宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

52 / 85
※2024/10/28誤字修正。
 minotaurosさま、塩三さま、ご報告ありがとうございます!



50 その頂は遠く

 ──貴方は特別な人間なのよ。

 

 誇らしげに微笑み、抱き締めてくれた母のことを少壮の中尉──マレット・サンギーヌは走馬灯のように思い出す。

 

 ──きっと、貴方が()()の未来を背負いなさい。

 

 記憶の中にある母は、幼い頃のまま美しく凛としていて、同時に心から信じてくれた。

 サイド3が独立し、国となるのだという夢を。マレットが必ず、その待望を実現させる立役者になるのだと言うことを。

 

 だが、現実はどうだ?

 

 は、はっ……は……。忙しなく肺に送られる空気と、激しさを抑えられない動悸。

 こめかみから伝い流れる汗は、運動量以上に緊張から。だが、これは決して初めてのことではない。

 一体幾度、天狗の如く伸びた鼻を叩き折られたことだろう?

 自分こそがジオンを救う救世主にして、英雄たる器なのだという傲慢な自負心を、敗北という土に塗れることで否定され続けたことだろう?

 

“奴が、遠い……!!”

 

 相対的な距離という物理的な問題でなく、彼我の実力を指して心の奥底……本音が悲痛な叫びを上げた。母が信じ、己がそう在ろうと半生を捧げ、愛する女性(ひと)に相応しい男になるのだと誓った。誓っておきながら、無様な敗北を繰り返したという事実が胸を刺し貫く。

 

「くっ……!?」

 

 この位置は駄目だ。敢えて宙域内で息を潜めていた岩礁の裏に二発の弾丸を受け、マレットは潜伏地点の変更を余儀なくされた。

 相手の実力であれば背後に回り込み、マレットの駆る高機動型ザクⅡに撃墜判定を下すことは容易いが、それをしなかったのは『隠れ方が拙かったぞ』という叱責に他ならない。

 たとえそれが、明らかに常軌を逸した『格上』だからこそ為せる事であったとしても、仮に実戦であれば、実力差など言い訳にもならない。

 第一にして、敵機は戦前にロールアウトした旧型(ザクⅠ)……今や訓練機としてしか用をなさないロートルで、本来ならマレットの高機動型ザクⅡに追いつける機体ではない。

 にも拘らず、マレットは自機の強みである機動力を活かすこともできず、まんまと敵機の優位な戦場に誘導され、追い込まれたという現実。何より不甲斐ない己自身にマレットは思わず頬が紅潮し、奥歯をきつく嚙み締めた。

 

“来る……!”

 

 機体こそ旧型でも、その右手に握られているのは対MS用に開発されたMMP-80だ。従来の主兵装たるザク・マシンガンの一二〇ミリと比して九〇ミリと小口径だが、弾速と直進性の高さから威力のみならず、集弾率も旧式を上回り、片手での操作でも問題ないと来ている優れもの。

 ましてや敵機が実戦において百発百中を叩き出す怪物ともなれば、機械のアラート以上に脳内に警鐘が正確に鳴り響くのも道理だろう。

 

 ひと際激しいバーニアの噴射が暗黒の宙域に映える。引導を渡すべく輝く一つ目(モノアイ)を前に、しかしマレットは緊張から身を固くする無様を晒すことも、臆することもしなかった。

 今日こそは勝つ! 勝ってみせるのだという執念で眼球を絶え間なく動かし、四枚の平面パネルに囲まれたフラットモニターから、決して敵機を逃さぬよう細心の注意を払う。

 バーニアの噴射量から察するに、最短距離で有効射程まで接近するのに一五秒。しかし、最大射程圏であっても、有効打さえ与えられるなら容赦なく射抜いてくるのが敵機である。

 

「……見極めろっ」

 

 祈りを込めるように絞り出す言の葉。高機動型の性能を活かし、縦横無尽に動こうにも地形に阻まれているし、何より()()読み合いにおいて敵機は『無敵』だ。

 ランダムパターンで回避運動を取ろうにも、そんなモノは推進剤の浪費でしかない。口から自然と漏れ出た通り、理性と合理によってのみ、唯一無二の活路がもたらされるのだ。

 疑似再現されたマズルフラッシュが周囲の星々より大きく輝きを放ち、互いの火線が交差する。訓練用のレーザー銃であり弾丸は実体でこそないが、命中判定は実弾の弾速と精度に従い、正確に伝えられた。

 

“糞っ……!!”

