためにまだ会えていないが、文句のない成績で王立音楽学校の門戸を叩き、寄宿舎から学校に通う娘とも一緒に暮らせる。

 

「オーレリア……父ちゃん、頑張ってるぞ」

 

 だからお前も頑張るんだぞと写真に言って、全身に活力を漲らせる。

 指導者層である白人を追い出した結果、行政が機能しなくなったかつてのアフリカ諸国のような二の舞だけは、ジオン本国も犯したくなかったのだろう。

 サイド1(ザーン)のみならず、各サイドを支配していた連邦官吏の穴を埋めるべく、派遣された公国官吏たちが現地の人間を使い物になるよう教育しつつ、共に手を携えて生きて行けるよう奮起している。

 

“その上……総帥閣下など、孤児院や学校まで作って下さるというのだからな”

 

 教育とは未来の要であり、それを疎かにしてはならないと。戦時であり、軍備増強こそ第一としなくてはならないというのに、恵まれぬ子らの為、親なき子供たちの為に予算を割いてくれている。

 連邦という支配者にとって代わり、将来甘い蜜を吸おうという欲深い投資でなく、真に宇宙移民独立の大義と正義を体現すべく動く国家の一助となれたことは、何と誇らしいことだろう。

 それこそが真の『富国強兵』に繋がるのだと、本心から語ってくれていた総帥閣下の理念は、何と崇高なことだろう。

 ひとたび暗がりを覗けば、腐臭が漂うような世界に少しずつ光が灯されている。

 一歩ずつ、着実に。善意と希望の元に『サイド国家』が形作られているという実感。自分を待つ家族や未来の全てが嬉しくて、世界はこんなにも輝いていて。だから──

 

「え……?」

 

 ──ぱす、と。

 空気が抜けるような音と共に、自分が血の海に沈んだことが、男には理解できなかった。

 

「……っ、っ」

 

 息が出来ない。肺に入った血で男は溺れている。手足をもがいて死から逃れようとしたが、叶わない。

 

“だ、す、け……”

 

 イヤだ、死にたくない。だって、だってあんまりじゃないか。

 何も悪いことなどしていない。日々を懸命に生きて、頑張って、まだ娘と再会だって出来ていない。家族一緒に、幸せな日々を送ることが出来た筈なのに……。

 

「……ぉ、レ、りぃ、あ」

 

 娘の笑顔が、家族の姿が脳裏をよぎる。まだ自分は、あの子が大人になる姿を見ていない。

 好きな異性と付き合って、結婚して、幸せになる姿を見ていない。

 孫を抱いて、妻と笑って、老いることもできていない。

 

 だから……だから……どうか……。

 

「むす、めを……」

 

 言葉が漏れる。自分が助かりたいからじゃない。

 もう、自分は逝ってしまうと分かったから。妻と娘を遺してしまうから。だから、誰かお願いします……もう自分は駄目だけれど。誰かの悪意のせいで、殺されてしまうけれど──

 

「しあわせに……──して──」

 

 その願いを最後まで口にできず、誰に聞き届けられることもないまま、男は孤独に息絶えた。

 

 

     ◇

 

 

“どいつもこいつも、戦場をここまで軽んじるとはな”

 

 ガルシアが己を幸運だと宣い、デギンが各サイドの状況を危惧するのと同程度には、今後の情勢には四苦八苦するだろうという自覚はイワンにもあったが、それでもいざ報告書を確認すれば渋面を作らざるを得なかった。

 

“このような練度で前線を希望だと? 肉の壁にして良いと言われてもお断りだ”

 

 装備に衣料、薬品と言った物品の損耗に遺族への恩給……一兵の死が生む負債を想像するだけで吐き気が込み上げる。

 奇しくもガルシアと同じく、イワンもまた各サイドの志願兵を『馬鹿共』と括り、詰っていたが、それでもガルシアと立場が違う以上は面倒を見ねばならないという自覚はあったし、最終的には使い物にする気でいた。

