宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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53 仮面の英雄

「亡命希望か」

 

 ビスト家当主にして財団の長、サイアム・ビストについてはサスロもキシリアの一件で多大な貸しがある以上、否やはない。

 連邦側が凍結し、差し押さえたビスト財団の資産の数々は確かに個人であれば途方もない額に上るが、ジオン公国内にも匿名口座を保持しているのだから、ビスト家に手を貸さずとも相応の生活はできるだろう。

 しかしだ。何故中立地帯(サイド6)でなく戦争当事国(サイド3)なのかを問わずとも全てを知り得てしまっている側としては、苦虫を嚙み潰したような渋面を──無論、意図した上でだが──見せずにはいられなかった。

 既にして地球連邦が、ラプラス事件の実行犯と判を押し、公表したことでサイアム・ビストが追われていたことは周知の事実なのである。

 

サイド4(ムーア)我々(ジオン)国際指名手配犯(テロリスト)を匿えと。堂々と宣うのだな?」

 

 戦局が安定しているとはいえ、戦時下という窮地にあって抱えたくもない負債を負わせることの意味を理解しているのかという真っ当な詰問に対し、首長代理として派遣された官吏を引き連れたアンディーは粛々と首肯した。

 

「サイアムが犯した全ての罪は、来るべき時に白日の下に晒します。それまで生き永らえていただく為の装置も、既にお持ちの筈」

 

 皮肉なことだ。かつて目に入れても痛くない長女(キシリア)の命を保つために手に入れた装置を、その大本に対して使えという。

 それも、然るべき報いを受けさせるという、恩を仇で返すにも等しい行為で。

 

「サイアム自身が納得ずくだと言うのなら、お前達の提案には乗ってやる。既に氷漬けにされた御仁(サイアム)を解凍した時に訊けば判ることだからな……『箱』とやらに関しても、事実ならその価値が計り知れんものだろう」

 

 真実を知ってしまえば「たったそれだけの……?」と思わず零さずにいられない程の。けれど、そこに込められた意味の大きさは宇宙移民(スペースノイド)にとって……、それ以上にダイクンという教祖の威光を間近に浴び続けたジオン主義者(ジオニスト)にとって規格外と称すべき劇物だ。

 元よりメディアを裏から操り、国民を無意識に先導することに長けた諜報戦こそサスロの生業とするところ。秘められた全てを白日の下に晒し、人々の耳目を灼き尽くすだけの舞台は幾らでも設定できる

 ……ただし。『箱』を、明るみにするのであれば、まかり間違っても箱を秘匿したビスト家や、支配者として圧制を敷いた連邦への憎悪に、箱の価値を置き換えてはならない。

 

「ラプラスの箱を解放するなら、然るべき時と場所という盤面を整えるための『前提条件』が必要となって来る。お前達も、意味は分かるな?」

「承知しております。今『箱』を解き放ったところで、宇宙移民(スペースノイド)の憎悪に油を注ぐだけでしょう」

 

 箱の力は……、秘められた真実は確かに価値を認める者にとっては宝物だが、使いどころを誤れば毒に転じる劇物だ。

 

“特に、ジオニズムの信徒として今も地球に降り立ち、剣と馬蹄(ばてい)で信仰を示した修道騎士もさながら、聖戦を叫び戦う公国軍人が知ればどうなるか……”

 

 現段階で『箱』など解き放った日には、猛々しく狂って聖地たる筈の地球ごと、連邦を焼くことさえ厭わなくなるだろう。

『箱』の持つ意味とは、価値とは、その中に託されたものは確かな『祈り』であって、決して『呪い』ではない。

 宇宙移民(スペースノイド)としても、政治家を自任する者としても、サスロは使い方を誤って、薬を毒にする気は毛頭ないのだ。

 

「ジオン公国の戦勝後か、そうでなくとも勝利を確信できる段階に踏み込んでからでなくては、『箱』は負の方向にしか働かないでしょう」

 

 そこは弁えているし、だからこそ直接足を運んだのだという意味を含めたアンディーの言に、サスロも「良かろう」と頷くことで意を示す。

 

「ビスト家の者は、残る家中も含めこちらで預かろう。これまでの地位に見合うだけの立場も用意した上でだ」

 

 過去の専制政治がそうであったような、連座制などジオン公国は布いていないのだし、何よりキシリアの借りを返すためにも、それぐらいはしてやるだけの器量はある。

 

「そこまでのご厚情を賜っても、宜しいので?」

「公国内で、跡継ぎ不在のトト家が爵位を返上して来てな。時期が良かったと思え」

 

