宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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※注:今回はジオン側のネームドキャラ(初登場キャラ)が戦死します。
   予めご了承ください。

※2025/3/5誤字修正。
 ソフィアさま、カド=フックベルグさま、けささま、ご報告ありがとうございます!


45 駒の声

 

“よもや、大将閣下直々にアフリカにお越しとはな……”

 

 齢からすれば、己と同じ四十路半ばといったところだろうと看破しつつ、アフリカ解放戦線(FLN)の司令官たる男は、何度目かも分からぬ程搔いた汗を丁寧に拭う。

 サスロ機関から派遣された連絡員──軍事階級は軍曹──の案内を受け、設けられた対談の場である地下壕……そこには現地人の装束こそ纏っていたものの、明らかに仕立ても良ければ醸し出す空気も異なる、チャップマン・ジロム大将以下、佐官級将校団の姿があった。

 

「長きに渡り、連邦の圧政に屈さず戦い抜いた、自由の戦士にお会いできたのは光栄だ」

「こちらこそ。栄えある大将閣下の拝謁の栄に浴しましたことは、恐懼(きょうく)感激(かんげき)の極みです」

 

 交わし合う美辞麗句と力強い握手も程々に、破格だな、と内心FLN司令官は思う。

 司令官などと嘯いてはいても、『アフリカ解放戦線(FLN)』自体は連邦側が定義したアフリカ大陸内における反乱勢力の総称であって、こうしてチャップマンの前に立つ男も、アフリカ全土の統括者という訳ではない。

 確かに人員も装備も他所と比べれば頭二つ分抜けている自信はFLN司令官にも有ったが、それでも良くて尉官を中心に構成されたゲリラ屋が足を運ぶとばかり思っていただけに、将官の……それも最高階級が遥々アフリカまでという厚遇は予想外に尽きた。

 ただし、それはチャップマン達も同じである。

 

“地球侵攻の晴れ舞台と勇んで来れば、穴倉での顔合わせとはな”

 

 気を抜けば溜め息さえ吐きたくなるような心地であったが、相応の礼を尽くしての歓待である上、そもそもにして志願したのはチャップマン自身であるからには、そうした感情を表に出す訳にも行かない。

 大将位は総帥たるギレンが名誉階級として賜っていることから察せられる通り、公国軍における最高階級であるが──現時点で元帥称号は制定されておらず、デギン公王は軍名誉階級を保持していない──チャップマンがその階級に準ずる指揮権を有しているかと問われれば否である。

 

 軍機構への知識のない者は、どの国の軍隊にも元帥や大将が存在すると思いがちだが、そうした階級は軍の規模に左右されるもので、必ずしも国軍のトップが元帥という訳ではない。

 例を挙げるなら米国初代合衆国大統領たる、ジョージ・ワシントンは独立戦争時にあって総司令官を勤めたものの、その階級は中佐であったし、二一世紀フランス軍の平時における最高階級は少将*1であった。

 こうした一例は絶対とは言い難く、中には自軍の規模を逸脱して、戦時下に気前良く元帥称号や大将位をばら撒いた国家も無い訳ではないのだが、ここではそうした事例は割愛する。

 

 話を戻すが、戦前から戦時体制への移行を見据え、大規模な移民誘致を行ってきたジオン公国も総人口は二億を下回っており、当然だが軍の規模もそれに準じたものとなっている。

 その点を踏まえるならば、公国軍内おいて実権を有する最高階級とは全軍を二分した上で率いるドズルとイワンの中将位こそ適切であり、大将位はあくまでも名誉・儀礼措置としての『栄典』に過ぎない*2

 チャップマンは四五と、将官としては脂の乗った齢であるものの、ミノフスキー粒子を主軸とした最先端の軍人でなくレーダー時代からの、良く言えば古参、悪く言えば過去の人であった。

 ムンゾ防衛隊からの古株として国軍創設に尽力してきたものの、西暦時代にまで逆行した戦場の急速な変化には対応しきれず、大隊指揮官が適切であろうとは周囲の、そしてチャップマン自身さえ頷いた評であったが、流石に防衛隊時代には司令官まで務めたチャップマンに中佐ないし少佐相当の仕事に回すのは、誰もが忍びないと感じていたことである。