 

 何度やろうと、繰り返そうとマレットの弾丸は命中せず、敵機の弾丸はマレット機に無慈悲な命中判定のアラートを響かせる。衝撃こそないものの、被弾と同時メインモニターに警告のメッセージが灯ったが、より深刻なのはサブモニターの二つが潰され、死角が生まれてしまったことか。

 被弾は避けられなかったものの、それでも意地で守ったメインカメラが敵機を中心に捉え続け、応射で以って牽制する。

 それは勇敢な応戦というより、俺に近づくな……! という悲鳴にも似た慄きからの攻撃だったのかもしれない。現に敵機は動きに一切の迷いがなく、弾雨を影絵の如くすり抜けながら間合いを詰めてくる。

 明らかな異常。煌めく無数の光軸は決して届かず、無情にも失探のアラームがマレットのコクピット内に鳴り響いた。

 

 仮に敵機のパイロットが言葉をかけたなら、何としてでもこの場を離脱すべきだったと忠告しただろう。

 尤も……そうさせぬよう弾幕でマレットを誘導し、岩礁宙域の奥へ奥へと追い込んだのも敵機だが。

 

 素早く身を翻した敵機は消えた。対物感知センサーや熱源探知センサーも反応しない所を見るに、未だ相応の距離があると見るべきだが、センサーの有効範囲より九〇ミリの射程は長い。

 ミノフスキー粒子の環境下に適応すべく、各種センサーは日進月歩の速度で進歩していたものの、未だ有視界戦闘で最も頼りとなるのは操縦士(パイロット)の両目とカメラだ。

 

“俺にも、意地は有る……!”

 

 怯懦を払い、闘志を燃やし、誘い込まれた岩礁地帯に踏み込んだ敵機から少しでも不利を克服すべく、マレットは岩を背にMMP-80を構えた。

 MS最大の弱点たる背中(ランドセル)を守り、死角を殺す。敵機の武装にバズーカがないことからも、その判断は決して間違いではないが……。

 

“くっ!”

 

 再びの被弾。赤い警告灯がコクピットを満たし、ダメージ・コントロール・システムも復旧不能の表示が出現してしまう。

 コンディション・モニターはMMP-80を保持していた右腕が肩関節から無残に破砕されたことを示しており、仮に実弾であれば、肩から先は既に消失したと見るべきだ。

 

「こんなっ、結末など!!」

 

 何一つとして成長の兆しも見せられず、一矢報いることも出来ずに敗北と恥を重ねるなど耐え難い。最早勝利は絶望的なれど、未だ撃墜判定は下されていないのだっ!

 

「認めて……なるものかァ…………!!」

 

 微かに捉えた敵機のスラスター光に活路を見出し、受けに徹して迎え撃つのでなく、突貫こそを選択した。左手に握るのはセンサーを組み込んだ軟性の棒に過ぎないが、これが近接白兵兵装〈ヒートホーク〉の代替物だ。

 来るべき対MS戦を想定し、残弾が尽きた際の対艦用補助兵装から地位を押し上げたこの武器は、戦艦の装甲すら溶断する。

 腕の一つ、足の一本などと惨めな結果など求めはしない。狙うは胸部(コクピット)ただ一点! 相打つ覚悟での前進と鬼気迫る想いは、敵機の発見という光明をもたらし──

 

「──なっ!?」

 

 旧型のスペックにはあり得ざる、高機動型を彷彿とさせる軌道変更。

 無数に漂う岩礁の中から自機の質量を上回り、同時に反作用を利用できる物を瞬時に選択。飛び石の要領で蹴りながらスラスターを全開まで吹かして次の岩礁に取りつき、加速に加速を重ねて宙域を疾駆する。

 正史において、赤い彗星の二つ名を賜ったジオン公国のエース、シャア・アズナブルが使用したこの空戦機動(マニューバ)こそ──

 

 

     ◇

 

 

「噂に名高い『一一艘飛び』か」

 

 実物を見たのは初めてだな、と日本の古の英雄──源義経の『八艘跳び』伝説に因んでルウム戦役の『観戦者』が名付けた高速一撃離脱戦法をスクリーン越しに眺めるのは、深紅の稲妻の異名を取る、ジョニー・ライデン。

 そして、ジョニーが受け持つ『教え子』とエンジニアの()()()もまた、目の前の映像に目を見開いて息を呑んだ後にゆっくりと、『教え子』が目の前の光景を受け入れるように口を開いた。

 

