カド=フックベルグさま、ケンジントンさま、ご報告ありがとうございます!
“傍目には、正しく我が世の春を謳歌しているように映るのだろうな”
貴金属であしらわれたシャンデリア、宝石細工のように輝くグラス……薄紅の絨毯の上で前
天上人にこそ許された贅の限りを貪るガルシアだが、しかし当人の表情に、本当の意味での満足どころか笑みさえない。
平時のガルシアであれば、僅かにでも気を抜けば、だらしなく緩み弛むだろう口元を強引に真一文字に閉じつつ、公国軍の将として泰然とした態度を示しつつも、その内側では征服者としての愉悦と興奮を滲ませていたのは間違いない。
頭を垂れる
“だというのに”
高級車一台分にも匹敵する、マルヌ産のシャンパンに酔い切れない。頬の落ちるようなキャビアも、口の中で蕩ける肉も味気ない。
美酒美食から什器、壁にかかる壮麗な絵画に至るまで、
それらがどうにも色褪せて見える度、端役に過ぎなかった筈の一週間戦争の戦勝祝賀会の時間がより良い物だったと感じてしまうのは、この空間の『本質』をガルシアが本能で理解してしまったからだ。
“胸糞悪い……透けて見えるぞ、盆暗が”
見ろ、これがお前たちには真似できない本物だという声なき主張。
酒精一つ、料理一つとっても
敗者として頭を垂れ、慈悲を求めながらも同時に見下すその性根。舌に載せた言葉の数々に見える発音の差。それら全てが、ガルシアの神経をこの上なく逆撫でる。
“ああ、認めてやるとも。ここは
かつては成り上がりの新興国として、武威と金
“だが? それで?”
歴史の深さ重さで全てが決するのであれば、合衆国は英国に膝を屈し続けただろう。
古代に大帝国を築いたローマは、決して滅びず栄華を極め続けたことだろう。
“本物には、確かに相応の値がつくだろうよ”
但しそれは本物に、積み上げてきた伝統とやらに、アンティークとしての付加価値を付けてくれる人間がいる限りは、という前提ありきだ。
伝統を、歴史を有難がるのは理解できる。ガルシアとて栄達を求める中、叙爵をはじめとした『肩書』を望み欲しているという自覚を持っている。ことに承認欲求というものを、誰より求めて止まない卑しい男だ。
しかし、同時にガルシアは目の前に溢れる『本物』に大した価値を見出せないでいた。
“上澄みだという
瀟洒なドレスに瑞々しい肌を曝け出し、花咲くような笑みで歓待する女達。
立ち居振る舞いの動作一つ切り抜いても、正しく絵画から出てきたような、という印象を与えはしたものの、同じ絵画でもやはりジオンが求めるような、絵本のように装飾過多のドレスが良い。
上流階級特有の典雅なイントネーションよりも、猛々しいジオン訛りを。
気品溢れる楚々としたドレスよりも、華美な装飾のジオン女を。
遠く離れた
“マ・クベならば喜んで嗅ぎたがる骨董の臭いかもしれんが、俺には埃と黴塗れのボロ同然よ”
だからこそガルシアは、この空間に圧倒されず一歩距離を取っていられる。言の葉の裏に、群がる女達の色香に潜む毒を看破し、相手を不快にさせぬよう丁重に腰を折りながらも、勝者として喉元に剣を突き付けることを忘れないでいられたのだ。
そう、この場に集う
この場に招かれたのが地球通のマ・クベならば、間違いなくこれは最適解の歓待であった。人も物も、この場にある全てを認め、適正な価値を弾き出し、その上で敬意を表して、相手の土俵に乗ってやるぐらいはしたかもしれない。
しかし、ガルシアは何処まで行っても根っからのスペースノイドで成り上がりだ。貴族や上流への崇敬など欠片として抱いていないし、当然そこに、伝統への萎縮などあろう筈もなかったのだ。
この場に集う上流階級にしてみれば低俗か、或いは直截に下品と称すべき趣味嗜好……自らの像が立ち、自画像が飾られ、蠱惑的な女から糖蜜のような睦言と、あらん限りの称賛を浴びることを極上の快楽とするような俗物こそがガルシアである。