 

 当人も潔く予備役に回ると進退を決したこともあって、名誉階級としての大将位と、公王家勲章*3を賜ることで、残りの余生は静かに送るだろうと余人は想像したが、やはり国家存亡を賭けた独立戦争を前にしては、動かざるを得なかったのだろう。

 とはいえ、大将閣下と称される人を実力主義に則って降格も同然の位置に置く訳にもいかねば、情実人事を下せるほどの余裕は公国軍に存在しない。

 一先ずは総帥府にて後方勤務に務めて貰いつつ、頃合いを見計らって二線級の部隊を統括して貰うべきかと総帥府が算段を立てていたところに、イワンからアフリカ行きの話が転がり込んできたのは、野心家のチャップマンにとって輝かしい時代を取り戻す福音にも等しかった。

 

 何しろ戦前までは碌な噂など一つとしてなかった、あのガルシアですら今や英雄と持て囃されているのだ。

「自分が司令官を任じられていたならば……」「何故ムンゾ防衛軍司令官として、瑕疵なく国軍創設に寄与した自分ではないのか」と忸怩たる思いで軍事公報を開いていたチャップマンにしてみれば、アフリカ行きは第二のガルシア・ロメオとして武勲を挙げる絶好の機会と信じて疑わなかったのは道理だろう。

 肌を焼き焦がす日差しと血液が沸騰しそうな気温は、事前知識として知り得ていた以上にチャップマンの心身から力を奪ったが、環境そのものは後の栄光のためだと割り切れば済む。風土病への対策として、定期的な錠剤の服用と注射もまた同様にだ。

 

“懸念事項は私以外……将校団の士気だったが、それも杞憂であったな”

 

 一定のキャリアを積んだ公国軍人であれば、あの怪物(イワン)直々の計画というだけで万事飲み下せるが、開戦からの志願兵となれば話は別だ。

 上官への不信は不服従に。不服従は反乱に繋がりかねない以上、アフリカ侵攻計画がどれだけ()連邦軍人に理解されるかはチャップマンも一抹の不安を抱いていたが、予想に反して、計画そのものに不満を漏らす者はなかった。

 

 そう、チャップマンを除き、この場に集う佐官級将校は元連邦軍人の……それも予備役の志願者で構成された、チャップマン同様レーダー時代の人間である。

 ともすれば捨て駒かと疑うような人事であったし、連邦軍出身ともなれば、当然だが宇宙軍出身であっても地球環境に対する一定の理解は見込める上、曲がりなりにも現役時代から佐官であった者達だ。

 根っからの宇宙移民(スペースノイド)が立てた作戦ともなれば、同じ宇宙植民地(スペースコロニー)生まれであっても疑義の一つは呈するのでないかと捉えていたが、全容を知った誰もが「それならば」と頷く始末。

 

 チャップマンとしては勿論有難くはあったが、同時に拍子抜けでもあった。何であれば、少しばかり噛み付いてくれれば活きの良い生粋の公国軍人を数人付けてくれたのではないかという期待もあったが、今はそれで良かったとも思っていた。

 居並ぶ将校団は皆予備役入りしていただけに、屈強な肉付きがやや崩れてはいたものの、それでも人を扱うことに慣れきっており、同時にそうした『老い』が相応の貫禄を備えているかのように演出してくれている。

 

“FLN司令官もアフリカの地に相応しい逞しさと座った目をしているが、こちらに呑まれているのは一目で分かった”

 

 連戦連勝を重ねる公国軍の威光と、階級という目に見える上位者たる格への畏敬……純粋な実力での評価が為される前の払いとしては上々だろう。

 後は実力で捻じ伏せるだけだな、というチャップマンの意気込みに合わせ、連絡員がファイルをFLN司令官に提示した。

 

「ご確認を」

 

 短く告げられたFLN司令官は目を通す。内容はチャップマンらも知り得ている通りのもので、今後、この場に集った将校団が各地に派遣され、専門教育を施す旨と、追加で到着予定の兵器類のリストだ。