「……ジョニーもルウムに居たんじゃないの?」

「ああ、居たさ。だが、長官殿が直接率いてたのは黒い三連星とそこを中心にした麾下部隊だ。何より、その三連星にしたって後ろに着くんじゃなく自由に動いてたそうだしな」

 

 MSを部隊運用する上での最大規模は大隊であり、当時のジョニーはマツナガらと別動隊として動いていたために直接目にする機会はなかったし、何よりあの大艦隊決戦で個人の武勇を目に焼き付けるだけの幸運に恵まれた者など、決して多くなかっただろう。

 

「で? 感想は?」

「……サンギーヌ中尉はいけ好かない男だけど、それでも同情したわ」

 

 今まさにスクリーンで映し出されたマレットの高機動ザクは撃墜判定が下されており、しかもご丁寧にイワンのヒートホーク──正確にはその代替物たる訓練用ロッドだが──にマレットの操縦席(コクピット)は強かに打ち据えられていた。

 実戦なら、痛みを感じる間もなく膨大な熱量で焼死したのは間違いない。

 

「わざわざ相手に合わせて、『これはこう使うのだ』ってレクチャーしなくったって、良いと思うんだけどね」

 

 水を向けられた『教え子』たる少女──イングリッド・ゼロはその美しい相貌の眉間に皺寄せ、流石にこれは如何なものかと蹂躙劇を評す。

 マレットとイワンの模擬戦は既に両の指に届く程数をこなしていたものの、基本的に長引くこともなければ目を見張るような戦いもなかった。

 優秀な教師が生徒に見本を見せ、ミスがあればすぐさまそこを突いて終わらせるという、まるで教科書に目を通すような戦闘記録でしかなかった為、今回の一戦は見応えがありつつも、それ故に先の言葉通りイングリッドは同情を禁じ得ない。

 

 そもそもやろうと思えば岩礁宙域に踏み込むまでもなく遠距離で撃墜できただろうに、我らが長官殿(イワン)はサドの()でもあるのかと本気で疑いたくなったが、その反応にジョニーは肩を竦めた。

 

「無駄に気位の高いサンギーヌにはあれで良いのさ。口で説明してやるより、よっぽど身に着く」

 

 イワン自身には、相手を嬲り楽しむ嗜虐性など欠片も持ち合わせていない。

 一対一でなく乱戦であれば、敢えて敵の一人に致命打を与えぬことで生餌にして他の戦力を誘引することも出来ないではないが、それより迅速に数を減らして彼我の戦力差を整えることに重きを置くタイプだということを、ジョニーは既に()()()()()経験していた。

 

「初めに言った通り、俺達の目標は長官を殺せるようになることだ」

 

 より正確には、将来敵として出現し、相対する可能性のあるニュータイプを、だが。

 正史のジョニーがそうであったように、ここペズンに集うエース達は同時多発的に発現・覚醒するであろうニュータイプという『危機』に対する対抗戦力……カウンター部隊となることを見込まれて招集された者達だ。

 ジョニーが口にした目標はイワン自身が能力を詳らかにした上でペズンに集ったエース達に要求したものであり、これにはペズンに集うことが許された歴戦の勇士たちも表に出すかは別として昂っていた。

 撃墜数というこの上なく分かり易い上下の指標……その頂点に君臨し──実際の個としての実力は全軍将兵と相対せる筈もないのだから別として──公然と公国最強の座を(ほしいまま)にしている男を地に落とす、絶好の機会を与えられたのだ。

 古式蒼然とした騎士道精神を有する武人達は尋常の立ち合いを望んで止まず、将来直面する危機に先んじて対策を立てたいと言う職業軍人としての合理性を有するエース達もまた、イワンとの模擬戦を希求して止まなかった。

 ……尤も。

 

「まだ勝ててないんでしょ?」

 

 そう。イングリッドが漏らした通り、未だジョニー達、対ニュータイプMS大隊──『キマイラ隊』はイワンから撃墜判定をもぎ取れていない。

 戦時下であることと公国の弱点たる人的資源の不足も相まって、黒い三連星や白狼といった十字勲章組の全てが結集していないとはいえ、それでもここに集うパイロットは皆一角の精鋭で、それが徒党を組んで単騎相手に挑んでいると言うのにだ。

 

「ジョニー達との模擬戦だとザクⅡを使ってるそうだけど、そっちの戦闘記録はまだ見てないのよね」

 