仮にだが、ガルシアという男を手玉に取るのなら、お上品な世界とは真逆の、無頼の世界に招くべきだった。
売女が艶かしい肢体を存分に晒し、見せつけ、騒々しい音楽と共に嬌声の満ちるナイトクラブ。
マナーなど知ったことかと飛び切りの酒と紫煙をたらふく呑ませ、好みの女を互いに侍らせながら後ろ暗い密約を交わせば、ガルシアは祖国にお目こぼしの効く範囲で、あれやこれやと便宜を図ってくれたことだろう。
だが、北米有力者らはしくじった。そうした三流以下の成金道楽を貴族趣味で鳴るジオンの、それも曲がりなりにも将官が抱く筈もないと
そう無意識に評価を上げてしまったが為に、その食い違いに気づけないが為に、ガルシアの手玉に取られたばかりか、失敗の傷をより深くする。
……とはいえ、北米有力者らの失敗を責めるのは酷だろう。
公国軍内にあって、戦前の私生活で言えば「不品行が服を着て歩いているような男だ」と陰で囁かれていたガルシアだが、その評とて小物らしく、自らの経歴が傷つかない範囲に留まっていただけに、悪評が遠く離れた地球まで漏れることはない。
よって、彼ら北米人にとってのガルシアとは公国軍の数少ない将官であり──実際の実力はともかくとして──北米という連邦内における最大戦力を有する要を攻略すべく下知を賜った虎の子と見做すに十分だった。
実際、北米内での連邦─公国間の損耗比を鑑みるならば、敵ながら名将と謳われて然るべき戦果であるし、だからこそ北米人はガルシア・ロメオを研究すべく、今日という日まで準備を怠ることをしなかった。
公国国営放送で喧伝されるガルシアを、軍事公報に記されたガルシアを目で追い、どのような人物か探り続けた。
労して取り寄せた軍事公報の表紙を飾るのは王室画家が手がけたガルシアの肖像画であり、その首元には一級ジオン十字勲章が飾られているが、未だガルシア本人の首にその勲章はぶら下がっていない。
最下級たる三級ジオン十字は現地の司令官ないし、ガルマ・ザビが総帥代理として前線での授与を認めていたが、二級以上の十字勲章は本国でギレン総帥から直接下賜される規定となっている。
ガルシアの「今は国家存亡と
……が、現実を知る者からすれば、これが額面通りの理由である筈もない。
蓋を開けて真実を語るなら、欧州方面軍司令官たるマ・クベもまた一級ジオン十字勲章叙勲の内示を受けながら、これを固辞したからこそ対抗意識としてガルシアも固辞したに過ぎない。
確かに突撃機動軍第一陣として欧州方面に切り込み、いち早くこの地を簒奪したばかりか、オデッサを中心に鉱物資源の数々をジオンに供給した大功は、マ・クベという将の傑物ぶりを総帥府のみならず、官僚主義の事務屋と軽んじた誰もが認めざるを得ないもの。
小惑星帯を筆頭とした採掘場は宇宙にも数多存在しているが、ジオン側が制宙権を確保している現状、連邦は地球という玉っころにしがみついて、限りある資源を如何に効率的に運用するかを求められて……否、強いられていると言うのが正しいだろう。
そうした状況下にあって、オデッサの資源獲得は人的資源と並ぶ連邦の骨子の一本をへし折ったのと同義である。これには内心好敵手と認めているガルシアをして、一級ジオン十字に相応しい功績だと首肯せざるを得なかったし、逆にこの功績を理解できない者がいるとすれば、そいつは将校としての適性は皆無だろう。
だが、先に記した通りガルシアにとって最も重要であったのは、マ・クベが十字勲章を得たことでなく、それを固辞する腹積もりだということを親衛隊経由で──当然これはイワンの差し金で──耳にしたことだ。
