エッシェンバッハ(父)のファーストネームがヨーゼフである事が、THE ORIGIN3巻のシャアの台詞に出てきましたので、過去話の人物呼称を一部修正致しました。
……本当に読み込みが足りんね、ここのガバ作者は……。
【前話タイトル修正のご報告】
※編集長のお話は引っ張る予定だったので前話を後編と記載しましたが、長引かせるより切り上げた方が区切りが良かったので、前回を中編とし、今話を後編といたしました。
紛らわしいタイトルで申し訳ありません。
※2025/1/23誤字修正。
路徳さま、最上川万能説さま、サクノスさま、ご報告ありがとうございます!
「もう一度酒をかっ喰らって寝て、起きたら全て無かったことにならんだろうか……?」
なる訳ないな、と便所で三度吐き通し、胃液以外出なくなったガルシアは執務机に腕を組んで項垂れていた。
両肩どころか全身に鉛のような重たさを感じて止まないし、はっきり言って、この案件はガルシアの身に余る……いや、どれだけ公王家と
“……相手が唯の庶子なら、まだマシだったのだがなぁ”
イセリナ・エッシェンバッハ──よりによって、
これが統一政権誕生以前の旧国の王族か、或いはシンシア・マーセナスのように中央議員の中でも枢要たる地位を占める、重鎮の娘であればまだ良かった。
家柄然り力然り、公王家の血と混じるには不足なく、それでいながらジオン公国と
“しかしだ。ああも中途半端で格も落ちる家の娘御が正室の座に着くというのは、賭けても良いが、間違いなく内外から非難の豪雨が降り注ぐわい”
他の
何しろエッシェンバッハ程度の出自であればジオン公国のみならず、他サイドでも公職に就く有権者の中にも散見される。
それこそ血の青さと歴史の深さで言えば、公国軍が誇る国民的英雄──
父祖に大統領や将軍を輩出していたというなら箔を上乗せできようが、そのような傑出した人材は存在せず、当代当主のヨーゼフ・エッシェンバッハもかつては北米合衆国大統領候補であったというが、所詮はそこまでであり、要は他の出馬者の後塵を拝した落伍者程度の器でしかない。
ましてやその
“
最悪、本国の過激派がイセリナを暗殺して悲劇のロマンスを演出しかねない。
それはそれで角が立たぬことであるし、できることなら
“俺の一存で兵を動かせば、間違いなく何処からか漏れる。これまで積み上げたお坊ちゃんへの信頼も、当然失墜するな”
第一にして、己の進退まで賭けて主君の浅慮を拭う忠臣めいた真似なんぞ御免被りたかったし、何故そんな一文の得にもならない独断専行をしなくてはならないのかという話である。
“……やはり、ヨーク長官に注進するしかないか”
できればこのような報告はしたくない。したくは無いが……誰がこの手の問題を一番確実に解決できるのかと問われれば、
あの『怪物』ならば、どのような事態・局面であろうとも確実に首尾よく片付けてくれるだろうという信頼は、ガルシアのみならずイワンを知る公国将兵の誰もが覚えるものである。
……尤も、当人からそれを知れば「私は神でも超越者でもないのだから、無理を言ってくれるな」と苦言を呈したことだろうが。
“多少の失望は覚えられても、この際已むを得ん。最悪なのは、手が付けられん状況に陥ることだ”
この手の取捨選択を誤る人間というものは、必ず遠からず破滅に至る。栄達を保証され、安全圏から広く俯瞰できる立場に立ったガルシアは、北米で指揮を執る中でそれを強く実感していたし、だからこそ決して間違えるつもりはない。
視線の先は、壁にかけられた巨大スクリーンへ。いざという時は遠慮なく使用しろと言われながら、今日まで一度として使用する機会のなかった卓上のスイッチを押し込めば、画面に砂嵐が走る。