 MS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)は無理だとしても、他の兵科に関してはサイド4(ムーア)出身者や『捕虜交換』で得た連邦軍上がりはひと月もすれば十分使い物になるだろう。

 

“そのひと月が、あまりにも長く貴重だという現実を知っていなければ、素人同然の志願兵すら素直に喜べたのだがな……”

 

 何しろ正史では、僅か一年で()()のついた戦争だ。

 ジオン本国の人的資源が希少金属より遥かに高価な財貨であることを鑑みつつ、戦後の若年層の不足も確定するとなれば頭痛の種が尽きることはなかったが、それさえ現状の問題と比べれば前座でしかない。

 

「……報告を」

 

 集う者たちの心に余計な波風を立てぬ様、イワンが努めて口調に一切の抑揚を混ぜず簡潔に促せば、説明を任されたセシリア・アイリーンもまた坦々と述べることでそれに応えた。

 

「総帥閣下とヨーク長官の想定通り、事態は深刻と言わざるを得ません」

 

 今週に入っただけで各サイドの文官の内、四名が重傷を負い、二名が死亡した。

 そこにジオン本国から正式に派遣した官吏の死亡証明書が一枚加われば、総帥府に集う皆の眉間に皴が寄るのも無理からぬことだった。

 

「……連邦がこう出るだろうとは、誰もが理解できていたことだが」

 

 喉の奥から呻きたい衝動を抑えながら、会議室の一席で腕を組んだ将官が漏らす。

 地球連邦側の……おそらくは特殊部隊による、暗殺をはじめとしたテロ攻撃……国際法を逸脱した度し難い蛮行であったが、その効果は忌々しいほど絶大だ。

 連邦とジオン、双方の国力差は如何ともし難く、どれだけの努力を重ねても埋め難いものは存在する。

 国土、資源、資産……しかし、それら以上に決定的なものは『人口』であり、連邦との『頭数』の差こそジオンにとっての最大の弱点だった。

 

 どれだけ驚異的な技術を発明しようとも。

 どれだけ画期的な政策を打ち出そうとも。

 どれだけの財源を確保しようとも。

 

 それら全ては、人ありきのものでしかないと……そんなことはジオンとて承知している。

 

 だからこそムンゾ時代から今日に至るまで、ジオンは対連邦を想定して貪欲に人材を求め続けたが、それでも全くと言っていい程足りていない。

 国民の生活水準と治安を維持する為に、意図的に人口を抑制していたのも大きいが、だとしても国家運営に携わる人間が、複数の役職を兼任せねばならないなどというのは、どれだけ取り繕っても健全な国家運営とは言い難い。

 民主主義をはじめとした『多数決』が持て囃されて久しいのは、偏に『リスクの分散』という利点があることに尽きる。

 一人の人間が多くの仕事を抱え込めば抱え込むほど、その一人を失った時の損失は計り知れない。

 通常の企業でさえ、一人の枠が抜ける為の引継ぎに多くの時間を割くのだから当然で、ましてや国家公務員の兼職など論外である。

 実力主義と言えば聞こえは良いが、実態としては人的資源に余裕がなかったが故の苦肉の策に過ぎず、当然ながらそれは弱点以外の何物でもない。

 

 だからこそ、組織が巨大であればあるほど専門性を追求しつつも分業を前提とし、社会を構成する歯車が瑕疵なく機能することが奨励される。

 たとえ一つの歯車が欠けたとしても、その歯車を即時交換可能な状態に保つこと。

 人的資源という歯車(じんざい)の予備を常に備えておくことは、リスク管理を行う上での必須事項であるのは当然だ。

 

 だが──ジオンはムンゾ時代から完全に真逆の方針を取ってしまっていた。

 

 優れた者はそれに応じた、否、それ以上の責任と義務を負い、国家に奉仕することを『美徳』として、(ひと)一人が限界以上のリスクを抱え込むことを黙認してきた。

 