 

 しかし、何より重要なのが搬入先とそこまでの移動手段……そして、チャップマン達が指導するゲリラのモラルだ。

 軍隊式の教練を常日頃から課していると耳にしていても、ゲリラなど資金・人員確保のやり口からして碌な物でないことは百も承知している。

 誇りある軍服を脱ぎ、認識票をはじめとした個人を特定する物を一切身に付けず来たのは、ゲリラと共同戦線を構築する意味を理解できているから。

 どれだけ立派な看板を掲げていようと、一皮剝けば無頼の本性が垣間見えるのが反乱勢力(テロリスト)というものの在り方だと承知していたからだ。

 時として、連中の人道に悖るような対応に見て見ぬふりをしなければならない場面にも出くわすだろう。余計な諍いを避けるためだと……そんな賢しい大人の都合で、信念と矜持に癒えぬ傷が入ることさえ有るやもしれない。

 そうした場面の中でも、特に目に余る事態にあれば掣肘し、未来ある者達を保護する為にも、自分達の存在を大きく、欠かせないものだと示し、一定の発言力を保持せねばならない。

 そのために重要なのは常に主導権を握ることで、だからこそ初めにチャップマンは切り込んだ。

 

「司令官、携行火器以外の装備を扱った者は全体の何割かね?」

「元連邦軍人は二割ほど、民間軍事会社(PMSC)勤務経験者は……」

 

 違うだろうと目を細めて見つめれば、奥歯に歯が挟まったような物言いで「三割は確約できる」とFLN司令官が応えた。良い所でも二割だろうな、とはチャップマンの推察で、一割以下ということも考えられる。兵器そのものも、ガタが来ている物は多いことだろう。

 戦前の相応に腐敗した連邦軍ならば、旧式装甲車や戦車の横流しもあっただろうし、それらを運用していてもおかしくはないが、正規戦に臨めるだけの練度は見込めまい。

 予定通りと言えばそれまでだが、今後は遅れて到着してくる兵員を待つことになる。一度に本国が寄越すことをしなかったのは、()()FLN以外の、同名の看板を掲げる者達への接触や根回しに人員を割かねばならなかったからだと、少なくともチャップマンはそのようにイワンから直々に告げられている。

 

“つまりはそれまで、私達で()()と言うことだ”

 

 その為に他の工作員やチーム以上に優遇して事前に兵器を手配して貰っている以上、嫌と言える筈もなし。他のFLNに公国側の『力』を見せつける上でも、デモンストレーションは必要だ。

 

「軍曹、アモフ中佐を指揮所へ」

「は!」

 

 踵を鳴らす連絡員に先導される形で、将校団内では最も経験豊かな中佐が歩を進めると、「司令官殿も是非」とチャップマンが同行を勧める。その間、後続が背後で先ほど提示したファイルを焼却処分するのを忘れない。

 元連邦軍予備役中佐であったジャルハ・アモフは、現役時代にはコーラル級宇宙重巡洋艦(ブキャナン)の艦長を務め上げた程の男だが、そんなアモフが宇宙でなく地上の、それもアフリカに降り立ったのには、当然それ相応の理由がある。

 

 ルウム戦役より前に公国軍に加わっていれば、今も艦長だっただろうとはアモフ当人の談であったが、言葉に反して現役復帰の再教育課程での成績は芳しくなかった。

 絶対に的を外さないミサイルの応酬で蹴りがつく、所謂『ボタン戦争』の常識が逆行した艦隊戦の指揮に適さなかったというのもあるが、何より大規模な戦争など皆無であった平時型の艦長であったのが大きかったのだろう。

 艦内での指示一つとっても機転が利くタイプでなく、その癖、艦の動きが教本通りの読み易さであったことから、シミュレーターでの訓練では落第も同然。

 訓練結果を見るか、或いは後で目を通した誰からも「若者達を老人と同じ棺桶に詰める訳には行かんよ」と肩を竦められたというから、少なくとも宇宙軍の居場所として、艦長の椅子だけは論外だったということなのだろう。