 ムンゾ時代から爵位制度を有するサイド3だが、多くは血筋でなく金を積むか、或いは国家への功績によって下賜されるものが殆どだ。

 無論、徒に貴族を増やしては国家の軽重を問われるため、金銭を積まれる前に相応の審査が行われるが、それでも一定の財と地位を有していれば得られる看板でもあった。

 これは元が棄民たる宇宙移民(スペースノイド)故のコンプレックスも作用しての制度であることは疑い得ない。

 宇宙移民(スペースノイド)からすれば地球圏の王家と称される一党さえ、初代は覇を唱えた成り上がりであり「実力主義に則って地位を得た自分達も、貴族を名乗って何が悪いのか」という論説に則ってのことであるが、ジオン公国はそうした宇宙移民(スペースノイド)の劣等感を満たしつつも、同時に貴族として付帯する義務と権利に対し、重い枷をはめていた。

 実力主義と国家への献身を尊ぶのなら、当然それに見合うよう襟を正して成果を残せという明文化された義務の布告。

 議会に貴族院こそ存在すれど、その枠に加わるには爵位のみならず総帥府からの推薦状が必要となるし、貴族だからと言って土地の限られたコロニーでは領地を安渡されることもない。

 精々が庭付きの邸宅を得られるという程度で──それでも宇宙移民(スペースノイド)からすれば破格の厚遇であるが──むしろ貴族の税は市井のそれと比べても多く取り立てられる。

 貴族を名乗ることが出来たとしても、そこから叙勲を含めた栄達を重ねるには、相応の努力を続けなくてはならないというのは、公王制の足元を支える忠臣としての貴族を養成するためにも必要不可欠の措置であり、だからこそ爵位の返納は取得と比しても簡潔な手続きで行えるように出来ていた。

 

「……では、叙爵にかかる筈であった金銭は我々で負担致します。戦時下にあっては雀の涙ほどでしょうが」

 

 要らん、と無理に突っぱねる真似はサスロもしない。受け取れるものがあって、こちらにデメリットがないのであれば素直に受け取るべきであるし、今は一銭たりとて無駄には出来ない時なのだ。

 ただ、「有り難い話だ」と零しつつも、それで終わりでないことは外交畑を管理するサスロにしてみれば、サイアムの一件自体(はな)から前座でしかないことは感づいていた。

 サイアムの件だけならアンディー一人で蹴りがつくことで、サイド4(ムーア)官吏が侍るだけの意味は全くない。

 国家間の密約ないしは、正式な条約を結ぶことこそ本題である筈なのだから。

 

「ジオン公国─サイド4(ムーア)間での正式な軍事同盟の締結が結ばれてより今日、オットー・フレミング首長は()()サイド国家同盟の()()たるジオン公国に多大な負担を強いてしまっている現状を憂慮し、より親密かつ相互の安全保障と、今次大戦への勝利の一助を担うべく、技術交換を打診しております」

 

 前半の盟主云々なる見え透いた世辞をサスロは流す。どの道サイド4(ムーア)を除けばどのサイドも国家としての体すら為せていない現状だ。

 各々が独立独歩できるようになる小国林立時代までジオン公国が支えれば、それだけ深く自分達の意思が深く根を張り、当人達さえ意識できない状態で傀儡にすることなどサスロにしてみれば造作もない。

 

 問題は後半。相互の安全保障というのは分かる。サイド4(ムーア)は相応の軍事力を戦後保有できる唯一のサイドであるが、軍事的ノウハウや規模は戦前から準備を重ねてきた公国と比して一歩も二歩も劣る。

 仮に覇権国家の地位を得たジオン公国が煩わしいと思い立ち、剣を振れば露を払うが如くサイド4(ムーア)軍を霧散霧消させて見せるだろう。

 尤も、それは現状と同じく一方的な格差があればこそだ。

 

“技術を与えてしまってしまっては、我が軍も相応の被害が出るだろうがな”

 

 だからこそ、サスロは技術交換という部分に一定以上の警戒心を抱くのだ。

 交換などとサイド4(ムーア)が嘯いたところで、実態は公国側が一方的に技術を与えてやらねばならず、しかも現状のような教導用の訓練機(ザクⅠ)どころか新型まで強請りかねない。

 サイド4(ムーア)の……より正確にはフレミング社が用立てた軍需工場については突撃機動軍の保有する既存兵器の拡充という一点だけでも大いに助けられてはいるものの、最新主力兵器(モビルスーツ)を売り渡してまで得る価値があるとは言い難かった。

 

“俺が軍事に疎いから交渉を持ちかけたか?”