 ……否、リスクを理解しながらも、背負い込むしかなかったのだ。たった一人でも失えばどれだけの損失が生まれるかを誰もが弁えていながら、替えの利かない高価な歯車(じんざい)を求めて続けてしまったのだ。

 

 何故なら誰もが理解していたから。

 連邦はジオンが国家として真っ当に抗するだけの準備期間を与えてくれるような、甘い相手ではないのだということを。

 連邦の予測を上回る速度で社会という歯車を回し続け、無理無茶を押し通すことで、ようやく緒戦を色鮮やかな勝利で飾ることが出来たのだということを。

 

“そして、そのツケを払う時が来てしまった”

 

 それでも可能な限り、ジオンは予備の歯車(じんざい)を用意できるよう努力してきた。

 自国の才気溢れる若手に留まらず、一人でも多く有能な移民に教育と訓練を施し、リスクを可能な限り軽減できるよう惜しまず投資と育成を続けてきたが、所詮は焼け石に水だったということだろう。

 精密にして精巧な、交換の手間一つとっても容易ならざる貴重な歯車(じんざい)……たかが数名に過ぎないと、連邦ならそう鼻で笑い、痛痒さえ感じぬ損失であったとしても、ジオンにとっては決して座視できない暗黒の到来であり、誰もが『いつか来るだろう』と直面を予測した難事そのものなのだ。

 

“それでもアイリーンは『想定通り』と称した……想定『以上』でなく、あくまで試算した通りの被害であったことが不幸中の幸いか”

 

 ジオン側が技術的優位を保っている現状、連邦が逆転の目を出す上で、最も効果的かつ確実なのがテロを含めた非正規戦なのだから当然だ。

 圧倒的物量を武器として、少数精鋭で挑まねばならない相手の頭数を効率的に潰して回る。多勢に無勢という言葉通り、圧殺こそ究極の必勝法だ。

 イワンやギレンは言うに及ばず、手段を選ばぬ人間ならばまずそこに着目し、実行に移すだろうとは容易に予測できたことでもある。

 だが、予測し得ることと対策を打てることは全く別だ。

 

“南極条約によって戦時国際法が復活しようと、宇宙と地球で二極化した戦争だ。経済制裁をはじめとしたペナルティなど、全く役に立ちはすまい”

 

 というより、ペナルティを課したくとも出来ないのだ。

 過去に語った通り、本格的な戦時体制に移行したジオンとサイド4(ムーア)は連邦との輸出品目を必要最小限に抑えて重工業にシフトしており、残るサイドがその穴を埋めつつ自分達の生活を回すための第一次産業を主軸にしている。

 ここで連邦に対してペナルティを課そうとしても、他サイドが泣きついて来ることは必定だ。

 

“連邦が蛮行に及んでも、それを掣肘できるだけの力を持つ者は何処にもいない。かといって、毒を以て毒を制すという言葉通り、こちらも暗殺など行ったところで効果は薄い”

 

 現在北米に残っている議員連中のような末端ならばいざ知らず、連邦政府を動かすだけの中枢に巣食っている連中は、決して表に姿を見せはしない。

 そうした連中はマスドライバー攻撃を真っ先に警戒して地中に潜っているのは目に見えているし、北米に残った議員達のように、隠れ潜まない指導者はジオンにとっても希少な交渉相手なのだから、そうした者たちを潰すなど愚の骨頂というものだ。

 

“……何より連邦の物量は、指導者層もまた圧倒的。隠れ潜んだ愚物を殺し回ったところで、他は『政敵を殺してくれた』と喜んで次のポストを選び、その枠に別の誰かが収まるだけだ”

 

 ならば、民意に働きかけるのはどうか?

 

 曲がりなりにも『絶対民主主義』を標榜している連邦政府ならば、効果があるのではないか?