 

 時代の変化とは残酷なものだとチャップマンも同情を禁じ得なかったが、それでも後方でなく、前線に身を置かんとした気概は買うべきだ。

 たとえそれが、連邦時代の階級と同階級のまま公国軍人を名乗りたいというものであったとしても。元連邦軍人という肩書が、コロニー社会では生き辛いものになってしまったが故の逃避めいたものだったとしても、それを指摘しないだけの慈悲はチャップマンも持ち合わせていた。

 

 だからこそ、このアフリカ行きはチャップマンと同じく、アモフという男を再び檜舞台に立たせる復権の場であって欲しいとも思うし、野心家のチャップマンに負け劣らず、アモフの目は指揮所で爛々と輝いていた。

 

「こりゃあ良い……儂が現役の頃も噂になっとりましたが。くくっ! 連邦も随分とあくどい仕事をしたものですな」

 

 戦前の連邦が各サイドの緊張緩和と表向きの公平性を主張する為、一定数のコロニー出身者に対する入隊枠を設けてはいたが、連邦政府も軍も、そうした地球居住者(アースノイド)になり切れないコロニー出身者を常に警戒し続けていた。

 加え、連邦政府の疑心暗鬼というものは身内にも向いていたのだろう。万一連邦軍高官が部隊を率い、クーデターを計画した際の対策として各種軍事企業に無人攻撃機を用立て、各々の派閥に管理させていたという後ろ暗い噂は、チャップマンも防衛隊時代、何度か小耳に挟んだことはある。

 

“尤も、その時は連邦内部で絶えず繰り広げられてきた政争の一部分が誇張されただけだろうと高を括っていたものだが……月面のAE(アナハイム・エレクトロニクス)社から流された分だけで、これか……”

 

 対地攻撃用ミサイル搭載型の無人攻撃機だけで三〇機、貫通型の誘導ミサイルは一七〇発……僻地の地上基地に殴り込み、半壊させるには十分だが、そこに多連装ロケットを装備した高速無人車輌まで付いてくるのだから堪らない。

 

「閣下、早速景気づけと参りましょう。これでも艦長職より前は、ミサイル指揮に就いておりましたのでな。腕は錆びておりませんぞ!」

 

 嬉々として語るアモフは、宇宙軍に居場所のなかった哀愁を漂わせていた先程と違い、二〇は若返ったような声の張りを見せていた。

 気持ちは分かる。時代の徒花として取り残された男が、万全の状態で動けるのだ。

 チャップマンとて、いつかかつての防衛隊時代のように、小規模ながら一軍の将として立つ日が来たのなら、きっと同じように目を輝かせて見せただろう。

 悪童に命じるように、アモフと同じく白い歯を覗かせて口を開き──

 

 ──次の瞬間に、世界が崩れた。

 

 

     ◇

 

 

 人の想像力というものは、驚嘆の一語に尽きるだろう。

 清く在り続ければ天の国に。悪徳を重ねれば地の獄に……。

 理不尽と不条理が絶えず撒き散らされる世界だからこそ、人は死後の世界に因果応報を求め、人生のプラスマイナスという帳尻を超越者が併せてくれると信じ、空想の世界を生み出し続けた。

 だからこそだろう。その想像力が時に科学として人類を飛躍させ、時に宗教的禁忌と称して足を引く。

 そして、自分達がかつて想像の中でしか描けなかった光景を、いつかは現実のものとしてしまう。

 たとえそれが天国であれ、地獄であろうとも……。

 

 

     ◇

 

 

 始まりの光は、空からだった。

 人体の殺傷や都市の壊滅を目的としてでなく、電磁パルス(EMP)によって防御壁のないアフリカの脆弱な個所を徹底的に破壊・通信網を分断するところから始まり、その次の瞬間には、大地を同じ光が覆った。