先の一週間戦争でミノフスキー粒子を無節操に使用して以来、残留した粒子は衛星通信をはじめ、宙域・大気圏内を問わず電波の送受信を著しく阻害していたが、それでも戦闘使用に足るレベルの粒子濃度は、その都度散布を続けなくては成立しない。
将官権限で使用できる通信システムであれば、短時間なら何とか本国にも届けることが出来た。
……とはいえ、それも総帥府や月面を繋ぐ専用の軍事通信衛星が有ったればこその話。
北米と欧州の総司令部以外ではまずもって不可能であるし、通信が繋がったところで、互いのやり取りはノイズ交じりの細切れの物となってしまうのだが、それでも連絡手段の有無は大きいものだ。
“一切の瑕疵なく、戦勝を迎えられる筈だったのだがなぁ……”
ガルマは大変聞き分けが良く、真面目で愛らしいお坊ちゃんだっただけに、問題など起こすまいと高を括っていた昨日までの自分の首を絞めてやりたくなったが、所詮は後の祭りである。
程なくして砂嵐が不鮮明ながら輪郭を帯びた人間の像を生み、人相こそ判別できぬが軍服のシルエットを作る……が、スクリーンに映し出されたのは将官を包む第二種でなく、佐官以下の将校が着用する第三種戦闘服であった。
「クリーネ少佐か。悪いが本件はガルマ殿下の将来を左右する一大事だ。至急ヨーク長官に繋いでくれ」
『長……は……』
そこからはノイズによって著しく聞き取り辛いものであるため、敢えて文章を流暢な物に変換した上で記載する。
『長官は現在、秘密計画につき総帥府を離れております。小官はヨーク長官の耳目としてあらゆる情報に触れるのみならず、必要とあらば決裁や事態の対処を実行する権限を有しておりますので、ご用件をお伝えください』
威を借る狐が何様のつもりか! 良いからとっとと長官を出せ、この青瓢箪が!!
と、口角泡を飛ばしてやりたくなったのを寸でのところでガルシアは呑み込んだ。
あのイワンが総帥府を離れざるを得なかったということは、本国でも何かしらの動きがあるか、或いはこれから
“グレーデン中佐の本国への招聘からして、きな臭さを感じていたが……いや、そちらを考えるのは後だな”
頼みの綱のイワンは物理的に連絡が取れない状況下にある以上、副官相手にがなり立てたところで事態が好転する筈もなし。
クリーネが副官として相応の権限を有しているというのなら、何処までものか見定めるのも一興かと、事の顛末を余すことなく伝達した。
「……私からは以上だ。流石の貴官でも、これは手に余ろう? 長官不在というなら、せめてサスロ殿下に繋いでくれんか?」
ザビ家相手に出来るものならな、という意を言外に含んで見せたが、それが無理だというのならイワンの副官には能うまいという思いも有った。何であれば、どれだけ時間がかかってもイワンに情報を届けねばなるまいと覚悟も決めねばならないだろう。
当然その時には、クリーネの無能ぶりも合わせて報告しただろうが……。
『承知致しました。至急、サスロ殿下に回線を繋げます』
「ほう」
これは正直に言ってガルシアも驚いた。泣きつくとまでは考えていなかったにせよ、茶を濁して時間を稼ぐぐらいはすると思っていたからだ。
「私は貴官を誤解していたようだ──長官は良い副官を持ったらしいな」
『────』
スクリーンの向こう側から、数瞬とはいえ思考の空白が見て取れた……が、ガルシアにしてみれば「しまった」という思いが先に来た。
平素、自分の部下に対してかけるような労いを、よりによってマ・クベに似たタイプの冷笑的なに無意識にかけてしまったのだ。「今の言葉は忘れろ」とすぐさま口から出かけたが、クリーネの返しの方がそれより早かった。
『……いえ、それは小官こそ述べねばなりません。長官の見る目は間違いであったと、閣下が北米総司令官に任じられた時、不敬にもそのような感情を抱いてしまったのです』
軍法裁判にかけてやろうかこの愚図めが……!!