 なんで見せてくれないのよ? と頬を膨らませてイングリッドが不平を漏らせば、ジョニーは苦笑しながらイングリッドの頭に手を置いた。

 

「そりゃ、お前の目標は別(モン)だからな」

 

 イワンを殺すことでなく、第二のイワンとして、ニュータイプパイロットとして完成すること。それこそがイングリッド・ゼロに求められる役割なのだと初めて明らかにしたジョニーに、イングリッドは一層不快感を示す。

 

「……なによ、それ。私はジョニー達と背中を預け合うんじゃないの?」

 

 低く重い非難は、“随分と懐かれたもんだ”と内心ジョニーを複雑な気持ちにさせたが、敢えてそれを表に出さず、しかし茶化すことも、厳しく突き放すこともせず向き合う。

 

「勿論そうさ。お前さんが俺や他の連中を守ってくれるぐらい強くなれるってのは、俺が一番確信してるが、俺だって男として意地があるから、背中を任せるならともかく、大人しく守られてやるつもりもない」

 

 重要なのは方向性だ。ジョニーらカウンター部隊は、前提条件としてニュータイプとしての素養や兆候を一切持ち得ないこと。何より次代に経験を繋ぐべく若年層や元教導隊員を中心として構成されている。

 対し、次代の為の戦力という意味ではイングリッドは同じであっても、ジョニーが説諭した通り、逆にニュータイプとしての素養を()()()()()()宿している以上、求められる形は大いに異なるのだ。

 

「ま。お前さんはまだ若いどころか幼いし、俺が老けるのも当分先だ。じっくりとことん鍛えてやるさ」

 

 生来の直感や反応に頼り切るのでなく、経験確かなエースの手管を学ばせること。それがイワンが直々に教鞭を執らず、ジョニーに次代の種子たるイングリッドを託した理由であることをジョニーは素直に信じていた。

 

 一方、そうした第一線を戦場として動くことを前提とするパイロットの心境を他所に、先ほどまでの戦闘記録をしきりに再生しているのは、イングリッドと──()()()()という意味では──齢の近い少女、メイ・カーウィンとアルレット・アルマージュであった。

 

「すっごーい! 『キマイラ』の人達にもいっつも驚かされるけど、あんな風にザクⅠを動かせる人、初めて見たよー!!」

 

 キラキラと瞳を輝かせ、うなじで纏めた黒髪を尻尾のように振るメイに、「む」とイングリッドは不服そうな反応を示す。

 

「そうかしら? ジョニーだってあれぐらい出来るわよ?」

 

 あら? と思いがけない女の子らしい反応を示したイングリッドに好奇心をくすぐられたのか、はたまたシステムエンジニアであると同時にメカニックとしての確かな技量を有する専門家としての見聞からか、「ち! ち! ち!」と人差し指を立て、挑発するような流し目でメイは語る。

 

「分かってないなぁ、イングリッドちゃんは。確かに同じ動きをやれって言われたら、隊長さん(ジョニー)だけじゃなくて、『キマイラ』の皆もスラスターとAMBAC(アンバック)を駆使した高速機動で同じことが出来るよ?」

 

 勿論長官と同じザクⅠでもね。と念を押し、その上で言の葉を継いだのはアルレットだ。

 システム工学の専門家であるメイよりも、技術屋(エンジニア)としての純粋な技量を価値を見出されてここに居る彼女からすれば、メイの言わんとすることも、映像から導き出される答えも手に取るように分かる。

 

「長官が凄いのは、あれだけの動きを見せてザクⅠに()()負荷がかかってないのが、映像からでも一目瞭然ってこと。本気で「殺してやる!」って挑んて来た相手とやり合ってね」

 

 アクロバットな動きを好むパイロット共はキマイラ隊にも多いが、そうした連中は挙って乗機の関節を痛めて戻る。軍用機である以上、多少の無理無茶は織り込み済みで設計されてはいるものの、技術屋としては無駄に機体を傷められるのは好ましくない。

 ……無いのだが、ここに集うパイロット共は皆その負荷を「実戦に向けてのテストだ」と言い張るし、現にやろうと思えば訓練でも堅実な動きが問題なく出来てしまう上、変な癖など一つもないと来ているのだから始末が悪い。

 

 エースとしての技量も必要性も理解しているが、それはそれで面白くなかったメイとアルレットにしてみれば、イワンが見せつけた模擬戦闘は「皆これを手本にして欲しい」という歯に衣着せぬ本音だった。