 果てのない地平線が存在する大陸だからこそ、悪魔の舌のように炎は生あるものを残酷に呑み込み、拡がり、一瞬にして黒い炭へと変えて行く。

 しかし、そうした即死という結果さえ、一部の者達からすれば慈悲にさえ映ったことだろう。()()()即死を免れ、溶けた蝋燭のように全身を、或いは半身を爛れさせながらのたうつ者達にとって終わりは救いであり、生は永劫の悪夢に等しい。

 上空には黒い雲……そこから降り注ぐ雨色もまた黒、焦げた肉片も、土地も、全てが黒々とした世界に変わって──

 

 

     ◇

 

 

「──何が、おきた?」

 

 その災禍を本当の意味で幸運にも目の当たりにすることのなかったチャップマンは、朦朧とする意識の中で覚醒を果たした。

 

「誰か、……く」

 

 誰何の声を上げかけたが、すぐに止めた。アモフを含め、将校団もFLN司令官も、連絡員さえ崩落した瓦礫の下敷きだ。チャップマンが生き永らえることが出来たのは、折り重なった瓦礫の空洞に偶然身体が嵌まっていたという奇跡。

 地中で炸裂した爆発物の衝撃で機材同士が接触し、偶然チャップマンの盾となるバリケードが出来上がったという奇跡。

 その奇跡に更なる奇跡が重なって、会合場であった拠点から指揮所に移ったため、直撃を免れることが出来たのだ。

 

“会合場所が割れていた? 空爆? 糞、判断材料がない”

 

 既存兵器を活用する為、ミノフスキー粒子をはじめとした最新兵器を用いていなかったのが裏目に出たのだろう。ここぞとばかり、連中は掩蔽壕破壊弾(バンカーバスター)を搭載した音速爆撃機を使用したのだとチャップマンが気付くには既に遅く、折れ曲がった片足を引き摺りつつ、複数ある脱出口の一つを辿って地上の光を求めたが……

 

「……は、はは」

 

 こんなことならば、光など求めるべきではなかったと後悔した。

 崩れ、抜け出すことの叶わない出口の向こう側など、見るべきではなかったと呆けたように声が漏れた。

 死と苦痛で満ちた世界。人というものが生み出した悪の兵器。自分達も宇宙では散々に連邦艦隊に使用してきたが、流石にこれは桁が違う。

 その規模も、威力も、MS隊が核バズーカで使用した戦術核でないことは一目で知れた。地球連邦という統一政権が誕生するまでの、数度の世界大戦で使用されたという戦略核。その記録映像と同じ地獄が、生々しい風と共にチャップマンに真相を伝えていた。

 

「これが……これをっ」

 

 ぎり、とチャップマンは奥歯を噛み締めた。肌を物理的に焼き尽くす日差しはなく、黒い雨が崩れた出口から流れ込む中、血涙を流して呪詛の言葉を吐き散らした。

 

「こうなると知って、私達を送ったか!? ええ!? イワン・ヨーク……!!」

 

 敵味方の別に分かれ、戦争を行っている以上、敵に恨み言を言う気はない。しかし、味方に対しては別だ。

 思えば何もかもが妙だった。最低限の人員に、段階を経て届く手筈だという物資……あの怪物と称された男にしては、その作戦計画の周到さにしては違和感を覚えた動員規模……。

 

「お前は……、分かっていたんだろう!?」

 

 チャップマンとて軍人だ。軍務に就く以上、安全な後方でなく前線を希望した以上、不可避の落とし穴が付き纏う戦場に身を投じる意味を理解していた。

 非才の身を弁えず、弾雨飛び交う世界を志願した人間がどうなるか? 軍人ならば誰もが一度は恐怖する想像……。

 誰かが押し付けられる捨て駒の役を、自分自身が担う日が来てしまうことは、心の何処かで弁えてもいた。

 捨て駒として扱われたとしても、決して無駄死にではない。そんな余裕はジオン公国の何処にもないからこそ、着実に勝利に近づくためであっても、(イワン)は捨てる駒を最小限に留めるだろうと理性が告げていても。

 たとえチャップマン自身が将帥としての地位にあった時、切り捨てねばならない決断を下す側に立つこともあると承知していても──

 

「──だが、それでもっ!!」

 

 何故! と、許せぬと声を荒げずにいられようか!? 戦友の死を前にして、この地獄を垣間見て、全てを理屈と職業倫理で押し殺せるものか!!