 悪逆非道な政府を内から糾し、そこから講和に至る道筋を画策することも可能なのではないのかと、そう考える者も、おそらく余人ならば居るやもしれない。

 しかし、この世界に生きるイワンをはじめ、学ある者たちならばそれが全くの無意味であることを承知し、理解しきっていた。

 

 結論から言えば、地球連邦政府の連中は民意など『全く考慮していない』のだ。

 

 地球連邦はその設立当初から棄民政策を実行する際、私有財産を没収して強引に宇宙に多数の人間を打ち上げたのは周知の通りである。

 また、地球連邦が生まれた背景には、かつての国連に力がなかったことの反省として、強大な武力と権限を持つ組織が必要不可欠であったという事情もある。

 

 これらを踏まえた上で考えれば分かる通り、連邦政府には『絶対民主主義』という建前こそ存在していても、実態は軍という暴力装置を用いて一方的に強権を行使することが可能な『専制主義』に他ならず、国政を担う中央議員達にとって、民意というものは看板に過ぎない。

 

 何故なら民意によって行動が制限されるなら、宇宙に送り出される多数派の財産が没収されるというのは間違いなく反発された筈であるし、実際に反発はあった。

 それは当時宇宙に棄てられた移民だけでなく、その時地球に残ることが出来た市民からしても、明日は我が身という言葉を思えば、反対の立ち位置に立つのは当然のことだっただろう。

 そうした事態があったにも拘らず大規模な棄民政策を実行し、長期政権を維持しつつも連邦政府が腐敗の温床となっている現状を鑑みれば、その内情はもはや語るまでもない。

『専制主義』が罷り通って久しい連邦政府にとっての選挙とは、『組織票』をいかに効率よく集め、自分とその後援者らに汁を吸わせるかに終始しており、民意など(はな)から役に立たぬものでしかない。

 それでも無理くり民意に働きかけたとして、効果が期待できるかと問われれば同じく否だ。

 

“出稼ぎ労働者や近代社会から距離を取った原住民を除けば、今の地球に住むことが出来ている大多数は資産家をはじめとした上流であり、現体制の支援者だ……我が身我が事を大事としていても、棄民国家の、それも敵国に対しての無法を正す真似をする人種がどれだけ居るのかという話だ”

 

 そうした人種が圧倒的少数派だからこそ、正史で地球居住者(アースノイド)宇宙移民(スペースノイド)の格差と争いが絶えなかったのだろうと思えば、何ら不思議なことではない。

 

「連邦政府の表明は、聞くまでもないか」

「彼奴ら、戯けたことを! 何が〈ティターンズ〉か! 何が過激派か!? 自分達の手駒でありながら、厚顔無恥も甚だしい!!」

 

 力強く机を叩き、口角泡を飛ばしたデラーズなどは見つけ次第己の手で殺してくれるとばかりに凶猛な気炎を上げていたが、それは口にしないまでもこの場に集う者達の総意であったことだろう。

 当然だが、ジオン側は一連のテロに対し、連邦側に正式に抗議するつもりであった。たとえ効果がなかろうとも、戦時にあって順守すべき国際法を軽んじるべきではない。

 それを覆し続けるならば、後に待つのは凄惨な絶滅戦争で、占領地の治安や兵士のモラルを保つ上でも、ジオンは決して看過できない。

 しかし、件のテロから間を置かずして『さる勢力』が全コロニーに向けてゲリラ放送を発したのである。曰く。

 

『我々は人類史上初の偉業を成した、統一政権の擁護者たる者達の代弁者である!

 無知蒙昧にも人類史の針を逆行させ、不当な暴力で連邦政府を脅かす者達が考えを改めぬ限り、我ら〈大地の子(ティターンズ)〉とその同志達は、コロニー国家を僭称する悪逆の徒を誅し、血の粛清によってその思い上がりを正すであろう!