と、思わず激昂しかけたが、謝罪の意が本物である以上、敢えて自らの格を下げる真似はすまいと本音を押し殺しつつ、威厳ある将軍として表情を固め続けた。
……内心は今すぐにでも、上官への侮辱罪で自裁を命じてやりたい心地だったが。
「ああ良い良い。司令官職を勤めるまで皆からそのように思われていたことは存じておるでな……国家存亡の
自虐交じりに肩を竦めつつ、だからこそ恥を雪ぐ機会を与えてくれたヨーク長官にも感謝していると付け加えたが、こちらは半分……いや、それは言い過ぎだが三分の一ぐらいは本心であった。
栄達の機会を事前に用意してくれたのだから、相応の仕事は果たすべきだろうという職業意識ぐらいは持っている。勤勉とは言い難い身であったとしても、職務を果たさず全てを得ようとする詐欺師になったつもりは無いのだ。
「さ。貴官も多忙な身であろう? サスロ殿下に繋ぎ、長官の為に励んでくれ」
副音声を述べるなら「お前の顔なんぞ見たくないから、さっさと画面を切り替えてくれ」だが、そこを丁寧に包みつつ騙くらかしてみせるのは流石と言ったところだろう。
これぐらい出来ねば、グレーデンをはじめとした英雄連中の目を欺ける筈もないのだから当然だ。
『は!』
と踵を打ち合わせて敬礼したクリーネを見送ること数分。その間、クリーネに対するありったけの悪態を心中でぶちまけつつも、スクリーンが切り替わろうとする瞬間には公王家に対する敬服に満ち満ちた、
『緊急の案件だそうな、将軍』
開口一番そのように切り出され、思わず唾を飲み込みそうになるのを耐えて、粛々と頷くに留める。クリーネにした以上に丁寧に説明しつつも、そこに自分の主張を加える真似はしない。
いざ血を見るような展開に陥った際はガルシアが公王家に告げ口し、
しかし、サスロの口から出た言葉は、ガルシアの想像と全く異なるものだった。
『構わん、認めてやる』
“は……あ!?”
聞き違えたかと我が耳を疑ったし、どれだけ必死に言葉を飲み込めはしても、表情にははっきりと表れただろう。一体何故、このような浅慮を見逃すと言うのかという驚愕が顔色だけで伝わってきたサスロは『将軍の言わんとするところは承知している』と落ち着かせるような笑みを作ってみせた。
『その程度の女だからこそ認めるのだ。下手に名と地位が大きくては無視も出来んが、エッシェンバッハ家は取るに足らん家だからな』
北米の南部と言うものは実に保守的で、女の立場も然程強くない土地柄だ。イセリナ本人が政治的介入を決断できるほどの教育と決断力が備わっているとは考え難い。
よしんばこの関係を機に、ヨーゼフがイセリナを強引に傀儡に仕立て上げることも十分考えられるが、それはそれで出方がはっきりと読める。
何であれば適当に泳がし、エッシェンバッハ家に都合の悪い証拠を掴んだ上で、こちらが彼らを傀儡に仕立て上げるのも一興だ。
『ガルマには、その手の動向があれば逐一機関に注進するよう伝えてくれ。それが認める条件だと付け加えてな』
加え、サスロからすれば何処かで
ガルマがその役を担ってくれたのは喜ばしいが、末弟一人が
『全ての人が
今日まで続く
『将軍には釈迦に説法と承知しているが、我々が目指すべきは
連邦の棄民政策と同じく、無作為に宇宙に送るやり方では、優秀な人材は間違いなく各サイドで取り合いとなるだろう。だが、この戦時下であれば話は違う。
忌み嫌われた
『餌に釣られた者の中から、使える人材を我々で仕分ければ良い。今まさに北米現地の技術者を、他サイドの人員と入れ替えているようにな』
引き抜いた人材は全て、公国国籍を下賜して自国の事業に組み込んでいる。徴兵によって人的資源の補充が喫緊の課題となってしまっているジオン公国にとって、出征先で専門技能を有した若年層を迅速に確保できたのはこれ以上ない朗報だった。
特に、全
無論のこと、そうなることを見越して
“鉱物資源のような単純な物資だけでなく、地球の人的資源さえ取り込みにかかるか……”
サスロ・ザビ、畏るべしと言ったところだろう。イワンやギレンの陰に隠れがちではあったものの、この男もやはりザビ家として、支配者の地位に相応しい逸材であったらしい。
「であれば、アルテイシア様は如何様になさるご存念で?」