もしそれを知らされていなければ、ガルシアは嬉々としてジオン本国に舞い戻り、凱旋将軍として報道陣のフラッシュを浴び、武人らしい演説をぶって見せただろうが、そうした手前の欲に釣られたガルシアと、愛国心から前線に留まったマ・クベを比べられた時、果たしてどちらが一目置かれるかは馬鹿でも分かる。
イワンが約束を誠実に守り、ガルシアの叙勲を優先してくれた事も──これはマ・クベが複数分野での軍務に手を伸ばしたため、功労審査が遅れたという事情もあるが──功を奏した。
軍事公報をはじめ、ガルシアの叙勲順位がマ・クベの上に来たことは誰もが知る以上、マ・クベの後追いだなどと余人が後ろ指をさす真似をする筈もなし。
打算に満ちたガルシアの企て通り、公国内ではあらん限りの美辞麗句が飛び交い、ガルシアの値を天井知らずに吊り上げた。
『これぞ高潔なる我らの将軍!』
軍事公報を開いた次の瞬間には、斯様な飾り文字で装飾された見出しが飛び出し、北米方面でガルシアが如何に将兵一人一人を愛しているか。
その証左として北米方面での損耗が如何に少ないかを識者が雄弁に語り、ギレンまでもが『かの将軍こそ
当然、そうしたメディアの効果は前線にも波及してくれた。
戦前は公然の如く陰口を囁かれてきたガルシアも、この独立戦争によって将軍として、武人としての己を見出したのだろうと、末端の兵卒どころかこれまで自分を毛嫌いしてきた将校さえ改心を受け入れ、謝罪の電報まで寄こしてきたぐらいだ。
これにはガルシアも気前よく謝罪を受け取りつつ、陰口を水に流してやることにしたが、それら全てが己を満たすためでなく、敵の判断を狂わせる結果に至ったことこそがガルシアにとって、また、ガルシアを体よく利用する為に餌を多く与えてやろうという魂胆でしかなかったイワンにとっても、望外の幸運だったと言えよう。
結果だけ見るならば、こうして北米有力者の努力と計画は空転したのだから。
北米有力者からすれば、たとえどれだけ軍事力という剣の切っ先が鋭かろうと、その剣を握る手は政争の世界においては赤子も同然と侮っていた。
たとえ外野に過ぎずとも、連邦という政界の蟲毒を生き抜き、相応の地位を勝ち得た自分たちの手に掛かれば必ず地金を曝し、付け入る隙を見せるだろうと驕っていた。
だというのに立ち会ったガルシアは軍人として、公人としての顔を晒しつつも、決して私人としての『欲』を表に出してこない。
悪意に対しては過敏に、利を織り交ぜた甘言には殊更に意識を傾けながら、それを悟られる無様を晒さず、常に国益を最優先にしつつも、角の立たない範囲で互いの利益という天秤の均衡を保たせて来る。
“全体を差配する将帥の、しかもふた月と持たず北米全土を手中に収めた手腕を鑑みれば、油断してかかるべき相手ではなかったのは当然だが……ガルシア・ロメオ、斯くも侮り難い難敵だったとはな”
此度のパーティのホストとして、また、北米きっての名家にして前
この歓待はジオンに慈悲と譲歩を引き出すだけのものではなく、いざ連邦が逆転した時のための、猶予をもたらすものでなくてはならなかった。
自分達は勝馬に当て込み、安易な鞍替えに走った訳ではないのだと。
喉元に剣を突き付けられながらも、虎視眈々と機会を窺っていただけだと。
誰の目にも詭弁に過ぎないことは明白であったとしても、そう主張できるだけの『猶予』を何としても得なくてはならない。
……少なくとも、それがヨーゼフを表舞台に立たせた
“確かにジオンは占領下にあって、無体を働いてはいない。早期降伏によって北米主要都市は軽傷……いや、無傷と言っても差し支えない状態でもある”
その上で連邦が敗北した後の身の振りを考えておくならば、間違いなく従順に尻尾を振るべき相手だということはヨーゼフも理解はしている。
“だが、戦場の霧は何処までも濃く深いものだ”