 

 だとすればとんだお笑い草だ。一方的に、大上段から()()を言える立場なら即断を迫れたであろうが、強者と弱者を入れ替えられるだけの物を、サイド4(ムーア)は何一つとして有していない。

 提示された書面にはアナハイム社の全面協力も確約されているが、北米を筆頭に占領地下の工場は既に徴発済みであるのだから、こちらも今更と言う話ではないか。

 

“こちらが徴発に際して買い叩いた分を割り増しして返納するというのは、戦後を考えれば悪くはないがな”

 

 それでも、将来の軍事的影響力と言う一点だけで見る世界と、戦後経済という面で見る世界で揺れるものがあったのも事実。

 特に、その後の生産にかかる費用も負担するという一文は──資源面では公国側がカバーする必要があるにせよ──確かに一定の利を認めて然るべきだろう。

 

「……こちらの一存で即断はできんが、総帥府と軍部には掛け合っておこう」

 

 だからこそ、切って捨てずにおくと言うその言葉は、及第を得たことを言外に示すものだった。アンディーとて、これが分の悪い交渉だと言うことは承知している。

 戦後の友好関係を育みたいという思惑を鑑みれば、無償で全てを提供しても良いぐらいだが、下手に全てを差し出したのでは、それはそれで猜疑を生む。

 従順に尻尾を振るのも、望むモノを提供するのも未来の為の必要経費であったとしても、一方的に差し出すのでは正しい友好は築けない。

 何故なら外交成果というものは、相手国のみならず『自国の国民』をも納得させなくてはならない物だ。ジオン公国が勝利した先。オットーとアンディーに続く将来の『国家の水先案内人』が、上手く公国と付き合えるだけの、交渉できるだけの下地を整えておかねばならない。

 

“値切りたくば値切れば良い。買い叩きたいのなら買い叩くが良い”

 

 それがどれだけ取るに足らぬ二束三文であったとしても、アンディーも官吏も笑顔で飲もう。重要なのは交渉を今後とも続けられる窓口を開き続けることであり、ジオン公国にとってサイド4(ムーア)は仮想敵国でなく同盟国として見做す方が、得で安全だと思わせることにある。

 

“積み重ねるだけの信用は、ここから得れば良い”

 

 どのような目を向けられようと、猜疑の心で構えられようと、それは試練の時と受け入れよう。

 この世のあらゆる行動は、どのような形であったとしても未来という結果に繋がるものなのだから。

 

“我々が応える限り、貴方方は嫌でも私達(ムーア)に視線を寄越すことになるのだから”

 

 

     ◇

 

 

「その結果が、これか……アンディー、一体どんな魔法を使ったんだ?」

 

 確かに一定の成果は期待していたが、だとしても即効性のある内容でなく将来的な面──例を挙げるなら、新型MS(モビルスーツ)の共同開発など──に期待しての打診であった。

 ジオン公国の──有能な国家であれば当然だが──サイド4(ムーア)への警戒心を承知していたからこそ、こちらが譲歩に譲歩を重ねた上で交渉に臨んでいた筈だ。

 

 だというのに、彼ら(ムーア)の得た報酬は破格に過ぎた。

 主力生産機(ザクⅡ)どころの話ではない。目下、地球侵攻作戦において圧倒的な戦果と快進撃によって連日連夜目を離さない、水陸両用MS(モビルスーツ)を図面ごと幾つかの機材と共に投げ渡し、生産さえこちらに委ねると言う。

 軍事的アドバンテージを得る、公国軍最新鋭の中でも侵攻と打撃の要となっているMS(モビルスーツ)をだ。

 

「地球上の七割を占める海と、温存されていた連邦海軍を追い込むに足る秘蔵の虎の子を我々に委ねる意味は……はっきり言って理解の範疇を超えているよ」

 

 肩を竦める余力もないのか、同感だとアンディーは素直に頷いて見せていた。

 単純な物流の阻害から湾口基地の襲撃まで、それこそ侵攻面において八面六臂の活躍が期待できると言うこともそうだが、何より単純なカタログスペックの上で見ても、用いられている技術面からも、水陸両用MSによってサイド4(ムーア)が得る物は余りに大きい。

 ラム・ズゴックの標準装備たる、実弾を遥かに上回る高性能ビーム兵器の存在など、その最たるものだろう。

 惜しげもなく投入された軍事技術の中でも、秘中の秘を詰め込んだ最新兵器を譲られては、サイド4(ムーア)としても困惑せざるを得ないものであったし、当然同様の指摘と反対はジオン国内でも──相手がイワンであっても──紛糾と称して良い程持ち上がったのだ。