話は分かったし納得も出来たが、ダイクンの血筋を放置するのは流石に不味い。ガルマはその気でないようであるし、サスロが娶るのかと含みを持たせれば、サスロ自身は
『大物は大物だが、あれは鯨だ。釣り上げれば船が沈む』
アルテイシアを御すのであれば、ギレンかイワンでなくてはなるまいとサスロは常々考えていたものの、どちらもその気はないと来ている。
曰く、どちらも女としての美しさは認めても食指が全く動かぬと言うことであるし、下手に取り込めば
『公国国民の殆どが
今のジオン公国は、デギン公王を含めた多くが新興宗教の熱狂に浸っているが、いつかは政治的合理性との齟齬が生まれてしまう。
いや、
『ここでダイクンの神聖な血など取り込んでみろ。ザビ家は永劫、神権政治から抜け出せなくなってしまうではないか』
どれだけ宗教的地位が高まり、
何より今後、公王家が宗教的権威として、国家の象徴として置物にされる未来などサスロにとってもご免だった。
必要なのは権威でなく世界を動かす権力であり、高めるべきは宗教上の階位でなく国力だ。まかり間違っても、国家の水先案内人たる地位を手放す気は毛頭ない。
王家と言うものは、議会が暴走した際の歯止め役となる事を大いに求められるべきである。暴走した国家を『象徴だから』という理由で政治に介入せず、追認という形を取り続けた果てに、滅亡を止められなくなってしまうようでは話にならない。
勿論それは、力を持ち過ぎた王家が国家を蚕食してしまうという、逆のケースも当然有り得るのだが、だからこそ立憲君主制と言うものは、王もまた法に縛られ、法に守られるシステムを構築できるという利点を有している。
とはいえ……、ギレンやイワン辺りは、そうしたシステムを悪用して全てを裏から差配するだろうと言うのは、サスロの確信ところではあったのだが……ともあれここで重要であるのは、アルテイシアの血など欲しくはないし、それによって国が宗教に縛られ続けるのも御免だと言うことだ。
『既にしてキャスバル様も正式に下野している。今更ダイクンの血に集る連中がいるなら、存分に集って貰った上で動けば良い』
そうして軽挙妄動に出た連中を晒せば、真に神聖な存在は死んだジオン・ズム・ダイクンただ一人だ。
教祖がどれだけ偉大であったにせよ、後の世代は政治的に利用された傀儡に過ぎぬと国民が知れば、当然民心は大いに離れることになるであろうし、その結果、
皮算用だが、そうなれば神聖視される対象をダイクンからザビ家に移すことさえ可能になるやもしれないのだから。
『その時は、将軍の手腕に期待する』
要は、ダイクンの思想に染まりつつクーデターを画策するような不穏分子が現れれば、お前は始末するために働けと言うことだ。
「委細承知致しました」
満足気に頷くサスロの通信が切られると共に、ガルシアもまた満ち足りた表情で全体重を椅子に預けた。が……それも長くは続かない。
「……。早速お坊ちゃんに報告だな!」
吐瀉物で酸っぱくなった口を丹念に磨きつつ消臭し、先程までの陰鬱な表情とは打って変わった、晴れがましい面持ちで襟を正す。
当然イセリナの一件の手柄は自分のものだ。誰が何と言おうと、ガルシア・ロメオはそこを覆される気はなかったし、これでガルマからの評価は間違いなく天井知らずになってくれることだろう。
“殿下ぁー! 殿下の最も忠実なる臣のガルシアめが、ご心労を除く吉報をお届けに参りましたぞぉ───!
本当に要らぬ手間をかけさせてくれおったな、この糞たわけがぁ……!
この恩は墓の下まで着て忘れてくれるなよ!!
決して忘れてくれるなよ忘れても必ず取り立ててくれるからなァ……!!”
あくまで表面上はかつてない程上機嫌で報告したガルシアの期待通り、ガルマは無垢な感謝をガルシアに届けてくれた。
……ガルシアからすれば、本当にこんな厄介ごとは二度と御免であったし、このお坊ちゃんには今後絶対に目を離すまいと心に誓ってもいたが。
【悲報】アルテイシア様、ザビ家とイワンから不良在庫扱いされた件【どうして?】
女として色んな意味で強すぎて持て余すからね、仕方ないね。
(小説版だと赤いロリコン殺させるためにアムロと寝たぐらい強かな女だし)