緒戦で勝利を収めたとて、それが何時まで続くのか? 勝利の女神が
だからこそ、ヨーゼフはどちらに転んでも立ち回れるだけの保険を打たねばならない。たとえ蝙蝠と唾棄されようと、父祖が築き上げてきた地位を、土地を、何より家族を守る使命がある。
しかし、そうした覚悟と熱意も、一歩引いたガルシアの目にはあからさまに映ってしまう。
何故なら再三語ってきたように、ガルシアという男は姑息で低俗。醜く、汚く、度し難いと蔑まれたところで、それがどうしたと歯牙にもかけぬ。
下に上にと囀られた陰口すら、己の栄達を阻むやっかみに過ぎぬと腹の底から信じきってきた、自惚れに満ちた男なのだ。
必要とあらば媚び諂い、靴さえ舐めることも躊躇しない。プライドというものを自分より下の人間に見せることはあったとしても、上を相手にするならばかなぐり捨てて見せられる手合いなのだ。
そのガルシアにしてみれば、ヨーゼフには『必死さ』が足りていない。
名家であるが故に、支配者として君臨し続けた歴史が長いだけに、泥の被り方というものを心得切れていないのだ。雨水を被り、泥まみれになる程度の気概を持てても、肥溜めに飛び込む度胸までは決して身に付けてはいないと容易に知れる。
“俺は出来るぞ?”
何処まで行っても、所詮ヨーゼフは支配者であり搾取者だ。
恥辱に塗れ、弱者として蔑まれながら、喉元に食らいついて這い上がる機会を窺う犬畜生の『飢え』を、生き汚さと言うものを欠片にでも備えていれば、また違った事だろう。
ガルシアという男が何処までも下の階級として、劣等としての心根のまま繰り上がった成金だと理解できていたならば、優位に立ち続けることも十二分に可能であった筈なのだ。
だが、それらは全てたらればの話だ。
「エッシェンバッハ卿の歓待、個人としてのみならず、公王陛下より軍を任された将として深く心に留めておきましょう。是非とも
“……っ”
貴様程度の生贄を寄越すとは、随分と舐めてくれたものだ。さっさと
確かにこの場に集う者たちは、郷土愛から北米に留まったと言えば聞こえはいいが、国家の中枢に踏み込めなかったからこそ、表舞台に立たなければならなかった手合いに過ぎないし、そこは北米有数の名家たるエッシェンバッハ家も変わらない。
所詮、この場でジオンを持て成す者たちは生贄の羊に過ぎないし、その自覚は当人たちも有している。だからこそ、その核心を突かれた時点でヨーゼフの牙は折れた。
最早、足の埋まるような絨毯に視線を下ろすより他になく、白旗を上げるまでの時間稼ぎに注力すべく、震えを抑えながら唇を開く。
「……どうかご寛恕を。かの家には、不可侵の不文律がございます。だからこそ、前市長に過ぎぬ私が過分にも北米の代表としてホストを務めているのです」
下手にマーセナス一党は北米から離れた、などと偽る真似はできない。
それをすれば、初代首相に連なる連邦議会の重鎮たるマーセナス家に傷が残るばかりか、変わり身となったエッシェンバッハ家の権威まで失墜してしまう。
たとえ矢面に立たされる生贄の席……連邦中央議会の椅子に届かぬ地元の名士風情だとしても、その席を欲する下位の愚図は五万と居る。
ここで、ヨーゼフの代でエッシェンバッハ家の未来が閉ざされる事は、北米全体の未来に更なる暗雲を呼び込むだろう。
少なくともヨーゼフのように、郷土と運命共同体であろうとする人種など、この場に集う者達以外でお目にかかった試しはない。
我欲を貪りたいが為に故郷を蚕食されるなど、断じて許す訳には行かなかったからこそ、折れた牙を研ぎ直して踏み止まる。
「将軍閣下もそれを承知で、マーセナス邸の接収を控えたのでありましょう?」
力尽くで手を打つのが得策でないからこそ、ヨーゼフに対し優位に立った上で、交渉の窓口たる役目を持ちかけてきた筈だ。