 

 MSの基礎的な機構……バランサー一つとっても、連邦に流れようものなら開発速度を飛躍させてしまう代物で、だからこそ情報流出は徹底的に避けたかったと言うのがジオン本国の本音である。

 ましてや地球侵攻において、既存機を地上戦用に改修した主力生産機(ザクⅡ)以上の性能を誇る水陸両用MSの生産を他国に委ねるなどどうかしているというのは、軍事に精通せずとも至極真っ当な意見であろう。

 

 だが、そうした四方八方からの反対に対し、サイド4(ムーア)への技術流出を認めたイワンは何処までも冷めていた。

 確かに地球は七割が海洋を占めているものの、人が拠点を構え、自分達が制圧せねばならないのは残る三割の陸に過ぎぬし、補給と統治を鑑みれば現時点での地球侵攻軍の戦力では北米と欧州を制圧し、維持するだけで精一杯という有様だ。

 本格的に連邦海軍を叩き潰すどころか、湾口基地の制圧さえ覚束(おぼつ)くまいというのは戦力比を見れば一目瞭然であったし、何であればラム・ズゴックとアッガイの生産さえ縮小してしまいたいと言うのが本音であった。

 

 が……そうした思惑とは裏腹に、公国海軍は水陸両用MSの生産ライン拡充を本国に強く要請し続けて来ていたのである。

 地球侵攻が決定する以前の地上軍が、表に出さないまでもその存在意義に対する疑念を余人から抱かれていたように、リゾートコロニーに疑似的な海洋を再現し、訓練に勤しむしかなかった公国海軍の存在は、「果たして使い物になるのか?」という目を地上軍以上に強く向けられていた。

 イワンのように、西暦時代にあっては完全な内陸国であっても海軍は存在すると言う知識を有し、侵攻計画が発動すれば海軍の存在は必須だと弁える生粋の職業軍人ならば兎も角として、南極での早期講話は確実だと楽観視していた大多数にしてみれば、正しく海軍という存在は無駄飯喰らいも同然のように映ったことだろう。

 現実では早期講話は破綻し、戦争の中長期化と地球侵攻が不可避のものとなったことで海軍は活躍の機会を得るに至ったが、イワンにとっての誤算は、海軍の戦果が大き過ぎたことにある。

 コロニー落としによって地球侵攻以前に崩壊していた正史の連邦海軍と異なり、マスドライバー攻撃によって基地や船舶に甚大な被害をもたらした半面、余力の多い連邦海軍の存在は、ジオン公国海軍にとっては入れ食いも同然のスコア稼ぎ足り得る存在だった。

 無論、公国海軍の大戦果は卓越した指揮や艦隊戦に因るものでなく、水陸両用MS(モビルスーツ)という新兵器あっての戦果であることは、公国海軍自身自覚している。

 加えるに、公国海軍自身は時勢と言うものを正しく読めていた。地球侵攻に携わる突撃機動軍の保有戦力では占領地の拡大は補給線を徒に伸ばすだけであり、占領地下の統治も安定の兆しを見せる現状、地上軍の戦力拡充は急務と言い難い。

 強いて言えば支配下にある地域との境界線の戦力を、後詰も含めて充実させておく必要は出てくるだろうが、それでもまだ猶予はあると判断し、忌々しいことにそれは正答と言って差し支えなかった。

 

 今ならば。ここならば自分達の為に予算を費やしてくれるだろう。

 これほどまでの戦果を今後も上げ続けることは、現状の技術格差なら十分適う。

 だから生産ラインを拡充し、海軍の価値を盤石のものとするだけのMS(モビルスーツ)を送ってくれと堂々と要請できるのだ。

 

 とはいえ、それはあくまで()()()()()要求であり期待であって、総帥府の戦争計画上でも、イワンの戦略構想の上でも予定になかったことである。

 

 確かに赫々たる大戦果は継続して見込めるだろうが、元より地球全土を制圧するだけの兵力は確保できぬし、各サイドからの徴兵によって将来的には義勇軍の数が確保できるとしても、そこまで行っては財政破綻をきたしかねない。

 戦争とは直接戦うだけでなく、兵が現地に居座るだけでも衣食住を保証するための負担を多く強いられるもの。

 地球全土を制圧できるだけの兵員など到底賄いきれる筈もなし。

 制宙権を確保している現状、必要とあらば地球から資源という資源を奪い尽くして兵を引かせることを視野に入れていたし、その時には武器弾薬を含めた殆どを投棄してでも人的資源の損耗を抑える腹積もりであった。