 

「アモフも、皆も、宇宙移民(スペースノイド)を救いたいという思いはあった! どれだけ打算に満ちたものを抱えていたとしても、そこに! 確かに! 報国の心は有ったのだぞ!?」

 

 だからこそ無意味でも、一秒先に死が待つとしても、誰にも届かないと知っていても叫ぶのだ。私達はここに居たと。無念を抱え、憎悪を燃やし、理不尽に滾ることは許される筈だから。

 チャップマン自身が司令官として君臨していた時も、当事者にはそれを言う権利はあると認めていた。一つとして同じものの無い、兵士達の怨嗟の合唱を受け止めてこそ司令官足るのだと心得ていた。

 どれだけ自分がその職責に値せぬ、大将閣下などと称されるには足らぬ無才の人であったとしても、それだけは果たすべき勤めで十字架だと弁えていたからこそ、自分の番がやってきた今日という日に、喉が張り裂けんばかりに声を上げる。

 

 黒雲を越え、月を越えた先に、まるで万物の支配者であるかのように、自分達を捨て駒にした司令長官(イワン)に届けと。

 お前もまた、嘆きと叫びを受け止める側の人間なのだからと。断末魔より強く禍々しく、この憤怒を地球に響かせる。

 本来、少しは長く続く筈だった人生を。ここで途切れてしまう生涯そのものを、今この場で絶望として吐き出す為に!

 

「最悪はこうなるだろうとっ! こうなっても可笑しくないと、お前は──」

 

 途切れた怨嗟と、撒かれた肉片。奇跡に奇跡を重ねたチャップマンの幸運は、地平を薙ぎ払う爆撃によって今度こそ途絶えた。

 たとえイワンがニュータイプであったとしても──両者の距離は、余りに遠く。

 

 重力に魂が繋がれたチャップマンの慟哭は、終ぞイワンの耳に届くことはなかった。

*1
 大将・中将は存在したが、これらは少将の階級に与えられる称号であり、元帥号は栄典扱いであった。

*2
 公国戦時法によって任じられる総帥位は『公国軍総司令官の権限を有す』と定められている為、ギレンは名誉大将としてでなく、総帥権限によって戦争指導を行っている。

*3
 国家・軍事勲章とは別に、公王家(君主)が独自に授与する勲章。

 勲績功労ある公国民に授与する功労勲章、男性のみに賜う騎士団勲章、婦人に賜う婦人名誉章の三種に分けられる。

 勲章の各等級は以下に記載。

・勲一等(頸飾章及び、右肩に大綬を佩す。該当章は功労勲章のみであり、受勲資格を有するのはグランドマスターたる公王に限定される)

・勲二等(正章たる大綬を左肩に、副章たる星章を右胸ないし肋に佩す)

・勲三等(正章たる大綬を右肩に、副章たる星章を左胸ないし肋に佩す)

・勲四等(星章)

・勲五等(中綬。婦人名誉章に該当章は無)

・勲六等(小綬)




イワン君「そらアフリカ全土丸ごとテロに巻き込むんやから、最悪ぐらい想定するわ」

 おめーロリキシリア様に世界救うって誓ったよなぁ!?(なお当人は完全にコラテラルダメージ感覚の模様)
 人の命を戦闘単位と割り切る政治将官の鑑にして、人間の屑が主人公とかマ?

 ちな、今回登場したチャップマンとアモフはどちらも小説版「機動戦士ガンダム」の登場キャラです。どちらも見せ場らしい見せ場がないままフェードアウトしてしまいますが……。
 もう少し無能かDQNに振り切れてたら、編集長のように、有効活用できていたのですが……。君達が中途半端なのが行けなかったのだよ(赤い屑仮面並感)

・公王家勲章については、我々の世界で言うホーエンツォレルン家勲章みたいなもので、アニメ版ORIGINでザビ家の皆さんが佩用してた勲章がこれだと思ってくださいませ。
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