 忌むべき植民地人共よ! 貴様らが母なる我らの大地から退かぬ限り、流血の日々は免れぬことを思い知るが良い!!』

 

 これには当然ながら、ジオン公国は官民を問わず激怒した。野蛮にして卑劣なテロ組織の声明だけが理由ではない。彼らの纏う黒と赤を基調とした装束が余りに公国軍の軍衣と酷似した意匠であり、国軍の名誉を著しく汚し、その神経を逆撫でるものであったからだ。

 

 その上、連邦政府はこの件に関しては厚顔無恥も甚だしく、「ティターンズなるテロ組織は我々の関与するところではない。我ら連邦政府は絶対民主主義を掲げる以上、テロリズムとは決して相容れぬものであり、この件に関してはテロ組織の掃討に協力することも吝かではない」などと宣ってきたのである。

 協力など受け入れれば、宇宙に新たな下手人が上がるだけだというのは誰の目にも明らかなことだった。

 

 しかし、斯様なまでに猖獗(しょうけつ)を極めた連邦に対し、本来真っ先に激昂することが予想できたドズルは、その気性からは想像できない程ゆっくりと声を発した。

 

「サスロ(あに)、それとイワンもだ。連中がこういう手を打つだろうとは皆が承知していた訳だが……それでもこの結果は避けられなかったのか?」

 

 歯に衣着せぬ物言いであるが、むしろそれが両者には心地良かった。そう質されてこそ、見つめられてこそ二心なく伝え合うことが出来るからだ。

 しかし、何事にも限界はあるものだとギレンが落ち着き払った声音で諭す。

 

「それを言ってくれるな、ドズル。だからこそ暗殺対策として、最大限親衛隊とサスロ機関から人員を割いていたのだ」

 

 だが、ジオン本国という中枢と比して、各サイドという末端が手薄であったことは否めない。それでもテロ対策として戦前から信用のおける人員を選抜し、拡充を進めていたからこそ、この程度で済んだというべきなのだ。

 

「ドズル将軍、誓って二度同じ手は打たせません」

 

 本来ならイワン同様、司令長官職を担う以上ドズルも敬称として長官と称すべきだが、「俺には似合わん」というドズルの武人らしい性分を汲んで、イワンのみならず誰もがドズルを将軍ないし閣下と称していた。

 ギレンからすれば地位に準じた呼称は階級社会の義務だと内心不満を抱いてはいたものの、それをこの場で指摘するのも時間の浪費であるから、敢えて流すこととした。

 

「ヨーク長官の言う通りだ。ドズルだけでなく諸君らの怒りは分かるが、我々に求められるのは、この国家の(もとい)を危うくする事態に対し、可及的かつ速やかな現実的対応を打ち出すことにある」

 

 その為にこそ、こうして御前会議に文武の官を問わず公国の要人を……分けても信用と信頼に値すると判を押せた者達を招聘したのだとギレンが示せば、ドズルは深く頷いて見せた。

 

「宇宙攻撃軍からも憲兵をはじめ、使える人員は最大限回す。引き抜きたい奴がいれば、遠慮なく言ってくれ」

 

 願ってもない話である。敵が送り込んでくるのは間違いなく特殊部隊上がりの精鋭である以上、相応の訓練期間は必要とされるだろうが、それでも警衛として今まで以上に人員を割きたかったというのが本音で、どこまでドズルから言質を取れるかがこの会議の焦点ですらあった。

 この御前会議にあって各自護衛や副官を侍らせることを許可したのも、武人肌の強いドズルの側近たちへの説得を円滑にさせるためのものであって、他はおまけのようなものだったのだ。

 

“だというのに……”

 