であれば、こちらの意図するところも多少は汲み取って欲しいというヨーゼフの懇願に対して、ガルシアは軽く髭を撫でる事で猶予を与えるジェスチャーを示した。
ただし、あくまでも顔を立てて待ってやるという程度。大上段からの見下すような、それでいて勝利の余韻に浸るのでない冷めきった視線は、小細工などしてくれるなと太く長い釘を刺してきた。
“ここが潮か……”
意固地になったところで、互いに得など欠片もない。
妥協という名の擦り合わせをすべきだと、他の北米有力者もまたヨーゼフに視線を寄越す。
マーセナスの当主からは、可能な限り探りを入れた上で然るべき場を設けろと言われただけであって、面会謝絶という訳でも、高飛びをされた訳でもない。
曲がりなりにも初代首相の一党である以上、然るべき義務感を有している。ただ、良くも悪くもマーセナスという家系が代々続く政治家の系譜であり、物事の秤が常に政治を支点にしているというだけのことだ。
“公務を言い訳に長引かせる事ができれば良かったが、下手な時間稼ぎは
一手間違えれば、そこから着々と詰みにかかる……評価としては過分も良い所だったが、そういう手合いだと進言するだけでも対策は取れる。
加え、ガルシアが難物ではあっても、暴君の類ではない。
“何処まで言っても、この男が職業軍人だと知れたことは僥倖だ”
少なくとも、そう自分に課している。マーセナス家の名を挙げながら、敢えて深く踏み込もうとしないことこそその証左。
ジオン上層部の何某かがマーセナスを引き摺り出す事を命じたから行っているというだけで、ガルシア個人が要求を突きつけようとしている訳でないのは態度で分かる。
“そうなると、問題はジオン側が何を求めているかだ”
連邦中央議会きっての大物──初代首相の代から連邦中枢に留まり続ける政界の大猩々一党に対し、求めて止まないものとは何なのか?
“最も安易かつ、こちらに得るものが大きいのは政略結婚”
マーセナス家の次期当主、ローナンは長女シンシアと嫡男リディをもうけている。
いずれも幼い身の上ではあるが、婚約関係一つ結ぶだけでも地球側に相応の影響力をもたらすであろうし、たとえ我が子であろうと今後を考えれば幾らでも喜んで差し出せる。誰の懐も痛まず円満な関係を結べるとなれば、これ以上ない儲け話だが……。
“流石に都合が良すぎる妄想だな”
末弟たるガルマを除けば、ザビ家はいずれも既婚か婚約者のいる身だ。
“加え、王族という
政略的な婚姻関係が見られたのが長女キシリアのみというのは、はっきり言って異常だろう。
それの意味するところは、ザビ家は王族として振る舞いながらも、何より重く受け止めねばならない血統という面を二の次にしているということで、そこはギレンやドズルが娶った女の出自を見れば間違いない。ないのだが……。
“探りの一つ程度は、入れるべきだな”
ガルシア自身も目的を伏せられている状態ならばお手上げだが、ガルマの方は未知数だ。今回のパーティでも顔合わせ程度に有力者と歓談しているが、表情がやや硬い。
“こちらの将軍とは違い、腹芸はそこまで磨ききれていないらしい”
攻めるならこちらからだな、と決めてかかろうとしたヨーゼフだが、それに先んじる形でガルシアが阻むように立ち位置を変えた。
「ご無礼。殿下のお加減が優れぬご様子。暫し、バルコニーで涼んでも?」
糞。と上流階級にあるまじき内心の悪罵だったが、ヨーゼフはその滾りを表に出さず、辛うじて呑み込んで見せた。
“忌々しいが、ここまで来ればひとかどの男と認めねばなるまいな”
将軍閣下の地位にありながら、番犬としての心得を軽んじていないのは見事という外ない。
「勿論ですとも」
努めてにこやかに。しかし腹の底では政治家らしく一物を抱えながら、ヨーゼフは深く腰を折った。