 

 つまり、イワンにしても総帥府にしても海軍の要求など呑みたくはない。

 

 ……呑みたくはないのだが、現場の声は戦果に比例して大きくなっており、グリフォン隊を筆頭とした特殊部隊も下手な地上戦機より高性能な水陸両用MS(モビルスーツ)を欲して止まないと来ていた。

 イワンからすれば、用途の限定された水陸両用機などに生産ラインと人員を喰われたくない。

 そんなところに貴重な労力と人員を回し、現地に軍事工廠を増設するぐらいなら、後々宙域戦闘さえ可能で、陸戦機としても優秀なドムを一刻も早く完成させ、地上用MS(モビルスーツ)の主力機に据えておきたかったし、据えるべく日夜努力している。

 

 しかしだ。「将来このような兵器が誕生するのだから、今は待て」などと軽々しく軍事機密を発信できる立場ではないし、何よりMS(モビルスーツ)は現状黎明期である。

 イワンのように未来を見通している反則でもなければ、どのような発展形が存在し、技術的な拡張性が見込めるのか。

 どのような形が今次大戦のみならず、将来的に伸びやすく発展し得るのかが未知数である以上、MS(モビルスーツ)を汎用機でなく万能機と見做し、水陸両用MS(モビルスーツ)こそその先駆けとして活用しつつ、量産体制に入るべきなのではという声すら出たが、これははっきり言って、ラム・ズゴックなどという名機を先取りしてしまったイワンの不手際とも言える。

 余人の多くはイワンの先見の明と正しさを評価して止まないが、下手に失敗を踏まなかった分、こうして思わぬところで予定にない対応に追われてしまったのだから。

 

 少々無駄に紙文を割いたが、こうした本国の戦略構想と現場の齟齬に頭を悩ませている中で、サイド4(ムーア)からの打診はイワンやギレンにとって渡りに船だった。

 最新技術の結晶と言えば聞こえは良いが、水陸両用機はザクⅡと異なり地球圏内でしか活躍を期待できない代物だ。

 無論、バランサーを含めたMS運用上基礎となる部分や武装は惜しいが、それすらイワンの頭には将来的な構想が叩き込まれている以上、彼が生きている限りは──言い換えれば、イワンが死ねば未来に通じるMS構想の技術ツリーが喪われる危険性を孕んでいる訳だが──追い抜かれる心配はない。

 

 自分達を圧迫する余計な生産ラインを肩代わりして貰うばかりか、恩着せがましく宣うだけで既存兵器や物資の数々に融通を付けて貰い、戦費の負担さえ軽減してくれたサイド4(ムーア)に対して、イワンは久々に笑いが止まらなかった程である。

 

「これでようやく鬱陶しい海軍の声から解放された」と。

 

 その上、サイド4(ムーア)は自分達から軍事開発のレースから脱落までしてくれたのだ。現行の水陸両用機から派生機を数多く作りつつ技術を吸収する腹積もりだろうが、その間ジオン公国はビーム兵器や──今次大戦に間に合うかは別として──全周囲モニターや耐G機能に焦点を当てたコクピット(リニアシート)の開発にも乗り出せる。

 成功の形が見えている側と試行錯誤する側とでは、如何に重工業国同士であっても差が付くのは当然の帰結である。

 

「精々悩み、励むが良かろうよ」

 

 何より、今は技術の一方的な譲渡という形になってはいるが、打診されたのは技術交換である。製造に関する効率化を始め、サイド4(ムーア)が思わぬ副産物をもたらした暁には、それをジオン公国の糧にすることも契約に盛り込んである。

 当然サイド4(ムーア)もジオン公国に譲渡する技術は選別するだろうが、それでもイワンからすれば濡れ手で粟も同然の契約であった。

 

 そして、この件は既に終わったこととしてイワンの中で処理され、彼にとっては特に重要な──異なる歴史が生んだ結果というものを、取り寄せた()()()()軍事公報を開くことで目の当たりにした。

 

『若き地球連邦軍の英雄、パプテマス・シロッコ──五機目のMS(モビルスーツ)撃破。エースとして堂々の君臨』

 

 表紙を飾った士官服の英雄は、その相貌をプラチナの仮面で覆っていた。

 




 こうしてサイド4(ムーア)の手によって、史実のジオン水泳部なる変態機が数多く爆誕することになりましたとさw

 そして満を持して登場、本作のラスボス、シロッコ様がようやくエントリーでごわす!
 お前がこの物語の仮面枠だゾw
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