 が……横で聞いていたジョニーからして見れば「そりゃ無理ってもんだ」と口を挟まずには居られなかった。

 

「技術屋の要望としちゃ、嬢ちゃん達は間違っちゃいないがね。長官の動きで他に気付いたとこは無かったかい?」

 

 ? と頭に疑問符を浮かべ、首を傾げる二人の素直な反応は大人として庇護欲をくすぐられたが、今度は意趣返しとばかり、イングリッドが人差し指を立てて解を示した。

 

「分かってないわね、メイちゃん達は。あのザクⅠの動きはね、全部『相手の動き』を『予知』してることが前提だから出来てるの」

 

 何秒後に相手が銃を構え、どの射線から弾丸が通り過ぎるのか。ニュータイプとしての危機察知と未来予測を十全に働かせた上での戦いで、現に映像記録のザクⅠはマレットが銃を構える前から最適な回避運動を取っていた。

 

「私もニュータイプだからね。『敵意』とか『悪意』とか、そういうのは面白いぐらいすぐ伝わってくる。生身の殴り合いだったら考えるより先に手が出ることもあるし、そういう相手には反応しきれないけど、MS(モビルスーツ)はどうしても頭で考えて、それが乗機に伝わるまでにラグが出るわ」

 

 遥か先、MS(モビルスーツ)を脳波コントロールできるまでに発展した未来であれば従来の人類(オールドタイプ)がニュータイプの予測を上回ることが出来るやもしれないが、少なくとも現時点では、ニュータイプの予知はMS戦闘において圧倒的なアドバンテージを得られてしまう。

 

「ましてや我らが長官殿は、()()実力でさえジョニー達と互角にやり合える本物の怪物。それを求めるのは流石に現実的じゃないわね」

 

 だからこそ、「どうやってあんなのに勝てって言うのよ」とイングリッドは愚痴を零さざるを得ないのだ。現時点で息の根を止めたいのであれば、弾丸を無作為にばら撒いて運に祈るか、或いは隙間を埋め尽くすほどの飽和攻撃ができるだけの物量で押すのが正解で、だからこそマレットにイングリッドは同情した。

 一対一では、イワン・ヨークに絶対勝てない。唯一その可能性を秘めているのは──

 

「──そっか。じゃあイングリッドは将来、長官さんと同じことが出来るようになるのね」

「……うっ」

 

 導かれて欲しくなかった答えに行き着いてしまったメイの反応に、思わずイングリッドは呻く。

 そう……確かに理論上は、ニュータイプであるイングリッドもイワンの域に到達できる……筈だ。

 未だジョニーとの模擬戦闘訓練で良いように弄ばれ、翻弄されているヒヨコでも、将来は本気のイワン相手に互角の戦いが出来るようになる……筈だ。

 ……問題は、そこに行き着くまでに公国の勝利と未来を勝ち取る為、一時期は狂気の闇に自ら身を投じ、精神と肉体を極限まで改造し尽くした上で、天然の原石を磨き上げた真正の怪物と並ぶのに、どれだけ途方もない努力を重ねなければならないのかが見当もつかないという点だけで。

 

「……ま、まぁ。私ならやれるわ。いつか、いつかね!」

 

 そこで大人がするような(さか)しい言い訳や回避という選択をせず、子供らしくプライドに重きを置く辺り愛らしいものだが、それを微笑ましく見ていられるだけでは、決して居られないのがジョニーの立場だ。

『キマイラ』の隊長に大抜擢され、ニュータイプを預けられた。

 双肩にかかる責任の重圧は将官のそれと同等の重みであったが、軍人であり、大人である以上拒める筈もない。

 

“この戦争が終わっても、俺の役目は終わらない”

 

 ニュータイプという仮想敵……流石にイワンのような怪物が『量産』されることは無いとしても、そうした最悪に備え、軍事力という剣を研ぎ続けるのは防人(さきもり)の勤めと弁えている。だが……。

 

イングリッド(こいつ)が大人になるまでには、大人(おれたち)だけで踏ん張れるまでにならないとな”

 

 決して口にせず、心中に留めた決意の籠もる視線の先に映る少女は流血の穢れを知らぬ、何処までも無垢な物だった。




 イングリッドが大人になるまでに? お前が女の子から女にするんだよ!(ゲスの極み)

 イングリッドちゃんが年相応に明るくて幼いのは、後々語る予定ですがメイちゃんの影響が大きいとです。
 やはりロリは魂の清涼剤、はっきり分かんだね(ロリコンの戯言)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。