 武人一辺倒であった己が弟を信じ難いという思いでギレンやサスロは見たが、それは背後に侍る護衛……名家たるマツナガ家の令息、シン・マツナガも同じであったことだろう。

 感情に流されず、しかし門外漢であるからと余人や状況に流されることもせず、粛々と議論に加わる様は、正しく将としてのそれ以上の資質を皆に見せていた。

 ただ、そうした成長を手放しで喜べるような場面でもない。招聘された者たちの顔ぶれから察せられる通り、事態は何処までも深刻なのだから。

 

「ヨーク長官、ここは将の発言一つで士気が揺らぐ場ではない。連邦の暗殺に対し、思うところを忌憚なく述べたまえ」

「総帥閣下……告白すれば、これは我が方の予測を大いに上回るものでありました。不敬ながら、総帥閣下ご自身も同様の予想であったのではございませんか?」

 

 言葉が過ぎよう、と本来ならば誰かが諫めるべき場面であるが、誰もイワンとギレンの間に口を挟めない。

 これまで戦場という盤面を支配してきたと疑わなかった、あのイワン・ヨークが斯様な弱音を吐くなど誰も予想できなかったのもあるが、それ以上にギレンが首肯したのが大きい。

 

「……その通りだ。連邦の手は長く、そして深い物だった。この私自身、奴らがここで仕掛けるなど夢にも思わなかった」

 

 連邦による立て続けの暗殺は、どれだけ早くともひと月は猶予があるものと見ていた。

 確かに官吏の損失は手痛いものだが、それでも本国から飛ばした地方役人が一名と、各サイドで教育を施した末端が数名という程度。

 仮にイワンが、そしてギレンが連邦の側で同様の手を打つとしたならば、ジオンという国家の奥深く、中枢にまで糸を巡らし、耳目を用意した上で同時多発テロを行うことで、完全にジオン公国を機能不全に追い込んだことだろう。

 

 だが、連邦は地球侵攻から間もなく『暗殺』というカードを切り、大胆不敵にもテロ組織という(デコイ)まで見せつけてきた。

 それが意味するところは『我々は準備期間を終えている』というアピールに他ならず、連邦側の特殊部隊がその根をコロニー全体に張り巡らせているということに他ならないし、現にタイミングも絶妙だ。

 

「我々は敵の動きに呼応しつつ、周到に巡らせる糸を掴み、逆にこれを排除するつもりでいた」

 

 テロという問題を解決したいのであれば、実行犯たる末端を排除しようと焼け石に水だと弁えていた。

 だからこそ大規模なテロ攻撃を未然に防ぎつつ、一網打尽にすべくサスロ機関の情報収集と親衛隊の配置を入念に協議していた矢先、その出鼻を完全に挫かれてしまったのだから笑えない。

 

 戦争とは、争いとは常に相手の予測を上回る者が勝利する。

 

 ミノフスキー粒子とMS(モビルスーツ)によってゲームチェンジャーの地位を得たジオンのそれと同じく、今度は連邦がテロ攻撃によって盤面を覆しに来てしまった。

 

「今後の人事も含め、計画を見直さねばならん。我が方はこれまで以上に逼迫した状況に身を置くこととなるだろう。皆、心得ておけ。我々の敵は卑劣であるが故に何者より強い」

 

 地球侵攻における戦果など、所詮は一勝利に過ぎぬ。

 兜の緒を締めろと戒めるギレンの言葉に、皆粛々と頷いた。

 




ギレン「(敵の速度が)圧倒的ではないか……(人材が、このままでは人的資源が内側から枯渇する!?)」
イワン「何がティターンズじゃクソボケェ……!!
    まだ北米にコロニー墜としてねえしパワハラ禿(バスク)虐めてもねえだろうがレギュレーション違反してんじゃねえぞZガンの世界線に帰れてめえらぁぁ!?(発狂)」

※たとえるならクソ雑魚途上国とアメリカが戦争して、どう足掻いても圧倒的国力差で相手を潰せるアメリカがテロで途上国の貴重な人材を殺しまくり、しかも国際社会のペナルティとか実質無効化できる状態。
 ……クソゲーが過ぎる。
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